「す、すまない、一つ聞いていいか?」
「どうした?」
簡易的な人払いの結界を張りつつライディーンの力のコントロールの訓練、そんな中で行きも絶え絶えと言った様子で手を上げるゼノヴィア。
「いや、大した事じゃない……とは思う。君は、君以外のライディーンは誰なのか知っているのか?」
「オレ以外の……ライディーン?」
ゼノヴィアの問いかけに微かに考え込む。そもそも、気に留めていなかったが勇気が知っている他のライディーン……勇気と同じ様に正式な後継者に選ばれたもう一人のライディーンのことは殆ど分かっていない。
「残念ながら、オレが知っているのはライディーンとしての名前だけだ。あとは、先代の情報だけだな」
ゴッドフェザーを宿しているが故に、勇気はどのゴッドフェザーにどのライディーンの力が宿っているのか分かる。それとイーグルの知識をあわせればどのライディーンに覚醒したのかはよく分かる。
そして、今現在覚醒しているもう一人の真なるライディーンの後継者。その名は、
「『ライディーン・クロウ』、ハーツライディーンのリーダーだ」
イーグルとクロウ。十人のライディーン達の二組のチーム、その二組のリーダーとなっていたのが、その二人だ。クロウが中心となったチームの名は通称『ハーツライディーン』と呼ばれている。
過去の戦いでは白龍皇アルビオンを一騎打ちの末に倒したライディーンで、イーグルと並んで数多の悪魔と堕天使を震え上がらせた勇名を持った、影の力を操る姿から通称『影のライディーン』。
現在、本当の意味で二代目として覚醒したのは、イーグルとクロウ。二つのライディーンチームのレーダーであった。
「何時か向こうから接触もあるはずだろうからな。一応ゼノヴィアも気をつけていた方がいい」
「そうか」
ある程度の確信を持ってそう言い切れる。現状で勇気の手元に他のハーツライディーンのゴッドフェザーもあるのだ。それを手にする為に接触してくる可能性は高いと考えている。
推測の域でしかないが、自分がこうしてライディーンの力に完全に覚醒している以上、クロウもまた同じ様に力に覚醒していると考える方が自然だろう。
(俺がイーグルの記憶を持っているなら、今のクロウも前のクロウの記憶を持っている筈だしな)
ゴッドフェザーを所持しているとは言え、自分だけが特別にイーグルの記憶を持っていると考えないほうが良いだろう。寧ろ、同じ様にクロウの記憶もそのクロウの後継者である誰かは持っている、そう考えるべきだ。
「オレが知っているのはそれくらいだな」
そう、勇気が知っているのはその程度の事だ。クロウの後継者が何処の誰なのかは知らない。
ドラゴンが引き寄せるものの中にライディーンも含まれているとすれば、赤龍帝と言う存在はもう一人の後継者との出会いも含まれるだろう。
(今日かもしれないし、明日かもしれない。もしかしたら、一年、十年も先かもしれない。……だけど)
有るように見えて時間は実際には殆ど無いのかもしれない。強くなる為の時間は幾ら有っても足りないのだ。
「ほら、話が終ったなら続きだ。今日中に変身までいけるようになって貰うぞ」
「す、少しは休ませてくれ!」
ゼノヴィアの絶叫が結界内に響き渡る。
それはプール掃除に行く前に有った光景であった。
……教会の戦士として訓練を受けていたゼノヴィアさえこうなのるは、流石はかつての天界最強の戦士と言った所だろう。元々ライディーンの力を受け継いだだけなのだが……勇気は。
……なお、この訓練では、やっとライディーンの武器を取り出せるようになっただけで、未だに変身には至ってないのがゼノヴィアの現状である。一応、最初から翼だけは出せてそれによって僅かに身体能力は上がっているが。
「イーグル……フレア!!!」
「そんな物まで使うなぁ!!!」
生身でイーグルフレアまで使う勇気から逃げるゼノヴィアの図。なお、ライディーンの力を使えるようになる為の特訓なので、デュランダルは使用禁止である。
曰く、未変身でもゴッドバード以外の力は問題なく使えるそうだ。変身後よりも大きく技の破壊力は下回ってしまうが。
それでも、時間は掛かるがライディーンへと変身まで比較的早く至れるだろう。……問題点はまだ教えなくても良いだろうと思っても居る。飛行に関して問題なく出来ていることからの評価でもある。
さて、そこで勇気はどうなのかと言う疑問も沸いてくるが、それはそれ……後天的にライディーンになったゼノヴィアとは違い、正当なライディーンの後継者である勇気は最初から変身まで可能だ。……その分、制御には苦労したが。
実体化させた鋼鉄の翼……戦士としての天使ライディーンの象徴たる翼を眺めながらゼノヴィアは思う。人生とは分からない物だ、と。
先にリアス・グレモリーから誘われていたら悪魔に転生していたかもしれないが……神の不在を知り教会から破門された先に……元とは言え最強の戦闘天使になるとは。
まあ、容赦なく向かって来る勇気との特訓と言うのを生き延びなければならないだろうが。
それが前日の特訓風景だった。
「やあ、良い学校だね」
プールからの帰り道校門の前に立っていた青年がそう一誠に声をかける。
「っ!?」
