Fate/Zexal Order   作:鳳凰白蓮

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もうタイトルからバレバレですね。
あの合法ロリ?のエレナが登場です!
エレナからしたら遊馬とアストラルはもの凄い興味の対象ですよね。


ナンバーズ117 神智学の祖、新たなマハトマ

「イヤァアアアアアッ!お願いだからやめてくれ!助けてぇえええええーっ!!」

 

アメリカの特異点に到着してまだ一時間も満たないうちに遊馬は最大の危機を迎えていた。

 

「そんな大声で騒がないでください。今から治療します」

 

「ただの切り傷で何でメスとかの手術道具を取り出してるの!?絆創膏で充分じゃね!?」

 

遊馬を治療しようとして無理やり連れ去ってキャンプ地に到着し、大勢の患者がいる中……ナイチンゲールは何故かその手にはメスなどのいわゆる手術道具が握られており、明らかに軽い切り傷を治療する為の道具では無かった。

 

逃げようと思ったがナイチンゲールは容赦なく携帯していた拳銃をぶっ放して脅し、とても病人に対する扱いをしていなかった。

 

「さあ……大人しく治療を受けなさい」

 

「ヒィイイイイイッ!??」

 

遊馬は危機感から体の中に眠る聖杯が反応し、金色の光が体全体に包まれると頰の傷が一瞬で治った。

 

「傷が治った……?もしや自然治癒能力が高いのですか?」

 

「た、助かった……」

 

「では次はあなたの心の病ですね」

 

「まだ助かってなかった!!?心の病って何のことだよ!?」

 

「私にはわかります。あなたは深く心を病んでいます。ですから、迅速な治療が必要です」

 

「やべえ!よくわかんねえけど俺の人生最大のピンチ!?」

 

ある意味遊馬が感じる人生で最大のピンチに恐怖を感じると、そこに頼れる仲間達がテントに入る。

 

「……そこ。治療中に不衛生な状態で割り込まないでください!」

 

「待ちたまえ!フローレンス・ナイチンゲール!」

 

「待ってくださーい!」

 

「勝手に人様のマスターを奪わないでよ!」

 

「私の旦那様に手を出さないでください!」

 

アストラルとマシュとレティシアと清姫が連れ去られた遊馬を追いかけて急いでやって来た。

 

「患者は平等です。二等兵だろうが大佐だろうが、負傷者は負傷者。誰であろうと、可能な限り救います。その為には衛生観念を正すことが必要なのです。いいですね?そこを一歩でも踏み込めば撃ちますから」

 

パァン!!

 

ナイチンゲールは警告したにも関わらず拳銃から弾丸をぶっ放した。

 

「ふ、踏み込んではいませんが!?」

 

「ダメだこいつ!ただでさえめんどくさいバーサーカーだから、余計に話を聞かないわ!!」

 

実はナイチンゲールはよりにもよってバーサーカークラスで召喚されており、治療を第一に専念して人の話をまともに聞かない。

 

最も、彼女の生前の話を知れば寧ろ妥当な適正クラスでもあるのだが。

 

「もう我慢なりません……旦那様を奪い返します!!」

 

清姫は遊馬を奪い返そうとその身から炎を燃やして体が蛇と化して行く。

 

一触即発の状況だがナイチンゲールは我が道を進むように遊馬に向かい合って堂々と宣言する。

 

「さあ貴女達は出て行きなさい。今からこの子の治療に専念しなければなりません。安心して下さい。私は『殺してでも』貴方を救います」

 

「それ矛盾してねえか!??」

 

「そう──私は全てを尽くして貴方の命を救う!たとえ、貴方の命を奪ってでも!」

 

「もうそれは結果と目的が入れ替わってるだろ!?」

 

遊馬のツッコミも全く聞こえておらずナイチンゲールがとんでもないことをする前にアストラルが前に出る。

 

「みんな。ここは私に任せてもらおうか」

 

「アストラルさん?」

 

アストラルは静かに遊馬に近付くとナイチンゲールは再び拳銃を構えてアストラルのこめかみに突きつける。

 

「聞こえませんでしたか?貴方が何なのかは知りませんが、不衛生のままこのテントに入り込んで、私の治療の邪魔をするなら撃ち込みますよ?」

 

「残念だが私は霊体だ。病原菌など一切付着しない。それから……遊馬の心の病は貴女には治療出来ない」

 

アストラルは冷静にナイチンゲールと対話をし、そこからナイチンゲールを挑発するような言葉をかけた。

 

「……何ですって?」

 

