Fate/Zexal Order   作:鳳凰白蓮

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最近スランプ気味で更新が遅れて申し訳ありません。
少しずつ頑張っていきますのでよろしくお願いします。
一応今年中にアメリカ編を終わらせたいと考えています。


ナンバーズ129 それぞれの思い

遊馬の正体を知り、マシュ達はそれぞれ異なった心境だった。

 

「まさか遊馬がアストラルの半身だったなんて……でも、前世が神に等しい存在なら、アストラルと協力して私の肉体を復活させることも不可能じゃ無いわね」

 

遊馬に命を救われたオルガマリーは特に驚かず、寧ろ納得した様子だった。

 

同じく納得しているのはもう二人いた。

 

「よく考えれば、余もシータもインドの神々の転生した存在だからあまり驚きはなかったな……」

 

「ラーマ様はヴィシュヌ神、私はラクシュミー神……しかし、古代ならともかく現代でそのような転生があるとは驚きです」

 

インド神話出身のラーマとシータはそれぞれヒンドゥー教の神、ヴィシュヌ神とラクシュミー神の転生者である。

 

それなので同じ転生者の遊馬には納得と同時に親近感を抱いた。

 

「まさかあのマスターが精霊の転生者だとはね……」

 

「魔術関連の知識は無いけど、何となくだけど英霊の視点から見ても凄い存在だとは分かるよ」

 

「アストラルの半身か……人間と精霊があそこまで強い信頼関係を結んでいたのは凄いとは思っていたが、遥か昔に別れた二つの存在だとは思いも寄らなかった。只者では無いと思っていたが、ユウマは我らサーヴァントに匹敵する強大な存在なのは確かだな」

 

遊馬のことをまだほとんど知らないロビンフッドとビリーとジェロニモは自分たちが契約したマスターがとんでもない存在であると知らない故に一番驚いていた。

 

「ブラヴァッキー嬢よ、私は魔術に関する事は詳しくは分からないが、あの少年が精霊の転生者と言うことは凄いことなのか?」

 

「凄いなんてものじゃないわよ。古代の神話や物語とかなら神々の転生者はかなりよくある話だけど、信仰や神秘が失われつつある近代だとそう言った転生のケースは非常に稀なのよ。魔術で降臨させて転生させる手もあるにはあるけど、それはかなり難しい話。私の見立てだと、アストラルは精霊と自称しているけどその力は神霊クラス……いいえ、それ以上ね。その化身どころか、半身の魂を宿す遊馬は私の想像以上に強い力を持っているはずよ!」

 

エジソンがエレナに転生者のことについて尋ねると、エレナは興奮しながら長々と説明していく。

 

魔術師として遊馬の存在は非常に興味深い存在なので是非とも調べたいと言う欲求に駆られているのだ。

 

「……ユウマはかなりショックを受けていた。まるで自分が今まで築き上げてきたものが全てが崩れ落ちたように……難しい話だが、早く立ち直ってくれるといいが……」

 

エレナの説明に耳を傾けながらもカルナは遊馬の身を案じていた。

 

「遊馬がアストラルの半身……ま、私には関係ないわね。遊馬は私の可愛くて大切な愛する弟!その真実は変わらないわ!」

 

「武蔵嬢ちゃん、バーサーカーの影響もあって色々と振り切れてやがるな……だが、確かにその意見には同意するぜ。マスターは俺らの弟分でもあるからな。前世が何だろうとその関係は変わんねえな」

 

遊馬の姉分筆頭の武蔵と兄分筆頭のクー・フーリンは遊馬は自分達のマスターで弟分と言うその気持ちは変わらないと断言する。

 

「神に等しい力を持つ精霊の半身か……大いなる魂を持ち、人の身でありながら神殺しをし、奇跡の力を振るうか……ふふふ、面白い。これは鍛え甲斐があるな」

 

スカサハは遊馬の持つ才能に心が躍り、師匠としてとことん鍛えて育て上げる気持ちが更に高まった。

 

それぞれが遊馬への気持ちを口にする中、この場にいない者たちがいた。

 

ナイチンゲールは看護婦として負傷したアメリカ兵の治療を行なっていた。

 

