Fate/Zexal Order   作:鳳凰白蓮

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今回でプリズマ・コーズ編は最終回となります。
プリズマ☆イリヤのネタを確認する為に原作とアニメを見直して書きました。
話の内容は主に説明中心です。
エミヤ達からしたらプリズマ☆イリヤの世界はかなり驚愕ですからね。


ナンバーズ147 アインツベルン家&衛宮家の緊急家族会議!

奇跡と奇跡の重ね掛けにより、カルデアに訪れた3人の魔法少女、イリヤと美遊とクロエ。

 

そして謎の2本のステッキ、ルビーとサファイア。

 

正式にカルデアのサーヴァントとなり、まず食堂で食事を取ろうと遊馬達の案内で廊下を歩いていく。

 

すると、まるで狙ったかのように一人のサーヴァントが現れた。

 

「おお、マスター!無事に帰還して──ヌォアッ!?」

 

「おー、黒髭。どうしたんだ?」

 

それは黒髭で帰ってきた遊馬と色々語り合おうと思ったが、イリヤ達を見た瞬間に目が飛び出るほど驚いた。

 

「マ、マ、マスター!そこにいる可憐な美少女達は!!?」

 

「ああ。新しくカルデアに来たイリヤちゃんと美遊ちゃんとクロエちゃん。みんな異世界から来た魔法少女なんだぜ」

 

「ままま、魔法少女!?マジでガチで!?リアル魔法少女がこのカルデアにでござるか!?」

 

絶世の美少女達と言っても過言ではないイリヤ達だが、それに加えて魔法少女と言う最強の属性が加わり、黒髭のテンションは最高潮に高まった。

 

「おっと、失礼お嬢さん方。私の名はエドワード・ティーチ。通称・黒髭。泣く子も黙る大海賊でございます」

 

黒髭は第一印象は大切だとすぐに呼吸と心を整えて紳士的な対応をして自己紹介をする。

 

黒髭と大海賊というキーワードにイリヤ達はすぐに頭に豆電球が光ったように思い出した。

 

「黒髭……?ああ、分かった!黒髭危機一髪だ!」

 

「それって、前に遊んだあのゲームの海賊……?」

 

「そっか、通りで見たことがあると思ったわ」

 

「黒髭危機一髪?マスター、それは何でござるか?」

 

「簡単に言えば黒髭をモチーフにしたおもちゃだよ。確か日本で造られていて、子供なら一度はやったことがあるか、やったことなくてもその存在は知ってるぐらいのメジャーなおもちゃだぜ」

 

黒髭危機一髪とは樽に入った黒髭をモチーフにした小さな人形を助けるために樽に小さな剣を突き刺して人形を飛び出させるおもちゃだ。

 

「何と!?まさか拙者の存在が知らず知らずのうちに日本人に擦り込まれていると!?では魔法少女のお嬢さん方……もしよければお茶でもご一緒に……」

 

黒髭がイリヤ達とお近づきになるためにお茶に誘おうとしたが……。

 

「◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎ーー!!!」

 

突如として獣のような咆哮が廊下に轟き、イリヤ達の上を大きな影が飛び越えた。

 

その影にイリヤ達は目を見開くほど驚愕した。

 

「あ、あれは……バーサーカー!?」

 

「私とイリヤがやっとの思いで倒したクラスカード最後のサーヴァント……!」

 

「うわぁ……こうやって間近で見ると迫力凄いわね……」

 

それはギリシャ神話の大英雄・ヘラクレス。

 

実はイリヤと美遊はクラスカード回収の最後の戦いで対峙したのがヘラクレスだったのだ。

 

ヘラクレスは憤怒の形相を浮かべて黒髭を睨み付けた。

 

「ギャアアアアアアッ!?へ、ヘラクレス殿!?どうしたのでござるか!?何故そんなに怒っているのでござるか!?」

 

何故いきなりヘラクレスが現れて睨まれているのか分からずに困惑し、更にはそのあまりの恐ろしさにガタガタと震えている。

 

「◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎!!」

 

「プギャア!?」

 

ヘラクレスはその巨体の手で黒髭の体を掴んで軽々と持ち上げた。

 

そして、ヘラクレスは背後にいるイリヤ達の姿を確認するように顔を後ろに向けた。

 

「◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎……」

 

「えっ……?」

 

とても強く、そして恐ろしいと思っていたヘラクレスだが、イリヤの目に映ったのは別のものだった。

 

それはほんの一瞬だけだったが、大切な人を見つめるような、とても優しい表情だった。

 

「◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎ーー!!!」

 

ヘラクレスは何故かテンションが上がりながら黒髭を武器のように激しく振り回した。

 

「ノォオオオオオッ!?ヘールプ!マスター、プリーズヘルプミー!このままだと拙者はヘラクレス殿に振り回されてジェットコースター状態で頭がおかしくなるでござるうっ!アブブブブッ!?く、首が、首がへし折れてしまうでござる!?ヘラクレス殿、どうか、どうかお助けぉおおおおおーっ!?」

 

激しく振り回されて首がへし折れそうになるような状態になりながらヘラクレスは何処かへと走り去ってしまった。

 

「え、えっと……黒髭さん、大丈夫ですか……?」

 

イリヤはヘラクレスに連れ去られてしまった黒髭の安否を心配した。

 

「まあ大丈夫だろ。黒髭、結構頑丈だし」

 

「たまに色々なサーヴァントからお仕置きを受けるから私たちもそこまで心配していない」

 

「少ししたらケロっと戻ってくるので大丈夫ですよ」

 

「フォキュー」

 

遊馬達は黒髭の頑丈さを知っているので特に心配せずにイリヤ達の案内を再開する。

 

ようやく食堂に到着して中に入り、その広さと綺麗さにイリヤ達が驚いていると一人のサーヴァントが出迎えた。

 

「あら、マスター。やっと帰ってきたのね。本当に忙しくて大変──」

 

それはイシュタルで特異点から帰って来た遊馬達を労ろうとしたが、その後ろにいるイリヤ達を見た瞬間に表情が固まった。

 

そして、普段から優雅であろうとしている態度から一変して非常に驚いた様子で叫んだ。

 

「イ、イリヤァ!?何であんたがここにいるのよ!?」

 

対するイリヤ達も口を大きく開けて大量の汗をかいて叫んだ。

 

「り……凛さーん!?なんて破廉恥な格好をしているんですか!?いつもの赤を基調とした服はどうしたんですか!?」

 

「は、はぁ!?り、凛さん!?」

 

「凛さん……まさか、またルヴィアさんの家の物を壊して、借金してそんな格好に……!?」

 

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!?ルヴィア!?借金!?一体何のことよ!?」

 

「あちゃあ……これはもう本当にヤバいわね。遂に頭が狂ったか、ルビーにでも変な薬を打たれたの?」

 

「狂ってないわよ!?私は正常よ!ってか、あんた誰よ!?それにい、今、ルビーって……」

 

「いやー、凛さん。なかなか破廉恥で大胆な格好をしていますね。魔法少女とは別物ですが、ルビーちゃん的にはなかなか良いのでマイフォルダに保存しておきますね♪」

 

「不思議な格好ですがとてもよくお似合いですよ、凛様」

 

ルビーとサファイアが謎機能の一つでカメラのレンズが飛び出てイシュタルを撮影していると、イシュタルは顔を真っ青にした。

 

「ギ……ギャアアアアアアッ!?カ、カレイドルビー!?何であんたがここに!?あんたは宝箱の中に厳重に封印したはず!?それに何なのよルビーそっくりのそのステッキは!?」

 

「宝箱?封印?」

 

イシュタルの言葉にルビーはその意味が何なのかすぐに理解し、イリヤ達の誤解を解くために説明をする。

 

「あー、なるほどなるほど。そういう事でしたか。ようやく理解しましたよ。イリヤさん、この凛さんは私たちの知っている凛さんではなく並行世界の別の凛さんみたいですよ」

 

どうやらイリヤ達が以前から何度も言っていた凛はカルデアにいるイシュタルとは別の並行世界の凛らしい。

 

「えーっ!?そ、そうなの!?あ……そうだよね。凛さんがルビーや宝石みたいな魔法のアイテムもなくカルデアにいるはずもないよね……」

 

「へ、並行世界?待ちなさいよ、じゃああんた達は……!?」

 

「どうしたんですか、凛。先程から騒がしい……イ、イリヤスフィール!?」

 

