頼光さん好きなので遊馬とフラグを立てる意味を込めて(笑)
第二の大門を突破し、玉藻が酒を飲んだという茶屋に向かう。
茶屋は集落の中にあり、遊馬やマシュ、金時にとって嗅いだことのある酒気だった。
そして、集落の中で一際目立つ立派な茶屋があり、そこにいたのは……。
「はーい、いらっしゃい、いらっしゃい。鬼も人も関係あらへんよ。喉が乾いとるんやったら、遠慮せんとおいでやす。ほれ、茨木。あんたもちゃんと客引きしぃやー」
「うう、なぜ吾が人間に愛想笑いなぞ……」
平安時代で大暴れした三大妖怪の一角・酒呑童子と鬼の頭領・茨木童子の二人だった。
その酒呑と茨木が何故か茶屋を開いて人間と鬼関係なしに酒を振る舞っていた。
酒呑はノリノリで接客し、茨木は嫌がっていたが酒呑の有無を言わせないパワハラによってヤケクソ気味に接客をしていた。
「「「やっぱり……」」」
「フォウ……」
「マジでアイツらかよ!?ひねりもクソもねぇストレートな展開だな!?」
ある程度展開を予想していた遊馬達は同時に呟き、ゴールデンは予想通り過ぎて逆に驚愕した。
「なんや小僧、ようやく到着したん?思うたより遅かったなあ?」
「クアっ!坂田金時、それに馬!?」
「だから遊馬だって。茨木、いい加減に名前呼んでくれよ」
「ふん!汝なんぞ馬で十分だ!」
「とにかく本題だ、茨木、酒呑!テメェら、こんな島を造って何を企んでやがる!」
ゴールデンはこの鬼ヶ島を作ったのが酒呑と茨木の二人だと思い込んで早速問いただした。
「──ほ?」
「──やっぱりなあ。そら、うちの言った通りやろ、茨木?」
「──ふ。ふふ。くはははは!愚昧なり、愚昧なり金時!吾らは汝の大敵よ!そのような問いに答える義理は──」
「そうやそうや。うちらはなーんも答えへんよ。だって、この島と何の関係もあらへんのやし」
「しゅ、酒呑ー!そんなに素直に教えなくてもよいではないかっ?」
「すぐに分かる事や、そこは勿体つけへんでもええやん。はあ。茨木は遊びのツボが分かってへんのやねぇ。それに、旦那はんがいるんやから遅かれ早かれ教える必要があるやろ?」
「う、く……だ、だが、金時は敵同士なのだし……壺などと言われても、陶芸とか分からぬし……」
どうやらこの鬼ヶ島を作ったのは酒呑と茨木の二人ではないようだ。
二人ともそんな嘘を言う性格でもないし、茨木に関しては鬼を振る舞っているが内面は素直なので清姫がいなくても嘘でないとすぐに分かる。
「あれが鬼か……なんか頭に角が生えた可愛い美少女にしか見えないわね」
シトナイは鬼とのイメージがまるで違う酒呑と茨木の第一印象をそう感じた。
「まあ酒呑は自由気ままな性格だけど、茨木は結構真面目で親しみやすいぜ。カルデアで子供達と一緒に遊んだり、甘いおやつを食べたりしているし」
「えっ……?鬼が、子供と遊んでおやつを……?」
「おいこら、馬!汝は何ふざけたことを言ってるのだ!?」
「え?だって事実じゃん」
「カルデアでは既に周知されているな」
「そうですね、茨木さんは鬼ごっこや隠れ鬼とか……日本で鬼の名がある遊びをやっていますね」
遊馬とアストラルとマシュはカルデアでの茨木の普段の生活を赤裸々に暴露していき、茨木は顔を真っ赤にして怒りが沸沸と湧いてくる。
「ぐぬぬ……こ、こうなったら鬼としての威厳を見せる為に今からでもそこの童達に恐怖を与え……」
「やっちゃえ、シロウ!」
「ガァオオオオオ!」
イリヤの指示にシロウの目がキラリと輝かせて野生の本能を解放し、鋭利な牙と爪を見せながら茨木に襲い掛かる。