ナイチンゲールは魔術への知識が乏しいので転生者と言われても特にピーンと来なかった。

 

しかし前世が何だろうと遊馬が遊馬であることには変わりないと全く気にしていない。

 

そして、城から少し離れた辛うじて残っているアメリカの領地にある高い丘に乙女達がいた。

 

それはレティシア、清姫、ネロ、エリザベートの四人である。

 

エリザベートは遊馬に対しては深い友情を結んでおり、レティシアと清姫とネロは遊馬に対して強い好意を抱いている。

 

それ故に遊馬の前世がアストラルの半身だと知り、これ以上無いほどの衝撃を受けた。

 

心を落ち着かせるために城を出て夜風に当たりながらそれぞれの心境を口にする。

 

「……よくよく考えれば虚な存在だった私を救えた男なら神に等しい存在でもおかしくは無いわね。遊馬自身も、前に自分が普通の人間じゃ無いって言ってわね……」

 

レティシアは聖杯から生まれた虚な存在だった自分を救うことが出来た遊馬。

 

サーヴァントに匹敵する強大な力を持つ精霊であるアストラルの半身の魂を持つ遊馬なら今まで起こしてきた数々の奇跡にも説明がつく。

 

「不思議なものね……神を憎悪していた私が神に等しい力を持つ人間の子供に助けられたなんてね。でも、だからこそ遊馬という唯一無二の存在を信じれたのかもしれないわ……」

 

ジャンヌの偽物として神を憎悪していたからこそ、遊馬を信じる事ができたのだ。

 

「ユウマがアストラルの半身……ふっ、なるほどな。アストラルがあそこまでユウマを守ろうとする理由もよく分かった」

 

ネロは何故あそこまでアストラルが遊馬を守ろうとするのか……ただの相棒では少し度が過ぎていたが、まるで愛する家族を守ろうとするその雰囲気に合点がいった。

 

「だが、ユウマは余の夫になる男だ!神に等しい魂の持ち主なら、至高のローマ皇帝である余に相応しい!!」

 

ネロは遊馬が自分の夫であると信じて疑わない堂々と宣言する。

 

しかし、この中で唯一心が晴れていない者がいた。

 

「ちょっと、何しんみりした顔をしているのよ。あんたらしく無いわ」

 

エリザベートが声を掛けたのは喧嘩友達(?)でもある清姫だった。

 

清姫は遊馬に対する好意は契約しているサーヴァントの中でもトップクラスだが、清姫は遊馬を生前に惚れていた安珍の生まれ変わりだと信じて疑わなかった。

 

しかし、遊馬の前世がアストラルの半身と知ってからずっと、心ここに有らず状態だった。

 

数時間前、清姫は遊馬が倒れてナイチンゲールに運ばれた直後にアストラルに突っ掛かった。

 

『アストラルさん……何故そんな嘘をつくんですか……?旦那様が……旦那様の前世が貴方の魂の半身……?そんなわけがありません、旦那様は……旦那様は安珍様ですよ……?』

 

『……清姫、君は他人の嘘が分かる。私が嘘ついてないのも分かっているだろう?それに、安珍程度の魂が数々の奇跡を起こし、私とオーバーレイをしてZEXALになれるわけがない』

 

『っ……』

 

清姫はアストラルが嘘をついてないと分かってはいるが、信じたくなかった。

 

今まで安珍の生まれ変わりだと信じていた遊馬がアストラルの半身という、清姫にとっては残酷過ぎる真実に……。

 

それからずっと清姫はこの調子だった。

 

基本的に思い込みが激しく遊馬を想い続けているゴーイングマイウェイな清姫らしくない酷く落ち込んだ姿にエリザベートは頭を掻きながらため息を吐く。

 

「はぁ……あんた、ストーカーの癖に何落ち込んでいるのよ」

 

「うるさいですよ……私の愚かさ加減に飽き飽きしているのですから。安珍様だとずっと信じていた方が別人だったんですから……」

 

「ねえ、あんた……嘘が大嫌いな癖にあんた自身が嘘つきだったのね」

 

エリザベートは嘘が嫌いな清姫を嘘つきだと称した。

 