イシュタルの次に食堂から現れたのはメイド服では無く、いつもの青を基調とした服を身につけたアルトリアだった。

 

「えっ……?ああっ!あ、あなたはセイバー……アーサー王さん!?」

 

「アーサー王……!?ほ、本物!?」

 

「ちょっと、カルデアにはアーサー王まで召喚されているの!?凄すぎじゃない!?」

 

クラスカード回収の戦いでセイバー……アルトリアと戦ったイリヤ達は世界で一番有名と言っても過言ではないアーサー王がいることに驚く。

 

「ア、アーサー王さん……?と、とにかくイリヤスフィール、ここで待っていてください!すぐにみんなを呼んで──」

 

「あらあら、セイバー。そんなに慌ててどうしたの?」

 

そこにおっとりとした声が響き、イリヤとクロエはその聞き覚えのある声にハッとなり、目を見開いて振り向いた。

 

振り向いた先にいたのは天の衣に包まれた女性……アイリスフィール・フォン・アインツベルン。

 

イリヤとクロエはアイリの姿に呆然としながら呟いた。

 

「「ママ……?」」

 

「イリヤ……イリヤ!!」

 

「「わぷっ!?」」

 

アイリは大粒の涙を浮かべ、両腕を広げてイリヤとクロエを抱きしめた。

 

「ちょっ、ママ、苦しいよ……」

 

「い、息できないからもう少し力を緩めて……」

 

「イリヤ……ああ、私のイリヤ……!会いたかった……こんな奇跡が起きるなんて……あら?」

 

アイリは違和感に気付いてイリヤとクロエを解放すると、目をパチクリさせて二人を交互に見つめる。

 

「イ、イリヤが、二人……?こっちは肌黒い……あらあら?」

 

「どうした?アイリ」

 

困惑するアイリの背後に音も無くキリツグが現れた。

 

「キ、キリツグ!大変よ!イリヤが、イリヤが二人に増えちゃったわ!?」

 

「アイリ、何をバカな──っ!??」

 

キリツグはイリヤとクロエを見た瞬間に驚愕し、体が震えてたじろいで数歩下がった。

 

「「キリツグ……?」」

 

イリヤとクロエはアイリから離れてキリツグに静かに近づく。

 

フードに隠れたキリツグの顔を覗き込むように見て、見覚えのある顔にイリヤとクロエは首を傾げながら呟いた。

 

「おとーさん……?」

 

「パパ……?」

 

「……………………グハッ」

 

パタリ。

 

キリツグは突然血を吐いて後ろに倒れた。

 

「えっ……?お、おとーさん!?」

 

「パ、パパ!?何で倒れたの!?私たち何かした!?」

 

「キ、キリツグ!?大丈夫?しっかりして!」

 

「全く騒がしい……さっきから一体何が──イ、イリヤ!?」

 

そして……この状況を更に混沌へと追い詰める最後の一人、エミヤが現れた。

 

エミヤのその姿にイリヤと美遊は真っ先にクロエを見て二人を見比べた。

 

「えっ、うっ、嘘!?ク、クロに……似ている……!?」

 

「髪と肌、それに衣装が酷似している……これは……!?」

 

エミヤとクロエは髪と肌の色、そして衣装があまりにも酷似している。

 

エミヤに比べてクロエは髪の色が若干ピンク色が混ざっており、衣装は露出度が高めだがそれでも二人には類似点が多かった。

 

「あ、あなたは……まさか……」

 

エミヤの存在にクロエは彼が誰なのか気付き始めた。

 

「シロウ、大変よ!キリツグが……」

 

「なっ!?どうした、じいさん!?何故そんな嬉しそうな表情を浮かべて血を吐いて倒れている!?」

 

「イリヤが……イリヤが……二人のイリヤが僕の事を『おとーさん』と『パパ』って……こんなに嬉しいことはない。もう満足だ……」

 

キリツグはこれまでに見たことないほどに満足げな笑みを浮かべており、あまりにも満足しすぎて今すぐ消滅して英霊の座に戻ってもおかしくない状況だった。

 

「そんなに嬉しかったのか!?娘に名前の呼び捨ては寂しかったのか!?やっぱりちゃんと『父』として呼ばれたかったのか!?」

 

「しっかりして、キリツグ!私の宝具使って回復させるから!」

 

