Fate/Zero──Act.All Fiction 作:むい
「──くん。球磨川くん。起きろって。……ああ、やっとお目覚めかい?」
聖杯戦争に召喚されてから、彼女の姿を見た事はなかった。
あの頃は、死んでしまう度に『教室』で会っていたのに。
見た事がないというのは、声しかしなかったわけではない。
ただ、ぼやけて──すすけて。もやがかって、彼女の姿が鮮明に映ったことがなかった。
けれど。今だけは──教室で、彼女と対面している。
いつもように。あの頃のように。
「やっと、ちゃんと会えたね。でも……ふうん? 思ったより早かったし、やっぱりこれも『できない』にはならないというわけだ。……まあ。こんなことが『できない』なら、僕はあまりの落胆に身を投げていたかもしれない。勿論、入水や転落くらいじゃ死なないけれど」
『……きみは相変わらずだね。安心院さん』
「わっはっは。まあ、僕はそうそう変わったりしないからね。いつの時代も平等さ。少し前は『平等主義者』と名乗っていたくらいだ。……で、球磨川くん。寝てる場合じゃないだろう?」
『さあ? どうだろうね。今の僕には、きみとのおしゃべり以上に重要なことなんてないんだけれど。きみがそう言うなら、そうなんじゃない?』
「……相変わらずなのはきみのほうだ。まあ良いや。それで? 約束があっただろう?
『約束? さあ? 何のことだかわからないな。小物臭い魔術師の先生と待ち合わせがあった程度の、どうでもいい事くらいしか思い当たらないよ』
「約束をすっぽかすものじゃないぜ? 球磨川くん。彼の味方になると言ったのは、きみだろう」
『あんなの、嘘に決まってるじゃないか。なにを本気にしてるのさ。うっわー。ないわー』
すっ と。
ふざけたハンドゼスチャと微笑を止め、寂し気に呟いた。
『…………彼はね。昔の高貴ちゃんに似てたんだ。僕の言った通りに、何もかもを壊して壊して壊していた頃のね。今だって「僕が戻るまで時間を稼げ」って言ったのを本気にしているんだろう。でもね──彼のあれは、高貴ちゃんのものとは真逆なんだよ』
言われるがままに行動してるんじゃない。
自分の意志で行動している。
『──そんなエリートを、僕がしっちゃかめっちゃかの台無しにするのは他愛ないことだ。赤子の手を捻るより容易い。実際、箱庭学園に転校するまでの僕はそれだけを生き甲斐にしていたしね……でも、僕は……』
彼は。当初求めた「戦歴」という箔より、囚われた婚約者を助けたいと願った。
彼は。人類の引き起こす「流血」を止めたくて、正義の味方になりたがった。
彼らの「弱さ」を、螺子伏せる事なんて──「今の僕」には出来ない。
だから。
「……お別れだ。安心院さん」
真剣な表情で。
心からの本音で。
格好つけない言葉で──球磨川禊は告げる。
「僕は。僕自身の伝承ごと。あの楽しかった学園生活もろとも──すべてを『なかったこと』にする」
サーヴァントとは、偉業を為した英雄が『世界』に召し上げられたもの。
伝承を失うということは、サーヴァントとしての消滅を意味する。
少ない知識しか与えられらなかった彼だが、その程度はわかっていた。
「聖杯戦争を潰す──その為の覚悟を、僕は『負』うんだ。
今まで勝てたことのない僕だけど、参加者じゃなく、聖杯に勝つんだ。
だから──」
「わかった。」
最後まで言葉を聞くことなく、彼女は言う。
『悪平等』を冠する彼女は、事態を悲観視していないのか。
それとも、他意があるのか。
球磨川禊にはわからなかった。
「本っ当、仕方のない奴だな。きみは。
……良いよ。僕が許す。思う存分、暴れたまえ。
僕はいつまでも、きみを忘れないから」
頬を、なまぬるい何かが流れる。
彼はそのまま、背を向けて言う。
得体の知れないなにかに勝つために。
己の得た、大切なものをすべて捨てると決めた彼が。
「────さよなら。安心院さん。
貴女のことが、大好きだった。」
目を覚ました彼は、何もかもを壊していた。
──『大嘘憑き』オールフィクション
自身のすべてを、因果から消した。
故に今の彼は、サーヴァントでさえない。
中途半端な肉体を得た、浮遊霊のような存在だ。
遠坂時臣から譲られた令呪がなければ、とっくに肉体は崩壊していただろう。
『──行こうか。この戦争も、今日で最後だ』
彼はハンドルを握る。
行き先は──彼の廃墟に他ならない。
目的地まであと1km──というところで、ガソリンがなくなった。
元から量が少なかった上に思ったより長く気絶していたのが原因だろう。
そこからは徒歩だった。
そして、今の彼には霊体化ができない。
ただでさえ何かの間違いで保っているような肉体を霊体に変えれば、戻れる保証もない。