「っ!?な、何を言うんですか!?」

 

「もうとっくの昔に気付いてたんじゃないの?マスターがあんたの初恋の人の生まれ変わりじゃないって……」

 

エリザベートはフランスの特異点で遊馬と初めて出会い、カルデアで召喚されてからの清姫の行動や言葉を見て聞いてその結論に辿り着いた。

 

遊馬の起こしてきた行動、紡いできた言葉……それは誰もが想像を超えるものばかりであった。

 

誰よりも優しくて強く、敵にすら手を差し伸べる遊馬……そんな慈愛に満ちた勇敢な少年の前世が、清姫から逃げるために嘘をつくような男なのだろうか?

 

エリザベートは最初から遊馬が安珍の生まれ変わりだとは思わなかった。

 

「あんた……マスターのことを、そのアンチンの生まれ変わりだから好きになったんじゃなくて、本当は一人の男性として本当に好きになったんじゃないの?」

 

「そ、そんな事は……!」

 

「……この月明かりと星明かりしかない薄暗い夜空の下でも分かるほど顔が真っ赤よ」

 

「あら本当、図星ね」

 

「まるで茹で上がったタコの様に真っ赤だな」

 

エリザベートがジト目で軽く睨み、レティシアとネロはニヤニヤと笑みを浮かべながら見つめる。

 

「〜〜〜〜っ!!!」

 

清姫は薄暗い夜中でも分かるぐらいに顔を真っ赤にしていてあたふたとしながら大慌てをし、精神が安定せず転身火生三昧の青白い炎が全身からチラチラと溢れ出す。

 

それは清姫の本音を見透かされたのと同義だった。

 

清姫はフランスで初めて出会った当初は遊馬を安珍の生まれ変わりだと本気で信じていた。

 

しかし、遊馬が精霊のアストラルと合体してZEXALとなり、数多の奇跡を起こしてきた。

 

この時点で本当に遊馬が安珍なのか微妙に疑いはじめ、決定的だったのはローマの出来事だった。

 

清姫のフェイトナンバーズを初めて召喚された時……清姫のもう一つの姿である大蛇。

 

清姫の下半身が大蛇となり、清姫は遊馬に醜いかと尋ねたが……。

 

『あの、旦那様……醜いですか?私の姿……』

 

『いいや、ちょっと驚いたけど……なーんだ、綺麗じゃないか』

 

『き、綺麗!?』

 

『いやー、もっと怖いものを想像してたけど、なんか神秘的で綺麗だと思うぜ』

 

遊馬は不安そうな清姫に対して首を振って笑顔を見せながら下半身が大蛇の姿をした清姫を綺麗だと嘘偽りなく答えた。

 

もしも遊馬が本当に安珍の生まれ変わりなら、自分を焼き殺した時に近い姿である大蛇を何の怖がりもせずに綺麗だと言うわけがない。

 

それからだった……清姫は遊馬を安珍だと表面上では信じていたが、その裏では遊馬が安珍では無いと少しずつ思うようになっていったのは。

 

しかし、清姫は複雑な心で今まで遊馬と向き合っていた。

 

遊馬を安珍だと信じたい気持ちと安珍では無いと疑う気持ち。

 

それと同時に安珍の生まれ変わりではなく、他の誰でも無い九十九遊馬という一人の少年を心の底から惚れてしまったと言う真実を認めて良いのか。

 

はたまた、その想いを否定するべきなのかどうかと言う、かなり面倒な心境になってしまった。

 

「私は……旦那様を……安珍様ではない遊馬様を本当に好きに、愛しても良いのでしょうか……?」

 

「あんた、本当に面倒ね……そんな事は知らないわよ。あんたらしく自分の心に正直にそのまま欲望に身を任せて行けば良いんじゃないの?」

 

生前からの性格に加えてバーサーカーの狂化でその複雑な心境に苦しんでいる清姫にエリザベートは大きなため息をついて呆れながら言葉にした。

 

「じゃあ私は先に城に戻ってるわね」

 

ここから先は清姫自身が答えを見つけるしか無いと判断し、エリザベートは城へと戻る。

 

レティシアとネロも同意してその場から離れ、清姫だけが残った。

 

