Fate/Zexal Order   作:鳳凰白蓮

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今回はエレナちゃんが暴走します。
まあ、遊馬とアストラルの設定から考えたら当然暴走しますね。

あと、恐らく全ての人を驚愕させたあのライオンサーヴァントの登場です。
もうサーヴァントって何だよ、滅茶苦茶だよって改めて思いましたね(笑)


ナンバーズ118 それぞれの抱く信念

「うっ、うぅん……?」

 

遊馬は意識を取り戻し、目を覚ますと……。

 

「ああっ……旦那様!大丈夫ですか!?」

 

「清姫……?」

 

目の前には涙を浮かべている清姫がおり、後頭部に柔らかい感触が広がる。

 

「あー、えっと……膝枕をしているのか?」

 

「は、はい。そのまま寝かせるわけにはいきませんので……」

 

遊馬は清姫の膝枕に頭を乗せて今まで眠っていた。

 

ちなみに遊馬が意識を失った後、先に目覚めたマシュとレティシアを含めた三人で誰が膝枕をするかジャンケンで争い、清姫がその権利を勝ち取ったのだ。

 

「ありがとうな、清姫」

 

「とんでもありません。旦那様ならいつでも膝枕をして差し上げますわ」

 

「じゃあ、またお願いな」

 

「はい!」

 

「そこ、イチャイチャすんじゃないわよ!」

 

「そうですよ……」

 

軽く鋭い視線をしているレティシアとマシュに注意され、遊馬は起き上がって周りを見渡しながらすぐに緊張感を高める。

 

「……アストラル、何があった?」

 

遊馬の隣にアストラルが現れ、状況を簡潔に説明する。

 

「我々は先程現れたサーヴァント……カルナの宝具を受けて失神してしまい、現在馬車で輸送されている」

 

「カルナ……何者だ?凄え、ヤバイ感じだったけど」

 

「インドの叙事詩『マハーバーラタ』に登場する不死身の英雄だ」

 

「インドの英霊か……」

 

カルナ。

 

『施しの英雄』と呼ばれ、何かを乞われたり頼まれた時に断らない事を信条とした聖人。

 

非常に高い能力を持ちながら、血の繋がった兄弟と敵対する悲劇を迎え、様々な呪いを受け、その真価を発揮する事なく命を落とした英雄。

 

遊馬はチラッとカルナを見ると、カルナは周囲を警戒しながら歩いている。

 

するとそこにエレナが馬車の中に入ってきた。

 

「起きたのね、おはよう!」

 

「……どうやらエレナが私と遊馬に聞きたいことがあるらしいのと、彼らが仕えている王様に会わせる為に連れて行かれるようだ」

 

「……それで、あんたは俺たちに何を聞きたいんだ?」

 

遊馬は警戒しながらエレナをギロリと睨みつける。

 

「ま、待ちなさいって、そんなに怖い目で睨まないでよ!」

 

「いきなり攻撃して俺の大切な仲間を傷つけようとした奴が何を言うんだ」

 

「うぐっ、し、仕方ないじゃない!フローレンスはタダでさえ話を聞かないし、貴方達を王様に合わせなきゃいけないし、こうするしかなかったのよ!」

 

「……分かった。だけど、俺の仲間を傷つけたら絶対に許さないからな」

 

「そこは大丈夫よ。貴方達がちゃんと話してくれれば」

 

「話すって、何を?」

 

「貴方達から、マハトマを感じるのよ!」

 

「マハトマって、何?」

 

聞いたことのない単語に遊馬はアストラルに目線を向けるが、アストラルも首を左右に振り知らないと意思を見せる。

 

「えっと、そうね……根源は知ってるわよね?」

 

「根源?ああ、あの全ての魔術師どもが目指してるっていう、あまりにも下らねえものだろ?」

 

「ちょっ!?根源は下らなくないわよ!あなた、マスターなんでしょ!?どうしてそういうことを言うの!?」

 

「俺はマスターだけど、魔術師じゃない。デュエリストだ。全ての魔術や魔術師がそうとは言わないけど、そんな物のために他人の命を平気で弄ぶ魔術や魔術師は大嫌いなんだ」

 

「どうしてそこまで……」

 

「……エレナ。実は遊馬の妹分……桜という少女は魔術師の家の出なのだが、そこで想像を絶する地獄に堕とされたのだ。それこそ、女性の、いや……人間の尊厳を踏みにじるような事をされて心が壊れてしまった」

 

「地獄って……魔術の修練は大変だけど、尊厳を踏みにじるって……」

 

「とにかく、俺は魔術や魔術師が大嫌いなの!」

 

