Fate/Zexal Order   作:鳳凰白蓮

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すいません、絵本の子は次回になります!
その前に先に出さなければならないキャラを忘れていました(汗)


ナンバーズ80 作られた無垢なる花嫁

ジャックを救い、遊馬達はジキルのアパルトメントに戻った。

 

子供のような穏やかな寝顔で眠っているジャックだが、いつ襲いかかってもおかしくないと信用していないモードレッドはギロリと睨みつけながら、いつでも斬り伏せられるように剣を構えていた。

 

ジャックがハンバーグが好きと遊馬から聞いたブーディカはカルデアの食堂からひき肉などの食材を送ってもらい、エミヤ直伝レシピのハンバーグを作っていく。

 

ハンバーグが出来上がる頃にジャックは目を覚ました。

 

「ふわぁ……おかあさん、おはよう……」

 

「おはよう、ジャック。って、おかあさんって何だよ?」

 

「え?おかあさんはおかあさんだよ?」

 

ジャックは無垢な瞳で遊馬を見つめていた。

 

遊馬を『おかあさん』と信じて疑わないような表情をしており、これは清姫と同じく何を言ってもダメだなと察し、そのままにしておくことにした。

 

それにジャックの元マスターの玲霞からも託されたので、まあいいかと結論付ける。

 

「みんなー!ご飯できたわよー!」

 

「ごはん!?」

 

ブーディカの声が響き、ハンバーグがテーブルに並んだ。

 

ジャックは目を輝かせながら美味しそうにハンバーグを食べる。

 

食事が終わり、ブーディカはジャックの頭を撫でながらハンバーグの感想を聞く。

 

「ジャック、美味しかった?」

 

「うん!とっても美味しかった!」

 

「それは良かった。あ、私はブーディカって言うんだ。このロンドンのずっとずっと昔にいた女王だよ」

 

「じょおうさまー?」

 

「女王様なんて言わなくてもいいよ。そうだね……お姉ちゃんって呼んでくれたら嬉しいかな?」

 

「うん!わかった、おねえちゃん!」

 

ジャックの笑顔とブーディカを『おねえちゃん』と呼び、ズキューン!とその可愛さにブーディカのハートにダイレクトアタックを喰らい、メロメロになって抱きついた。

 

「ああもう!可愛すぎるよこの子は〜!」

 

「わぷっ!?」

 

ブーディカはまるで娘のようにジャックを目一杯可愛がり、それを見た羨ましがりアタランテはもう少し自分も正直に大胆になろうと心に決めた。

 

ブーディカがジャックを解放し、一息いれると遊馬はジャックと向かい合うように座る。

 

「さてと、ジャック。大事な話があるからよく聞いてくれ」

 

「う、うん……」

 

遊馬の真剣な表情にジャックは少し緊張しながら頷いた。

 

「ジャック、お前はこれまでに多くの人を殺めてきた。この罪は絶対に消えることはない」

 

ルーラーたちから聞いた聖杯大戦やこのロンドンでジャックは多くの人を殺めてきた。

 

この大きな罪は決して消えることはない。

 

「だから、お前はその罪を償わなきゃならない」

 

「……やっぱり、私達は消えた方がいいのかな……?」

 

「たとえジャックが消えても死んだ人は蘇らないし、そんなことをしても罪を償えた訳じゃない。だから……生きて償うんだ」

 

「どうやって……?」

 

「ナイフを出してくれるか?」

 

「うん……」

 

ジャックはこれまで多くの人の心臓を抉り出し、殺めてきたナイフを取り出した。

 

ナイフを持つジャックの小さな手を遊馬は優しく重ねた。

 

「ジャック。お前はこれからこの力で誰かを殺めるんじゃなく、誰かを救う為に振るうんだ」

 

「誰かを救う……?」

 

「ああ。ちょっと難しい話だけど、俺たちはこの世界に住む全ての人類の未来を守る為に戦っているんだ。ジャック、その為にお前の力を貸してくれ」

 

「わかった、頑張る!おかあさんを守る!」

 

