転生した時の特典がおあつらえ向きだったんだけど   作:けし

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※キャラ崩壊注意


魔王と暗殺者〜討伐開始〜

討伐作戦決行の日。陽が傾き、真っ赤に燃える西日が目に刺さる。キリトは思わず顔をしかめたが、反対向きに歩き出した事で西日に背を向けた。

 

笑う棺桶(ラフィン・コフィン)』がいるという情報がもたらされてから僅か1週間と少しで、彼らの討伐に動き出した。いかに彼らが恐れられているか、転じて有名であるかが分かる。

 

奇襲などを得意とするオレンジプレイヤーを相手取ることはわかりきっていたので、今回集まったプレイヤーは前線プレイヤーを始めとする強者揃いだ。血気盛んな雰囲気と、張られた弦のような緊張感を纏って、『笑う棺桶』の元へ向かう。

 

彼ら『笑う棺桶』がいるのは中層のとある洞窟。暗く、見渡しも悪い為に奇襲には絶好とも言える場所だ。情報によればこの奥は光る特殊な鉱石により、仄かに青い広めの空間があるらしい。本格的に戦闘になるならそこしかない。安全かつ最短で潰すにはそれが最適解である事を皆で共有し、作戦(?)も立ててある。

 

途中で1、2度ほど攻撃を受けたものの、それをどうにか無傷で撃退しついに広場へと到達した。

 

「お前らラフコフは、ここで潰してやる」

「威勢がいいな、『黒の剣士』。さあ、どこまでやれるか見せてもらおう」

 

その言葉と共に、キリト達もラフコフのメンバーも一斉に己が武器を構える。呼吸の音さえも聞こえない静寂が横たわる。誰一人微動だにしなかった。

 

「lt’s show time」

 

嘲笑うかのようなその一言で、彼らの戦いは幕を切った。

 

だが、その戦いの中にはラフコフのリーダー、PoHの姿は無かった。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

日は沈んだ。あたりに闇の帳が下りた。

 

周りには視界を遮る一切がない。カエデの索敵スキルには、何も引っかからなかった。たった1つ、目の前の敵を除いては。

 

第一層『はじまりの街』。その圏外の草原にカエデは立っていた。

 

白を基調とした服装のカエデ。その姿はまさに【白の魔王】にふさわしい。右手に携えるのは片手短剣《ロストヴェイン》龍の意匠を施されたそれは、月光を反射して白銀の刀身を煌めかせる。

 

対する男は、目深いフードをしている。それは膝下まで覆う漆黒。それは所謂ポンチョの形をしていたが、あるいは絶望を形取っていたかも知れない。その手には《友切包丁(メイト・チョッパー)》──本人曰く魔剣──が、同じく月の光を受けて輝いていた。ただ、わずかな禍々しさを堪えて。

 

カエデの真白な髪が揺れる。その目には、わずかな恐怖が流れる。対するPoHは、喜びがその顔に張り付いていた。全てが真反対の2人。キリトとはまた別の意味で()く染まったPoHが《友切包丁》を揺らす。カエデは《ロストヴェイン》を眼前に、水平に構えた。

 

カエデが目を閉じる。PoHが口角を上げる。

 

一際、大きな風が吹いた。

 

 

 

 

 

 

 

ふと、上を見上げた。

 

「サチ、どうした?」

「…ううん、何でもないよ」

 

所変わって、ここはカエデのホーム。外見石作り、中は吹き抜けで天井がログハウスのような作りになっている。途中に横たわる梁にはシーリングファンが回っていた。

 

サチはリビングのソファーに座っていた。周りには、暇だと言うと来てくれた黒猫団のメンバーたち。おかげで、弄んでいた時間を楽しく過ごしていた。

 

以前なら怯えていただろう。常に付きまとう命の危険に、心をすり減らしていただろう。でも今は、カエデが、みんながいる。ただそれだけで、絶望に満ちていた(モノクロな)世界に色が戻った。

 

ケイタがたまたまNPCのショップで手に入れたトランプで大富豪をしていた。すでにサチは一抜け。大富豪だ。革命に革命返しをしたり、Q(クィーン)ボンバーで不利なカードを消しとばしたりと、圧倒的運の良さで勝ってしまった。その事に対して少しばかり優越感に浸りながら、淹れたてのコーヒーを飲もうとした時。

 

ピシ──ッ

 

取っ手にヒビが入って割れた。まだ耐久力が残っていたのか、コーヒーが並々入ったカップは消えなかった。

 

(また…)

 

