Fate/Zexal Order   作:鳳凰白蓮

112 / 195
今回はタイトル通り、エミヤとランサー・アルトリア・オルタの話です。
ただ、今回はそれだけでなく複数の話が合わさったのでそれを楽しんで欲しいです。



ナンバーズ110 エミヤシロウとランサー・アルトリア・オルタ

新たにカルデアに召喚されたサーヴァント達の歓迎会が始まり、それぞれが食事や酒、雑談で楽しむ中……。

 

「美味え!こんな美味え飯は初めてだぜ!」

 

召喚されて早々家族関係で精神的に疲労しきったモードレッドは初めて食べる料理で元気を取り戻した。

 

「美味いぜ、母上!」

 

「そうか。それは良かったよ」

 

モードレッドに母上と呼ばれて複雑な気分のエミヤは苦笑を浮かべながら次の料理を運んだ。

 

「本当によく食べるわね。はい、炒飯」

 

「流石、アルトリアさんの娘さんです。どうぞ、ハンバーグです」

 

イシュタルは中華、パールヴァティーは洋食の料理を作るのが得意なのでモードレッドへの歓迎を兼ねて炒飯とハンバーグを作った。

 

「やったー!サンキュー、母ちゃん!母様!」

 

「いやだからなんで私は母ちゃんなのよ!?」

 

「良いじゃないですか、姉さん。馴染みがあって」

 

「良くないわよ!?」

 

モードレッドはエミヤを母上と呼んでいるので、同じく義母となるイシュタルとパールヴァティーへの呼び名を変えた。

 

直感と二人のイメージから呼び名を決め、イシュタルを『母ちゃん』、パールヴァティーを『母様』と呼ぶことにした。

 

イシュタル……遠坂凛はこれでも元々は貴族出身で、そんな自分が何故母ちゃんと呼ばれなければならないのか理解出来ず、モードレッドに変更を求めたがそれは聞き入れられなかった。

 

エミヤはうっかりだが肝っ玉がかなり据わってて、母ちゃんみたいなイメージを感じたからでは?と思ったが、下手に口にするとイシュタルの怒りの拳か蹴りが飛んでくるので黙っていた。

 

一方、パールヴァティーは母様と呼ばれて嬉しいのかニコニコしながらモードレッドを可愛がっている。

 

ただし、モードレッドはパールヴァティーだけは絶対に怒らせてはいけないと直感で感じており、それだけは心に決めて行動している。

 

すると……。

 

「コラー!アチャ男さーん!!」

 

「ん?」

 

エミヤがキッチンに戻ろうとするとそこにズカズカと大きな足音を立てたやって来たのは……。

 

「君は……確か、玉藻の前、だったな」

 

それは数時間前にカルデアに召喚された絶世の狐巫女こと、日本で一番有名な九尾の妖狐……玉藻の前だった。

 

「何をそんな他人行儀な!この玉藻をお忘れですか、アチャ男さん!」

 

「……すまないが、私は君に会ったことがないのだが……」

 

「みこーん!?そ、そんな!あの月での戦いの日々を、私を忘れるなんて……なんて薄情な人なんですか!?」

 

玉藻はどこかの聖杯戦争でエミヤと面識があるようだったが、エミヤには覚えがない。

 

すると、二つの殺気がエミヤの背後から忍び寄る。

 

「──ハッ!?痛タタタタッ!?」

 

「ねぇ、士郎……その狐女とはどういう関係かしら……?」

 

「先輩……まさか、狐耳が好きなんですか?言ってくれれば、コスプレでもつけてあげたのに……」

 

イシュタルとパールヴァティーがエミヤの耳をそれぞれ強く引っ張り、殺気を放って目のハイライトを消して問い詰める。

 

「待て待て待て!私は彼女に会ったことは無い!朧げに変な記憶が思い出されるが、本当に覚えがない──ぎゃああああ!?耳が、耳が取れるぅっ!!?」

 

このままではエミヤの耳が引き千切られそうになるが、近くにいたモードレッドは二人の義母の恐ろしい姿に恐怖し、ガタガタと震えていた。

 

すると、玉藻はイシュタルとパールヴァティーを見て嫌な顔をして数歩下がった。

 