茨木は慌ててシロウの攻撃を回避し、見たことない白熊に驚愕した。
「にゃんとぉ!?な、何なのだこの怪物は!?こんな白くて怖い怪物は初めて見たぞ!?」
「白熊は日本には存在しない北極などの寒い地方に生息する動物だ。そして、白熊は陸上において世界最強クラスの肉食動物だ」
「あなたなんて、全然怖くないわ。バーサーカーの方が絶対に強いもん!」
「バーサーカー?吾もバーサーカーだぞ!」
「あなたじゃないわ。カッコよくて大きくて強い、最強で最高のサーヴァントだもん!」
シトナイが自信満々に言うバーサーカーは互いに強い絆で結ばれた唯一無二のサーヴァント。
そのバーサーカーはカルデアに所属しているのだが、バーサーカーの残された僅かな理性で自分を抑えていた。
まだ会わない方が良い、自分の力が必要な時が来るのを待ち、必死に耐えていた。
酒呑は茨木と戯れあっているシトナイを見て興味深そうにイリヤやアイリと見比べる。
「何や可愛い娘やな。おや?よう見たらイリヤやクロエ同じ顔……アイリはんにそっくりの子やないの。アイリはん、いつの間にキリツグはんと子作りしたんか?」
「もう、シュテンたら。シトナイを……イリヤを産んだのはもうずっと前のことよ?キリツグとは最近……」
「ママ、ストップ!それ以上はお願いだからやめて!」
アイリの夫婦仲の良さを暴露する前にイリヤが無理やり口を抑えて阻止する。
年頃の娘たちの前でそんなことを暴露されたら恥ずかしくてたまったもんではない。
その後、茶屋は一旦閉めてお客には心苦しいが帰ってもらい、遊馬達だけで改めて酒呑と茨木から話を聞く。
この鬼ヶ島はいつのまにか出来ており、鬼達も酒呑や茨木ですら知らない全く異なる別の鬼だった。
この島をめちゃくちゃにしようと考え、その一歩として島の宝物庫に忍び込むと面白い杯を見つけた。
その杯には酒が沸いており、試しに飲むとそれは羅生門の特異点の元凶である、聖杯に似た『願いを叶える酒杯』と同じ酒の味だった。
しかし、羅生門の時ほどの力は持ってない飲んだモノを酔わせる程度の酒らしく、玉藻が酔ったのもその影響だった。
せっかくなのでみんなを酔わせるためにこの酒を使って茶屋を開き、遊馬達とゴールデンが来るまで待っていて現在に至る……と言うことだった。
「さてと、話が終わったところで名残惜しいけど店仕舞いにしよか。旦那はんと小僧が来てくれたからな」
「やっと、接客から解放されるのか……」
「と言うわけで、うちと茨木は旦那はんのもとに戻るで。この前の借りをきちんと返さんとあかんからな」
酒呑は羅生門の時の借りを返すために遊馬の元に戻ると宣言する。
元々酒呑と茨木は遊馬のサーヴァントなので小次郎や玉藻の時と違って戦う理由は無いので同行させてもらうことにした。
「マスター、鬼の酒呑童子と茨木童子が一緒で大丈夫ですか……?」
小太郎は初対面なので本当に酒呑と茨木が一緒で大丈夫なのかどうか遊馬に確認した。
「心配すんなって。二人共俺の大切な仲間だからさ」
「承知しました……」
遊馬にはマスターの証である令呪もあるので、とりあえず酒呑と茨木が裏切ることはないだろうと納得する。
一方、ゴールデンと酒呑はカルデアでのいつもの光景と言わんばかりに追いかけっこをしていた。
ライダーで顕現し、バーサーカーとはまた違った雰囲気のゴールデンに酒呑は欲情し、二人は追いかけっこをしていた。
ゴールデンはゴールデンベアー号を使う暇もなく必死な形相を浮かべながら全力疾走で逃げており、遊馬達はそろそろ酒呑を止めようと思った……その時だった。
