暗く、なにも見えない空間を俺――――兵藤一誠は歩いていた。
何も見えない―――――何も感じない。
一体、どれだけ歩いたろうか……三十分? 五十分? いや、もっとだ。
数時間単位の長い時を俺は歩いている。
何も見えなかった視界に一つの大きな光の塊が現れ、何も見えなかった空間を明るく照らす。
「ぐっ!」
刹那、塊からすさまじい量の炎が吹き荒れ、辺りは一瞬にして何もない空間から、
炎しかない空間へと変わり、辺りは文字通り火の海と化した。
『ほぅ。ここへたどり着いたか』
「誰だ」
周りを火で囲まれている中、突如、聞き覚えのない声が辺りに響いた。
直後、パキパキ! という音が聞こえ、下を向くと俺の両足が凍りつき、
さらに耳をつんざくような爆音が鳴り響き、空から幾つもの落雷が降り注いだ。
『いずれは貴様の身体を貰うぞ』
その声が聞こえだ直後、上から巨大な岩石がいくつも落ちてきた。
「はっ! はぁ、はぁ」
今にも岩石につぶされようとした瞬間、目が覚め、
ベッドから飛び起きると額から大量の汗が滴り落ち、
ねまきが汗でぬれて皮膚にくっつき、不快感を感じた。
「何なんだいったい……これは」
ふと、視線を上げると部屋の入り口である扉付近に、
四つの魔法陣がふわふわと浮いているのが見えた。
赤、青、緑、黄の4つの色をした八つの魔法陣は俺が目覚めたのを感じたのか、
俺の方へ寄って来て右腕の中に消えていった。
……さっきのドラゴンの夢と何か関係があるのか。
『エラー』
試しに先ほどの腕に入った魔法を使ってみるが籠手からそんな音声が流れ、
魔法が発動されなかった。
まだ魔法を使い始めて一月にもなっていないが……こういう状況になったのは初めてだ。
試しに普段使っているコネクトを発動させてみるが、今度は普通に籠手が出現し、
音声が流れるとともに赤色の魔法陣が出現した。
……いったい、あの魔法陣は何だったんだ。
「イッセーさーん! 外に部長さんが来ていますよ~!」
一階からアーシアの声が聞こえ、俺の意識を完全に覚まさせてくれる。
アーシア・アルジェント。かつては教会でシスターをしていたがある一件により、
リアス・グレモリーのイーヴィルピースであるビショップの駒を与えられ、
悪魔として転生し、今は俺の家にホームステイという名目で住んでいる。
無論、母さんにもこのことは話し、快く引き受けてくれた。
「イッセーさん? 大丈夫ですか?」
いつまでたっても降りてこない俺を心配してか、
アーシアが階段を上がって来て俺の部屋に顔だけ覗かしてこちらを見てきた。
「ああ、今行く」
汗だくになったTシャツを脱ぎ棄て、机の上に置いてあるタオルで吹き出ている汗を、
綺麗にふき取り、外で待っている部長のもとへと向かった。
「良い風ですね~」
「そうだな」
その日の晩、俺はアーシアを自転車の荷台に乗せて悪魔稼業を行っていた。
今朝、部長が来た理由はアーシアも悪魔になったので稼業をやらせたいんだが一人では、
不安なので監督として俺を指名したい……要約すればそんな感じだった。
本来なら魔法陣で飛べばいいんだがどうしても俺と一緒に行きたいと、
アーシアが部長に懇願したらしい。
まあ……部長もアーシアには誰かしらに警護を任せようとはしていたんだろうが……。
「これで終わりか」
「はい!」
「じゃ、帰るか」
俺達がチラシ配りを任せられている担当エリア内にある最後の家に広告を入れ終わり、
俺たちは旧校舎へと戻り始めた。
昼はあれほど蒸し暑い日が続いているが夜にもなると風が出て、
非常に過ごしやすい気候になる。
……まあ、丁度よかったかもな。
あんな蒸し暑い日に悪魔稼業をやることになるよりかは。
「イッセーさん」
「なんだ?」
「ローマの休日って知っていますか?」
確か、俺達が生まれるよりもずっと前に公開された映画の名前だったはず。
「昔、それを見たことがあって映画ではバイクでしたけど私、ずっとあれに憧れていたんです」
そう言い、アーシアは掴んでいた俺の肩から手を離して俺の腹部に手を回し、
顔を背中にうずめた。
あの日以来、俺はアーシアとともに行動することが多くなった。
その理由は彼女を一人で暗い街を歩かせば変な輩が絡んでくる……それもあるが、
どちらかといえば妹を暗い夜道の中一人でいさせられないと言った、
兄が抱くような感情から来ているのが正しかった。
本来なら空間と空間を繋ぐ魔法、コネクトを使えばあっという間に、
学校に戻ることも出来るんだが……何故か、
それをしなかった。普段ならさっさと旧校舎に帰って、
そのまま家に帰るというのに……心の中のどこかで俺自身が、
それをするよりもアーシアと一緒に居たいと望んでいるのか。
「イッセーさん? イッセさ~ん」
「…………あ、着いたのか」
アーシアの声で考え事から抜け出し、
