Fate/Zero──Act.All Fiction   作:むい

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第18話 無毀なる湖光

 アサシン──球磨川禊を撃退した早朝から、征服王と英雄王の対決に至るまで。

 あるいは、騎士王と湖の騎士の対決に至るまで。

 驚くべきことに、10時間もなかった。

 

 そして、その半日にも満たない時間で。

 事態は、急変していた。

 

 アイリスフィールが生体機能を失い始め。

 そのまま征服王に拉致され。

 久宇舞弥が腕の中で死に。

 騎士王が征服王を問いただしに向かった。

 

 判明しているだけでこれだ。

 水面下で起こっている出来事を含めれば、その数は10を超えるだろう。

 そして、撃退した球磨川禊が復活するのも時間の問題だ。

 

 衛宮切嗣は己が妻の──アイリスフィールの捜索に関しては諦観している。

 セイバーが征服王を追うと言い出し、それを放っておいたのも──久宇舞弥が最期に遺した言葉によるもの。

 

「…………」

 

 ゆっくりと、思い返す。

 おおよそ『しあわせ』とは掛け離れた、ふたりの生涯を。

 

 彼女の日常は、戦場だった。

 昼は紛争地の少年兵。

 夜になれば大人のなぐさみもの。

 彼女は、そんな──衛宮切嗣が最も嫌悪する境遇に置かれていた。

 挙句に、子供を奪われた。

 欲しかったわけではない。

 言われたから産んだだけだと、彼女は言った。

 けれど。その一切に、彼女は関与できなかった。

 子供は、彼女と同じように。

 同じような境遇に置かれるより他なかった。

 

 そんな彼女を、拾ってしまった。

 技術を仕込み、知識を詰め込み。

 あらゆる戦場で『衛宮切嗣を完全に動作させる機械』として使用し続けた。

 

 彼女には、日常なんてなかった。

 9年前。衛宮切嗣が招かれたのと、ほぼ同時期に生成された。

 高度な知識を与えられた、機械人形のようなものだ。

 しかし。彼女は情緒面の発達が著しく、その姿が機会人形とは呼べない存在になるのは時間の問題だった。

 

 8年前のこと。彼女との間に、娘ができた。

 愛する妻と、愛らしい娘。

 ふたりと共に過ごす、銀色の日々。

 

 ──僕も、親バカになったものだ。

 

 そう呟いていた冬の城が、何よりも幸福な空間だった。

 けれど。

 

「私はね──しあわせだよ」

 

「あなたは……なきむしだから……」

 

 ふたりは、人並みの幸福を。

 その凄惨な生涯で得られたのだろうか。

 人間の愚かな争いに、巻き込まれただけ。

 その争いさえなければ。

 

 彼女は人間性を失わずに済んだ。

 彼女は降霊の依代になんてならずに済んだ。

 

 頭の中は、既に真っ白だった。

 

 目に焼き付いた銀世界も。

 脳に焼き付いた戦場も。

 等しく塗りつぶされ、零へと還る。

 すべては、世界平和のために──……

 

 

 

「……切嗣。」

 

 

 

 ふと、声がした。

 顔を上げるまでもなく、声の主が征服王の元へ向かった騎士王だとわかっている。

 これまで通り、彼女の言葉を受け流す。

 けれど彼女は、その先を続けていく。

 

「アイリスフィールが拐われ、久宇舞弥を失った。精神的な疲労も、負傷も大きいはずだ。一度休むべきでしょう」

 

 的外れなことを言う。

 口元に力が入らず、思わぬ溜息が洩れた。

 その姿をどう受け取ったのか、彼の騎士王は眉を顰めるだけで反応を返さない。

 

 征服王がアイリスフィールを拉致したのでなければ、後は四択だ。

 

 バーサーカー陣営。

 アーチャー陣営。

 アサシン。

 そして──言峰綺礼。

 

 そしてアーチャーはその性質から拉致には向かないし、そもそもマスターが脱落している。

 反対に言峰綺礼はサーヴァントを失っているが参加し続けていた。

 教会に放置されていた監督役の霊器盤を奪取してきたので、まず間違いない。

 残る候補はアサシンとバーサーカー陣営だが、アサシンはむしろ堂々と行動するだろう。

 故に考えられる最有力候補は、バーサーカー陣営。

 

 そして教会を捜索した結果。

 言峰璃正の死亡と、監督役の不在による言峰綺礼の役割継承を確認した。

 

