まあ本格的な対決は次回になりますが。
「さて……どうするかなぁ……」
遊馬はそう呟きながら皇の鍵の飛行船の上で寝っ転がっていた。
現在遊馬は皇の鍵の中の異空間におり、飛行船の上で寝っ転がって一人静かにいた。
その理由はある『子供達』を助けるためにはどうしたら良いかと考えていたのだ。
「ジャック・ザ・リッパー……数万以上の子供達の怨霊か……」
それはアタランテが救って欲しいと願った存在。
日本では切り裂きジャックと呼ばれるほど有名なロンドンの殺人鬼。
しかし、ついさっき少女の姿をして遊馬達の前に現れた『それ』がジャック・ザ・リッパーである。
ただし、本物のジャック・ザ・リッパーではなく、その正体は数万以上の見捨てられた子供たち、ホワイトチャペルで堕胎され生まれることすら拒まれた胎児達の怨念が集合して生まれた怨霊なのである。
正体不明の殺人鬼である『ジャック・ザ・リッパー』という概念は、あらゆる噂と伝聞と推測がない交ぜとなった今、全てが真実で全てが嘘であるために『誰でもあって、誰でもない』、『誰でもなくて、誰でもある』……もはや無限に等しい可能性を組み込まれた存在と化してしまった。
そのため、もはや『彼女たち』が『ジャック・ザ・リッパー』の伝説に取り込まれたのか、はたまた伝説を取り込んでしまったのかすら定かではなくなっている。
かつてジャックはルーラー達が参加した聖杯大戦の『黒のアサシン』として召喚されるはずだったが、召喚者が生贄にした女性の生きたいという願いに応えてその召喚者を殺め、その女性は一般人だったがジャックのマスターとなった。
ジャックはそのマスターと生きるために聖杯大戦に参加し、魔力を得るために多くの人を殺めた。
多くの人を殺したジャックとマスターを敵であるアタランテが矢で貫き、倒したのだが……ジャックが子供達の怨霊の集合体だと知り、子供の守護者であるアタランテは救うことが出来ずに絶望してしまう。
そして、怨霊の存在であるが故に救うことが出来ないと悟ったジャンヌが聖女の力である洗礼詠唱でジャックを浄化して倒したのだった。
しかし……時空を超え、ロンドンの地に再びジャックが召喚され、既に多くの人を殺めている。
ルーラーは一刻も早くジャックを倒すべきだと主張するが、アタランテは今度こそジャックを救うべきだと主張する。
アタランテは個人的にジャックを救わずに倒したルーラーのことを憎んでおり、その身から邪悪なオーラを出してオルタ化をしてでも倒そうとした。
暴走間近のアタランテに遊馬はポンと肩に手を置いた。
「アタランテ、少しだけ待っててくれ。俺に考える時間をくれ」
そう言うとアタランテはおとなしく従い、遊馬は皇の鍵の中に入って考え込んでいる。
「話し合い……をしたいけど、怨霊の集合体だから下手をすればバーサーカー並みに話を聞いてくれなさそうだからな……んで、何か良いアイデアはないか?ミストラル」
「てめえ!一人で考えるんじゃなかったのかよ!?」
遊馬は皇の鍵の飛行船に封印されているミストラルに向けて話しかけ、ミストラルは思わず声を荒げた。
「だって一人で考えようと思ったらちょうど良いところにお前がいるから……」
「だったら降りて下の砂漠で考えてろ!」
「えー、嫌だ。砂の上で眠るのはちょっとな……いいじゃん、お前暇そうだし」
「お前らのせいでここから動けないのを分かっているだろ!?」
「それで、どうすりゃいいと思う?お前、少なくとも俺よりも頭いいだろ?」
「貴様……!!はっ、まぁ、いい。暇つぶしに付き合ってやる。俺様から言わせるとそんな怨霊のガキは見捨てろ。だいたい、あの有名な聖女様でも救えなかった存在をお前が救えるのか?」
なんだかんだで遊馬の話に付き合ってくれるミストラル。
世界一有名な聖女であるジャンヌことルーラーでも救えなかった存在……それを遊馬に救えるのかとミストラルは鼻で笑う。
「一人ならまだしも、数万のガキの魂の集合体だぞ?そんなカオスをお前が受け止められるわけがない」
「やってみなきゃわからないだろ?でもどうやってジャックと話すか。やっぱり、内なる世界に入らなくちゃならないよな……」
アタランテがジャックに矢を放ち、命が失われた際にアタランテとルーラーとジークの三人を内的世界に取り込み、自分たちが生まれた『正義も悪も無くただシステムとして生命が消費される地獄』を見せた。