「自分の心に正直に……欲望に身を任せて……」

 

清姫はエリザベートの言葉を口にしながら夜空を見上げた。

 

エリザベートのその言葉はいつもの調子の清姫に戻って欲しくて励ましのつもりで言ったものだ。

 

しかし、後にこれがとある無人島の特異点で清姫の大暴走を引き起こすことになるとは……今のエリザベートは想像や予想すらしなかったのだった……。

 

 

 

一方……遊馬と一番強い絆で結ばれたサーヴァント、マシュはと言うと用意された部屋のベッドで寝転がりながらフォウを抱きしめてモフモフしていた。

 

マシュの気持ちを知ってか、フォウは大人しくモフモフされていた。

 

「フォウさん、遊馬君の正体を聞いて驚きましたか?」

 

「フォウフォー」

 

「そうですよね、私も驚きました。まさかアストラルさんの生き別れた半身だとは予想外でした……ですが、私はずっと前から薄々気付いていたんです」

 

「フォー?」

 

「カルデアで初めて会った時から何となく感じていたんです。遊馬君は普通の人でも、魔術師でも、サーヴァントでも無い……他人とは何かが違うと感じていたんです」

 

「フォフォフォー!」

 

「フォウさんもそう思っていました?奇遇ですね……遊馬君は私たちの想像を超える奇跡で多くの困難を乗り越えてきました。その力の源……遊馬君の原点を知りました……」

 

マシュはフォウを強く抱きしめて頬を摺り寄せて更に密着させる。

 

「フォウさん……今はまだ話せませんが、時が来たら私の秘密を全て話そうと思います。遊馬君だけじゃなくて、アストラルさんと小鳥さん。それからカルデアのサーヴァントの皆さんにも……」

 

それはマシュの出生に関わるカルデアでかつて行われたとある計画の内容。

 

もしもその計画を知れば遊馬とアストラルは抑え切れないほどの怒りを爆発させるだろう。

 

更にはマシュと仲の良いサーヴァント達……特にブーディカなどが怒りを露わにするかも知れない。

 

その計画の実行者である男は既にこの世にはいないが、それでもカルデアが一時大荒れする事は間違い無いだろう。

 

「私たちが旅をする特異点も既に半分を切りました……これから戦いが更に激しくなります。だからこそ、話すべきだと思います。皆さんに話すのは少し怖いですが、私自身が大きな一歩を踏み出す時が来たのかもしれません」

 

「フォフォー……」

 

「心配してくれるのですか?ありがとうございます。ところで……フォウさんも不思議な存在ですよね。いつの間にかカルデアにいましたし……何の動物か不明ですし……」

 

「フォウ?」

 

フォウは極寒の雪山にあるカルデアにいつの間にか住み着いており、マシュと出会った。

 

フォウはマシュ以外の人間には誰も懐かず、マシュがお世話掛りとなった。

 

遊馬がカルデアに訪れてからはフォウは遊馬にも懐くようになり、それから特異点の戦いには共に向かう様になった。

 

マシュにとってフォウは無くてはならない大切な存在となっていた。

 

しかし、フォウには謎が多く、一体どこから来たのか、一体どんな生き物なのか……マシュは気になっていたが、調べる事は出来ないし、人語を喋れない動物なのでフォウ本人に聞くことも出来ない。

 

「フォウさん……いつか、あなたのことを知る時が来るでしょうか……」

 

「フォーウ……」

 

フォウは少し不安そうな表情を浮かべていた。

 

まるで自分の正体を知られて欲しくないような……そんな様子だった。

 

そんなフォウの不安な様子に気付いたマシュは励ます様に言葉をかける。

 

「フォウさん、たとえあなたの正体が何であろうとも私にとってフォウさんは大切な存在です」

 

「フォウ……」

 

「ふわぁっ……眠たくなって来ました。そろそろ寝ましょう、フォウさん。お休みなさい……」

 

「フォウフォー」

 

マシュは欠伸をしてそろそろ寝ようと毛布を自分とフォウにかけて眠りについた。

 

すぐに眠りについたマシュだが、フォウは起きていた。

 

「フォフォウ……」

 