食堂に来て僅か数分で起きてしまったこの怒涛の展開に完全に蚊帳の外にいる遊馬達は呆然としながら呟いた。

 

「やべぇ……何だよこの混沌とした状況は……」

 

「いわゆる……修羅場だな……」

 

「これはどうなってしまうんでしょうか……」

 

マスターと言えど流石にこの修羅場には割り込むことは出来ずエミヤ達に任せるしかないと判断する。

 

 

食堂にて遊馬達は小鳥やブーディカが作った食事をとっていた。

 

そこに帰りを待ちわびていたようにか小さな足音が響く。

 

「お兄ちゃーん!」

 

「お兄様!」

 

「おかあさーん!」

 

「マスターさん!」

 

「みんな、ただいま。やっと帰ってきたぜ」

 

桜と凛、ジャックとナーサリーが駆け寄り、一緒に食事をするために席に座る。

 

「お兄ちゃん、お帰りなさい!」

 

「ああ、ただいま。桜ちゃん」

 

桜は遊馬の隣に座ってそのままギュッと抱きついた。

 

「お兄様、先程からとても騒がしかったですが一体何があったんですか?」

 

「ああ。あれさ……」

 

遊馬が指差した方を見ると食堂の一角でサーヴァント達が集まっていた。

 

アルトリア、エミヤ、イシュタル、パールヴァティー、キリツグ、アイリ。

 

そして、イリヤ、美遊、クロエ、ルビー、サファイア。

 

イシュタルは何処からか用意した赤フレームのメガネを着けてホワイトボードに情報を纏めた。

 

「えー、では……これより、アインツベルン家&衛宮家の緊急家族会議を開催します。司会進行役を私が務めさせてもらうわ。まず、アイリさん、キリツグさん……ここにいるイリヤは並行世界で一般人として生きていたことが分かりました」

 

「へ、並行世界……!?」

 

「一般人だと……!?」

 

「イリヤ達に聞き取り調査を行ったところ、彼女達の世界は私たちの知っている歴史とは全く異なる歴史を辿っていました。まずイリヤ達の世界では第四次聖杯戦争が未然に防がれ、冬木大災害が起きていません。そうよね?」

 

「は、はい。詳しい事情は聞いていませんが、私のママ……アイリスフィール・フォン・アインツベルンはおとーさん……衛宮切嗣と一緒に聖杯戦争を二度と起こさないために世界中を回っているって言っていました」

 

「冬木大災害は私たちの知る限り、冬木市ではそれほど大きな大災害が起きた事実はありません」

 

「ちなみにアインツベルン家はもう無いってママが言っていたわ。何故ママとパパがそうしたのか……それはイリヤの為よ。アインツベルン家の一族の悲願よりもイリヤの幸せを望んだのよ」

 

エミヤ達のいた世界の冬木市とイリヤ達のいた世界の冬木市では全く異なる歴史を辿り、そしてイリヤは魔術師ではなく一般人として生きていた。

 

「そう……そっちの私はいつも一緒には暮らせて無いけど、イリヤと幸せな時を過ごしているのね……」

 

「聖杯よりも……理想よりも……そっちの僕は家族の幸せと平和を選んだのか……」

 

アイリとキリツグは並行世界の自分たちがイリヤの為に生きていた事を知り、落胆していた。

 

「……ねえ、一つ聞きたいんだけど」

 

クロエはエミヤ達にどうしても聞きたいことがあった。

 

「そっちのイリヤは……イリヤスフィール・フォン・アインツベルンは一般人じゃなく、アインツベルンの魔術師として、聖杯の器として生きていたのよね……?」

 

クロエがどうしても聞きたい質問……それはイリヤの進むべき道の可能性、別の世界のイリヤの一つの可能性。

 

その質問にイシュタルやエミヤが重い首をゆっくり下げた。

 

「そう……良いわ、それ以上の答えは求めない。それだけ聞ければ満足よ」

 

その答えにクロエは目を閉じて満足したように息を吐いた。

 

「クロ……」

 

「イリヤ、勘違いしないで。私たちの世界でアインツベルン家は無くなって私が進むはずだった魔術師の道は無くなった。だけど、私は……イリヤと美遊、お兄ちゃんとママ、セラとリズ、凛とルヴィア、龍子と那奈亀、雀花と美々……みんなとの生活や騒がしい日々に満足しているし、幸せだと思っているわ」