「──っ!?よっと!」
酒呑は背後に何かの気配を感じ取り、振り下ろされた銀色の一線を間一髪で避けた。
「あら……かわされましたか。残念です」
そこに現れたのは刀を構えていた謎の女武者だった。
「貴様はッ……!」
「……やっぱりなあ。あんたはんが出てくる頃やと思ったわ」
その女武者を見た茨木と酒呑は今まで見たことのないほどの嫌な相手に会ったと言わんばかりの表情を浮かべていた。
そして、ゴールデンは驚愕しながらその女武者の名を呼ぶ。
「……まさかとは思ったがよ。なんでアンタがここにいやがる、頼光の大将!」
「頼光の大将って、まさか!?」
「彼女が源頼光だと言うのか!?」
源頼光。
平安時代で数々の妖怪を討ち果たしてきた最強の神秘殺し。
ゴールデン・坂田金時を始めとした『頼光四天王』を率いて都を守護した。
しかし、頼光は記録によれば男性のはずだが、どこをどう見ても女性であり、頼光はゴールデンに向けて厳しい表情をした。
「いけません金時。いつも言ってるでしょう。皆さんといる時は礼儀正しい言葉を使いなさい、と。それに……ここにいやがる、とはあんまりな物言い。まるで私が厄介者のようではありませんか……もし、もし、本当にそんなことを思っているのだとしたら……母は……泣いてしまいますよ……?」
子供を躾けるような厳しい表情から一転し、子供に嫌われて悲しむ母親のように涙を浮かべる頼光に遊馬達は唖然となった。
「うんうん、その気持ち……よく分かるわぁ」
ただ一人、娘を持つアイリだけは深く頷いて頼光の気持ちに同意した。
「ゴールデン、さっきあの人……母って言ってたけど……」
「勿論、実の母親じゃねえよ。オレっちを引き取って育ててくれた、大恩あるひとなのは確かなんだが──頼光の大将は最初からこうなんだよ。『私は姉ではなく、母として貴方を鍛えます』ってな。ま、だから、あれだ。義理の母親みてーなものではあるっつーか。武芸の師でもあるっつーか……」
「なるほどなー」
「そんな……義理だなんて。母はそんな風に貴方を育てた覚えはありません……」
「……ゴールデン、頼光さんめっちゃ涙目なんだけど、大丈夫か?」
凛々しい女武者の姿は何処に行ったのやら、今にも大泣きしそうな頼光にゴールデンは慌てて慰める。
「あー、別に迷惑じゃねえよ迷惑じゃ!むしろ久しぶりに会えて嬉しいっつうの、頼光の大将!」
「まあ。金時、嬉しいことを言ってくれますね。うふふ、母もです。元気な貴方の姿が見られて幸せですよ」
頼光は泣き止み、ゴールデンと再会できたことを心から喜んでいた。
ところが……。
「──本当。その周りに、目障りな虫が飛び回っていなければ、更に幸せだったのですが」
頼光は酒呑と茨木を殺気を込めた瞳で睨みつけて刀を構える。
酒呑はやれやれと言った呆れた様子で話す。
「相変わらずやなあ、頼光。子離れできん母親は嫌われんで?ま、その苦労も今回までのようやけど。あんたはん、いよいよ──」
「酒呑ッ!」
頼光は酒呑の首を切り落とす勢いで地を蹴って刀を振り下ろしたが、それを読んでいた酒呑はサッと回避する。
「虫と言の葉を交わす気はありません。消えなさい、疾く消えなさい。誅伐、執行!」
「仕方ないな、ここで決着つけようかー?」
鬼……酒呑に対して明らかに嫌悪感を出して刀を振るう頼光と呆れながら剣を構えて応戦しようとする酒呑。
因縁の二人が本気で戦えばただで済むわけがない。
「やべぇ……ま、待ってくれ!頼光の大将!!」
ゴールデンが二人を止めようとした……その時だった。
ギィン!!!