フォウは眠っているマシュを見つめると、そのままマシュの頬にキスをした。

 

それはフォウがマシュに対する愛情表現でもあり、フォウ自身もマシュと一緒にいたいと思っていた。

 

しかし、フォウには遊馬の前世と違って、知って欲しく無い恐るべき正体がある。

 

いつか自分の正体がバレてしまうその時が来るのだろうか……フォウは不安になりながら目を閉じて眠りについた。

 

 

 

翌朝、玉座の間にマシュ達が集まるとそこに待ち焦がれていた少年が入って来た。

 

「みんな、おはよう!!!」

 

遊馬は大声で挨拶をして玉座の間に堂々と入り、その後を小鳥が続けて入る。

 

吹っ切れて元気そうな様子なのでマシュ達は驚き、遊馬が真っ直ぐ向かったのはアストラルの元。

 

アストラルは不安そうな表情を浮かべていた。

 

「遊馬……」

 

「アストラル、お前が俺の正体に気付いたのはいつからだ?」

 

遊馬はアストラルが自分の正体にいつから気付いていたのか、それだけはどうしても聞きたかった。

 

「……私と君の最初で最後のデュエルだ。君が私の想いに応えてシャイニング・ドローをした時に気付いた。前々から薄々気付いていたが確信を得たのはあの時だった」

 

「そっか……シャイニング・ドローは最初、アストラルが力を貸してくれていたものだと思っていたけど、そうじゃなかったんだな。エリファスもシャイニング・ドローはアストラル世界の力って言ってたからな……」

 

アストラルの答えに納得した遊馬はデッキケースからカードを取り出して左手に持ち、両手をそのまま前に出す。

 

「アストラル……アナザー、もう一人のお前から託されたものがある」

 

「託されたもの……?」

 

遊馬は右手を軽く握ってから開くと、そこから現れたのはアストラルだけでなくマシュ達も驚くものだった。

 

「ヌメロン・コード……!?」

 

「カードの一番上を捲って見てくれ」

 

アストラルはカードの束の一番上のカードを手に取り、そこに描かれたカードに更に驚いて目が飛び出るほどに見開く。

 

「何だこのホープは……!?私も知らない未知なるホープだと……!?」

 

アストラルはたった1枚残された自分の記憶の欠片であり、遊馬との始まりのモンスターエクシーズである希望皇ホープの見たことないカードに驚いて手が震えていた。

 

「これが何なのかを踏まえて今から説明する」

 

遊馬はアストラルだけでなく、マシュ達にも説明した。

 

昨夜に起きた遊馬とアナザー最初で最後の対話……そして、別れ。

 

遊馬とアナザーの関係、アナザーの真意と遥かなる旅路、託された大いなる力。

 

話を聞くにつれて、アストラルは自分の半身の抱いた覚悟と遊馬が背負っていた運命に心が揺れ動かされて涙を流していた。

 

「アナザー……遊馬、すまない。君を巻き込んでしまって……」

 

「おいおい、何馬鹿なことを言ってるんだよお前は。確かに戦いに巻き込まれて迷惑だなと思ったことは何度かあるけど、俺はお前と出会えて本当に幸せなんだ。お前がいたからこそ、俺は新しい一歩をかっとぶ事が出来たんだ……だから、もうそんなことを言うんじゃねえぞ?」

 

確かに遊馬はアナザーの都合で戦いに巻き込まれたが、遊馬はアストラルと出会ったからこそ数え切れないほどの大切な仲間と経験を重ねることが出来た。

 

「ああ……分かった」

 

アストラルは腕でゴシゴシと擦って涙を拭った。

 

「アストラル、お前は俺の半身……って事は、ある意味俺とお前は双子の兄弟みたいなもんだよな?」

 

遊馬はニッと笑みを浮かべると、アストラルは少し困惑しながら答える。

 

「双子の兄弟か……確かにそうとも言えるな……」

 

双子は古来より相対や相克的な意味など深い繋がりがあると考えられており、二つに分かれたアストラルの魂を前世に持つ遊馬もある意味では二人は双子の兄弟と称してもおかしくはない。

 