ナイチンゲールは自分では治療が出来ないとアストラルに言われ、ギロリと睨みつける。

 

「私は遊馬の心の病の正体を知っている。現代ではこう呼ばれている。心的外傷後ストレス障害。通称・PTSD。強い精神的衝撃を受けることが原因で著しい苦痛や生活機能の障害をもたらすストレス障害だ」

 

「心的……何だ?」

 

「簡単に言えば、トラウマだ。遊馬は大きなトラウマを抱えている」

 

遊馬のトラウマ……遊馬自身はそれに気づいてない。

 

苦痛や生活機能には特に問題は起きてはいない。

 

しかし、無意識の内にそのトラウマが原因で自分自身を犠牲にしようとしている。

 

「遊馬のトラウマ。それは……大切な人を失う恐怖だ」

 

「──っ!??」

 

アストラルに指摘され、遊馬は思わず絶句してしまった。

 

アストラルの話を聞き、ナイチンゲールは考え込む動作をして尋ねた。

 

「大切な人……それはこの子の家族ですか?」

 

「それもある。遊馬は幼い頃に両親がとある事情で行方不明になっている。そして……遊馬は三つの世界と全ての人類の存亡をかけた戦いに巻き込まれてしまった。そして、そこで一度、全ての仲間と友を失ってしまった」

 

「両親が行方不明……仲間も友も全て……」

 

世界と人類の存亡をかけた戦いと言う単語よりも両親が行方不明になり、仲間と友を失ったことがナイチンゲールにとっては重要だった。

 

「遊馬と共に最後まで戦い抜いた私だからこそ分かる。遊馬はもう二度と、大切な人を失いたくない。その思いから遊馬はたとえ自分が心と体がどれほど傷ついても、何が何でも仲間を必ず守ろうとする強い意志を示している」

 

一度失ったからこそもう二度と失いたくない。

 

もし仮にまたあの時と同じ光景を繰り返したらもう二度と立ち直れなくなるかもしれない。

 

遊馬はたとえ自分がどれほど傷ついても構わない覚悟で戦っている。

 

「なるほど……戦場で戦う兵士も仲の良い同胞を守ろうと時折そのような症状を見せると聞いたことがあります。それでしたら、なおさら治療が必要では?」

 

「PTSDの治療法は精神療法や抗うつ薬などがある。だが、遊馬が治る為には自らの心でトラウマに立ち向かうしかない。私は遊馬の相棒として側で支え、見守る義務がある。そこでナイチンゲールに提案だ。遊馬の心の治療は私に全て一任してもらえないか?医療には経過観察というものがある。もしも私の手では治療は不可能だと判断された時は君が治療を引き継ぐ……どうかな?」

 

人の話を聞かないナイチンゲールだが、患者の治療を第一優先とした話を盛り込めば、対等に話せる……アストラルはそう考えていた。

 

するとナイチンゲールは遊馬をチラッと見て少し考えると頷いて答えを出す。

 

「……分かりました。確かに心の病は一筋縄ではいきません。この子の事を誰よりも理解している貴方に任せましょう。しかし、無理だと判断したら私が治療を行います」

 

「ああ。感謝する、ナイチンゲール」

 

アストラルの見事な話術で人の話をほとんど聞かないナイチンゲールから遊馬を解放し、遊馬は涙目になりながらアストラルに縋り付く。

 

「うううっ……た、助かったぜ、アストラル……!」

 

「君が無事でよかった」

 

アストラルはよしよしと遊馬をあやすように頭を撫でる。

 

ある意味アストラルに許された特権で、その光景にマシュ達が羨ましいと思ったのは言うまでもない。

 

「さあ、終わったらどきなさい!次の患者が来ます!」

 

ナイチンゲールは休む間も無く次の患者の治療を開始した。

 

「ところで、ここは何処だ?」

 

「まだよく分からないが、アメリカ独立軍の後方基地だ」

 

「先程の戦いはアメリカ軍の敗北でした。軍は撤退、前線を後退しました。相手方の正体は不明です。少なくとも、英国軍ではないことは確実ですね」

 

それだけではなくこの戦争には奇妙な点が多い。

 

アメリカの国旗のデザインが異なり、謎の機械兵士もバベッジのヘルタースケルターに酷似している。

 

「ひとまず、この時代に召喚されたサーヴァントに協力を頼まなければ……」

 

「いや、無理でしょ。あのバーサーカー婦長は……」

 

「彼女は目の前の患者を救うことで頭がいっぱいみたいですね……」

 

