Fate/Zero──Act.All Fiction 作:むい
しかし。
今回だけは、少し違った。
具体的には、一撃の下に葬られるような事はなく。
故に『彼女』と会うことはない。
彼は撃ち抜かれた頭部を押さえながら立ち上がる。
傷口から滴る脳漿は地を染めていき、押さえる事など無意味だと常識は語る。
『いっ──たあーい。側頭部を撃つなんて、どこの狙撃手さんかな? 鰐塚ちゃんを思い出すけれど……急所を狙うあたりは流石だね』
すっ と。
側頭部から手を離した彼には既に傷はなかった。
傷だけではない。
散らばった瓦礫に滴った血痕と脳漿。
倒れた拍子に付着した砂埃と、僅かなほつれ。
それらがすべて──消えていた。
「……え。なに、この……サーヴァント……」
アイリスフィールが動揺するのも無理はない。
そもそも、あの一撃はサーヴァントにとって何でもない筈なのだ。
傷を負ったとしても、ある程度の軽傷が精々。
それをわかっていながら魔術を使ったのは、ただ三人を助けたいという気持ちが優ったからに他ならない。
なのに。
彼は、人間なら即死──それも、ショック死確実のダメージを受けている。
たとえサーヴァントでも痛覚を失っているわけではない。
そもそも、そんな重症を負えば『打倒』されたと言って間違いない。
だが、その『確信』を裏切って。
彼はその傷を瞬く間に治してみせたのだ。
衛宮切嗣が彼女に説明したのは、大きく三点。
決して、初撃を避けないという事。
『打倒』しても蘇る、例外的なサーヴァントだという事。
あらゆる攻撃への耐久が異常に低い彼だが、その性質上『死後』に最も注意する事。
戦火を駆け、数々の人間を見てきた衛宮切嗣は彼の特異性をそれなりに看破していた。
ただし、セイバーは既に『初撃』で球磨川禊を打倒している。
故に『初撃』による『一撃必殺』を狙えるのは、マスターの衛宮切嗣か戦闘を行っていないアイリスフィールだけだった。
この説明は概ね正しい。
ただし、欠点があった。
彼は『大嘘憑き』という宝具に気を取られ、『球磨川禊』という人物に関する説明を全くと言って良いほどしなかったのだから──
『じゃあ、今度はこっちから行くぜ。』
そう言って、両手に螺子を構える。
今も尚、六人を貫き続けているものと同じ規格の螺子を。
彼女も使い魔を鷹から流動する針金へと戻し、次の動物を模倣する──その姿は。
『でも。その形成という工程の間、貴女は圧倒的に無防備だ──付け込ませて貰』
「やめろ、下郎」
その声は、縫い付けられていた筈の一人──セイバーだった。
『……へえ。二対一とは卑怯だけれど、その程度の不利は慣れている。でも……セイバーさん。約束を破ったってことは、串刺しになりたいのかな?』
「貴様の行為が不当だからだ。サーヴァントはサーヴァントでなければ打倒できまい──故に私が、アイリスフィールの代わりに貴様を斬る」
『うっわー。僕、すっごく悪役じゃないか。週刊少年ジャンプでだって、こんな不当な扱いをされるキャラは今時いないんじゃないかな?』
あからさまに肩を竦め、片手の螺子を投げ捨てる。
螺子が落下し、乾いた音を音を立てた。
同時に、二騎は互いへと肉迫する。
彼が螺子を突き出せば、彼女は剣で弾く。
彼女が剣で斬りかかれば、彼はそれをたどたどしいステップと共に避ける。
互角の戦闘に思えた。
だが、時間と共に彼は負傷していく。
頬を掠め、出血する。
避けきれず、肉が裂ける。
剣の腹に打たれ、吐血する。
そんなダメージを少しずつ、断続的に負っているのには理由があった。
セイバーの持つ剣は不可視であり、間合いがわからない。
『「不可視」……「透明化」ってことだよね?』
「……急に何を言っている?」
『いや。ただの確認だよ──僕は、貴女を今ここで倒すつもりなんてないんだ。だから、答えてくれないかな?』
意図が読めないため、剣は構えたまま。
しかし彼女は、それに返答する。
「……私の『風王結界』は、剣を隠すためのもの。それがどうかしたのか?」
『いや。なに、つまりそれは……「見えない」だけで「透ける」わけじゃないんだろう?』
『風王結界』の透明化は、あくまで視覚を対象としている。
ある程度の『幻覚耐性』や『心眼』スキルを持つ相手に効果など期待できるはずもないのだ。
しかし、彼女にとって透明化は重要なファクターではない。
『それだけわかれば、攻略できる』
しかし、球磨川禊は気づかない。
彼女の鞘が、その程度のものではないということを。
『風王結界』は対象を風で覆うという特性上、応用の幅が広い。
なにせ、対象は剣に限らないのだから。
オートバイに纏わせて速力を上昇させることも出来た。
やったことはないが、ビルを覆う風の防壁を築くことも可能だろう。
何を考えたのか、彼は彼女の懐へと向かう。
