「えっと、これはここで」
ある日の休日、やけに忙しそうに部屋の中をうろうろしているリアスが、
さっきも掃除した場所を二度三度、掃除するくらいに焦っていた。
「どうしたんでしょうか」
俺の隣に座っているアーシアが不安そうな声を出しながらリアスをジッと見ていた。
さっきから俺の部屋と一階を行き来しながらリアスはあ~だ、
こ~だ言いながら往復している。その数、五十ほど。
どこぞのクラブよりも運動しているな。意外と昇降運動ってエネルギーを使う。
さらにうちの家の階段は結構な段数があるからな。
「リアス、どうした」
「お義姉様が来るのよ」
彼女がお義姉様と呼ぶ女性はただ一人……サーゼクス様のクイーンで、
グレモリー家のメイドさんのグレイフィアさん。
最強のクイーンと恐れられているあの人が来るということで、
リアスはやたらと慌てているのか。
だが、何故あんなにも慌てる必要がある。
「グレイフィア様はふだんは主と従者という関係ですが、
OFFの日は普通の姉と妹という関係に戻るんです」
「OFFの時のグレイフィアさんはチェックがとても、
細かいらしくて……リアスはOFFの時のグレイフィアさんが苦手らしいのです」
朱乃はリアスの今の状況を薄らと黒さを感じる笑みを浮かべて、
小猫は羊羹をもぐもぐと食べながらそう言った。
ほぅ、あの恐れるものは何もないと言ったような感じのリアスでもやはり、
恐れ戦く者はあるという訳か……来たか。
外から感じたことのある魔力を感じた直後、来客を告げるインターホンが鳴り響いて、
リアスはものすごい速度で階段を下りていった。
俺達は面倒なのでテレポートで玄関先まで転移すると、
既にドアが開いておりそこにメイドの格好ではなくセレブな衣装に、
身を包んだグレイフィアさんと見たこともない全身赤い鱗だらけの生物がいた。
「ごきげんよう、リアス」
「ご、ごきげんよう。お、お義姉様」
グレイフィアさんは余裕の表情で笑みを浮かべるが、リアスは表情の至る所に、
緊張という色をにじませながら笑みを浮かべて返答した。
「姫さま、お久しゅうございます」
全身紅の鱗の生物がリアスに挨拶をする。
その生物は俺の視線に気づいたのか俺の方へと向いた。
「これはウィザード殿。お初にお目にかかりますな。
私はサーゼクス様のポーンである炎駒と申す」
「彼は伝説の麒麟と呼ばれる生物でね。久し振りね、炎駒」
リアスはそう言いながら炎駒という生物の頬を撫でた。
サーゼクス様の卷属は全員が伝説級の人物だと聞いてはいるが……まさか、
伝説上の生き物まで卷属にしているとは。
「炎駒。私だけでも良かったのですが」
「いえいえ、サーゼクス様の奥方様でもあり、
クイーンのグレイフィア様が訪問されるというならば、
護衛の一つは……と言いたいところですがまあ、
私も久しぶりに姫様の顔も見たかったですし、何より一度、
ウィザード殿を間近で見たかったものですから。それでは」
炎駒はそう言うと、紅の霧となって消え去った。
「私が冥界にいた頃はよく背中に乗せてもらったわ」
リアスは懐かしさにそういいながら微笑んだ。
「挨拶はこれくらいにしまして。それではお家に上がらせてもよろしいですか?」
「そうですか。リアスは迷惑をかけていないようでよかったわ」
微笑みながらグレイフィアさんはリビングでアーシアと話していた。
今は成りを潜めてはいるが、彼女の中にある近くにいても分かるくらいの凄まじい圧力。
最強のクイーンの名前は伊達ではないのが分かる。
「よい後輩、良い友達に恵まれているようですね……後は殿方ですか」
その一言でリビングの空気が一気にピリピリしたものに変化した。
全員はらはらした表情を浮かべながら何かブツブツと呟いている。
「リアスは一度、婚約を破断しています。その評価は古くからの慣習が根強く、
残っている上の階層の皆様の間では最悪に近いものです。
下の階層の評価も上と比べればまだマシですがそれでもマイナスなことは変わりません」
古くからの慣習を重んじている上の奴らにとって、
純血同士の悪魔の婚約はもうそれこそ重要な儀式だろう。