この世界で初めて出会ったサーヴァントであるナイチンゲールに協力を頼もうと思ったが、ナイチンゲールは生前からの自分の使命のように目の前の患者の治療を全力で取り組んでいる。

 

たとえ頼んでもすぐに断られるのは明らかだ。

 

「……いや、手はある」

 

「アストラル、いけるのか?」

 

アストラルは対話したナイチンゲールの性格からどうすれば協力をしてもらえるのか答えを既に導いていた。

 

「行ってくる」

 

「頼んだぜ!」

 

アストラルは遊馬とハイタッチを交わして気合いを入れて再びナイチンゲールの元へ向かう。

 

「ナイチンゲールよ」

 

「どうしましたか?私の邪魔をしないでください」

 

「君は彼らを治療しているが、それでは間に合わない。彼ら全てを治療する方法がある」

 

「……今、何と?」

 

アストラルの言葉にナイチンゲールは耳を傾けた。

 

「今のままだと患者は増え続ける。それこそ君の手が届かないぐらいにまで。通常の戦争であれば犠牲者の数は何処かで歯止めが利く。しかし、この戦争の相手は最後の一人が死ぬまで終わらないだろう」

 

「患者は増え続ける、と言うのですか」

 

「その通りだ。我々は悪しき根元を断つ為にここに来た」

 

アストラルはナイチンゲールの心に響く言葉を送り続けるが……。

 

「な、何だ!?外が騒がしいぞ!?」

 

「敵襲、敵襲だ……!!」

 

外から一人の兵士が入ってきて敵襲の知らせをする。

 

「おっちゃん、敵ってさっきの奴らか!?」

 

「そうだ!立って動ける者は迎撃準備!機械化兵団の到着はない!大砲を用意しろ!」

 

「みんな……行くぜ!ここにいる患者を守るぞ!」

 

遊馬は外されていたデュエルディスクとD・ゲイザーを装着し直して外に向かう。

 

「はい!ここで前線を維持させなければ患者さん達が……!」

 

「仕方ないわね。派手に暴れるわよ」

 

「旦那様にどこまでも付いて行きますわ」

 

マシュ達も遊馬に続いて外に向かおうとすると……。

 

「──お待ちなさい。私も同行します。こう見えても、戦いの心得はあります。何より、患者をこれ以上負傷させる訳にもいきません」

 

ナイチンゲールが患者を守る為に遊馬達と同行を名乗り出た。

 

ナイチンゲールは他のドクターに指示を出し、患者にも互いに協力し合うように伝える。

 

そして、ナイチンゲールは遊馬と向き合う。

 

「頼むぜ、ナイチンゲール。俺は遊馬。九十九遊馬だ!」

 

「ユウマ……ですか。では、速やかに治療に向かいましょう!」

 

遊馬達はナイチンゲールと共に救護テントを出て戦場に向かう。

 

戦場には先程と同じ大昔の格好をした戦士達が近づいている。

 

「敵が多いな……」

 

「だが、こちらには多人数に対して有力な攻撃方法がある」

 

「ああ!清姫、頼むぜ!」

 

「はい!お任せ下さい!」

 

遊馬は清姫をフェイトナンバーズに入れてデッキからカードを引く。

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード『おろかな埋葬』!デッキからモンスターを墓地に送る。俺は『ズババナイト』を墓地に送る。そして、『クレーンクレーン』を召喚!クレーンクレーンが召喚に成功した時、墓地からレベル3のモンスターを効果を無効にして特殊召喚する。蘇れ、ズババナイト!」

 

クレーンクレーンが自身の嘴を地面に向けて突くと、魔法陣が浮かび上がって墓地からズババナイトが引っ張られて蘇る。

 

「レベル3のズババナイトとクレーンクレーンでオーバーレイ!嘘つきには針千本、大嘘つきには灼熱の炎を浴びせましょう!」

 

ズババナイトとクレーンクレーンが光となって地面に吸い込まれ、光の爆発が起き、灼熱の炎が吹き荒れる。

 

「現れよ、『FNo.57 清廉白蛇 清姫』!!」

 

炎の中から下半身が巨大な白蛇となった清姫が現れて扇子を広げる。

 

「旦那様!」

 

「おう!清姫の効果!オーバーレイ・ユニットを2つ使い、相手フィールドの全てのモンスターに白蛇カウンターを乗せる!」

 

清姫は扇子にオーバーレイ・ユニットを取り込ませて舞うように振るうと敵兵士の体に白蛇の姿を模した刻印を刻ませる。

 