 

「ありがとう、クロ……」

 

「クロ、偉い偉い」

 

イリヤと美遊はクロエの出した立派な答えと想いに褒めながら頭を撫で撫でする。

 

「ちょっ!?何で私の頭を撫でるのよ!?私はお姉ちゃんなんだからね!?やめなさいって!」

 

頭を撫でられて恥ずかしくて顔を真っ赤にしたクロエは抗議をする。

 

そんなクロエの姿を見てこの場で一番苦い表情を浮かべていたのはエミヤだった。

 

エミヤは一呼吸置き、クロエに目線を向けて口を開く。

 

「クロエ……君に聞きたい。君はイリヤと同じ姿をしながらも、私とどこか似ている……一体君は何者で、何が起きたんだ?」

 

「……その話をする前にまずはクラスカードについて話さなければならないわ。イリヤ、ミユ、クラスカードを……」

 

「う、うん」

 

「分かった」

 

イリヤと美遊は足に巻きついたカードケースからそれぞれ3枚ずつ、合計6枚のクラスカードをテーブルに置く。

 

イリヤ達は冬木市に突然現れたクラスカードとクラスカードを元に召喚されたシャドウサーヴァントとの戦い、そしてクラスカードの能力を説明した。

 

アルトリアはクラスカード『セイバー』のカードを手に取り、目を閉じてその力を感じとる。

 

「このカードから私の……いえ、アーサー・ペンドラゴンの力を感じます。なるほど、確かにこのカードは英霊の力を宿していますね」

 

クラスカードの話がある程度終わると、クロエは自分自身の出世を語り始めた。

 

「イリヤがまだ赤ん坊だった頃、魔術で処置されて色々な知識を持っていた。だけど、ママ……アイリスフィールがイリヤを一般人として育てるために魔術師としての機能と知識と記憶を全て封印した。そして、十年近く……封じられた記憶がいつしかイリヤの中で育ち『一つの人格』が出来上がった。そして、偶然か必然か……イリヤが使ったクラスカード『アーチャー』のカードを媒体にし、肉体を得て顕現したのが私よ」

 

クロエは奇跡によって誕生したもう一人のイリヤと呼べる存在だった。

 

「ちなみに、私と一体化しているこのクラスカードの力……投影魔術を使えるわ。剣とか弓を投影出来るわ」

 

クラスカード『アーチャー』の力である投影魔術を見せる為にクロエは干将・莫耶や黒弓を投影し、それを使いこなしているクロエにエミヤは目を見開いて驚く。

 

「十年間も封印されていた私は自分の居場所が欲しかった……だから最初はイリヤを殺して、自分がイリヤになろうとした。でもそれは失敗に終わり、更にはママからアインツベルンはもう無いって言われて自分の居場所は何処にも無いと諦めて消えようとした。だけど、イリヤに諭されて気付いたの、私の本当の願いを。家族と友達が欲しい、普通の暮らしがしたい……そして何よりも消えたくない、ただ生きていたい……そう願ったの。まあ、色々あって、正式にアインツベルン家&衛宮家の一員となったのよ」

 

色々あったがクロエは一番欲しかったものを手に入れた、人として当たり前で尊いとも言える願いを叶えた。

 

「つまり……シロウの力が並行世界のイリヤスフィール……クロエを救った、人としての生を与えたという事ですね……」

 

アルトリアはクロエの出世には間接的であるが、エミヤがクロエを救ったのだと深く感じた。

 

「あ、あの……シロウさん」

 

今度はイリヤがシロウに質問をした。

 

それはシロウに対する疑問を解消する為だ。

 

「何かね……?」

 

「まず一つ、少し前にカルデアから遊馬さんに送った弁当……あれはあなたが作ったものですか?」

 

「……ああ。あれは私が作ったものだ」

 

「……やっぱり」

 

イリヤは目を閉じて息を吐き、自分がずっと考えていたある事をエミヤに突きつける。

 

「シロウさん……あなたは、並行世界のお兄ちゃん……衛宮士郎さんですね?」

 

「えっ……!?並行世界の……士郎さん!?」

 

「イリヤ、本当なの……!?」

 