「話を戻そう。エレナ、それで我々がマハトマとはどう言う意味だ?」

 

「あ、そうそう……つまりな、その『根源の渦』への到達者、あるいは根源と接続した超常的な存在こそがマハトマだと私は知っているの」

 

「それが、俺たちだと……?悪い、ちょっとタンマ」

 

遊馬はエレナと一時的に話を切ってその場で振り向いてアストラルと小声で話し合う。

 

「アストラル、エレナって何者なんだ?」

 

「エレナ・ブラヴァツキー。19世紀の神智学者でオカルト研究家。レムリア大陸の実在を信じて神秘主義に没頭し、高次の存在『マハトマ』やその集合体『ハイアラキ』と接触し、多くの叡智を得たとされる」

 

ちんぷんかんぷんな単語が並び、遊馬は一つ一つの事をアストラルに尋ねる。

 

「神智学って、何だ?」

 

「神智学とは神秘的な直観などで神の啓示に触れ、神聖な知識の獲得や高度な認識に達しようとする考えだ。ちなみに彼女はその関係で、アストラル体とアカシック・レコードの概念を世に出した」

 

「アストラル体?お前の名前と同じ?」

 

「アストラル体は『感情体』と呼ばれる人間や動物の感情の発現の媒体だ。精神活動における感情を司る身体であるとされる」

 

「それって、魂……いや、心ってことか?」

 

「簡単に言えばそうなるな」

 

「アカシック・レコードって……音楽のレコードの事か?」

 

「そのレコードとは違う。アカシック・レコードは宇宙と数多の世界の全て……その過去と現在と未来が記されていると言われるものだ」

 

アカシック・レコードの内容に遊馬は目を見開いて驚き、アストラルを見つめる。

 

「それ……ヌメロン・コード、そのまんまじゃん」

 

「そうだな……」

 

ヌメロン・コードの内容とほぼ同じアカシック・レコードの概念を考えたエレナに驚きと関心を抱いていると……。

 

「ねえねえ、ヌメロン・コードって何?」

 

「「ん?おわぁっ!??」

 

振り向くとそこにエレナの顔がすぐ目の前にあり、遊馬とアストラルは驚いてその場でたじろぐ。

 

「ヌメロン・コード……良い響きね。聞いたことのないものだけど、何かあなた達に意味あるものなのかしら?」

 

小声で話していたが、ヌメロン・コードと言う単語にエレナは直感的に大きなマハトマを感じた。

 

「……教えたら何をしてくれる?」

 

「えっ?対価が欲しいの?そうねぇ……魔術を教えてあげる……って、あなたは魔術が嫌いなんだっけ?それなら……分かったわ。これから向かう城にいる間の貴方達全員の安全は保証してあげるわ。王様は私の言葉なら聞いてくれるはずだから」

 

「本当か?」

 

「ええ、もちろん。約束は守るわ」

 

エレナは軽く自分の胸を叩いて自信満々な表情で答える。

 

清姫が何も言わないのでその言葉に嘘は無さそうだ。

 

「仕方ない……では話そう。我々の世界と、宇宙を生み出した創世神話を、ヌメロン・コードを……」

 

アストラルはエレナが悪人ではないと判断し、例え知ったとしても自分達には害はないと判断して話すことにした。

 

エレナが興味を抱く内容を次々と話した。

 

ランクアップした魂が行き着く青き世界、アストラル世界。

 

宇宙と世界の全てを創り出した創造龍、ヌメロン・ドラゴン。

 

そして……宇宙創造の力を秘め世界の過去と未来の全てが記され、あらゆる世界の過去・現在・未来の運命を全て決める力を持つ神のカード、ヌメロン・コード。

 

マシュ達は以前その話を聞いていたので特に驚きもせずに普通だったが……。

 

「ドラゴンが世界を創造し、世界を変える神のカードか……英霊の身となってもまだまだ驚かされるものだな」

 

こっそり馬車の外で聞いていたカルナは異世界の創造神話を聞いてあまり表情を変えなかったがとても驚いていた。

 

そして、エレナは……。

 

「良いわ、良いわ良いわ、とっても良いわ!最高よ!英霊の座とは異なるランクアップした魂の行き着く青き世界、アストラル世界!神代よりも……いいえ、命そのものが生まれるよりも遥か昔、その命をかけて宇宙の全てを創り出し、その瞳から零れ落ちた雫から地球と月を創り出した創造神、ヌメロン・ドラゴン!!そして、私が導き出したアカシック・レコード以上の力を持つ、過去と未来の全てが記され、世界の運命を全て決める力を持つ神のカード、ヌメロン・コード!!!これほどにマハトマを感じさせるものがあるなんて、世界はまだまだ広いわね!!!」