 ここから考えられる結論として。

 

 言峰綺礼は監督役の預託令呪を所持し、アーチャーと契約した。

 アサシンが持っていた令呪は脱落した遠坂時臣のもの。

 

 そして、襲撃者が『聖杯の器』としてアイリスフィールを攫ったのだとしたら。

 聖杯降霊の儀式を行うためにも高位の霊格を持つ土地を押さえているはず。

 たとえ言峰綺礼であろうと、儀式を完成させるには霊地の加護がなければ不可能。

 

 そして冬木において、儀式を行える土地は4ヶ所()()()

 

 第一位の霊脈は『大聖杯』が設置された天然の大洞窟『龍洞』を擁する円蔵山。

 御三家以外のマスターが知る由もないこの祭壇を狙うのはバーサーカー陣営以外なら言峰綺礼くらいだろう。

 

 第二位の霊脈は遠坂邸。

 しかし充分な霊力で支えられていたはずの祭壇は、魔力が不自然に減少していた。

 これでは降臨の儀式を行うことなど出来ないだろう。

 

 第三位の霊脈は冬木教会。

 第二位と遜色なかったはずの此処に至っては霊脈そのものが致命的なまでに傷つき、魔力の大半を失っていた。

 放っておけば土地が死ぬのも時間の問題だろう。

 

 第四位の霊脈は市民会館。

 後天的な霊地であり、第三次聖杯戦争から候補地としてマークされるようになったのだとか。

 しかし、市民会館という立地は防衛戦に機能するとは思えないほど杜撰なものだ。

 大衆向けの施設なら当たり前だろう。

 

 4ヶ所のうち、半分が使用不能となれば自ずとやることは見えてくる。

 

 儀式を行う祭壇とする霊地に先んじて罠を張り、待ち伏せる。

 手が回らない場所ならば、建物そのものをトラップ化してしまえば良い。

 

 衛宮切嗣は市民会館に所持する爆薬の8割を使って「踏み込めば最期」と称するのに過言ないだけの仕掛けを施した。

 

 ならば残る霊地は円蔵山──『大聖杯』しかない。

 

 故に衛宮切嗣は一睡もせず張り込んでいる。

 他に「言峰綺礼なら何をしてもおかしくない」という考えもあったのだが、それは現状においてさしたる理由にならない。

 

 衛宮切嗣は令呪を掲げる。

 ランサー陣営から奪った三画、その二画目を。

 

「衛宮切嗣の名の下に、令呪を以て命ず──」

 

 その一言で、少女の敗北が加速した。

 

 

 

「──バーサーカーを、討伐せよ」

 

 

 

 命を下されると同時に、彼女は直感的に飛び退く。

 振り返れば、彼女の立っていた場所には魔弾と化した鉛が無数に撃ち込まれていた。

 視線を戻せば、その先には両手に短機関銃を携えた黒霧の騎士。

 

 セイバー陣営の行動は迅速だった。

 衛宮切嗣は人外の戦場を離れ、騎士王は黒騎士と対峙する。

 

 宝具と化した近代兵器は、瞬く間に膨大な量の弾丸を撃ち出す。

 その間も、彼の黒騎士は吼え、猛る。

 その姿を横目に、騎士王は魔弾を避けるしかなかった。

 当然だろう。たとえ近代兵器であろうと、宝具と化した──否。

 凶悪な魔術兵装と化したそれをまともに受ければ、サーヴァントであろうと致命傷になる。

 

 一撃で決着をつけなければならない。

 

 冴え渡る武練を以って放たれる魔弾を、直感と剣を頼りに避けながら。

 黒騎士の懐に潜り込み、不可避の一撃を。

 

 彼女は駆け出す。

 毎秒20余の弾丸を放つ短機関銃。

 その魔弾を切り伏せながら。

 しかし至る所を掠り、彼女の鎧に無数の傷が刻まれる。

 脳裏で反響する奴の声が、彼女の疾走を後押しするようだった。

 

 

 

『ちゃんと向き合ってあげて』

 

『彼は貴女の「決断」を待っている』

 

『裏切りは、彼の心を湖に沈めてしまった』

 

『被害妄想はやめろ』

 

『彼の気持ちを踏み躙らないで』

 

 

 

 もし本当に、この黒騎士が彼ならば。

 この一撃は、不可避の一撃は。

 決して届くことはない。

 