「でも、ただ償うだけじゃダメだ。お前も幸せにならなきゃならない」

 

「私たちも……?」

 

償うだけでなくジャック自身が幸せになるということに言われた本人が一番疑問に思う。

 

「お前は……いや、お前達は世界に生きることは出来なかった。だからこそ、一人の存在して生きる権利がある。これから沢山、色々な事を学んで、遊んで、成長していくんだ」

 

「生きて、学んで、遊んで、成長……うん!分かった!」

 

「あとは……友達だ。俺とアストラルみたいに泣いたり笑ったり、一緒に喜びや悲しみも共有できて、時には喧嘩も出来る……そんな大切な存在を見つけるんだ」

 

「友達……」

 

「ジャック、これからお前だけが出来る新しい未来を作り出すんだぜ?」

 

「うん!」

 

「よし、いい返事だ。かっとビングだ、ジャック!」

 

「かっとビングだ、私達!」

 

ジャックは元気よく『かっとビング』を叫び、その輝くような幼い子供そのものの可愛らしい笑顔から無垢なる殺人鬼の面影が消えていた。

 

「怨霊ではない、数多の子供達の霊の集合体……ジャック・ザ・リッパーが作り出す新しい未来……」

 

聖杯大戦でジャックを浄化で倒したルーラーは最初はジャックを救うことは不可能だと断言した。

 

例え他の聖人や聖女、聖なる力を持つ英霊たちでも怨霊であり呪いとも言えるジャックを救うことはおそらく不可能であろう。

 

しかし、魔術師でもない異世界の人間とはいえ幼い少年がジャックの中にある数多の怨霊の呪いを打ち破り、尚且つ二度と人殺しをさせない新しい未来を与えた。

 

まだ遊馬のことをあまり知らないルーラーは遊馬を尊敬すると同時に一つの恐れを抱いた。

 

一体この少年はあの優しい笑顔の裏にどれほど辛い人生と戦いを重ねてきたのだろうと……。

 

「話は終わったか?」

 

遊馬の話が終わると次にモードレッドが話し始める。

 

「おい、ジャック。聞かせろ、お前はまだ霧の宝具を展開しているか?」

 

「『暗黒魔都(ザ・ミスト)』?ううん、使ってないよ」

 

暗黒魔都はジャックの結界宝具で硫酸の霧を再現するが、今は遊馬と契約しているので宝具を解いている。

 

しかし、未だにロンドンは謎の霧に包まれたままだった。

 

ジャックが暗黒魔都を使ってないのなら一体誰が霧を起こしているのか。

 

「じゃあ何でまだロンドンが霧に包まれたまんまなんだよ?」

 

「それはね、『P』がやったんだよ」

 

「誰だよ、Pって?」

 

「えっとね、キャスターのサーヴァントで、すごい力を持った魔術師。わたしたちにたくさんの人を殺せって言ってた。そうすればおかあさんに会えるって……」

 

ジャックの発言を聞き、一同は驚愕する。

 

ジャックはただ単に人を殺していたのではなく、ジャックの母に会いたいと言う願いを利用したPが元凶である。

 

「Pって奴がジャックの無垢な心を利用したって事か……絶対に許せねえ!!」

 

ジャックの母親代わりとなった遊馬はジャックを利用したPに強い怒りを抱き、アタランテやブーディカも静かに怒りが燃え上がる。

 

「キャスタークラスのサーヴァントか……真名を伏せるために頭文字を取ってそう名乗っているのだろう。どうやら、今回の事件はそのPが大きく関わってるに違いないな。ジャック、そのPはどんな姿をしていた?」

 

アストラルはPがどんな人物なのかジャックに聞いてそれを記憶していく。

 

「えっと……Pは綺麗な男の人で、髪がとっても長くて、あとは白い服を着ていた!」

 

「そうか、ありがとう。遊馬、いずれPは我々の前に現れるだろう。その時は完膚無きまでに叩きのめして、何を企んでいるのか吐かせよう」

 

「その意見には大賛成だけど……アストラル、お前も怒ってないか?」

 

