Fate/Zero──Act.All Fiction 作:むい
『……「これは驚いた。こんなこともあるものかな?」とか言ったら、少しはラスボスっぽくなると思う?』
外壁に打ち付けられた後。
球磨川禊は立ち上がることもなく、出来事を静観していた。
ランサーの退場には、思うところなどないらしい。
既に、両手には新たな螺子を構えていた。
そして、戦闘によって各所が欠けた螺子を──投擲した。
螺子は彼を──衛宮切嗣を貫き、そのすべてを終わらせる。
『却本作り』。
球磨川禊は、セイバーと討ち合うにあたって『大嘘憑き』ではなくこちらを使用していた。
『そのほうが効率的だから』なんて、まともな理由などではない。
確かに、不可視の剣を避けるには長く伸びた螺子──『却本作り』のほうが効率的だろう。
彼女を貫くことが出来たなら、それも戦略として十分に成り立つ。
しかし彼は、『そこ』に関心を持ったことなどない。
『却本作り』を使い、同等になったセイバーとバーサーカーに『決意』の会話をさせる。
『狂化』を排除し、彼の騎士王にも『本音』を晒して──腹を割って話して貰う。
馬鹿げた作戦だが、彼はそれ以外にバーサーカーの願いを叶える方法を思いつかなかった。
しかし、この作戦は『決意』する前の彼が考案したもの。
今の彼には関係がない。
『なんて酷い人なんだ! 僕はね。そうやって、人の思いを踏みにじる奴が大嫌いなんだよ』
白々しく言って、彼に近づく。
そして彼は、この瞬間に気づいた。
『却本作り』もまた、彼が願った『恒久的世界平和』を実現させ得る可能性を持つものだと。
────なんだ。こんなにも、選択肢はあるじゃないか。
聖杯に願うことが、最後の手段だと思っていた。
願望器に縋るしか、人間の流血は止められないのだと。
しかし、彼は衛宮切嗣の願望を叶え得る可能性を二つも所持している。
ならば、世界を隅まで探せば──他にもありそうなものだ。
すべてを知った彼は。
薄く笑って、魔弾を放つ。
彼の魔術師も、その婚約者も。
五分にも満たない期間に世界から消えた。
『……衛宮さん。僕は貴方を誤解してたみたいだ』
球磨川禊はそう呟き、軽くうつむく。
その姿は、まるで幼い子供が拗ねているかのようで。
彼の異質性を知ったあとでは、違和感が際限なく溢れ出る。
「……誤解? さあ。何の話かな」
『あはは。その言葉を聞く限り、多少の効果はあったみたいだけど──ふうん? 全盛期の「却本作り」でも、貴方の心は折れないのか……』
──彼女もそうだった。
服ろい、決別した彼女より。初恋の先生より。
大好きだった、彼女も自分ではその心を折れなかった。
不気味な薄笑いを浮かべ、彼は螺子を構える。
長く伸びた螺子ではなく──『大嘘憑き』の螺子を。
『仕方ないから、存在ごと封印してやるぜ。衛宮切嗣────!』
迫る楔に対し、衛宮切嗣は魔弾を向ける。
直後、発砲。
乾いた音が響き、彼は地に伏す。
『…………あーあ。うまくいくと、思ったんだけどなあ……週刊少年ジャンプの主人公みたいに、大切なもののために戦ったのになあ……世界はちっとも面白くない』
また勝てなかった──と。
例の如く呟き、彼は『打倒』された。
球磨川禊が消えた後。
セイバーは衛宮切嗣に食って掛かる。
何故。非道な手段を使ってランサーと、そのマスター、果てはその婚約者までを殺害した?
