Fate/Zexal Order   作:鳳凰白蓮

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今回で鬼ヶ島編は終わりです。
今回の話はただ私がこれはどうしても書きたかっただけの話なので個人的に満足しています。


ナンバーズ154 再会の約束

突如として現れた鬼の王と呼ばれる謎の存在。

 

鬼ヶ島にいる全ての鬼が頂上に集結していき、何が起きているのか誰も分からずにいた。

 

数万いる鬼の中から欲望を抑えきれずに遊馬達に襲いかかって来た。

 

応戦しようとしたその時、デッキケースから二つの光が飛び出して襲いかかって来た鬼を細切れにする。

 

「なんや面倒なことになって来たなぁ」

 

「まるで地獄のような光景になっているな」

 

「酒呑!茨木!」

 

現れたのは最強の鬼の酒呑と鬼の首領の茨木だった。

 

酒呑と茨木はゴールデンに支えられている頼光を見てニヤリと意地悪そうな笑みを浮かべた。

 

「おやおや、茨木見てみぃや。うちらの事を虫と呼んでいた頼光が虫の息やで〜」

 

「ふははははっ!源頼光よ、なんて無様な姿よな!!」

 

平安最強の神秘殺しの頼光の弱った姿に酒呑と茨木はここぞとばかりに大笑いし、頼光は悔しさから歯を噛みしめながら童子切安綱を握る。

 

「虫共が……一体何しに来たんですか……!?」

 

「無理せんでええよ。別にあんたをどうこうするつもりは無いで。今のあんたと戦っても面白ないからなぁ」

 

「今の貴様など眼中に無いわ!吾らはあの鬼の王などとふざけた事を言っている奴をぶちのめすために来たのだ!」

 

酒呑と茨木は鬼の王と名乗っている存在を倒す為にカルデアから駆けつけたのだ。

 

「おい、酒呑。あれは何なんだ?あんな鬼の王なんて奴は存在するのか?」

 

「小僧。あんなもの、鬼の王でも何でも無いわ。この鬼ヶ島に溢れる負の気と鬼の気が願いを叶える酒杯に集まって生まれた存在や」

 

「負の気と鬼の気だと?」

 

酒呑は鬼の王がどんな存在なのか既に理解していた。

 

鬼の王は酒呑や茨木と異なり本物の鬼ですらない。

 

この特異点の元凶である願いを叶える酒杯は丑御前の歪んだ願いを叶えてこの鬼ヶ島を作り、頼光が描いた鬼を配下として具現化させた。

 

その結果、この鬼ヶ島で大勢の人間が奴隷となって働かされ、たくさんの負の感情が生まれた。

 

更には人間だけでなく、鬼達も殺されていき、その魂と屍が鬼ヶ島に漂っていた。

 

そして……それらの負の感情と鬼の気が酒杯に少しずつ溜まっていき、酒杯の性質が完全に変化してしまった。

 

酒杯から膨大な邪気が溢れ出て、それが意志を持ち、鬼の王が誕生してしまったのだ。

 

しかし、鬼の王が誕生する決定的な理由は他にもあった。

 

「まあ、後は多分やけど……聖杯持ちが複数いるのも原因やろうなぁ……」

 

ここには聖杯所持者の遊馬に加えて聖杯の器であるイリヤ達がいる。

 

聖杯に近い性質の酒杯と共鳴すると言う本来ならばあり得ない現象が起きてしまい、より大きな力を生み出してしまったのだ。

 

『感じるぞ……その小娘達からこの杯と同じ力を……!』

 

鬼の王はギロリとイリヤ達を睨みつけて狙いを定めた。

 

イリヤ達の中にある聖杯の器という大きな力を得れば強大な力を得られる、鬼の王として更に強くなれると確信した。

 

『さあ、奪え!その力でこの日の本を鬼の国にするのだ!』

 

鬼の王は鬼達に指示して一斉にイリヤ達に襲い掛かった。

 

イリヤ達を守る為に近くにいた小太郎と段蔵が身を挺してでも襲い掛かる鬼を倒そうとした。

 