「なっ……!?」
「何やて……!?」
頼光と酒呑童子は同時に目を見開いて驚く。
二人の刀と剣はまだ互いに届いていないが、振り下ろされた頼光の刀には……。
ポタン……ポタン……。
「くっ……痛ぇっ……」
遊馬は頼光の刀を左手首のデュエルディスクで受け止め、右手で刀の鍔元を握ったが、それだけでは振り下ろされた勢いは止まらず、刀の刃が遊馬の左肩を少し斬っていた。
「な、何をしているのですか!?離しなさい!」
頼光は慌てて遊馬から刀を外そうとしたが、遊馬は全力で刀を押さえて離さなかった。
「離さねえよ……離したら、こいつで酒呑の首を斬ろうとするからな……」
鍔元を握る力を強くし、右手からも左肩ほどではないが血が流れていく。
「だ、旦那はん!うちのことは気にせずにすぐに離れるんや!その刀はめっちゃ切れ味が凄いんやで!?」
まさか遊馬が自分を庇ってくれるとは思わなかったので酒呑は珍しく平常心を失って大慌てする。
「知ってるさ。源頼光の刀……名刀・童子切安綱。平安時代にこいつで酒呑の首を切り落とした。そして、未来では天下五剣の一つとして崇められ、日本刀で最初の国宝に認定されたぐらいだからな……!」
遊馬は羅生門の特異点の後にゴールデン達のことを調べており、そこには当然頼光の名前もあったので調べると所有していた刀が日本ではかなり有名なものであると知った。
やはり日本人なのでやはり刀に魅力があるので、同じ名刀である九字兼定を使う空からも童子切安綱の話は聞いていたのだ。
「悪いな、頼光さん。あんたが引いてくれるまでは俺も引くわけにはいかないからな……!」
「あ、あなたは鬼を庇うのですか!?何故ですか!?人に仇なす存在は、鬼は殺さねばなりません!」
「ああ、それは分かってるよ……だけどな、俺は馬鹿で頭悪いから難しいことは上手く言えねえけど、これだけは言える……」
鍔元を抑える力を更に強くし、紅い瞳で頼光を見つめながら遊馬の想いを口にする。
「酒呑と茨木は確かに平安時代に鬼として暴れて、あんたやゴールデンたちがそれを退治した。だけど、今の二人はただの鬼じゃねえ……俺のサーヴァント、俺の大切な仲間だ!!」
「仲間……!?鬼を、仲間だと言うのですか!?」
人間がサーヴァントとは言え、鬼を仲間と断言することに信じられず頼光は声を震わせながら驚愕していく。
「ああ!人だろうが鬼だろうが種族の違いなんて俺にとって何も関係ない!一度仲間と認めた奴は何があっても信じ抜く、そして守る!それが俺の、カルデアのマスターとしての覚悟だ!」
カルデアのマスターとして、絆を結んだサーヴァント達と共に戦い、守る。
その為に鬼である酒呑と茨木を殺そうとする頼光を全力で止めている。
人を喰い殺す鬼は許せないが、仲間として人理を救う為に共に戦うことを約束してくれた酒呑と茨木は守る。
そんな矛盾した考えと答えだが、そこには遊馬の仲間を二度と失いたくないと言う確固たる覚悟が秘められていた。
「覚悟……?」
頼光は遊馬の覚悟に呆然とし、童子切の柄を握る力が弱くなる。
遊馬はその隙を逃さずにアストラルに向かって大きく叫ぶ。
「アストラル!今のうちに酒呑と茨木をフェイトナンバーズに入れてカルデアに送るんだ!」
「遊馬……分かった!二人共、少々手荒だが文句は後で聞く!」
アストラルは手を輝かせながら前に突き出し、遊馬のデッキケースを操り、中から酒呑と茨木のフェイトナンバーズを取り出した。
「だ、旦那はん!後で文句を言わせてもらいますからな!」
「遊馬!きっちり説教するから覚悟するのだぞ!」
酒呑と茨木は粒子となってフェイトナンバーズに入り、そのままデッキケースに閉まってカルデアに転送した。
「虫の……気配が消えた……!?」
二人の鬼の気配が完全に消え去り、殺してもいないのに気配が消えたことに頼光は困惑した。
「頼光さん、これであんたの宿敵の酒呑と茨木はカルデアって言う場所に強制送還してもらった。もうこの鬼ヶ島の……いいや、この世界の何処にもいないから、追いかけることはできないぜ」