本能……ライディーンとしての覚醒をしてから顕著になっていた感覚が目の前に居る相手がただの人間では無いと告げている。
〈……白い……龍?〉
「えっと……まあね」
『誰だ?』と思いながら男の問いに答える一誠。外見年齢は一誠や勇気と対して変わらないであろう、彼から感じ取れる気配。それに気付かない様子の一誠へと
「ここで会うのは二度目か? 『
「ああ、お互い素顔で会うのは初めてだな、『
その言葉に戸惑っている様子の一誠を他所に、男の言葉に警戒を浮べながらも勇気はそう答える。半ばブラフの意味合いでの問いかけだが、恐らくそれは間違いないだろう。
「ああ、オレは『ヴァーリ』。察しの通り、白龍皇、『
勇気へと不敵な笑みを浮かべながら己の名と……一誠にとって重要と鳴る名を名乗る。
〈こいつが白龍皇!?〉
そう、目の前に居るのは一誠にとって殺しあう運命にある……宿命の赤い鎖と言うべき縁で結ばれた宿敵だ。
〈右腕が反応している!? おいおいドライグ、こいつもマジなのかよ!?〉
彼の言葉が真実だと……一誠は誰よりもそれを理解している己の相棒の反応に本当に目の前の相手がそうなのだと理解してしまう。
〈プレッシャーは感じない。だけど、死を予感させられる……〉
「戦ったら百回中百回負けるな、一誠」
「分かってんだよ、この野郎!?」
冷静に万に一つの勝ち目もないと告げてくれる勇気に思わず泣きながら答えてしまう。
〈これが宿命と言う奴なのかよ!? 死ぬ前に部長抱いてから死にたい! どうする……って、そうだ!? こっちには勇気が……〉
「これも宿命って奴だ。街で戦わない限り、オレも邪魔しないからコイツなら好きにしてくれ」
「おいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃい!?」
あっさりと一誠を見捨てた勇気だった。
「へぇ、随分と話が分かるじゃないか?」
「他人の因縁に余計な手出しをするほど野暮じゃないんでな」
交差する勇気とヴァーリの視線。片手を勇気へと向けると、
「つまり、この場で町を攻撃すればオレと戦ってくれると言う訳か、ライディーンイーグル?」
「戦いたいなら、そんな事しなくても相手になってやるよ。でもな……相方のために、先に因縁を片付けた方がいいんじゃないのか?」
そんな勇気の言葉にヴァーリの表情に楽しそうなものが刻まれる。すっかりと本来の因縁の相手である一誠を他所に睨みあう勇気とヴァーリ。そんな中、一誠へと視線を向け、
「まあ、此処はキミの言う通りアルビオンの為に先に因縁を片付けてからにしておこうか。楽しみは後に取っておいた方が良さそうだしね」
「ッ!!!」
その瞬間、ウァーリの喉元に突きつけられる三本の剣。左右から交差するように木場の魔剣とゼノヴィアのデュランダル、そして……喉下に数ミリの所でとめられている勇気のイーグルソード。
「冗談が過ぎるんじゃないかな?」
「ここで赤龍帝との決戦を始めさせるわけには行かないな、白龍皇」
木場とゼノヴィアの言葉とは裏腹にカタカタと震えている二本の剣。微動だにせず返答次第では喉を貫くという様子でヴァーリを見据えている勇気の視線。
「其処の二人は止めて置いた方がいい。切っ先が震えているじゃないか? それに今日は戦いに来たわけじゃない。だから剣を納めてくれないかな、イーグル」
「祐斗、剣を納めない。ゼノヴィア、勇気、貴方達もよ」
「部長!」
其処に響くのはリアスの声。その言葉に従って剣を納める木場。視線で勇気に『良いのか?』と問いかけてくるゼノヴィアに自身も剣を消す事で返答する勇気。
「誇って良い、相手との実力差が分かるのは強い証拠だ。だが、コカビエルごときに勝てなかった君たちではオレの相手にならない。オレの相手になれるのは、イーグルだけだろう?」
「白龍皇、何の心算かしら?」
「アザゼルの付き添いで来日していてね。ただの退屈しのぎさ」
リアスの問いへの返答。退屈しのぎに改めて己の因縁の相手に合いにきたのだろうが、勇気にしてみれば因縁ならば勝手にやってくれ、と言った所だ。
「兵藤一誠、イーグル、キミ達はこの世界では自分が何番目に強いと思う? 未完成の
「何が言いたい?」
「褒めてるのか貶してるのか微妙な所だな」
ヴァーリの言葉に総評するのは勇気だ。元が一般人の一誠ではこの短期間で其処まで行けただけでも大進歩と言った所だろう。
「『
「自分とでも言いたいのかよ」
「そんな訳がないだろう」
ヴァーリの言葉に苛立ち交じりで答える一誠の言葉を即座に斬り捨てる勇気。
「それに、不動なのは一位だけじゃなくて二位もだ。無限と夢幻、だ」
心の中でこの順位が変動する唯一の可能性を思い浮かべて否定する。一瞬でも創造してしまったのだ、誰にも悟られないように表情を隠す。
「矢張り知っていたか」
そう言って最後に一誠……赤龍帝についてのアドバイスとも言える言葉を残してヴァーリは立去っていく。
「そうそう、一つ言い忘れていた。イーグル、お前への伝言を預かっている」
「伝言?」
「『いずれ会おう』だ」
「っ!?」
その言葉に同様を浮べてしまう。断片的でしかない先代イーグルの記憶……それは、その中にある、クロウとの最期の言葉だ。