見た目や声がイリヤ達の知っている衛宮士郎とまるで違うので美遊とクロエは慌てるように驚く。

 

対するエミヤは落ち着きながら静かにイリヤに問う。

 

「……イリヤ、どうしてそう言い切れるんだ?」

 

「お弁当のおかずの味です。味付けがお兄ちゃんのもので、いつも食べ慣れている味だったからです」

 

「……それだけで分かったのか?」

 

まさか料理の味付けだけで自分の正体を見抜かれるとは流石のエミヤも思いもよらなかった。

 

「分かりますよ。私は小さい頃からずっと、ずーっとお兄ちゃんの料理を食べて来たんだから。最初に作って大失敗して黒焦げになった肉じゃが……その味だって今でも覚えています。流石にそれはとってもマズかったけど」

 

イリヤは小さい頃からの兄との大切な記憶を思い出しながらまっすぐエミヤを見つめた。

 

「あの味はお兄ちゃんにしか作れないから分かるんです。あなたが……並行世界のお兄ちゃん、衛宮士郎だって」

 

「……敵わないな、イリヤには」

 

エミヤは苦笑いを浮かべて両眼を片手で軽く覆った。

 

エミヤの脳裏には生前に生き別れた義姉……雪の妖精のような少女……イリヤが思い浮かべられた。

 

観念したというよりも開き直るようにエミヤは堂々と自分の正体を明かした。

 

「……その通りだ。私の名は衛宮士郎。君達の兄・衛宮士郎とは異なる道を進み、その果てに英霊となった者だ。そして、クロエと同化しているアーチャーのクラスカードには間違いなく私の力が宿っている」

 

「ふーん、数奇な運命ね……私に人としての生を与えて、命を繋いでいるのが並行世界のお兄ちゃんの力だなんて……」

 

「私もそう思うよ、クロエ」

 

エミヤは微笑みながら言うと、クロエはその優しい笑みに最愛の兄である衛宮士郎と同じものだと分かり、顔を少し赤くしながらエミヤに近づく。

 

「あの……まだ少し混乱しているけど、あなたのお陰で私は生きていられている。だから、その……ありがとう」

 

「ああ……どういたしまして」

 

エミヤはこんな自分でも救えた掛け替えのない命があったのだと改めて実感し、クロエの頭を優しく撫でる。

 

「さてと、イリヤとクロエの事が大体分かったところで……美遊だっけ?」

 

「は、はい……」

 

イシュタルはイリヤとクロエの事が分かったので次に自分たちも知らない謎の少女……美遊について質問する。

 

「あなた、本当にあのルヴィアの義妹なの?」

 

「はい。身寄りのない私にサファイアが現れて、契約を交わして魔法少女になりました。そして、ルヴィアさんが私を保護してくれて、エーデルフェルトの姓をもらいました」

 

「うーん、あの日本嫌いのルヴィアが日本人の女の子を養子にね……」

 

「日本嫌い?いいえ、ルヴィアさんは日本をとても気に入っていますよ。前に……日本のコンビニで売られている羊羹を所望したぐらいですから」

 

「……マジで?」

 

「本当です」

 

イシュタル……遠坂凛の永遠のライバルとも言えるルヴィア。

 

並行世界でこうも違うのかとイシュタルは頭を悩ませる。

 

「でもルヴィアと一緒だと大変でしょ?あいつ無茶苦茶だし」

 

「無茶苦茶なのは……ルヴィアさんの個性ですから。でも、ルヴィアさんは私の事を実の妹のように可愛がってくれていて、私もルヴィアさんを本当のお姉さんのように想っていて、大好きです」

 

美遊とルヴィアが互いを本当の姉妹のように大切に想っていると知り、イシュタルはルヴィアの意外な一面を知って驚いた。

 

「知らなかったわ……ルヴィアって姉属性があったのね、意外だわ。ま、まあ、それなら私の方も同じ姉属性持ちだからね。イリヤ、そっちの私はちゃんとあなたの姉代わりをやってるかしら?」

 

イシュタルは興味本位で並行世界の遠坂凛がイリヤの姉代わり兼保護者としてちゃんとやっているかどうか尋ねた。

 

「え、えっと……そうですね、戦闘面では頼りになります……」

 