「げぇっ!?あ、貴女達は!?何故アチャ男さんと!??」

 

「……二人共、彼女と面識は?」

 

「はぁ?玉藻の前なんて日本有数のビッグネームのサーヴァントなんて会ったことないわ。会ってたら絶対に覚えているわよ」

 

「私もありませんね。こんな綺麗な人がいたら忘れるわけありませんし……」

 

「お、おや……?ああ、なるほど。似てるけど、非なる存在でしたか……すみません、あなた方と非常に似ている方と勘違いしましたわ」

 

玉藻は改めて二人を見つめると何かを見通すと、玉藻が知っている二人とは全くの別人だとすぐに気がついて謝罪した。

 

「まあ、アルトリアとネロの件もあるし、似ている奴がいても不思議じゃないわよね」

 

「世の中には同じ顔をした人が三人いるって言いますからね」

 

「それはさておき、アチャ男さん!皆様からお聞きしましたが、あなた……ハーレムを築いているようですね!?しかも現在4人も!!」

 

「別に私が望んだわけではないが……」

 

「問答無用です!良妻を目指してる私の前では、ハーレムなんてものは認めません!神が許しても、この私が許しません!!」

 

「……言い方悪いが、ハーレム云々以前に君にとやかく言われる筋合いは無いが……」

 

「お黙りなさい、アチャ男さん!さあ、あなたの罪を数えなさい!」

 

玉藻は魔力を爆発させると後ろへバックステップで下がって大きくジャンプした。

 

「必殺!!一夫多妻去勢拳!!!」

 

そして、右足に力を込めて派手な飛び蹴りをする。

 

「ただのライダーキックでは無いか!?」

 

「拳要素何処よ!?」

 

「去勢って何ですか!?そんな事をしたら先輩との夜のお楽しみが無くなるじゃありませんか!」

 

三者三様のツッコミが炸裂し、玉藻の拳という名の飛び蹴りを防ぐために宝具を展開しようとした……その時だった!

 

「ニャハハ!ワォン!!」

 

玉藻の前に突然一つの影が現れ、飛び蹴りを真正面から弾き返して一夫多妻去勢拳の発動を無効にした。

 

「な、何者!?げぇっ!?や、やっべぇー!!」

 

玉藻はその影の正体を目にした瞬間、顔を真っ青にして後ずさりした。

 

それは意外な人物であり、その人物の助太刀にエミヤはその名前を呟いた。

 

「タマモキャット……」

 

エミヤと同じくカルデア食堂で料理の腕を振るう頼れる同僚……タマモキャットだった。

 

「ワンワン!オリジナルよ、我が同僚に手を出すとは許せん!万死に値する、皆殺しだワン!」

 

「オリジナル……?タマモキャット、君は玉藻の前から分かれた分身、という事か?」

 

「そのようなものだ!さあ、オリジナルよ。まずはサインを頂こう。その後に血祭りにする!」

 

可愛い犬耳メイド姿に反して物騒なことを言うタマモキャット。

 

「みこーん!?何でさ!?」

 

対して、衝撃のあまりに思わずエミヤと同じ口癖を言ってしまう玉藻。

 

「そこ、私の口癖を真似するな」

 

「さあ、本当の酒池肉林をお見せしよう!」

 

タマモキャットの目がギラリと怪しく輝き、まるで獲物を狙う野獣のような眼光で玉藻を睨みつける。

 

「くっ、これではこちらに分が悪い……アチャ男さん!今日のところはここで失礼しますわ!ですが、ハーレムなんて絶対に認めませんからねぇえええええーっ!!」

 

玉藻はこのままでは確実に負けると察知し、撤退を決めてその場から全力で退避する。

 

「待つのだー!サインを寄越してから大人しく我が酒池肉林を喰らうのだー!」

 

「どうしてサインなんですか!?それに待てと言われて待つ奴なんていませんよー!」

 

タマモキャットは牙を尖らせながら玉藻の後を追いかけ、二人は食堂から消えていった。

 

嵐のように過ぎ去っていった玉藻とタマモキャットの寸劇にエミヤたちは呆然とするのだった。

 

