押しつぶされた―――――そう思っていた俺だが目を開けてみれば状況は違っていた。
先ほどのように俺の全身にまとわりついてくる――――――だが、
それは暴走を引き起こす血のような赤い魔力ではなく、黄金に輝く金色の魔力だった。
黄金に輝く魔力は空間の歪みから排出されているのもあれば、そこら辺で
タンニーンと戦っていた奴らや俺の真上の奴が黄金に輝く金色の魔力に変換されて、
俺へと流れ込んでいた。
『今だけ、貴様に力を貸してやる。あいつに使われるくらいなら貴様がマシだ』
『僕も今だけ貸してあげる』
その声が頭の中に響き、黄金に輝く金色の魔力に絡まるように全身から、
紅色の魔力が噴き出し、俺の全身にまとわりつく。
それらの魔力はやがて物質に変化し、赤色の鎧に金色の装飾が施された鎧へと変化した。
右腕に装着されている籠手は金と赤を混ぜたような色に変わり、
宝玉は金色一色に変化していた。
……体の奥底から力が溢れてくる。
「なんだその姿は!」
「ロキ……神々はラグナロクを望んでいるのか?」
「なに?」
「神々は平和を望んでいるやつもいる。反対派の意見を貴様が勝手に代表し、
ラグナロクを起こしていいのか?」
全ての情報が頭の中に入ってくる。
こいつが使う魔法、その魔法の短所、長所、こいつの名前、使う魔法の詳細事項。
今、どのような状況なのかも全ての情報が俺の中に入ってくる。
「見えるかよ。てめえがてめえの手で作った龍王の一角が、
一介の下級悪魔の俺に力を貸してでもてめえにラグナロクは起こさせねえってよ!」
直後、鎧の金色の部分に光が走り、金色に輝き始めた。
それに伴って魔力も倍々に増えていき、辺りの地面に大きな穴をあけていく。
「バ、バカな……た、ただの一介の下級悪魔に龍王が力を貸すなど!
そんなことが……うおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
ロキが目の前に北欧の魔術を発動する際に展開される魔法陣を何枚も広げ、
俺に向かって凄まじい数の魔法の一撃を放ってくる。
だが、その全ての一つ一つの魔法の情報が頭の中に入ってくる。
それらを全て一つ一つよけたり、手や足などで弾いたりしながらロキへと近づいていく。
「人間崩れの転生悪魔がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ロキは上空に上がり、巨大な魔法陣を展開させてそこへ膨大な量の魔力を集め始めた。
鎧が光輝き、今、ロキが発動しようとしている魔法の情報がすべて入ってくる。
ほぅ……北欧魔術最強の魔法を全ての魔力を使ってまでこの俺を殺しに来るか。
「その魔法に最も効果的な魔法だ」
『チョーイイネ! ブリザード! サイコー!』
音声が鳴り響き、地面にロキの物と同じくらいに大きな魔法陣が展開され、
さらにそこに金色の魔法陣が上にかぶさるような形で展開され、莫大な魔力がつぎ込まれ、
凄まじい量の黄金に輝く冷気がロキめがけて放たれた。
「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
ロキは全ての魔力をつぎ込み、巨大な魔法陣から扉のようなものを出現させ、
その扉が開こうとした時に俺が放った黄金に輝く冷気が到達し、
今にも開こうとした扉がパキパキと音をたてて凍りついていく。
『チョーイイネ! ファイナルストライク! サイコー!』
俺を中心として、全てのエレメントの魔法が発動し、四つの魔法陣が現ると、
そこから魔力が放出されて混ざり合い、七色となった魔力が俺の脚にまとわりつき、
さらに俺の背中を押すように極太の七色の輝きの魔力が放たれて、
それに押し出される形でロキへと向かっていく。
「ゼェ! くそ!」
先ほどの魔法に全ての魔力を使ったらしく、ロキは肩で息をしており、
魔法は発動できない状態らしかった。
「ハティっ! スコルっ!」
ロキはその二つの名を叫ぶが、何も起こらなかった。
「な、何故だ! 父である俺の言う事が……ま、まさか」
「だぁぁぁぁぁ!」
七色の蹴りがロキに直撃した瞬間! 七色に輝く魔力が放射線状に地上に降り注ぎ、
ロキを中心として空中で大爆発を起こした!