 

用意した紙に高速でペンを動かしてアストラルが語った内容を事を事細かにメモをしていく。

 

生前の魔術師の研究者としての一面が復活し、エレナの表情は他人が見てもヤバイと思うほど最高潮に興奮して危ない人と化していた。

 

エレナはもう敵味方関係なく遊馬とアストラルにどんどん質問を重ねていき、こんなお願いもし始めた。

 

「ねえねえ!アストラル世界はどうやったら行けるの?行ける方法があったら教えて!」

 

エレナはアストラル世界に行ってみたいと言うが、遊馬とアストラルは無理無理と同じように手を振る。

 

「いやいや、そう簡単にアストラル世界には行けねえよ?俺が行った時は人間界最高クラスの科学者達が総力を結集して大きな転送装置を作って、ある限定的な条件下でようやく俺一人を片道で送り出せたんだから。しかも転送装置はその後にぶっ壊れちまったし……」

 

「それに、君自身がアストラル世界に適応するかどうかも分からないし、異世界人である君をそう簡単に招き入れることはできない。アストラル世界の守護神のエリファスが認めるわけがないからな」

 

「そんなぁ……じゃ、じゃあ、ヌメロン・コード!お願い、使わないし触らないから一目だけでも良いから見させて!」

 

せめて自身が考え導き出したアカシック・レコードでもあるヌメロン・コードを見てみたいと願うが、当然そんな事を許されるわけがなく、遊馬とアストラルはバッサリと切り捨てる。

 

「絶対にダメに決まってるだろ」

 

「ヌメロン・コードは二度と悪用されないように厳重に封印されてある。そんなことは断じて許されない」

 

「そこを何とか……!お願い、私に出来ることなら何でもするから!!」

 

「「ダメだ!!!」」

 

怒鳴るように即答する遊馬とアストラルにエレナは……。

 

「あぅっ……うわぁん……」

 

涙を浮かべて子供のようにぐずりだした。

 

「えっ!?」

 

「エ、エレナ……?」

 

「私はただ……知りたかっただけなのに、生前果たせなかった夢を少しでも追いかけたかっただけなのに……うわぁーん!」

 

今度は大泣きしてしまい、遊馬達は慌ててエレナをあやす事になってしまった。

 

エレナが大泣きする事態に馬車の外にいたカルナも驚いて共にあやし、アストラルはアストラル世界とヌメロン・コードの代わりにアストラル世界などの知識を教えることで何とか泣き止んでくれた。

 

「ごめんなさい……取り乱してしまって」

 

「いいよ、気にすんなって……ああ、そうだ。俺も聞きたいことがあるんだけど……」

 

「何かしら?」

 

「俺たち、この二人のサーヴァントを探しているんだけど、知らないか?大切な仲間なんだ」

 

遊馬はデッキケースからネロとエリザベートのフェイトナンバーズを取り出してエレナに見せる。

 

「……知らないわね。こちら側のサーヴァントでも無いし、少なくとも私やカルナは会ったことは無いわ」

 

「そうか……ありがとうな」

 

ディルムッドは敵側にいるが、ネロとエリザベートが敵側にいれば少し前に戦ったディルムッドが何か一言伝えているはず。

 

そもそもかなり我の強い二人なので、波長の合った存在に合わない限り、そう簡単に誰かと共に戦うことはあまり無いだろう。

 

「エレナ、次は私からの質問だ。敵について何か知らないか?」

 

アストラルはディルムッドやフィンがいる敵側の情報を尋ねる。

 

「あいつらはケルト軍よ。東部はケルトに支配されているの」

 

「ケルト軍?」

 

「あ、そう言えばディルムッドはケルト神話の出身だったな。だから召喚されたのか」

 

「恐らく、ケルト軍に召喚されているほとんどのサーヴァントはケルト出身よ」

 

「ケルト出身のサーヴァントか……ケルト関係の英霊はどれも強力な力を持つ者ばかりだ」

 

アストラルはケルト神話に登場するクー・フーリンをはじめとする英雄達は並大抵の実力ではなく、今まで以上に厳しい戦いが待ち受けていると確信した。

 

その後エレナから現時点での戦争の状況を聞かされる。

 

この世界は東西が戦い続けていることで辛うじて成立している。

 

エレナ達が戦っていなければ今頃ケルトによってこの国は滅んでいただろう。

 

「敵国のトップは十中八九、ケルトの英霊……今までの特異点の敵の傾向から考えてその者が聖杯を持っているに違いない。そして、フィンが言っていた女王にそれを母体とする無限の怪物……」

