『ハロハロ~♪元気~?』
耳障りな音が辺りに響く。
この状態で元気と答えたら俺は是非、精神科に行きたいね。
『絶望の気分はどうかな?』
……あぁ、最悪だよ。でも、絶望して分かった……俺は脆い存在だ。
心を母さんに支え続けもらいながら今まで生きてきた……だが、
もう一つ分かったことがある。俺には仲間がいる。
絶望しても支えてくれる仲間が……。
『お前に恐怖を抱いているやつらが希望か?』
あぁ。恐怖を抱いているならばその恐怖を俺が取り除けばいいだけだ……。
お前という恐怖を取り除けばいい話だ。
俺はみんなの最後の希望であり続けると誓った……同時に、
俺の最後の希望は皆だ。
『……俺のこと憎いか?』
確かに……俺がこんな状態になっているのも全ての始まりは今、
俺の目の前に立っているやつだ……だが、今はそんな気持ちはさらさらない。
確かに俺はこいつのせいで全員に剣を向けられた……でも、
よくよく考えてみればそれは致し方がないこと。
姿かたちは同じであり、精神が入れ替わっているなんて言うものは、
表面を見ただけでは百%分からない。
『成程ね。今はそんなに恨んでいないと……だからてめえは弱いんだよ!
何故、今お前が持つ力を破壊に使わない! 何故、弱者を護るために使うんだ!
力っていうのはな! 弱者を圧し、強者をぶち殺すためにある!』
……違う。俺が持つ力は皆の希望を護るためにある。
『分かってねえ! 俺がそれを証明してやる!』
「ハァ……ハァ」
「イ、イッセーさん!」
駆け寄ってくるアーシアをジェスチャーで来るなと言い、
状況を把握するために今にもあいつに奪われそうな意識の中で周りを見渡す。
ヴァーリチームの面々は見えるがヴァーリ自身が見えないな……狼が二匹、皆……そして、
あいつが敵か。
「朱乃!」
その時、男性の野太い声が聞こえ、直後に不快音が鳴り響いた。そちらのほうを向くと、
朱乃を敵からの攻撃をかばった黒い翼を十枚ほど生やした男が血を流しながら倒れていた。
俺はすぐさまその男の魔力を感じると朱乃の魔力とかなり似ていた。
そうか……あいつが朱乃の父親の堕天使……バラキエルか。
『テレポート、プリーズ』
今にも暴走を起こしそうな状態の影響で不安定な魔法を使って、
アーシアの近くに朱乃と男性を転移させた。
「イ、イッセー君」
「朱乃。お前の心の中に一瞬だけでも芽生えた気持ちを出せ」
「え?」
「親が子を忘れることはない。いつだって親は子のことを心配し、
考えている。それなのに朱乃が親父さんを忘れたらだめだ。
憎むなとは言わない。だが、忘れるな。
親を憎んだ状態で親を亡くしてしまえば……後に残るのは何もない」
刹那―――――視界の端に白い何かが落ちてきたのが見えた。
顔を上げてみると季節は夏にもかかわらず、夜空からしんしんと雪が降っていた。
この雪を俺は見たことがある。
母さんが死んだときに振ってきた自然界の物じゃない雪だ。
『聞こえますか』
突然、頭の中に美しい声が響いた。
誰だあんたは。
『私はあなた方の世界とは異なる世界で雪の神をしております』
誰もが今の状況に驚き、戦いの動きを止めていた。
その時、夜空から降ってくる雪が弾けて、
何枚もの白い枠でおおわれたモニターのようなものが現れた。
『ねえ、母様~。お父様は私のこと好き?』
モニターに映し出されるのは着物を着た幼いころの朱乃……そして、
幼い彼女を膝に乗せている朱乃によく似た女性だった。
『もちろん。あの人は朱乃ことだ~い好きよ』
