Fate/Zero──Act.All Fiction 作:むい
それはさておき。
今回は大雑把に言って、二部構成です。
彼の異質性と、異質性の発露。
ケイネス先生の運命や如何に!
球磨川禊が敵対している陣営の中で、最も彼を把握していたのは──意外なことに、ライダー陣営だった。
「あの球磨川という男。関わらぬのが得策であろうよ」
イスカンダルはウェイバーと共にマッケンジー邸に戻ると、開口一番そう言った。
「はあ? お前はまた意味のわからないことを……アサシンはセイバーにやられたじゃないか。関わるも何も──」
「坊主。お前こそ忘れておらぬか?」
「……何をだよ」
「思い出せ。先ず、アーチャーがサーヴァントを一騎倒した。これで余を含め、サーヴァントは六騎。そして今宵、セイバーがアサシンを倒した。これで五騎。……違和感は?」
「……魂喰いをしている連続殺人のサーヴァントはどうなった?」
「今も尚、それこそアサシンがセイバーに倒された後も誘拐は続いている。……坊主ならこの意味がわかるだろう?」
「……アサシンは2回倒されている?」
「そう。そして、余が与えられた知識の中に、断片的だが……球磨川禊についてのものがある」
「何故それを先に言わない!?」
「先にも何も、真名を知ったのは先程であろう。……まったく。それにしても──奴は『不死身の怪物』として名を馳せたらしい」
「不死身の怪物? 保有スキルに『戦闘続行』があるってことか?」
──スキル『戦闘続行』
名称通り戦闘を続行する為の能力で、決定的な致命傷を受けない限り生き延びる・瀕死の傷を負ってなお戦闘可能など、とにかく戦い続ける為のスキル。
ウェイバーは『不死身の怪物』という言葉を『いつまでも倒れない』と解釈したのだろう。
そしてそれは正解ではないものの、間違いと言えるほどのものでもなかった。
「良いか? よく聞け。あるサーヴァントがこう言ったらしい。
『怪物・英雄・人間には三竦みがある。
人間は怪物に敵わない。
怪物は英雄に打倒される。
英雄は普通の人間にこそ殺される』
……これでわかっただろう?」
「は? なんでだよ。むしろ良いことじゃないか。あのアサシンは『怪物』なんだろう? 『英雄』のお前が行けば勝てるじゃないか」
「思ったより回りくどくなったな……良いか? 『怪物』は『英雄』に『打倒』される。その後──『不死』故に『蘇生』する」
「は!? 待て待て待て待て待て! サーヴァントが蘇生? 再召喚じゃなく、蘇生? 馬鹿も休み休み言え。打倒されたサーヴァントは聖杯の座に集められるんだぞ? そんなことが──」
「ある。良いか? そして奴の最も恐るべき点は、ある異能を抱えていること──十中八九、宝具であろう。……もし解放されれば、余でもどうにもならん」
「お前がサーヴァントとしてどれだけ凄いのか、僕はまだ何も知らないけれど……そんな断言する程なのか?」
「断言する程だ。あれは手に負えん」
「……そうか」
この日は寝付くまで、ウェイバーが口を開くことはなかった。
ギルガメッシュが球磨川禊について話す断片的な情報から、遠坂時臣は彼の宝具の可能性に辿り着いていた。
──現実を虚構に? 因果の消滅だと?
馬鹿な。英雄の宝具でも埒外だと言うのに、人間の異能として抱えていた?
抑止力はどうなっている? 世界から存在が消えるのだぞ?
そもそも、因果の消滅……
根源。
その二文字が脳裏をよぎる。
そしてその予覚が正しいのなら、それは。
遠坂の師が使う第二魔法『並行世界の運営』ではなく。
青崎の第五魔法『魔法・青』にも該当しない『魔法』になってしまうのではないか──?
「…………認めない」
遠坂時臣の内には、名状しがたい感情が溢れ返っていた。
魔術の研鑽もなく時と運だけで乱雑に『魔法』を使い──否。
そんな素人が乱雑に扱えるようなものが『魔法』であるはずがない。
仮に遠い未来に『超能力』が『魔法』へと至ったとしても────!
