デートを終えた俺達は市場のすぐ近くにあるという海辺に来ていた。
「……リアス。俺に卷属にいる意味が……俺に存在意義があるのか」
そう言うとリアスは先ほどの笑顔を消して少し、怒りを感じさせる表情を浮かべた。
するとリアスは何も言わずに俺の手を掴んでジャブジャブと靴を履いたまま、
海の中に入っていく。
「お、おいリアス」
「……冷たいでしょ?」
「あ、あぁ」
「海には存在意義がある。空にも存在意義がある……この世界に存在意義が、
無いものなんてないの……それはイッセーも同じ。貴方が……貴方が、
私の傍にいてくれるだけで……いいえ。朱乃の、小猫の、祐斗の、
皆の傍にいるだけであなたには計り知れない存在意義があるの……魔法が使えなくなっても、
サイラオーグのように体を鍛えればいい。周りがなんと言おうとも……私は、
貴方を今までと同じように愛し続けるから」
途中から大粒の涙を流しながら話すリアスを、俺は抱きしめたい衝動に駆られ、
何も言わずにそのまま彼女を抱きしめると彼女も俺の背に腕を回して抱きしめてきた。
……そうだ。何を不安になってんだ……俺に魔法がなくても皆が消えることはない。
皆の最後の希望が俺であると同時に……俺の最後の希望も皆なんだ。
「はっはっは。素晴らしい」
パチパチと気持ちがこもっていない拍手とともにそんな声が聞こえ、
そっちの方向を見るとそこには醜悪な笑みを浮かべているファントムがいた。
「ファントム! どうしてここに!」
「貴様のお仲間は少しの間、ここには来れんようにしたのさ」
リアスが手の滅びの魔力を纏わせ、俺を護るように前に立とうと時、
俺は彼女の肩を掴んで無理やり気味に後ろへと追いやった。
「イ、イッセー?」
「……見ていろ、リアス……………………おおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
俺は鎧もなにも使えない状態で叫びをあげながら走り出して奴に拳を叩きつけるが、
相手にダメージを与えるのはおろか、逆に俺の拳が裂けて血が飛び散り、
ダメージを受けた。
「丸腰で何ができる!」
「ぐほっ!」
頭を鷲掴みにされ、そのまま腹に何度も膝蹴りを加えられ、
口から大量の血を吐くも俺は倒れずに奴に蹴りを加えるが少し、相手がよろいだだけだった。
「無駄だと言っているんだ!」
「がっ!」
槍で斜めに切り上げられ、胸から血しぶきをあげながら海に落とされた。
「であぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
海水で傷が染みるのも無視してファントムがこちらに走ってきたのと同時に、
蹴りを加えると相手は尻もちをつくがすぐさま立ち上がり、
俺を蹴り飛ばして槍を振り下ろしてくるが腕を十字にクロスさせて槍を防ぐ。
「俺は……俺はこんなところで死ぬわけにはいかないんだ!」
槍を掴んでそれを捻り、なにも防ぐものがない場所に蹴りを加えようとするが、
それは容易に避けられ、逆に槍での押し出しを喰らって体勢を崩した時に、
相手のパンチを腹部に貰い、そのまま砂浜にまで殴り飛ばされてそのまま踏みつけられた。
「がぁぁぁぁ!」
奴が足で踏みつけるとボキボキ! という嫌な音が聞こえてくる。
「イッセー!」
リアスの声が聞こえると同時に滅びの魔力がファントムを飲み込む……しかし、
魔法陣が盾となってファントム自体は無傷だった。
「なるほど。滅びの魔力を受け継いだものか。確かにそれは俺を一方的に、
殺すことができる可能性を唯一持ったものだ……だが今の俺にそんなものは効かん!」
直後、奴の目の前に赤色の魔法陣が二枚展開され、
リアスの周囲を囲むように八つほどの魔法陣が出現した。
……まさか、あいつ。俺から奪った魔力を使って、
俺の
つまり今発動した魔法はコネクトとフレイム!
俺の予想通り、一枚目の赤色の魔法陣から膨大な炎が噴き出し、
二枚目の魔法陣の中へと消え去った。
よく見ろ! フレイムをコネクトで相手に繋げた時はその魔法陣から火の粉が少し出る!
