Fate/Zexal Order   作:鳳凰白蓮

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今回はカルデアのママことブーディカ姉さんの登場です。
エミヤとブーディカが揃えばカルデア食堂は安泰ですね。


ナンバーズ21 勝利の女王、母の温もり

サーヴァント・カリギュラを退け、アルトリア似の少女の正体がローマのネロ皇帝と知り、驚愕する遊馬たち。

 

遊馬たちはネロの案内で永遠の都……ローマに案内された。

 

「見るがよい、しかして感動に打ち震えるのだっ!これが余の都、童女でさえ讃える華の帝政である!」

 

「ここがローマか……!」

 

ローマの街の賑わいに心を弾ませながら遊馬はデッキケースから反骨の闘士ライオンハートと青い拳闘士の姿をしたナンバーズを取り出した。

 

「前世のアリトはこんな世界で過ごしていたのかな……」

 

アリトの前世は最高の剣闘士として戦っており、特に古代ローマでは剣闘士は特に有名だった。

 

「可能性は十分にあるな。この世界と私たちの世界の歴史に差はあるが、歴史の流れはほぼ同じだろう」

 

「だよな……アリトにこの風景を見せてやりたかったな」

 

「何をボソボソと言っておる。ほれ、それを食うのだ」

 

物思いに耽っていた遊馬に対しネロは果物を売っている店から貰った林檎を投げ渡した。

 

「ローマ時代の林檎か……ネロ皇帝、おっちゃん、いただくぜ!ムシャムシャ……美味え!最高だぜ!」

 

「甘くて美味しいです〜!」

 

遊馬は林檎を皮ごとかぶりつき、ジャンヌも同じ様に林檎を頬張るように食べていた。

 

「おお、なかなか見事な食べっぷり。うむ。改めて、余はその方らが気に入った。実のところ、言ってることはよくわからぬが……お主も少女達も正直者である事はわかるのだ」

 

「ま、確かにあまりにもおかしすぎて理解は難しいよな」

 

「私達は未来から来た魔術師で、この世界に起きている異常を解決するためにネロ皇帝の手助けをする……それだけ分かれば問題ない」

 

「ひとまずは理解出来たが……それにしてもまさかこの眼で精霊を目の当たりにするとは思わなかったぞ……」

 

ネロはアストラルをまじまじと興味深く見つめる。

 

サーヴァントではない人間が普通にアストラルを見られるという事は魂がランクアップしている証拠であり、それは歴史に名を残すネロ皇帝なら英霊としてサーヴァントになりゆる存在とも言える。

 

ちなみにカルデアではサーヴァント召喚に使用する特別な機械や環境などがあるのでアストラルを目視することができる。

 

「よし、まずは共に来るが良い。我が館にて、ゆっくり話すとしよう」

 

ネロは遊馬達を宮殿に案内して現状を整理していく。

 

平和なローマに突如、ネロ以外の複数の『皇帝』が現れた連合軍……『連合ローマ帝国』がこのローマ帝国の半分を奪った。

 

特に先ほど現れたカリギュラはネロの伯父……サーヴァントであるということは既に死んでいる人間である。

 

フランスでの特異点のように誰かが聖杯を手にして皇帝をサーヴァントとして召喚している可能性が高い。

 

しかし、連合軍を防ごうにもネロの今ある軍を総動員しても抑えきれていない。

 

「口惜しいが……思い知らされた。最早、余一人の力では事態を打破することは出来ない。故に、だ。貴公たちに命じる、いや、頼むっ!余の客将となるがよい!ならば聖杯とやらを入手するその目的、余とローマは後援しよう!」

 

「客将……?」

 

「客将とは一国の軍で客として待遇されている将軍のことだ。この場合は私たちの力をネロ皇帝に貸し、連合軍と戦う将になる代わりに私たちの聖杯探索を手伝ってくれるということだ」

 

ネロの古風な話し方と少々難しい言葉に首をかしげる遊馬にアストラルが分かりやすく説明する。

 