「白蛇カウンターが乗ったモンスターの攻撃力は1000ポイントダウンする!更に清姫がフィールド上に存在する限り、お互いのスタンバイフェイズ時に白蛇カウンターが乗ったモンスターは更に攻撃力を500ポイントダウンさせる!」

 

白蛇の刻印が敵兵士の力を一気に弱体化させていく。

 

これでアメリカ軍の兵士でも簡単に倒せるようになる。

 

「形勢逆転だ。遊馬、一気に攻め立てるぞ!」

 

「ああ!ナイチンゲール、付いて来れるか?」

 

「子供にそう言われるとは……心外ですね。私はそれほど弱くはありませんよ?」

 

ナイチンゲールは拳銃を手に戦場を駆ける。

 

ナイチンゲールの戦闘はとても看護師とは思えないほどアグレッシブだった。

 

手刀、サマーソルト、銃撃……看護師として人体を知り尽くしているナイチンゲールは的確に人体の弱点を突いて次々と敵を倒していく。

 

流石は戦場で活躍した看護師と感心するが……。

 

「清潔!消毒!!緊急治療!!!」

 

何処からか取り出した診察台を豪快に持ち上げてそのまま鈍器として敵を殴り倒す。

 

(((その攻撃方法は何故!??)))

 

予想外過ぎる攻撃方法に遊馬達は内心ツッコミを入れた。

 

サーヴァントは自分が生前に所有していた武器や道具などを使用して戦う。

 

ナイチンゲールは看護師であるので患者を寝かせる診察台は当然と言えば当然なのだが……やはりツッコミせざるを得ない光景だった。

 

そんなことを知らないナイチンゲールは清姫の効果で弱体化した敵相手に文字通りバーサーカーの如く暴れまくって撃退していき、遊馬達も負けじと敵を倒していく。

 

遊馬達とナイチンゲールのお陰で戦況は膠着状態となる。

 

あと一押しで戦況が傾く、そう考えた……その時だった。

 

「遊馬!サーヴァントの気配だ!それも二騎だ!」

 

「来やがったか!」

 

アストラルは敵兵の中から二騎のサーヴァントが来る気配を察知する。

 

そして、現れた二騎の敵サーヴァント……その片方は見慣れた男だった。

 

「ディルムッド!?」

 

「マ、マスター……!?」

 

それはカルデアで行方不明になっていたディルムッドだった。

 

その隣には長い金髪の美男子が立っていた。

 

「ほう、我が配下ディルムッド。そこにいる者達は知り合いか?」

 

「は、はい……『あの方』に呼ばれる前に仕えているマスターです」

 

レティシアは金髪の男の真名を看破して遊馬に伝える。

 

「遊馬、隣の金髪はディルムッドのかつての上司……フィオナ騎士団の長、邪悪な怪物を次々と倒したエリンの大英雄……フィン・マックールよ」

 

フィン・マックール。

 

ケルトの戦神ヌァザの末裔にして、栄光のフィオナ騎士団の長。

 

ディルムッドの生前の上司で、二人の間には女性関係の問題で色々と辛い過去がある。

 

ディルムッドが敵に回り、マシュ達はギロリと睨みつけて非難の嵐を飛ばす。

 

「ディルムッドさん!よりにもよって私達の敵になるなんて……酷いです……」

 

「うぐっ……そ、それは……」

 

「あんた、遊馬にその黒子の件で大きな恩があるくせにそれを仇で返すつもり?ハッ、所詮その程度の忠義だったってことね」

 

「ゴフッ……!?」

 

「旦那様は誰よりもサーヴァントを下僕ではなく、掛け替えのない仲間だと大切に想う素晴らしいマスターですのに……最低ですね」

 

「ゴハァッ!??」

 

ディルムッドは生前と第四次聖杯戦争でのトラウマが二重に重なって蘇り、マシュ達の鋭い刃のような言葉が突き刺さり、血の涙を流して吐血した。

 

遊馬はカルデアでディルムッドを悩ませる呪いの黒子を抑える手段をダ・ヴィンチちゃんやキャスタークラスのサーヴァントと共に考えていた。

 

メドゥーサの持つ眼帯や魔眼を抑える眼鏡などを応用して黒子を抑える道具をまだ未完成だが完成の目処は立っていた。

 

大勢いるサーヴァントの問題に一人一人真正面から向かっている心優しきマスターの遊馬に対し、敵として対峙しなくてはならなくなったディルムッドは唇を噛み締めながら辛そうに声を出す。

