Fate/Zero──Act.All Fiction 作:むい
とにかく、始まります。
バトル展開が。
『はあ、はあ……はあ……はあ、ぁ』
月が昇る時分。
アサシン──球磨川禊は、アーチャー──ギルガメッシュと対峙していた。
球磨川は既に全身に傷を負っており、学ランもボロボロで座り込んでいた。
彼の前に、疲労の色など微塵もないギルガメッシュが立つ。
「ふん。この程度か、雑種。少しは楽しませろ。長々と茶番に付き合ってやるほど、我は甘くないぞ?」
『はあ、はぁ……ちょっ……待って……サーヴァント……はぁ、って……こんな……はぁ、強いの?』
「貴様が殊更弱いのだ。我でなくても惨敗するだろうな。よく英霊にまで召し上げられたものだ」
『あはは。……まぁ。疲れちゃったし、今回はこのくらいで良いや。参った。降参だよ』
「では、茶番を終わらせようか──虫ケラは虫ケラらしく、地だけを眺めながら死ね」
尊大な態度で、ギルガメッシュは笑った。
球磨川もへらへら笑って、呟く。
『──また勝てなかった』
虚空から放たれた宝剣が、彼の心臓を貫いた。
事の発端は、球磨川の一言だった。
薄暗い地下室のような場所で今後を話し合っていたアサシン陣営とアーチャー陣営。
時臣が球磨川を使って諜報活動を狙っていたのは前述したが、話し合いの最中に本人がそれを否定した。
『……僕、諜報とか無理だよ? 奇襲とかは出来るけどさ。でも、正々堂々と戦ってこその戦争でしょう? 自軍と敵軍がぶつかり合う──とかさ。そんなわけで、じゃーん。こんな作戦を考えてみましたー』
球磨川が取り出した羊皮紙には、簡単な戦略図や注釈などが描かれていた。
『時臣さんはギルガメッシュさんの強さをアピールしたいんでしょ? こんなこと言うの癪だけどさー。僕も諜報活動に徹しろって命令されちゃってるからねー』
そう。つい先刻、時臣の命で綺礼は球磨川に令呪を使った。
それにより、今の球磨川は戦闘よりも情報収集に特化している。
……まぁ、特化と言っても大差はないのだが。
「それにしても、アサシン。きみは何故、そんなにステータスが低いんだ?」
『……それを先に聞くの? 僕の作戦より? ちょっとショックだなー。……まぁ、とりあえず後で綺礼ちゃんから聞いてください。で、時臣さん。ギルガメッシュさんをアピールするなら──やっぱりサーヴァントを倒すところ見せちゃったほうが早いでしょう?』
「……ふむ。まあ順当だろう。だが問題は──」
そう。順当な提案だが、この作戦は大きな問題を抱えている。
簡単に言えば、どの陣営のサーヴァントと対決するかということだろう。
存在を強調する以上、それなりに派手な相手が良い。
でなければ他のマスターに気づかれ難く、そして倒した存在がギルガメッシュだと知れ渡らない。
『──その欠点なら、僕がカバーしよう』
「……どういうことだ?」
怪訝な顔の時臣に、球磨川は呆れたような表情で続ける。
『察しが悪いね、時臣さん。僕のスキル──じゃなかった。宝具を知らないのかい?』
「……綺礼から真名は聞いたが他は知らないな。綺礼に話したのか?」
『おっと。忘れてた。まぁ、見て貰ったほうが早いしね……ギルガメッシュさん。早速だけど、芝居に付き合って貰えますか?』
自身のミスを悪びれもせず、球磨川は席を立つ。
次いでギルガメッシュが手元の杯を虚空へ投げつけ、苛立ち交じりに席を立つ。
それに反応したのか、綺礼が口を開く。
「待て。どういうことだ? 今の発言では、お前が自ら最初の脱落者になると言っているようにしか聞こえないが?」
『そうだよ、綺礼ちゃん。後の詳しいことはその紙に書いておいたから、時臣さんに迷惑かけちゃダメだぜ。んじゃ、また明日とか!』
楽しげな残響を残し、球磨川は霊体となって姿を消す。
ギルガメッシュは無表情に呟く。
「ふん。あのような雑種を相手にせねばならんとはな……まあ良い。少し出てくるぞ、時臣。貴様が言わんとしていることはわかっているから安心していろ」
「……お気をつけて。ギルガメッシュ」
二人が羊皮紙に描かれた作戦の真意に気づくのは、それから程なくしてからだった。
「アサシンがアーチャーと交戦し、敗北。アサシンのマスターが教会に保護を求めたようです」
「そうか。こんなに早くから動くとは思わなかったな……遠坂陣営には気をつけよう」
自身が欲しかったクラスのサーヴァントを手にした癖に最初に敗退するとはどういうことなのだろう、と思索に耽るところだったが黒衣の男に予断はない。
「舞弥、決行だ」
「了解しました」
黒衣の男の名は、衛宮切嗣。
アインツベルン陣営が勝利のために招いた傭兵であり、セイバーのマスター。
マスターとは言いつつも魔術師然とした規律や美学などは持たず、ただただ『傭兵』の手段の一部として『魔術』を使う『魔術使い』であり──三十余名の魔術師を殺害し、『魔術師殺し』の異名をとる異端の存在。
細かな情報の流れてくるセイバー陣営を、球磨川との知覚共有によって綺礼は情報を集めていた。
実際。球磨川自身が言った通り、諜報活動の役には立たないのだ。
故に彼のクラス別スキル『気配遮断』を利用し、球磨川を媒介として綺礼が情報収集する──という形をとることとなった。
そして、このスキルこそが彼の異質性の一端でもあるのだが……
「……アサシン」
『ん。何? 綺礼ちゃん。僕、今忙しいんだけど』
「アーチャーに借りた雑誌を読み耽るな。対象を監視していろ」
球磨川は今、週刊少年ジャンプを読み耽っていた。
しかも、読むペースが限りなく遅い。
『だって、飽きたよ。目が死んでる男の人とかクールビューティな女の人を監視して、何が楽しいのさ。だいたい──あ。このキャラクター、怪しいなー』
「良いから続けろ。令呪を使ったのに諜報活動をしないとは……」
このサーヴァントに『常識』の二文字は存在しないのだろうか。
『やっぱり、昔のジャンプも良いよね。今の連載陣とは違う読み応えがある。今も昔も変わらない漫画もあるし──うん。面白かった!』
「それは良かった。では、監視を実行しろ。眺めているだけで良い」
『えー? 続きが気になるし、一回帰ろうと思ったのに。じゃあ、綺礼ちゃん。……ギルガメッシュさんに借りてよ。で、綺礼ちゃんが眺めてくれれば良いじゃない。うん、これぞ互恵関係ってやつだ。良いでしょう?』
「…………わかった」
このサーヴァントには何を言っても無駄らしい。
無駄口で視覚と聴覚に妨害が入るよりは、雑誌を眺めているだけで黙っていてくれるなら好都合だった。
しかし、その不格好な綺礼を眺めながら杯を傾けるギルガメッシュは少し楽し気だった。
球磨川禊の提案した戦略は、端的に言って埒外のものだった。
──サーヴァントの蘇生。
一節の中に膨大な常識外が含まれている、そんな矛盾だらけの提案をしたのだ。
そして、それを可能にするのが彼の持つ宝具である。
次回「英霊四騎」
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