 

アストラルは少ない情報からケルトのトップが誰か考えた。

 

ケルト、女王……これらのキーワードから

 

(そう言えば、ブーディカは元々ケルト人だったな。いやいや、ブーディカはカルデアにいるからまずはあり得ない。となると、可能性として一番高いのは……あのコノートの女王だが、まだ情報が少ないしこれを遊馬達に伝えないほうがいいだろう)

 

ケルトと女王のキーワードに最初にアストラルはブーディカを考えたが、カルデアにいるし何より遊馬と絆を結んでいる彼女がそんな事をしないと可能性を捨てた。

 

そんな中でアストラルは一番の候補者を絞り込んだがまだ話すべきでは無いと心の中に仕舞う。

 

それから馬車に揺られて一時間弱、到着したのはアメリカとは思えない光景だった。

 

「さ、到着」

 

「でけぇ……」

 

「立派な石造りの城だな……アメリカには城と呼ばれるものはほとんど無いはずだが……」

 

それはここは思わずヨーロッパなのではと思わんばかりの巨大な石造りの城だった。

 

「ホワイトハウスは奪われちゃったし、仕方ないのよ。城は一から作ったわ。やっぱりほら、ケルトにはケルトへの対策を施さないとね」

 

そこに機械兵士が現れ、『大統王』と呼ばれる王が呼んでいると伝えた。

 

「……大統領じゃねえの?」

 

「領地ではなく王国だからか……?」

 

よく分からないネーミングに遊馬達は頭を悩ませる。

 

ここにエレナとカルナが仕える大統王が居ると知り、治療の邪魔をする存在を排除するためにナイチンゲールは銃の準備をするが、カルナに止められる。

 

「待て。それは悪手だナイチンゲール。もうしらばくその撃鉄は休ませてやれ。世界の兵士を癒そうと言うのなら、病巣を把握しろ。それとも、お前は短絡的なのか?」

 

「……その間に、兵士達が死んでいく。それに耐えろと言うのですか?」

 

「そうだ。慣れることなく耐えてくれ。お前には難しいだろうが、これも試練だ」

 

ナイチンゲールの暴走を止めるためにマスターとして遊馬も言葉をかける。

 

「ナイチンゲール、今は情報が少ない。俺たちは少しでも有力な情報が欲しいんだ。話が終わったらすぐに患者の元へ行こう」

 

「ですから、こうしている間にも……」

 

「俺にはこの世界で一番早く目的地に向かえる、ライダークラスの持つ宝具以上の移動速度を持つ船がある!アメリカ大陸の範囲なら何処でもあっという間だ!」

 

「……本当ですか?」

 

「俺は嘘はつかない。それに、清姫は嘘が大嫌いで他人の嘘を見抜けるからな」

 

ナイチンゲールはチラッと清姫を見ると、清姫は頷いて答える。

 

「誰かを救えない気持ちは俺にも分かる。あんたの気持ちは俺も一緒に背負う。だから、頼む……」

 

遊馬は頭を下げて懇願する。

 

その姿を見てナイチンゲールは冷静になり、遊馬の言葉を信じて銃をしまう。

 

「わかりました。では、この銃はしまっておきましょう」

 

「……危ういな。ブラヴァッキー、オレは彼女の行動を監視する」

 

「はいはい、こっちは任せてね〜。では、我らが王様に排謁してもらいますか!」

 

城の中に案内され、謁見の間と思われる場所に到着する。

 

機械兵士が一分後に来ると伝え、どんな人が来るのか緊張する。

 

「……サーヴァントの気配が近づいている。だが、今までとは違う何か複雑なものを感じる」

 

「複雑なもの?」

 

「何でしょうか……?」

 

アストラルはサーヴァントの気配を感じたが、今までとは全く異なる気配に違和感を感じた。

 

そして、遂に大統王が現れる。

 

「おおおおおおお!遂にあの天使と対面する時が来たのだな!この瞬間をどれほど焦がれた事か!ケルトどもを駆逐した後に招く予定だったが、早まったのならそれはそれで良し!うむ、予定が早まるのは良いことだ!納期の延期に比べれば大変良い!」

 

「……はあ。歩きながらの独り言は治らないのよねぇ。独り言はもう少し小声でやってくれないものかしら」

 

「今の独り言なのか!?」

 

「それにしても声が大きすぎるだろう」

 

「す、すごい音量です……人間の限界を超えています!」

 

大声の独り言を発しながら扉が開き、奥から現れたのは……。

 