 

「我が主よ……」

 

「どうした、ディルムッド」

 

「自害させてください……」

 

「ディルムッド!??」

 

槍の矛先を自分の心臓に向けようとしているディルムッドにフィンは驚愕する。

 

自害しようとしているディルムッドに対し遊馬は声をかける。

 

「おーい、ディルムッド。自害は止めろー」

 

「マ、マスター……?」

 

「お前がそっちの誰に召喚されたのか知らねえけど、俺はお前が裏切ったとかそんな風には思ってねえ。隣にいる金髪の兄ちゃんに生前に仕えていたんだろ?まあ色々あったと思うけど、今はそっち側で俺の敵として戦ってくれよ。だけどな……」

 

遊馬はデッキケースからディルムッドのフェイトナンバーズを取り出して見せるように手で持って構える。

 

「ディルムッド、お前は俺の仲間だ。仲間は何が何でも取り戻す。だから、覚悟しろよ?」

 

敵であるディルムッドを仲間として取り戻す決意を決めた遊馬の大胆不敵な笑みを浮かべる。

 

「マスター……」

 

「おやおや、子供のくせに随分と勝手なことを言うじゃないか。悪いが私の部下をそう簡単に渡すつもりは無いぞ?」

 

遊馬の上に立つ者としての器を見せつけられ、ディルムッドの直属の上司として負けられないとフィンは槍の矛先を遊馬に向ける。

 

「上等!俺たちは絶対に負けねえ!」

 

「ディルムッドの槍はサーヴァントにとってはとても厄介だ。ディルムッドは遊馬とマシュが相手をして、残りはフィンだ!」

 

アストラルの指示で誰が戦うか決められる。

 

「それから、遊馬。私は──」

 

「……オッケー、任せたぜ」

 

アストラルはその場から少し下がり、遊馬達はフィンとディルムッド相手に戦闘を開始する。

 

ディルムッドの宝具、『破魔の紅薔薇』と『必滅の黄薔薇』は対人戦ではかなりの強さを発揮させるので希望皇ホープを操る遊馬と強固な盾を持つマシュが適任だった。

 

遊馬とマシュは守りに徹しながらディルムッドの攻撃を防ぎつつ、隙をついて怒涛の攻撃を繰り出してディルムッドを追い詰める。

 

残るレティシアと清姫とナイチンゲールでフィンを相手にする。

 

「堕ちたる神霊をも屠る魔の一撃──その身で味わえ。 『無敗の紫靫草(マク・ア・ルイン)』!!」

 

邪悪な妖精アレーンを倒したとされる魔法の槍から放たれる攻撃は戦神ヌアザが司る水の激しい奔流。

 

しかし、レティシアの旗と清姫の扇が炎を纏う。

 

「『吼え立てよ、我が憤怒(ラ・グロンドメント・デュ・ヘイン)』!!!」

 

「『転生火生三昧』!!!」

 

レティシアの竜の魔女の時から持つ漆黒の炎と清姫の大嘘つきを焼き尽くす青白く輝く炎の大蛇が水の奔流と激突し、激しい衝撃波と共に相殺した。

 

「私の宝具の水をまさか君達の炎で打ち消すとはね……」

 

「私の心に宿る漆黒の炎を水程度で消せると思う?」

 

「人の心が燃やした炎はそう簡単には消せませんよ?」

 

「このまま押し切りま──っ!?怪我人の気配が……!!」

 

突如、ナイチンゲールは何かの気配を察知してその場から別の場所へ走り出した。

 

「ちょっと!あんた、何処に行くのよ!?」

 

「おや、彼女は気付いたようだね」

 

「それはどういう事だ、フィン!」

 

ディルムッドがフィンの元へ戻り、遊馬とマシュもレティシアと清姫に合流した。

 

「よく聞け。この聖杯戦争は字義通りの戦争なんだよ。我々としては、君達を踏む止まらせておけば良かったんだ」

 

「……そうか、お前達の他の兵士を!」

 

遊馬達がフィンとディルムッドと戦っている間に敵軍の兵士達がアメリカ軍を攻撃する……それが目的だったのだ。

 

「彼らは名も無き戦士たち。ただただ戦い続ける比類なき怪物だ。もちろん、サーヴァント相手には鎧袖一触の存在だが──アメリカ軍相手には、どうだろうね?」

 

フィンはあくまで戦争で勝利することを目指して遊馬達を足止めした。

 

このままではアメリカ軍の敗北は確実。

 