「そういうことか!サンキュー、アストラル。良いぜ、俺たちの力をネロ皇帝に貸してやるぜ!」

 

「おお、そうかそうか!快諾とはな!貴公たちのうち一名に総督の位を与えるぞ。それと、先ほどの働きへの報奨もな。今夜はゆっくり休むがよい。それぞれに、総督に相応しい私室を用意させよう」

 

「悪いな、ネロ皇帝。あ、そうだ……一つ聞きたい事があるんだけど、レフ・ライノールって言うもじゃもじゃした髪をしたおっさんを知らないか?」

 

遊馬はこの戦いの元凶と思われる男……カルデアを裏切り、多くの人を殺したレフ・ライノールについて聞いた。

 

「……れふ?いや、とんと聞かぬ。何者だ?」

 

「私たちの時代の魔術師です。カルデアと、人類の全てを彼は裏切りました。この時代にもいる可能性もあります。もっとも、姿を見せて活動しているかはわかりません」

 

「だが、レフが魔術師……人間ではない可能性も充分にある」

 

「アストラルさん、それはどういう事ですか!?」

 

「レフ・ライノールと初めて対峙した時から彼からは人間のエネルギーを全く感じられなかった。文字通り人の皮を被った化け物……そんな気がしてならなかったんだ」

 

異世界人であるアストラルはレフが少なくとも人間ではない別の存在だとすぐに気付いた。

 

そもそも人理焼失を企む存在が魔術師とはいえ、ただの人間ではないことは確かだが。

 

「……連合には巨大な魔術を操る輩がいると聞いた。兵たちの噂ではあるが、最前線で姿を見かけたとか」

 

「もしそれがレフなら俺たちで必ずぶっ飛ばす。再起不能になるまでぶっ飛ばして自分のやったことを懺悔させてやる」

 

「……はい。レフ・ライノールは私たちの敵です」

 

レフはカルデアを崩壊直前まで追い込み、オルガマリーを爆死させ、マスター候補生を仮死状態に追い込み、大勢のカルデアの職員の命を奪った。

 

その大きすぎる罪を償わせなければならないと遊馬とマシュはレフを倒すことに密かな闘志を燃やす。

 

その後遊馬達は首都に攻めてくる連合軍の残党を倒し、休息を取りながら時間が経過するとネロがガリアへ向かうことになり、遊馬達も同行することとなった。

 

ガリアはこの戦争の重要な最前線であるので敵サーヴァントがいる可能性が充分に考えられ、必然的に遊馬達の力が必要となる。

 

遊馬達は改めて気合を入れてガリアへ向かう。

 

 

首都から馬を使ってガリアの遠征地に到着した遊馬達。

 

ネロは皇帝として兵士たちに言葉を送って鼓舞し、兵士たちの士気を高める。

 

皇帝ネロのカリスマに驚きながら初めて見る野営地を眺めているとアストラルは近づいてくる気配に察知して遊馬に警告する。

 

「遊馬!サーヴァントだ!」

 

「何!?」

 

遊馬は瞬時にデッキからカードをドローして身構えると、近づいてきた二人のサーヴァントを目視する。

 

一人は赤い髪をした綺麗な女性のサーヴァントで、もう一人は灰色の屈強で大きな肉体を持つ男性のサーヴァントだった。

 

「君は……その令呪、君がマスターでその後ろにいる二人の女の子がサーヴァントだね。大丈夫、あたしたちは味方だよ。あたしはブーディカ。ガリア遠征軍の将軍を努めてる」

 

「ブーディカ?」

 

女性のサーヴァント、ブーディカの名前を聞いてマシュは目を見開いて驚いた。

 

「そう。ブーディカ、ブリタニアの元女王ってヤツ。で、こっちのでっかい男が……」

 

「戦場に招かれた闘士がまたひとり。喜ぶがいい、此処は無数の圧殺者に見ちた戦いの園だ。あまねく強者、圧制者が集う巨大な悪逆が迫っている。反逆の時だ。さあ共に戦おう。比類なき圧政に抗う者よ」

 