イリヤ達も守られてばかりでは無く、イリヤと美遊はクラスカードを構え、クロエとシトナイは弓を構え、アイリはシュトルヒリッターで小鳥と剣を作る。

 

遊馬達も急いで走り出し、イリヤ達を守る為に戦おうとした。

 

鬼の王の手によってイリヤ達に危機が迫るその時……再び遊馬のデッキケースから光が溢れ出る。

 

そして、光が一気に飛び出してイリヤ達の前に降り立ち、数千の鬼を一瞬で全て薙ぎ払い、一陣の突風が吹き荒れた。

 

その影にイリヤ達は目を見開いて驚愕した。

 

巨人と見紛うほどの巨躯を持ち、まるで巌のような男性。

 

灰色の肌に逆立つ黒い髪、その鋭い眼で敵を射殺すような赤色と金色の瞳。

 

鍛え抜かれた肉体とその同等の長さを持つ大きな斧剣を片手で持ち、地面に突き刺して全身に力を込めて雄叫びを上げる。

 

「◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎ーー!!!」

 

その雄叫びの声量にイリヤ達は思わず耳を塞いだが、一人だけ反応が違っていた。

 

「え……?うそ……でしょ……?」

 

それはシトナイだった。

 

シトナイは目の前にいるその巨人に信じられないと言わんばかりの困惑した表情をした。

 

しかし、その直後に嬉しくて笑みが溢れて涙を浮かべながらその巨人の名を呼んだ。

 

「……バーサーカー!!!」

 

バーサーカー……ヘラクレスはシトナイにその名を呼ばれ、鬼の王達に背を向けてゆっくりと腰を下ろした。

 

ヘラクレスの視線の先にはシトナイがおり、シトナイは足に力を込めてジャンプし、ヘラクレスの顔に抱きついた。

 

「バーサーカー、あなたにまた会えるなんて……本当に、本当に奇跡だわ」

 

ヘラクレスはその大きな手でシトナイに軽く触れて優しく頭を撫でる。

 

実は……ヘラクレスはシトナイ……イリヤスフィールの元サーヴァントだったのだ。

 

並行世界で起きた第五次聖杯戦争……そこでイリヤスフィールはヘラクレスをバーサーカーとして召喚して戦ったのだ。

 

イリヤスフィールはヘラクレスに心から信頼を寄せており、サーヴァントであると同時に父のように慕っていた。

 

ヘラクレスはイリヤスフィールをマスターとしてだけでなく、自分の亡くなった子供と重ねて敬愛する大切な存在として守ろうとしていた。

 

「そっか……バーサーカー、今はユウマのサーヴァントなんだね。それでも、私の為に来てくれたんだね。ありがとう」

 

『たかが、英霊一騎如きで……!さっさと始末しろ!!』

 

鬼の王の指示で再び鬼達が一斉に襲い掛かり、ヘラクレスはシトナイ達を守るように立ち上がり、右手で地面に突き刺した斧剣を引き抜く。

 

シトナイは笑みを浮かべて腕を振り上げ、嬉々として声を上げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──やっちゃえ!バーサーカー!!」

 

「◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎ーー!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今はもうマスターではないが、シトナイの命令にヘラクレスは歓喜に似た怒号を轟かせて斧剣を振り回す。

 

文字通り『狂戦士(バーサーカー)』の戦いに相応しい荒々しい暴風のような攻撃で鬼達がいとも簡単に吹き飛ばされる。

 

再び目にしたヘラクレスの戦いにシトナイは大興奮でいると更なる再会が待ち受ける。

 

「バーサーカー……いえ、ヘラクレスはイリヤスフィールと再会して嬉しそうに戦っていますね」

 

「いや、あの恐ろしい戦いっぷりに、無残にも飛び散る鬼を見ていると、そう思えないわよ……」

 

「でも絶対に嬉しいはずですよ。バーサーカーさんはイリヤさんのことが大好きですから!」

 

「確かにヘラクレスとイリヤのセットはとても合ってますからね」

 