「ああ。私も少々怒りを抱いている……君のジャックを想う気持ちに触発されたのだろう」

 

「そっか。よし!まずはそのP、もしくは関係者を探し出さないとな!」

 

「待ってくれ、ユウマ。その前に君に頼みたいことがある」

 

「ジキル?頼みたいことって?」

 

「ああ。僕の協力者、スイス人碩学、フランケンシュタイン氏の保護を頼みたい」

 

「フランケンシュタイン!?」

 

「まさか、その名を聞くことになるとは……」

 

フランケンシュタインの名を聞いて遊馬とアストラルは驚愕する。

 

ヴィクター・フランケンシュタインは日本でも有名なフランケンシュタインの怪物の登場人物であるが、ジキルの協力者のその人物はその小説のモデルとなった魔術師の孫だったのだ。

 

事実は小説よりも奇なり……まさに日本の慣用句に当てはまることだ。

 

「今朝から連絡が取れないんだ。急いで向かって欲しい」

 

「それじゃあ、私の宝具で一気に目的地に行こう!」

 

ブーディカはライダークラスとしての宝具を持っているのでそれであまり時間をかけずに移動することができる。

 

「場所は分からないから、モードレッド、道案内できるかな?」

 

「ああ、任せてくれ!」

 

ブーディカに頼まれ、既に見回りでロンドンの街を知り尽くしているモードレッドは自信満々に頷いた。

 

「……すまない、ユウマ。俺も連れて行ってくれないか?」

 

すると、ジークが手を挙げてフランケンシュタイン氏の保護を名乗り出た。

 

「良いけど、どうしたんだ?」

 

「もしかしたら、そこに俺の命を救ってくれた恩人がいるかもしれないんだ……」

 

「恩人……あ!あの子か!じゃあ僕も僕も行く!」

 

「で、では、私も一緒に行きます!」

 

アストルフォとルーラーもジークに続いて名乗り出た。

 

「おかあさん、私達もいく!」

 

「ジャックが行くなら私も同行しよう」

 

Pやその関係者が現れた時にすぐにわかるようにジャックが同行し、ジャックの守護にアタランテも同行する。

 

「分かった。一緒に行こうぜ。アルトリアとジャンヌとレティシアとジークフリートはここで待機して何かあったら行動してくれ。連絡はD・ゲイザーで頼む」

 

遊馬は連絡用の予備のD・ゲイザーをアルトリアに渡す。

 

「分かりました。モードレッド、しっかりと役目を果たすのですよ」

 

「おう、任せてくれ!父上!」

 

アルトリアからエールを送られてモードレッドは上機嫌で頷いた。

 

ヴィクター・フランケンシュタインの保護に向かうメンバーは遊馬、アストラル、マシュ、ブーディカ、アタランテ、ジーク、ルーラー、アストルフォ、ジャック。

 

残るメンバーのアルトリア、ジャンヌ、レティシア、ジークフリート、ジキルはアパルトメントで待機。

 

遊馬達はすぐに行動に移し、アパルトメントから出るとブーディカは剣を抜き、アストルフォは手を掲げる。

 

「行くよ、『約束されざる守護の車輪(チャリオット・オブ・ブディカ)』!!」

 

「おいで、『この世ならざる幻馬(ヒポグリフ)』!」

 

ブーディカの前にブリタニア守護の象徴である名馬による二頭立ての戦車が現れ、アストルフォの前にはピポグリフが現れる。

 

「ジェットローラー!」

 

遊馬はジェットローラーを起動し、マシュとモードレッドとジャックはブーディカのチャリオットに乗り、ルーラーとジークはアストルフォのピポグリフに乗る。

 

「ユウマ、私は警戒のために建物の上を走っていく」

 

「ついてこれるか?」

 

「それぐらい問題ない」

 

「オッケー、それじゃあ行こうぜ!」

 

ブーディカはチャリオットの二頭の馬を操って走らせ、アストルフォはピポグリフを飛翔させ、その後を遊馬とアストラルとアタランテが追う。

 

