これでマシュがかなり強くなります。
アニメのバビロニア編、個人的に色々面白いです。
それを小説で書ける日……いつになるだろうなと思いながら頑張ります。
今年のハロウィンイベントですが……まさかの予想外の展開に驚愕しました。
FGOって本当にシリアスとギャグの差がとんでもないので唖然としますね。
宇宙か……銀河眼一族とかを乱入させて大暴れしたい気分になりました(笑)
遊馬達はアメリカ領に現れた謎のサーヴァントに会いに向かった。
城の外の荒野の大地に茜色の中華の武術家の服装をして槍を持つ赤毛の男サーヴァントだった。
「あの服装……カンフー映画とかで見たことあるな。中国人か?」
「あの独特な服装は中国特有だから確かだろうな」
遊馬とアストラルはその男サーヴァントが中国系出身だとすぐにわかった。
男サーヴァントは遊馬と共にいるスカサハを見ると立ち上がって威風堂々と名乗り出た。
「ランサー、李書文!よくぞ現れてくれたな、二つ槍のサーヴァントよ!」
「李書文……槍と中国拳法において最強と呼ばれた男だ」
李書文。
李氏八極拳の創始者で、「二の打ち要らず」「神槍」などの二つ名で恐れられた中国拳法の屈指の使い手。
「貴様を見た時から我が心中は嵐の如し。もはや倒さねば収まらん。いざ、立ち合いを所望する!」
「──ほう、私とか?」
スカサハは真正面から立ち合いを求められて興味が出てきた。
どうやら李書文は何処かでスカサハを見かけて立ち合いを求めようとしたが、それよりも早くスカサハが遊馬達と出会ってかっとび遊馬号で一気に移動したりしたのですぐには会えなかったようだ。
「無論。儂が召喚された理由は知っている。しかし、自分はやはり──どうしょうもなく、我欲に満ちた存在でな。己の槍が神に通じるかどうか、試したくてたまらんのだ」
「飢虎、あるいは餓狼というやつか……」
ラーマは武人として強者であるスカサハとの戦いを求める李書文をそう表現した。
「まあ気持ちはわからんでもないけどな……」
遊馬は根っからの武人ではないが、デュエリストとして自分より強いデュエリストと戦いたい気持ちもあるので李書文の気持ちも理解出来なくもない。
「……なんといじりがいのあるオモ……コホン。鍛えがいのある逸材よ」
「おい師匠、今なんて言いそうになった?」
「気にするな、クー・フーリン。さて、李書文よ。ここが影の国であれば真っ先に稽古をつけるところだが、あいにく私はユウマ専属になった。故に順番というものがある」
スカサハはマシュのそばに行くと軽く背中を叩いて前に出す。
「マシュと戦い、勝利してみろ。であればこのスカサハが直々に相手しよう。だが敗北したなら、疾く立ち去るがいい」
「えっ!?」
「……なるほど、道理ではある。ではマシュとやら、立ち会い願おう」
「……どうする、マシュ?」
遊馬はD・パッドとD・ゲイザーをいつでも展開できるように持ち、マシュに尋ねる。
「……私、やります」
マシュはすぐに覚悟を決め、遊馬も頷いて戦闘準備をする。
「よっし、行くぜ……マシュ!」
遊馬はD・ゲイザーとD・パッドを上に投げて展開しようと思ったその時だった。
「待て、ユウマ」
スカサハが槍を遊馬の前に出し、動きを止めさせた。
「な、何するんだよ、師匠!?」
「この戦いはマシュ一人でやらせる。マスターとはいえ、ユウマの手出しは禁止だ。当然他の者もだ」
「待てよ、師匠。流石にマシュの嬢ちゃんじゃ荷が重すぎるだろ。ここはあんたの弟子である俺にやらせろよ」
クー・フーリンは自分が戦うと反論するが、スカサハの意思は変わらなかった。
「ダメだ、この戦いはマシュだけにやらせる」
誰が見てもマシュが李書文に勝てるとは思えなかった。
遠目からでも分かる武人としての強者のオーラ。
ケルト最強クラスの戦士、スカサハに立ち合いを求めるだけの事はある。
マシュは目を閉じて大きく深呼吸をして静かに開くと、覚悟を決めたように強い意志を秘めた目をする。
「……分かりました。私、やります」
盾を握り直し、ゆっくりと李書文に向かって歩き出す。
「ま、待ちなさい、マシュ!あなたじゃ勝ち目がないわ!」
オルガマリーが慌てて止めるが、マシュは歩みを止めない。
「確かに勝てないかもしれません。ですが、クー・フーリンさんや多くのケルト戦士を育てたスカサハさんが何の考えもなくそんなことを言うわけがありません」
マシュはスカサハに試されている、もしくは別の意図があって李書文と戦わせると考える。
それからもう一つ、マシュはある目的があった。
(私自身が今よりもっと強くなるために……ランクアップするために!)
