車輪の下のC   作:一ノ原曲利

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 才能が一つ多い方が、才能が一つ少ないよりも危険である

―――フリードリヒ・ヴィルヘルム・ニーチェ




唯そこには鏡があった

 

 

 

 停戦信号が来たと聞き、シンヤは車椅子を走らせて艦橋へ急ぐ。途中、私室に戻り例のカードから奇妙な電磁波を発していることが判明し、急ぎ光源を切り胸ポケットに突っ込んだ。

 どうやら阿頼耶識が、その特殊な電磁波を少しばかり雑音らしきものとして受信する媒体としての効果を果たしていたようで、三日月が注意したのはその微弱な電磁波をいち早く感じ取ったからではないかと推測される。

 悪意のない発信機だとは思いたくないが、これほどの技術が込められたカードが一組織のカードキーとして作用するものであったとしても何ら不自然ではなかった。

 

 そして、現在進行形で追跡されている戦艦がその組織である可能性も、捨てきれなかった。

 

「ヤァすまないね、遅れてしまったよ」

「シンヤか」

『誰だアンタ?』

「彼はどちら様だい? オルガ」

『タービンズの頭、名瀬・タービンだ。それでアンタは?』

 

 白帽子に白服の背広、シンヤよりも長い髪の二枚目な青年が映し出されていた。

 

「シンヤ。シンヤ・ギーベンラートです、以後お見知りを」

『オイオイ、少しは話のわかりそうな男がいるじゃあねぇか。お前等、いい大人も部下にしてるのかよ…待て、ギーベンラートだと? それにそいつは…』

「こちらも、御存知で?」

『………』

 

 ピ、と胸ポケットに仕舞ってあった黒いカードを見せる。名瀬は椅子の傍らにいる女性に目を向けてアイコンタクトらしき疎通を図った。スクリーンに映る女性達も皆一様に困惑の表情だ。

 

『おいシンヤァ! なーんでおめぇがそっちにいやがる!』

「おや、元社長。壮健そうで何よりです。聞いてないでしょうけど私は元気ですよ」

『聞いてねーよンなこと!! そもそもお前は共犯者だろーが! お前に居場所を与えてやったのは俺だぞ! 俺の為に働く、そういう契約だっただろうが!』

「共犯者?」

「………」

 

 共犯者という言葉がわからないほど、オルガ達も図太くない。シンヤはマルバの言葉に片眉を跳ね上げるが、

 

「ええ、そうですね。私は故CGSあそこで医師として従事し違法手術を行う。あなたは私に給料と資材と、匿ってもらう居場所、そして()()()()を提供して貰う。Win-Winの関係でした」

『そ、そうだ! わかってんならガキ共を説得して資産を返せ!』

「率直に申し上げますと、無理です。私はもう鉄華団の預かりですので。それに敗走した元社長の下に再び就くのは些か抵抗が……いえ、決して元社長の人柄云々の話ではなくて単純に負け犬に傅くのは人としての尊厳が失われると言いますか。えぇえぇ私は人ですあなたも人です、でも私はあなたを上司として見ることが難しいと言いますか…いやはや、人の(さが)というのは難儀なものですね。それに顔を見たら蕁麻疹出てしまう方を上司にしたくありませんので」

『は、ハァ!?』

「うっわ、辛辣だね…」

『結構毒舌なんだな、アンタ』

 

 名瀬の辟易した表情は、まるで()()()()()()()()()()()()顔だった。

 

 それが何故か、勘に障った。

 

『シンヤァ! てめぇ後で覚えてろよ!』

「ごめんなさいもう忘れました」

『はいはい、喧嘩は他所でやってくれよ。んで、シンヤ――と言ったか? 元社長の顔に免じて、アンタから其奴らガキ共の説得しちゃくれねぇか?』

「資産の譲渡と武装解除、降伏勧告ですか?」

 

 ちらりとオルガ達面々の表情を見る。マルバが来ていることもあるのかもしれないが、彼らの顔には到底降伏の二文字が浮かぶことはなかった。

 