「何あれ……?」

 

「さぁ……?」

 

「あの類は気にしたら負けという事だ。放っておこう」

 

一方、少し離れたところでモードレッドは退避し、引き続き料理を食べていた。

 

「何か色々大変だな、母上たち……」

 

今のところ自分への被害が特に無いのでのんびりと料理を食べていると……。

 

「あらあら!本当にセイバー……アルトリアにソックリね!」

 

「ん?」

 

振り向くとそこには純白のドレスに身を包んだ美女と暗い色のフードに身を包んだいかにも怪しい男というあまりにもアンバランスな二人がおり、モードレッドは宝具を出さないが警戒する。

 

美女は目を輝かせながらモードレッドにグイグイ近寄る。

 

「……誰だよ、あんた達は」

 

「私はアイリスフィール・フォン・アインツベルン。シロウのお母さんよ!」

 

「へ……?は、母上の……!?」

 

「ええ。こっちはエミヤキリツグ。シロウのお父さんよ」

 

「えっ!?マ、マジで!?ってか、母上の両親もサーヴァントだったのか!??」

 

エミヤの両親もサーヴァントでしかもカルデアに二人一緒にいることに驚きを隠せなかった。

 

「そうよ。私たちはちょっと複雑な関係だけど、それでもちゃんと家族の絆で結ばれているのよ」

 

「そ、そうですか……」

 

「ところで、あなた……ホムンクルスなのよね。実は私もなのよ」

 

「えっ!?あ、あなたも!?」

 

「ついでに言うと、聖杯の器でもあって、キリツグとの間に出来た娘もいるのよ♪」

 

「はぁ!??あ、あなたが聖杯の器!??それに娘ってことは……俺に叔母上がいるのか!??」

 

色々とモードレッドが驚く新情報の数々に頭の処理が追いつかずに混乱し始める。

 

「うふふ。流石にちょっと情報が多すぎるわね。少しずつ話してあげるから付いてきてね」

 

「お、おう!」

 

「それから……モードレッド、私の事は『おばあちゃん』って呼んでくれるかしら?」

 

「……ええっ!?お、おばあちゃん!?」

 

「私ね、旦那様と娘と息子が出来たけど、まだ孫はいないのよ。でも!セイバーの子供なら、私にとっては孫同然よね!だから、私の事はおばあちゃんって呼んで欲しいの!!」

 

アイリの家族が欲しいと言う願いから徐々に大家族化計画が進んでいる。

 

そんな中で自分が特に気に入っているアルトリアの子供……モードレッドが家族に入るなら是非ともおばあちゃんと呼ばれたいのだ。

 

「えっ、でも、その……本当に、良いのかよ……ほら、オレさ……」

 

「何を悩んでいるの?そんな事、気にしなくて良いのよ」

 

「あっ……」

 

アイリはモードレッドを抱き寄せてよしよしと頭を撫でる。

 

久しく他人の温もりに触れてなかったのと、これほどまでに誰かに優しくされたのはほぼ初めてなのでモードレッドも嬉しさと恥ずかしさが溢れ出てきた。

 

「ほら、キリツグも──」

 

「僕は認めない」

 

「キリツグ?」

 

キリツグはフードで隠している顔でもわかるほど複雑な表情を浮かべ、その場から逃げるように立ち去った。

 

「全くキリツグは……ごめんなさいね、モードレッド。うちのキリツグはちょっと人見知りが激しいから……イリヤやシロウにはとっても優しいんだけど……」

 

「仕方ねえよ……血が繋がってない奴をそう簡単に孫扱いなんて出来ねえよ。えっと……」

 

モードレッドはアイリを呼ぼうとして頭の中で色々呼び方を模索し、恥ずかしそうに頬を赤く染めながら言う。

 

「お、お祖母様……」

 

「まあ……!嬉しいわ、モードレッド。これからよろしくね」

 

「お、おう……」

 

三人の義母に続き祖母も出来てモードレッドの家族が徐々に増えつつあった。

 

生前では全く考えられない出来事の数々にモードレッドは胸の奥にある幸せをしっかりと感じるのだった。

 

 

一方、遊馬達は……。

 