モードレッドの案内でヴィクターの屋敷へ向かい、途中敵がいたが難なく倒していき、到着したのは大きな屋敷だった。

 

屋敷は魔術によって施された罠が多く、モードレッドも最初に来た時には苦労し、気をつけながら門に行こうとしたその時。

 

「──クソ、遅かったか」

 

門の入り口には背の高い不気味な道化師のような男が立っており、モードレッドは警戒しながら問う。

 

「おい、そこのカカシ。それともリビングスタチューか?どっちでもいいや。お前さ、アホみたいに匂うぞ。血と臓物と炎の匂いだ。後、爺さんの好きだった元素魔術の触媒。ここまでぷんぷん匂ってくる。殺したな、お前。ヴィクター・フランケンシュタインを」

 

モードレッドは直感した、この道化師がヴィクターを殺害したと。

 

奇抜な道化師……この国と時代ではあり得ない存在、即ちサーヴァントである。

 

「ええ、はい──ああいえ、どうでしょうか。少しお待ちくださいませ。確かに、確かに、かの老爺は二度と口を開かず歯を磨かず物を食べず、息をしないでしょうけれど。ええ、ええ。有り体に言えば絶命しているのでしょう。残念なことです。彼は『計画』に参加することを最後まで拒んだ。しかししかし。だな、けれどもしかし。誰がヴィクター・フランケンシュタインを殺したか?それはとても難しい質問かも知れません。何故なら、彼はひとりでに爆発したのですからね!」

 

道化師はまともに答えるつもりがないように回りくどい言葉を並べていく。

 

「──それはあなたの宝具の仕業でしょう?『メフィストフェレス』!!」

 

ルーラーは道化師の真名を瞬時に看破した。

 

メフィストフェレス。

 

ゲーテの戯曲『ファウスト』などに登場する誘惑の悪魔である。

 

「おやおや?私の真名を看破したと言うことはルーラークラスのサーヴァントですかな?うふふふ!何とお美しい、是非とも堕落させてみたいものです!」

 

「お生憎様、私はあなたのような方に堕落させるほど弱くはありません」

 

「そうそう、ルーラーを堕落させるのはジークだからね〜」

 

「アストルフォ!?あなたはこんな時に何を言っているのですか!??」

 

「すまない、ルーラー。俺が君を堕落させているのか?」

 

「ジーク君!?そ、その話は後でお願いします!」

 

緊迫した状況のはずだが、アストルフォの所為でルーラーとジークの夫婦漫才が始まりかけた。

 

「ま、冗談はこのくらいにして……君は敵だね。ジャックがどうやら君を知っていたみたいだから」

 

アストルフォはルーラー弄りからキリッと真剣な表情を見せてジャックの頭にポンと手を乗せると、メフィストフェレスはジャックが遊馬達と一緒にいることに驚いた。

 

「これはこれは、無垢なる殺人鬼のジャック・ザ・リッパー!何故あなたがそこにいる?Pと共に行動をしているのではなかったのですか?」

 

メフィストフェレスは謎の人物Pの関係者でジャックも顔を何度か合わせただけだった。

 

ジャックはナイフを構えてメフィストフェレスに敵意を向ける。

 

「……私達はおかあさんたちと一緒にいる。もう人殺しはしない!」

 

それはジャックがP達との完全なる決別を宣言したことになった。

 

「そうですか……残念ですね。それでは仕方がありません。貴方達を爆発させましょう!我が宝具は既に設置済み!」

 

「設置済みだと!?」

 

「我が真名メフィストフェレスの名に懸けて!皆様を面白可笑しく絶望に叩き込んでくれましょう!」

 

モーションなしで既に宝具を展開して設置した……ジャックもメフィストフェレスの宝具がどんなものかは分からない。

 

「それでは、カウントダウン!」

 

メフィストはカウントダウンを数え、宝具を発動して遊馬達を爆発させようとしたその時、ルーラーが前に出て旗を広げる。

 

「我が旗よ、我が同胞を守りたまえ!『我が神はここにありて(リュミノジテ・エテルネッル)』!!」

 

