Fate/Zero──Act.All Fiction   作:むい

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第19話 臣下と王

「ああ、そうそう。ウェイバーくんに朗報だ」

 

 橋の一画を抉るようにして突き刺さる『原典』や、二つの黄金の杯を手にとって検分しながら、負完全は少年に告げる。

 

『君の恩師にして時計塔の一級講師、ロード・エルメロイことケイネス・エルロイ。彼とその婚約者はこの戦争で──』

 

 落命した。

 

 そう語る学生服のサーヴァントは、口元を半月状に歪ませて嗤った。

 目元に影を落とし、双眸は満月のように見開かれてその眼光を際立たせる。

 それに対して、征服王と英雄王は負完全とウェイバーを横目で視界に入れる程度で対峙した姿勢を崩さない。

 

 当然、想定の範囲内だ。

 仇敵として憎悪した魔術師で、この聖杯戦争において唯一の知人。

 けれど、そんな相手とも対峙すれば殺し合わなければならない。

 本来であれば『特別講義』と称して真っ先に狙われても不思議はないくらいだ。

 

 だが、結果はどうだろう──

 

「……なあ、アサシンよ。英雄王には問うたのだがな。貴様は宴を中座したりなんだりで語らう事も出来なかったであろう。一つだけ、訊きたい」

 

 そんな朋友の心情をも切り拓き、彼は豪快に相対する。

 そんな彼に、怪物は『彼なりの礼儀』を以って応対する。

 

『何かな? 好きな女の子のタイプ? それとも、初恋のエピソードとか? あー。やっぱり──』

 

 

 

「余の臣下に加わるつもりなないか?」

 

 

 

 オールカット。

 負完全の言葉を無視し、真摯な眼差しで征服王は問う。

 彼の流儀として。

 彼の王道として。

 

『そうだね。それも良いかもしれない。結局、思い出を「なかったこと」にしたところで、僕の中の思い出まで「なかったこと」にはならなかった。代わりの思い出をこれから作れば、この寂寥感も満たされるだろうし──』

 

 すっ とふざけた雰囲気が消え、真面目な言葉で返答する。

 

 

 

「ごめん。それはむり」

 

 

 

 彼は両手に大きく伸びた螺子を取り出す。

 そのまま投げつけ──彼に突き刺した。

 

「────っ! 坊主!」

 

 基礎の基礎の魔術さえ使い熟すことが出来なかった魔術師は、その凶刃に倒れる。

 

「貴様──アサシン。覚悟はできているのであろうな?」

 

『そりゃあ、そうさ。案外、今日が来なくても。それ以外の日が貴方の第二の命日となるに決まってるだろう?』

 

 支離滅裂で、意味をなさず、何のことを指すのかわからない、その言葉を。

 征服王は、挑発と受け取った。

 一触即発の怒気を孕み、彼の王は同胞を呼ぶ──しかし、その闘争に割って入る者が居る。

 

「待てよ、征服王。我の審判を延期してまでその雑種に構う必要はない──気が変わった。我が王道を邪魔建てするのなら」

 

 

 

 英霊にまで召し上げられた、その魂をも滅してやろう。

 

 

 そう語る英雄王は、宝物庫の()()限界にまで『原典』を並べ──一斉に撃ち出す。

 

 負完全は手にした螺子の投擲が間に合わないと悟り、すぐに『それ』を発動した。

 

 直後。無数の武具がただ一点を穿ち、対象を消滅させるに至り──この瞬間、球磨川禊は世界から消えた。

 

 同時にウェイバーを貫く螺子は崩れ落ち、白に変じていた肉体が元に戻る。

 英雄王はそれら一連の出来事を一瞥すらせず、瞬きの間に『原典』の山を回収してみせた。

 そして征服王を視界の中央に据え、言外に宣告する。

 

 ──さあ、審判の時だ。

 

 征服王も剣を抜き放ち、座に構える朋友へと呼び掛ける。

 

 

 