「え……?ま、まさか……!?」

 

四つの声にシトナイは聞き覚えがあり、驚愕しながら振り向いた。

 

「セ、セイバー!?リンとサクラ!?それにライダーまで!」

 

後ろにいたのはアルトリア、イシュタル、パールヴァティー、メドゥーサの四人だった。

 

「イリヤスフィール、お久しぶりですね」

 

「やっほー、イリヤ。みんなで来ちゃったわよ♪」

 

「イリヤさん、また会えて嬉しいです!」

 

「まあ私はサクラの付き添いですが。とりあえず久しぶりです」

 

シトナイを守る為に鬼ヶ島に突撃したヘラクレスに続き、四人も鬼ヶ島に参上した。

 

アルトリアはシトナイの肩にポンと手を置いて再会を喜ぶ。

 

「イリヤスフィール、私達だけではありませんよ。貴方のために駆け付けたのは……」

 

「ま、まだいるの?」

 

「ええ。アイリスフィールと同じく、貴方を心から愛する人が……」

 

すると、シトナイの背後に黒い影が静かに立ち、そのままシトナイの頭を優しく撫でた。

 

その大きくてゴツゴツした手に撫でられてシトナイは息をするのも忘れるほど驚いた。

 

「イリヤ……僕を怨むなら幾らでも怨んでくれ」

 

「どうして……?」

 

「僕は……君の父親だ。父親として、愛する娘を……君を、守らせてくれ」

 

「キリツグ……!?」

 

シトナイの頭から手から離し、その男……キリツグはナイフと銃を手に駆け出して鬼退治をする。

 

まさかキリツグが来てくれるとは思いもよらずシトナイは困惑している。

 

「ふっ……じいさん。言うならちゃんと面と向かって言えばいいものを……」

 

そして、最後にシトナイの元に駆けつけたのはシトナイの義理の弟であるエミヤだった。

 

「えっ?シ、シロウ!?あなたまで!?」

 

「久しぶりだな、イリヤ」

 

「あっ、ああ……!」

 

シトナイはこれまでに無いほどの幸福感に溢れていた。

 

最高の従者と生き別れた両親に加えて義弟との奇跡の再会にシトナイは涙が溢れ出るほどに嬉しかった。

 

でもここは戦場、涙を流している暇などない。

 

シトナイはシロウの背に乗り、マキリを掲げて叫ぶ。

 

「よーし!みんな、行っくよぉー!」

 

シトナイの先導でアルトリア達と一緒に鬼退治に向かう。

 

「ミユ、クロ!私たちも行くよー!」

 

「うん、負けてられないね……!」

 

「アインツベルン家&衛宮家大集合だからね。派手に行きましょう!」

 

「みんな、頑張ってー!」

 

イリヤと美遊とクロエも負けられないとシトナイ達に続き、アイリは応援しながらみんなのサポートに徹する。

 

「僕達も行きましょう、段蔵殿!」

 

「ええ。ワタシを救ってくれたアイリ様達の恩に報いる為に!」

 

小太郎と段蔵は鬼の王から特に狙われているイリヤ達を守る為に駆け抜ける。

 

強力な援軍で鬼達が次々と倒されていき、その間にゴールデンは動けない頼光を抱きかかえて遊馬達の元に戻った。

 

「悪いな、大将、マシュの嬢ちゃん。頼光サンを任せてもいいか?」

 

「ゴールデン、行くのか?」

 

「ああ。酒呑と茨木、それにあんな小さな嬢ちゃん達が鬼退治をしているんだ。頼光四天王のオレが戦わないわけには行かないからな!ゴールドビングだ!!」

 

ゴールデンはゴールデンベアー号に乗ってフルスロットルで走り出す。

 

サーヴァント達による鬼退治が始まり、一騎当千とも言えるその戦力で次々と鬼が退治されていく。

 

しかし、鬼の王は自分の体から溢れる邪気を元に新たな鬼を作っていき、サーヴァントとの戦力差を埋めていく。

 