ルーラーの旗振りと共に聖なる光の加護が自身と遊馬達に与えられ、メフィストの宝具を無効化する。

 

「何と!?」

 

「あなたがどのような宝具を使おうとも私の旗でみんなを守ります!」

 

「アヒャヒャハアアアア!でしたらあなたが耐えきれなくなるまで爆発させましょう!『微睡む爆弾(チクタク・ボム)』!!」

 

メフィストフェレスの宝具は魔術回路やサーヴァントの霊基に意図的なバグを仕込み、衝撃を与えることで破裂させる呪術の一種である。

 

「くっ!?」

 

ルーラーは旗の力でメフィストフェレスの宝具から全員を守っていく。

 

「ルーラー!」

 

「大丈夫です!私が必ずみんなを守ります!」

 

ルーラーの旗はEXランクという規格外の対魔力を物理的霊的問わず、宝具を含むあらゆる種別の攻撃に対する守りに変換する。

 

しかし、攻撃を防いだ代償は旗に損傷となって蓄積され、使い続ければ最終的には使用不能になってしまう。

 

その前にメフィストフェレスを倒さなければならない。

 

「遊馬!今のうちだ!速攻で決めるんだ!」

 

「ああ!待ってろ、ルーラー!俺のターン!!」

 

遊馬の右手が真紅に輝き、バリアン七皇の幻影が現れて一つに重なり、デッキトップに手を置く。

 

「バリアンズ・カオス・ドロー!来たぜ、真月……ベクター!」

 

すると、遊馬を騙すために親友になると偽り、大きな心の傷を与えてきたバリアン七皇の一人、ベクターの幻影が遊馬の隣に現れる。

 

しかし、敵でありながらも最後まで信じ抜いて救おうとした遊馬の心に救われ、本当の親友となった真月零が不敵な笑みを浮かべて遊馬の肩を叩く。

 

「俺はドローしたこのカード、『RUM - 七皇の剣』を発動!!このカードは通常ドローをした時に発動する事が出来る!エクストラデッキ、または墓地から『オーバーハンドレッド・ナンバーズ』を特殊召喚して、そのモンスターをカオス化させる!」

 

眩い閃光と共に『104』の文字が空中に輝き、遊馬の前に柱のようなものに手が付いた物体が現れる。

 

「出でよ!No.104!その眩き聖なる光で、愚かな虫けら共を跪かせよ!『仮面魔踏士(マスカレード・マジシャン)シャイニング』!!」

 

そこから変形すると複数のリングが繋がったチャイナリングを持ったマジシャンが姿を現れる。

 

「そして、仮面魔踏士シャイニングでオーバーレイ・ネットワークを再構築!カオス・エクシーズ・チェンジ!!」

 

仮面魔踏士シャイニングが光となって天の赤い雲に吸い込まれると光の爆発を起こし、その力を大きく変えて新たな姿となり、紫色の『104』の文字が空中に描かれ、コウモリを模した赤い翼を持つ球状の物体が現れる。

 

「現れろ、CNo.104!混沌より生まれしバリアンの力が光を覆う時、大いなる闇が舞い踊る!『仮面魔踏士(マスカレード・マジシャン)アンブラル』!!」

 

赤い翼から変形すると真紅の衣装に身を包み、赤い宝石の杖を携えた怪しい雰囲気を漂わせるマジシャンが姿を現わす。

 

「三体目のオーバーハンドレッド・カオス・ナンバーズ……」

 

不死身の槍術士、三つ首の金龍に続き、不気味な闇の魔術師の出現にマシュはヒシヒシと伝わるその力の波動に少し不安げに見つめた。

 

光から闇へとその姿と力を変えた仮面魔踏士……それは真月とベクターの二面性を表したシャイニングとアンブラルの特徴である。

 

「ルーラー!あとは任せろ!」

 

「遊馬さん……はい!」

 

「行け!アンブラル!!」

 

アンブラルは杖を軽やかに回しながら滑空し、メフィストは笑みを浮かべて爆散しようとする。

 

「その魔術師をまずは爆散させてみましょう!!」

 