俺が地上に降り立ったと同時にロキが上空から落下してきて地上に大きな穴をあけて落ちた。
戦いが終わったと二匹は感じたらしく、赤色の鎧はすぐに魔力に戻って俺の中へと戻り、
黄金に輝く金色の魔力は俺から排出されて少し離れたところで
凄まじく大きなドラゴンの変わった。
「ふわぁぁぁぁぁん。僕が外に出たのいつ以来だろ~」
「感謝する。ミドガルズオルム」
「別にいいよ~。楽しかったしね~。ねえねえ」
『テレポート、プリーズ』
ミドガルズオルムを余裕で超える大きさの魔法陣が地面に現れ、
転移の準備が一瞬で整った。
「ありがと~。あ~そう言えばアルビオンがわんわんと一緒にどっかに行っちゃったよ~」
ヴァーリがフェンリルと……奴は奴で考えていることがあるんだろう。
「構わん。放っておけ」
「おっけ~。バイバ~イ」
その言葉を最後に、ミドガルズオルムは再び海の底で眠りについた。
「イッセーさん!」
「うぉぉ」
前を向いた瞬間、腹部に衝撃が走ってそのまま地面に倒れ込んだ。
何事かと思い、体を起こして見ると腹の所にアーシアやら、
小猫やらギャスパーやらが抱きついていた。
「よ、よがったでずぅぅぅぅぅ!」
「イッゼーぜんばぁぁぁぁぁい!」
「……良かったです」
号泣しながら喜ぶアーシア、鼻水を垂らして号泣するギャスパー、
目に涙を溜めている小猫……他にも木場や、朱乃。みんな俺の仲間だ。
『くぅぅぅん』
ふと、後ろから鳴き声が聞こえ、振り返ってみると戦場にいた二匹の狼が猫なで声のような、
声を発しながら俺にすり寄ってきた。
一瞬、全員が戦闘態勢を取ろうとするが殺気が感じられないので、
俺は全員に武器を降ろさせた。
「……お座り」
『『きゃん!』』
俺がそう呟くと、尻尾をわさわさと横に振りながら地面に座った。
まさか、あの戦いの中で主だったロキよりも強い存在を見つけ、
それを新たな主として俺を選んだのか?
「兵藤……一誠」
後ろから声をかけられ、振り返ると朱乃と木場に肩を抱かれた男性がこちらに近寄っていた。
「朱乃の父のバラキエルと申す。貴殿は」
「安心しろ。あんたの娘は俺が護る。約束する。もしも、
今度朱乃を泣かせたら好きなだけ殴ってもらって構わない」
「…………君に朱乃を……娘を託す」
朱乃の父であるバラキエルさんは眼から涙を流しながらそう言った。
これで朱乃の過去は終わった。
まだ、親と子として真正面から対面はできないとしてもいずれ、
また親子という形で二人が笑いあうことができる……そう信じて気長に待つとしよう。
悪魔の寿命は長いのだから。
「…………もしかして俺って用なし?」
数時間後、俺達がせっせとフィールドの破損を治している最中に魔法陣を通して、
会長のポーンである匙元士朗が転移してきた。
話を聞くにアザゼルに暗闇から闇打ちされて気がついたらまるで、
どこかの特撮ものに出てくるかのような黒服を被った奴らに拘束されて、
白衣姿のアザゼルが前にいたとか。
ちなみにそいつらは『イーッ!』とか言っていたらしい。
「匙か……一言いえば時すでに遅し」
「そんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……うぁ」
よっぽどの地獄を見たのか、それとも疲労がたまっていたのかは知らないが、
匙は叫んだ直後に意識を失って倒れ込んでしまった。
アザゼル……お前はいったい何をしたっていうんだ。
「部長、それ持ちますよ」
重たそうなものを持っていた部長の手に触れた瞬間、
