救済方法については賛否両論があるかもしれませんが、遊馬君ならこうするかなと思って書きました。
未来皇ホープと合体した遊馬とジャックの戦いが始まり、少し離れた場所に待機していたマシュ達の中で遊馬の力をまだ知らないモードレッドとルーラーとジークはとても驚いていた。
「なんだよあいつ……変なものを召喚して一体化するなんてどんな魔術だよ!?」
「彼は……あの子は人間のはず、それなのにあの姿から溢れる力の波動は一体……!?」
「未来皇ホープ……未来と希望の名を持つ戦士か……」
そんな中、遊馬の相棒であるアストラルは遊馬の側から離れてマシュの元にいた。
「アストラルさん、遊馬くんの元に行かなくても良いんですか?」
「……これは遊馬自身が望んだ戦いだ。それよりも、遊馬の邪魔をしようとする存在を排除しなければならない」
アストラルの左手首にデュエルディスクが出現して構えた。
すると、広場の周りから続々と謎の存在が現れていく。
人形やロボットのような敵が続々と現れ、アストラルだけでなくマシュ達も戦闘態勢に入る。
「遊馬の邪魔はさせない……全て排除する!」
「はい!行きます!」
アストラルとマシュ達は遊馬とジャックの戦いを邪魔させないために謎の敵と交戦を開始した。
☆
「ホープ剣・フューチャー・スラッシュ!!!」
未来皇ホープと一体化した遊馬はホープ剣で果敢に攻めるが、ジャックの軽やかな動きで刃が当たらない。
未来皇ホープの効果を使用するためにはホープ剣による攻撃を確実に相手に当たらなければならない。
アサシンであるジャックは機敏な動きで遊馬の攻撃を回避していく。
筋力や耐久などがそこまで高くないが、敏捷のランクはかなり高く、ジャックはまともに受けていては負けると判断して回避に専念して切り札である宝具を使うタイミングを見極めていた。
「ちくしょう!やりにくいぜ!」
相手が全く攻撃せずに回避を徹底しているジャック相手に遊馬が若干の苛立ちを見せ、そのわずかな隙をジャックは見逃さなかった。
「此よりは地獄……」
ジャックの体から邪悪な魔力が迸り、周囲の空間が闇に染まる。
「これは!?」
「わたしたちは炎、雨、力────殺戮をここに」
それは霧の夜に娼婦を惨殺した『ジャック・ザ・リッパー』の逸話から生まれた宝具。
ある条件を揃える事で当時ロンドンの貧民街に8万人いたという娼婦達が生活のために切り捨てた子供たちの怨念が上乗せされ、凶悪な効果を発揮する。
「『
ジャックは一瞬で間合いを詰め、呪いを込めたナイフで未来皇ホープの胸に突き刺す。
「がはっ……!?」
「ごめんね……でも、おいしく食べてあげるからね……」
ジャックはナイフを深く突き刺し、そのまま遊馬の心臓をえぐり出そうとした。
本来ならこの宝具は『時間帯が夜』『対象が女性』『霧が出ている』の三つの条件を満たすと対象を問答無用で解体された死体にする。
しかし今は昼で遊馬は男、霧はジャック自身のもう一つの宝具で展開しているので条件が一つしか揃ってない。
普通の人間相手なら条件が一つでも致命傷にはなる。
しかし……。
「──なぁんてな?」
「え?」
「未来皇ホープの効果!」
未来皇ホープの周囲に舞うオーバーレイ・ユニットの一つが胸の水晶に取り込まれると、ジャックが突き刺したナイフが弾け飛んで地面に転がり、胸の傷が無くなる。
「解体聖母がきかない……!?」
「危ねえ……お前の宝具の能力を知らなかったら死んでいたぜ。ってか痛いんだよこんちくしょう!」
未来皇ホープは効果で破壊される場合に代わりにオーバーレイ・ユニットを使って破壊を免れる効果がある。
その効果でジャックの解体聖母を無効化したのだ。
しかし、胸にナイフが深く突き刺さったので怪我はないが痛みが胸にジワジワと残っている。
「これ以上……お前に誰かを殺させたりはしない!」
遊馬は左手でジャックの腕を掴むと空いた右手でホープ剣を握り締める。
グサッ!!
