Fate/Zero──Act.All Fiction 作:むい
次回! 次回こそは!
青髭の旦那とセイバー&ランサーが頑張りますから!
「恐怖というものには鮮度があります。怯えれば怯えるほどに、感情とは死んでいくものなのです。真の意味での恐怖とは、静的な状態ではなく変化の動態──希望が絶望へと切り替わる、その瞬間のことを言う。如何でしたか? 瑞々しく新鮮な恐怖と死の味は」
初めて会った時に発した、この言葉を。
彼は「COOL」と賞賛してくれた。
彼の語る世界は美しいほどに醜悪で。
醜悪こそが『本物』なのだと言っているようだった。
それは私が抱いた存在の否定──神の不在を証明する過程の根底に近いものだ。
嗚呼、世界は捨てたものではない。
彼と共になら、彼女を奪った『世界』を。
少しだけ見つめ直してみようかと思える程度には。
「さあ。聖処女よ。お迎えに馳せ参じましたぞ──!」
「まったく。サーヴァントになっても、君の弱さは相変わらずだね。
サーヴァントが魔術師の礼装に打倒されるというのは、人間が猿の投げる石礫で絶命するようなものだぜ?
どれだけ死に足りないんだよ、球磨川くん。
生も死も平等に無価値だと主張する僕だって、もう少し慎重になりそうなものだけれどね。
まあ、半纏に『自殺志願』と揶揄されるような僕が言っても説得力はないか。
ともかく、君はここのところ弓兵・剣士・槍兵のマスターと負け続けなわけだ。
わっはっは。なんだよ、この早々たるラインナップは。
暇潰しに読んでいた『Fate/Zero』でも不遇な立場の人物ばかりじゃないか。
うん? まだこの時代には刊行されていない?
それは失礼した。まあ……過去も現在も未来も、僕には平等に無価値なんだけれど。
二回目だったね。忘れてくれ。
それじゃあね、球磨川くん。
君の『作戦』に期待して、僕は此処で待っているよ」
目が覚めたら教会──という展開ではなかった。
むしろ、さっき倒れた城の廊下だ。
外部から割られた窓ガラス。
廊下にこびりついた血液。
水銀の痕跡。
大方。球磨川禊が倒れた後にケイネスが倒れ、ランサーが救助に来たのだろう。
そして、球磨川禊は衛宮切嗣の『魔弾』の弱点を見切っていた。
『どんな原理かは知らないけれど、スキ──宝具も使えなさそうだ』
「それは買い被りすぎだ」
背後から声がした。
冷徹な、されど温かみの跡が滲む声。
振り返れば、衛宮切嗣がセイバーと共に立っていた。
『……忍法かな? 僕の背後をとるなんて、姫様の懐刀なんじゃないの?』
「何のことかはわからないが、あの魔術礼装で打倒できるサーヴァントなら──セイバーで対処できる」
『……ふうん? キャスター討伐の為に来たのに、セイバーさんとまた戦うのか。やれやれ、僕にはとことん運がないみたいだ──また勝てなかった』
球磨川禊は肩を竦めて見せ、あからさまな不戦の態度をとる。
それを見兼ねたセイバーが口を開く。
「アサシン。貴方は聖杯戦争の最中、まともに攻撃したことがないでしょう。バーサーカーの猛攻を止めた事も含めて。そして、私の左手を……」
そう。彼女が気づいたのは、球磨川禊が二度目の敗北を喫した後だった。
消失した球磨川禊をつかんでいた左手。
ランサーとの対戦で傷つき、動かせなくなった筈の左手。
それが、球磨川禊を斬った直後には動くようになっていた。
「ランサーが話してくれました。この左手を戻すには、あの宝具かランサー自身をたおすより他ないと。……貴方が戦わないのは、私の負傷を背負ったからではありませんか?」
左手の傷と、その呪いを自身へと移した。
傷や事象を他の対象へと移動させる宝具。
それが、セイバーの立てた推測だった。
『……悪いけど、全然違う。僕の「過負荷」は「それ」じゃない。それは、僕の後輩のものだよ』
──『過負荷』マイナス
それは、決してプラスにならない才能。
欠点であり、欠陥であり、欠損。
ゆっくりと目を閉じ、思い出すように告げる。
『人間は無意味に生まれて、無関係生きて、無価値に死ぬに決まっている。
世界には目標なんてなくて、人生には目的なんてない』
そんな思想を抱きながら生きてきた人間。