「ふぃー……流石にサーヴァント達も多くなったから色々抑えるのも大変だな」

 

「みんな個性的だからな」

 

「個性の範疇をとっくに超えてるけどな……」

 

サーヴァント達は国や時代が異なる英霊達なので性格や好みは当然バラバラ。

 

宴会でみんな大騒ぎするので遊馬とアストラルはみんなが暴走しないように奔走していた。

 

多少騒ぐのは構わないが、戦闘沙汰はまずいのでカードや令呪を使って抑え込み、やっと落ち着いてきたのでデュエル飯にありつこうとしたのだ。

 

「はぁ……」

 

「ん?どうした、茨木」

 

近くにいた茨木童子は大きなため息をついて酒をちびちび飲んでいた。

 

「うるさいわ、馬」

 

「遊馬だって。そんなため息ついてどうしたんだよ」

 

「あれを見たらな……」

 

「あれ?あぁ、あれね」

 

茨木童子のため息の原因、それは自分が尊敬する酒呑童子は……。

 

「あははは!これは美味い酒やわぁ。日本のもええけど、異国の酒もええなぁ!」

 

「んまぁ、確かに良い味だな」

 

酒呑童子と金時は一緒に日本以外の異国の酒を飲み比べをして楽しんでいた。

 

ここでは二人の邪魔をする存在はいないので生前で楽しめなかった分、仲よさそうにしていた。

 

「良いんじゃねえの?」

 

「お前な……酒呑と小僧の関係を知ってるはずじゃろ!?」

 

「知ってるよ。でも、だからこそゴールデンは酒呑と向き合ってるじゃねえか」

 

「ただゴールデンは少し恥ずかしがり屋なところがあるからそう簡単には行かないだろう」

 

「だよなー」

 

金時と酒呑童子の行く末を見守ることにした遊馬とアストラルは苦笑を浮かべる。

 

すると、小さな二つの足音が近づいてくる。

 

「茨木ちゃん、ケーキだよー」

 

「これはとっても甘いわよ」

 

桜と凛が大皿にケーキをたくさん載せながらやって来た。

 

「あれ?桜ちゃん、凛ちゃん。茨木と仲良くなったのか?」

 

「うん!茨木ちゃん、優しいから!」

 

「甘いもの好きだし、鬼には思えないわ」

 

「や、優しくないぞ!ってか、小娘共!何故吾を怖がらない!?吾は茨木童子、人々に恐れられたる鬼じゃぞ!?」

 

「えー?でも、茨木ちゃんは怖いと言うより可愛いよ?」

 

「そうね。怖いって言われている鬼のイメージが大きく変わったわね」

 

「お、お主ら……あまり吾を舐めているぞ、喰っちまうぞ!!」

 

本当に喰うつもりはないが、怖がらせるために牙を見せて襲う素ぶりを見せたが……。

 

「「開放召喚!」」

 

「へ?」

 

桜と凛が光に包まれると漆黒の騎士とエレシュキガルへと変身する。

 

「こう見えても鍛えてるから、そう簡単にやられないよ!」

 

「神話の女神の力、見せてあげましょう?」

 

二人は少しずつ解放召喚の力を練習して扱えるようになっていた。

 

自分よりも強大な力を放つ二人を目の前にし、茨木童子は首をグギギと遊馬の方に曲げながら尋ねた。

 

「……馬よ、この二人は人間の小娘なのに英霊の力を感じるのは何故だ?」

 

「あー、この二人はちょっと特別でな。聖杯で召喚したサーヴァントの力を宿している……デミ・サーヴァントなんだ」

 

「……最近の人間は一体全体どうなっている!?合体か変身するのが当たり前なのか!?」

 

遊馬とアストラルのZEXAL IIと桜と凛の解放召喚に茨木童子は頭を抱えて叫んだ。

 

人間の未知なる可能性の進化に茨木童子は驚愕と同時に畏怖を感じた。

 

それから、カルデアにはとても人間とは思えない凶悪な顔や姿をしたサーヴァントが何人もおり、本来ならば人々に恐れられるはずの鬼である自分に自信を持てなくなってきている。

 

「世の中は理不尽な事ばかりじゃな……」

 