故に、到着した頃には息も絶え絶えだった。
そして、その存在に逸早く気づいたのは──
「──アサシンか」
衛宮切嗣。
彼は球磨川禊の姿を確認すると同時にトプソン・コンテンダーを抜き──射つ。
放たれるのは、不可逆の変質をもたらす魔弾──『起源弾』。
しかし、球磨川禊は感知しない。
ただ、不敵に口元を歪めるだけ。
そして、魔弾は彼を貫く。
──ような事はなく。
彼の目前の地面から
『その即断即決。弾丸の軌道がわかる射撃。回避なんてする必要もないほど隙だらけだ』
あと──と。
彼が動いたような気がして。
『全員──動くな。』
その場にいた全員──セイバーからランサーから。
衛宮切嗣、ケイネス・エルメロイ。
果てはソラウ、久宇舞弥まで。
セイバーの『対魔力』スキルも。
ランサーの『破魔の紅薔薇』も。
衛宮切嗣の『起源弾』も。
ケイネスの『月霊髄液』も無意味に──
ひとり残らず、螺子伏せた。
そして。この蛮行に最も驚愕したのは、やはり彼だろう。
球磨川禊を睨みつけ、
「アサシン……貴様、何故……! 何故裏切った!」
彼──ケイネスは、貫かれた腹部よりも。
その信頼を裏切られた事に激怒していた。
聖杯戦争において、敵対するマスターとサーヴァントにあるまじき事だと自覚しながら。
信頼してくれて良いとのたまった、彼を睨む。
『おいおい、人聞きの悪いことを言うなよ。
僕はただ、「愚かで弱々しい貴方を味方せずにはいられない」と言っただけだぜ。
衛宮さんと対等になった時点で、貴方の味方でいる条件は消えていたとは考えなかったのかな?
はやとちりした、貴方が悪い──だから』
僕は悪くない。
球磨川禊は悪びれもせず、そう言い切った。
そして、両手に螺子を構える。
その螺子は音を立て、その長さを増していく──
『却本作り』。
強さを弱さに変える過負荷。
その螺子に貫かれた者は、
そんな、呪いとも言うべき螺子を構える。
『僕は交渉に来たんだよ。
こうでもしないと、話を聞いてくれないでしょう?
まったく、血の気の多い人たちで困るよ。
あと、これは警告なんだけど……
無抵抗な相手を串刺しにするのは「弱いものいじめ」みたいで、とても嫌だ。
──だから。
君たちがその拘束を破った時、僕はこれを突き刺す。
脱出なんて考えないでほしい。
安心して。その螺子は、後で抜いてあげるから!』
その言葉を、誰もが疑わない。
──否。疑えない。
今この時。生殺与奪の権はすべて、球磨川禊が握っているのだ。
唯一の例外があるとすれば──
『ん。……ありがとう。そのまま聞いてね? じゃあ、まず初めに──』
がつん。
彼が話し始めた途端、彼の側頭部を『なにか』が貫いた。
果たして、それは。
魔力を込めた針金で形成された、鷹。
『ま、さか……伏兵が居たとは……』
アイリスフィール。
この場に居ながら、視認できなかった彼女。
その攻撃を受けたのだ。
車で待たされていた彼女は、三人が心配で出て来たのだろう。
そして、この光景に出くわす。
そこから先は単純だ。
夫を、三人を助ける。
彼女は特技の錬金術を使い、鷹の形をした使い魔を使役。
球磨川禊を討った。
『まったく。愛情パワーは偉大だね──友情・努力・勝利に追加しても良いくらいだぜ。これじゃ、僕が悪役みたいだ。……あーあ』
──また勝てなかった。
そう呟き、重力に身を任せて──倒れた。
次回「第三の脱落組」
ご意見・ご感想、お待ちしてます。
■えーっと。
……こんな時間になってしまってすみません!((土下寝
土下寝って、ただのうつ伏せと変わりませんよね──じゃなかった。
言い訳としては、友達と長々話してました。
最近の無料通話とSNSは便利です。
話のプロット練ったり、イロイロ指摘して貰ったり、課題の範囲聞いたり、試験のヤマを張ってもらったり──ごほんごほん。
■そんなわけで、今回は覚悟の話でした。
『大嘘憑き』で存在を消された安心院さん。
彼女が発想の元です。
記憶は残ってる。ただ、やってきたことが。
これからの自分が遂げた現実が。
『なかったこと』になっただけ──
……普通、そんな風には考えられませんよね?
だって二度手間じゃないですか!
だって二度手間じゃないですか!!
私、再試験とかゼッタイ嫌ですし!!!
──じゃなかった。
■そんなわけで「今日中にもう一話!」とかは出来そうないです……
すみません。
明日の朝には投稿しますので!
あと2日! 走り切りますので、お付き合いください!!
それでは、『また、明日とか!』
■ぐおおおお!
予約の日付をミスっていただとおおおおおっ!?
……すみません。即座に投稿します。
投稿時間が変なのはそのせいです。
気にしないでください。