それはマシュ自身が強くなるためで、遊馬とアストラルの言葉を借りるならランクアップを果たすためである。
マシュはデミ・サーヴァント故に他のサーヴァントと比べると宝具やスキルを満足に扱う事はできない。
しかし、第四特異点のロンドンでマシュの心の成長に新たなフェイトナンバーズが誕生し、新たなランクアップの兆しが見えた。
遊馬とアストラルは自分たちも強くなると言ったが、二人は既に強い力を有している。
特に遊馬の前世の話を聞いて一刻も早く強くならなければと思っていた。
マシュは覚悟を決めて盾を構えて堂々と名乗る。
「カルデア連合軍所属。デミ・サーヴァント、シールダー。マシュ・キリエライト、行きます!」
マシュの覚悟の名乗りに応える為に、李書文も槍を構えて堂々と名乗る。
「サーヴァント、ランサー。李書文。いざ尋常に……勝負!!」
マシュと李書文は同時に地を蹴って戦闘を開始した。
今までは遊馬や他のサーヴァント達と共に戦っていたので、これはマシュにとって初めての一対一の戦いだった。
マシュは今までの戦いや訓練を思い出しながら全力で李書文に挑む。
盾を振るい、拳と蹴りの体術で果敢に攻めるが……。
「未熟!脇が甘い、踏み込みが足らん!!」
「くうっ!?」
中国拳法最高峰の英霊である李書文はマシュの未熟な点を指摘し、嵐のような激しい攻撃を繰り出す。
マシュは体が傷つきながらも必死に戦うが、李書文の武人としての技量が圧倒的な実力差を生んでいた。
「諦めろ、マシュよ。お主では儂には勝てん」
「諦めません……私は、諦める事は決してしません!」
マシュは何度も立ち上がって李書文に挑むが……その度に体にダメージを負っていく。
諦めずに何度も立ち上がるマシュだが、既に勝負はついているのと同じだった。
「勇気ある乙女よ、ここで終わりにさせてもらう!」
李書文は魔力を解放して宝具を発動する。
既に勝負はついているが最後まで諦めずに戦うマシュに敬意を評して宝具を使うことにしたのだ。
「マシュ!!」
遊馬はデュエルディスクとD・ゲイザーを装着してすぐにマシュを助けようとしたが、既に遅かった。
「我が槍は是正に一撃必倒。神槍と謳われたこの槍に一切の矛盾なし! 『
李書文の放った神速とも言うべき速度を出す槍がマシュの心臓に目掛けて放たれ、槍の穂の先から衝撃波が放たれる。
達人の腕前で槍の穂自体でマシュの体に大きな傷は付いてないが、衝撃波が凄まじくそのまま後ろに吹き飛ばされて地面に倒れる。
その際に盾がマシュの手から離れて地面に落ちる。
ピクリとも動かないマシュに遊馬達は顔を真っ青にしてすぐに走り出した。
「マシュ!!!」
「すぐに緊急治療を行います!一刻を争います!!」
「フォー!!」
ナイチンゲールはすぐにマシュの治療を開始する為にまずは宝具を使用して体力の回復をさせようと考えた。
一方、クー・フーリンはこんな結果になった原因となったスカサハに対して胸ぐらを掴んで怒鳴りつける。
「おい師匠!!あんた何を考えてやがるんだ!?マシュの嬢ちゃんは生身の人間だぞ!死んじまうだろうが!!」
クー・フーリンは何度もマシュの危険な時に助けに行こうとしたがそれをスカサハが止めていた。
マシュはデミ・サーヴァントであり、生身の人間でもある。
サーヴァントのように倒れれば消滅するわけではなく、当然死を迎えることとなる。