「そうはさせるか!アンブラルの効果!相手フィールド上で効果モンスターの効果が発動した時、オーバーレイ・ユニットを一つ取り除いて、その発動を無効にする!ダークプランダー!!」

 

アンブラルはオーバーレイ・ユニットを杖の宝石に取り込むと赤黒い光が放たれ、メフィストが宝具を発動する前に直撃した。

 

メフィストは構わず微睡む爆弾を使おうとしたが、発動しなかった。

 

「ま、まさか……私の宝具を使えなくしたのですか!??」

 

「ああ。これ以上、あんたの道楽の為に誰かの命を奪わせたりはしない!!そのままアンブラルで攻撃だ!!」

 

アンブラルは華麗なステップを踏み、杖を振りかざして闇の電撃を放った。

 

「アギャアアアアア!??」

 

電撃がメフィストの体に直撃し、奇声を放って倒れる。

 

「やるじゃねえか、ガキ!後は任せろ!」

 

モードレッドはアーサー王の武器庫に保管されていた王位継承権を示す剣、『如何なる銀より眩い』と称えられる白銀の剣……『燦然と輝く王剣(クラレント)』を構える。

 

クラレントに荒れ狂う憎悪を刀身に纏わせて振りかぶる。

 

「てめえはヴィクターじいさんを……ブリテンの民を楽しみながら無残に殺した……その罪を償え!!」

 

知人を……そして、愛するブリテンの民を殺した怒りをクラレントに込める。

 

「『我が麗しき父への叛逆(クラレント・ブラッドアーサー)』!!!」

 

振り下ろしたクラレントの切っ先から直線状の赤雷を放たれる。

 

まるでモードレッド自身の怒りを表しているかのような赤雷がメフィストフェレスに向かう。

 

「あぁ……実に、実に……口惜しい……!」

 

メフィストフェレスは赤雷に呑み込まれ、絶叫を上げられずに消滅した。

 

消滅した跡からフェイトナンバーズが残り、アストラルが回収し、モードレッドは屋敷を見つめる。

 

「ヴィクターのじいさんが何か残してるかもしれねえ。行こうぜ」

 

「ああ……」

 

遊馬達はヴィクターの屋敷に入り、何か情報や手掛かりがないかを探す。

 

メフィストフェレスがヴィクターを殺害した現場には爆発して僅かに残った肉片と血しか残っておらず、無事に魂が天国に行けるようにルーラーは祈りを捧げた。

 

マシュは殺害現場からヴィクターが遺したメモを見つけた。

 

どうやらメモを書いている時に襲われたらしい。

 

「私は一つの計画の存在を突き止めた。名は『魔霧計画』。実態は、未だ不明なままだが計画主導者は『P』『B』『M』の三名。いずれも人知を超えた魔術を操る、恐らくは英霊だ」

 

魔霧計画……霧の宝具を使うジャックが抜けたことでその計画がどれほど影響を与えたかどうかはわからない。

 

しかし、未だに霧が出ていることや三人のサーヴァントが敵としていることから油断ができない。

 

「Pの他にまだ首謀者が二人いるってことかよ」

 

「M……メフィストフェレスの頭文字はMだが恐らくは違う可能性が高い。ジキルにも読んでもらって意見を聞こう」

 

「で、だ。オレも一つ面白いものを見つけたぞ。おい、こっち来い」

 

モードレッドはPの情報とは別のものを発見し、それを呼び寄せた。

 

「……ゥ」

 

「女の子?」

 

それは白いドレスを着た虚ろな目を持つ少女で額に機械の角など頭に色々な機械が埋め込まれていた。

 

その少女の登場に真っ先に飛びついたのはアストルフォだった。

 

「やっほー!フランちゃん!久しぶり!!」

 

アストルフォは少女──フランに抱きついた。

 

嬉しそうにアストルフォは頬ずりするがフランはとても困惑していた。

 

「ウッ……アッ……ゥゥ……?」

 

「あれ?どうしたの?」

 

「アストルフォ、彼女は黒のバーサーカーではありませんよ」

 