 ゴミの如く、使い捨てのように殺された故CGSの団員には、友と呼ぶに相応しい人も居たのだろう。或いは、家族と呼ぶに値する人も居たのかもしれない。その命令を出した張本人を味方にして、且つ上から目線で一方的に交渉を突き付けられて、ハイそうですかわかりましたと首を縦に振る訳がない。

 

「その件に関しても、お断りします」

『…ほぅ、俺を敵に回すってことか。残念だ、アンタは一番話がわかると思ってたんだがな』

「解ってますよ、解って断ってるんです

 それに――あまり彼らを子供だと見縊っていると、痛い目に合いますからね? 忠告はしましたよ」

『…言うじゃねぇか、雁首揃えて待ってろよ』

「まぁ、見目麗しきレディ達に囲まれて使うにしては下品な言葉」

『そういう意味じゃねぇよ!』

 

 通信は向こうから切られ、同時に決して後戻りはできないことを悟る。

 後悔しているわけではない、ただタービンズの面々が此方を知っているような態度が引っかかった。

 

 だがそれはそれ。これはこれ。

 

 例え知っていようがいまいが、敵対すると決まった以上は老若男女容赦無し。ギャラルホルンに続き、シンヤ達には戦い抗うことしかできない。

 

「シンヤ、さっきの言葉…」

「…すまない、ビスケット。だがこれだけは信じて欲しい」

 

 共犯者、そして研究検体という言葉に、ビスケットは不信感を持たずには居られなかった。戦闘準備で忙しくなる中、シンヤは艦橋から出る一歩手前でビスケットの不安そうな目を見て笑いかける。

 

「私は鉄華団を、そして君達を決して裏切りはしない。使い捨てることも、ゴミのように扱うこともない。其れが、私が私である以上曲げてはならない筋であるし、道理だと思っているよ」

「…本当だね?」

「私が嘘をついたことがあったかな?」

「嘘はつかないけど冗談は言うよね、シンヤは」

「私は箒頭の関西人か」

 

 

 

 

 

 テイワズの傘下、タービンズの襲来。

 狙い澄ましたものではなかったが、大変都合の良いものであった。鉄華団にとって、シンヤにとって。

 急ぎ即席で作り上げた兵器の数々を纏め、MWの準備をしている格納庫へ急ぐ。

 

「オルガ」

「シンヤ? その格好は」

「私も同行しよう」

 

 花京院!

 

 と、叫ばれることはなかった。奇妙な毒電波を受け取りかけたがそれは受信拒否対象である。

 

 その格好、というのは宇宙空間用のスーツである。イサリビに置いてあった大量のノーマルスーツの内の一着を着て、車椅子で私室から飛んで来たのだ。

 団長含む工作部隊は皆全員が重火器を携えているが、シンヤ本人としてはこれから後ろ盾として加わるテイワズの傘下であるタービンズとは、今後の関係を悪いものにしない為にも、なるべく流血沙汰は避けたい。

 

 艦橋での遣り取りは、ご愛敬である。

 

「今回は、弟子ダンテの実戦における手際を確認するためと、万が一ミスった時のリカバリー役として工作部隊に加わるつもりだ。ハイ、即席妨害用催涙ガス弾」

「お、助かるゼ」

「…MWは動かせるのかよ?」

「ダンテのやつに乗っけてもらう。幸いこの車椅子はコンパクトに小さくできるからね」

「オレかよ!?」

 

 車椅子からコードを引き抜いて無重力状態を利用し格納庫内に浮かぶ。弾薬が入った袋を投げてシノに渡し、必死に手を動かして車椅子を折り畳む。

 阿頼耶識との駆動システムを組み込んだ直後の車椅子は一見巨大な椅子に座っているように見えるが、実のところ大きく見えるのは内側へ収納するための機構が備えられているからだ。他にも、本来であれば護身用の武器や阿頼耶識と連動した兵器を積む予定であったが、現在は資材が不足しているため作れないのが現状である。つまり、車椅子を折り畳む離れ業は今此処でしか使えないのだ。それを最大限利用しない手はない。

 