鬼の王と酒杯がある限り、鬼は無限大に増えていくのでこのままではキリがない。

 

「よし、アストラル。俺たちで鬼の王を倒すぜ!」

 

「ああ!そして、酒杯を奪取してこの特異点を終わらせる!」

 

遊馬とアストラルは鬼の王を倒し、酒杯を奪取することを決める。

 

希望皇ホープで戦おうと思ったその時……黒い影が二人を遮る。

 

「待ちな、二人共」

 

「ミストラル?」

 

「貴様、何のつもりだ?」

 

ミストラルの行動に警戒する遊馬とアストラル。

 

「遊馬君よ、早速で悪いが借りを返してもらうぜ」

 

「借りを返すって、何をどうするんだ?」

 

「簡単な話だ。俺様の分身、ブラック・ミストであの鬼の王を倒せ」

 

「ブラック・ミストで!?」

 

「そうか……ブラック・ミストの力で鬼の王から邪気を奪い取り、それを貴様の失った力を取り戻す為に使う気だな!?」

 

「ご名答。まだまだ俺様の力を100パーセント取り戻すには足りないからな。だが、あの鬼の王の登場はちょうど良いタイミングだ!」

 

「うぐっ!?」

 

ブラック・ミストが手を前に突き出して闇を纏うと、アストラルの体から『No.96 ブラック・ミスト』のカードが勝手に飛び出して遊馬の手に収まる。

 

確かにブラック・ミストは戦闘に特化した能力である為、鬼の王との戦いには最適かもしれないが、それは同時にミストラルの力を取り戻す事に繋がり、アストラルは不安が過ぎる。

 

すると、遊馬はため息をついてブラック・ミストのカードをデッキケースに入れる。

 

「分かったよ。やろうぜ、ミストラル」

 

「ふふふっ……良いぜ、そうこなくちゃな!」

 

遊馬はミストラルに借りを返す為と鬼の王を倒す為にブラック・ミストを使う決意を固めた。

 

「遊馬!?」

 

「心配するなって、アストラル。ミストラルは俺を助けてくれたのは確かだ。借りはちゃんと返さなきゃいけないからさ。それに、もしもミストラルが悪さをするなら俺たちでまた止めれば良い話だ。そうだろ?」

 

ミストラルの真意は不明だがこれまでも何度か遊馬とアストラルの危機に対して手を貸して命を救っているのは事実だ。

 

仮にミストラルがまた悪さを行おうとする可能性もあるが、今の自分たちなら止められると遊馬は確信している。

 

しかし、それと同時に遊馬は信じているのだ。

 

ミストラルはドン・サウザンドの一部から生まれ、世界に滅びをもたらそうとしていたが、その心は確実に変わり始めていると。

 

「全く君は……分かった。今回は目を瞑ろう」

 

遊馬のミストラルを信じる心に根負けし、アストラルはため息をついて今回の出来事に目を瞑る事にした。

 

「さあ、話が済んだところで……遊馬君よぉ!さっさと俺様を召喚してみろ!」

 

「そう言ってもお前の召喚条件はかなり面倒じゃねえか。まあやるだけやってみるけど……俺のターン、ドロー!」

 

テンションが上がっているミストラルに遊馬は軽く呆れながらドローをして手札を確認する。

 

「えっと……はぁ!?なんでこのカードが!?」

 

「どうした、遊馬?こ、このカードは……ミストラル、貴様か!?」

 

遊馬とアストラルは初期手札を見てあり得ないと驚いていた。

 

「正解だ。さっき遊馬の体を操っているときにこっそりデッキに入れさせてもらった。いつかこの俺様を召喚する為にな」

 

ミストラルのニヤリとした不敵な笑みに遊馬はため息をつく。

 

「ったく勝手な事を……分かったよ、これでやってやるよ。俺は手札から『マリスボラス・フォーク』の効果発動!手札からこのカード以外の悪魔族モンスター1枚を墓地に送り、このカードを特殊召喚する!」

 

背丈ほどのフォークを武器にし、鎧を着た小さな悪魔が召喚される。

 