よくわからない古風な言葉を並べる男性サーヴァントに遊馬たちは頭に疑問符をたくさん浮かべるほど理解ができなかった。

 

「色々省略するが、彼は共に戦うことを喜んでいるようだ」

 

アストラルが通訳し、ブーディカはアストラルの姿を見て驚いた。

 

「うわぁ、本当に精霊だ……こんなに綺麗な人は初めて見たよ。おっと、彼はスパルタクスだよ」

 

「スパルタクス……すげぇ筋肉だな……どうやったらあんなになれるんだ?」

 

スパルタクスの屈強で大きな肉体……見事な筋肉に感心していると、自己紹介するのを忘れてすぐに遊馬たちは名乗る。

 

「俺は九十九遊馬だ!遊馬って呼んでくれ」

 

「私の名はアストラル」

 

「マシュ・キリエライトです」

 

「私はジャンヌ・ダルクと申します」

 

自己紹介が終わり、遊馬たちはブーディカとスパルタクスにカルデアと聖杯について話した。

 

ブーディカは協力してくれるが、スパルタクスはバーサーカークラス故に反応がよくわからなかった。

 

協力してくれることになり、ホッとする遊馬たちだが、ブーディカはまだ遊馬たちの力を知らないので力試しで勝負することになった。

 

遊馬は敵サーヴァントと対峙するような気持ちで一気にマシュとジャンヌをフェイトナンバーズで呼び出す。

 

「エクシーズ召喚!現れよ、『FNo.0 人理の守り人 マシュ』!『FNo.62 竜皇の聖女 ジャンヌ・ダルク』!!」

 

遊馬はフェイトナンバーズとなったマシュとジャンヌをサポートするために魔法と罠を駆使してブーディカとスパルタクスの二人と攻防を繰り広げるのだった。

 

そして、充分な力試しとなり、ブーディカとスパルタクスは遊馬たちの実力に満足した。

 

特にブーディカはマシュを気に入り、満足そうに笑みを浮かべながらマシュをジッと見ると何かに気付いた。

 

「よく見たら、何だそうか。そーいうことか。あんた、それならそうって言ってくれればいいのに!」

 

「はい??」

 

「色々複雑なコトになってるんだねぇ。こっちだって……あ、それによく見たらめんこいねえ!」

 

「え?」

 

「こっちおいで、ほら。よしよし」

 

ブーディカは満面の笑み浮かべながらマシュを抱き寄せてまるで自分の子供をあやすように頭を撫でていく。

 

「あっーーな、なんでしょうかブーディカ、その、わぷっ……どうしてこういった……」

 

「あたしにはあんたは妹みたいなもんだ。『あんたたち』は、かな。よしよし」

 

ブーディカはマシュにある『何か』の正体に気付いて愛おしそうに抱きしめており、マシュはブーディカの温もりに力が抜けてそのまま甘えるようにギュッと抱きしめる。

 

「まるで親戚の姉ちゃんだな」

 

「それか子煩悩な母親だな」

 

「あはは……マシュの顔が真っ赤ですね」

 

マシュとブーディカの光景に微笑ましく思う遊馬たちだったが、ブーディカの魔の手が更に伸びることになる。

 

「ほら、ジャンヌもおいで〜」

 

「はいっ!?」

 

「いいからいいから」

 

「わぷっ!?」

 

ブーディカによってジャンヌも抱きしめられてマシュと一緒に頭を撫でられ、いいこいいこされる。

 

久しく人の温もりに触れていなかったジャンヌもマシュと同様にブーディカの温もりに陥落していくのだった。

 

(これはまずい……)

 

そう直感した遊馬はそろりと抜き足でその場から立ち去ろうとしたが、それは無駄なことだった。

 

マシュとジャンヌを目一杯甘やかしたブーディカの次の標的は言うまでもなく遊馬で逃げようとした遊馬の背後に一瞬で回り込んだ。

 

「うおっ、速っ!??」

 

「逃げることないじゃないか、ほーら。よしよーし」

 

「や、やめ……うぷっ!?」

 