しかしスカサハは特に焦った様子も見せずにマシュの方を見つめる。
「……まだマシュは死んでない。それにあれを見ろ」
「何だと……!?」
クー・フーリンが急いで振り向くとそこには……。
「ゲボッ、ゲホッ……はぁ、くっ……まだ、やれます……!」
既に瀕死の状態でありながら呼吸を整え、フラフラになりながら起き上がり、強い意志の秘めた瞳で睨みつけるマシュの姿だった。
「馬鹿な……!?手加減をしたとはいえ、あれを受けて動けるはずが……!!」
李書文もマシュを殺すつもりはなかったので手加減をして宝具を放った。
しかし、神槍と謳われた槍の一撃をまともに受けながらもそこから立ち上がった事に驚きを隠せなかった。
「マシュ……!」
「いけません、ミス・マシュ!すぐに私の治療を受けなさい!」
「フォウフォー!!」
遊馬達はマシュを止めようとしたが、マシュは首を左右に振る。
「私は……こんなところで、倒れるわけには行きません……!」
地面に落ちた盾を拾い、両手で持ち上げる。
マシュは何のために立ち上がり、戦うのか……それを言葉にする。
「遊馬君……フォウさん……アストラルさん……ドクター……ダ・ヴィンチちゃん……オルガマリー所長……小鳥さん……カルデアの皆さん……サーヴァントの皆さん……私の大切な人達を守る為に、私は何度でも、立ち上がります!!」
十字の盾を見つめ、自分の中にいる力を貸してくれている英霊にも届くように想いを込めて声を張り上げて叫ぶ。
「この盾に……私に力を貸してくれた英霊さんに、誓ったんです。大切な人達を守る……遊馬君達と一緒に、人類と世界の未来を必ず取り戻すと!!私はマシュ・キリエライト!遊馬君のもう一人の相棒で最高のサーヴァント!そして、人類と世界を守護するシールダーです!!私は絶対に諦めない、何度でも立ち上がります!!マシュビングです、私!!!」
盾を高く掲げ、これまでに培ってきた想いの全てを解き放ち、決意の宣言をするマシュ。
その宣言に誰もが驚いていると、遊馬のデッキケースから眩い虹色の光が放たれる。
デッキケースが開くと2枚のカードが飛び出してそれぞれ遊馬とマシュの前に止まる。
「これって、マシュのランクアップしたカード……」
遊馬の前に止まったのはロンドンで誕生したマシュのもう一枚のフェイトナンバーズ。
そして、マシュの前に止まったのは何も描かれていない白紙のカードだった。
「このカードは……もしかして、遊馬君の前世、アナザーさんの……」
それは遊馬の前世、アナザーが残した未知なる可能性を秘めた白紙のカードだった。
何故突然自分の前に現れたのか分からず、マシュは無意識のうちに手を伸ばしてカードに触れた。
指先にカードが触れた瞬間……カードから虹色の輝きを放つとマシュの胸元に飛び込み、そのままマシュの体の中に入り込んだ。
「えっ……?」
予想外の事態に何の対処も出来ずに呆然とすると、突然目の前の風景が一変し、何も無い真っ白な世界となってしまった。
『遊馬と共に歩む心優しき守護者よ……』
周りを見ても誰もおらず、マシュの心に直接語りかけるように聞こえていた。
アストラルに近い声音にマシュは誰なのかすぐに察した。
「この声……まさか、アナザーさん……ですか……?でもあなたは……」
『これは私の残したカードの中に宿った残留意識のようなものだ……』
「残留意識ですか……?」