そして……ホープ剣をジャックの胸に突き刺した。
「あくっ……!?え、あ、あれ……?いたくない……?」
ジャックは胸に来るはずの激痛が来ないことに困惑した。
ホープ剣は確かにジャックの胸に突き刺さっている。
しかし、胸には傷が無く、血も流れていない、剣が刺さっているようで刺さっていない不思議な状態だった。
「未来皇ホープの攻撃力はゼロ。元々こいつじゃ、お前に傷を与えることはできないんだよ」
「じゃあ、なんで……?」
「こうするためだ!」
遊馬はジャックを抱き寄せて手を強く握り締める。
「俺とお前で、オーバーレイ!!」
「えっ!?」
未来皇ホープの中にいる遊馬が赤い光となり、ジャックの中に入り込む。
「あっ、あぁ……あぁあああああああああああああ!!!」
ジャックは自分以外の何かが体の中に入り込む事に拒絶しようと叫び声を上げるが、遊馬は自分の魂をジャックの中に入ることに集中する。
「くっ、集中しろ……ZEXALになる時みたいに俺の魂をこいつの中に……!!」
遊馬はZEXALでアストラルと合体する時の応用で自分の魂をジャックの内面世界に入ろうとしている。
未来皇ホープでジャックの宝具を防ぎ、そして自らの魂をジャックの内面世界に潜り込ませて対話する……それが遊馬が導き出した方法である。
ジャックは必死に遊馬を追い出そうとするが、遊馬は諦めずに手を伸ばす。
「かっとビングだぜ、俺ぇっ!!!」
遊馬の一歩を踏み出す魂の叫びを轟かせ、自らの魂をジャックの中に入り込み、未来皇ホープが光となって二人を包み込んだ……。
☆
遊馬の意識がはっきりと覚醒し、目を覚ますとそこは夢で見たのと同じ霧に包まれた不気味な世界だった。
「ここがジャックの内なる世界か……」
すると霧の空から無数の子供達が真っ逆さまに落ちてきて地面に激突して次々と死んでいった。
「これは……」
「綺麗は汚い。汚いは綺麗。ここでは子どもはただの餌食に過ぎない」
不気味な光景を説明するように現れたのは幼い姿をしたジャックだった。
「餌食……」
「生まれた子どもも生まれなかった子どもも皆、テムズ川に流してしまう……」
「くそっ……分かってはいたけど、胸糞悪いぜ……」
「世界はとても醜くて私たちはそのことを知っている。それでもまだ、生きていたい……」
遊馬は改めてジャックの深い闇の一片を見てこれほどまでに酷いことをした世界に対して怒りに震えながら拳を強く握りしめた。
すると遊馬の隣に一人の女性が現れた。
「酷いものを見たのね」
「あんたは……」
それは緑色の髪をした妖艶な雰囲気の大人の女性で明らかにジャックとは異なる女性だった。
その特徴から遊馬はその女性が誰なのかすぐに分かった。
「そうか、あんたがジャックの……」
「そうよ、私はあの子達の母親よ……」
その女性は聖杯大戦でジャックのマスター、六導玲霞だった。
元々一般人だったが生きたいという願いからジャックのマスターであると同時に母親となり、ジャックと生きるために大勢の人の命を奪った。
既に聖杯大戦で死亡しているはずだが魂の一部がジャックの中に入ったのだろうと推測する。
「あなたはどうしてここにいるの?」
「……こいつらを救うためだ」
「あなたが?でもどうやって?」
「まあ見てなって……」
遊馬はゆっくりとジャックに近づくと周囲に数え切れないほどのたくさんの子供達が現れた。
それは数万以上の見捨てられた子供たち、ホワイトチャペルで堕胎され生まれることすら拒まれた胎児達の怨霊達である。
「私たちはこの街が生み出した」
「生まれることもできなかった」
「でも私たちはここにいる」
するとジャック達はすがるように、救いを求めるように遊馬に近づいて手を伸ばす。
そのまま同じ子供である遊馬をジャックの一部として取り込もうとしていた。
「……ああもう!やかましい!!」
遊馬の背中から純白の大きな翼が生え、翼を強く羽ばたかせてジャック達を吹き飛ばした。
「……え?」
ジャックは遊馬の心が折れなかったことと背中から突然翼が生えたことに驚いた。
遊馬は翼を羽ばたかせ、ジャック達を見下ろしながら説教を始める。
「暗すぎるんだよお前ら!!お前らの気持ちはよーく伝わった。だけどな、気持ちが暗すぎるんだよ!そんなんで生きたいって言ってもカオスが弱いんだよ!!」
「カオス……?」
