Fate/Zero──Act.All Fiction 作:むい
銃声。
車椅子に座った男が教会で神父を殺すという、罰当たりな行為を行った。
神父というのは言うまでもなく、言峰璃正。
彼は、車椅子の男──ケイネスの言により、預託令呪を寄与した。
要約すれば「海魔討伐の功績の一端を担ったランサーに令呪を与えないのは不当だ」とケイネスは言ったのだ。
彼は「吐いた唾は飲み込めぬ」とその要求を呑む。
球磨川禊が知れば『言峰璃正らしい』と返すだろうこの行為は、正確には筋が通っていない。
事実。キャスターを討伐したのはセイバーだ。
足止めをしたのはライダーとアサシンで、剣を抜かぬまでも重傷を与えたのはアーチャーだった。
ランサーが行ったのは、海魔の被害で他のマスターが倒れぬよう護衛しただけに留まる。
敷いて言えば、微妙なラインとしてバーサーカーの妨害を阻止した事だろうか。
これでは、討伐されたキャスターと私怨で動いているようにしか見えないバーサーカー以外の全陣営に令呪を寄与しなければならない。
しかし言峰璃正は現在、聖杯戦争の監督役としての責務より教会の一員としての責務──『神秘の秘匿』に集中しすぎていた。
『ケイネスの言を呑んだ』というよりは、『適当に聞き流して令呪を与えてしまった』と言ったほうが正しい程に。
そして。令呪の寄与が済んだ言峰瑠正はケイネスに背を向け、戦地に戻るよう促したところを──……
『…………はぁ。やることが小物臭くなったね、ケイネスさん』
教会から出たところに、彼が立っていた。
『おっと! 誤解しないでおくれ。僕は貴方と戦うつもりも、貴方を助けるつもりもない。ただ、このダラダラと連載が続く事態をショートカットしたくてね──これを渡しに来たんだ』
そう言って、紙飛行機を飛ばす。
そしてそれは、ケイネスに届く前に墜落した。
……細かな演出さえ上手くいかない男だ。
ケイネスは僅かな苛立ちと共に紙飛行機を拾い、解体──そのまま広げる。
そこに書かれているのは、廃墟へ続く地図だった。
『そこに、貴方の婚約者が囚われている──貴方が大敗した、衛宮さんにね』
「……衛宮、切嗣──魔術師殺し!」
『そう。どうやら、キャスターの次はランサーを狙うつもりらしい。そして、貴方はこう持ち掛けられるだろう──
「貴方と婚約者の命を保証する。その代わり、令呪でランサーを自害させろ」とかね。
……でも。対魔術師専門の傭兵として参加している彼が、そんな契約を守るのかな?』
「魔術師の間に於いて、その魂を永久に拘束する契約がある。例え衛宮切嗣でも、契約さえ交わせば手出しは出来ないだろう」
『……んー。じゃあ、衛宮さんじゃなくても良いや。例えば、セイバーさん。他にも、代理マスターの女の人とか……あ。クールビューティな助手さんも居たなー。
……他にもたくさん、貴方を狙う人は居るんだよ』
僕も含めて、ね──
そう言う彼は、にこやかに微笑んでいる。
ケイネスの苦悩が、彼の婚約者の危機を嘲笑うかのように。
思考を放棄する程に追い詰められたケイネスが『そう』呟くのは、彼でなくとも予想できただろう。
そして、その『弱さ』を彼に晒せば──すべてが台無しになる。
「私は……どうしたら良い……?」
『貴方の選択肢は、簡単な三択だよ。
一つ。──衛宮さんの交渉に、素直に乗る。
勿論、聖杯戦争から脱落した後の「令呪の再配布」とかを防ぐ為に命を狙われるだろうね……
二つ。──婚約者さんを助け出して、衛宮さんを倒す。
事態は円満に解決し、貴方の「みっともない敗北」も「名誉の負傷」に早変わりだ。みんなの憧れの的になれる。
三つ。──婚約者も、今までの経歴もすべて捨てて、逃げる。
これは、まあ……仕方ないよね。自分の惚れた女の子も守れないような奴はそこらへんで人知れず死ねば?』
──でも。
と、彼はその先を紡ぐ。
なす術も無い彼に残された三択ではなく、弱く情けない彼だからこそ提示する──第四の選択肢。
『僕が、残された僅かな魔力で貴方の傷を「なかったこと」にしよう。貴方は万全の状態で、衛宮切嗣と再戦するんだ』
「……再戦」
『そう。貴方はどの選択をしようと、ここで死ぬだろう。だからこそ、それを、僕が──バックアップする』
「……お前の目的は何だ」
球磨川禊は、その言葉に表情を消して言った。
『────衛宮さんと綺礼ちゃんを止めること』
彼は滔々と語り出す。
『聖杯は、既に己の持ち主を──担い手を衛宮切嗣に決めている。「あれ」を見れば、一目瞭然だ。そして──綺礼ちゃんは「あれ」の誕生を望んでしまう』
だから──と、彼は宣言した。
『僕は──聖杯戦争を潰す』
「わっはっは。随分な宣言じゃないか。
球磨川くん。
きみはいつから、そんな自信家になったんだい?