マリスボラスはミストラルの分身を呼び出す為のカテゴリーモンスター。

 

レベル2で同じマリスボラスモンスターを特殊召喚する効果に特化している。

 

「更に『マリスボラス・ナイフ』を通常召喚して効果発動!召喚に成功した時、マリスボラス・ナイフ以外の墓地のマリスボラスモンスターを1体特殊召喚する!蘇れ、『マリスボラス・スプーン』!」

 

ナイフを武器にした悪魔とスプーンを武器にした悪魔が立ち並び、これでレベル2のモンスターが一気に揃った。

 

「行くぜ、レベル2のマリスボラス・フォーク、マリスボラス・ナイフ、マリスボラス・スプーンの3体でオーバーレイ!3体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築、エクシーズ召喚!!」

 

3体のマリスボラスモンスターが光となって地面に吸い込まれ、光の爆発が起きるとミストラルはテンションマックスで叫んだ。

 

「現れろ、我が分身!No.96!漆黒の闇からの使者!『ブラック・ミスト』!」

 

ミストラルの分身である不気味な闇の怪物、ブラック・ミストがエクシーズ召喚される。

 

「カードを1枚伏せ、ブラック・ミストで攻撃!」

 

「この瞬間、ブラック・ミストの効果!相手モンスターと戦闘を行う攻撃宣言時に1度、このカードのオーバーレイ・ユニットを1つ取り除いて発動!その相手モンスターの攻撃力を半分にし、ブラック・ミストの攻撃力はその数値分アップする!シャドーゲイン!!」

 

ブラック・ミストの手から無数の触手が生え、それらが全て鬼の王の体に突き刺さる。

 

『ば、馬鹿な……!?我の力が、奪われている……!?』

 

鬼の王の体を形成する膨大な邪気が一気に半分となり、それがブラック・ミストの攻撃力となる。

 

「ああ……満ちていく、俺に闇の力が満ちていくぞ!」

 

それと同時に本体であるミストラルの中に邪気が流れ込み、失っていた力をどんどん埋めていく。

 

「さあ、ブラック・ミストよ!鬼の王を蹴散らせ!ブラック・ミラージュ・ウィップ!!」

 

鬼の王に突き刺した触手を引き抜くと同時に鞭のように激しく振るって攻撃する。

 

闇の触手の攻撃で力が半減した鬼の王に多大なダメージが与えられる。

 

「流石だな、ミストラル。相変わらず強いな、ブラック・ミストは」

 

「当たり前だ!欲を言えばランクアップをすれば更に思いっきり暴れられるが今回はこれで良しとしよう!」

 

「ランクアップした君は面倒極まりないからなって欲しくはないがな」

 

共感と反発をする遊馬とアストラルとミストラル……本来ならば相反する存在であるが、今は共に戦っているその奇妙な関係に頼光は唖然としていた。

 

「何故……何故、彼らはあんな風に協力して戦っているのですか……?」

 

「それは……遊馬君がそうさせているんです」

 

「あの子が……?」

 

闇の存在であるミストラルと一緒に戦っている遊馬とアストラルに疑問を持つ頼光にマシュが答える。

 

「はい。遊馬君には不思議な魅力があります。どんな逆境に立たされても何度でも立ち上がり、絶対に諦めない。そして、敵であろうとも心が少しでも通じ合えば手を伸ばして助けようとする。そして、その手に未来を掴む……それが、私たちのマスター、九十九遊馬君です!」

 

「未来を、掴む……?」

 

頼光は未来を掴む無限の可能性を持つ遊馬の姿を見つめる。

 

鬼の王は一騎でも多くのサーヴァントを倒すために闇の波動を放つが、ヘラクレスの斧剣やアルトリアの聖剣によって攻撃は阻まれてしまう。

 

「さーて、そろそろ終わりにしよか?」

 

サーヴァント達のお陰で鬼の数が大きく減り、戦いも終盤に近づいたと感じた酒呑は鬼の王に一気にトドメを刺す。

 

「頼光!あんたがうちにくれた宝具を使うで?」

 

