「…………」
目が覚めるとまず最初に視界に入ってきたのは豪勢な作りの天井だった。
……リアスの実家か。
まだ少し痛む体をどうにかして起き上がらせ、
手に力を込めてみるが籠手は現れず、魔法陣も出てこない。
……あれは夢じゃなかったんだ……俺は本当に全ての魔力を奪われて……。
呆然としながらも皆が集まっているであろう客間に行くと予想通り、
オカルト研究部の皆、アザゼル、イリナがいた。
「イッセー!」
リアスが目に涙をためて俺に抱きついてきた。
途端に全身を言い表せない何かが一瞬で駆け巡った。
この感覚は…………なんだ。何を恐れているんだ俺は……何が怖いんだ。
この卷族の中の俺の立ち位置を考えることで、
その言い表すことのできない何かは言い表すことができた。
―――――――――不安。
俺は今まで未知の魔法を使う魔法使いという立ち位置でこの卷族の中に立ってきた。
だが、今の俺は魔力を全て失い、
今まで当たり前のように使っていた魔法はもう使うことはできない。
俺の居場所は……あるのか?
「イッセー?」
「……少し……出かけてくる」
「イッセー!?」
リアスの叫びを無視して俺は外へと出かけた。
「不安を感じているんじゃないのか」
イッセー君が出かけてから少し経った後、
アザゼル先生がそうぽつりとつぶやいた。
「何を不安に思うことが」
「検査して分かった……今、あいつに生命活動に必要な量以外に魔力はない」
部長の言葉を遮ってアザゼル先生が言ったことに、
この客間にいる全員が驚きを露わにしていた。
イッセー君の魔力が……無い?
「二人が討伐に行った奴の名はファントム。大戦時、敵味方問わずに大勢の奴らを、
皆殺しにしてきた悪魔の歴史上で最も残虐非道な男と言われた男だ。
サーゼクスから拝借した旧魔王の文献によればファントムは旧魔王四人がかりで、
なんとかして封印出来たほどの相手だ。さらに厄介なのはこいつの能力。
何らかの方法で相手の中へと入り込み、全ての魔力を根こそぎ奪い去る。
その能力の為にファントムは異種族の能力でさえ、手に入れていたそうだ。
どこまでこれが真実か疑っていたが……まさか、すべて真実だったとはな」
……もしも、アザゼル先生の言っていることが真実だったらファントムはイッセー君の魔力を奪った今、
彼が今まで使ってきた魔法をも扱うことが出来るということになる。
「リアス。貴方はイッセー君に行って」
「……朱乃」
「悔しいけど、今の彼を救えるのは私たちじゃなくてあなただから」
女の子たちの表情はみな、朱乃さんの言っていることに賛同しているような表情だった。
部長は一度頷き、イッセー君を追いかけに行った。
「さ、私たちはファントムを討伐に行きましょう」
「俺も行かせてもらおう」
後ろから声が聞こえ、
振り返るとそこには客室のベッドで寝ていたはずのサイラオーグ様が立っていた。
「サイラオーグ。もう動いて大丈夫なのか」
「ええ。奴が……兵藤一誠が魔力をなくしたのは俺の責任がすべてだ。
だから……ファントムは俺が倒す」
僕は朱乃さんの方を向くと彼女はコクンと縦に頷き、
サイラオーグ様も小さく頷いて、僕たちはファントムの捜索の為に二つに班に分かれて発見次第、
目印を上げて転移してくることを約束し、別れて捜索に向かった。
『『ワン!』』
「……君たちも行こう」
二匹もそれぞれの班に加えて、僕たちは捜索に向かった。
『クゥ』
一人でどこへ行くという目的も持たずに歩いていると足もとに何かがぶつかったのを感じ、
下を向くと人間界でいうリスに似ている動物が二匹いた。
どうやら、夫婦らしくお腹が膨れているメスを護ろうとしているのか、
オスが俺の靴にかぶりついていた。
……今までは事前に分かっていたのにな……悪いな。
心の中で謝罪し、すぐさまそこから足を退かすと二匹は安心したのか、
一瞬だけ鳴き声を上げて向こうの方へと消えていった。
さっきから歩いてみた分かったが……突然、魔力を失うと漠然とした恐怖に苛まれる。
今まで傍にあり続けたものが突然無くなる……怖いな。
「イッセー」
「っ! リ、リアスか」
突然、後ろから声をかけられ、
肩をビクつかせながら振り返るとそこにいたのはリアスだった。
今までは魔力という情報が前もって蓄積されていたから……今はその情報が無いから、
誰かに後ろに立たれたらそれだけで俺は……殺されるかもしれない。
「ご、ごめんなさい。驚かす気はなかったの」
「あぁ、良いんだ……どうしたんだ?」
「…………イッセー。デートに行きましょ」
「……は?」
「良いから!」
俺の返答は無視し、リアスは俺の手を握ってそのまま小走りに駆け出し始めた。
俺はそれに従うと人どおりが多いところに出ると急に、
リアスは指をからませてきて腕を組んできた。
……そう言えばまだ、こいつとデートも何もしていなかったな。
それから俺はまだ知らなかったグレモリー領下での民の暮らしを目の前で見ていった。
俺達が出た場所は人間でいえば市場に当たるような場所で活気の良い声が至る所から聞こえてくる。
今まで見たことのなかったものを見れて俺は新鮮さを感じていた。
今まで上流階級の暮らしぶりばかりを見てきたから言葉は悪いが下流階級の暮らしに、
新鮮さを感じながらもどこか、懐かしさを感じていた。
俺はこの感じを経験したことがある……まだ、母さんも父さんも生きているときに、
三人で暮らしていた時に抱いていた感情だ。
俺は……忘れたらいけない物を忘れていたんだ。
「ようやく見つけたぞ。ファントム!」
ファントムの捜索を行ってから十分ほど、悲鳴が聞こえ、
そっちの方へ行くとちょうど朱乃さんグループと合流し、その場所へ行くとそこにはいまにも、
ファントムに斬られようとしている男性がいた。
僕は高速で移動して聖魔剣で防ぐと一気に凄まじい重圧が僕の全身にのしかかった!