哀れ、遊馬もブーディカに抱きしめられて頭を撫でられてしまう。

 

ブーディカはとても綺麗でスタイル抜群、普通の男ならこれはあまりにも嬉しい事だが、十三歳の思春期の男子には辛い。

 

遊馬は顔を真っ赤にしてジタバタと暴れようとするがブーディカの温もりやあふれんばかりの母性にマシュやジャンヌと同じように陥没しかけたその時だった。

 

「っ!?」

 

遊馬の脳裏に一人の女性の姿が思い浮かんだ。

 

その女性は遊馬にとって、ある意味小鳥よりも近い存在でその女性との記憶が次々と蘇ると遊馬の中で込み上げるものがあった。

 

そして……。

 

ポタン……!

 

何かが落ちる音が鳴り、その音を耳にしたブーディカは遊馬をゆっくり離すと目を見開いて驚いた。

 

「えっ?えっ?ユウマ、どうしたの!?」

 

ブーディカが驚くのも無理は無かった。

 

何故なら遊馬の両眼の瞳から大粒の涙が溢れていたからだ。

 

「あ、あれ……?俺……?」

 

遊馬は何故自分が涙を流しているのか分からず困惑してしまい、思わずブーディカを突き放した。

 

「ユウマ……?」

 

「ご、ごめん!」

 

「あっ!」

 

遊馬はブーディカから逃げるようにその場から立ち去り、ブーディカは突然なことに追いかけることは出来なかった。

 

マシュ達も遊馬が突然涙を流して立ち去ったことに驚いてその場で立ち止まってしまい、どうすることも出来なかった。

 

「私……何かユウマにいけないことをしたかな……?」

 

「いや、ブーディカ。君の責任ではない」

 

「アストラル……」

 

アストラルがブーディカの前に降り、遊馬が何故逃げ出したのか代わりに説明する。

 

「遊馬はおそらく君を母に……九十九未来さんの面影を重ねたのだろう……」

 

「私にユウマの母を……?」

 

「遊馬の家庭環境は少々特殊だ……何があったのか話そう」

 

アストラルは遊馬の家族、九十九家に起きた過去の出来事について語り始めた。

 

 

ブーディカから逃げた遊馬は野営地から少し離れた丘で寝転んでいた。

 

首にかけていた皇の鍵を手に持ち、見つめながら呟いた。

 

「慣れたと思ったけどなぁ……」

 

D・パッドを取り出して電源を入れ、軽く操作して一枚の写真を映す。

 

それは何処かの遺跡を背後に探検の時に着用するサファリジャケットを着た遊馬に顔つきがよく似た男性と遊馬の優しい風貌と同じ赤い眼を持つ優しそうな女性が映っており、女性の手には遊馬が持っている皇の鍵が握られていた。

 

「ホームシックってやつか……はぁ、まだまだ子供だな……」

 

自分はもう子供じゃないと何度も言い聞かせてきたが、自分はまだまだ子供だと思い知らされる。

 

「父ちゃん……母ちゃん……」

 

それは遊馬の両親で九十九一馬と九十九未来である。

 

皇の鍵を握りしめてそのまま眠りにつこうと目を閉じると、一つの影が遊馬に重なった。

 

「こんなところで寝ているという風邪ひいちゃうよ?」

 

「んぁ……?うわぁあああっ!?ブ、ブーディカ!?」

 

遊馬の顔を覗くように現れたのはブーディカだった。

 

「あ、ごめん。驚かせちゃった?」

 

「い、いや、大丈夫だ……」

 

「隣、いい?」

 

「あ、ああ……」

 

ブーディカは遊馬の隣に座り、遊馬は驚いた事と妙な緊張感で心臓がドキドキしていた。

 

数秒間の沈黙の後、話を切り出したのはブーディカだった。

 

「聞いたよ、君の家族のこと……」

 

「……そっか、アストラルが話したんだな。自分で話すより気が楽で良かったよ……」

 

「辛かったよね、大好きなお父さんとお母さんが急にいなくなって……」

 

