Fate/Zexal Order   作:鳳凰白蓮

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これにてZero編は終了となります。
色々ありましたが、達成感はありました。


ナンバーズ71 捻じ曲げられた運命

イスカンダルとダレイオスの最後の戦い。

 

それは漢と漢の一対一の決闘、殴り合いである。

 

互いに屈強な肉体から放たれるその拳、その蹴りは一撃一撃に己が全力を……魂を込めてぶつけ合う。

 

二人の体は激しく傷つき、その体は痣だらけになり、皮膚が破けて血が流れ、骨もあちこち折れている。

 

しかし、二人は決して倒れなかった。

 

最後の一瞬まで心が折れることなく、力の限り拳を振るった。

 

そして……。

 

「イス、カン、ダル……」

 

ダレイオスは倒れず、立ったまま力尽きてしまった。

 

しかしその表情はとても満足げで目を閉じながら静かに消滅していった。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……ダレイオスよ、楽しかったぞ……」

 

この激しい戦いの勝者はイスカンダルとなった。

 

しかし、その代償は大きかった。

 

「ライダー!お前っ……!」

 

「むっ?どうやら……余も限界らしいな……」

 

イスカンダルの体も静かに消滅し始めてしまった。

 

ダレイオスとの戦いで限界まで魔力と肉体を酷使し続けた結果、もはやその体を維持することが出来なくなっていた。

 

「余の願いを叶える事は出来なかったが、ダレイオスと魂を熱くする戦いができた……ひとまずはそれで良しとしようか……」

 

受肉し、世界を征服する願いを叶える事は出来なかったが、生前からの好敵手であるダレイオスと本気の戦いができてイスカンダルは満足していた。

 

「良かったな……」

 

「ああ……」

 

「あの、うまくは言えないけど、その……あんなに凄い戦いは初めて見た。言葉には言い表せないほどに心が……いや、魂が熱くなって震えた!」

 

最後まで戦いを見届けたウェイバーは見ているだけでも体が熱くなり、今でも手が震えるほど興奮していた。

 

「そうか……よくぞ、最後まで見届けてくれた。ウェイバーよ。お前が余のマスターで本当に良かった……」

 

「な、何お前らしくないことを言っているんだ、この馬鹿!消える前に、お前に令呪を使わせてもらう!!」

 

イスカンダルらしくない言葉にウェイバーは涙を浮かべながら手で隠していた令呪を見せる。

 

「ウェイバー……?」

 

まだ一つも使ってない令呪を輝かせながらウェイバーは叫ぶ。

 

「令呪によって命ずる!!ライダー!いつか必ず、受肉して再び世界を征服する願いを叶えろ!」

 

「!?」

 

それはこの聖杯戦争で叶えられなかったイスカンダルの願いを必ず叶えろというウェイバーの願いが込められた。

 

「重ねて命ずる!!未来を救うために戦っているあの子供……ツクモユウマの力に、未来を救う星の一つになれ!!」

 

二つ目の令呪は未来を取り戻すために戦う遊馬の力になって欲しいと言う個人的な願いだが、イスカンダルは征服する世界が滅ぼされるのを黙っているわけにはいかないので深く頷いて了承した。

 

「うむ……承知した!」

 

「更に重ねて命ずる!ライダー、いつかどこかで必ず再会しよう!その時は、とことん語り尽くして、一緒にゲームをしまくろう!」

 

そして、最後の令呪……それはいつの日か奇跡が起きた時、その時は大人になった自分と再会し、イスカンダルがこの時代に召喚されてハマったテレビゲームを一緒にやろうと約束する。

 

イスカンダルはその約束の令呪に満面の笑みを浮かべながらウェイバーの頭を撫でる。

 

「ああ!その時を楽しみにしているぞ、我が友よ!!」

 

イスカンダルはウェイバーを友と認め、最後にウェイバーの肩に手を置きながら静かに消滅した。

 

消滅したイスカンダルからフェイトナンバーズのカードが残り、ウェイバーは歯を噛み締めながら拾う。

 

「ライダー……」

 

ウェイバーは涙を拭いながら寂しさと悲しさに耐えながら大聖杯に向かう。

 