顔をあげるといつの間にか旧校舎の前にまで来ていた。
『コネクト。プリーズ』
彼女の荷台から降ろし、魔法陣を展開してそこへ自転車を放り込むと、
自転車が消え、それの直後に魔法陣も消滅した。
「行くぞ」
「はい!」
旧校舎に入り、長い廊下を歩いていき部室の入り口である扉を開いて、
中へはいるといつものメンバーがそろっていた。
「あ、お帰り。イッセー君、アーシアさん」
今、声をかけてきたのが木場祐斗。
ナイトのイーヴィルピースを与えられたキングを護る位置にいる剣士。
ちなみに学校では女にちやほやされているイケメン。
「イッセー君。お茶はいかが?」
「……いえ。いりません」
姫島朱乃。一つ上の先輩であり、
クイーンのイーヴィルピースを与えられたこのメンバーの中で二番目に強い存在。
ポニーテールでいつもニコニコしている。
『コネクト。プリーズ』
「あ……お菓子」
魔法陣を展開し、そこへ手をツッコンで展開された先にあった和菓子を取ると、
悲しそうな表情をして、こちらを睨んできたのが塔城小猫。
ルークの駒を与えられた怪力少女……あまりそのルックスに合わないがな。
「先輩、ずるいです」
「……ん」
「どうも」
ジトーっと睨んでくるもんだから食べるに食べられなくなり、
結局、塔城に和菓子を返却した。
「皆集まったわね」
そして、俺達下僕の主でありキングである女。
部長と書かれた札を机の上に立て、
長い髪を揺らしながら立ち上がったリアス・グレモリーが、
俺たち全員を見るように辺りを軽く見渡した。
「これから部活を始めるわ」
今日も今日とてオカルト研究部は活動する。
深夜、オカルト研究部の活動が終わりアーシアと帰ってきた俺は風呂も済ませ、
アーシアが上がってくるのを窓の外から夜空を見ながら待っていた。
何度か今朝の魔法を発動してみようとするが全く発動せず、
エラーとしか音声が流れなかった。
「ふぅ。ドラゴン」
あの時の夢が覚める一瞬だけ、巨大なドラゴンの姿が視界に入った……気がする。
真っ赤な鱗に鋭い爪を生やし、その巨大な目で俺を睨んでいた。
そして奴の目には……憎しみがあった。
「ん?」
そんなことを考えていると部屋の床に見慣れた文様が描かれた魔法陣が現れ、
暗かった部屋を紅色に明るく照らした。
この文様……俺たち卷族のものだった……はず。
魔法陣から徐々に誰かが現れてくる。
全体像を見るよりも前に、魔力で誰なのかが分かった。
「なんかようですか? 部長」
魔法陣から出てきたのは、
オカルト研究部部長兼俺たち卷族の主であるリアス・グレモリーだった。
その表情は真剣そのものだった。
「イッセー。私を抱いてちょうだい」
『バインド・プリーズ』
「きゃっ」
とりあえず、おかしなことを言う変態さんを魔力の鎖で縛っておいた。
「変態さんは御返却いたします」
「イ、イッセーったら。こんなプレイを」
『テレポート。プリーズ』
とりあえず、この変態さんを御返却するために物体を瞬間的に臨んだ場所へ、
返還する魔法陣を部長の足もとに展開させ、転移させようとした瞬間、
その魔法陣に上書きされる形でまた、卷族の文様が書かれた魔法陣が現れた。
それにより、縛っていた鎖も消滅した。
「お嬢様。このようなことで破断に持ち込もうというのですね?」
魔法陣から出てきたのは銀色の髪にメイド服を着た女性だった。
「グレイフィア。いつもいつも、貴方は私の邪魔をする」
「邪魔をしているわけではありません。お嬢様を補佐しているだけです」
「とりあえず、家の外でしてください」
『テレポート。プリーズ』
お客さん二人をオカルト研究部室がある旧校舎へと転移させようとした瞬間、
展開された魔法陣が凄まじい魔力の圧で砕け散った。
「見たことのない魔法を使いますね。貴方は何者ですか?」
俺に敵意の視線を向けながらそう言うと、部長が俺とメイドさんの間に入ってきた。
「彼は兵藤一誠。私の可愛い下僕よ」
部長がそう言うと、銀髪メイドは急に畏まり、俺に頭を下げてきた。
「これは失礼いたしました。私はお嬢様の身の回りのお世話をしております、
グレイフィアと申します。以後、お見知りおきを」
……つまりはこいつのメイドさんだと。
「貴方が来たということは家が総出で私を止めに来たというわけね」
部長の一言に銀髪メイド―――――グレイフィアさんは静かに首を縦に振った。
「はぁ。わかったわ、私の根城に行きましょ。
イッセー、さっきのもう一回してくれないかしら」
『テレポート。プリーズ』
音声が流れ、部長とグレイフィアさんの足もとに魔法陣が展開されると、
下から上にあがっていき、最終的に魔法陣が消えると同時に部長もグレイフィアさんも、
旧校舎へと完全に転移された。
こんばんわ。なんか案外好評なのでこのままいけば連載行こうかもです