「カオスって言うのはな、俺たちの世界で欲望の力を意味しているんだ。だいたいお前ら、生きたいって言う割にはジャック・ザ・リッパーの伝説に囚われすぎなんだよ。生きたいなら殺人はやめろ!誰かを殺すのは禁止!!」
「でも、殺さなきゃ私たちは生きられない……」
「魔力が欲しいなら俺と契約しろ!飯が食いたいなら用意してやる!うちには腕のいいシェフがたくさんいるからな!」
「そうなの……?」
「おう!約束する!お前の好きな食べ物は何だ?あれば頼んで作ってもらうからさ」
「好きな食べ物……ハンバーグ」
「ハンバーグ?ハンバーグならうちの食堂の人気メニューだぜ。なんなら毎日でも食べられるぜ」
「ま、毎日でも……!?」
「クッキーとかの甘いお菓子も食えるぜ?」
「クッキーも!?」
毎日大好きなハンバーグや甘いお菓子が食べられると聞き、ジャックは見た目の年相応の笑顔で輝く。
「何だよ、ちゃんと子供のように無邪気に笑えるんじゃねえか。子供なら子供らしく笑うのが一番だよ」
遊馬はジャックの本当の笑顔が見れて嬉しくなり、ジャックの頭を撫でる。
そして、遊馬はジャックにある提案をする。
「なあ、ジャック。生きたいのなら、俺と一緒に来ないか?」
「あなたと……?」
「ああ。受肉は知ってるよな?受肉して体を得て、怨霊じゃなくて一人の人間として世界で生きてみないか?」
「いいの……?でも、どうして……?」
「ん?」
「どうしてそこまでしてくれるの……?あなたは私たちを消そうとしないの……?」
ジャックは怨霊達の集合体……普通なら消そうと考えるだろう。
しかし、遊馬はそんなことをせずにジャックを救い、新たな命を与えようとしている。
それをジャックは信じられなかった。
「別に大した理由じゃねえよ。アタランテに頼まれたのもあるけど、俺もガキだからさ……ジャック・ザ・リッパーに囚われたお前達を見過ごせなかったんだ」
「……私たちを救ってくれるの?」
「救えるかどうかは最後はお前達次第だ。今のお前達はこの霧の世界みたいに闇に覆われているんだ。だから、今からお前達に世界を光へ照らす最高の言葉を教えるぜ」
「ことば?」
「そうだ。よく聞けよ……『かっとビング』だ!」
聞いたことのない不思議な言葉にジャック達は首を傾げる。
「かっと……なに?」
「かっとビング。それは俺の父ちゃんから教えてくれたチャレンジ精神だ。かっとビング、それは勇気をもって一歩踏み出すこと!かっとビング、それはどんなピンチでも決して諦めないこと!かっとビング、それはあらゆる困難にチャレンジすること!」
「え、えっと……」
「かっとビングを舐めるなよ、かっとビングは世界を変えるほどの力が秘められているからな」
「そうなの……?」
「ああ!だから、今から思いっきり腹から叫んでみろ、かっとビングってな!ほら、みんな一緒に!!せーの!!」
遊馬に言われ、ジャック達は恐る恐るその言葉を口にする。
「かっと……」
「ビング……」
「え、えっと……」
しかし、数万人もいる怨霊とは言え、勇気を出せずにその言葉を発する事はできずにバラバラで声がとても小さかった。
「どうしたどうした!俺一人よりも声が小さいじゃねえか!そんなんじゃ生きたい気持ちが弱くていつまでも怨霊のままだぞ!!かっとビングだ!!」
遊馬に言われ、ジャック達はかっとビングを何度も言い続けた。
不思議とかっとビングを口にする度にジャック達は不思議と心が暖かくなり、元気が湧いてくる感じがした。
やがて……。
「せーの!かっとビングだ!!」
「「「かっとビングだ!!」」」
ジャック達は遊馬の大声に負けないくらいの大音量でかっとビングを叫ぶようになっていた。
暗く冷たい表情から子供のように元気で無邪気な笑顔で右手を高く掲げていた。
「良いぜ良いぜ!元気よくみんな揃ってきたじゃねえか!もっともっと思いっきり叫ぼうぜ!ジャック・ザ・リッパーなんかの伝説に負けるんじゃねえ!お前達は今から新しい自分にかっとビングするんだ!!」
遊馬はジャック達をジャック・ザ・リッパーと言う名の伝説から解き放ち、新たな未来を進むためにかっとビングを教えた。
そのお陰で霧に包まれたジャック達の内面世界に光が差し込み、ジャック達の魂にも光の輝きが溢れてくる。
「かっとビングだ!みんな!!」
「「「かっとビングだ!!!私たち!!!」」」
そして、かっとビングによりジャック達の魂は光へと輝いていく。
「まさかこの子達に光を与えるなんて……」
玲霞はかっとビングでジャック達の魂が光り輝いていることに驚いていた。