「さぁ、お師匠様に成長した姿を見せる時だよダンテ」

「おおぅ、いきなり先生風吹かせられてるけど結構緊張するな」

「現場というのはそんなものだ、だが同時にチャンスでもある。此処で滞りなくハッキングや艦内図の読み取りに成功すれば現在の実力の証明とタービンズに一泡吹かせられる。期待と緊張、それらを乗り切って現在の最大限の実力を発揮することができるならば、それは確固とした己の技術として自身に結びつく」

「…わかった。団長もいいよな?」

「異論はねぇよ。むしろ心強い、ダンテがミスったら頼むぜ?」

「任務拝領」

 

 ダンテに手伝って貰い、同じMWに乗せてもらう。途中、シノに弾薬をどう使えばいいかと問われたが、「兎に角襲ってくる連中にぶつければいい」と説明してハッチを閉める。

 コンパクトになった車椅子は手提げカバンとほぼ同じサイズのものとなった。小さくなった車椅子を抱え込み、ハッチを閉めたMWの天井に背中をぴったり付けて動けない両膝を畳んで肉体の体積を最小限に縮める。

 

「それじゃあ行くぜ、師匠!」

「頼むよダンテ、私をあの船まで連れて行っておくれ」

 

 

 

 

 

 タービンズが乗る強襲用戦艦ハンマーヘッドとイサリビの交錯時にMWで乗り込むというという荒技は、阿頼耶識の操作技術さえあれば最低限の抵抗で敵艦へ移ることが可能だ。知覚領域を広げることで艦と艦の相対距離と速度を()()で把握し、MWとの接続をより強くすることで己の手足のように動かし、MWによる移乗を実現できる。

 

「ダーンテ、ダーンテ」

「ちょっ、ま、待て、待ってくれ…!」

 

 車椅子に座るシンヤの頭がカッチカッチと、メトロノームのように右往左往する。暗に早くやれよと催促しているのだ、それに焦らないほどダンテのメンタルは鍛えられていない。

 ()()()()()、この場でそのメンタルを鍛え上げる。どれほど事態が切迫していようと身に付けた実力を十全に発揮する―――それが、どれほど難しいことかはシンヤ自身がよく知ってることである。言わば、師匠による愛の鞭。

 

「まだかよダンテ」

「もう2分経つぞー」

「まだ1分経ってねぇよシノ」

「え、マジか」

 

 銃と催涙ガス弾を手の中で遊ばせながら、工作部隊率いるオルガとダンテがボヤく。他の連中は周囲の警戒にあたり、ダンテは端末を操りハッキング、シンヤはニヤニヤ笑いながらそれを眺める。

 出来は、予想以上だった。

 

(以前より早い――お、もう六つも)

 

 艦内の端末は複数ある。それらから一つを接続して情報を引き出し、妨害工作を行うことは間違ってはいないが、同時にそれらがバレてはいけない。その為、手順としては最初にいくつ艦内に端末があるかを把握することで自らのアカウントを複数偽装して作り、相手が対応に追われるよりも早く情報を盗み、ハッキングを行わねばならない。

 

 問題だったのは、艦内セキュリティが予想よりも硬いことだった。まるで()()()()()()()()()()()、大凡の組織が抱える技術者にしては不自然なくらいにセキュリティが張り巡らされていた。それがわかっていながら、()()()シンヤは指示を出さずに見守る。端から見れば、二、三ショートカットできる点はあったが処理速度は及第点、ダンテは阿頼耶識を利用しているが、例えシンヤが阿頼耶識によるバックアップが無かったとしても今苦戦しているセキュリティは突破している。

 

「出来たぜ団長!」

「流石だダンテ! シンヤの一番弟子ともなれば頼もしいぜ!」

 

 だが、それを見過ごしてなくても、及第点。ダンテの技術はシンヤの予想以上に精錬されている。

 端末を手渡すダンテは手馴れたものとばかりに快活に笑っている。受け取ったオルガは急ぎ艦橋への最短距離を見つけ出し、シノ達工作部隊を率いて急ぎ通路を駆けた。

 

 

 

 数刻経過して、未だダンテが端末を操作し隔壁操作と監視カメラの機能停止を断続的に行使している。シンヤは組み立てた車椅子に腰掛け、殺傷性の低いゴム弾を装填したマシンガンを構え、通路を監視していた。万が一、ハッキングの端末が判明された際に急行され排除されることを危惧し、護衛としてシンヤが着任しているのだ。