 

大聖杯が崩壊し、大聖杯の汚染の原因であるアンリマユが現れ、遊馬との契約を望んだ。

 

「お前を仲間に……?契約して俺のサーヴァントになるって事か?」

 

「その通り、そんじゃあ早速オレ様と──」

 

「待て」

 

ZEXALに近づこうとするアンリマユにキリツグが立ち塞がり、銃を構えて銃口をアンリマユの額に向ける。

 

「何が目的だ、アンリマユ。聖杯を汚染した元凶であるお前が何故契約をしようとする」

 

「おいおい、そいつは言いがかりだぜ?元はと言えば全部アインツベルンが原因なんだからよ」

 

「アインツベルンが……?アンリマユ、それはどういう意味だ?」

 

聖杯の泥の元凶となったアンリマユだが、その大元の原因がアインツベルンにあると発言し、アストラルは質問をする。

 

「その声は青い精霊ちゃんだな?良いぜ、教えてやるぜ。オレ様を召喚したのは第三次聖杯戦争当時のアインツベルンだ。しかも、7種のサーヴァントのクラスとは別のエクストラクラス、『アヴェンジャー』でな」

 

「エクストラクラス、アヴェンジャー!?」

 

「簡単に言えば復讐者に該当する英霊が召喚される。裁定者のルーラーは知ってるよな?その対極のクラスさ。まあ、説明はこのくらいにしておいて、とにかくアインツベルンがルール違反を犯してオレ様を召喚したんだよ。仮にオレ様を召喚しなかったら聖杯が汚染されることはなかったって事だ。ぶっちゃけアインツベルンのクソジジイが元凶って事だな」

 

「耳が痛い話ね……」

 

聖杯の泥の大元の元凶がアインツベルンと聞き、アイリは辛い表情を浮かべた。

 

すると、崩壊した大聖杯から大量の光の粒子が溢れ、アイリの周囲に集まる。

 

「な、何!?」

 

「アイリ!?アンリマユ、貴様ぁっ!!」

 

キリツグが眼光を光らせてアンリマユを殺す勢いで攻撃しようとする。

 

「ちょっ、待てって!俺は何もしてねえから!ほら、見ろ見ろ!」

 

「何!?」

 

光の粒子がアイリの中に入り込み、その身を光が包むと膨大な魔力が溢れ出る。

 

そして、光が止むとアイリの姿が大きく変化した。

 

白のコート姿から赤いリボンの装飾が施された純白のドレスを身に纏い、その微笑みはまるで聖母のように優しいものだった。

 

「キリツグ……」

 

アイリはキリツグに近付くとそのままギュッと抱きしめた。

 

今までとはまるで違うアイリの行動に皆が驚く中、キリツグは目を見開きながらアイリを見つめる。

 

「アイリ……?」

 

「キリツグ……私の最愛の旦那様、やっと会えたわ……」

 

「っ!?アイリ、君は……!?」

 

「今の私はあなたの妻であり、イリヤの母であり、そして……聖杯でもある」

 

アイリの胸から光り輝く金色の杯……『聖杯』が具現化し、この場にいる全ての者達に光を与えた。

 

光は癒しの力を宿し、戦いで消耗した体力や魔力を回復させた。

 

キリツグは信じられないといった様子でアイリの頬を撫で、声を震わせながら語りかける。

 

「アイリ……君は覚えているのか?その……」

 

「ええ、覚えているわ。あなたと出会った時のこと、深く愛し合った時のこと、イリヤが生まれた時のこと、あなたとイリヤと一緒に家族の時間を過ごした時のこと……全て覚えているわ」

 

「アイリ……すまなかった。僕のせいで……」

 

「謝らなくていいの。こうしてまた、あなたと会えることができたから……」

 

「アイリ……!」

 

キリツグはアイリを強く抱きしめた。

 

側から見ればアイリが壊れてしまうかと思うぐらい強く、強く……そして、愛おしく抱きしめていた。

 

その光景にアルトリアとエミヤは驚愕の一言だった。

 

「シロウ……あれこそが私が知っているアイリスフィールです。キリツグの妻で、イリヤスフィールの母……間違いありません」

 

