「あ! イッセー様!」
『『わんわん!』』
スコルとハティを迎えに行くために久しぶりにリアスとともに冥界に来た俺。
俺と再会できたのがそんなにうれしいのか、二匹は俺に飛びかかってくるとペロペロと、
凄い勢いで顔を舐めてくる。
「あらあら、すごいことになってるわね。イッセー」
「そうだな……ま、ミリキャスとも仲良くやれてるみたいで良かったがな」
リアスから受け取ったタオルで顔を拭きながら向こうを見ると、
ミリキャスを背に乗せたスコルが屋敷の庭を走り回っている様があった。
ちなみにハティはさっきからずっと、俺にベッタリくっついている。
卷属たちには懐いたこいつらが他の奴らには懐くか心配だったんだが
それは杞憂に終わったらしい。
もしくはあの二匹には善悪が判断できるのか……ま、良いか。
「あら、イッセーさんも来ていたんですね」
「お、お母様!」
後ろから声が聞こえ、振り返ってみるとそこには亜麻色の髪をした部長のお母様が立っていた。
「やけに庭がにぎやかだから来てみたら、イッセーさんが来ていたんですね」
「お邪魔しています。部長、俺は少し」
「ストップ」
リアスに話しかけている最中に部長のお義母さまから止められた。
「イッセーさん。これからは私の前ではリアスと呼んでいただいて結構です。
あと、私のこともお義母さまと呼ぶように」
……なんか、もう俺グレモリー家の婿養子に来たような扱いだな……まさか、
まさかのそれがリアルになることは……。
「リアス、教育がなっていないのではなくて?」
「も、申し訳ありません。しかし」
「そこで『しかし』が入るのですか? 伴う男子を入れるのですから、
そこはしっかりとしなくてはならないのでは?
朱乃さんやアーシアさんは少なくともそうなのでしょう?
強くてかっこいい男性に女性が集まるのは自明の理。
それを管理するのも当主であるあなたの役目ではないの?」
リアスは母親のマシンガントークに顔を真っ赤にしながら恥ずかしそうにしながらも、
頭を何度も下げて聞いていた。
何か俺には理解できないでかいことがグレモリー家の内部で着々と進行しているような……。
翌日の朝、俺は一年生の教室の前にいた。
無事に中間テストも、その後に行われた全国模試でもすべて満点を取ったので、
登校義務免除生は継続されることとなったのだが、
大事なお客さんが一年生に転入してきたというので様子を見に来たわけである。
「もしかしてあの人が例の」
教室を見るや否やヒソヒソと声が聞こえてくる。
今更、噂はどんなふうに流れているのかは知ったことではないがな。
教室を見てみるとひたすら無心に羊羹を食べている子猫と端っこの方で段ボール箱を、
ジーッと見ているギャスパー、
そして多くの生徒に囲まれて困惑状態の転入生―――――レイヴェルがいた。
小猫とレイヴェルは良いとして、ギャスパーよ。お前はなんで段ボール箱をジッと見てるんだ。
「あ、イッセー先輩。どうかしたんですか?」
俺に気づいたギャスパーがトコトコと俺のもとへ歩み寄ってきた。
「様子を見に来ただけなんだが……なんでお前は段ボール箱をジッと見ているんだ」
「えっと、品定めならぬ箱定め?」
「まさか、周辺のスーパーから良さそうなものを取ってきたんじゃないだろうな」
そう言うとギャスパーは数秒、間を開けた後にニコッと笑みを浮かべた。
どうやらそうらしい。
はぁ。息子の将来を心配する母親の気持ちはこんな感じか……まあ、
完全なる一人ぼっちじゃないみたいだから良いが。
「おはようございます。イッセー先輩」
「ああ、お前はなんで無心で羊羹を食べ続けている」
「荒ぶる精神を抑えるためです」
小猫の視線が向いている方向を見るとそこにはレイヴェルが……なるほど、
どんな感情を抱いているかは知らんがレヴェルが気に食わんと。
肝心のレイヴェルは外国の転入生というもの珍しいものに群がってくる女子生徒の裁きに少々、
戸惑っているようだった。
「何が気に食わないかは知らないがあいつが友達に困らなくなる程度になるまで、
学校とかのことを教えてやってくれないか」
「……まあ、先輩が言うのであれば」
「悪いな。俺がやっても良かったんだが……いろいろと、
めんどくさい輩が絡んでくるだろうからな」