イヤな予感。ふと上を向いた時とは違う。目の前で不吉な現象が起きた。突きつけられた。サチはカエデが何をしに行っているのかを、大まかにしか知らない。

 

「カエデ…」

 

ボソリと溢れたその呟きは、誰の耳にも届かず。水面(みなも)の波面のように広がっては、消えて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

初撃はカエデの振り上げとPoHの振り下ろしだった。

 

刃が交錯する。ギィンと甲高い音を立てて互いに噛みつき合う。膂力ではPoHが上回っている。少しずつ、カエデが押されていた。

 

不利を悟ったカエデは力を抜いて刃を引く。支えを失ってPoHの重心が傾く。一旦離れて、間を置かずに前へ走る。そのまま構えると、《ロストヴェイン》をライトエフェクトが覆う。

 

短剣(ダガー)用の中級ソードスキル『ラピットバイト』。自身のスピードと合わせて、さらに突撃スピードを加速する。

 

PoHは傾いた重心に逆らわずにそのまま勢いで前に転がって立ち上がる。立ち上がった身長はPoHの方が高い。カエデのソードスキルならば、そのまま目の高さで突き出せば心臓を狙える。

 

「ハアァァァッ!!」

 

カエデが声を上げる。PoHはその声を意に介さずに、直撃の直前に大きく飛び上がった。だがその一瞬前に、カエデの剣から光が失われた。PoHは一瞬驚きはしたものの、予定通りにカエデへ魔剣を振り下ろす。

 

カエデは無理矢理身体を捻って、また別の光を覆った剣を、PoHの《友切包丁(メイト・チョッパー)》に叩きつけた。

 

一瞬、派手な光と音を撒き散らして、PoHが大きく吹き飛んだ。

 

「…今のが《全反撃》というやつか」

「ああ」

 

ユニークスキル《全反撃》。攻撃を倍以上の威力で跳ね返す、魔法じみたスキル。

 

「くくっ、流石だ…」

「…おい、1つ答えろ」

「なんだ?」

 

唐突に質問を投げかけられたPoH。笑みを張り付かせたままに声を返す。

 

「オマエ、いつから()()()()()()?」

 

鋭い眼光がPoHを貫く。嘘は許さぬと、そう言っている。

 

「いつだったかな…。最初はお前のことなんて知らなかった…。俺は初め、【黒の剣士】を見ていた」

「キリトを?」

「ああそうだ。絶望に追い込まれながらも、絶対に諦めないあの姿。俺にとっては希望みたいなものだった」

 

うっとりと、そう語った。

 

「だけどある日、そいつが絶望しているのを見た。すこしがっかりしちまったよ。だが、次の日見たら、また希望に満ち足りた顔をしてやがった。なんでだ!?俺はやつに希望を与え、絶望を消したモノを知りたかった。そうしたら、お前がいた」

「俺が…?」

「ああ!お前だけは!!目の前に絶望が転がっているにも関わらず!その先に必ず希望があるかのように歩き続けていた!結末を知っているかのように、笑っていやがった!」

 

まあ確かに、原作ってもんがあるからなあ、とカエデはそんなことを考えていた。それに気づく事なく、PoHは語り続ける。

 

「俺はお前を殺したい!だからこその『完全決着モード』だ!ここでお前を殺して、そして俺を殺す!」

 

狂ったように笑った。否、すでに狂っていた。そう、この決闘(デュエル)は『完全決着モード』で行われている。どちらかが死ぬまでのデスゲームだ。

 

「ああそうかよ。なら──」

 

カエデは再び突進する。走りながら、身体を引きしぼる。突きではなく、回転するために。

 

「──勝手に死んでろ」

 

黒いライトエフェクト。まるで意思を持つ蛇のように、《ロストヴェイン》に絡みつく。

 

「《キリング・ソーサー》──」

 

独楽のように回る。黒い光が伸びて、独楽に刃が付属する。触れれば大ダメージは避けられない。

 

(ッチ!この距離を一瞬で詰めるのか)

 

一瞬にして距離が潰される。先程の《全反撃》でHPの3分の1を持っていかれたPoHは、防ぐなどとは考えず、咄嗟に右にステップして避けた。

 

回転が止まる。回転で視認できなかった風景が認識できるようになった。高めのAGIを活かして一気に攻めるつもりだったカエデはスキルの硬直時間が解けるのを待った。ほんの0.5秒ほど。

 

「がっ…!」

 

その間に、カエデの身体に刃が突き立てられた。

 




遅れて申し訳ない。いやホント、なんの言い訳もないです。

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