『さて、本題に入ろう。君の魂と肉体は既にランクアップの域に達している。私が枷を外してあげよう』
「枷……?」
枷とは何のことだろうと疑問に思うマシュにアナザーは静かに話す。
『君の記憶を少し見させてもらった。長い間、人間の歴史を見てきたが……吐き気がするほどの人間の愚かな考えを見てしまった。勝手な真似をしてすまない……』
「い、いえ……」
アナザーに遊馬達にすら話していない自分の過去を知られたが、アナザーの態度から自分で話すことはないだろうとマシュは判断する。
『君の肉体に刻まれた愚かな人間達によって刻まれていたもの……魔術と言うものか。それが君のランクアップを阻害していた』
「そうだったんですか……?」
どうやらマシュがランクアップする為にはこの世界の魔術が合わないとアナザーは指摘した。
『君と遊馬が契約を結び、強い絆で繋がった事で君の魂と肉体は大きな変化を齎らしたが、その肉体に刻まれている魔術がランクアップを阻害していた。今から私の力で無用な物を全て破壊し、君の肉体を再構築して新しい君へと生まれ変わるのだ』
アナザーはマシュをランクアップさせるため、不要な要素を全て排除する為にマシュの周囲に無数の数式や魔法陣を展開させる。
「新しい私、ですか……?」
ランクアップを望んでいたとはいえ、新しく生まれ変わると言われて不安になるマシュをアナザーは優しく語りかける。
『心配しなくても良い。君と君に力を貸している英霊には悪影響を与えない。ランクアップすることで、君は少なくとも……人並みに長生きをする事ができる』
「……やっぱりそこまで知られたんですね。でも、本当に私は……」
『長年、ヌメロン・コードと一体化していた私の力なら問題ない。だけど、一つだけ頼みがある』
「頼み、ですか?」
『遊馬とアストラルの事を頼む……もう一人の相棒と認めている君だけにしか出来ない事だ』
自分の代わりに遊馬とアストラルを守って欲しい……それがアナザーからマシュへの願いだった。
マシュはその願いに一瞬だけ驚いて目を見開いたが、元々マシュは人理を救う戦いの旅を始めた当初からそのつもりだったのですぐに頷いて了承する。
「任せてください。必ず……遊馬君とアストラルさんをお守りします!」
『頼んだよ、マシュ……さあ、そろそろ始めようか』
「はい……!」
マシュは目を閉じると無数の数式と魔法陣が動き出し、マシュの体に入り込む。
そして、マシュがランクアップする為の肉体の最適化、及び再構築を同時に行う。
人間として、デミ・サーヴァントとして、フェイトナンバーズとして、ランクアップを果たす。
マシュを包む光が静かに消え、たった数十秒の僅かな時間だが、まるで別人で何年も会ってないような不思議な雰囲気を出していた。
「マシュ……?」
いつもと雰囲気の違うマシュに遊馬は唖然としながら言葉をかける。
すると、眼を閉じていたマシュの両眼が静かに開くと、髪の色と同じアメジストのような美しい紫色の瞳が遊馬や希望皇ホープ達と同じ真紅色に輝いた。
そして、右手の甲に刻まれたナンバーズの『00』の刻印から翡翠の閃光が光り輝き、マシュは進化への言葉を紡ぐ。
「未来を司る力よ、数多の希望の光を集わせ、我の運命を斬り開け!!ランクアップ・エクシーズ・チェンジ!!!」
マシュの足元に金色に輝く巨大な魔法陣が現れると遊馬のデッキケースとアストラルの胸元から複数枚のカードが飛び出した。
「今度は何だ!?」