「私があげた……宝具……?」

 

頼光は何のことだか分からず、まだ誰にも見せていない酒呑の宝具をお披露目する。

 

「死にはったらよろしおす……」

 

酒呑の持つ盃から酒を垂らすとそれが一気に地面に広がって湖のような状態になる。

 

「『千紫万紅・神便鬼毒(せんしばんこう・しんぺんきどく)』!」

 

酒が鬼の王に触れた瞬間、邪気から作られたはずの体が一気に腐食して全身に回り出す。

 

酒呑の宝具……それは頼光が酒呑を退治する為に用いた毒酒「神便鬼毒酒」が宝具として昇華されたもの。

 

英霊と化した今、この毒酒と酒呑童子は一体の存在へと昇華されている。

 

千紫万紅・神便鬼毒は酒呑の意志で相手に与えた酒の濃度を変え、最大濃度ならば、全身を生きながらに腐乱させ、僅かな骨しか残さないほどの猛毒にする。

 

『な、何故だ!?何故この邪気の体が酒に蝕まれる!??』

 

「この酒呑童子を酔わせて眠らせるほどの毒酒やで?その最大濃度を受ければただでは済まんのは当然や。さあ、茨木。次はあんたや」

 

「応っ!鬼の王と言ったが、貴様如きがこの鬼の頭領であるこの茨木童子の前で王を名乗るな!」

 

鬼の頭領としてのプライドが茨木の怒りを燃え上がらせ、その怒りが炎となって右手に宿る。

 

「走れ叢原火!『羅生門大怨起』!! 」

 

茨木の右手が切り離され、真っ赤に燃える怨念の鬼火を纏って巨大化し、猛烈な速度で走る。

 

酒呑の宝具の毒で弱っている鬼の王の胸元に向けて飛び、そして……心臓を抉るように貫いた。

 

『グァアアアアアッ!??』

 

「ハッ……!捕まえたぞ!!」

 

茨木の元に戻った右手の中には鬼の王の中にあった酒杯があった。

 

羅生門大怨起で酒杯を捥ぎ取り、これで鬼の王の無限に近い力の源を奪い取ったことになる。

 

「さあ、遊馬!早いところこいつにトドメを刺せ!」

 

酒杯を鬼の王から奪い取り、満足した茨木は最後のトドメを遊馬達に譲る。

 

「ああ、わかったぜ!俺のターン、ドロー!ブラック・ミストで攻撃!この瞬間、ブラック・ミストの効果発動!シャドーゲイン!」

 

ブラック・ミストの効果で再び触手を放って鬼の王を貫き、力を奪い取る。

 

「クックック……これで貴様の力を更に奪ってやったぜ。ブラック・ミスト、やれ!ブラック・ミラージュ・ウィップ!」

 

最初よりも倍増した触手で鬼の王をこれでもかと痛ぶり、もはや虫の息と言えるほどまでに追い詰めた。

 

『お、おのれぇ……まだだ、ここにいる鬼を全て取り込んで力を……!』

 

鬼の王はまだ辛うじて残っている鬼達を自分の肉体として取り込み、力を取り戻そうとした。

 

「鬼の王、悪いが次のお前のターンは来ない。これで終わりだ」

 

『何だと……!?』

 

「ミストラル、ラストアタック……行くぜ?」

 

「おいおい、この俺様をまだ満足させてくれるのか……!?最高だぜ、遊馬君よぉ!!」

 

歓喜の表情を浮かべたミストラルの思いに応えるラストカードを発動する。

 

「罠カード!『かっとビング・チャレンジ』!自分バトルフェイズにこのターン攻撃を行ったモンスターエクシーズ1体を対象として発動!このバトルフェイズ中そのモンスターはもう1度だけ攻撃出来る!そして、この効果でそのモンスターが攻撃する場合、ダメージステップ終了時まで相手は魔法・罠・モンスターの効果を発動できない!!」

 

それは夕陽に向かって高くジャンプする遊馬の後ろ姿が描かれており、モンスターエクシーズの2回目のバトルを可能にして相手に大ダメージを与える罠カード。

 