『剣なんて近距離でしか使えないだろ? 超至近距離──零距離戦なら、どうなるのかな?』
球磨川禊は、空いていた手に構える長く伸びた螺子を突き出し──
遠くない場所から、肉を抉る音が響いた。
その瞬間、彼に隙が出来る。
剣の鞘──風を解放した。
「────『風王鉄槌』!!」
彼は暴風の直撃を受け、廃墟の外壁へと打ち付けられる。
そして直後、その光景を目にした。
紅の長槍が、胸を貫く。
風穴から血液が滴り、紅の槍を血錆色に染める。
長槍を逆手に突き刺す彼は──彼の槍兵だった。
球磨川禊とアーサー王が激闘を演じている最中。
アイリスフィールは己の夫、衛宮切嗣とその助手、久宇舞弥に突き刺さる螺子を引き抜いていた。
ケイネスも同じく、『月霊髄液』を用いて自身と婚約者のソラウ、サーヴァントのランサーを縛る楔を抜く。
貫かれた筈の傷口は、螺子の撤去と共にふさがっていた。
これもまた、『大嘘憑き』の効力なのだろう。
と、不意に後頭部に鉄の塊が押し付けられた。
衛宮切嗣。
彼は行動が可能になると同時に拳銃を抜き、彼の魔術師に突きつけたのだ。
「……交渉をしないか?」
彼は抑揚なく、その言葉を口にした。
数時間前、球磨川禊が提示した可能性。
今自分は、改めて選択を求められている。
「『契約』だ。お前と彼女の魂を、衛宮切嗣は未来永劫傷つけないと誓おう。代わりにお前は令呪を使い、今この場でランサーを──自害させろ」
ケイネスは必死に思考を巡らせる。
手駒は『月霊髄液』とランサーのみ。
令呪は一画。
ソラウは片腕を切り落とされ、ケイネスの施した治療魔術で一命をとりとめている状態。
後頭部に死を感じながら、ぐるぐると思索にふける。
「まだ不相応だと言うなら、これを返しても良い」
細長い『何か』が、背後から投げられた。
『それ』が何かを理解すると同時に、彼女の上へと着地する。
それは、切り落とされた彼女の腕だった。
宿っていた筈の令呪は使用後のような痕跡だけを残し、消えている。
それと同時に、背後から腕が伸びた。
腕はケイネスに手の甲を見せる形で停止し、彼は──
「あ、あぁぁ……あああぁぁぁ……っ!」
ケイネスは座り込む。
その事実を、ゆっくりと呑み込む。
──奪われた令呪は、衛宮切嗣が宿していた。
ある意味では至極当然な帰結だ。
しかし。この闘争に勝つためだけに参加者の腕を切り落とし、令呪を奪うなど……悪魔の所業だ。
「悪魔。そんな業なら、とうの昔に背負っている」
衛宮切嗣はにべもなく切り返し、契約書を差し出す。
彼の高名な魔術師は、もう何も考えない。
震える手で同意の著名。
直後、令呪が輝き──
「貴様らは……そんなにも……そんなにも勝ちたいか!? そうまでして聖杯が欲しいか!? この俺が、たったひとつ懐いた祈りさえ踏みにじって! 貴様らは何一つ恥じることもないのか!」
『忠義を捧げる』という、騎士として誠実な願いを抱いた槍兵は。
血の涙を流して慟哭する。
「赦さん……断じて貴様らを赦さん! 名利に憑かれ、騎士の誇りを貶めた亡者ども……その夢を我が血で穢すがいい! 聖杯に呪いあれ! その願いに災いあれ! いつか地獄の釜に落ちながら、このディルムッドの怒りを思い出せ!」
忠義を受け入れなかった、不当な主君を。
聖戦を侮辱した、誇りなき傭兵を。
己の願望さえ叶わない、悲嘆に溢れた世界を。
三千世界に轟かんと──己の運命を嘆いた。
だが。
この穢れた聖戦に、一人だけ例外がいた。
「──英霊アルトリア。誉れ高き騎士王よ。……貴殿との決着は、つけられそうにない」
──すまない。
彼は血の涙を拭い、瞳には敬愛を浮かべ。
その言葉を最後に、光の粒となって消えていった。
次回「悪を担う者」
ご意見・ご感想、お待ちしてます。
■昨日と今日と、連続して全然マッタク更新できていないわけですけれど。
聞くも涙、語るも涙な事情が──ありません。
理由は非常にシンプルです。
■非常に残念な事ですが。
本日地球は終わ──じゃなかった。
この先の話で。ある意味、致命的な欠陥が発見されまして……
急いでプロットを組み直してルートを展開していますので、もうしばらくお待ちください!
当初の予定に『06月15日前後には完結させる』とか言いましたが、遂げられそうにありません。
というか、今日がその『06月15日』です。
……ホントにごめんなさい!!
■こんな、次回予告や完結予定にことごとく嘘を並べてしまう私ですが!
どうかあと数日、お付き合いいただければ!
もれなく球磨川くんのサイン色紙をプレゼント──なんてことはありませんが、とにかく幸いです。((きりっ
■これまでのまとめ。
後半戦も佳境、残るイベントも本人曰く『あと2つ』。
彼はひとつの『目的』のために『いままで』を捨てて、戦場に立つ。
次回『グッドルーザー球磨川 第マイナス17話 天地乖離す開闢の星』。
お楽しみにー!
※この予告は