「そうだな、俺には姉ちゃんと婆ちゃんがいたけど、やっぱり寂しかったな……」

 

「……ねえ、ユウマ。アストラルが言ってたけど、お父さんを儀式の生贄にした相手……そいつを許したんだって?」

 

遊馬は父・一馬が行方不明になった犯人……異世界の扉を開くために一馬を騙して生贄にしたDr.フェイカーを復讐せずに許したのだ。

 

「ああ……Dr.フェイカーは自分の息子、ハルトって言うんだけど、重い病気で生死をさまよっていたハルトを救う為に異世界の力が必要だった。そして、異世界の扉を開くために父ちゃんを……」

 

「そして、そのお父さんを探しに行ったお母さんも異世界に……憎くはなかったの?そいつに復讐したいとは思わなかったの?」

 

「確かに憎かったさ、Dr.フェイカーが儀式をしなかったら俺や姉ちゃんや婆ちゃんは悲しい思いをしないで家族みんなで仲良く暮らしていたかもしれなかった……でも、復讐する気にはなれなかった」

 

「……どうして?」

 

「Dr.フェイカーはハルトを一生懸命生かそうとしていた……悪魔に自分の魂を捧げても、自分がどうなっても構わない覚悟で必死に戦っていた。それに、きっと父ちゃんなら仕方ないって笑うと思うからさ……そう思ったら憎しみの心は消えちまったよ」

 

遊馬はDr.フェイカーを許した時と同じように笑みを浮かべる。

 

「ユウマ……ああ、もう!どうしてこんなに良い子なんだい!!」

 

ブーディカは遊馬の復讐の相手すら深く思うその優しい心に心を打たれ、耐えきれなくなって再び抱き寄せてぎゅっと抱きしめた。

 

「ちょっ!?ブーディカ!?や、やめろって!?」

 

「照れない照れない。良い子だね、よしよーし」

 

ブーディカは抱きしめながら頭を優しく撫でて遊馬の羞恥心の抵抗力を一気に削ぎ落としていく。

 

「母、ちゃん……」

 

まるで幼い頃に母に抱きしめられた記憶を呼び起こされた気持ちとなり、遊馬はギュッとブーディカに抱きつく。

 

しばらく遊馬を抱きしめていたブーディカは静かに自分の過去を話し出す。

 

「私もさ、娘が二人いたんだけどローマに酷い目にあわされて死んじゃったんだ……」

 

「娘さんを……ローマに……?」

 

「そして、怒りや憎しみで我を忘れて、大勢のローマ人を殺しつくしたんだ……」

 

「それほどまでにブーディカの憎悪が強かったんだな……」

 

遊馬はブーディカの言葉からどれほど辛く苦しかったのか、そしてどれほど強い怨みがあったのか感じられた。

 

ブーディカが憎悪を宿して戦い、それを踏まえて遊馬は自分が経験してきた出来事から答えを出す。

 

「……ブーディカ、俺は元いた世界で色々な復讐者を見て来たんだ。たった一人の妹を意識不明の重体に追い込まれた兄、親友に裏切られた男、変わり果てた父親の為に戦う三兄弟……そいつらと出会い、戦った。俺も父ちゃん達の事とは別に親友を殺されたと思わされて敵に復讐しようとした……だけど、気付いたんだ。復讐は新しい憎しみしか生まない、周りの誰かを不幸にしてしまう。復讐の連鎖を断ち切らない限り、憎しみの連鎖は永遠に続いていくんだ……」

 

遊馬もかつて復讐に取り憑かれて危うく大切な仲間の命と大切な相棒との絆を失いかけた。

 

ブーディカも大勢のローマ人を殺し、復讐してからその事にやっと気付いた。

 

「……そう、だね。憎しみは憎しみしか生まないからね」

 

「だから、ブーディカ!もしも、もしもまたあんたに誰かを憎む復讐の心が芽生えた時、誰かを手にかけようとしたら俺が必ず止める!」

 

ブーディカはとても優しい心を持つ女性だと心と肌で感じた遊馬は仲間として守ることを誓う。

 