遊馬はニヤリと不敵の笑みを浮かべてこの戦いの勝利を確信した。
これで頼光はカルデアに強制送還された酒呑と茨木に手出しは出来なくなり、刃を向ける理由は完全に無くなってしまった。
「……っ」
「もう、刀を納めてくれるよな?頼光さん……」
頼光は無言で完全に力を抜き、遊馬も静かに刀から手を離した。
そして、遊馬は一気に気が抜けてしまい、その場に座り込んで血が流れる左肩を右手で押さえる。
「痛ぇっ……久々にやべえなこれ」
初めて日本刀……刃物で傷付いた遊馬はその痛みに必死に耐える。
今まで以上にかなり無茶な行動にアストラルとマシュとフォウは大焦りしながら遊馬に駆け寄る。
「遊馬!なんて無茶なことを……!?」
「遊馬君、大丈夫ですか!?」
「フォフォーウ!?」
「ああ、なんとかな……流石は天下五剣だ。切れ味半端ねえぜ」
イリヤ達も駆け寄り、遊馬の右手と左肩から流れ出る血の量に顔を真っ青にする。
「遊馬さんの右手と左肩が血塗れ……ママッ!」
「任せて!大丈夫よ、すぐに治癒魔術で傷口を塞ぐから!」
アイリの治癒魔術で遊馬の傷を癒していく。
傷はすぐに塞がり、痛みも引いたので一同は一安心する。
「全く君と言う男は……!」
「悪いな、アストラル。それにみんな、心配かけちまって」
遊馬を中心にみんなが集まり、遊馬の無茶な行動に色々言い争っていた。
一方、頼光はそんな遊馬を見つめて呆然と立ち尽くしていた。
「大丈夫か、頼光の大将。いや、大将呼びが二人ってのも締まらねえ。ちょいと昔の呼び名だが、頼光サマでいいかい?」
ゴールデンは頼光を心配してそっと話しかけた。
「……金時、あの童が……九十九遊馬が、今の貴方の大将なのですか?」
「ああ。まさか酒呑を庇うとは思いもよらなかったが、遊馬の大将らしいぜ。あいつは、仲間と世界を守るためなら何でも背負う、諦めずに最後まで戦って希望を掴み取る。そんな男だぜ……」
苦笑いを浮かべながらも何処か誇らしげに遊馬を見つめるゴールデン。
そんなゴールデンを頼光は寂しそうに見ながら童子切安綱を鞘に納める。
「金時、母はもう行きます……」
「一緒に来ねえのか?」
「まだ、とても困惑しているので……しばらく考えたいのです。あの子には申し訳ないと伝えておいてください」
「別に大将は気にしてねえぜ?元々は酒呑と茨木を守るためだったし」
「それでもです。金時、また会いましょう」
頼光はゴールデンに別れを告げるとその場から静かに立ち去った。
ゴールデンは頼光を見送り、姿が見えなくなると頭を掻いて大きくため息をつく。
「ったくよ……うちの大将と言い、頼光サマと言い……オレの上司はどいつも無茶ばかりしやがるな……」
愚痴をこぼしながら更にため息をつき、遊馬達の元へ戻る。
☆
茶屋にある酒杯は特に酒を作る以外の力はないので破壊せずにカルデアに転送してもらい、遊馬達は最後である第三の大門に向かった。
そこにいる用心棒のサーヴァントはもうすでに誰なのかほぼ分かっていた。
「赤……それは情熱の色。燃えさかる炎の色」
「清姫……」
「清姫さん、何故ここに……?」
そこにいたのはカルデアから消えた最後のサーヴァント……清姫だった。
「何故?愚問です。私は──私はマスターである遊馬様……いえ、安珍様がいらっしゃる所に必ず現れます」
「遊馬の前世を聞かされてもまだ安珍を言うか……」
遊馬の前世がアストラルの半身・アナザーだと知ってもまだ清姫にとっては遊馬は安珍の認識らしい。
そして、清姫は普段なら絶対に言わない言葉を口にするのだった。
「だって──安珍様を慕い、どこまでも追い掛けて追い詰める、愛の忠犬なのですから!」
「「「忠犬の意味が何か違う!?」」」
「……酒の匂いがします。彼女もたらふくあの酒を飲んでしまったかと……」
「蛇なだけに酒は底無しってか……こりゃあ生粋のバーサーカーだぜ……」
「しかもとんでもなく酔っ払ってますね」
小太郎とゴールデンと段蔵は玉藻よりも明らかに酔っ払っている清姫に呆れる。