「うーん、ジャックを『傷付けず』に『内なる世界に入る』……なんか良い方はないかなぁ……」
「そううまく行くわけねえだろ。まあ、攻撃力がゼロで、お前とアストラルみたいに肉体と魂が融合するZEXALみたいになれるなら話は別だけどな」
ミストラルの何気ない一言……遊馬はその言葉を頭に思い浮かべる。
「攻撃力ゼロ?ZEXALみたいに合体?」
するとまるで頭の中で欠けていたピースが一つずつ嵌められていき、遊馬は頭に豆電球が浮かんだように閃いた。
「そうか、そうだ!俺だけにしかできない、勝利の方程式が全て揃ったぜ!」
「何?」
「サンキュー、ミストラル!お陰で答えが見つかったぜ!」
遊馬は起き上がって立ち上がり、急いで皇の鍵の中から飛び出す。
「全く……台風みたいな奴だな……」
ミストラルはやっと静かになりため息をつく。
そして、不思議な夜空を見上げる。
「見せてもらうぜ、遊馬君。お前が本当にやれるのかどうか……」
ミストラルは何かに期待するように呟くのだった。
☆
遊馬が皇の鍵から戻るとブーディカがカルデアから送られてきた食材を元に食事を作っていた。
隣の部屋で説教をしていたアルトリアが餌を待つ犬のように待っており、モードレッドの姿はどこにも無かった。
「アストラル、モードレッドは?」
「モードレッドはあそこだ」
アストラルが指差した方を見ると、約一時間もの間、説教されたモードレッドは酷く落ち込んでおり、負のオーラを纏いながら部屋の隅で体育座りで座っていた。
モードレッドは鎧を消しており、活発なモードレッドらしい赤い軽装の鎧みたいな服を着ていたが……。
「あれ?モードレッド、お前女だったのか?」
モードレッドには明らかに女性特有の胸の膨らみがあり、女だと言う事実に驚いた。
アルトリア同様に騎士故に女だと言うことを隠していたのだと考えるが……。
「うるせぇ……オレを女って言うんじゃねえ……殺すぞ……」
「いや、そんな気力のない声で殺すと言われても……」
今のモードレッドは明らかに気持ちが完全に沈んでおり、殺すと言われても怖くも何も無かった。
それほどまでにアルトリアの説教が恐ろしかったのか、もしくはショックだったのか分からなかったが、益々モードレッドがブリテンを崩壊させた元凶である叛逆の騎士に見えなかった。
「みんな、お待たせ!ブーディカさん特製ランチだよー!」
「待ってました、ブーディカ女王!」
キラキラと目を輝かせたアルトリアはソファーに座るとモードレッドに目線を向けた。
「何をしているんですモードレッド、一緒に食べましょう」
「──え!?いいの、父上!?やったー!飯だ、飯だー!」
アルトリアに呼ばれたモードレッドは先程までの落胆が嘘のように復活し、早速ランチにありつくのだった。
「なあ、アストラル、マシュ。モードレッドって意外にチョロい?」
「チョロいな。ケイネス並みにチョロいな……」
「そうですね、恐らくはアルトリアさん関係ですがチョロいですね……」
既にチョロいサーヴァント認定されてしまったモードレッド。
遊馬達も一緒に食事をし、食べながら遊馬が考えたジャックと戦う方法をみんなに伝えた。
すると、その方法を聞いて断固反対したのはルーラーだった。
「いけません!幾ら何でも危険すぎます!そんな方法、通用するわけがありません!」
「でもこれしかないんだ。上手くいけばジャックと話せる」
「たとえ話に持ち込めたとしてもジャックは怨霊です!あなたが逆に殺されてしまいます!!死ぬつもりですか!??」
「俺は殺されるつもりも死ぬつもりも無えよ」
ルーラーの激昂に遊馬は冷静に流した。
すると、先程までとは違う真剣な雰囲気をしたモードレッドが遊馬に質問する。
「おい、ガキ。なんでお前そこまでやるんだよ?確かにあのアサシンは哀れな奴だとは思う。だけどな、お前がそこまで命を賭ける必要はねえだろ?お前に何のメリットがある?」
「……別に、俺自身のメリットは無いよ。ただ、アタランテの願いを叶えてやりたい。それに……夢で見ちまったからな」
「夢?」
「この特異点に来る前に見たんだ。多分……ジャックの内なる世界を、あいつの声を……」
遊馬が夢で見た光景……あれはジャック・ザ・リッパーの数万の子供達の怨霊が映し出した世界。
そして、生きたいというジャックの願い……それを聞いた遊馬は見過ごせなくなってしまった。
「俺はジャックを救いたい。でも、それはとても難しいことで、甘い考えだと言われるのも仕方ない。だから、アタランテ。一つ聞いてくれ」