マシュ達はまんまとフィンの策略にハマり、悔しさで顔を歪めるが……。

 

「……それはどうかな?」

 

遊馬は不敵の笑みを浮かべた。

 

「何?」

 

「気付かないのか?さっきから俺の相棒、アストラルが戦闘に参加してないことを」

 

遊馬の相棒・アストラル。

 

戦いの時は常に遊馬の側で指示を出し、時には共に戦う頼れる相棒。

 

しかし、その姿が先程から見えていない。

 

「さっき耳打ちでアストラルが俺に言ったんだ。もしもの時のバックアップをするってさ。だから下がっていたんだ。こいつを……呼ぶためにな!」

 

遊馬はナンバーズの力の波動を感じ、空に向かって指差すと、空気が震えて地上に大きな影が出来る。

 

空を見上げるとそこには巨大な飛行物体が姿を現わす。

 

「襲来せよ、銀河を駆ける戦闘母艦!バトル・イーグル部隊、発進準備完了!戦場を掌握せよ!!現れよ!『No.42 スターシップ・ギャラクシー・トマホーク』!!」

 

現れたのはステルス戦闘機の形をした漆黒に輝く巨大な宇宙戦艦。

 

アストラルは戦況を見極めて左手首にデュエルディスクを出現させ、レベル7のモンスターを2体召喚してエクシーズ召喚を行なったのだ。

 

そのあまりの大きさにフィンは驚愕する。

 

「な、何だあれは……!?」

 

「あれは……マスターの相棒である精霊殿が持つ数あるモンスターのうちの一つです」

 

「冗談はよしこさん!あんな物を操るなんてそれこそ神に等しい存在ではないかは!」

 

フィンは未知なるモンスターを召喚する遊馬とアストラルに戦慄する。

 

「スターシップ……まさか宇宙戦艦ですか!?」

 

マシュは宇宙戦艦の姿をしたナンバーズに驚きを隠せなかった。

 

「また派手なナンバーズを呼んだな、アストラル!」

 

「アメリカと言えば、宇宙映画の宝庫だからな!」

 

アストラルは人間界にいた時に遊馬の部屋でアメリカの宇宙を題材にした映画を見ていた。

 

「それ今のアメリカの時代と関係無えだろ!?」

 

「……スターシップ・ギャラクシー・トマホークの効果!オーバーレイ・ユニットを2つ使い、自分フィールドに『バトル・イーグル・トークン』を可能な限り特殊召喚する!遊馬!」

 

「誤魔化した!?と、とりあえず今はやるしかない!」

 

遊馬はデュエルディスクを掲げ、アストラルが横に立つと二人の空いているモンスターゾーンにバトル・イーグル・トークンのカードが埋め尽くされる。

 

タッグデュエル方式を利用し、アストラルのフィールドと遊馬のフィールド、二人のフィールドを自軍のフィールドとして適用されたのだ。

 

遊馬とアストラルの空いているモンスターゾーンはそれぞれ4カ所ずつ。

 

合計8体のバトル・イーグル・トークンがスターシップ・ギャラクシー・トマホークのハッチから一斉に出撃される。

 

バトル・イーグル・トークンは機械族、風属性、レベル6の攻撃力2000、守備力0の戦闘機の姿をしたトークン。

 

戦闘母艦であるスターシップ・ギャラクシー・トマホークは攻撃力は0で自身は攻撃することは出来ないが、その代わりに母艦の中に収容されている戦闘機を出撃させ、敵勢力に攻撃をするのだ。

 

「バトル・イーグル、全隊一斉攻撃!」

 

「ノリノリだな、アストラル!」

 

まるで艦長のように命令を下すアストラル。

 

バトル・イーグル・トークンは空からの一斉攻撃を繰り出し、敵軍の兵士達を一気に蹴散らす。

 

すると、それに乗じてアメリカ軍でも敵軍でもない第三勢力が現れた。

 

それは褐色の肌の戦士が指揮する謎の勢力で敵軍の兵士達を攻撃する。

 

「あれは……噂に聞くレジスタンスか……!巨大モンスターにサーヴァントが増えたのであれば手の施しようがない」

 

フィンもこのままでは逆にこちらが負けると判断し、一時撤退を決める。

 

「よい。ここは一目散に撤退だ、ディルムッド!戦士たちにも命令を下しなさい!」

 

「畏まりました……」

 

「連中は女王(クイーン)を母体とする無限の怪物。聞かなかったら捨て置け。数千失ったからと言って困るものではない」

 

「女王……?」

 