「──素直に言って大義である!みんな、初めまして、おめでとう!」

 

獅子の頭にアメリカンヒーローのようなコスチュームを着て、両肩には巨大な電球が付けられているムキムキマッチョの巨漢だった。

 

そのあまりの予想外過ぎる姿に遊馬達は全員固まり、言葉を失ってしまった。

 

「もう一度言おう!諸君、大義である、と!」

 

「ね、驚いたでしょ。ね、ね、ね?」

 

「……それはまあ、驚くだろうな」

 

エレナは悪戯っ子のような可愛い笑みを浮かべ、カルナは軽くため息をついた。

 

「えっと……今まで色々な事があったから多少はそう言うのに耐性が付いていたけど、久しぶりに驚愕したな」

 

「それで……あなたが、アメリカの西部を支配している王、なのか……?」

 

「いかにもその通り。我こそはあの野蛮なるケルトを粉砕する役割を背負った、このアメリカを統べる王──サーヴァントにしてサーヴァントを養うジェントルマン!大統王、トーマス・アルバ・エジソンである!!」

 

トーマス・エジソン。

 

世界的に最も有名な発明家の一人。

 

蓄音機や白熱電球や映写機など、現代にまで受け継がれる様々な発明を行った。

 

その偉大な功績を称え『発明王』の異名でも知られるが……。

 

「エ!?」

 

「ジ!?」

 

「ソン、な、馬鹿な!??」

 

予想外過ぎる大統王の正体に遊馬達は一斉にレティシアを見る。

 

レティシアの真名看破で大統王の真名を見るが……。

 

「間違いないわ……トーマス・エジソン本人よ。でも、あれ……?」

 

レティシアは大統王の真名がエジソンだと分かったのだが、突如立ちくらみがして倒れかかり、ナイチンゲールに支えられる。

 

「どうしましたか?気分が悪いのですか!?」

 

「違うわよ。エジソンの真名をよく見ようとしたら、何故か沢山の名前が一気に重なって見えて……こんなことは初めてよ。ああ、大丈夫。あんたに治療してもらわなくてもすぐに良くなるから」

 

ルーラーの真名看破を使って初めての事態にレティシアは少し気分が悪くなった。

 

一騎のサーヴァントではあり得ない謎の情報量にレティシアの頭がパンクしたのだ。

 

「本当にあなたがあの発明王、トーマス・エジソンなのか……?」

 

「いかにも。今は発明王ではなく、大統王であるが。ほう、報告に聞いていたが、まさか本当に精霊と話が出来るとは……精霊はお伽話の世界ばかりと思っていたが、いまこの瞬間こそエネルギーの、いや、魂の奇跡でしょう。もちろん、フローレンス・ナイチンゲール嬢。美しい貴女にも出会えたことを心から感動する。私は戦場に生きるものではありませんが、だからこそ貴女の信念を、理性を尊敬する。是非、力を貸していただきたい。医療の発展はもちろん、兵士の士気向上──広告塔としての効果は計り知れないのだからな!ははははははははは!!」

 

「ナイチンゲールはそんな神輿みたいな扱いは望んでねえよ、オッサン」

 

「──む?ほう、その令呪……君がサーヴァント達を束ねるマスターかね?むむっ!?」

 

エジソンは遊馬を見ると目の色を変えて凝視した。

 

「少年、君の左眼と左手首に付けているものは何だ!?」

 

「あー、これ?D・ゲイザーとデュエルディスク。この世界とは違う、異世界で作られた色々な機能が組み込まれた通信機器と、カードに描かれたモンスターを立体映像で呼び出せるソリッドビジョンシステムが内蔵された装置だよ」

 

「い、異世界で作られた通信機器と立体映像!?少年、是非ともそれを私に貸してもらえないだろうか!??大丈夫、必ず元に戻して返そう!」

 

エジソンの視線が見た目通りに野獣の眼光の如く輝き、まるで獲物を狙うかのようなその視線に遊馬もサッとデュエルディスクを付けた左腕を後ろに隠す。

 

「……ライオン頭の変なオッサンに貸せねえよ」

 

「何を言う。私はまごう事なき人間である」

 

「何処がだよ!?どうして人間の頭がライオンになってるんだよ!?」

 

「人間とは理性と知性を持つ獣の上位存在であり、それは肌の色や顔の形で区別されるものではない。私が獅子の頭になっていたところで、それが変わるわけでもない。私は知性ある人間、エジソン。それだけのことである」

 

「いやいや、変わるだろ!?普通の人間は頭がライオンにはならないし、本で見たあんたの生前の数ある写真は何だよ!?むしろ今のあんたならデュエルモンスターズでいう獣戦士族って言われても問題ない姿だぞ!??」