茨木童子は溢れそうになる涙をグッとこらえ、ケーキを食べて口に広がる甘味で辛さを抑えるのだった。

 

 

遊馬達が宴会で大いに盛り上がる中、一人だけ宴会に参加しなかったサーヴァントがいた。

 

それは……。

 

「ラムレイ……私はこれからどうしたら良い……?」

 

漆黒の聖槍を持つアルトリア……ランサー・アルトリア・オルタ。

 

ランサー・アルトリア・オルタは与えられた自室で愛馬のラムレイを撫でながらそう呟いた。

 

ロンドンで魔霧によって召喚されたが、暴走状態となってロンドンを滅ぼそうとし、モードレッドと死闘を繰り広げた記憶を持っているランサー・アルトリア・オルタは罪悪感で心を埋め尽くされていた。

 

愛する地を滅ぼそうとしてしまった事、そしてよりにもよって叛逆の騎士と呼ばれたモードレッドが全てをかけてそれを阻止した事……。

 

本来ならばロンドンを守るべき自分が暴走するなど、あまりにも不甲斐なく、申し訳なく思っているのだ。

 

自分はどうすればいいか分からずにランサー・アルトリア・オルタはこうして部屋に閉じこもっているのだ。

 

「はぁ……考えても何も思い浮かばない……少し休むか」

 

ランサー・アルトリア・オルタはベッドに横になり、静かに眠りについた。

 

ラムレイも目を閉じて静かに眠り、部屋に二つの寝息が広がった。

 

夢を見ないサーヴァントだが、ランサー・アルトリア・オルタに不思議な出来事が起きた。

 

それは……自分が体験したことのない出来事の光景だった。

 

『問おう。貴方が私のマスターか』

 

月明かりに照らされた一人の少年との出会いから始まった数え切れないほどの記憶の欠片。

 

『判らぬか、下郎。そのような物より、私はシロウが欲しいと言ったのだ』

 

『──やっと気づいた。シロウは、私の鞘だったのですね』

 

『シロウ──貴方を、愛している』

 

そして……その少年……シロウへの溢れんばかりの想い。

 

それはランサー・アルトリア・オルタが抱いたことのない感情……愛情だった。

 

ランサー・アルトリア・オルタは唐突に目を覚まし、起き上がると同時に胸を強く押さえた。

 

心臓の鼓動が激しく打ち鳴らされ、身体中の血液が早く巡り、体が熱くなるのを感じた。

 

「これは……まさか、聖剣の私の、記憶……?」

 

それは聖剣……約束された勝利の剣を持つアルトリアの記憶。

 

聖杯戦争でアルトリアとシロウが共に戦った記憶。

 

聖杯戦争で二人がサーヴァントとマスターとして戦うならまだしも、アルトリアとシロウは明らかに互いを強く思い合っていた。

 

まるで恋人同士のように一緒に過ごし、時には体を重ねていた……。

 

騎士王として国と民を守るために戦っていたアルトリア・ペンドラゴンとしては信じられない事であり、ランサー・アルトリア・オルタは混乱で頭がいっぱいになっていた。

 

「……少し、散歩するか」

 

ランサー・アルトリア・オルタは心を落ち着かせる為に部屋を出てカルデアの廊下を歩く。

 

まだ誰も起きていない早朝なので今のカルデアはとても静かでランサー・アルトリア・オルタの歩く音が廊下に響き渡る。

 

すると、静かなカルデアに幾つも重なる音が聞こえ、ランサー・アルトリア・オルタは気になってその場所へ向かう。

 

「食堂……?こんな朝早くに……?」

 

それは昨日宴会に呼ばれたが結局は行けなかった食堂だった。

 

そこで忙しなく動いて準備をする一人の男がいた。

 

「お前は……」

 

「悪いがまだ食堂は開いていない……む?君は……」

 

それはある意味、今のランサー・アルトリア・オルタの心を埋め尽くす原因の一つであるエミヤだった。

 

アルトリア達はエミヤをシロウと呼んでいたが、そこでランサー・アルトリア・オルタは一つの疑問を抱く。

 

(夢で見たあの少年……そして、目の前にいるこの男は同じなのか?だとしても雰囲気がまるで違う……)