そして、そんな彼らに発症した欠点。
それらの総称が「過負荷」──……
『わからないなら教えてあげるよ。ルール無用で戦えるのなら他のことも教えてあげる。ただ、まあ……この場でのセイバーさんは、ただの観客になって貰おう──か な!』
不意討ちのように貫かれた身体は、壁に張り付けられる。
瞬きをしたわけでもないのに視認できない速度。
穿たれた瞬間にも気づかない、圧倒的な『気配』のなさ。
これが──アサシ
『それはちょっと違うなあ。』
一連の出来事をすべて見ていた衛宮切嗣。
しかし、彼は表情ひとつ崩さない。
サーヴァントを手駒としてしか考えない。
そんな彼の下に、人間を重んじるセイバーがいる。
そんな些細なことに、球磨川禊は何かを感じていた。
『言っておくけれど、セイバーさん。アサシンの「気配遮断」スキルってのは、奇襲の時にランクがだだ下がりするんだよ。だから、完璧な奇襲なんて──殺人鬼にしか出来ない』
「アサシン……貴様、元は殺人鬼だったというのか……!」
『おいおい、それこそ酷い誤解だ。僕は人を殺したことなんて一度もないよ。僕の「これ」は、君の「竜」と一緒だ』
「……貴様。私の真名を──」
『そんなわけないだろ。僕、勉強は苦手なんだよ。大学を諦めて就職しようと思ったくらいでね。ただ、そういうのが好きな人がいてね……教えてくれたのさ。まあ。それはともかく、そんなわけで。僕のこれは、確かに奇襲の為の「もの」には間違いないよ。実際、僕は誰にも気づかれない人間になったからね』
誰にも気づかれない。
その言葉の真意を知るには、同様の異能を抱えるより他ない。
実際。その『悲劇』を知っていた人は居たが、それさえ『真意』ではなかっただろう。
本当の意味で彼の行為を糾弾できるのは、『知られざる英雄』しか居ないのだから。
『そんなわけで、セイバーさん。君はベンチ入りだよ。なに、監督と少し話をするだけさ。気にしなくて良い──ねえ? 衛宮さん』
「……なんだ」
『見たところ、貴方とセイバーさんには類似項が見当たらない。敷いて言えば、正義の味方だということだけだ。……そんな貴方が、なぜ彼女を召喚できたのか──教えてくれないかな?』
「…………」
衛宮切嗣の返答は決まっていた。
召喚の触媒を答えたなら、セイバーの真名が露呈してしまう。
その程度ならまだ策はあるが、序盤から不利な要素を持ち込むのは得策ではないだろう。避けなければならない。
しかし、否と首を振れば襲ってくるに違いない。
いくら弱いとは言っても、サーヴァントと魔術師。
こちらが圧倒的に不利なのは間違いない。
加えて、セイバーは負傷し磔刑の如く壁に縫い付けられている。
戦線復帰するには時間が掛かる。
──止むを得ない。
内心で呟きながら、令呪を掲げる。
紋章が発光し、魔法の域に届かんとする奇跡の一端が流れ込む。
「──令呪を以て命ず。セイバーよ、アサシンをだと」
『甘ぇよ。』
「────っ!」
令呪の宿った手を、セイバーと同じように壁へと縫い付ける。
セイバーと並んで張り付けにされている風景は、やけにシュールだ。
『話し合いの最中にいきなり武力行使なんて、非道いじゃないか。綺礼ちゃんの事、とやかく言えないぜ? ま。安心してよ──』
くるり。 と衛宮切嗣に背を向け、そのまま城を去ろうとする。
『貴方と争うつもりはないんだ。その弾、あんまり数ないんでしょ? 大事にしなよ』
「…………」
そのまま立ち去ろうとする球磨川禊に、音を立てないようサブマシンガンを抜く。
そのままトリガーを引いた。
けたたましい音と共に、撃ち込まれる無数の弾丸。
ケイネスの『月霊髄液』さえ貫いたマシンガンの残弾だ。
セイバーは、そんなマスターに何を思ったのか。
普段なら不意討ちに対し、怨嗟の一言もあろう。
しかし、今は。今だけは、何も言わなかった。
空虚な音と共に、空撃ちとなった。
残弾を撃ち尽くしたのだろう。
霊体化されてしまえばそれまでだが……
薄煙が凪いだ廊下。
アサシンの死体はそこにあった。
次回「青髭と海魔」
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