Fate/Zero──Act.All Fiction   作:むい

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第14話 万一の保険

 雷が鳴る。雨は降っていなかった。

 

 球磨川禊は盗難車を駆り、遠坂邸を目指す。

 彼女が読み上げた『イベント一覧』によれば、今夜──遠坂時臣は殺害される。

 そして、言峰綺礼とギルガメッシュが再契約を結ぶ。

 球磨川禊が遠坂邸に向かうのは、万一の保険としてイベントを回収する為だった。

 

 荒々しく停車し、急いで邸内に侵入。

 勝手知ったる他人の家とばかりに、家捜しを始めた。

 

 捜しているのは勿論──

 

『あー。……遅かったみたいだね』

 

 部屋にあった応接用家具の近くで、彼はしんでいた。

 

 遠坂時臣。

 背後から、ナイフのような小さい刃物で一突きにされたらしい。

 その手の甲には、未だ令呪が刻まれていた。

 

 

 

『……令呪を使う暇もなかったんだね。そして、この傷口……やれやれ。綺礼ちゃんも酷いことするなあ。師匠を殺しちゃうなんて、どこの拳法家だよ。まあ、良いや』

 

 遠坂時臣だった死体に触れる。

 周囲に散っていた血痕が消え、死体の傷口が消え、彼の魔術師は息を吹き返した。

 

 起き上がったと同時に、遠坂時臣は目を見開く。

 彼を視界に入れて、余程驚いたのだろう。

 キャスター討伐から姿を消していた、彼を。

 

『────「大嘘憑き」。貴方の死を「なかったこと」にした。こんばんは、時臣さん。……徒弟に裏切られて死んだ気分はどう?』

 

「…………アサシン……なのか?」

 

『そうだよ。で? どんな感想を抱いたのか、教えてくれないかな?』

 

「……語りたくないな。まさか、綺礼に裏切られるとは……」

 

『あはは。まあ、サーヴァントとの契約も絶たれて、事実上の敗退だね。ご苦労様でした。あとは幸せな老後をおくりなよ』

 

「……お前はどうするつもりだ? アサシン。魔力供給もなく、そう何日も現界していられないだろう。今も宝具を使って、魔力も消費しただろう。……どうだ? 私と契約を──」

 

『お言葉だけど、時臣さん。僕は貴方と契約する為に。ましてや貴方の死を「なかったこと」にする為に此処に来たんじゃない』

 

 遠坂時臣が言い終わる前に、球磨川禊は言葉を否定する。

 理解できないと言いたげな表情を浮かべ、遠坂時臣は尋ねる。

 

「何故だ? 聖杯戦争を勝ち抜くのなら、魔力の供給源たるマスターが優れている事に不都合はないはず。綺礼よりも私のほうが、お前のステータスを、より高く引き出してやれる」

 

『聖杯戦争ね……僕はもう、そんなものに興味はなくてさ。面倒だから、この戦争モドキをぶっ壊してやろうと思ってるんだよ──そして、時臣さん。その代わり、貴方の死を「なかったこと」にした見返りが欲しいんだ』

 

「見返り……だと?」

 

『うん。……その令呪が欲しい。』

 

「!?」

 

『そんなに驚くなよ。どうせ貴方には、もう必要ないだろう?

 ……僕はイベントを二つこなさなきゃいけないんだ。時間がないんだよ。

 だから、貴方が令呪を渡してくれるほうが早く済む。さあ、どうする?』

 

「…………」

 

 遠坂時臣は思案する。

 

 最召喚の為の聖遺物を手配も、儀式場の設置も時間が掛かる。

 そして、球磨川禊の言を信じるのなら──聖杯戦争はあと24時間もせずに終わるだろう。

 終戦後、未使用の令呪は監督役に回収されるのが原則。

 

 そんな、自身に何の得もない令呪を持っている意味があるのだろうか?

 

 ならば。何の意図があるかは知らないが、欲しいという奴に渡してしまえば良いのでは?

 

 もっといえば、せっかく拾った命だ。

 くだらない揉め事で、殺されても洒落にならない。

 アサシン──マスターの暗殺者を得意とするサーヴァントに真っ向から挑むリスクを背負うほど、リターンは高くない。

 

 令呪の宿った手の甲を差し出し、同意する。

 

「……わかった。令呪を譲渡しよう」

 

 その一言と共に令呪が遠坂時臣の手から離れ、球磨川禊の手に渡る。

 これで、遠坂時臣は完全に脱落したわけだ。

 

 球磨川禊は、扉へ向かって歩き出す。

 まるで、用はなくなったと言わんばかりに。

 部屋から廊下に出たところでようやく立ち止まり、首だけ振り返る。

 

『ありがとう、時臣さん。お礼に、貴方の仇は討ってあげるよ』

 

「……いや、私は死んでいない」

 

──否。正確には「死んだままにはなっていない」だろうか?