 

「ヘヘッ、驚いただろ!」

「…ああ、驚いた。もう私は必要ないかもしれないな」

「オイオイそんなこと言うなよ、まだ師匠には教えて貰いたいことがたくさんあるんだからな!」

「…そうだな」

 

 マシンガンの調整をしつつ、通路を見張りながら、

 

「…ダンテ、これが終わったら私の技術の全てを君に継承しよう」

「…師匠、何言ってんだよ。ちょっと死亡フラグっぽいぞ」

「おっと、勘違いして貰っては困る。いつか私かダンテ、君が居なくなった時に鉄華団のプログラミング面をサポートできるのは片方になる。なれば、双方が完全に完成していなければ補填はままならない。私の全ての技術を教えるというのは、今まで教えた全ての数十倍の時間を要してもその全てを憶え切れるかどうかというのが私の判断だ。その意味は…わからないわけではないだろう?」

「ギェッ!?」

 

 潰された蛙のような、鈍い声がダンテの喉の奥から漏れた。

 

「――と、まぁ散々脅してはいるが、あくまでもメカニックの分野に限り、だ。医療関連はチャドとアトラを筆頭に少しずつ教えている。でも覚悟しておくといい。イサリビに戻ったら短時間で、今までの指導が生温いと思えるほどその脳に叩き込んで―――」

 

 と、そこで。

 離さず、逃さず、監視し続けていた通路の奥で人影を捉えた。マシンガンを構え直し、スコープで対象を確認する。

 

 その姿は、異様なものだった。

 

 そう判断したのは、今までダンテがハッキングしていた艦内の監視カメラ越しにここハンマーヘッドの艦内にいる乗組員の姿を確認していたからだ。見た所、殆どというより全てが女性の乗組員。

 だがそのいずれにも、スコープ越しに見えるフルフェイスメットを被った者は存在しなかった。

 

「」

 

 その姿に、既視感を憶えた。

 ライダースーツから浮き出る体のラインは女性。だが少なくとも火星では―――いや、生まれて物心がついてから一度として見た憶えはない。

 そう。

 

 

 生まれてから、ずっと見ている己の姿を除いて、見た憶えはない。

 

 

「―――」

 

 もう一度、今度はスコープから外して肉眼でその姿を捉える。外したことは正しかった、間髪入れずスコープは銃撃により木っ端微塵に粉砕されていたからだ。

 黒光りするフルフェイスメットは、顔を隠す以外に顔面への銃弾を防ぐものであることは明らかである。加えて、地球で時たま見かける競技用のライダーが着用するような黒褐色のライダースーツにも防弾加工がしてあることは目に見えていた。例え、対暴漢用鎮圧ゴム弾を装填したマシンガンを掃射しようとも、殺傷性のある実弾を撃ち込もうとも、傷一つ付けることなく殺されるという確証があった。

 

「…師匠!? どうし」「逃げろ」

「え、」「逃げろ!」

 

 二度目は、シンヤ自身らしくもなく張り上げた声であった。それは事態の悪化を証明することにも繋がった。マシンガンのトリガーを引き絞り一発一発余すことなく迫り来るライダースーツの乗組員へ撃ち込み、同時に端末を操作していたダンテの背を押し奥へ逃す。

 

 だが襲撃者は待たない。

 

「―――」

 

 ずんずんずんと、霰のように水平に襲い掛かる弾幕の中心を突き進み、まるで意に介さないというように前進してくる。一秒二秒と経過するほどその速度は速くなる。ダンテを逃すより先に、接敵することは明白だった。明らかに接近するスピードが早い。弾薬が尽きるより先に、スコープを正確に撃ち抜いたハンドガンの銃口がスローモーションで己の左胸に向けられるのが見えた。

 そして、

 

「、」

「がッ」

 

 ガン、ガン、ガン(三点バースト)

 

 音が。響くのは。完全な無酸素空間ではないからだ。

 だから、音と共に左胸が灼熱の痛みと銃弾の衝撃に襲われるのは、撃たれたからだと理解した。

 