清姫は酒によって体がふらつきながらマシュをギロリと睨みつけた。
「分かってます……マシュさん、あなたが旦那様の犬枠になったのだと!」
「いえいえいえ!?私は犬枠になった覚えはありませんが!?」
「犬は正直者と言います。つまり、誰よりも嘘を嫌う私こそが犬に相応しい。なのに、ああ──私以外の女性が旦那様に犬と呼ばれるなど!毎夜毎夜、この雌犬め犬らしく鳴いてみせろ。わんわんよーしいい子だご褒美をくれてやろう……みたいな破廉恥なプレイに励んでいるなど!決して許す訳にはまいりません!想像するだけで嫉妬の炎が口から零れます!」
どうやら清姫は自分から攻めるだけでなく、弄られたいマゾヒズムな一面があるようで、酒を飲んだことでそれを赤裸々に暴露してしまった。
「遊馬がそんな特殊なプレイをする訳ないだろう!?」
「そうです!そ、それにそう言うことはまだ早すぎますし、清姫さんの妄想が激しすぎです!」
当然遊馬には誰かを弄るような趣味を持ち合わせていない。
「犬ね。でも俺がするのはせいぜい……こうやって、フォウの頭や体を撫でるぐらいだぜ?」
「フォウッ!」
遊馬はマシュの肩に乗っているフォウの頭と体を優しく撫でて、フォウは嬉しそうに声を上げる。
「きしゃー!?私の妄想通りじゃないですかー!?」
「「「何処が!??」」」
清姫は嫉妬で舌が蛇の舌になって青い炎が零れ出てしまい、よく分からない妄想に遊馬達はツッコミを入れる。
「……やはり旦那様は、そして旦那様のイヌの座は力尽くで取り戻さなくてはならないようですね」
「いや、別に犬枠は特に決まってねえけどな?」
「もうただの変態じゃないの!?何なのよあのサーヴァントは!?」
ここまで変な性癖のサーヴァントは見たことないシトナイは頭を悩ませながら聞く。
「自称、遊馬の嫁だ……」
「自称!?大丈夫なのそれ!?ユウマ、あなた本当に大丈夫なの!?」
シトナイは清姫の愛の異常さに戦慄し、それに愛されている遊馬に本当に大丈夫なのかどうか心配してしまう。
「清姫……」
酒によっている清姫はいつも以上に狂っており、普通に対話しただけでは収まらないだろう。
下手したらまず第一に自分の恋路を邪魔するマシュや動物分類上(一応)は猫だが見た目的には犬にも見えなくないフォウを真っ先に狙う可能性が大である。
「仕方ない、ここは一肌脱ぐかな」
「何をするつもりだ、遊馬」
「まあ見てなって」
遊馬は少し前に出るとその場で座った。
あぐらの態勢で座ると、ポンポンと膝を軽く叩いた。
「来いよ、清姫。膝枕してやるぞ〜」
「ひゃいっ!?び、膝枕!?」
「おう、犬枠になりたいんだよな?それなら、膝枕をして頭を撫でてやるぜ」
遊馬は酒でいつも以上に狂っているのなら、欲望でこちらに誘い出す作戦に出た。
「ひひ、膝枕なんて恐れ多い……!確かに犬ですから旦那様に撫でられたい気持ちはありますが、そんなことをしたら私の身が持ちません……!」
清姫は大胆なようで実はかなりの恥ずかしがり屋で一歩を踏みそうで踏み出せない一面がある。
「そっか、俺の膝枕は嫌か……仕方ない、フォウ。膝に来いよ、マッサージしてやるぜ」
「フォウ〜」
フォウがマシュの肩から降りて遊馬の膝に乗ろうとした瞬間。
「お、お待ち下さい!!」
清姫はとても動き辛い着物姿にもかかわらず、アサシンクラス並みの目にも止まらぬ俊敏さで遊馬の前に座った。
「「「早っ!?」」」
「旦那様……ぜ、是非とも、お願いします!」
「おう。じゃあ、どうぞ」
「は、はい……失礼します」
清姫は心臓をバクバクと鼓動を激しくさせながらゆっくりと自分の頭を遊馬の膝に乗せて膝枕をしてもらった。
遊馬は清姫の望んでいる欲望を出来るだけ叶えるために頭を優しく撫でてあげる。
「おー、よしよし。いい子いい子」
頭を撫でてもらった清姫は今まで見たことないほどに幸せに満ちていた。
「はぅ〜……幸せです。旦那様にこうやって撫でてもらえるなんて……」
心から愛している相手に膝枕をしてもらい、頭を撫でてもらった今の清姫は幸せ絶頂で、更には酒を飲んでいたので徐々に睡魔に襲われて瞼が重くなっていく。
