Fate/Zero──Act.All Fiction 作:むい
オーマイダーティ! なんて醜──うわおいやめろ何をする
『女の子を狙う覆面の男──だなんて、感心しないな』
セイバーに猛攻を仕掛けていたバーサーカーを、巨大な螺子が貫いた。
「────っ!」
『きみのそれは、ただの前座だよ。僕の登場を盛り上げてくれてありがとう。ただ、まあ……この場は僕に譲ってちょうだい。大丈夫。きみの怨恨は、僕が晴らしてあげるから!』
球磨川禊の台詞を、バーサーカーが理解できているはずがない。
しかし、彼は頭を垂れて動かない。
「……学生服のサーヴァント?」
ライダーのマスターと思しき小柄な少年──ウェイバーが呟く。
彼の容姿・特徴などからキャスターの可能性も捨て切れないが、セイバー陣営は彼の情報をつかんでいた。
「アサシン──ですね?」
『そうだよ、詳しいね。間違いじゃあない。僕はアサシンのクラスで召喚されている──けれど僕としては、イスカンダルさんみたいに。あるいは週刊少年ジャンプの主人公みたいに名乗りたいんだけど構わないかな?』
しかしセイバー陣営はアサシンの消滅を確認しているし、他の陣営にしても『アーチャーがサーヴァントを倒した』という情報は手にしていた。
そんな不可思議な事が起こるような──偽装の宝具でも持っていたのだろうか。
アサシンなら有り得る。なにせ『暗殺者』の名を冠するクラスなのだから……
「……お好きにどうぞ」
『ありがとう。感動で涙が出そうだ。お礼に、先手は譲ってあげるよ。えっと……セイバーさん?
僕の名前は球磨川禊。
箱舟中学第66代生徒会執行部会長職にして、箱庭学園第99代生徒会執行部副会長。学園の後輩には「風」と呼ばれて慕われている。……慕われることになる、かな? ちなみに彼女募集中! さあ、どこからでもかかって来ると良い!』
「……いきます」
球磨川禊渾身の自己紹介は不発に終わったようだ。
それでもセイバーの気力を僅かに削げただろうことは間違いないし、彼女は何かを急いでいるようにも見えた。
球磨川禊は隙だらけと言って差し支えない、両手を広げたポーズのまま笑ってセイバーの剣を受ける。
セイバーは不審に思いながらも、そのまま不可視の剣より剣撃を放つ。
『がっ。──ごふっ!』
「…………………………は?」
無抵抗で袈裟斬り──文字通りに一刀両断された。
斬った当人、セイバーでさえ余りの無抵抗さに己の誓った騎士道を疑いかけたほどだ。
通常、人を斬れば手に残る感覚も。刀身に響く振動も──何もない。
かつて、彼に一撃を入れた不可逆の破壊者が評して曰く──空気抵抗よりも抵抗のない男。
その言葉を今、この瞬間において正しく理解しているのは彼女のみだろう。
上下に両断された球磨川禊は荒く呼吸を繰り返し、何かを呟いていた。
そして、敗退したサーヴァントの例に漏れず輝く塵となって霧散していく。
……対ギルガメッシュ戦の結末と同じに。
セイバーには何が何だかわからない。
──こんなサーヴァントがいるのか? 最初から攻撃を避ける素振りさえ見せず、ただただ敵に倒される。そんなものは
「そんなものは……英雄なんかじゃ、ない────!」
セイバーは傷ついて動かせないはずの左手で球磨川禊の胸倉をつかみ、憤怒の形相で睨みつける。
「貴様は! 貴様は聖杯戦争を! 無用な争いを避ける為の代理戦争を! 気高き騎士の闘争を! 我々の道を貶めるのか!!」
『セイバー……さん……これだけは……言っておく…………また……勝てなかっ』
粒子にもならない塵はその場に五騎の英霊を残し、消え去った。
数多のマスターと協力者を放心させたサーヴァント。
彼の退場をどこかで安堵しているのかも知れない。
だがセイバーだけは空虚につかむ左手を睨みつけ、自問自答を繰り返す。
それは、己の誓った道のこと。
それは、己の望む救国のこと。
それは、己の得た信頼のこと。
正しいのか、正しくないのか。間違っているのか、間違っていないのか。
その解答は低次のものではなく、己の抱いた思想をも超えて問い続ける。
──アサシンは、何がしたかった?