このカードは戦闘によって自身の攻撃力が上昇するブラック・ミストと相性がとても良いのだ。

 

「ヒャハハハ!ここで2回攻撃とは最高だぜ!さあ、再び攻撃しろ、ブラック・ミスト!!」

 

かっとビング・チャレンジの効果を受けたブラック・ミストラルはもう1度鬼の王に攻撃する。

 

「ブラック・ミストの効果!シャドーゲイン!!」

 

ブラック・ミストが最後のオーバーレイ・ユニットを使い、更に鬼の王の力を半減させる。

 

これで鬼の王の力は8分の1以下にまで大幅に減少し、力の源だった酒杯も奪われている。

 

「これでファイナルだ!ブラック・ミスト!!」

 

「喰らいな!ファイナル・ブラック・ミラージュ・ウィップ!!」

 

最早数え切れないほどの大量の触手がブラック・ミストから生えて鬼の王の全身を隈無く叩きのめした。

 

『馬鹿な……我の……鬼の国が……』

 

「悪いけど、あんさんが支配するそんな国は必要無いで」

 

「紛い物の鬼にそんなものを作れるはずがないのだ!」

 

酒呑と茨木は鬼の王に引導を渡し、鬼としての全てを否定されながら消滅していく。

 

「茨木。酒杯を」

 

「ああ」

 

茨木は鬼の王から奪った酒杯を酒呑に向けて投げる。

 

「旦那はん、こいつを壊すで?」

 

「酒呑、頼む」

 

「了解♪」

 

酒呑は剣を構えて羅生門と鬼ヶ島……二つの特異点の元凶である酒杯を真っ二つに斬り裂いた。

 

真っ二つに斬り裂かれた酒杯が地面を転がりながら消滅する。

 

酒杯が消滅した事でこの特異点を解決した。

 

「うーん、これですっきりしたわ。小僧、旦那はん、先に帰らせてもらうで」

 

「ようやく終わったか……帰ったら甘味をたらふく食べるかな!」

 

酒呑は特異点の元凶を破壊できてすっきりし、茨木は戦いが終わって安心し、二人は頼光に色々言われる前に先にカルデアに戻った。

 

今度こそ鬼ヶ島の戦いが終わり、全員がホッとするとこの特異点の一番の被害者と言える存在、頼光がその場で土下座をして全員に謝罪した。

 

「皆さん……この度はご迷惑をかけて本当に申し訳ありませんでした。記憶は欠けておりますが、私の至らぬ弱さ、はしたない本性が、皆様に害を成したと存じます。謝って許される事ではありませんが、この通り。どうか、お許しくださいませ」

 

「顔を上げてくれよ、頼光さん。俺たちはそんなことは気にしてないし、丑御前が酒杯の所為で暴走してしまったことはみんな分かっているからさ」

 

遊馬は土下座をする頼光を起こした。

 

しかし、それでも頼光の申し訳なさそうな罪悪感を持つ表情は消えず、今にも泣きそうだった。

 

頼光の罪の意識を少しでも和らげるために遊馬はある提案をする。

 

「それじゃあさ、頼光さん。俺と契約をしてくれるか?」

 

「契約、ですか……?」

 

「ああ。俺たちは世界の未来を取り戻す為に戦っていて、ゴールデンも一緒に戦ってくれているんだ。だから……頼光さんの力も貸してほしい」

 

「こんな私でもよろしいのですか……?」

 

「もちろんだぜ!同じ日本人として最強の神秘殺しの頼光さんがいてくれたら安心するからさ!それに、俺と契約してカルデアに召喚したらゴールデンとまた一緒に暮らせるぜ?」

 

自分の最愛の息子でもある金時とまた暮らせると聞き、頼光の表情が明るくなっていく。

 

「まあ……!金時とまた一緒にですか!?しかし、こんな私にその資格が……」

 

「何で?互いを想いあってる家族でまた一緒に過ごせることに資格なんて必要か?なあ、ゴールデン、別に問題ねえよな?」

 

