Fate/Zero──Act.All Fiction   作:むい

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またタイトル詐欺に……!
次回! 次回こそは!
青髭の旦那とセイバー&ランサーが頑張りますから!


第06話 剣士の令呪

「恐怖というものには鮮度があります。怯えれば怯えるほどに、感情とは死んでいくものなのです。真の意味での恐怖とは、静的な状態ではなく変化の動態──希望が絶望へと切り替わる、その瞬間のことを言う。如何でしたか? 瑞々しく新鮮な恐怖と死の味は」

 

 

 初めて会った時に発した、この言葉を。

 彼は「COOL」と賞賛してくれた。

 

 彼の語る世界は美しいほどに醜悪で。

 醜悪こそが『本物』なのだと言っているようだった。

 それは私が抱いた存在の否定──神の不在を証明する過程の根底に近いものだ。

 

 嗚呼、世界は捨てたものではない。

 

 彼と共になら、彼女を奪った『世界』を。

 少しだけ見つめ直してみようかと思える程度には。

 

 

「さあ。聖処女よ。お迎えに馳せ参じましたぞ──!」

 

 

 

 

 

 

 

「まったく。サーヴァントになっても、君の弱さは相変わらずだね。

 サーヴァントが魔術師の礼装に打倒されるというのは、人間が猿の投げる石礫で絶命するようなものだぜ?

 どれだけ死に足りないんだよ、球磨川くん。

 生も死も平等に無価値だと主張する僕だって、もう少し慎重になりそうなものだけれどね。

 まあ、半纏に『自殺志願』と揶揄されるような僕が言っても説得力はないか。

 ともかく、君はここのところ弓兵・剣士・槍兵のマスターと負け続けなわけだ。

 わっはっは。なんだよ、この早々たるラインナップは。

 暇潰しに読んでいた『Fate/Zero』でも不遇な立場の人物ばかりじゃないか。

 うん? まだこの時代には刊行されていない?

 それは失礼した。まあ……過去も現在も未来も、僕には平等に無価値なんだけれど。

 二回目だったね。忘れてくれ。

 それじゃあね、球磨川くん。

 君の『作戦』に期待して、僕は此処で待っているよ」

 

 

 

 

 

 

 

 目が覚めたら教会──という展開ではなかった。

 むしろ、さっき倒れた城の廊下だ。

 

 外部から割られた窓ガラス。

 廊下にこびりついた血液。

 水銀の痕跡。

 

 大方。球磨川禊が倒れた後にケイネスが倒れ、ランサーが救助に来たのだろう。

 そして、球磨川禊は衛宮切嗣の『魔弾』の弱点を見切っていた。

 

 

『どんな原理かは知らないけれど、スキ──宝具も使えなさそうだ』

 

「それは買い被りすぎだ」

 

 

 背後から声がした。

 冷徹な、されど温かみの跡が滲む声。

 振り返れば、衛宮切嗣がセイバーと共に立っていた。

 

 

『……忍法かな? 僕の背後をとるなんて、姫様の懐刀なんじゃないの?』

 

「何のことかはわからないが、あの魔術礼装で打倒できるサーヴァントなら──セイバーで対処できる」

 

『……ふうん? キャスター討伐の為に来たのに、セイバーさんとまた戦うのか。やれやれ、僕にはとことん運がないみたいだ──また勝てなかった』

 

 

 球磨川禊は肩を竦めて見せ、あからさまな不戦の態度をとる。

 それを見兼ねたセイバーが口を開く。

 

 

「アサシン。貴方は聖杯戦争の最中、まともに攻撃したことがないでしょう。バーサーカーの猛攻を止めた事も含めて。そして、私の左手を……」

 

 

 そう。彼女が気づいたのは、球磨川禊が二度目の敗北を喫した後だった。

 

 消失した球磨川禊をつかんでいた左手。

 ランサーとの対戦で傷つき、動かせなくなった筈の左手。

 それが、球磨川禊を斬った直後には動くようになっていた。

 

 

「ランサーが話してくれました。この左手を戻すには、あの宝具かランサー自身をたおすより他ないと。……貴方が戦わないのは、私の負傷を背負ったからではありませんか?」

 

 

 左手の傷と、その呪いを自身へと移した。

 傷や事象を他の対象へと移動させる宝具。

 それが、セイバーの立てた推測だった。

 

 

『……悪いけど、全然違う。僕の「過負荷」は「それ」じゃない。それは、僕の後輩のものだよ』

 

 

──『過負荷』マイナス

 それは、決してプラスにならない才能。

 欠点であり、欠陥であり、欠損。

 

 ゆっくりと目を閉じ、思い出すように告げる。

 

 

『人間は無意味に生まれて、無関係生きて、無価値に死ぬに決まっている。

 世界には目標なんてなくて、人生には目的なんてない』

 