──バーサーカーの怨念を晴らす? 無抵抗の自分を私に斬らせる? 何かが違う。
そして、思い至る。
彼が登場から消滅まで、自分のことにしか関与していない事を。
そして バーサー カーの怨
念を、晴 らす
と言っ て
──私は、何がしたかった?
「やあ、球磨川くん。やあやあ球磨川くん。
こんな短期間に連続して会えるとは思っていなかったよ。
僕と君は本来、こんな会い方をするはずじゃないのにね。
まあ、そこはクロスオーバーの時間軸を相手方に合わせてしまった事への不都合と言えるだろう。
ところで球磨川くん。
僕のあげたスキル──『実力勝負』は、単体で使うつもりなんてなかったんじゃなかったかな?
ほら、完全版負完全──とか言って、合成しちゃったじゃないか。
うん? ああ、そう言えばそうだったね。
宝具とスキルは一緒にしちゃいけないか。
ふふ。君は本当に予想外だね──変わる前の君に会うのが楽しみだ。
結果がわかっていることは『できない』にならないから、あまり気が進まないというのが実情だけれどね。
……おっと。そろそろ、お目覚めの時間だ。
じゃあね。また会えるのを心からお待ち申し上げるよ──僕に心があれば、の話だけれど」
ぱちり。
という擬音と共に目が覚める。
どうやら、サーヴァントであろうと人間の時と変わらず──死ぬと、自動発動によって蘇生されるらしい。
場所は二回とも、何故かは知らないが教会だった。
ドラクエを彷彿とさせる。
言峰璃正が、上半身を起こした球磨川禊を見下ろしていた。
彼が復活の呪文を唱えてくれたのだとしたら、それはそれで楽しい展開になりそうだ。
「お目覚めか? アサシン」
『……うん』
「随分と不機嫌そうだが……どうした? 私が嫌悪するお前はどこへいった?」
『覚めない夢を……見ているんだよ。それに、璃正さんは──綺礼ちゃんのこともわかってるんでしょ?』
「……異な事を言うものだな、アサシン。私が綺礼を……まあ、良い。それより、種明かしをしろ」
『種明かし? 僕は隠し芸を披露した覚えはないんだけれど……あ。そうそう。僕は今、とても忙しいんだよ。セイバーさんと深夜デートなんだ。ディナーの予約は取れなかったから、夜景を見に行こうと思うんだけど……璃正さん、何処か綺麗なところを知らないかな?』
「…………私の知ったことか」
言峰璃正は球磨川禊と対面した初日と同じく──否。
初日の二の舞いになる前に彼との雑談を切り上げると、さっさと奥の部屋に戻って行った。
球磨川禊は霊体化して移動し、先程の倉庫街に戻る。
しかし、全ては祭りの後──無惨に破壊された痕跡しかなかった。
『うーん、ショック! 折角、急いで戻ってきたのに。こうもイベントに関われないなんて……僕は主人公になれないのかな? まあ、良いや』
学ランのポケットからタッチパネル式のケータイを取り出し、操作を始める。
勿論、この時代には存在しないものだが──彼は球磨川禊。携帯電話を全機種持つ男である。
この時代でも使用されているキャリアから後継機を選ぶことなど容易い。
……もっとも、使えるかどうかは別問題だが。
『あ。もしもし? 綺礼ちゃん? うん。僕だよ、僕。あのさー。ちょっと死んじゃったから医療費に500万くらい用意してくれない? あ。パス切ったこと、まだ怒ってるの? つれないなー。それくらい許してよ。ただのおふざけじゃないか。何だったら、君の願いを叶えてあげるよ? あ。願い事はなかったんだっけ? ごめんごめん──え? 令呪なしで一回分の命令権? おいおい、何を本気になってるんだよ。令呪は残り一画だろう──うん? キャスター討伐? 令呪の贈与? おいおい、イベント飛ばしすぎだぜ。もう少し腰を据えて──わかった。じゃあね』
通話を終え、ケータイをポケットに突っ込む。
そして溜息を洩らして、呟く。
『……「何をしてでもキャスターを倒せ」か。やっと自由に動けるのは良いけれど、さて──何をしようかな?』
次回「魔術師殺し」
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