 

遊馬とエジソンが軽く言い争いをする中、アストラルはエレナの元に行く。

 

「……エレナ、エジソンは生前はあの姿だったか?」

 

実はエレナとエジソンは生前の頃からの知人であり、アストラルはエレナにエジソンが生前からあの姿だったのか念の為に確認する。

 

「いいえ、あんな姿じゃなかったわよ。もっと背は小さくてムキムキじゃないし、もちろんあんなライオン頭じゃ無いわよ」

 

エレナの証言にアストラルは虚ろな目をして見上げた。

 

「……マシュ、私はもう分からない。サーヴァントとは、英霊とは何なんだ……?」

 

「私も、これは私の理解を大きく超えています……!」

 

「フォウ……」

 

「ルーラーとして色々なサーヴァントの真名を見てきたけど、一番の衝撃よ……」

 

「私も生前に蛇になりましたが……流石にあれは驚きますね」

 

「あれはもう人間ではなくキメラですね……」

 

アストラルとマシュ達はサーヴァントとは何なんだろうかと思わず頭を悩ませた。

 

そんなこんなで話が色々と脱線し、エレナが切り替えてエジソンは改めて遊馬と向き合って本題に入る。

 

「さて、少年……ユウマ……だったな。この世界において、唯一のマスターよ。単刀直入に言おう。四つの時代を修正したその力を活かして、我々と共にケルトを駆逐せぬか?」

 

「──ん?どうしてそれを知ってるんだ?」

 

まだエジソンはもちろん、エレナやカルナにも遊馬達が四つの時代の特異点を修正した話をしていない。

 

それなのにどうしてエジソンがその事を知っているのかと遊馬達は疑問に思うと、突然エジソンは怒りで顔を歪ませた。

 

「知っているとも。ある人物がな、それを私に知らせてきやがったのだ。この世で最低最悪のろくでなし!憎っくきあのすっとんきょうめが、『こんな事があったのだが、私は息災だ。君にはこんな大冒険はないだろうエジソン君』。などとな!実に不快感極まる!」

 

どうやらその人物……恐らくサーヴァントが憎たらしくエジソンに遊馬達のことを教えたらしい。

 

「エジソンの知人で我々と会ったことのある人物……まさか……」

 

アストラルはたった一人、その人物に心当たりがあったが下手に口にするとエジソンがブチ切れて話どころではないと思い、その名を口にしないことにした。

 

ひとまず落ち着いたエジソンは話の続きをし、ケルトに侵略されたアメリカだがエジソンが召喚され、発案された様々な体制によって戦線は回復して拮抗状態へと持ち込めた。

 

必ず勝つと自信満々なエジソンだが、懸念材料があった。

 

それはアメリカ側のサーヴァントの数が圧倒的に足りないのだ。

 

同率された軍隊はあるが、一騎当千のエースがいなく、対してケルト側には名高き蛮人が多くいる。

 

実はアメリカ側のサーヴァントはエジソン、エレナ、カルナの三騎だけだったのだ。

 

他に召喚されたサーヴァントは散り散りでアメリカ側につく素振りも見せていない。

 

この状況にエジソンは嘆いてライオンの如く吠えていた。

 

「第二特異点のネロの時はブーディカ達がいたから恵まれていたんだなぁ……」

 

遊馬はネロの時とは違うサーヴァントと言う将の数が圧倒的に足りていないエジソンに少なからず同情した。

 

「よし、オッサン!将が足りないなら手伝うぜ、俺たちが協力してケルトの奴らをぶっ飛ばして、聖杯を確保すればこの時代の特異点が修正されるからな!」

 

遊馬は自分の右拳を左掌にぶつけて気合を入れ、ナイチンゲールを除いたアストラルたちも頷いて気合いを入れる。

 

このままエジソン達、アメリカ軍に協力して共にケルトを倒して聖杯を確保する……そう考えた矢先だった。

 

「いいや、時代を修正する必要はない」

 

「……は?」

 

「……え?」

 

「……何?」

 

エジソンが静かに告げたその言葉に遊馬達は耳を疑う。

 

そして、エジソンは遊馬達の想像もつかない考えを示す。

 

「必要ない。聖杯があれば、私が改良することで時代の焼却を防ぐことも出来よう。そうすれば、他の時代とは全く異なる時間軸にこのアメリカという世界が誕生することになる」

 

「な……そんな事が可能なのですか!?」

 

「聖杯の力は、召喚された我々にもよく分かっている。充分に可能だという結論が出た」

 