アルトリアはそこにいるアイリスがかつて共に行動をし、絆を深めたアイリ本人だと確信した。

 

「まさか、爺さんと同じように記憶を宿したのか……!?」

 

キリツグはナンバーズに触れたことで衛宮切嗣としての記憶を宿し、アイリはナンバーズに触れてはいないはずなのに別世界のアイリの記憶を宿している。

 

「……アンリマユ、お前何をした?」

 

「いや、だからオレ様は何もしてねえって。多分、大聖杯の魔力のカケラが聖杯の器であるアイリスフィールに集まって、それが聖杯として覚醒させたんじゃね?よくわかんねえけど、この大聖杯には色んな人物の記憶がごちゃまぜになっていてさ、多分この大聖杯にあるアイリスフィールとしての記憶を全て入り込んだんじゃね?」

 

アンリマユが語ったそれが真実なのか、何が起きたのか理解できていない。

 

「それじゃあ、鬼が妻とイチャイチャしている間に、オレ様と契約タイムにしますか!」

 

「……別に良いけど、どうしてそこまで俺と契約したいんだ?」

 

「……お前さんが捕まってる時にちょいと記憶を覗かせて貰った。いやー、お前さん中々ハードな人生を送ってきたね。そん中でオレ様的に一番驚いたのは裏切った友達や仲間を憎みもせずに救おうとしたところさ。普通の人間なら怒りが爆発したり憎しみを宿したりするところなのによ」

 

アンリマユの言葉にZEXALは頰をかきながら遊馬は自分の思いを話す。

 

「……俺はただ、失いたくないだけだ。俺の大切な人達を。例え、そいつらが敵になったとしても……それが……それが俺のかっとビングだ。俺は大切な人達を守り抜く。ただ、それだけだ」

 

「失いたくない、ねぇ……人間としてごく当たり前の願いだが、お前さんの場合はそれがあまりにも強過ぎる。歳の割には業の深い子供だな」

 

この世の全ての悪と呼ばれるアンリマユは一見、正しい存在であると思われる遊馬を業が深いと称した。

 

「うるせえ。人間は欲望が無いと生きていけない。欲望の力、カオスがあるからこそ前を向いていけるんだ。俺はこのカオスを受け入れているからこそ、常に前を向いて走り続けられるんだ」

 

遊馬の欲望を否定せずにそれを真っ直ぐに受け入れるその姿勢にアンリマユは更に遊馬を気に入った。

 

「良いねぇ!やはりお前さんは面白い人間だ。いいや、下手をしたら『化け物』に匹敵する精神だ」

 

「化け物って……俺は人間だぜ?」

 

「精霊と合体した挙句、よくわかんねえとんでもない姿に変身した野郎が人間って言えるんですかい?」

 

下手をすれば人間という枠を超えた存在であり、英霊たちよりも摩訶不思議な遊馬が本当に人間なのか疑問に思ってしまう。

 

「うん。正真正銘の人間だ。だって父ちゃんと母ちゃんも人間だし」

 

「うん、って……じゃあ何者なんだよあんたは……」

 

「俺は九十九遊馬……いや、今はZEXALだな。ほら、契約するなら手を出せよ」

 

「はいよ!」

 

アンリマユが手を伸ばし、念のためマシュたちが武器を構えて警戒する中、ZEXALはアンリマユの手を取った。

 

アンリマユの体が光に包まれ、何の問題なくフェイトナンバーズが出現した。

 

フェイトナンバーズからアンリマユが出て来ると興味深そうにカードを見つめる。

 

「ほぉー。そいつが契約の証か」

 

「後でこいつを使って俺たちの拠点で召喚するから」

 

「了解!おっと、そろそろ時間切れのようだな……」

 

大聖杯が破壊されたことでアンリマユの体が消滅し始めた。

 

「なぁなぁ、消える前に一ついいか?」

 

アンリマユは馴れ馴れしくZEXALの肩を組んでマシュ達に聞こえないように小声で話しかける。

 

「何?」

 

「カルデアにさ……スタイルの良い子、いる?ほら、あそこの片目が髪で隠れたお嬢ちゃんみたいにさ」

 