「何よ、その反応は?」

 

イリヤは苦笑いを浮かべ、凛と初めて出会ったときのことを思い出した。

 

「……初対面の時に『命じるわ──貴女はわたしの奴隷(サーヴァント)になりなさい』と言われた事を思い出しまして……」

 

「…………はいっ!?」

 

「凛、君はイリヤになんて事を……!?」

 

「凛、ロンドンに帰りなさい」

 

「姉さん……酷いです」

 

エミヤ、アルトリア、パールヴァティーはジト目でイシュタルを睨み付ける。

 

イシュタルは自分は無実だと涙目で必死に弁明する。

 

「待ってぇっ!それは私じゃないから!並行世界の私だからぁ!!」

 

「だ、大丈夫ですよ!気にしてませんし、凛さんもなんだかんだで私の事を心配してくれているので」

 

「……ありがとう。本当にあなた、良い子ね……」

 

イシュタルはイリヤの優しさに涙を流した。

 

涙を拭き取ったイシュタルは気を取り直して美遊に質問を続ける。

 

「ふぅ……それで美遊……あなた、本当に何者なの?」

 

「それは、どういう意味でしょうか……?」

 

「カレイドステッキの片割れのサファイアに認められるぐらいだから魔術師としての才能はとても大きいはず。イリヤは別として、本当にあなたは一般人?絶対に違うわよね。ルヴィア……あのエーデルフェルト家に認められ、姓を与えられるほどの才能の持ち主がそう簡単に、しかもその辺にいるはずもないわよね?」

 

「そ、それは……」

 

美遊の正体と過去……それは親友のイリヤとクロエ、義姉のルヴィアでさえも知らない大きな謎。

 

真実を追い求めようとするイシュタルはクラスカードをトントンと指で叩きながら美遊に問い詰める。

 

「答えなさい、美遊。あなたは何者なの?もしかして、このクラスカードと何か関係があるんじゃないの?」

 

「やめてください!!!」

 

イシュタルの問い詰めにイリヤはガタッと勢いよく立ち上がって叫んだ。

 

イリヤは美遊を抱きしめてギロリとイシュタルを睨み付ける。

 

「イ、イリヤ……?」

 

「凛さん!ミユを……ミユを虐めないで下さい!!」

 

「は、はぁ!?虐めてなんかいないわよ!ただ私は美遊が何者か聞きたいだけで……」

 

「人には言えないことの一つや二つありますよ!特に魔術師なんて隠し事を沢山する人達じゃないんですか!?」

 

穏やかな性格のイリヤは人が変わったかのように怒り出して正論で論破していき、イシュタルは図星を突かれて追い込まれる。

 

「うっ……そ、それはそうだけど……でも、美遊は明らかに普通とは違う……」

 

「ミユが何者だろうと、そんなの関係ありません!」

 

「そうよそうよ!さっきから聞いていれば、ミユを責めるように問い詰めて大人気ないにもほとがあるわ!ミユは悪い子じゃない、むしろすごく良い子よ!それで充分じゃない!」

 

クロエもイリヤに同意して美遊を反対側から抱きしめて美遊を守るようにした。

 

「ミユは……ミユは私の大切な親友です!もしもミユをこれ以上虐めるなら、私たちにも考えがあります!」

 

「な、何よ……」

 

「わ、私達の世界の凛さんが仕出かして来た沢山の酷い話や写真や映像をカルデアの全ての人とサーヴァントに暴露します!」

 

「なあっ!!?」

 

まさかの脅迫という最終手段にイシュタルは驚愕してたじろぐ。

 

「私達は知っているんですからね!私達の世界の凛さんが私達を含めて、暴走してどれだけ沢山の人に迷惑をかけているのか!」

 

「イ、イリヤ!私を脅す気!?」

 

「それが嫌だったらもう二度とミユを問い詰めないで下さい。ルビー!サファイア!プロジェクターの用意!早速映像を食堂に流して!」

 

イリヤからの指示を受け、ルビーとサファイアは謎機能の一つ、ボディを変形させて壁に映像を投映するプロジェクターモードになる。

 