「母体、無限の怪物……?」

 

フィンの言葉に遊馬とアストラルはその重要と思われるキーワードを記憶する。

 

そして、フィンは撤退する前にマシュに目線を向ける。

 

「ああ、その前に大事を忘れていた。麗しきデミ・サーヴァントよ」

 

「わ、私ですか?」

 

「そう、君だよ君。君は我々と戦うことを決めているのかな?」

 

「……はい。遊馬君とアストラルさんと皆さん、私の大切な仲間と共に、あなたたちを討ちます」

 

「よい眼差しだ。誠実さに満ちている。王に刃を向ける不心得はその眼に免じて流そう。その代わり──君が敗北したら、君の心を戴こう!うん、要するに君を嫁にする」

 

唐突のフィンのプロポーズ。

 

「……はい?」

 

マシュはキョトンと呆然とし、

 

「「「……はぁ???」」」

 

遊馬とアストラルとレティシアは何かの聞き間違えなのかと思って愕然とし、

 

「まぁ……」

 

清姫は扇で口元を隠して驚く。

 

「楽しみだな、実に楽しみだ!実に気持ちのいい約束だ!では、さらば!さらばなり!」

 

一方的にマシュに約束をしてフィンは爽やかな笑顔を浮かべてその場から撤退した。

 

残されたディルムッドは呆れた表情を浮かべ、すぐにマシュに弁明する。

 

「マシュよ、すまない。あれは主のささやかな悪態です。悪戯と思われましょうが、ああ見えて嘘偽りないお方。あの御方はあなたの雄姿に参ってしまったのでしょう……」

 

「……ディルムッド、フィンに伝えといてくれるか?」

 

「はっ、何でしょう?」

 

遊馬はディルムッドに伝言を頼み、真剣な眼差しをしながら口を開く。

 

「マシュは絶対にお前に渡さねえ。マシュは俺の大切な相棒だ。俺たちは必ずお前たちに勝つ、ってな」

 

「ゆ、遊馬君!?」

 

まるで遊馬の独占欲のような言葉にマシュは顔を真っ赤にする。

 

その光景にディルムッドは微笑みながら頷く。

 

「分かりました、必ずお伝えします。では、さらばです……!」

 

ディルムッドもその場から撤退し、兵士たちもいなくなってアメリカ軍への脅威は去った。

 

「まさか戦場でマシュがプロポーズされるとは……」

 

アストラルは戦場でプロポーズするとは思いも寄らず、少々呆れながら額に手を当てる。

 

「マシュ、あいつは絶対にやめておきなさい。あいつ、本で見る限りとんでもなく嫉妬深くて怨みがヤバイから」

 

「ですが、プロポーズは素敵だと思いますよ?まあ、マシュさんはお受けするはずがありませんが」

 

レティシアはフィンだけはやめておけと忠告し、逆に清姫はフィンの清々しいほど率直なプロポーズを評価した。

 

「とりあえず、キャンプ地に戻ってナイチンゲールと合流しようぜ」

 

「彼女は暴走しがちだからな……少し心配だ」

 

戦いを終えた遊馬達は急いでキャンプ地へと戻る。

 

キャンプ地ではナイチンゲールが治療をしており、遊馬達が戻ると先ほどの話の続きで患者と犠牲者を増やさないためにアメリカ軍を離れて原因を探ることを決めた。

 

「じゃあ、俺たちと一緒にこの地に蔓延る病原体をやっつけようぜ!」

 

「はい、よろしくお願いします」

 

ナイチンゲールは遊馬と契約を結ぶことを了承し、契約を交わしてフェイトナンバーズを誕生させる。

 

出発する前にナイチンゲールは引き継ぎ作業で担当医師のドクター・ラッシュに患者に対する一通りの対処法を伝える。

 

外で待っていると……。

 

パァン!

 

「……撃った?」

 

「……撃ったな」

 

「……撃ちましたね」

 

「フォウ……」

 

ナイチンゲールはドクター・ラッシーに無理やり最新の治療法を分からせるために拳銃をぶっ放して脅した。

 

その後、一通りの指示を終えてテントから出て来たナイチンゲールは撃ったことを聞かれたが何のことやらと知らんぷりを押し通して歩き出す……その時だった。

 

「お待ちなさいな、フローレンス。何処に行くつもりなのよ?」

 

そこに現れたのは遊馬と歳が変わらない可愛らしく華やかな少女だった。

 

その後ろには機械兵士達を連れており、その雰囲気や風貌からサーヴァントだとすぐに分かった。

 