突然部長は手を引いてしまい、大きな瓦礫が地面に落ちた。
瓦礫を拾いつつも部長の顔をのぞきこむと、どこかオドオドしていた。
「ふぅ。今回はヤバかったな」
「まあ、神とフェンリル。さらにその力を受け継いだ二匹でしたから」
「でも、フェンリルちゃんがチームに入って嬉しいです!」
「ところで、ヴァーリ。あいつにはあいさつしなくていいのか?」
「ああ、良いさ。いつだって赤と白はどこにいても必ず出会うものさ」
「にゃ~♪でも、聞くとことによるとあのフェンリルの血を引いた二匹は、
兵藤一誠になついちゃったみたいニャ」
「それもまたよし。俺が決着をつけるのは兵藤一誠だからな……だが」
「だが……なんです? ヴァーリ」
「いやな……あいつは……兵藤一誠は少しこの先、苦労すると思ってな」
「通信越しで悪いな、サーゼクス」
『いや、良いさ。だが、今回も彼に助けてもらったな』
「ああ……あいつさ、俺が封印したことを謝罪したら仕方がない。
あそこではあれが妥当だったつったんだぜ?」
『彼のお母様が亡くなったのは彼にとって大きな転換期になったということか』
「ああ。俺が思うにこの世界で一番強いのは」
『母だな』
「ああ……ところであれ来てるんだろ?」
『ああ。イッセー君、木場君、姫島君に中級悪魔昇格の話が出ている。
コカビエル襲来、和平会談テロ、パーティテロを未然に防いでくれたうえに、
今回のロキ戦のことで彼ら……特にイッセー君に熱烈のラブコールが送られているよ』
「まあな。聖魔剣、雷光の巫女、そしてドラゴンズマジック。
来ない方がおかしい。だが、世界はひどいものだな」
『ああ、彼らをまるで潰すかのように変容してきている。セイグリッドギアも、テロも』
「イッセーさん! 京都の修学旅行は一緒に組みませんか!? ゼノヴィアさんも!」
「ああ、良いぞ」
「アーシア! 早速明日に買い物に行こう!」
あの激しい戦いから数日。俺達はようやく普通の日常に戻ることが出来た。
オーディン様も日本の神々との会談を十分に成功させて、
満足げ気に帰っていった……一つの忘れ物をして。
「うわぁぁぁぁぁぁん! オーディン様のバカぁぁぁぁぁ!」
『くぅぅぅん』
『くぅん』
「うぅ! スコル! ハティ! あなた達は優しいのね! この前はごめんねぇぇ!」
今、部室には新しい仲間が一人と二匹増えた。
まず一人は元ヴァルキリーで今は悪魔であるロスヴァイセ。
オーディン様がそのまま彼女を放置して帰ったのでそこへすかさず部長が入り込んできて、
まるで保険屋のようにあれやこれやと話を進めていき最後のルークの駒で転生した。
そしてもう二匹はスコルとハティ。
以前は巨大だったが今は大型犬の同じくらいの大きさにまで縮んでおり、
部室のペットと化している。
そして、こいつらは俺の使い魔。どうせなら契約してみろとアザゼルに言われ、
二匹を俺の使い魔にした。
「イッセーさん?」
「ん?」
「今、笑いました?」
「…………さあな」
少なくとも、今の環境を楽しいと思っている。
「ほれ」
俺――――アザゼルはグリゴリの部下たちに日本で、
買ってきてほしいものを買っている途中の休憩時に弁当をバラキエルに渡した。
バラキエルは弁当箱を開けて、中を見ると入っていたのは肉じゃがだった。
震える手で箸を掴んで、肉じゃがを一口分、
口の中に入れるとポロポロと涙を流しながらガツガツと口に運んでいく。
「朱璃の味だ」
もう二度と味わうことのできないと思っていた味を再び味わう。
イッセー……やっぱり、お前は最後の希望だ。
Yes!