「待てよ、オッサン。それじゃあ、他の時代はどうなるんだ!?」

 

「──滅びるだろうな」

 

告げられた無慈悲な言葉に遊馬とアストラルは激怒する。

 

「ふざけるんじゃねえ!そんなバカな事が許されるか!?」

 

「それでは何の意味もないではないか!?」

 

「何を言う。これほど素晴らしい意味があろうか。このアメリカを永遠に残すのだ。私の発明が、アメリカを作り直すのだ。ただ増え続け、戦い続けるケルト人どもに示してくれる。私の発明こそが人類の光、文明の力なのだとな!」

 

迷いなきエジソンの歪んだ言葉に遊馬とアストラルは絶句し、それと同時に理解した。

 

何故、エジソンがネロの時と違ってサーヴァントが全く集まらないのか、その決定的な違いがその思想だった。

 

ネロはローマとその未来を守る為に戦っていたので、それに賛同したブーディカたちが自然と集まった。

 

しかし、エジソンは聖杯の力を使い、他の時代と国を滅ぼして新たなアメリカを作ろうとしている。

 

散り散りになっているサーヴァント達は全てがそうとは限らないが、それにエジソンの考えに賛同出来ないからアメリカ側にもケルト側にも付かなかったのだと考えられる。

 

それを聞いてナイチンゲールが意見する。

 

「……その為に戦線を広げるのですか。戦いで命を落とす兵士たちを切り捨てて」

 

「……全ての兵士を救う為に奮戦した貴女らしい告発だわナイチンゲール婦長。私とて……私とて、う、ぐ、切り捨てて切り捨てるのではない、が──」

 

「エジソン、落ち着いて。フローレンスの言葉はただの意見よ。告発ではないわ」

 

ナイチンゲールの意見にエジソンは何かを苦しんでいる様子を見せ、エレナが落ち着かせる。

 

「……承知している。今のはいつもの頭痛だ、気にしないでくれ。いいかね、ナイチンゲール嬢。今の我々──私にとってはこの国が全てだ。王たるもの、まず何より自国を守護する責務がある」

 

「……ねえ、王様。よろしいかしら?」

 

今度はレティシアが進言して前に出る。

 

「良いぞ、黒き乙女よ」

 

「ありがとう。今までの話を聞くと、あなたはこの国を守りたい、って思いが強いわけね。まあ、私は裏切られた国を復讐する竜の魔女として生み出されたから理解出来ないけど」

 

レティシアはかつてフランスに裏切られ、復讐するために竜の魔女として地獄から蘇ったジャンヌとして暴れていた経緯から愛国心にはイマイチ理解できなかった。

 

「あなたは元々王様でもないのに、大勢の民をまとめてケルト相手に戦うその心意気は素晴らしいわ。でもね……」

 

レティシアはエジソンの国民の為に戦うその心意気を認めたが、同時にどうしても許せないものがあった。

 

「あんた、新しいアメリカを作り直す為には他の時代は滅んでもいいですって?そんなふざけた言葉、私たちのマスターの前で言うんじゃ無いわよ」

 

旗を持つ手の力が自然と強くなり、エジソンを睨みつける。

 

「レティシア……?」

 

「ようするにあんたは、アメリカって言う、たった一つの国を守る覚悟はあっても……世界の全てを背負う覚悟がないただの臆病者じゃないの!!!」

 

レティシアは怒りを爆発させてエジソンを真っ向から批判して臆病者と罵った。

 

「な、何だと!?私を侮辱するつもりか!?」

 

「私には国どころか世界を背負えないわよ。私は救国の聖女、ジャンヌ・ダルクの偽物として生まれた何者でも無い存在だった。だけど、マスターが……遊馬とアストラルが私の存在を確立させてくれた、未来を与えてくれた。だから私はこの世界の未来を取り戻し、遊馬と共に生きる為に最後まで戦い抜くと誓った!」

 

レティシアは聖杯から歪んだ虚ろな存在として生み出され敵として消える運命だった。

 

しかし、遊馬とアストラルが起こした奇跡によって一人の少女として生まれ変わった。

 

一人の少女としてレティシアは遊馬と共に生き、どんな事があろうと一番大切な人のそばにいると決めた。

 

レティシアは旗を広げて切っ先をエジソンに向ける。

 

「エジソン……あんたは偉そうなことをベラベラと喋ってたけど、あんたには分かるの?突然自分の住んでいた世界とは違うこの異世界に飛ばされて、世界と全人類の未来を取り戻す命運をその小さな背に全て託されてしまった遊馬の計り知れない重荷を!!十三歳よ?たった十三歳の小さな子供がこの世界と全人類の全てを取り戻す為に命を懸けて必死に戦ってるのよ。それなのにあんたは自分のことばっかり……」