スタイルがとてもいいマシュをニヤニヤと性的な目で見るアンリマユにZEXALは冷めた表情をする。

 

「お前は何を言っている」

 

「俺だって男だからさ、それぐらいの性欲はあるさ。なぁ、どうだ?」

 

まるで男子高校生みたいな話をするアンリマユにZEXALはジト目をしてため息をつきながら口を開く。

 

「……いるよ、たくさん。俺ぐらいの歳から年上のお姉さんも……これで満足か?」

 

「バッチリです。遊馬くんよ、後で色々女について語り合わないか?」

 

本当にこいつがこの世の全ての悪なのか疑問に思いながらZEXALは右拳から光を放つ。

 

「アンリマユ、いい加減に……」

 

「え?な、何、その光っている右手は……?何で拳を握りしめているのかなぁ!??」

 

「しやがれっ!!鉄拳聖裁!!」

 

「アパァッ!?」

 

ZEXALはマルタ直伝の聖なる拳でアンリマユをアッパーで殴り飛ばし、宙を舞いながら地面に撃沈する。

 

「ゴフッ……兄ちゃん、いいパンチしてるね……お前さんなら世界を狙えるぜ」

 

アンリマユはいい笑顔をしながらZEXALにグッドサインを見せ、消滅した。

 

「何だったんでしょう、彼は……?」

 

「さぁ?」

 

「私達には分からない」

 

マシュの呆然とした呟きにZEXALは合体を解除し、遊馬とアストラルに戻りながらそう答えた。

 

「お兄ちゃん!」

 

「お兄様!」

 

アンリマユが消滅し、敵が本当に全ていなくなったところに桜と凛が駆け寄る。

 

凛の手には遊馬の聖杯が握られており、それを遊馬に近づけると光の玉となって遊馬の中に戻った。

 

「サンキュー、それにしても二人とも大きくなったな……」

 

「不思議なお姉さんが力を貸してくれた」

 

「私はエレシュキガル?聞いたことのない英霊が力を貸してくれたわ……ん?」

 

桜と凛の体が光に包まれると成長した姿から元の幼い姿に戻った。

 

「戻った……」

 

「また使えると思うけど……」

 

無我夢中で戦ったため、どうやって英霊の力をあそこまで使ったのか分からなくなってしまい自分の体をペタペタと触る。

 

そこに二人の女性が静かに近づく。

 

「ふーん、その子がアーチャーたちのマスターってことね」

 

「何だか不思議な感じのする男の子ですね」

 

イシュタルとパールヴァティーの二人はエミヤたちサーヴァントのマスターである遊馬を見つめる。

 

「えっと……エミヤ、この桜ちゃんと凛ちゃんによく似た二人はどちら様?」

 

「……すまない、今それを答えられる気力がない」

 

近くにいたエミヤは何故かとても疲れ切った表情をしており、胃のところを手で押さえていた。

 

「何があったんだよ……」

 

「イシュタルとパールヴァティー。君達はこれからどうするつもりだ?特に目的が無いならば、我々と共にカルデアと呼ばれる施設に来ないか?」

 

アストラルが遊馬の代わりに二人をスカウトし、二人は既に答えが決まっていたのかすぐに返事を出す。

 

「そうねぇ、大体のことはさっきアーチャーから聞いて今の事態はわかったからね。流石にこの子達をマスターにできないから良いわ。遊馬君だっけ?かなり良いマスターみたいだから契約しても良いわよ」

 

「私もです。それに、先輩とライダーと一緒にいられるならこちらからお願いしたいくらいです」

 

「分かった、じゃあこれからよろしくな」

 

「ええ。よろしく頼むわよ、小さなマスター君」

 

「よろしくお願いします、マスターさん」

 

イシュタルとパールヴァティーは遊馬と握手を交わして契約し、二枚のフェイトナンバーズが現れる。

 

二人の契約が終わると次はケイネスが近づいてきた。

 

「少年よ」

 

「ん?何だ、ケイネス先生?」

 

「うちのランサーと契約してくれないか?」

 

「あ、主!?」

 

「え?ディルムッドを?」

 