あまりにも取り乱したのだろう。
ギルガメッシュに対する普段の礼節さえ忘れ、部屋を後にした。
「……フン。」
傍で控えながらワインを呷っていた綺礼の瞳に、心なしか悦の色が浮かんでいる。
その先に据えていたのは師──遠坂時臣の焦燥。
ギルガメッシュは二人に球磨川禊の情報を与えることで遠坂時臣の焦燥を駆り立て、結果的に言峰綺礼の『本性』を引き出してみせた。
彼にとっては余興だが、二人にとってこの件は重要なものとなり得るだろう。
ギルガメッシュは杯の美酒を、惜しげも無く飲み干した。
『えーっと……こっちかな?』
そして当の球磨川禊は、薄霧の立ち込める森を彷徨っていた。
言峰綺礼に命じられたキャスター討伐を果たす為だ。
勿論、球磨川禊は最初からキャスターを打倒できるとは思っていない。
ただ対峙し、その弱点を探ろうという──何の工夫もない行き当たりばったりの策。
しかし足が標的の目的地である『城』に向いているというのは──彼にとって、間違いなくプラスな要因だろう。
そしてキャスターは歓喜する。
「──叶った。すぐにもお迎えに馳せ参じまするぞ」
「アインツベルンの魔術師よ! 求める聖杯に命と誇りを賭して、いざ尋常に立ち会うがいい!」
正面の一部を瓦礫と化し、無遠慮に這入る魔術師が居た。
ケイネス・エルメロイ・アーチボルト。
時計塔の一級講師であり、生粋のエリート魔術師。
『流体操作』の魔術を得意するが、多岐に渡る魔術を扱うオールラウンダーと言っても良いだろう。
傍には『月霊髄液』を携えて進む。
途中、罠の発動機に掛かりクレイモア地雷が起動する。
直後、炸裂。
城とは言え屋内での使用は疑問視される程の威力を以て、彼の魔術師を歓迎した。
それが琴線に触れたのだろう。
魔術師には美学のようなものがある。
その最たるものが『近代兵器の使用』だと言って良い。
厳密には少し違うのだが、少なくとも彼の怒りの原因はそれだった。
「──宜しい。ならばこれは決闘ではなく誅罰だ」
嫌悪を含んだ宣言は、衛宮切嗣の耳にも届いていた。
ケイネスが無傷で済んでいるのは、単に魔術礼装の『自律防御』があったからだ。
──魔術礼装『月霊髄液』ヴォールメン・ハイドラグラム
ケイネスの持つ、最強の切り札。
その正体は、魔力を込めた水銀。
水銀の性質と膨大な質量を操る、攻防自在の魔術兵器。
これによって水銀の防護壁を形成し、爆破を避けた。
しかし、種が割れれば意味はない。
衛宮切嗣の行動は迅速だった。
トプソン・コンテンダーに魔弾を込め、上着の内側へと仕舞う。
更に、近代兵器の代表格──俗にサブマシンガンと呼ばれる大型連射銃器を片手で構え、対戦に備える。
ケイネスは衛宮切嗣の思惑を知ってか知らずか、『月霊髄液』の『自動索敵』を使用していた。
退去しようとドアノブに手を掛けると、鍵穴から鈍色の流体が──
「────っ!」
直後、背後が切り裂かれる。
流体であるが故に、そして貴金属であるが故の破壊力。
衛宮切嗣とケイネス・エルメロイの攻防が幕を開け
『ねえ。何をしているの?』
る前に、彼が乱入した。
『暗殺者』を冠し、マスター殺害と諜報活動を主軸とするサーヴァントが。
衛宮切嗣とケイネスの注意は、球磨川禊の登場によって否応無く『そちら』に向けられる。
しかし、その『好機』を──百戦錬磨の『魔術師殺し』が逃すはずもなかった。
秒にも満たぬ瞬間にトプソン・コンテンダーを引き抜き、狙いも定めぬまま射つ。
魔弾は『月霊髄液』の『自律防御』さえ突き抜け、ケイネスの左肩を穿つ。
「────っ! Scalp!」
負傷と同時に詠唱。
『斬』という命を与えられた『月霊髄液』はその刃より硬い一端を以て、衛宮切嗣へと迫る。
しかし、此処にきて尚──彼に不幸が訪れた。
『──ごふっ!』
「!?」
「…………」
衛宮切嗣へと迫る水銀は、ケイネスの意向を無視して標的を変えたのだ。
彼──球磨川禊へと。
結果。傍観していただけの球磨川禊は負傷し、ケイネスは不測の事態に動揺し、衛宮切嗣はそれに呆然としている──なんて、なんとも情けない状況が出来上がっていた。
「……ロード・エルメロイ。『魔術師はサーヴァントを打倒し得ない』というのは……知っているよな?」
「当たり前だ。霊体のサーヴァントは、同じ霊体であるサーヴァントにしか打倒し得ない。当然だ」
衛宮切嗣はケイネスを『ロード・エルメロイ』と呼んだ。
それはサーヴァントを攻撃した愚行を指した皮肉であり、聖杯戦争参加者ならば──否。
魔術師ならば知っていて当然の理を無視した蛮行を指したものでもあった。
対して、ケイネスはそれを『当然』だと切って捨てた。
大前提に齟齬はない。
ただ、目の前で白目を剥いて倒れている学ラン姿のサーヴァントの異質性が『聖杯戦争』という枠組みに収まり切らないのだ。
この光景を見た魔術師は、揃えて口にするだろう。
「……こんなに弱いサーヴァントが居るはずがない」
『人間は怪物に敵わない』
そう語った彼女も、そんな前提さえ打ち砕く例外が存在することなど、考慮しているはずがなかった。
次回「青髭と海魔」
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