 

 勿論、無力化を狙った殺傷性の低いゴム弾ではなく。

 

 

 確実に相手を殺すことを目的とした、実弾である。

 

 

「師匠ォ!? クソ、もう見つかりやがったか!」

「―――」

 

 彼我の距離は凡そ10m。

 

 ダンテは即座の判断でガス弾をライダースーツの女の足元に叩きつけて無理矢理開封し、通路を白煙で満たす。相手がフルフェイスメットを装着している以上、催涙効果は皆無と言っていい。だが赤外線スコープを除き、フルフェイスメットに外気との遮断効果のみを有するだけであれば、煙幕によるこの場からの離脱は不可能ではない。無論、怪我人であるシンヤを引き連れ、敵が勝手知ったる艦内を逃げ回るというリスキーな賭けではあるが。

 

「師匠! 無事か!?」

「……ァ…」

「ちょっと我慢してくれよォ!」

 

 左胸に真っ赤な花を咲かせてぐったりするシンヤを車椅子に無理矢理乗せて通路をひた走る。時折進む通路の横に通じる通路へガスボールを叩きつけながら、敵乗組員から現在地の補足を防ぐ。特に、フルフェイスメットの女(?)を一番に警戒して。

 端末で逐一確認していた地図を脳内に描き現在地を把握する。丁度、監視カメラで捉えた乗組員が居ないデッドスペースを見つけて漸く足を止め、シンヤの具合を確認する。

 

「師匠!?」

「…カ…ァ…」

 

 幸い出血は少ない。だがそんなことは安心するファクタァには成り得なかった。

 撃たれた部位は左胸。つまり、心臓を撃ち抜かれた可能性が高い。

 

「…おい、こういう時どうすりゃいいんだよ!? まだ教えてもらってねぇぞ!」

「…ィ…ァ…」

「え、何言ってんだよ聞こえ――」

 

 ペシン、と。

 血を流して肌の色が土色に変わりかけたシンヤの平手打ちがダンテの胸元に炸裂する。それは肌に止まった虫を叩く程度の弱いものであったが、シンヤが生きている証拠でもあった。

 同時に、ダンテが一瞬で冷静さを取り戻す。

 

「…車椅子の、下の、板を、」

「車椅子の下だな!? これは…か、鏡?」

 

 シンヤを下ろして車椅子の座席の下を引っ張ると、スライドして別の板が現れた。それは涙で濡れる己の顔を写し出す鏡であった。

 それを見たシンヤはまだ動ける指先で己の目の前に翳すように指示した。それに従いダンテはシンヤを鏡に写す。鏡に反射したシンヤの前身はシンヤの視覚に捕捉され、同時に撃たれた箇所を把握する。

 

「…服、邪魔…」

 

 シンヤの指示に従いノーマルスーツの前部分をダンテが引き裂く。より克明に被弾箇所が晒され、加えて血が球体の塊となって室内に溢れ出る。

 

 さらにもう一つ。

 

 着膨れしたノーマルスーツの内側に隠し持っていたであろう医療器具がばら撒かれた。

 

「…スゥ(術式)――フ――(開始)…」

 

 一度深呼吸し、同時にシンヤの両手が動く。

 大量出血して尚強さを見せる握力で宙に浮かぶ医療器具を確保し、再び鏡に映された被弾箇所を視認する。

 

 

 ――此れより、銃弾摘出術と腹膜及び血管縫合術を開始します――

 

 

 意識が遠くなる中で、針の穴が空くほど、鏡に映る血濡れの己を見つめながら。

 

 その両腕は、本人の怪我を無視するように、のたうつ大蛇の如く躍動した。

 

 

 

 

 

 




「成る程、あの下郎が後継者か。何処の馬の骨ともわからん愚図かと思えば、自己手術を成す程度には腕があるか
 だが医術だけの専門家(スペシャリスト)では全能家(ジェネラリスト)には程遠い。他一つ足してもまだ足りん
 全てが出来なければ、全てを為さねば
 私を棄ててまで接いだ台木に、それが出来ない筈がない。そうだろう? ◼︎◼︎◼︎◼︎」
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