「正気か」
学園祭が終わってから数日経ったある日の朝、俺の部屋でゲームをしていると突然、
テレビの画面の前に魔法陣が展開され、俺はブチギレながらもその連絡を取って、
その声を聞いた瞬間にあまりの驚きに怒りを忘れてしまった。
プライベートの回線で連絡を寄越してきた人物……それはヴァーリだった。
それだけでも十分驚くのだがそれ以上に驚くことを奴から提案を受けた。
『彼……今は彼女か。彼女も会いたがっていてね。
面白そうだから便宜を図りたいんだ』
「それ以外にあるんだろ?」
『あると言えばある……彼女を狙うものがいてね。
そいつが敵か、味方かを判断するだけさ。この世の中も面倒になったものだ』
サイラオーグとの決戦から数日経ったある日の朝、俺――――兵藤一誠は心地よく、
眠っていたところを甲高い言い合いで目を強制的に覚まさせられた。
起きてみるとやはりいつもの通り、リアスと朱乃がにらみ合っていた……が、
リアスは余裕の笑みを浮かべた。
「私のイッセーに手を出して……と言いたいところだけど昨日はたっぷり、
甘えさせてもらったから今日は見逃してあげるわ」
「あらあら。随分な余裕ですこと」
「ふふ。イッセー、朝ごはんだから下に降りてきなさい」
そう言い、俺の頬にキスを一つ落としてから一階へと降りていった。
……どこか、あいつに焦りを感じるのは俺の勘違いか?
「ふふ、やっぱりイッセー君は全てを見透かしますわね」
朱乃は俺の隣に座って、肩に頭を乗せてきた。
「この前のゲームで貴方の枷になってしまったことがリアスの中で、
トラウマに近いものになっているようですの」
レグルスとの戦いでフェニックスの涙を、
あいつに使ったことか……ゲームの状況からすればそれは普通のことなんだが。
「やはり、いつまでも貴方に頼っていられない……そんな気持ちが、
どこかにあるんでしょうね」
俺が最後の希望となって支えると言った以上、頼っては欲しいんだが……今は何も言わずに、
そっとしておくのが良いのか。
「そう言うお前も焦っているんじゃないのか?」
「あら。やっぱりばれてましたか」
朱乃は悪戯がバレた幼い子供のように楽しそうな笑みを浮かべながらも、
雰囲気はどこか、重いものになっていた。
アバドンとの試合……朱乃は自身の雷光で勝負をかけたものの、
相手の能力によって光と雷を分けられ、光だけを返された……。
「私も必殺技のようなものが必要になってくる頃ですわね。
目標としてはイッセー君のサンダーと同じくらいの威力ですわ」
「そうか……いつでも呼べよ。徹底的に苛めてやるから」
「ふふ」
朱乃は軽く笑みを浮かべた。
その日の深夜、VIPルームに二人のお客様がおこしになった。
サーゼクス様とその奥方様であり、リアスの義理の姉であるグレイフィアさん。
「イッセー君、朱乃君、木場君にそれぞれ昇格推薦が正式に決定した。それを伝えたくてね」
和平会談時のテロリストを追い払い、さらにパーティー時のテロを未然に防ぎ、
悪神ロキとの戦いなどの功績が認められた結果らしい。
俺たちも最初に聞いたのはサイラオーグとの戦いが終わってからすぐのことだった。
他の奴らと比べて異様に俺達は強敵と遭遇する確率が高い……まあ、
それも俺の中に宿るドラゴンが全て引き寄せたのかもしれないが。
「勲章から考えれば中級を通り越して上級が最適なんだがいくら君たちでも、
例外は認められないと上層部が譲らなくてね。
君たちにはまず、中級の試験を受けてもらうことになる」
どんな悪魔も昇格の機会は平等でなければならない……それが、
悪魔の掲げている大原則らしいんだがやはり、
まだ古い慣習が残っているせいでそれが完全にあてはめられていることはないらしい。
「ま、そりゃ妥当だな。特にイッセーは昇格とともにウィザードの称号も、
与えられても良いくらいなんだが、それだと色々と問題が起きるんでな。