「ユウマ……」

 

「俺が……ブーディカの憎しみを全て受け止めるからな、約束だ!」

 

まさか自分の娘ぐらいの年齢の子供からそんなことを言われるとは予想外で呆然とするが、すぐに笑みを浮かべてもう一度遊馬の頭を撫でる。

 

「そうね……その時はお願いしちゃおうかな。よろしくね、小さな勇者君」

 

「おう!」

 

マスターとサーヴァントではなく、一人の少年と女性として約束を交わす遊馬とブーディカ。

 

すると……。

 

ぐぅ〜っ!

 

「あっ、やべぇ……腹減ったぁ……」

 

遊馬が空腹で腹の虫が豪快に鳴り、力が抜けてしまう。

 

「ぷっ、あはははは!豪快な腹の虫だね。いいよいいよ、野営地に戻ってご飯にしようか」

 

「おう!美味い飯を頼むぜ!」

 

「うん、任せて!」

 

遊馬とブーディカは一緒に野営地まで歩いて帰る。

 

元気よく歩いていく遊馬の後ろ姿を見てブーディカは呟いた。

 

「敵わないなぁ……」

 

遊馬の幼いながら、とても大きく見える背中にそう思った。

 

ブーディカはアストラルから遊馬とDr.フェイカーの顛末を聞いていた。

 

遊馬はDr.フェイカーとの対決の後、復讐せずに許すことにした。

 

しかもそれだけでなく遊馬はある望みを宣言した。

 

それはWDCの優勝者の特典であり、主催者がどんな望みも叶えるものだったが、主催者は行方不明になってそれは不可能となった。

 

しかし、遊馬の叶えたい望みは自分の私利私欲ではなかった。

 

『俺の望みはカイト達親子が仲良く暮らすことだ!』

 

遊馬は何と自分の憎かった相手の家族の幸せを望んだのだった。

 

憎しみを止めるだけでなく幸せを望む……遊馬とブーディカとは憎しみの方向は異なるがそれでも充分凄いことだった。

 

「全く、まだ子供だけど、もう少し大人だったら惚れちゃいそうだよ……ああ、でも娘達のお婿さんになって義理の息子も捨て難いなぁ……」

 

マシュ達やカルデアにいる小鳥や清姫達が聞いたら発狂しそうな言葉を呟くのだった……。

 

「あ、そうだ!ブーディカって確か、『勝利の女王』って呼ばれているんだよな?」

 

「ええ、そうだよ。それがどうかしたの?」

 

「実はさ、俺とアストラルには『勝利』の名を持つモンスターがいるんだぜ!」

 

ブーディカは『勝利』の英名の由来とも言われている。

 

希望皇ホープには希望皇ホープレイ以外にも多くの進化形態があり、その中で勝利の名を持つ希望皇ホープの進化形態がある。

 

「勝利の名を持つモンスターか……じゃあ、いつか強敵が現れた時に見せてね」

 

「おう!そいつはすっげえかっこいいから期待しててくれ!」

 

「うん♪楽しみにしているよ、ユウマ」

 

まるで息子と母の親子のような雰囲気を漂わせながら楽しそうな会話をする遊馬とブーディカ。

 

そして、その夜にブーディカは遊馬とサーヴァントの契約を結び、ブーディカのフェイトナンバーズを誕生させた。

 

意外にもブーディカと相性がよほど良かったのか、すぐにイラストと真名が判明した。

 

綺麗な赤い髪が腰まで伸びてその手にはアルトリアの持つ約束された勝利の剣に似た剣を持ち、馬二頭が引く戦車に乗る姿が描かれており、真名は『FNo.83 勝利と愛の女王 ブーディカ』。

 

またここに一つ遊馬の新たなサーヴァントとの絆が紡がれたのだった。

 

 

 

.




ブーディカ姉さんのあふれんばかりの母性はもはや狂気レベルですね(笑)
早くも遊馬先生がフラグを立てました(笑)
次回はカエサルとの戦いになると思います。

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