「なんだこれは……いったい何が起きているんだ!」
ロキの叫びを無視し、先ほどのモニターが消え、
今度は別の視点からのモニターが展開され、映像が映し出された。
『ア、アザゼル』
『あ?』
『じ、実は今度娘の誕生日なんだが……何が良いだろうか』
『知らねえよ! リア充のやつが非リア充の俺に聞くなー!』
『だ、だが皆がお前に聞けというのだ』
『うがぁぁぁぁぁぁ! 四、五歳の娘なんだったら親父が近くにいて、
一緒に遊んでくれるだけでうれしいんじゃねえのぉぉぉぉぉ!?』
アザゼルの涙ながらの主張が終わり、そこでまたモニターが閉じられ、
再び新たなモニターが出現した。
『朱璃。朱乃は喜んでくれるだろうか?』
彼女の誕生日なのか、綺麗に包装された箱を持って男性が、
その姿に合わないくらいに狼狽していた。
その様子を見て彼女の母親は笑みをこぼしている。
『大丈夫ですよ。朱乃は貴方が好きですから』
そこで映像は途切れ、降っていた雪は消え去った。
朱乃は先ほどの映像を見て、
過去の想いが溢れてきたのは眼から大粒の涙を流して、父親に近寄っていた。
少しづつ――――――血を流し、アーシアに治療されている男性のもとへ。
「うっ! ぐあぁぁぁ!」
そんな光景のさなか、籠手から噴出した血のように赤い魔力が全身を徐々に覆っていき、
それに伴って意識がいまにも消えようとしている。
あの野郎……また、覇龍を発動させて俺を暴走させるつもりか!
「イッセーさん!」
朱乃の父親の治療が一通り済んだのかアーシアが俺を癒そうと駆け寄ってくる。
だが、それを遮るようにして敵らしく男が高速で移動してきて、
彼女が通ろうとする通路を遮った。
「貴様は邪魔だ。消えろ」
「きゃっ!」
男性がアーシアを叩いた。
直後、俺の中に殺意というものが現れたのか先ほど以上の速度で、
籠手から血が流れるようにドバドバと赤い魔力がこぼれ出てくる。
ダメだ……殺意じゃない! 俺は!
あいつを殺意じゃない気持ちで……大切な物を護るためにあいつを倒す!
「さあ来い! 貴様を殺し、この場にいる全てを殺してオーディンを殺す!」
先ほどの何倍も速い速度で血のような赤い魔力が俺の全身を覆っていく。
「イッセーさん!」
その時、アーシアの叫びが聞こえた。
「もう……もうあの姿にならないでください! 私は大丈夫ですから!
だからそれ以上イッセーさんが傷つかないでください!」
「あぁぁぁぁぁ!」
アーシアの叫びを聞き、若干俺の意識がクリアになった瞬間、
俺は固形化して俺の身体を覆っている赤い魔力を握りつぶして、
無理やりからだから引き剥がした。
だが、引き剥がしてもまたそれを上回る速度で赤い魔力が俺を覆っていく。
何度も、何度も引き剥がしても俺の心の奥底から溢れ出てくるように赤い魔力は止まらない。
「何故だ……何故、拒絶する!」
「俺は! ……もうあの姿には……ならない!」
顔に出来かけていた仮面の一部を握りつぶし、それを地面にたたきつけるが、
空中で再び形を形成し、俺の顔めがけて飛んできたのを殴ってまた潰す。
「あの姿になれば! 皆の心に! 絶望を与える! 俺は!
誓ったんだ! あいつらの全てを! あいつらの心を支える! 最後の希望になると!」
「なぜ貴様がそれになる必要がある!」
「それが俺だからだ!」
どうにかして全身の赤い魔力を吹き飛ばした矢先、突然俺の視界が薄暗くなった。
「イッセーさん!」
上を見上げれば俺を押しつぶさんと、大きな何かが落ちてくる。
「イッセーさぁぁぁぁぁぁぁぁん!」
ぬるっほ