今の悪魔は種の存続自体が危ぶまれており、先の大戦で純血の悪魔は大部分が死亡、
もしくはフェニックスのようにカオス・ブリゲートの一員となっている可能性もある。
これらのことから連中は純血の悪魔の数を増やしたい……だが、
貴重なそのチャンスをリアスは……いや、正確には俺が潰した。
ふぅ、と一息ついたグレイフィアさんは表情を緩和させた。
「なんだかんだいって、私もあの一件に手を出しているのよね。
それに私たちも何気に自由な恋愛をしたわけだし」
「お二人のラブロマンスは女性悪魔にとって伝説ですわ!」
「劇にもなっています」
朱乃も小猫もどこか興奮した様子だった。
「私達の一件もあるからあなたには立派な上級悪魔のレディになってほしいのよ。
そのためにはまず、我儘な性格を治さなきゃダメね。
これは若干、治ったみたいだけどまだまだね。
それに何でもお金で解決できると思っている節があるし自分のものが誰かに手を出されたら、
すぐ怒る部分もなさなきゃいけない。即決即断な部分も改善して欲しいわね。
将来進む道は即決即断で行けば身を滅ぼす世界。だからあなたには――――――――――――」
それから非常に長ったらしいマシンガントークがさく裂した。
まるで恨みを何年も溜めこんだ奴が恨みを抱いているやつにここがダメ、
あれがダメとかを大人になってから吐き出すような感じだ。
そのマシンガンにリアスは避けられずに全てくらい、
流血を顔を赤くすると言う行動で表している。
「ふむ、グレイフィアのマシンガンは誰も避けられないものだよ」
「……時々、貴方が魔王だということを忘れてしまいます」
突然、聞こえた声に振り向きながらそう言うと、
いつの間に近づいたのか知らないが俺の背後にサーゼクス様が立っていた。
魔力検知器の俺でさえ、検知できないのか……これが魔王と俺の格の差。
「サーゼクス。貴方今日は魔王の会議があったはずでは」
「ここからリアルタイムで私の映像を流せば―――イタイイタイ。イタヒヨ。グレウフィア」
「まったく、私がメイドじゃなくなるとすぐにこうなってしまう。
今からでもメイドに戻ろうかしら」
怒った様子でそんなことを言っているグレイフィアさんの余所で、
設置されているテーブルに三つの小さな魔法陣が出現した。
確か、あの魔法陣は映像と音声を伝えるもの……まさか。
『――――――スちゃん! ―――――ゼクスちゃん! サーゼクスちゃん!
聞こえる!? サーゼクスちゃん!』
ノイズが入り混じっていたものが次第に綺麗なものになっていき、
数秒も経てばハッキリと相手の声と顔が分かった。
『まったく! 時間になっても来ないからと思えばリアスちゃんのところに行ってるなんて!
言ってくれたら私も行ったのに!』
『お前が会議を抜けてまで人間界に行くのは事件か、
それとも何か面白いことが起きるかだ』
『僕は働きたくないぞ~』
レヴィアタン様の発言に続くように聞き覚えのない男性の声が聞こえ、
映像に二人の顔が映し出された。
アジュカ様とファルビウム様か。
「まだ兵藤君には紹介していなかったね。あやしい雰囲気を出しているのが技術総督と、
言っても良いアジュカ・ベルゼブブだ」
『あやしいのは悪魔には必要だろ? 初めまして、ウィザード殿』
「ウィザードというのは?」
言葉だけを見れば魔法使いという意味だがこの人はもっと、
別の存在を云い現わしているような感じがする。
『世界でもっとも強力な魔法を扱うもののことさ』
「そして、面倒くさそうにしているのがファルビウム・アスモデウスだ」
『ども。ファルビウムです』
映像には非常にめんどうくさそうな表情を浮かべ、頬づえをついている男性が映っている。
噂ではアスモデウス様は冥界切っての戦略家というのを以前
聞いたことがあるが……人を見た目で判断してはいけないといういい例か。
『ところでなぜ、そっちにいる』
「ああ、兵藤君とリアスに例の儀礼をしてもらおうと思ってね」
サーゼクス様がそう言うと、全員が驚いたような表情を浮かべた。
例の儀礼……意味は分からないが、
ともかく俺は再びリアスと俺しか受けないことをさせられるみたいだ。
恐らく時系列は狂っていないはず……たぶん。