「集えよ、我が同胞! 今宵、我らは最強の伝説に勇姿を印す!」

 

 

 

 橋は現実の在り方を消失し、心象によって世界を染め上げる。

 

 砂漠。蒼天。軍勢。

 一陣の風と共に、開幕の火蓋が切って落とされた。

 

「敵は万夫不当の英雄王──相手にとって不足なし! いざ益荒男たちよ、原初の英雄に我らが覇道を示そうぞ!」

 

『おおおおおおおおッ!!!』

 

「来るが良い、覇軍の主よ。今こそお前は真の王者の姿を知るのだ……」

 

 英雄王は不敵に嘯く。

 その手には黄金の都、彼の宝物庫へと通じる鍵剣バウ=イルを携えて。

 

 征服王は烈火に吼える。

 その後には時空すら超える絆で結ばれた臣下を率いて。

 

 軍勢が堰を切ったように喝采と共に突貫した。

 

「AAAALaLaLaLaLaie!!」

 

 その壮観を見据えながら、英雄王はその紅い瞳に悦を浮かべる。

 

「夢を束ねて覇道を志す……その意気込みは褒めてやる。だが(つわもの)どもよ、弁えていたか? 夢とは、やがては須らく醒めて消えるが道理だと。なればこそ、お前の行く手に(オレ)が立ちはだかるのは必然であったな。征服王」

 

 手にした鍵剣を振るい、宝物庫の奥の奥より──一振りの剣を取り出す。

 

 剣。──否。

 

 『それ』は剣にあらず。

 この世に『剣』という概念が出現するより太古から、顕現するより以前から。

 遥か古より創造されたものが、その定義に収まる筈もない。

 

 三つの円柱が魔力と共に相互回転する。

 廻り、廻り、廻り、廻る。

 地殻変動にも匹敵するその膨大な魔力を以て、彼は神の業を具現する。

 

 

 

「さぁ、見果てぬ夢の結末を知るが良い。この(オレ)が手ずから理を示そう」

 

 原初の剣を高々と掲げ、脅威を振りまく。

 征服王は、それを直感的に悟り、愛馬の手綱を引きながら後陣に告げた。

 

「来るぞッ!」

 

 ──先手は許そう。

 そして、直後に軍勢が孤高の黄金を蹂躙する。

 この一撃を防げば、明確な勝機。

 

 しかし、結果から見ればそれは下策だっただろう。

 仮に、愛馬の全速力を以て彼の英雄王の首をとっていたら──否。

 そんな積極的なことでなくとも、その手に携えた原初の剣を弾くだけで良い。

 それが出来ていれば、彼は──

 

「さあ目覚めろ『エア』よ。お前に相応しい舞台が整った!」

 

 黄金の英雄王は、創世の奇跡を宣言する。

 

 

 

「いざ仰げ──『天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)』を!」

 

 

 

 そして、地獄は具現化する。

 

 

 

 天が絶叫と共に割れ、地が震撼と共に裂ける。

 その一端は、疾走する征服王の眼前で奈落を穿った。

 

 対人宝具。

 対軍宝具。

 対城宝具。

 その区分に当て嵌まることのない、原初の奇跡。

 

 それこそは、敵ではなく世界を相手取るモノ。

 

 征服王は愛馬の跳躍によって対岸──英雄王の視線の先へと滑空する。

 

 そうこうしている内にも、後続の近衛兵団は穿たれた奈落へと、引き裂かれた大地へと、惨劇を還す虚無へと引きずりこまれてゆく。

 

 そして致命的だったのが、固有結界だった。

 兵団を現界させるための舞台としての世界。

 それが師団の半数を失い──否。

 世界そのものを切り裂かれ、破綻していたのだ。

 

 命中の是非、威力の多寡を語るものですらない。

 天地を崩壊させ、師団ならぬ風景さえも呑み込む虚無を創る。

 ()()()()()()を対象とした奇跡。

 天地をはじめとする、形在るモノを、森羅万象を、世界そのものを崩壊・創造せしめる規格外の奇跡──対界宝具。

 