ジャック達の笑顔に玲霞も自然と笑顔になっていた。
「……あなた、名前は?」
「俺は九十九遊馬だ!」
「九十九遊馬……あなた日本人?」
「おう!」
「そう……ねえ、遊馬君。この子達を……お願いできる?」
「任せておけ。こいつらを守ってやるからさ」
「お願い……ジャックを、私の愛する子供達を幸せにしてね」
そう言い残して玲霞は満足そうな笑みを浮かべて姿を消した。
そして、内面世界の霧が晴れ、光が照らされていき、遊馬は静かに目を閉じた。
☆
出現した謎の敵を全て倒し、アストラルとマシュ達は急いで遊馬とジャックの元へ向かった。
二人はいまだに光に包まれたままだった。
近づこうとすると電気に似た衝撃が襲い、下手に触れることも出来なかった。
「ユウマ……」
アタランテはいつも以上に不安そうな表情を浮かべて祈るように手を組んだ。
「遊馬君……」
「心配するな、マシュ。遊馬は必ず帰ってくる」
マシュ達も遊馬の無事を祈りながら心配する中……事態が大きく動く。
遊馬とジャックを包んでいた光が更に強い光を放ち、マシュ達は目を閉じた。
光が鎮まり、目を開くとそこには信じられない光景が広がっていた。
「遊馬君……?」
光を纏いながら現れたのは背中に純白の大きな双翼が生えた遊馬だった。
そして、その手にはスヤスヤと安心したような寝息を立てるジャックが抱きかかえられていた。
「「天使……?」」
神に仕える信者である同一人物のジャンヌとルーラーは今の遊馬を見てそう呟いた。
まるで……天から舞い降りた天使が幼き子供を抱き上げている光景に誰もが信じられないと思わずにいられなかった。
「ユ、ユウマ……!ジャックは……?」
アタランテは遊馬に駆け寄り、ジャックがどうなったか尋ねた。
遊馬はアタランテを安心させるように笑みを浮かべた。
「大丈夫、ジャックの魂はもう怨霊じゃない」
ジャックの右手の甲にはナンバーズの『0』の刻印が浮かんでおり、遊馬と契約した証だった。
「もう二度とこいつらに人殺しをさせない。これからは俺達と新たな未来を歩むんだ!」
「あぁ……!!」
アタランテは感極まり、顔が崩れるほどの大粒の涙を流して遊馬とジャックを一緒に抱きしめた。
「ありがとう……!ユウマ、本当にありがとう……!!」
「まだまだこれからだぜ。ジャックに色々な事を教えなきゃならないし、いっぱい色んな事を体験して貰わないといけないからな。アタランテ、協力頼むぜ」
「もちろん、私に出来ることは協力させてもらう」
ジャックはまだ精神が幼い子供そのものなので、殺人鬼として二度と力を振るわないようにしなければならない。
それはジャックを救うと決めた遊馬とアタランテの新しい義務である。
「んんっ……おかあさん……?」
ジャックが目を覚まし、虚ろな目で遊馬を見ながら『おかあさん』と呼んだ。
「起きたか、ジャック」
「まだねむいよぉ……」
「じゃあもうちょっとこのまま寝ていてくれ。起きたらご飯だからな」
「うん……おやすみ……」
「ああ。おやすみ」
ジャックは小さな手で遊馬の服にしがみつき再び目を閉じて眠りについた。
無事に戻ってきた遊馬にアストラルは隣に立ちグッドサインを見せる。
「やったな、遊馬」
「おう。サンキュー、アストラル」
「お疲れ様です、遊馬君。一度、ジキルさんの部屋に戻りましょう」
「そうだな、マシュ。みんな、行こうぜ」
遊馬は背中の双翼を消し、ジキルの待つアパルトメントへ向かった。
ジャックを救い出し、契約して仲間に引き入れてマシュ達は一安心するが、モードレッドとルーラーとジークは不安そうな表情を浮かべながら空を見上げる。
「なんであいつは眠ってるのに霧はまだ濃いままなんだ……?」
「どうやら今回はジャック・ザ・リッパーの他にもまだ戦わなくてはならない敵がいるかもしれませんね……」
「この異常事態……解決にはまだ早いか……」
今だに深い霧に覆われたロンドン……その影には未だに未知なる敵が多く潜んでいるのだった。
.
かっとビングでジャックちゃんを救済しました。
アポカリファでジャックちゃんの内面世界を見た時からこれしかないと思いました。
かっとビングで世界を救い、そして世界を変えた遊馬君なら出来ると思いました。
背中の双翼は未来皇ホープとアリトのイメージから思いつきました。
遊馬君はもはや天使といっても過言ではない子なので。
次回はジャックちゃんの教育と絵本の子を登場させたいと思います。