「当たり前だ、大将。オレだって頼光サンの……母上の作った飯を食いたいからな」

 

あっけらかんと言う遊馬とそれに応えるゴールデンに頼光は目を見開いて驚き、それと同時に心がとても暖かくなっていく。

 

頼光は思う、自分はなんて幸せ者なのだろうと。

 

自分を想ってくれる最愛の息子。

 

そして、自分を真っ直ぐ見つめ、手を差し伸べて優しい笑顔を見せてくれる少年。

 

母としてこの想いに応えなければならないと頼光は決意を新たにした。

 

「源氏の棟梁、源頼光。九十九遊馬様……あなたの刃になることをここに誓います」

 

頼光は遊馬の前で跪いてサーヴァントとしての忠誠を誓った。

 

「おう!これからよろしくな、頼光さん!」

 

「はい!」

 

遊馬と頼光は握手をして契約を交わした。

 

頼光のフェイトナンバーズが誕生し、契約が完了するが、その直後に頼光の体が光の粒子となって消滅していく。

 

「どうやら時間が来てしまったようです……」

 

「心配するな、帰ったらすぐに召喚するからさ!」

 

「はい……よろしくお願いしますね、遊馬」

 

頼光は最後に満面の笑みを浮かべながら消滅した。

 

それに続いて小太郎と段蔵も消滅していく。

 

「マスター、色々とお世話になりました」

 

「またお会いしましょう」

 

「小太郎、段蔵!カルデアで召喚したら風魔忍者の事を沢山教えてくれよ!」

 

「はい!手裏剣や苦無の投げ方など沢山教えます!」

 

「ワタシも一緒に御教授致します!」

 

「楽しみにしてるぜ、二人共!」

 

小太郎と段蔵も笑顔のまま消滅していき、残るは……。

 

「ねえ、ユウマ」

 

「シトナイ、どうしたんだ?」

 

最後の一人はまだ契約を交わしてないシトナイだった。

 

「えっと……契約、お願い出来るかな……?カルデアで召喚してくれたら、お母様やみんな……それに、バーサーカーとも会えるよね……?」

 

「もちろん!カルデアに帰ったらすぐに召喚してやるからな!」

 

「うん、ありがとう!」

 

シトナイはカルデアには最愛の母のアイリだけでなく、生前に一緒にいた大切な人たちが沢山いるので、特殊な環境下とはいえまた一緒に暮らせると心を弾ませている。

 

遊馬はシトナイとも無事に契約を交わし、これでこの鬼ヶ島で出会った全てのサーヴァントとの契約を完了させた。

 

「ああ……シトナイ、いいえ、イリヤ……待っててね。すぐにマスターが呼んでくれるから……」

 

アイリはシトナイとの別れを惜しみ、二度と話さないと言わんばかりに、強く抱き締めていた。

 

「うん……待ってるからね。お母様」

 

そして、シトナイの体が光の粒子となって消滅されていき、別れの時が来た。

 

アイリは泣きそうな表現を浮かべるが、シトナイは我慢しながらアイリから離れてシロウの元に戻る。

 

「じゃあね……じゃあね、みんな!私、待ってるからねー!」

 

シトナイは小さな涙を流しながら精一杯の声を出して再会の為の別れを告げながら消滅していった。

 

「さぁ、俺様の力も大体取り戻したぜ。俺は鍵の中で休ませてもらうぞ」

 

ミストラルは欠伸をしながら特に何もせずに皇の鍵の中に戻った。

 

ミストラルの目的が何なのかわからず小さな不安が残るが、何はともあれ羅生門と鬼ヶ島の繋がる日本の特異点を無事に解決した遊馬達はカルデアへと帰還する。

 

そして、帰還早々に遊馬は新たなフェイトナンバーズを手に召喚ルームへと駆け出した。

 

 

 




次回から夏イベのカルデアサマーメモリー編を始めます。
やっと夏イベに突入出来ます。

その前に遊馬の説教とかシトナイの一悶着がありますのでお楽しみを(笑)

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