「上だリアス! すぐにそこから離れろ!」
リアスの頭上にある魔法陣から火の粉がわずかに見え、
俺が叫ぶとリアスは頷いて後ろへ下がった。
これでフレイムを喰らう心配は…………っっっ!
「そん……な」
リアスの脇腹を何かが貫いていた。
な、なんだあれは……まさか!
俺は首を動かしてファントムを見てみると俺の視界の外でコネクトと思わしき、
魔法陣に槍の先端が埋まっていた。
「うぅぅ! がぁ!」
どうにかして奴の足を退けて立ち上がろうとするが、それと同時に奴からの槍の一撃を、
胸に喰らって血飛沫をあげながら軽く吹き飛ばされた。
俺の傷を無視してリアスの方を見ると既に彼女は地面に倒れていた。
「リアス―――――――――――!」
俺の魔法が彼女を傷つけた―――――そんな考えが頭の中を支配していき、
気づいた時には眼から涙があふれていた。
俺が……俺のせいで。
「終わりだ。諦めろ」
その言葉を聞いた瞬間、俺はサイラオーグとの戦いで言った一言が頭の中で、
一瞬で回りに回り始めた。
前に言ったじゃねえか……魔法使いは諦めが悪い……フェニックスにもそう言ったじゃないか。
俺は手に力を入れ、ファントムの顔を睨みつけた。
「俺は……諦めない。俺の命がある限り……俺は全てを諦めない! リアスの命も! すべてだ!」
「はっ! 言ってろ。ぬあぁぁぁぁぁぁ!」
ファントムが俺に向けて槍を振り下ろそうとした瞬間!
「ぬうぅ!? ぬあぁぁぁ!」
突然、俺を中心として風が巻き起こり、
周囲の地面を吹き飛ばしながらもファントムを大きく吹き飛ばした。
その直後、普段まで当たり前のように感じていたいくつもの魔力を感じ、
その魔力の方向を見ると目の前にファントム、そして血を流して倒れているリアスがいた。
この感じ…………いつも感じていた魔力だ。
「イッセーさん!」
アーシアの声が聞こえ、視線を上げるとサイラオーグに肩を貸している木場と、
朱乃達の姿が向こうに見えた。
……さっき、感じた魔力はあいつらだったのか……ん?
それと同時に手の中に何かがある感じを抱き、俺の涙で濡れている拳を開いてみると、
その中には赤龍帝の鎧の顔の部分を銀色に塗り替えた顔のオブジェが付けられた指輪があった。
その指輪を人差し指にはめた瞬間、周りが突然真っ暗になった。
「……ドラゴン。どうして」
俺の視界の外から目の前を通り過ぎ去るように銀色に輝くドラゴンが空高くに飛びあがった。
今までこんな姿をしているドラゴンを見たことがない……いったい、何が。
『僅かに残った魔力と心の強さで俺を蘇らせたか。相変わらず面白い男だ』
「この指輪は」
『貴様という器にさえ入りきることのない正真正銘の最後の希望だ。
まさか貴様の器に入りきらないほどの力を生むとは思わなかったがな』
「……ドラゴン。改めて俺の最後の希望になれ」
『無論だ。案外、貴様の中は気に入っていてな。改めて貴様の希望になってやろう!』
ドラゴンがそう言い、銀色の輝きを放ちながら俺の中へと入り込んだ瞬間、
景色が元に戻り、さらに俺の中から先ほどの銀色のドラゴンが現実の空を高く、
高く飛びあがった。
俺は人差し指にはめた指輪をすでに出現している赤色の籠手に、
埋め込まれている宝玉に翳した。
『インフィニティー! プリーズ!』
その音声の直後、ドラゴンが空高い場所から一気に俺めがけて急降下してきた。
『ヒー・スイ・フー・ドー! ボー・ザバ・ビュー・ドゴーン!』
銀色の魔法陣が俺の足もとに出現し、足から俺を飲み込んでいき、
頭まで通過した瞬間に辺りにダイヤモンドの輝きを放ちながら魔法陣が砕け散ると、
銀色の鎧を身に纏った俺があった。
……これが最後の希望……みんなの心を攻撃する者から全てを受け止める……永遠に。
「イッセーさんが……イッセーさんが魔法使いに戻りました! 戻ったんですよ!」
向こうの方からみんなの喜びの声が聞こえてくる。
心配掛けて悪かったな……リアス。あと少しだけ我慢してくれ……すぐに片付ける。
「俺が最後の希望だ」