僕は『聖杯をぶっ壊してくれて構わない』とは言ったけれど。
『聖杯戦争をぶっ壊してくれて構わない』とは言ってないんだぜ?
うん? いや。ダメじゃないさ。
むしろ、その後の彼らがどう歴史を動かすのか楽しみなくらいだ。
さて、球磨川くん。
気づいているとは思うがきみは今、マスターの魔力供給を受けていない。
箱庭学園や卒業後の好き勝手さが効いたんだろうね──『単独行動』スキルを持つに至ったわけだ。
だが、それも此処までだ。
きみはあと2日もせずに現界できなくなるだろう。
スキルではなく宝具となった『大嘘憑き』も、魔力なしでは発動できない。
故に、僕からの温情だ。
我が儘に付き合ってくれているお返しと言っても良いかな。
平等にね。
────すべてのイベントがあと2日で終わるように、時間軸を縮めた。
そして、運がよければ──運が悪ければ、かな?
……まあ、これは言わないほうが良いか。
そんなわけで、球磨川くん。
宝具の使用に関しても心配しなくて良い。
『宝具』を『スキル』に作り変えた。
否。引き戻した、と言ったほうが正しいかな?
……きみはもう、宝具を持たないサーヴァントとなったわけだ。
今までのきみと、あの頃のきみと限りなく同じ。
さあ、球磨川くん。
底辺の頂点、球磨川禊くん。
……僕を失望させるものじゃないよ」
ケイネスの傷を『大嘘憑き』で戻した瞬間。
一瞬にも満たぬ間、霊体さえも保っていられなくなった。
彼は知る由もないが、衛宮切嗣の『起源弾』は『不可逆の変質』という結果を残す魔弾。
かつて相対した不可逆の破壊者に通じるところがあったのだろう。
許容量を超えた宝具──否。スキルの発動は、球磨川禊を殺傷せしめた。
故に、彼女と邂逅したのだ。
『……まったく。相変わらず、酷いインフレだぜ──安心院
皮肉を込めて、そう呼ぶ。
この時代、未だ副会長となっていない彼女を。
この時代、未だ生まれてさえいない筈の自分が。
その捩れに、思わず笑う。
『……さあ、ケイネスさん。婚約者さんを助けに行こう。大丈夫。貴方が死んでも、僕がぜーんぶ「なかったこと」にしてあげるから!』
そして。路上駐車していた車を拝借した。
運転に関しては、かつて安心院なじみが行ったそれを思い返して。
一騎と一人は、乗用車で廃墟を目指す。
乗用車での移動中、ケイネスはランサーを廃墟に向かわせた。
いわゆる、念話のようなものだ。
聖杯戦争の前半戦。諜報活動の折りに、球磨川禊と言峰綺礼も使っていた手段。
しかし、球磨川禊にはもう──マスターはいない。
彼女は「大方、仲の良いギルガメッシュ辺りと再契約しているのだろう」と言っていたが……
「……アサシン。何故貴様は私に助力する?」
ようやく口を開いたケイネスは、窓の外を眺めながらそんな事を言い始めた。
球磨川禊はそんな彼の『弱さ』を見て、薄く微笑む。
『決めてるんだ。争いが起こった時、僕は善悪を問わず、一番弱い者の味方をするって。あとは、まあ……貴方があまりにも愚かだから、かな。愚かで弱々しい。そんな人の味方をせずにはいられない──だから、信頼してくれて良い』
「…………」
時計塔の一級講師たる己が『愚かで弱々しい』と評価された事には憤りを感じるが、その戦歴を見れば当然なのかも知れない。
そして実際、ケイネスは球磨川禊を余程信頼したのか助手席に座っていた。
敵対者、球磨川禊の隣である。
後部座席には何もなく、トランクの中身は車が停まっていた場所に置いてきた。
『……着いたよ。じゃあ、手筈通りにね。
ランサーさんはセイバーさんとバトルしてるから、ケイネスさんは衛宮さんの不意を討つんだ。
僕は次のイベントをこなしに行かないといけないから、精々がんばってちょうだい。
間違ってもランサーさんを負かしちゃダメだぜ。
人間の死は「なかったこと」にできるけど、サーヴァントのはわからないからね。
それだけで作戦は失敗だ──令呪も、見極めて使ってほしい。
じゃあね──』
ケイネスを降車させ、次の目的地へと急ぐ。
『……やれやれ。間に合うのかな? これ──』
次回「最後の流血」
ご意見・ご感想、お待ちしてます。
■──ってゆーか、勉強しようぜ私!
試験まであと少ししかないんだからさあ!
それどころか、クラスによってはもう試験始まってるんだし!
………………勉強ェ……
■本日の投稿は以上です。
14話の原稿を仕上げて投稿予約を出してから寝ます。
故に、明日の投稿時刻はまた07:00です!
──ってゆーか、もう23:00すぎちゃった!?
うふふ。……もう深夜のテンションですねー。
ではみなさん、またあしたー!