ルーラーはフランがサーヴァントではないと断言した。

 

「え?」

 

「何故なら彼女は……サーヴァントではなく、生身ですから」

 

「ええっ!?じゃあ英霊になる前のフランちゃん!??」

 

「そうですね」

 

「そうだったか……」

 

ジークはフランがサーヴァントではなく生前の存在であることに不謹慎だが少し残念に思えた。

 

かつてジークは間接的であるがサーヴァントのフランに命を救われたのだ。

 

「じゃあ知らないのも無理はないか。僕はアストルフォだよ!よろしくね、フランちゃん!」

 

「アストルフォ、その子とはどう言う関係なんだ?」

 

「フランちゃんはね、聖杯大戦で黒のバーサーカーとして召喚されて僕と一緒に戦ったんだよ!」

 

フラン……聖杯大戦で黒の陣営で共に戦ったサーヴァントだが、どうやらここにいるのは英霊になる前の存在らしい。

 

「こいつ、人造人間だぞ?」

 

「は!?人造人間!?」

 

「人造人間ということは、まさか!?」

 

人造人間と聞いて遊馬とアストラルは耳を疑った。

 

フランケンシュタイン、人造人間……そこから導き出される答えは衝撃的なものである。

 

「奥の部屋の棺に入ってたんだけど。説明書きがくっついてたんだよ。ええとな。祖父ヴィクター・フランケンシュタインの制作した一体目の人造人間……だってよ」

 

「まさか、『フランケンシュタインの怪物』とこうして会うことができるとは……!」

 

アストラルは拳をぎゅっと握りしめて感慨深そうに目を閉じた。

 

「あー、お前深夜放送のテレビをかなり見ていたからな……」

 

アストラルは遊馬とまだ人間界にいた頃、遊馬が自室で夜に寝ている間、アストラルは深夜番組のテレビを見ていた。

 

その中にはフランケンシュタインを題材にした番組を見ていたのでアストラルは感動していた。

 

「ゥゥ……ァァ……?」

 

「私の名はアストラルだ。君は……フランで良いかな?君に会えた事をとても光栄に思う」

 

フランは初めて見る存在に手を伸ばしてアストラルに触れるが、手がアストラルの体をすり抜けて触れないことに驚く。

 

「すまない、私は触れることは出来ないんだ」

 

「キ……レ……イ」

 

フランは唸り声や方向ばかりで滅多に言葉を口にしないため、大切なことだけを言葉にする。

 

初めて見る美しい精霊のアストラルに本心からそう感じたのだ。

 

「ありがとう……」

 

「良かったな、アストラル」

 

「ああ。ヴィクター・フランケンシュタインは保護出来なかったが、彼女をこのままにしては置けない。私達で保護しよう」

 

アストラルの意見に一同は頷いた。

 

特にジークにとっては恩人でアストルフォはかつての仲間なので大賛成である。

 

一旦フランを連れてジキルのアパルトメントに戻ろうとしたが、そこにジキルから連絡が入った。

 

ヴィクターとフランの件を話し、ジキルはヴィクターを保護出来なかったのはとても残念がっていたが、悲しんでいる暇はないとジキルは今さっき入った情報を伝えた。

 

『ユウマ、ソーホーエリアに妙な物が現れた。何でも屋内にまで入り込んで来て市民を襲うんだ。しかもそれは人間くらいの大きさの本らしいんだ』

 

「本が人を襲う?」

 

『僕は仮にこれを、魔本、と仮称することにした。すぐに対処してほしい』

 

「分かった!任せてくれ!」

 

遊馬達はジキルからの次の任務で屋敷を後にし、魔本が出現したソーホーエリアへと急いだ。

 

 

 

 




今回はジャックの新しい未来とフランちゃんの登場でした。
ジャックちゃんは無事に遊馬達の仲間となりました。
アストラルのフランケンシュタインのネタは漫画版から採用しました。
アストラルはエスパーロビンとかしっかり見ていたので深夜放送を見まくったと思います(笑)

絵本の子は次回です!

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