そう言うと、小猫はどこか悲しそうな表情をして俺を見てきた。
「先輩は……悲しくはないんですか?」
「……別に。弱い奴はそう言う噂を茶化したいんだよ。
それに少なからず、俺にも友人はいるしオカルト研究部の奴らがいればそれで十分だ。
じゃあ、また放課後な」
小猫の頭を二度、三度撫でてから俺は部室へと向かった。
「じゃ、作業を始めるわよ!」
その一声から女性陣は旧校舎の清掃兼飾り付け、男どもは文化祭で使用する際に必要な、
物資などの買い出し、および木材の切断が役目としてあてられている。
買い出しはギャスパーとスコルに任せ、俺と木場、
そしてハティは旧校舎の近くでノコギリで木材を切断していく。
ちなみにハティは出来上がった木材を持っていってくれる運搬役。
「イッセー君。ディハウザー・ベリアルを知っているかい」
「ああ。不動のランキング一位で本物の怪物。ベリアル家始まって以来の化け物で、
長期間最強の座に座っているやつだろ?」
「そう。ランキングは二十位以上が別次元とされ、トップテン内に入れば英雄とさえ、
称される中でベスト3は本物の化け物と称されている最強集団だよ。
1位、2位、3位は大規模な戦闘が起きない限り動かないとされているけどね」
3位のアバドン、2位のベルフェゴール、そして1位のベリアル。
最上級悪魔の中の最上級悪魔と称され、その力は4大魔王にさえ、
匹敵すると言われている悪魔の最強クラスの10人。
上級悪魔になって独立した場合はこいつらが壁となるのか。
「それよりも今はサイラオーグだろ」
「そうだね。若手の最強を決める戦い。
ここで勝てば大きなアドバンテージになることは間違いないよ」
木場はハティの頭に出来上がった木材を乗せながら言う。
「あちらも鍛錬をするタイプだからグラシャラボラス戦時のビデオはあてにならないね」
「そうだな。まあ、戦いに勝てばいいだけの話だ」
俺はハティの頭に出来上がった木材を乗せながらそう言う。
木場もそれに頷きながら、出来上がった木材をハティの頭に乗せた瞬間、
突然、『グヒャ!』という声が聞こえ、
何事かと振り向いて見ると出来上がった木材に埋もれているハティがあった。
『ワン!』
「ごめんごめん」「悪い」
人生で初めて動物に叱られた気がする。
あくる日の朝、俺はリアスに連れられて冥界のシトリー領にあるとある病院に向かって、
リムジンで向かっていた。
どうやらリアスは誰かの見舞いに行くらしく、俺はその付添らしいのだが、
誰の見舞いなのかについてはかたくなに話そうとしなかった。
やがてリムジンが停止し、リアスについていってある病室へと入る際にチラッと、
ネームプレートを見たときに書かれていたのは『ミスラ・バアル』
「ごきげんよう。おばさま」
悲哀に満ちた声で話しかける先には人工呼吸器のようなものを取りつけられ、
ベッドの上で眠り続けている女性だった。
バアルということはまさか……サイラオーグの親族。
「この方はミスラ・バアル様。サイラオーグ様の母です」
後ろから声が聞こえ振り返るとそこには執事服を着た中年男性。
「サイラオーグは生まれたころから消滅の魔力を持たなかったの。
それでバアル家は汚点だとしてサイラオーグを監禁にも近い状態で外には出さず、
おばさまとも引き離す……その条件をバアル家から叩きつけられたおばさまはそれを拒絶し、
サイラオーグを引きつれてバアル家の辺境へと下がったの」
「ですが、サイラオーグ様が中級の悪魔にも闘えるようになった年頃に、
眠りの病を発病なさったのです」
何か込み上げるものがあるのか中年男性は眼から涙を流しながら、
震える手でどうにかして花束を持っていた。
「お二人をお呼びしましたのはほかでもありません!
ミスラ様の治療にお力を借りたいのです!
兵藤様は未知の魔法を使うとうわさを聞いております」
なるほどね。未知の魔法を使う俺ならば眠りの鎖から、
解き放つすべも持っているのではないかと……。
「残念ながら病気を治すことはできませんが……ミスラ様の中に、
入って心を覗くことは可能です」
「構いません!」
その言葉を聞き、俺はミスラ様の手を握り締め、魔法を発動した。
『エンゲージ・プリーズ』
「少し行ってくるぞ」
「ええ」
そう一言言ってから俺は魔法陣に飛び込んだ。