「私のカードまで……飛び出したカードは全て……まさか!?」
マシュの周りにカードが集まり、そこからモンスターの幻影が現れる。
現れたのは遊馬とアストラルの希望と未来を司るモンスター……希望皇ホープとその進化系モンスター達、そして未来皇ホープだった。
ホープ達はそれぞれ小さな光の玉になり、マシュの周りを軽やかに舞う。
ホープのカード達が全て遊馬とアストラルの元に戻ると、光の玉が全てマシュの体に入り込み、マシュの体が光り輝く。
「ホープ達の力がマシュの中に……!?」
「一体何が起きているんだ……!?」
ホープの使い手である遊馬とアストラルでさえも予測不能な事態に困惑する中、遊馬が持つマシュのフェイトナンバーズが共鳴するように光を放つ。
すると、光り輝くマシュに大きな変化が起きる。
十六歳のマシュの体が一回り成長し、ボブぐらいの髪が一気に伸びて綺麗なロングヘアとなった。
胸の膨らみなど女性の特徴的な体が更に成長し、幼さの残る顔立ちが凛々しくなる。
体だけでなく、マシュの体を覆う鎧も変化し、黒の軽装の鎧がより豪華になっていき、その上から希望皇ホープと未来皇ホープのプロテクターが合わさったような鎧が両腕と両脚、背中には未来皇ホープの四枚の機械の翼が装着された。
そして……イラストだけで真名と効果が判明していなかったが、マシュの覚悟とアナザーのカードの力によりその全てが刻まれてフェイトナンバーズが完成した。
「や、やった……!マシュの新しいフェイトナンバーズが完成した!」
念願のマシュの新たなフェイトナンバーズが完成し、喜びから手が思わず震えてしまう遊馬。
「これは……!?素晴らしい、まさに遊馬と私に相応しい力を持つフェイトナンバーズだ……!」
アストラルはマシュの新しいフェイトナンバーズの効果を瞬時に一読し、その素晴らしい効果に舌を巻いた。
マシュは盾を右手で軽々と持ち上げ、両腰に未来皇ホープの二振りのホープ剣が出現する。
左手で右腰のホープ剣の柄を握って引き抜き、ホープ剣の切っ先を李書文に向ける。
「我が名は……マシュ・ホープライト!!!人理の未来を守る、希望の守護者!!!」
マシュのランクアップしたフェイトナンバーズの真名は『FNo.0 希望の守護者 マシュ・ホープライト』。
遊馬とアストラルとマシュ……三人の力と想いが一つに合わさったランクアップした最高の力である。
「良いだろう……もう一度相手をしてやろう」
突如その姿が大きく変化したマシュに驚きながらも李書文はその未知なる力に興味が出てきた。
「……行きます!」
マシュは地を蹴り、李書文は身構えた。
しかし、僅か一瞬の後に李書文の眼にはマシュの姿が映らなかった。
次の瞬間、李書文の腹部に強烈な痛みが走ると同時に宙へ投げ飛ばされる。
「ゴフッ……!?何が、起きた……!?」
軽く吐血し、何が起きたのか分からずにいると、李書文の目に映ったのは……。
「ロード・カルデアス・ストライク」
今さっき自分のいた場所のすぐ前に、盾を鋭く突き出したマシュの姿だった。
何が起きたのか李書文はようやく理解出来た。
マシュはあれほど大きな盾を持ちながら李書文が気付けないほどのスピードで間合いに入り、盾を鋭く前に突き出して李書文の腹部を突いたのだ。
(馬鹿な……この儂が反応できないほどの速さ……先程とはまるで別人のように動きが違う、あの短時間で何が……!?)