「軍隊において勝手な行動はそれだけで銃殺ものって知っていて?今すぐ治療に戻りなさい。さもないと──手荒い懲罰が待ってるかも、よ?」

 

「……貴女こそ自分の職場に戻りなさい。私の仕事は何一つ変わりません。この兵士達の根幹治療の手段が見つかりそうなので、それを探りに行くだけです」

 

謎の少女とナイチンゲールの間で激しい口論が繰り広げ、激しい火花が散る。

 

これでは拉致があかないと遊馬とアストラルが間に入る。

 

「止めろって、二人共。ってか、何だよあんたは。急にやって来て」

 

「君もサーヴァントだが、何者だ?」

 

「あら、あなたはマスターね。その隣は──っ!!???」

 

少女はアストラルを見た瞬間に手に持っていた本を落としてしまい、その場から後ずさりをして口を手で覆った。

 

体が震えてとても驚いており、明らかに不自然な様子だった。

 

「どうしたんだ?」

 

「君は私の何に驚いている……?」

 

「そんな……何でここに……?あり得ない……あなた、いいえ……!」

 

少女は目を凝らしてよく凝視し、アストラルだけでなく……。

 

「『あなた達』は一体……!??」

 

その隣にいた遊馬にも驚いていた。

 

「え……?」

 

「一体君は先程から何を……?」

 

遊馬とアストラルは自分たちの何に驚いているのか分からずに呆然としている。

 

そして、少女はやがてその驚きは歓喜へと変わり、体が未だに震えながらも笑みを浮かべていた。

 

「何て、何てもの凄い『マハトマ』を感じるの……!この私としたことが、こんなにも近くにいて、これほどの力を感じ取れなかったなんて……!」

 

落とした本を拾い、何度も深呼吸をして心を落ち着かせる。

 

ようやく落ち着いた少女は遊馬とアストラルに向き合うと優雅に自己紹介をする。

 

「自己紹介しないのも失礼ね。お初にお目にかかるわ、 私はエレナ・ペトロヴナ・ブラヴァツキー!!」

 

エレナ・ペトロヴナ・ブラヴァツキー。

 

十九世紀を代表する女性オカルティストで神智学の祖。

 

「早速で悪いけど、貴方達全員を王様の元へ連れて行くわ!!『カルナ』!!!」

 

エレナが空に向かって叫ぶように呼ぶと、その名にアストラルとマシュとレティシアは驚く。

 

「馬鹿な、その名は!?」

 

「今、何と……?」

 

「待ちなさいよ、その名前はジークが言ってた……!」

 

そして、瞬時に遊馬達の上空に一騎のサーヴァントが現れた。

 

それは肉体と一体化している黄金の鎧と胸元に埋め込まれた赤石が目を引く青年だった。

 

「異邦からの客人よ、手荒い歓迎だが悪く思うな。──『梵天よ、地を覆え(ブラフマーストラ)』!」

 

「遊馬!」

 

「くっ、手札から──」

 

遊馬は急いでデッキからカードをドローして手札にあるカードを墓地に送ろうとしたが……。

 

青年……カルナが放った攻撃が早く、遊馬の防御が一瞬遅れてしまい、遊馬達は光に包まれてしまった……。

 

そして、遊馬達は全員意識を失い、その場に倒れてしまった。

 

「さあ、この子達を王様の元へ運ぶわよ!」

 

エレナはご機嫌な様子で意気揚々と指示を出し、倒れている遊馬とアストラルの頰を撫でる。

 

「ごめんなさいね、手荒な真似をしてしまって。だけど、貴方達からとても凄いマハトマを感じるわ。それを知ることが出来たら、貴方達も、そこにいるサーヴァント達も必ず生かして悪いようにはしないわ……」

 

エレナの目的……それは遊馬とアストラルの中に秘めた大きな力だった。

 

しかしそれを利用するつもりも、手に入れるつもりもない。

 

ただそれが何なのかを知りたいだけだった……。

 

「さあ、行きましょう!」

 

エレナは遊馬達を連れて自分達が仕える主人である『王様』の元へ向かう、

 

 

 




カルナはチートで不意打ちだったので遊馬もアストラルも一歩遅れちゃいましたね、これは仕方ないです。
エレナも暴走しそうでちょっと怖い感じがしますが、まああそこは大人の余裕で何とかなりそうです。
次回はいよいよあのツッコミどころ満載のライオンヘッドの登場です!
あれを見ると英霊って、サーヴァントって何だよって思いますね。

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