物事には順番を、その言葉のもと考えられたのがこの結果ってわけだ」
酒が入ったグラスを傾けながらアザゼルはそう言う。
「サーゼクス様」
「ん? なんだい?」
「一つお聞きしたいのですが」
「なんでも言ってくれ」
「……裏切りのフェニックスはいったいどんな存在なんですか」
その言葉にサーゼクス様の顔から笑顔が消え、アザゼルの顔からも、
そしてフェニックスの関係者であるレイヴェルの顔からも、
嬉しそうな表情が消えて真顔に変わった。
何度か聞きたいと思っていたんだがタイミングが合わなかったからな。
「サーゼクス。言ってもいいんじゃねえか?」
「…………そうだな。レイヴェル、良いかい?」
「はい。イッセー様も何度か戦われていますので」
「そうだな……彼の話をするにはまず、三種族が戦争を行っている時代にさかのぼる」
兵藤一誠という存在が生まれるよりも遥か昔のこと。
天使、堕天使、悪魔の三種族はそれぞれ戦争を行っていた。
その中で悪魔の陣営にはとくに武勲が優れているとされている二人の若者がいた。
一人はサーゼクス・グレモリー。グレモリー家に生まれ、
滅びの魔力を受けついだ存在であり、その強さは他とは一線を越えていた。
そしてもう一人がヴァベル・フェニックス。
殺されても何度も復活するフェニックス家の長男にして次期当主候補だった。
二人は互いに切磋琢磨し、その力を増大させていった。
しかし、ある時、戦闘中に仲間を庇ったヴァベルが相手の攻撃を受け、
絶命した……いつもの通り炎とともに復活するかと思われたその時、
以前よりも遥かに強い炎を発しながらフェニックスは蘇り、
その戦闘をたった一人で終結させた。
「それからその当時の魔王達は殺されても以前よりも強くなって生き返る、
ヴァベルの特性を使おうとした。もちろん、私は反対したのだがその時は私は一人の戦士だ。
魔王に口答えできるはずもなかった。それからというもの、
ヴァベルは以前、会った時よりも遥かに強くなっていた。
だが、その優しかった性格は一変し、なによりも殺しを楽しむ性格に代わっていたんだ。
その後、戦争が停戦となった日を境にヴァベルは姿を消した」
サーゼクス様の話に部屋の空気は最初とは大きく変わっていた。
裏切りのフェニックスは…………戦争が生んだ存在だと言う訳か……。
「その後、フェニックス家ではヴァベル氏の名前を出すことは禁忌とし、
また暗殺候補として挙げられています。私もそのことを聞いたのはほんの数年前です」
「顔は見たことはあるのか?」
俺の質問にレイヴェルは首を横に振った。
「いいえ、戦争が停戦された時にはまだ私は生まれていませんから」
「はいはい! 冷たい話はそこまでだ! 三人は来週の試験を受けてもらうからな!
悪魔歴の浅いイッセーは過去問でも見てれば十分だろ」
アザゼルが両手を叩き、雰囲気を変えるために、
俺達が浮ける昇格試験の話題へとシフトさせる。
確かにいつまでもこんな湿っぽい空気は、
これからテストを受けるっていうのにはふさわしくない。
「そうだな。レイヴェル、例の件。頼めるかい?」
「もちろんですわ! サーゼクス様!」
「レイヴェルにはイッセーのマネージャーを担当してもらうことになった。
お前はこれからいろいろと忙しくなるからな」
アザゼルからの話を整理すれば俺にはレイヴェルが専属のマネージャーとして、
つくらしい……いつの間にそんな話を進めたんだか。
ま、レイヴェルならば俺も文句はない。
「頼むぞ、レイヴェル」
「もちろんですわ! ではさっそく過去問を取り寄せてきますわ!」
そう言って、レイヴェルは書庫室へと走っていった。
レイヴェルはかなり張り切っているようだな……今、
気になることといえば小猫の反応のなさか。
さっきから小猫は心ここにあらずといった状態でポケーとしていた。
特に具合が悪そうには見えないが……。
今日は土曜授業だから大学がないのだ!