 そしてその破滅は、原初の剣が放つ光によって締めくくられる。

 その破滅が終わるより前に、固有結界を維持していた師団の魔力が途絶え、現実に侵されて世界が消失する。

 

 元の位置へと。

 闘争が始まるより以前の対峙した位置へと、二騎は立っていた。

 ここから先の結末は、誰もが予想出来るだろう。

 

 二つの宝具を失い、その身と愛馬のみの征服王と。

 無数の宝具を携え、その身と片手には原初の剣を持つ英雄王。

 

 どちらが有利で、どちらが勝つかなど。

 火を見るよりも明らか──だった。

 

 パチ、パチ、パチ。と、不意に乾いた音がする。

 三人の視線の先には、無傷で手を叩く学生服のサーヴァントが居た。

 

 

 

『いやあ、凄いものを見せて貰ったよ。「天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)」か……格好いいね。僕も「大嘘憑き(オールフィクション)」じゃなくて、そんな名前にしようかな?』

 

 

 

 魂魄も残さず滅した筈の負完全に、英雄王は嘆息する。

 

「貴様との禍根はとうに尽きた筈だが? それとも何か。まだこの世に心残りでもあったか?」

 

『まあ、残すほどの心なんて僕は持ち合わせていないけれど……気が変わったんだ。綺礼ちゃんを止める前に──貴方を螺子伏せる』

 

「面白い。だが綺礼(アレ)は、貴様如き雑種では止められまい? バーサーカーが倒れ、セイバーが我が手中にあるのだ。貴様とてこの意味がわからぬほど愚かではない筈だ」

 

『……そうだね。うん、確かに……綺礼ちゃんは止められないかもしれない。でも、聖杯だけでもぶっ壊してやろうと思ってさあ──』

 

 両手に螺子を構え。

 いつものように飄々と、臨戦の意志を示す。

 彼がここで出てきた理由を、征服王は悟っていた。

 

 ──彼奴め、余が『神威の車輪(ゴルディアス・ホイール)』と『 王の軍勢 (アイオニオイ・ヘタイロイ)』を失っている事に気づいているな?

 

 恐らく、それを見越して『弱者の味方になるため』などと言うに違いない。

 けれど。

 

「生憎だが、アサシン。これは余と英雄王の決着だ。邪魔はしないで貰おう」

 

『……ふうん?』

 

 驚くほどあっさりと引く。

 それに僅かな違和感を覚えながら、同時にそんなことはどうでも良いとも思う。

 同じく愛馬に跨がる朋友に真顔を向け、征服王は厳かに問うた。

 

「ひとつ、訊いておかねばならないことがあったのだ」

 

「……ライダー?」

 

 

 

「ウェイバー・ベルベットよ。臣として余に仕える気はあるか?」

 

 

 

 それは、少年にとって待ち望んだ言葉。

 届かぬと知りながら、それでもなお求めずにいられなかった言葉だった。

 

 故にと言うべきか、当然と言うべきか。

 心の奥底に秘めた答が用意してある。

 

 堰を切った涙と共に、胸を張って答えた。

 

「あなたこそ──あなたこそ、ボクの王だ。あなたに仕える。あなたに尽くす。どうかボクを導いてほしい。同じ夢を見させてほしい」

 

 宣誓、誓約。

 そんな高尚なものではなくても、その誓いは本物だ。

 

 ──うむ、良かろう。

 

 征服王は小さな臣下の言葉に微笑み、彼を愛馬の背から橋のアスファルトへと降ろす。

 

 その意味を少年は理解できず、押し寄せる情念と共に戸惑うしかない。

 

「夢を示すのが王たる余の務め。そして王の示した夢を見極め、後世に語り継ぐのが、臣下たる貴様の務めである」

 

 遥か高みから。征服王は朗らかに笑い、断固と勅命を下した。

 

 

 

「生きろ、ウェイバー。すべてを見届け、そして生き存えて語るのだ。貴様の王の在り方を。イスカンダルの疾走を」

 