「清姫、お酒を沢山飲んで眠くなってきただろ?このまま眠ってもいいぜ」
「はい……ありがとう、ございます……」
すっかり気分が良くなった清姫はゆっくり瞼を閉じてそのまま眠りについてしまった。
「さてと、悪いんだけど……俺はこんな状況だから、あの鬼を任せるぜ」
大門から大きな邪気が溢れ出て、大門の内側から飛び越えるようにして現れたのは金棒を持った赤鬼。
第三の大門を守護する赤鬼、名は轟力丸。
力の具現の赤鬼で、力では決して勝てない存在。
最後の門番である大鬼の相手……それに名乗り出たのは……。
「よーし、それじゃあ今度は私たちの出番ね!力を貸しなさい、妹達!」
シトナイが名乗り出て、鬼退治をイリヤ達にも手伝ってもらう。
「はい!って、シトナイさんが長女ですか!?」
「当たり前よ!こう見えても十八歳のお姉さんよ!」
「へぇ、十八歳のお姉さん……待って!?十八歳!?今十八歳って言わなかった!?成人間近なのに私たちと同じ体型!?どういうこと!?」
並行世界で違う人生を送ってきたイリヤとシトナイだが、シトナイが十八歳で自分たちとあまり変わらない体型にイリヤは絶望に似た衝撃を受ける。
「お、落ち着きなさい、イリヤ!大丈夫よ、私たちはホムンクルスだけどちゃんとママとパパが赤ちゃんの時に人として成長出来る様に魔術で調整してくれたわ!多分……」
「多分だけじゃ不安だよ!将来はママみたいに大きくなってナイスバディになるのが夢なのに!」
将来的に母のアイリのように成長したいと願うイリヤとクロエは自分の今後の成長に不安が残る。
「イリヤ、大丈夫。例え今の姿でも、もしもの時は……私が貰うから!」
「何を言っているのよミユ!?」
「ミユ!イリヤだけじゃなくて私も一緒に貰ってよ!」
「いい加減にしなさい、そこの小学生百合トリオ!いいからキビキビと働きなさーい!」
シトナイは「こいつら本当に日本の冬木で育った小学生!?この歳で同性愛とか業が深いわよ!?」と心の中で叫びながら襲い来る頭痛に耐える。
「それじゃあ、派手に行くわよ!トレース・オン!」
クロエは黒弓を投影し、そこから更に矢と数多の刀剣を投影して一斉に発射する。
正確無比に発射された矢と刀剣は轟力丸に突き刺さるがそれだけではあまりダメージを与えられていない。
しかし、クロエの攻撃は投影魔術だけではない。
エミヤの力が込められているクラスカード『アーチャー』と一体化しているクロエはエミヤも使う必殺技を繰り出す。
「『
突き刺さった矢と刀剣の詰まった魔力が全て爆発し、轟力丸にダメージを与えると同時に煙で目眩しをする。
クロエが目眩しをしている間にイリヤは轟力丸の間合いに滑り込む。
「全力全開……!」
ルビーに魔力を込め、まるで剣士が鞘から剣を抜くように思いっきり振り上げる。
「最大出力!
魔力を薄くして鋭利に飛ばし、イリヤが繰り出せる巨大な斬撃にして轟力丸の体表を切り裂く。
「いやー、これじゃあまだまだ倒れませんねー!」
「でも、私の役目はこれで充分!ミユ!!」
イリヤは砲撃しながら下がり、美遊にバトンタッチする。
「サファイア。クラスカード『ランサー』……限定展開!」
「はい!」
ランサーのクラスカードをサファイアに投げて限定展開を発動すると、サファイアの姿がクー・フーリンの持つ真紅の槍……ゲイ・ボルクに変化する。
美遊は槍術を習ったことはないが、持ち前の天才的センスでゲイ・ボルクをまるで自分の愛槍のように華麗に振り回していく。
ゲイ・ボルクを操る美遊の姿はクー・フーリンやスカサハにも負けず劣らずの技術だった。
「行きます……」
呼吸を整え、目を鋭く輝かせると同時に走り出し、高くジャンプしてゲイ・ボルクを轟力丸に向ける。
「『
そして、全力でゲイ・ボルクを投げ飛ばし、真紅の閃光が輝く。
ゲイ・ボルクの「槍を放つ」よりも先に「心臓を穿つ」という結果が作られるという、因果を逆転させる必殺必中が発動して、轟力丸の心臓を穿つ。