「確か君は一度でも契約したサーヴァントをフェイトナンバーズにすればほぼ確実にカルデアで召喚できるはずだったな?ランサー……ディルムッドは対人戦や対魔戦に秀でた英霊だ。未来を救う戦いに役立てるだろう」

 

ケイネスは真剣な面持ちでディルムッドに視線を向けると、ディルムッドはその場ですぐに跪いた。

 

「ランサー」

 

「はっ!」

 

「此度の聖杯戦争、事情が事情なだけにあまり貴様は役に立てなかった」

 

「も、申し訳ありません……」

 

「その代わり、貴様の全てをかけて少年に忠義を尽くせ。これが私が下す最後の命令だ……その務めを果たせ!!」

 

ケイネスはディルムッドのマスターとしての最後の命令を下し、ディルムッドは自分を部下だと認めてくれたのだと思い、内心喜びながら深く頭を下げた。

 

「はっ!必ずやその務め、果たしてご覧にいれます!!」

 

ディルムッドはケイネスと最後の命令を聞き入れ、遊馬の元へ向かう。

 

「少年……いや、新たな我が主よ。これからよろしくお願いします」

 

「頼りにしてるぜ、ディルムッド。よろしくな」

 

「はっ!」

 

遊馬はディルムッドとも契約を結び、3枚目のフェイトナンバーズを手に入れた。

 

すると、洞窟内に誰かが走ってくる音が響いた。

 

汗だくになりながら必死に走ってきたのはウェイバーだった。

 

「ツクモユウマ!」

 

「ウェイバー?」

 

ウェイバーは息を切らしながら歩き、右手に持っていたものを遊馬に差し出した。

 

「これは、フェイトナンバーズ?」

 

「ライダー……イスカンダル王のものだ。あいつは消えたよ……お前のダレイオス王に勝ったんだ!!」

 

ウェイバーはイスカンダルがダレイオスに勝ったことを誇らしげに話す。

 

「おっさん……負けたのか……」

 

「ツクモユウマ。お前にこいつを渡す」

 

「イスカンダルのフェイトナンバーズを?良いのか?」

 

「これを僕が持っていても意味はない。それに、ライダーに約束してもらった。未来を守るためにお前に協力してもらうって。だから、受け取ってくれ」

 

ウェイバーとイスカンダルの強い絆が生んだ約束。

 

その決意が込められた瞳に遊馬は頷いてイスカンダルのフェイトナンバーズを受け取る。

 

「分かった。あんた達の思い、確かに受け取ったぜ」

 

「ああ!」

 

ウェイバーは晴れ晴れとした表情をして遊馬にフェイトナンバーズを託す。

 

そこにウェイバーの未来の存在……エルメロイII世が近づく。

 

「お前」

 

「な、何だよ……」

 

「一つお前にアドバイスをしてやる。イスカンダル王が歩んできた征服の道を逆走してその足で歩いてみろ。必ずお前の見聞が広がる」

 

「ライダーの歩いてきた征服の道……分かった、そうさせてもらう」

 

ウェイバーは聖杯戦争の次の目的を見つけ、まだ見ぬ未来の道を歩き始めるのだった。

 

その姿にエルメロイII世は「少しはマシになったか……」と小さく呟いて笑みを浮かべた。

 

そして、崩壊した大聖杯が完全に壊れ、サーヴァントを維持する力を失い、第四次聖杯戦争にて召喚されたサーヴァントが消滅し始める。

 

アルトリアとジルは一足先にフェイトナンバーズに入ってカルデアに送られ、それ以外の五騎のサーヴァントは全て消滅していった。

 

今度はこの世界の特異点を解決したことにより、遊馬達にも別れの時がきた。

 

遊馬はマシュ達とイシュタルとパールヴァティーをフェイトナンバーズに入れてデッキケースにしまうと聖杯として覚醒したアイリが近づいてきた。

 

「ねえ、私もあなた達についてきて良いかしら?大聖杯が壊れてアインツベルンに帰れないし……」

 

アインツベルンの悲願である聖杯を手に入れることが出来なくなり、アイリに帰る場所が無くなってしまった。

 

それには遊馬達にも責任があるのでカルデアにいるオルガマリーと連絡を取って許可をもらう。

 