 

 そんな思想を抱きながら生きてきた人間。

 そして、そんな彼らに発症した欠点。

 それらの総称が「過負荷」──……

 

 

『わからないなら教えてあげるよ。ルール無用で戦えるのなら他のことも教えてあげる。ただ、まあ……この場でのセイバーさんは、ただの観客になって貰おう──か な!』

 

 

 不意討ちのように貫かれた身体は、壁に張り付けられる。

 瞬きをしたわけでもないのに視認できない速度。

 穿たれた瞬間にも気づかない、圧倒的な『気配』のなさ。

 これが──アサシ

 

 

『それはちょっと違うなあ。』

 

 

 一連の出来事をすべて見ていた衛宮切嗣。

 しかし、彼は表情ひとつ崩さない。

 サーヴァントを手駒としてしか考えない。

 そんな彼の下に、人間を重んじるセイバーがいる。

 そんな些細なことに、球磨川禊は何かを感じていた。

 

 

『言っておくけれど、セイバーさん。アサシンの「気配遮断」スキルってのは、奇襲の時にランクがだだ下がりするんだよ。だから、完璧な奇襲なんて──殺人鬼にしか出来ない』

 

「アサシン……貴様、元は殺人鬼だったというのか……!」

 

『おいおい、それこそ酷い誤解だ。僕は人を殺したことなんて一度もないよ。僕の「これ」は、君の「竜」と一緒だ』

 

「……貴様。私の真名を──」

 

『そんなわけないだろ。僕、勉強は苦手なんだよ。大学を諦めて就職しようと思ったくらいでね。ただ、そういうのが好きな人がいてね……教えてくれたのさ。まあ。それはともかく、そんなわけで。僕のこれは、確かに奇襲の為の「もの」には間違いないよ。実際、僕は誰にも気づかれない人間になったからね』

 

 

 誰にも気づかれない。

 その言葉の真意を知るには、同様の異能を抱えるより他ない。

 実際。その『悲劇』を知っていた人は居たが、それさえ『真意』ではなかっただろう。

 本当の意味で彼の行為を糾弾できるのは、『知られざる英雄』しか居ないのだから。

 

 

『そんなわけで、セイバーさん。君はベンチ入りだよ。なに、監督と少し話をするだけさ。気にしなくて良い──ねえ? 衛宮さん』

 

「……なんだ」

 

『見たところ、貴方とセイバーさんには類似項が見当たらない。敷いて言えば、正義の味方だということだけだ。……そんな貴方が、なぜ彼女を召喚できたのか──教えてくれないかな?』

 

「…………」

 

 

 衛宮切嗣の返答は決まっていた。

 

 召喚の触媒を答えたなら、セイバーの真名が露呈してしまう。

 その程度ならまだ策はあるが、序盤から不利な要素を持ち込むのは得策ではないだろう。避けなければならない。

 

 しかし、否と首を振れば襲ってくるに違いない。

 いくら弱いとは言っても、サーヴァントと魔術師。

 こちらが圧倒的に不利なのは間違いない。

 

 加えて、セイバーは負傷し磔刑の如く壁に縫い付けられている。

 戦線復帰するには時間が掛かる。

 

 

──止むを得ない。

 

 

 内心で呟きながら、令呪を掲げる。

 紋章が発光し、魔法の域に届かんとする奇跡の一端が流れ込む。

 

 

「──令呪を以て命ず。セイバーよ、アサシンをだと」

 

『甘ぇよ。』

 

「────っ!」

 

 

 令呪の宿った手を、セイバーと同じように壁へと縫い付ける。

 セイバーと並んで張り付けにされている風景は、やけにシュールだ。

 

 

『話し合いの最中にいきなり武力行使なんて、非道いじゃないか。綺礼ちゃんの事、とやかく言えないぜ? ま。安心してよ──』

 

 

 くるり。 と衛宮切嗣に背を向け、そのまま城を去ろうとする。

 

 

『貴方と争うつもりはないんだ。その弾、あんまり数ないんでしょ? 大事にしなよ』

 

「…………」

 

 

 そのまま立ち去ろうとする球磨川禊に、音を立てないようサブマシンガンを抜く。

 そのままトリガーを引いた。

 

 けたたましい音と共に、撃ち込まれる無数の弾丸。

 ケイネスの『月霊髄液』さえ貫いたマシンガンの残弾だ。

 

 セイバーは、そんなマスターに何を思ったのか。

 普段なら不意討ちに対し、怨嗟の一言もあろう。

 しかし、今は。今だけは、何も言わなかった。

 

 空虚な音と共に、空撃ちとなった。

 残弾を撃ち尽くしたのだろう。

 霊体化されてしまえばそれまでだが……

 薄煙が凪いだ廊下。

 アサシンの死体はそこにあった。




次回「青髭と海魔」
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