しかし。彼女には珍しく、激昂の情で語気を強めたりはしなかった。
その代わり、彼の最も
「──衛宮切嗣。かつて貴方が何に裏切られ、何に絶望したのかは知らない。
だがその怒りは、その嘆きは、まぎれもなく正義を求めた者だけが懐くものだ。
切嗣、若き日の本当の貴方は、『正義の味方』になりたかったはずだ。
世界を救う英雄を、誰よりも信じて、求め欲していたはずだ。──違うか?」
「人類はどれだけ死体の山を積み上げようと、その真実に気付かない。
いつの時代も、勇猛果敢な英雄サマが華やかな武勇譚で人々の目を眩ませてきたからだ。
血を流すことの邪悪さを認めようともしない馬鹿どもが余計な意地を張るせいで、人間の本質は、石器時代から一歩も前に進んじゃいない!」
セイバーの言葉が、彼の『なにか』に触れたのだろう。
衛宮切嗣は激情を抑え込みながら独白する。
「今の世界、今の人間の在りようでは。
どう巡ったところで戦いは避けられない。
最後には必要悪としての殺し合いが要求される。
だったら、最大の効率と最小の浪費で最短のうちに処理をつけるのが最善の方法だ。
それを卑劣と蔑むなら、悪辣と詰るなら。
ああ、大いに結構だとも。
正義で世界は救えない。
そんなものに僕はまったく興味ない」
そして、彼は宣言する。
戦場は地獄だと。英雄は悪虐だと。
故に、そのすべてを終わらせると。
「終わらぬ連鎖を、終わらせる。
それを果たし得るのが聖杯だ。
世界の改変、人の魂の変革を。
奇跡を以って成し遂げる。
僕がこの冬木で流す血を、人類最後の流血にしてみせる。
そのために、たとえ『この世全ての悪』を担うことになろうとも──構わないさ。
それで世界が救えるなら、僕は喜んで引き受ける」
ただし、この瞬間の彼は知る由もない。
求める聖杯は、万能の願望器は。
既に、自らが形容した『この世全ての悪』と呼ばれる存在に染まっていることを。
どう足掻いたところで。
今の『世界』には、彼の願いを『願ったままに』叶える手段など──存在しないことを。
「僕から言わせて貰えば、彼の願望は僕の『それ』と通じるところがある。
今、暇潰しのようにやっている試験管計画──おっと、今は『フラスコ計画』だったかな。
あれの次の次の次くらいには懸命しても良い程の『できない』だ。
予言系スキルを使うまでもないね。
断言しよう。彼の『願い』は、叶わない。
少なくとも、今から40年は叶わない。
ん? そうだね。
僕の『一京分の一のスキル』の中には、戦意喪失のスキル
それでも『恒久的世界平和』は実現できそうにない。
人間は競争本能や闘争本能だけで争っているわけでもないからね。
そんな彼が球磨川くんに注目するというのも、まあ当然と言えば当然だ。
スキルがどうこう、というわけではなく。
ある意味では彼の『願望』を体現したような人間性だからね。
まあぶっちゃけ、そんなことはどうでも良いんだ。
問題は──球磨川くん。
きみ、なんで早々に死んでるんだよ。
良い加減にしろ。
また初撃でやられているじゃないか。
決別の後だ。この教室には呼ばないぜ。
出禁だ。
故に僕は、こうして声だけを届けているわけだが。
なにが『30年くらい後に』だよ。
まだ数時間も経ってないじゃないか。
そんなわけで、さっさと目を覚ましな。
電脳紀行でもするつもりか知らないけれど、次のイベントまで時間がないんだよ。
だから、少しきみの『復活』の場所を調整した。
そこらへんは、僕の気まぐれだ。
英雄王と征服王によろしくね。
なんだったら、彼らとは少し話したいからぶっ殺してくれても構わない。
僕が直々に、この教室に招こうじゃないか。
わっはっは。きみの『心の中』なのに。
きみは出禁で他は招待されるという。
この歪な構造も、きっときみの『負』の才能によるものだろう。
だから、僕は悪くない。
そう怒るなよ。
ほら、目的地に到着だ。
貴重な令呪をボカスカ使うなよ?
特に彼は、令呪を六画も持っているし。
それ以上に持っている奴も居る。
きみ程度じゃ、すぐにやられるかもね。
もう会わない事を期待しているよ」
冷気を浴びて、目が覚める。
橋の上で、仰向けに寝転がっていた。
あたりはすっかり真っ暗、夜も良いところだ。
「フン。雑種が」
「おお、アサシン。久方ぶりではないか?」
声のするほう──というか頭上を見れば、英雄王と征服王が杯を傾けている。
これから死闘を演じるような雰囲気には思えないほど和やかだ。
『……あ。イスカンダルさんと……あー。……誰だっけ?』
「我の名も知らん雑種は死ね」
球磨川禊が軽口を叩いた瞬間。
ノータイムで宝剣が降り注いだ。
その数、十三。
大抵のサーヴァントなら即死している。
『うっわあ……危ないなぁ。冗談に決まってるでしょう? ギルガメ■シュさん』
「なぜ一部だけ伏せ字……」
橋の傍に控えていた少年──ウェイバーが呟いたのを機会とし、王と王の対決は火蓋を切った。
次回「天地を切り裂いた剣」
ご意見・ご感想、お待ちしてます。
■プロットが完成しました!
一通りの検証も済んで『ルートのひとつ』としては。
「それなりに良いかな」と、担当編集が太鼓判を押してくれましたので!
それなりのものが出来上がったんじゃないかなと思います!
……ふへへ。不評だったら道連れだぜ。
■読者のみなさまには、色々とご迷惑をお掛けしています……
嘘予告に始まり、投稿予約ミス・完結予定の延期・一部パロディが意味不明だったりetc.
ここから後半戦終了までは執筆ノンストップでいきますので!
どうかお付き合いください!!
■「安心院さんの読み上げた『イベント一覧』によれば」
という一文に対し、けっこーなご意見・ご感想をいただきました。
詳しくはネタバレになるので省きますが、彼女の性格が微妙に違うのは年代の違いとかではありません。
また、作者の意図しない展開でもありません。
あからさまに言うと、伏線です。
今後明らかになっていきますので、なにとぞお付き合いいただければ!((前後がおかしい