す、凄い重圧だ!
「さ、こっちです!」
アーシアさんが斬られようとしていた人を安全な場所まで、
連れていったのを確認して僕はいったん距離を取った。
周りの非難をイリナさん、ギャスパー君、
アーシアさんに任せて残りのメンバーでファントムと対峙した。
「ほぅ。なかなか良質な魔力だ……ちょうどいい。奴の魔法を試すチャンスだな」
僕達が構えたとたんにサイラオーグ様が僕たちの前に一歩、出た。
「ファントム。悪いが……最初から全力で行かせてもらうぞ」
直後、サイラオーグ様の全身からすさまじい闘気が、
あふれ出してきて周囲の地面に放射線状に亀裂が走っていく!
す、凄い! イッセー君と戦った時よりもさらに闘気が増している!
「レグルス! バランスブレイク!」
『バランスブレイク!』
サイラオーグさんの隣にいた金色の獅子が黄金の粒子へと変換され、
一度、高く空に昇ったかと思えばすぐさま方向を転換して、
サイラオーグ様に降り注ぎ、黄金の獅子の鎧となった。
「行くぞ!」
目の前からサイラオーグ様の姿が消え去り、目の前にいたファントムが突然、
後ろへ大きく後退した。
み、見えなかった……あの速度にファントムは対応したのか。
「試すか」
ファントムがサイラオーグ様に腕を突き出した瞬間、緑色の魔法陣が出現し、
ドラゴンの形をした雷撃が放出される。
「させませんわ!」
しかし、サイラオーグ様の盾になるように朱乃さんの雷光が空から何回も降り注ぎ、
完全に相手の雷撃を封殺した。
……そうか! 彼が使っていたサンダーが強力なのは彼の中にドラゴンが宿っているからだ!
英雄派との戦いが終結した後にイッセー君から全てを教えて貰った。
彼の中にはドラゴンが宿っていてその宿っているドラゴンは赤龍帝と、
呼ばれているウェルシュ・ドラゴンであること。
彼はウィザードであると同時に赤龍帝であることを。
ファントムが使ったサンダーは悪魔で再現にしかすぎないんだ!
「ならばこれだ」
ファントムが腕を突き出し、青色の魔法陣を展開した瞬間、
僕は氷の聖魔剣を作り出して青色の魔法陣へやり投げの要領で突き刺すと、
魔法陣が凍りついて砕け散った。
やっぱり! ファントムが使っているのは劣化版! 僕たちでも壊せる!
「はぁぁぁぁぁ!」
サイラオーグ様の全てを砕く衝撃波が突きだされた腕から放たれ、
ファントムを今にも飲み込もうとするが相手が展開した魔法陣に全て防がれ、
消滅してしまった。
今のはディフェンド…………でも、何故衝撃波が全て消滅したんだ。
「……なるほど。まだ、奴は生きているのか」
っっ! まさか、ファントムはイッセー君の正確な魔力検知までもをも、
自分のものにしたというのか!
テレポートで飛ばれる前に止めを差さないと!
「うわっ!」
「きゃぁ!」
突然、僕たちの身体が鉛のように重くなり、
サイラオーグ様以外は全く動けなくなってしまった。
くぅぅぅ! こ、これはグラビティ!
ファントムに集中しすぎて魔法の発動タイミングを見逃した!
「木場祐斗!」
「よそ見とは余裕だな」
「ぐっ!」
ファントムが×を描くように槍を大きく振るうと、
衝撃波のようなものがサイラオーグ様めがけて放たれた。
一発目は避けたものの二発目を足に喰らってしまい、動けなくなっていた。
あれは……そうか。ファントムがイッセー君から魔力を奪った方法は次元に、
裂け目を作ってそれを通ってイッセー君の魔力を!
エンゲージに似た能力だ!
「それでは当分は動けんだろ。その間に俺は、
兵藤一誠の魔力を一滴残さずに吸収してくるとしよう」
そう言い、ファントムは魔法陣の中へと消え去った。
とりあえず今日は三話更新です。
大学の春休みと夏休みは長くて良い……冬休みも二週間じゃなくて三週間に、
していただけるとなおいいんですが……あぁ、簿記の検定試験、
そして大学の定期試験の結果が怖いぜ