 そんな些細な事を、このアサシンが気にするとも思えないが。

 

 球磨川禊は首を傾げ、先を続ける。

 さも目新しそうに。

 

『嗚呼──そうそう。忘れてた。

 間桐雁夜さん。彼が戦っていた理由、どうせ聞いてないんでしょう?

 教えてあげる。

 彼はね。貴方が養子に出した娘の境遇を見兼ねて、聖杯と引き換えに彼女を自由にする取引をしたんだってさ』

 

 ──感動的な話でしょう?

 

 その言葉を最後に、球磨川禊は去って行った。

 しかし、遠坂時臣の脳内ではその言葉が反響し続ける。

 

──馬鹿な。娘に幸あれと養子に出した間桐の家。

 そこで、彼らは何をした?

 あの御老体は、桜に……

 

 戦場から日常へと戻った魔術師は。

 過去の清算と、未来の準備を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 車に戻った球磨川禊は、目も虚ろにエンジンをかける。

 

『……あとは、今夜……綺礼ちゃんと衛宮さんを止めて……セイバーさんと、ギル……ガメ……シュ……』

 

 そのまま、まどろみの中に落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 セイバーとランサー。

 衛宮切嗣とケイネス。

 両陣営の戦闘は、朝陽が差して尚決する事がない。

 

 衛宮切嗣の切り札──『起源弾』。

 

 それが何故か、一発増えていたのだ。

 そして、ケイネスは『不可逆の変質』 の証──魔術回路と肉体が破壊された痕が消えているのだ。

 

 彼は一目見て、それが誰の仕業かを見抜いた。

 

──アサシン。奴だけは未だに行動が読めない。

 アサシンのマスターは言峰綺礼だった筈だ。

 しかし、アサシンは明らかに魔力の供給量が足りない──否。魔力を供給されていないのか。

 

 尋常外の宝具『大嘘憑き』。

 そんな派手さばかりに囚われて、彼自身の性質が霞んでしまう。

 

 そんな分析を、戦闘の合間にする。

 戦場でそんな思索を巡らせようものなら、数秒後には頭が吹っ飛んでいるだろう。

 衛宮切嗣の戦闘に支障がないのは、単にマスター同士のサポート合戦がパターン化しているからだ。

 

 ランサーは、『必滅の黄薔薇』で確実に体力を削り、『月霊髄液』の自律防御で回避率を上げる。

 セイバーは『風王鉄槌』で槍の軌道を制限し、攻勢に出れば同時に切嗣が援護射撃。

 『月霊髄液』は『起源弾』をちらつかせて防御そのものを牽制する。

 『風王鉄槌』は『破魔の赫薔薇』で裂いて無効に。

 

 そんな事を3桁前後、繰り返していた。

 ……キリがない。

 そしてケイネスの狙いは、間違いなく──アサシン到着までの時間稼ぎ。

 

 宝具の使用を妨害──否。

 解放したところで、その戦果を消滅させられるアサシンの宝具。

 圧倒的に不利なのは、城での戦いでわかっている。

 故に、到着する前に決着をつけたいのだが……

 

 そんな思いとは裏腹に、戦闘はいつまでも続く。

 

 ケイネスは対照的に、彼の到着が遅い事に苛立ちを覚えていた。

 既に婚約者──ソラウは救出でき、あとは戦闘を終結させらだけなのだから。

 

 短期戦ではランサーに決定打はないのだ。

 しかしセイバーは、あの海魔を屠った対城宝具という圧倒的な利点を持つ。

 

 彼女が剣を抜かないのは、単に立地と戸惑いからだろう。

 煮え湯を呑まされた『起源弾』にさえ注意すれば、時間稼ぎは楽なものだ。

 

 そんな驕りを胸に、ケイネスは言った。

 

「どうした? 魔術師殺し。セイバーの対城宝具を抜けば、この場は一撃でケリがつくだろう。わざわざ辺鄙な場所を選んだのだ。相応の準備あっての計画だろう?」

 

「…………」

 

 はあ──と。

 あからさまに嘆息し、衛宮切嗣は返す。

 

「では聞くが、あの威力の剣を抜いてしまえば──お前も取り返しがつかないのは分かるな?」

 

「…………」

 

 今度は、ケイネスが黙る番だった。




次回「呪いの言葉」
ご意見・ご感想、お待ちしてます。

■本日一発目!
 ──にして、現在時刻は夜半。
 これがみなさまのお目に触れる頃、私は食パンを囓っていることでしょう。
 林檎と蜂蜜。紅茶のジャムはアプリコット。
 それではみなさん、良い一日を!((手を振り
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