『ええ、良いわよ。そもそも私達カルデアの目的は特異点の聖杯の回収もあるし、彼女を保護するわ』

 

「オッケーだってさ。よろしくな、アイリさん」

 

「ええ。あ!あと、もう一つお願いしたいんだけど……うちのキリツグと契約してくれないかしら?」

 

「アイリ!?」

 

「だってこのままだとまたキリツグと離れ離れになってしまうじゃない。だから、今ここで契約してカルデアですぐに呼んでもらうのよ。それにキリツグだって、シロウ君と少しでも一緒にいたいでしょう?ねっ?お願い」

 

「くっ……」

 

アイリはせっかく再会したキリツグとまたすぐに離れ離れになるのは嫌なので遊馬と契約してもらうことを提案した。

 

キリツグはすぐに断ろうと思ったが、愛する妻と息子とまた一緒にいられるという欲望に惹かれてしまい、心が大きく揺らいでしまう。

 

「なぁ、キリツグさん。確かあんた、正義の味方になりたかったんだっけ?」

 

「……それがどうした?」

 

「俺たちさ、人類の未来を救うために戦っているんだけどさ、それって……言い方を変えれば正義の味方の行動だよな?」

 

「それは……」

 

「キリツグさん、一緒に戦わないか?人類の未来を救うために、そして……大切な家族を守るためにさ」

 

遊馬は無意識にキリツグの心を的確に刺激する誘いをする。

 

正義の味方になりたかったキリツグにとって人類の未来を守るカルデアで共に戦うことは喜ばしいことだ。

 

それに加え、生き別れてしまった愛する妻と息子ともう一度一緒にいられる。

 

これ以上ないほどにキリツグの望むものが揃っていた。

 

「……分かった。僕の力を君に貸そう、小さなマスター君」

 

「よろしくね、違う世界のマスター君」

 

「おう!よろしくな!」

 

遊馬はキリツグとアイリの二人と契約した。

 

アイリは聖杯として覚醒したことでサーヴァントとして扱われ、フェイトナンバーズが誕生した。

 

キリツグはこの世界で抑止力として召喚されたので契約してフェイトナンバーズから出た後にすぐに消滅してしまい、アイリはそのままフェイトナンバーズの中で入っている。

 

これで全てのサーヴァントと契約が完了し、遊馬は最後に別れの挨拶をしようとした……その時だった。

 

「遊馬君!」

 

「へっ?な、何?時臣さん……」

 

時臣は鬼気迫る表情で遊馬に駆け寄り、両肩に手を置いた。

 

「君に……君に頼みがある……」

 

「え?頼みって……?」

 

突然の時臣の頼みに困惑する遊馬。

 

震えている時臣の口から語られたのは驚くべきものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「凛と桜……二人を君達の世界に連れて行ってもらえないか……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その内容に遊馬とアストラルは驚愕した。

 

「はぁ!?何言ってるんだよあんたは!?」

 

「遠坂時臣、何故それを頼むのだ?」

 

「このままでは……凛と桜が危険な目にあってしまうからだ……!」

 

「危険な目!?どういう意味だよ!?」

 

「人間が英霊の力を宿していると魔術協会が知れば二人は『封印指定』されてしまう!そうなったらホルマリン漬けと同等のことをされてしまうんだ!!」

 

封印指定とは魔術協会が奇跡ともいえる希少能力ゆ永遠に保存するために対象の魔術師を『貴重品』として優遇し、『保護』するが、それは名目で一生涯幽閉し、その能力が維持された状態で保存する……言わばホルマリン漬けにされると同じなのだ。

 

「何だよそれ……馬鹿じゃねえのか!?」

 

「ふざけるな……どこまで性根が腐っているのだ、魔術師が……!!」

 

遊馬とアストラルは魔術師世界の更なる闇の一端を知り、強い怒りを抱いた。

 

元々桜と凛は封印指定を受けてもおかしくないほどの希少な素質から二人を守るために間桐家と遠坂家の加護を受けられるようにしたのだ。

 

しかし、それだけに留まらず英霊の力を宿したともなれば、最早魔術師の家門の加護を受けても封印指定が逃れられない。

 