 その先は、臣下ならば誰もが知っている。

 言葉など必要ない。

 彼の王が結ぶ絆は、時を超えて永遠。

 別離さえ意味はなく、その誓いだけが意味を持つ。

 

 愛馬の嘶きが、王の雄叫びが。

 最後の疾走の幕開けとなった。

 

「さあ、征こうぞ、ブケファラス!」

 

 脳裏に、ひとつの言葉が浮かぶ。

 

 ──『彼方にこそ栄え在り(ト・フィロティモ)』。

 

 それだけだ。

 それだけがすべてだ。

 

 英雄王は宝物庫を開放する。

 2桁で尚足りぬ、圧倒的な量の宝具。

 その『原典』。

 

 綺羅星の如く縦横無尽に降り注ぐ『原典』の雨を。

 光の雨の中を、疾走する。

 

 無い隙間を縫うように──否。

 己の足を止めてみよと言わんばかりに。

 

「AAAALaLaLaLaLaie!!」

 

 しかしそれも、長くは続かない。

 愛馬が射抜かれ、その場に倒れ伏す。

 背から飛び降り、尚も走る。

 

 駆け抜けろ。

 聞き飽きた自分の声が。

 永遠の絆を結んだ臣下の声が。

 末席を担う、小さな臣下の声が響く。

 

「ははっ……あっはっはっはっはッ!」

 

 いつの間に、此処まで来たのか。

 英雄王に、あと一歩まで近づき──剣を振りかざす。

 必殺を予期し、高らかに吼える。

 

「はああァァァッ!!」

 

 しかし。彼の剣は届かない。

 あと一歩まで近づきながら。

 剣は彼の眼前で止まったまま。

 

「──まったく、貴様……次から次へと珍妙なモノを……」

 

 虚空より伸びる鎖が、剣の刀身を。

 征服王の手足を、肩を、腰を絡め取り──身じろぎひとつ許さない。

 

 英雄王の有する財の中で、最も信頼するモノ。

 秘中の秘であり、天の牡牛すらをも絞め殺す縛鎖。

 

 

 

 ────『天の鎖(エルキドゥ)

 

 

 

 そして、剣と主は交錯する。

 

 征服王の執るキュプリオトの剣は鎖に捕われ。

 英雄王の執る乖離剣は彼を貫く。

 

「──夢より醒めたか? 征服王」

 

「……ああ、うん。そうさな……」

 

 一抹の後悔もなく、簒奪の王は──ただ微笑んで答える。

 

「此度の遠征も、また……存分に、心踊ったのぅ……」

 

 満ち足りた声に、英雄王は厳かな態度で応じた。

 

「また幾度なりとも挑むが良いぞ。征服王」

 

 全身を宝具で串刺しにされながら、彼の秘奥によって阻まれるまで歩み続けた好敵手。

 そんな相手に、最大の褒美──偽らざる賞賛の念を賜わすのは、英雄王にとっての王道と言っても過言ではない。

 

時空(とき)の果てまで、この世界は余さず(オレ)の庭だ。故に保証する。世界(ここ)は決して、そなたを飽きさせることはない」

 

「ホォ……そりゃあ、いい、な……」

 

 静かに、そして呑気に相槌を打ってから。

 ライダーのサーヴァントは静かに消滅していった。

 

 

 

『そんな格好よく締めるなんて、きみの臣下が許しても僕が許さないぜ? 征服王』

 

 

 

 消滅しきる寸前の王を、螺子が貫いた。




次回「第二の対界宝具」
ご意見・ご感想、お待ちしてます。

■そんなわけで、征服王と少年の話でした。
 ……まだ続きますけど。
 その決戦は9割が終わった、と言って良いんじゃないかなと思います。
 ちなみに、あと2分せずに22:00です。
 超・焦って書きました。見返してません。
 誤字脱字は報告してくださると嬉しいです!
 それでは──『また明日とか!』
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