「アイアイ、マイマスター♪ルビーちゃん、イリヤさんが親友の美遊さんを守るためにドSに覚醒して並行世界の凛さんに立ち向かう姿にキュンキュンしました。それでは、出血大サービスの凛さんドキュメンタリーをお送りしましょう!凛さん、覚悟してくださいね。あんな姿やこんな姿をお見せしますからね。グフフフッ♪」

 

「私はこういう他人を脅迫するのはとても心苦しいですが、美遊様の為なら喜んでやらせてもらいます。凛様、私はエーデルフェルト家の屋敷でこちらの凛様の醜態をこっそりと見ていました。イリヤ様やクロエ様も知らない劇的な姿をお見せしましょう」

 

ルビーとサファイアも既に乗り気で愉悦感マックスでイシュタルを追い詰めようとする。

 

イシュタル……遠坂凛にとって最大の天敵の一人であるルビーに追い詰められ、イシュタルはガタガタと震え始める。

 

「ふ、ふん……しょ、所詮は、へへ、並行世界の私でしょ……?わわ、私自身の事じゃないから、バラされても、痛くも痒くも……」

 

「ルビー、サファイア。カウントダウン開始」

 

「「了解です」」

 

「……ああもう!分かったわよ!分かったからもうやめて!いくら並行世界でも私の醜態を晒されるのは耐えられないわ!!」

 

イシュタルは並行世界といえど流石に自分の醜態を晒すのだけは勘弁だと敗北を認めた。

 

「じゃあもう美遊の事は問い詰めませんか?」

 

「分かったわよ、約束する……」

 

これ以上美遊のことを追求しないと約束し、安心した美遊は左右にいるイリヤとクロエに感謝する。

 

「ありがとう、イリヤ、クロ……」

 

「ううん、当然だよ。私達、友達だもん!」

 

「そうそう、友達だからこれぐらい楽勝よ♪」

 

イリヤと美遊とクロエの三人娘の仲睦まじい姿にエミヤ達は微笑ましく見守る。

 

一方、キリツグとアイリは反対にかなり落ち込んでいた。

 

人生というのは何かの決断、行動で大きく変わるもの。

 

ここにいるイリヤが魔術師ではなく、人としての道を歩いた『if』の存在。

 

キリツグとアイリは自分たちは正しかったのか?間違っていたのか?と自問自答して罪悪感に蝕まれていた。

 

「あ、あの……お二人に少しお願いがありまして」

 

「大した事じゃないんだけどね……」

 

すると、イリヤとクロエが二人に近づいて恥ずかしそうに話しかける。

 

「私達はお二人の世界のイリヤじゃないですけど……」

 

「しばらくここにいるんだから、他人行儀って言うわけにはいかないでしょ?」

 

「だから、二人のことをママとおとーさんって呼んでもいいですか?」

 

「私はママとパパで。もしも嫌なら、さん付けとかで呼ぶけど……」

 

イリヤとクロエの細やかな願いにアイリとキリツグは目を見開いて驚く。

 

自分たちは間違っていたかもしれない。

 

永遠にこの罪を背負って苦しんでいかなければならないのかもしれない。

 

「ええ……もちろんよ、イリヤ、クロエ」

 

「ああ……もちろんだとも」

 

しかし、今だけは……この奇跡ともいえるこの時だけを深く噛みしめ、小さな幸せを大切にし、守っていこうと心に深く誓った。

 

アイリはイリヤとクロエを強く抱きしめ、キリツグは涙ながらに何度も頷いて見守る。

 

カルデアでは様々な時代と世界の英霊を召喚する可能性を秘めた唯一無二の奇跡の場。

 

その奇跡により並行世界を越えた家族が揃うことになった。

 

しかし、奇跡はこれだけでは終わらなかった。

 

新たなる出会いと再会……アインツベルン家と衛宮家に関わる小さな奇跡がすぐそこまで近付いていた。

 

 

 




次回から鬼ヶ島編に突入します。
まずはイリヤ達の新しい日常でそこからすぐに鬼ヶ島編です。
軽くネタバレですが鬼ヶ島に向かう護衛サーヴァントはイリヤと美遊とクロエにします。
一応この3人は日本人サーヴァント扱いなので。
もしかしたら軽く気付いている方もいると思いますが、鬼ヶ島編であの子を登場させようと思います。
せっかくイリヤ達をお招きしたので。
次回は出来るだけ早めに投稿出来るようにします、お楽しみに〜。

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