「何だ……?」
「俺は自分の全力を尽くしてジャックを助ける。でも今回は相手が相手なだけに助けることができないかもしれない。そうなった時は……俺が倒す」
「ユウマ……!?」
それは遊馬が示したジャックと戦う上での『覚悟』だった。
今までの相手とは違い、言わば呪いに近い存在との戦いとなる。
数々の奇跡を起こした遊馬でも助けることができないかもしれない……。
「もしも、ジャックを助けられなかったら、俺を気が済むまで殴ってくれ。それが俺が出来る事だ」
「ユウマ……お前、そこまで……」
アタランテは遊馬がそこまでの覚悟を持ってジャックと戦うことを決意したことに感謝と同時に強い後悔の念を抱いてしまった。
自分が果たせなかった願いと重荷を幼きマスターに託してしまったことにアタランテは自分を恥じ、椅子から降りて遊馬の前で跪いた。
「純潔の狩人、アタランテ……たとえ、どんな結果になろうともユウマ……あなたに全てを捧げ、尽くすことをここに誓う……!!」
アタランテも覚悟を決め、仮にジャックを救えなくても遊馬には一切手を出さず、未来永劫の忠誠を誓った。
「……心配するな、アタランテ。俺を信じてくれ」
「はい……!」
その後、遊馬の断固たる決意に皆が折れ、昼食の後にすぐに実行されることとなった。
ジキルは部屋に残り、それ以外の全員は再び霧の都へと赴く。
遊馬は建物が並んでいる場所から離れてある程度の広さがある広場へと向かった。
マシュ達サーヴァントは広場から少し離れた場所で待機し、遊馬はデュエルディスクの拡声器モードにして大きく息を吸う。
「出て来いや!ジャック・ザ・リッパー!!俺の魂と心臓をかけて一対一で勝負だ!!!」
霧の空に響く大音量の声が響き渡り、しばらくすると小さな足音と共に現れた。
「へぇー、ほんとうに一人なんだ……ねえ、私たちが勝ったら食べていいの?」
ジャックが周りにサーヴァントがいない事を確かめながら遊馬の前に現れた。
「おう、良いぜ。でも、俺はそう簡単には食われれねぜ!」
遊馬がデュエルディスクを構えると左右に『ガガガガンマン』と『ガガガザムライ』が現れる。
それは遊馬があらかじめエクシーズ召喚をしたモンスターエクシーズで、突然現れた二体のモンスターにジャックはナイフを構えて警戒する。
「見せてやるぜ、ジャック。俺の力を!」
遊馬がデッキケースから取り出した一枚のカードを掲げる。
カードは金色の輝きを放ち、その光にジャックは目を見開く。
「かっとビングだ、俺!俺はガガガガンマンとガガガザムライ、二体のモンスターエクシーズでオーバーレイ!!」
『『ガガガッ!!』』
二体のガガガモンスターエクシーズは黒と茶の光となって遊馬の前の地面に現れた黒い穴に吸い込まれ、強烈な光が爆発する。
「今こそ現れろ、FNo.0!」
遊馬は掲げたカードをデュエルディスクに置き、思いを込めた右手を天高く掲げた。
「天馬、今ここに解き放たれ、縦横無尽に未来へ走る。これが俺の、天地開闢!俺の未来!かっとビングだ!俺!『未来皇ホープ』!!!」
『ホォオオオオオープッ!!!』
遥かなる次元の果てから天馬の如き美しい双翼を羽ばたかせ、未来を切り開きその手に掴む二振りの希望の剣を携えた『未来皇』が遊馬の前に降臨した。
ランク0の未知なる無限の可能性、無限の未来を象徴する遊馬自身と称されるモンスターエクシーズ……『未来皇ホープ』。
「みらい、おう……?」
ジャックは初めて見る異世界のモンスターに目を丸くして子供のように興味津々で見つめる。
「行くぜ、未来皇ホープ!」
遊馬は原初の火を地面に突き刺すと未来皇ホープが金色の光となって遊馬と一つになる。
そして、遊馬の魂と体が未来皇ホープと完全に一体化し、両腰に携えたホープ剣を引き抜く。
「さあ、行くぜ!ジャック・ザ・リッパー!」
未来皇ホープ……九十九遊馬。
「へぇ……おもしろいね……おもしろいよ!解体したらとっても楽しそう!!」
無垢なる殺人鬼……ジャック・ザ・リッパー。
光り輝く無限の未来と呪われた歪んだ未来……異なる未来を生きる者達の戦いが始まる。
.
遊馬は未来皇ホープになってジャックちゃんに挑みます。
ってか未来皇ホープにならないとヤバイ宝具のジャックちゃんとは渡り合えませんからね。
どうやって助けるかは次回にご期待ください。
まあある意味遊馬君らしい助け方になると思います。