最初の戦いとはまるで違う別人のような戦いに驚きを隠せずにいた。
「一気に……決めます」
マシュの真紅色の瞳が妖しく輝き、李書文は槍を構え直す。
李書文は神速の速さの槍を振るい、マシュは盾とホープ剣を奮って槍の攻撃を捌いていく。
重い十字の盾と直剣と言うアンバランスな組み合わせだが、マシュはそれを見事に使いこなしていた。
槍を振るい、マシュの盾とホープ剣に触れる度に李書文はある力の波動を感じていた。
「そう言うことか……」
それはマシュの中にある大いなる力。
十字の盾を持つ騎士、そして……先程の幻影として現れた未来皇ホープと希望皇ホープ達。
今のマシュはそれらの騎士と戦士、その全ての力が宿っている。
マシュは李書文から距離を取ると、左手に持ったホープ剣を上に放り投げ、更に右腰のホープ剣を引き抜いて同じように放り投げた。
盾を空に向かって掲げると、二振りのホープ剣と盾が共鳴して金色の光を放つ。
二振りのホープ剣は並列に並んで盾の上部に置かれたように浮くと、金色の光が徐々に強くなっていく。
そして、金色の光に包まれたホープ剣と盾は巨大な光の剣となる。
それはアルトリアの約束された勝利の剣と同等の美しい極光だった。
マシュは光の剣を振り下ろし、金色の極光を放つ。
「ロード・カルデアス・スラッシュ!!!」
振り下ろした剣から極光が解き放たれ、光の濁流が李書文に襲いかかる。
「心強き乙女と思っていたが、違っていたか……どうやら儂はとんでもない獅子を目覚めさせてしまったようだな」
李書文は避ける間もなくその場に膝をついた。
腹部からジワジワと血が流れており、実はマシュに盾で腹部を強打されたのが既に致命傷となっており、いつ倒れてもおかしくはなかったのだ。
まるで龍の逆鱗に触れたように、眠れる獅子を目覚めさせてしまったようにマシュの凄まじい力によって李書文は目を閉じ、その極光を受け入れた。
極光の光は李書文を呑み込み、誰もが消滅したと思ったが……。
「……何?」
放たれた極光はすぐに消え、李書文は消滅する事は無かった。
とは言え、極光のダメージもそれなりに体に与えており、李書文のランサークラスを象徴する槍は砕かれて使えなくなってしまった。
「……娘よ、何のつもりだ?」
倒されるつもりだった李書文だったが、突然攻撃を弱めたことに不可解で睨み付けながら尋ねた。
「……私達の戦うべき敵はケルトです。あなたはただ、強敵と……スカサハさんとの戦いを望んでいるだけです」
マシュが本当に戦うべき相手はケルトで李書文ではない。
「何故止めを刺さなかった……?」
「それにもう勝負はつきました。槍は壊れてしまいましたが、あなたは八極拳という体術の優れた使い手でしたよね?それならまだ戦えるはずです。傷は浅くはありませんから、すぐにナイチンゲールさんから治療を受けて下さい。私達の仲間になるかはどうか、あなた次第ですが……もしも私の願いを聞いてくれるなら、どうかその力でケルトと戦ってください」
李書文もマシュを殺すつもりはなかったので、マシュも李書文を倒さなかった。
仲間にならないかもしれないが、個人的に強敵がまだ存在するケルトと戦うかもしれない。
そして何より……。
「遊馬君なら……私のマスターなら、そう判断すると思ったからです」
マシュはマスターである遊馬の事を思いながらそう言い、笑みを浮かべてホープ剣を両腰に戻した。
マシュの想いに李書文に座り込み、その将来を楽しみに思い、軽く笑みを浮かべながら言葉を残す。
「娘よ……一つ忠告しておく。『相手より己が上である』と吼えるのではなく、『相手より己は上回るのだ』と牙を向くのだ」
「相手より、己は上回る……」
「その力は確かに強大だ。だが、過信するな。力に溺れるな。やるべきことは変わらんが、いささか心持ちが違う。何より──自分の限界を超える、と言うのは楽しいぞ?」
それは一人の武人として長年戦い続けてきた李書文としてのアドバイスでもあった。