 

年齢を重ねれば声が変わり、肉体は鍛えれば良いのでまだ分かるが、髪や肌の色が全く違うので本当に同じ人物なのか疑いたくなる。

 

すると、エミヤはランサー・アルトリア・オルタに背を向けて静かにキッチンに向かった。

 

「……少し待っててくれ、軽く何かを作ろう」

 

「何……?」

 

「良いから。適当な席に座っててくれ」

 

エミヤはそう言い残すとキッチンへと消え、残されたランサー・アルトリア・オルタは受け答えも出来ずに大人しく席に座った。

 

そして、ソワソワしながら待っていると、エミヤがキッチンから出てランサー・アルトリア・オルタの前に作ったものを出す。

 

「これは……?」

 

「私特製のハンバーガーとオニオンリングとポテトフライセットだ」

 

それはアメリカ発祥のジャンクフードの代名詞と言うべきハンバーガーセットだった。

 

ランサー・アルトリア・オルタはハンバーガーセットから漂う美味しそうな香りに口の中に唾が生成され、ゴクリと飲み込んだ。

 

エミヤは優しい笑みを浮かべて口を開く。

 

「冷めないうちに食べなさい」

 

「で、では……ありがたく、いただく……」

 

ランサー・アルトリア・オルタはハンバーガーを両手で持ってかぶりつくように食べた。

 

口の中に肉や野菜の旨味がケチャップと混ざり合って美味しさが広がり、思わず笑みが溢れてしまった。

 

その後は揚げたてのオニオンリングとポテトフライも一緒に食べ、あまりの美味しさに心を奪われて一心不乱に食べていった。

 

そして、食べ終わる頃には紅茶を片手にニコニコしているエミヤの姿があり、ランサー・アルトリア・オルタは自分の恥ずかしい姿を見られ、今すぐ逃げ出したい気持ちだった。

 

しかし、エミヤにはどうしても聞きたいことがあり、羞恥心を抑えて話し出す。

 

「ハ、ハンバーガー……とても美味であった」

 

「それは良かった。アルトリア……いいや、オルタもジャンクフードが好物だから君もそうかと思って作ったんだ。気に入ってくれたかな?」

 

「も、もちろんだ。こんなに美味い食べ物は初めてだ。毎日作ってもらいたいぐらいだ」

 

「そうか。毎日は流石に難しいが、たまには作るからその時には食べてくれ」

 

「そうする……それよりも、お前に聞きたいことがある」

 

「私に?」

 

「お前は、聖剣の私の元マスターで、その体に……『全て遠き理想郷』が宿っていたのか……!?」

 

ランサー・アルトリア・オルタが聞きたかったことを一度に尋ね、予想外の質問にエミヤは目を見開いて驚きを隠せない様子を見せた。

 

エミヤは紅茶が入ったカップをテーブルに置き、ランサー・アルトリア・オルタと向かい合うように座る。

 

「……そうだな、君もアルトリアだ。それなら、あの『運命の夜』の出来事を聞く権利はあるな。少し長くなるが、構わないか?」

 

「ああ……頼む」

 

エミヤはアルトリアと出会った『運命の夜』の物語をランサー・アルトリア・オルタに語る。

 

それは、ランサー・アルトリア・オルタの想いや価値観が大きく変わるほどの物語だった。

 

話を聞き終えたランサー・アルトリア・オルタはエミヤに礼を言ってから食堂を後にし、部屋に戻る。

 

「シロウ……」

 

ランサー・アルトリア・オルタは椅子に座り、目を閉じて心を静めて瞑想し、自分の考えをまとめて答えを見つけていく。

 

そして、しばらくして考え抜いた答えは……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シロウよ、私をここまで心を突き動かしたのはそなたが初めてだ。まだ会って間もないが、この想いだけは本物だ。シロウよ、そなたを愛している!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エミヤを一人の男として想う事だった。

 

「「「「……はぁっ!??」」」

 

食堂でエミヤに向けて堂々と愛の告白を告げるランサー・アルトリア・オルタにアルトリア達は驚愕の声を揃えて発した。

 