 彼女と彼の距離が2mにも満たなくなった瞬間、黒騎士は短機関銃を放り捨てた。

 

 そして、不可視にして必殺の一撃は振り下ろされ。

 予期していた通りに──受け止められた。

 

 白刃捕り。

 黒騎士は、決して見抜けぬはずの剣撃を殺してみせた。

 

 

 

 ──決まりだ。

 

 

 

 こんな芸当が出来るのは。

 騎士王たる自らが束ね、朋友とした、円卓の騎士たち。

 その一員の中でもとりわけ自らに近い位置にいた彼らしか。

 

 黒騎士の胸元へ、強引に蹴りを叩き込む。

 好んでやったことではなかったが、それより動揺が走る。

 

 黒い魔力に侵されかけた愛剣は無事だったが、彼女の心は。

 その黒い魔力に、憎しみの色に侵されかけていたが如く、冷え込んでいた。

 

 不自然に凍てつく心を落ち着かせて、彼女は騎士王として、己の朋友へと言葉を紡ぐ。

 

 

 

「その武練、さぞや名のある騎士と見込んだ上で問わせて貰う」

 

 黒騎士が彼ならば、彼女の言葉に応じない筈がない。

 それが例え、吼え猛る狂戦士であったとしても。

 

 そしてこれが、彼女の最後の希望だった。

 

──頼む。どうか。

 彼ではない誰かであってくれ。

 円卓の誰であっても傷つくことには変わりない。

 けれど。

 どうか、騎士道の誉れであった彼ではなく。

 それ以外の何某であってくれ。

 

「この私をブリテン王、アルトリア・ペンドラゴンと弁えた上で挑むなら、騎士たる者の誇りを以って、その来歴を明かすが良い! 素性を伏せたまま挑み掛かるは騙し討ちにも等しい!」

 

 その言葉と共に、常震える全身鎧が音を止めた。

 先程まで、細かく聞こえていた『なにか』が止んだ。

 

 武具を含む総身を包んでいた黒霧が不気味な渦を巻いて収縮・霧散していく。

 

 露わになった『完璧な鎧』。

 それは、彼が彼である伝承の一端。

 騎士道の、理想の体現者。

 

 そしてゆっくりと、鞘に込められていた剣を抜く。

 

 『それ』は、彼女がよく知る剣だった。

 

 与えられたものでもなく。

 奪ったものでもなく。

 拾ったものでもない。

 

 彼自身が生前より戦場で手に執っていた無窮の剣。

 

 かつて最強と謳われた彼が愛用した、絶対に刃が毀れることのない名剣。

 

 『約束された勝利の剣』(エクスカリバー)と起源を同じくする神造兵装。

 

 後世にまで語り継がれる、当代最高の騎士だけが帯びることを許された誉れの剣。

 

 

 

 ──対人宝具『無毀なる湖光』(アロンダイト)

 

 

 

 そして、最後の一言が決定的だった。

 

「……Ar……thur……」

 

 彼は言いながら兜を自身で叩き割り、その素顔を晒す。

 

「……まさか……本当に貴方だとは思っていませんでした。貴方は、そんなにも……」

 

 あの『完璧な騎士』が。

 騎士道の体現者であった彼が。

 

「そんなにも、私が憎かったのか! 朋友(とも)よ! そんな姿に成り果ててまで! そこまでして私を恨むのか!」

 

 最後には決別してしまったとはいえ──黒の呪いに侵すほど自身を憎悪していたかと。

 

 彼の名は、名高き湖の騎士──サー・ランスロット。




次回「征服王の臣下」
ご意見・ご感想、お待ちしてます。

■すっかり遅くなってしまってごめんなさい!
 もう、言い訳する気もございません。
 ふっ なんか格好よくないですか!
 嘘です。反省してます。

■お詫びと言っては何ですが、また連続投稿が始まります。
 具体的には、離れていってしまわれた読者様が
 「今更こんなにかよ! もっと早く投稿しておけ!」
 と怒るくらいの量をどばどば投下して行きます。
 ──とか言ってるとまた破綻しそうなので。
 当分の目安は「1日1投稿」くらいにしておこうかと思ってます。
 毎日見にきてくださいね!

■催促の感想も大歓迎です!
 ちなみに、メッセージはご遠慮ください。
 ……既にたくさん戴いていて、どれがどれだかわからなくなっていますので。
 メッセージは返信できませんが、ご感想はお返事させていただきますので!
 それではみなさん──『また明日とか!』
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