「私達ではもう二人を守ることはできない……頼む、凛と桜を……!!」

 

時臣は深く頭を下げて遊馬に頼み込む。

 

未来を救う最後のマスターであり、異世界の英雄である遊馬なら凛と桜を守ってくれる……時臣は最後の希望を信じて遊馬に託すことを決めた。

 

遊馬はあまりの予想外すぎる事態に悩んでしまう。

 

せっかく親子の絆を取り戻したのに凛と桜は両親と離れ離れにならなければならなくなってしまった。

 

幼い頃に両親が行方不明になった遊馬にとってもそれはあまりにも辛い決断だった。

 

しかし、こうなってしまった原因の一端は遊馬自身にもあった。

 

偶然に偶然が重なってしまった結果だが、遊馬はその事を深く悔み、手を握りしめて耐えながら答えを出す。

 

「分かった……二人は俺が必ず守る。約束する……」

 

遊馬は桜と凛、二人を必ず守る決意をする。

 

「遊馬君……ありがとう……本当にありがとう……」

 

時臣は涙を流しながら遊馬に感謝をした。

 

そして、時臣は呆然とする凛と桜の元に行き、二人を抱きしめながら最後の別れの挨拶をする。

 

「凛、桜……もう二度と私達には会うことは出来ない。だが、これだけは覚えていてくれ。私と葵は二人を愛している」

 

「お父様……」

 

「お父さん……」

 

「私は魔術師になれとは言わない。根源を目指せとも言わない。君たちの望む道を遊馬君と共に進んでくれ……」

 

「はい……!」

 

「うん……!」

 

時臣の父親としての最後の願いの言葉を送られ、凛と桜は涙を流しながら強く頷いた。

 

そして、二人を大切に思っている雁夜は頭を撫でながら最後の言葉を送る。

 

「えっと……俺は時臣みたいに洒落た事は言えないけど、これだけはハッキリ言える。桜ちゃん、凛ちゃん。俺はいつでも君達の幸せを願っている。必ず、幸せになってくれ」

 

「「おじさん……!」」

 

桜と凛は堪らず雁夜に抱きついて涙を流す。

 

雁夜は二人の背中をポンポンと叩き、二人を離して遊馬の元へ行かせる。

 

「遊馬君、約束してくれ。桜ちゃんと凛ちゃんを幸せにしてやってくれ!」

 

「ああ!約束する!」

 

遊馬と雁夜の間で男と男の約束を交わした。

 

そして、遊馬は腰を下ろし二人と視線を合わせる。

 

二人は涙を流したが、既に決意を固めた様子だった。

 

何故ならそれは、初めから分かっていたからだ。

 

光に包まれ、英霊の力を宿す時からこうなるかもしれないと……。

 

しかし、それでも二人は願った。

 

大切な人を守るための力を手にする為に。

 

「行こうか」

 

「「うん」」

 

遊馬は桜と凛の手を取り、英霊の力を宿しているので契約を交わした二人は二枚のフェイトナンバーズへと納められた。

 

そして、遊馬は二人が入ったフェイトナンバーズをデッキケースにしまい、アストラルは皇の鍵の中に入る。

 

カルデアからレイシフトが開始され、遊馬の体が光に包まれ、冬木の地から消えてカルデアへ戻った。

 

 

 




いやー、長かった。
Zero編はイベントの話では一番長い話になりました。
第4章のロンドン編は数話カルデアでの話を挟んでから始まるので7月からになると思います。

アイリさんは大聖杯の魔力を受けて天の杯へと覚醒しました。
これしか思いつかなかったので……。

アンリマユは遊馬の精神力の高さを士郎とはまた違う化け物と称して気に入りました。
遊馬とアンリマユはいい悪友になれそうな感じがします。

そして、桜ちゃんと凛ちゃんをカルデアに迎える事になりました。
これには賛否両論あるかもしれませんが、オリジナルティを出したかったのと私自身の願望もあってこうしました。
これから遊馬の妹分として活躍すると思いますのでよろしくお願いします。

次回はカルデアのドタバタかエミヤの第二次正妻戦争を書こうかなと思います。

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