ランサー・アルトリア・オルタはかつてのアルトリアとオルタのようにこれまで人を愛したことはなかった。

 

切っ掛けはアルトリアの記憶の欠片だが、エミヤの自分への想いや優しさに触れて心が燃え上がるほどに熱くなった。

 

「シロウ……私はそなたの夫になろう。私がそなたを必ず幸せにする」

 

「ア、アルトリア……?」

 

アルトリアとオルタがエミヤの正夫ならば、自分にもその権利があると思い、夫として名乗り出たのだ。

 

「ちょっとあなた!シロウと会ったばかりの癖に図々しいですよ!」

 

「その通りだ!聖槍の私よ、幾ら何でも無茶苦茶だ!」

 

「あんたね、士郎のことを何も知らない癖にいきなり過ぎるのよ!」

 

「そ、そうですよ!部外者……とは言いませんけど、早過ぎます!」

 

アルトリア、オルタ、イシュタル、パールヴァティーは認められずブーイングの嵐を巻き起こす。

 

しかし、そんなものは知らぬとランサー・アルトリア・オルタはエミヤに抱きついて体を密着させる。

 

「「「「なっ!??」」」」

 

「ア、アルトリア!?」

 

「シロウ……確かに私はそなたの事を全て知っているわけでもないし、思い出も無い……だが、これからそなたを知って思い出を作れば良いだろう?それに……」

 

ランサー・アルトリア・オルタは聖槍の力によって異常に成長した豊満な胸をエミヤの体に押し付けていく。

 

「もしも私を選んでくれたらこの体……余す事なく使っても構わないぞ?」

 

女性の最大の武器の一つを惜しみなく使い、ランサー・アルトリア・オルタはエミヤをとことん誘惑していく。

 

ブチッ!

 

「「「「ふざけるなぁあああああっ!!!」」」」

 

当然、アルトリア達は大激怒して宝具を構える。

 

「私のシロウをそんな見え透いた色仕掛けで魅了しようとするとは、騎士の風上にもおけん!」

 

「おのれ、聖槍の私め……その駄肉を削り取ってくれる!」

 

「何よ、何よ、あのデカイメロンは!?ふざけんじゃ無いわよコンチクショウ!!」

 

「うふふふ……先輩は私のモノですよ……これはお仕置きが必要ですね?」

 

「フッ……黙ってろ、小娘共。そんな貧相な体よりも、この成熟した女の体の方が良いに決まってるだろ?」

 

ランサー・アルトリア・オルタのこの言葉が引き金となり、唐突に第三次正妻戦争が開幕することとなった。

 

「何でさぁあああああーーっ!??」

 

エミヤの悲痛な叫びが宝具同士が激突する爆発音や衝撃音の中に消えていく。

 

 

「なぁ、ユウマ、マシュ」

 

「どうした?モードレッド」

 

「どうしましたか?」

 

「父上が3人、母上が3人……これさ、どうしたらいいか……?」

 

「さぁな……流石に親が複数いるって普通ありえない状況だよな」

 

「そうですね……特にアルトリアさん達は同一の同じ存在ですし……」

 

「だよなぁ……」

 

「取り敢えず、アレを止めに行くか」

 

「そうですね、私の盾とモードレッドさんのアルトリアさん特攻の力で何とかしましょう」

 

「そうだな……なあ、オレの直感だと父上が更に増える気がするんだよなぁ……だって、あの聖槍の父上、オルタだからその反対の存在も……」

 

「……なんか考えただけでゾッとするな」

 

「アルトリアさんが増える度にこの騒ぎが起きる事を考えると憂鬱になります……」

 

遊馬とマシュとモードレッドはアルトリア達を止めるために大きなため息を吐きながら戦場へと突撃する。

 

 

 




と言うわけで無事にランサー・アルトリア・オルタがエミヤの夫になりました(笑)
あのメロンはパールヴァティーこと桜よりも大きいですからね。
使わない手はないです(笑)
唐突に第三次正妻戦争が始まりましたが遊馬達が止めに入りました。

次回は遊馬の休日みたいな話を書きます。
桜ちゃん達ちびっ子と遊んだり、紫式部さんもいるので図書館の話になりますね。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。