「俺さ、お前とはただの相棒じゃなくて、双子の兄弟みたいな関係だと分かって嬉しかったんだ。何て言うか、もっと強い繋がりで結ばれている……もう一人の家族みたいな感じでさ」

 

「遊馬……」

 

人間界でアストラルと過ごすようになってから食事は出来なかったが、それ以外の時間はほぼ一緒に過ごしていた。

 

両親が行方不明で寂しかった遊馬にとってアストラルは相棒だけでなく家族と一緒にいるような気持ちになっていた。

 

しかし、自分の前世を知り、遊馬はアストラルと双子の兄弟のように思うようになり、拳を作ってアストラルに向ける。

 

「俺とお前は大切な相棒であると同時に兄弟だと思っている。俺達の関係がわかったからには、俺とお前の繋がった絆は今までも、そしてこれからも永遠に不滅だ。だから、改めてよろしくな……アストラル!」

 

遊馬のアストラルへの強い想い……相棒であると同時に兄弟であると宣言し、アストラルは無言で拳を前に出す。

 

そして、二人は拳をぶつけてガッシリと熱い握手を交わす。

 

「こちらこそ、よろしく頼む……遊馬!」

 

遊馬とアストラル……前世から強くて深い絆で結ばれた二人は改めて相棒として、そして兄弟としてこれからも共に歩むと誓った。

 

二人の誓いにマシュが近づいて盾を見せながら語りかける。

 

「遊馬君、あなたがこれまで私たちに見せてくれた信念、強さ、言葉、想い、奇跡……それらが私達を救ってくれました」

 

「マシュ……」

 

「あなたの前世の話を聞いてとても驚いていました。しかし、それでも私たちの遊馬君への想いと信頼に何の変化もありません!」

 

マシュはみんなを代表して遊馬への想いを告げていく。

 

遊馬の前世がアストラルだと言うことには確かに驚いたが、遊馬はカルデアに来てからマシュ達とサーヴァント達の為に己を犠牲にしてでも戦い、そして人類の未来を守るため、取り戻す為に全力で戦い続けてきた。

 

「私たちはこれからも遊馬君と一緒に旅を続けたいです」

 

「俺もだ。まだまだ俺達の戦い、旅は終わってねえからな!」

 

「改めて、よろしくお願いします。遊馬君!」

 

「ああ、よろしくな!マシュ!」

 

遊馬とマシュは握手を交わすと、フォウがマシュの体をよじ登って肩に乗る。

 

「フォウフォーウ!」

 

フォウが自分もいるよと遊馬に主張する。

 

「もちろん、フォウもな!」

 

「フォーウ!」

 

遊馬は自分の人差し指を出し、フォウの小さな手とハイタッチをする。

 

遊馬が無事に吹っ切れて立ち上がることができ、ホッとする一同。

 

マスターである遊馬が復活したので早速ケルトとの最終決戦に向けた会議を行おうとしたその時だった。

 

アメリカ兵の一人が玉座の間に急いで入って来た。

 

「大統王!我がアメリカ領にサーヴァントが現れました!」

 

「何!?ケルトのサーヴァントか!?」

 

「い、いいえ!ケルトのサーヴァントではありません。我々に危害は加えてませんが、こう申しておりました。『二つ槍を持つ女のサーヴァントよ、立ち合いを所望する』と……」

 

「二つ槍の女サーヴァント……それって、スカサハ師匠の事か?」

 

全員の視線がその特徴に一致するスカサハに向けられる。

 

そのサーヴァントの言うことが本当ならばスカサハと戦いたいと言う内容だった。

 

「この私と戦いたいか……下手に断ると何をするか分からんからな。ユウマよ、とりあえず出迎えた方が良いと思うが?」

 

「そうだな……俺たちも行こう!」

 

スカサハとの立ち合いを望む謎のサーヴァントに会うため、遊馬達は何かの罠の可能性も考えられるので警戒しながら向かった。

 

 

 




次回はあの中国サーヴァントの登場です。
それと、前から考えていたマシュの強化イベントを書きたいと思います。

清姫ちゃんですが……察しの通り、バーサーカーではなくあのクラスになると色々と暴走しますのでそのフラグです(笑)

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