しかし、心臓を穿たれても轟力丸は息をしており、自分の胸に刺さったゲイ・ボルクを抜いて投げ捨てた。
美遊はゲイ・ボルクを回収して元のサファイアに戻してその場から下がった。
「シトナイさん!!」
最後のトドメはシトナイに任せた。
「ええ、ありがとう……後は、私に任せなさい!シロウ、お願い!!」
「ガォオオオオオッ!!!」
シトナイはシロウの背中に乗ると、シロウは轟力丸に向かって全力疾走で突進する。
突進したシロウが爪で引っ掻いた後に上へと吹き飛ばし、シトナイは氷の弓を構えて魔力を込める。
「私の中の女神たち、力を貸して……!」
放たれた氷の矢は轟力丸を貫くと、巨大な氷柱となり、轟力丸を氷柱の中に閉じ込める。
そして、氷柱の上をシロウは器用に走り、シトナイは氷の弓を消し、氷の魔力を纏うマキリを構える。
「『
アイヌにて大蛇を斬り殺した
クロエ、イリヤ、美遊、そしてシトナイの四人による連続攻撃により、力の具現である轟力丸を遂に倒した。
シトナイは倒した轟力丸から最後の大門の鍵を取り、笑顔でイリヤ達と合流する。
「やるじゃない、あなた達。見直したわ」
「はい!シトナイさんも凄い宝具でした!」
「私達もまだ自分の宝具がどうなのか分からないので参考になりました」
「弓と剣の攻撃、見事だったわ」
四人は互いを称えて勝利のハイタッチをする。
「凄いわ、みんな。コンビネーションばっちりじゃないの!」
四人の愛娘達の活躍にアイリは拍手をして出迎える。
「イリヤと美遊とクロエ……三人共、戦いに慣れてきたな」
鬼ヶ島での鬼退治を通じて三人は戦いに慣れてきて、コンビネーションも良くなってきたので当初の目的の一つである経験を積ませることが達成したといえる。
シトナイは鍵で第三の大門の扉を開き、遂に鬼ヶ島の頂上への道が開いた。
遊馬は膝の上で眠っている清姫の頭を撫でながらフェイトナンバーズを取り出す。
「悪いな、清姫。帰ったら一緒に飯でも食おうぜ」
清姫に謝りながらフェイトナンバーズに入れ、カルデアに転送した。
これでカルデアから消えたサーヴァントの回収は無事に終わり、遊馬は勢いよく立ち上がって体を伸ばして気合いを入れる。
「──よしっ!いよいよ鬼ヶ島の頂上だ。行こうぜ、みんな!」
「「「おうっ!」」」
「「「はいっ!」」」
鬼ヶ島と羅生門、二つの特異点の元凶である黒幕に会いに遊馬達は頂上への道を歩く。
☆
一方、カルデアではクー・フーリンがつまらなそうにモニターを見ていた。
「ちっ……あの小娘、なかなかやるじゃねえか」
美遊が限定展開でクラスカード『ランサー』のゲイ・ボルクを巧みに操り、宝具である『刺し穿つ死棘の槍』を成功させたことに少し腹を立てながらも認めざるを得なかった。
「そうだな。十一の娘があそこまでゲイ・ボルクを操るとは見事だ」
そこにスカサハが嬉しそうな声を上げてやって来た。
「おい師匠、あんたまさか……」
クー・フーリンはスカサハの態度にすぐに察して顔が青ざめた。
「一目見た時からミユは素晴らしい逸材だと感じた。ユウマも中々だが、ミユの潜在能力はとても高い。私の弟子として、更には養子に迎えたいほどだ」
スカサハの悪い癖で遊馬を弟子に迎えただけでは飽き足らず、能力が高くてしかもゲイ・ボルクを見事に使いこなす美遊までも弟子に迎えようと考えていた。
しかも美遊はスカサハから見ても美少女とも言える可愛らしく美しい容姿なので、出来れば養子として迎えたいほどの欲が出てきてしまった。
「もういい加減にしてくれ……」
クー・フーリンは頭を抱えて自分の師匠のマイペースさに呆れ果てるのだった。
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鬼であろうとも仲間である酒呑と茨木を守ろうとする遊馬は頼光さんにとっては信じられないことだと思います。
ある意味矛盾を抱えてますけど、一度仲間になった相手を見捨てないのが遊馬ですからね。
次回はいよいよ鬼ヶ島編のクライマックスになるかなと思います。