中級悪魔の昇格試験から数日が経った日、
僕たちグレモリー卷族は部長のお家に集合していた。
少年のセイグリッドギアによって生み出された怪物たちは冥界の土を粉砕していきながら、
人々を恐怖のどん底に落としていた。
無論、他の勢力からも援軍は来ているものの怪物自体の巨体さと独自で、
生み出され続けているアンチモンスターに手を焼いているようだった。
さらに言えば各地で旧魔王派の悪魔たちがクーデターを起こし、
それに冥界の戦士達が当てられている影響もあった。
テレビのどのチャンネルも怪物の様子を中継していた。
「イッセー君……」
僕はポケットから魔法陣が描かれた二枚の紙を取り出した。
これは以前に彼が渡してくれたもので彼が居なくなり、
絶望した時にこれを使えと言われた…………まだ、
僕は絶望はしていない……でも、絶望してもおかしくはないんだ。
「怪物どもの撃退についに魔王様がたが出ることが決定した」
後ろを振り返るとそこにはライザー・フェニックスがいた。
「状況が状況だ……察するぜ、木場祐斗」
既にこの人にもイッセー君の死は伝えられているらしかった。
彼の死を知っているのはほんの一握りの人たちだけだろう。
……でも、アザゼル先生は……あの人だけは彼の死に疑問を抱いていた。
それはドラゴンゲートからオーフィスが出てこなかったこと。
彼はシャルバによってサマエルの毒を注入されたと思われるのだがそれならばなぜ、
オーフィスも一緒にゲートを通ってこなかったのか。
イッセー君が戻ってこなかったとしてもオーフィスだけは帰って来てもおかしくはなかった。
広間を見渡すとまるでお通夜の場にいるかのような静けさと悲しみが広まっていた。
「良いね、レイヴェル。しっかり気を持つんだ」
レイヴェルさんを慰めている男性を僕は見覚えがあった。
ルヴァル・フェニックス氏……フェニックス家の次期当首にして、
フェニックスの四兄弟の長男であり、
最上級悪魔にも上がるんじゃないかと噂されている方だった。
そうか……ライザーはこの人の付き添いで。
「君が木場君だね」
「はい」
「この状況だ。これを君に」
そう言い、ルヴァルしが僕の手渡してきたのは数個の小瓶に入ったフェニックスの涙だった。
「私はこの愚弟とともに怪物の討伐に行く。討伐部隊にほとんど涙が出回ってしまってね。
これだけしか用意できなかったんだ……リアスさんもリアスさんのクイーンも、
彼の死で落ち込んでいる」
家の帰って来て以来、二人は部屋にこもりっぱなしだった。
最後の希望の彼がいない今、僕がこの卷属の最後の希望にならなくちゃいけないんだ……。
ほんと、いっぱいいっぱいだけどね。
「では、これで失礼するよ。ライザー、お前が変わったところを冥界に見せつけてみろ」
「もちろんですよ、兄者。木場、レイヴェルを頼んだぞ」
二人はそう言い残してここから去っていった。
「やっと……やっと敬愛できる殿方に近づけたというのに……」
悲しみに染まっているレイヴェルさんの声が聞こえてきた。
彼女は時折、彼をヒーローを見るかのような視線で見ていたからね……。
「…………私はなんとなくは覚悟していたよ…………いくら、
先輩が強くても……限界が来るって」
レイヴェルさんの隣に座った小猫ちゃんがポツポツと言葉を吐きだしていく。
そうか……彼女はもう覚悟をきめて。
「割りきりですわよ!」
いつもの無表情が崩壊していき、眼から悲しみの涙があふれ出してきた。
「私だってっ! 私だって限界だよ! やっと……やっと想いを打ち明けたのにっ!」
ダメだ……こんなところで僕まで泣いたら本当にこの卷属は崩壊してしまう!
「木場君」
後ろから声をかけられ、
振り返るとそこには朱乃さんのお父様のバラキエルさんが立っていた。
僕は彼女の今の状況を説明しながら朱乃さんがいるゲストルームへと案内していく。
部長と同じくらいに彼に依存していた彼女もまた、再起不能状態に陥りかけてた。
「ここです」
朱乃さんがいるゲストルームのドアを開けると真っ暗中、
虚ろな目をしている彼女がいた。
「朱乃」
「……父様……」
「話は聞いている……今は泣いても良いんだ」
「……父様っ!」
僕はこれ以上、ここにいても邪魔だと感じ、
ゲストルームの外に出るとちょうどそこを通りかかった二人に出会った。
「匙君」
会長と匙君の二人だった。
二人の表情を見る限り、部長には会えなかったんだろう。
「木場、兵藤を殺した奴は」
「もうこの世にはいないよ。彼が倒したんだ」
「そうか……あいつは勝ってん死んだんだな……許せねえ!
俺の目標の男を殺した奴を俺は許さねえ!」
匙君は憎しみがこもった眼から涙を流しながらそう言った。
「その憎しみを暴走させるなよ」
後ろから声が掛けられ、振り返るとそこにはサイラオーグさんがいた。
「私が呼びました。リアスにと。匙、行きますよ」
「はい!」
彼らもまた、魔王様からの指令で都市部の一般市民を避難させるために動くのだろう。
魔王様達は怪物の処理に追われているから有能な若者たちが動かされている。
僕はサイラオーグさんを部長が閉じこもっている部屋へ案内し、
彼が扉をたたこうとしたその時だった。
「リアス……」
扉が開き、目を真っ赤にはらした部長が出てきた。
「祐斗。みんなを客間に集めて」
「は、はい」
僕は驚きを隠せないまま、皆を客間に集めるべく走りまわった。
数分後、客間に集められた全員の前に部長は立った。
「みんな聞いて…………あの人は……イッセーはもう……いない」
僕は部長の言葉を聞いて驚いた。
ま、まさか部長の口からそんな言葉を聞くとは思っていなかった。
「でも、あの人は前に言ったの! 俺がいなくなっても立ち止まるなって!
立ちあがって、前に進めって! 私達の最後の希望は目の前には居ない!
でも、私達の心にはまだ最後の希望が残っている! 動くわよみんな!」
部長は涙を流しながら必死に皆に訴えかける。
もっとも彼の傍にいたのは恋人の部長だ……彼はもう今の状況を見越して、
彼女の心に最後の希望を残したのだろうか。
さっきまで悲しみに浸っていたみんなの目に少しだけ、光が宿った気がした。
「やはり、奴はすごいな」
サイラオーグ・バアルは腕を組みながらそう言う。
「やつがたとえ、いなくなっても動けるように、
奴らに魔法をかけた……奴は本物の最後の希望だ」
そうだ……僕たちは動かなきゃいけないんだ!
この冥界を救うために!
「グレイフィア様から預かりものだ。俺も行ってくるとしよう」
サイラオーグ・バアルから受け取ったメモ用紙を見るとそこには悪魔の文字で、
アジュカ様のもとへ行けという文章と簡単な地図が描かれていた。
まだ、彼の死には多くの謎が残っている……アジュカ様なら。
僕は部長にそれを見せ、僕たちはすぐさまその場所へと向かった。