 

レティシアは遊馬の秘めたる確固たる覚悟と世界を背負う重荷を理解している。

 

だからこそエジソンの言い分に激怒して啖呵を切ったのだ。

 

「遊馬とアストラルはこの世界と人類の未来を守る為に戦っている!決して、あんたの歪んだ考えには賛同しない!もしも、あんたが私達の行く道を阻むと言うなら……あんた達をぶっ飛ばしてでも、押し通す!!!」

 

旗に描かれた竜の模様が皇の鍵の紋章へと変化し、レティシアの背後に銀河眼の光子竜皇の幻影が現れる。

 

すると、遊馬のデッキケースに眠るレティシアのフェイトナンバーズが静かに光を放ち、もう一枚のカードを生み出していた。

 

突然現れた銀河眼の光子竜皇の幻影……幻想種であるドラゴンの姿にエジソンはたじろぎ、カルナはエジソンを守るように立つ。

 

レティシアが見せるその心の輝き……それを見たカルナは思い出すように呟く。

 

「誰かを想うその心の強さ……あの聖女とは違うな」

 

カルナの脳裏にはレティシアとは異なる聖女の姿が思い浮かべられた。

 

レティシアとカルナの一触即発の状況に遊馬とアストラルが前に出てレティシアの肩をポンと軽く叩く。

 

「サンキュー、レティシア。心に来る熱い言葉だったぜ」

 

「まさか君が啖呵を切ってくれるとは思わなかったよ。だが、君の想いは私たちの魂を燃え上がらせた……!」

 

エジソンの突飛な考えに戸惑っていたが、レティシアの遊馬とアストラルを想う言葉に突き動かされた。

 

「エジソン、あんたのアメリカを想う気持ちは分かった。他の全てを犠牲にしてもアメリカを守ろうとするその強い意思……一つの世界を守ろうと戦った、俺の仲間に似ているよ」

 

遊馬には心が通じ合い、分かり合えても戦うことを運命付けられて世界を掛けて戦うことになった凌牙……ナッシュの姿が思い出される。

 

しかし、だからこそ遊馬には譲れないものがあった。

 

「でもよ、俺はそんな事は絶対に認めねえ。何かを犠牲にして得られる未来は、絶対に認めねえ!!!」

 

「少年よ!犠牲無しに価値ある勝利は得られない、未来を勝ち取ることは出来ない!!」

 

「可能性はゼロじゃ無い!可能性が1%……いや、たとえそれよりも低いゼロに近い数値でも、その未来を切り開く!!」

 

「エジソンよ、あなたはかつて常人では耐えきれないほどの数えきれない実験と失敗を繰り返して、人類の文化を発展させる発明をしてきた。あなたが諦めない心があったからこそ実現した……それは私たちも同じだ!!」

 

「俺たちは絶対に諦めない!諦めない限り、必ず未来をこの手に掴み取る!それが俺たちのかっとビングだ!!」

 

遊馬はデッキからカードをドローし、『ガガガマジシャン』を召喚し、更に手札から『カゲトカゲ』を特殊召喚する。

 

「「レベル4のガガガマジシャンとカゲトカゲでオーバーレイ!エクシーズ召喚!現れよ、『No.39 希望皇ホープ』!」」

 

『ホォオオオオープ!!!』

 

遊馬とアストラルの前に希望皇ホープが姿を現し、その登場にエジソン達は驚愕する。

 

「これは……!?まさかこれが異世界のマスターと、あのカードと機械の力か!?」

 

「凄い……こんな魔術は今まで見た事ない……!」

 

「希望皇……ホープ……。あの戦士からは神をも打ち倒す力とその気迫が伝わってくる。あれは魔物なる神霊の戦士なのか!?」

 

初めて見る遊馬とアストラルのデュエルモンスターズの力に驚愕する中、マシュ達も武器や宝具を構えて戦闘態勢に入った。

 

 

 




清姫ちゃんの膝枕羨ましいなぁ……小鳥ちゃんからもたくさん膝枕をしてもらっている遊馬君爆発しやがれ(笑)
それとレティシアちゃんの強化フラグが立ちました。
エジソンの歪んだ考えに真っ向から否定する役目をレティシアちゃんにお願いしました。

遊馬君とアストラルはナッシュさんの事もあるので全てを否定しませんが、やはり他の時代を犠牲にするやり方はもちろん認められませんね。

次回は戦闘は軽めにして、第三勢力のサーヴァント達と合流します。

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