マシュはその言葉を素直に受け入れてそのまま胸に秘める。
「はい!ありがとうございます!」
有り難いアドバイスを貰い、頭を下げて感謝の言葉を述べるとマシュは遊馬達の元へ戻る。
いち早くマシュに駆け寄った遊馬とアストラルとフォウは心配そうに見つめる。
「マシュ、大丈夫か!?」
「はい、何ともありません。絶好調です!」
「フォウ、フォフォーウ!」
フォウは涙を浮かべながらマシュに飛びつき、肩に乗って頬擦りをする。
「フォウさん!ごめんなさい、心配をかけてしまいましたね」
マシュはフォウの体を撫でてあやすと、アストラルは興味深そうにマシュの全体を見つめる。
「以前よりもホープの力が君と混ざり合って更に強くなっている。君自身が上の次元へとランクアップしたと言うことだな」
「はい!色々ありましたが、無事にランクアップを果たしました!」
「いいなー、身長が大きくなるのは羨ましいぜ。俺も早く大きくなりたいぜ……」
「それは大丈夫だと思います。あくまでこの姿は戦闘時の一時的なものなのでまたすぐに元に戻りますよ」
「そうなのか?それにしても、最高にカッコ良かったぜ、マシュ!」
「君は本当に強くなった。私たちも誇らしいよ」
「フォウフォーウ!」
「ありがとうございます、遊馬君、アストラルさん、フォウさん!」
遊馬達はマシュのランクアップと勝利を共に喜び、祝おうとした。
「おやおや、うたた寝していて、とても美しい光を見つけたと思ったら……君たちか」
突如、不思議な声と共に周囲の空気がガラリと変わるように白い霧が広がった。
遊馬達は敵襲かと警戒すると、霧の中から一人の男が現れた。
大きな杖を持ち、白いフードを被った若い男が現れた。
「誰だ……あんたは……?」
「フォウ、フォウフォウ、フォーウ!!!」
フォウはマシュの肩の上で見たことないほどの怒りの形相を浮かべて吠えていた。
「フォ、フォウさん!?どうしたんですか!?」
男はフォウを見つめると懐かしいものを見たような笑みを浮かべて口を開いた。
そして……男の口から衝撃的な発言をする事となる。
「『キャスパリーグ』……久しぶりじゃないか、元気にしていたか?」
キャスパリーグ。
男からフォウに向けられたその名前にアストラルは衝撃を受けて驚愕の表情を浮かべた。
「キャスパリーグ……だと!?」
「どうしたんだよ、アストラル。そんなに驚いて……」
「遊馬……キャスパリーグはある物語で登場するモンスターの名前だ」
「何の物語だよ?」
アストラルは少し震えながらキャスパリーグの説明をする。
「キャスパリーグ……それはアーサー王物語において、ブリテンに災いをもたらすと予言された災厄の獣の名だ。凶悪な魔獣の姿をしたそれは180人の戦士を葬り、アーサー王の約束された勝利の剣の刃を通さない強靭な毛皮を持ち、爪でアーサー王の鎧と鎖帷子を斬り裂いて重傷を負わせたと言われている……」
「……は?何だよそれ……フォウが……その魔獣だって……?」
あまりにも衝撃的な内容に遊馬は呆然としながらフォウを見つめる。
「フォウさん……?」
「フォ、フォウ……」
フォウはマシュの肩の上でガタガタと震えていた。
まるで自分の誰にも知られたくない正体を知られたような様子で、今まで見た事ないほどに不安な表情を浮かべていた。
遊馬、マシュが自分と向き合い、新たな道へと踏み出した。
そして……今度はフォウが自分と向き合う時が来たのだ。
.
マシュをちょっと強くし過ぎた感がありますが、今後の特異点は化け物揃いなのでこれぐらいは良いかなと思っています。
ランクアップしたマシュの姿は数年後の成長したイメージです。
原作には無いのでそこは皆さんのイメージ頼りになりますが……。
ラストに出てきたのは皆さんご存知のロクデナシ野郎です。
フォウの正体をここでバラしたのはフォウと遊馬達の絆を深めたいなと思ったので早めにしました。
遊馬の正体を知り、マシュがランクアップを果たし、次はフォウだなと前々から決めていました。