Fate/Zero──Act.All Fiction   作:むい

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前回は球磨川くんを無双させすぎました。
うん。好きなんですけどね?
……『オールジョーカーズ』って言葉に聞き覚えはありますか?
『めだか箱』の『6人の問題児』を指しているんですけど。
……善吉くんが余計な事を言うから!
一撃で決着するような登場人物だらけの『Fate』で球磨川くんが死にまくるわけです!!
……ごめんね、球磨川くん。
責任は善吉くんにとって貰って?
──そんな言い訳が済んだところで、本編をどーぞ!


第08話 工房の騎兵

『ふうーん? ここが「工房」かあ……立地のせいか、まだ誰も見つけてないみたいだね。まあ、僕もひとの事は言えないかー』

 

 

 球磨川禊は例によって、キャスター討伐の為に彼を追跡していた。

 そして辿り着いたのが此処、キャスターの拠点──工房。

 

 どうやって辿り着いた──と思うかも知れないが、厳密には追跡なんてしていない。

 ただ、話を聞いただけなのだから。

 

 誘拐されて殺された子供たちを『大嘘憑き』によって蘇生させ、彼らの情報を得る。

 言葉にしてしまえば簡単なように見えるが、球磨川禊は錯乱した子供達に何度か殺されかけた。

 初撃の回避こそ出来なかったものの、子供達の『弱さ』を見切るのに時間はかからない。

 死の直前の記憶を失っていた子供も居たが、そこはそれ。

 そんなトラウマは忘れてしまったほうが子供の為だろう──などとは思わなかったが、気にならなかった。

 

 

『……にしても、これはないよねー』

 

 

 彼が『ない』と言ったのは、防衛システムのように放たれている無数の海魔のことだ。

 無限に召喚できるのを良いことに、山ほど放っているとは。

 

 

『まあ、単純だけど堅実な作戦だね。それにしても……物量か』

 

 

 スッ と両手に巨大な螺子を構える。

 それを皮切りに、海魔の群れが襲いかかって来た。

 嘆息しながら呟く。

 

 

『時間がかかりそうだなあ……』

 

 

 

 

 

 

 

 海魔もその数を半数以下にまで減らされ、通路の中腹を過ぎた頃。

 正直に言えば、彼の体力は尽き掛けていた。

 肩で息をし、学ランもダメージ仕様のようなほつれ方をしている。

 身体の各所にも少なくない出血が見て取れた。

 

 しかし、時間にしてみれば半刻も経っていないのだ。

 その点では、キャスターと対峙したセイバーとランサーの両名よりも善戦していると言って良いだろう──ただし。

 元々が白兵戦用のサーヴァントではないから、と言うだけでは説明がつかない程の非力さは全舌に尽くし難いものがある。

 

 そして、そんな通路を何かが近づいてくる。

 移動音が響き、海魔は球磨川禊の背後へと襲いかかって行く。

 

 

『……えーっと? これはチャンスなのかな?』

 

 

 行く手を阻む海魔の大半が過ぎ去って行った為に、先は閑散としている。

 そして、移動音は段々と此方に近づいていた。

 

 

『……なんか嫌な予感がする。そう言えば、安心院さんが読んでた推理小説に似たような展開があったっけ……』

 

 

 既に殆ど残っていない体力を振り絞って、先へ進む。

 すると、そこは──

 

 

『うわお。……アートだね』

 

 

 そう呟いた球磨川禊は、果たして知っていただろうか。

 キャスターと、そのマスターたる雨宮龍之介が──そこに並べられた形を保ってさえいない死体の山を『芸術作品』と称していたことを。

 

 そして轟音と共に、雄牛の引く戦車が隣へと並び立った。

 

 

「……む。アサシンか」

 

『やあ、イスカンダルさん。お久しぶり。元気だった?』

 

「うむ。久しいと言う程ではないが……しかし、アサシン。何故ここに居る?」

 

『そんなの決まっているじゃないか──君を待っていたんだよ』

 

 

 その一言で、ウェイバーを怖気が襲う。

 奇妙な視線を感じるのもあるが──と、工房を見渡し。

 

 目が合った。

 

 辛うじて息をしている、しかし既に原形を留めない程に殺し尽くされ、醜悪な『芸術』へと変わり果てた──ひとりの少女。

 

 ウェイバーは、他にも視線を感じていた。

 しかし、そのすべてが彼女と同じような惨状なら……

 

 

「それでいいんだよ」

 

 

 ウェイバーに向けたのだろうその言葉は、イスカンダルの偽らざる本心だ。

 実際、嫌悪によって憤怒の情を駆り立てられた彼は、俗に言う『鬼の形相』を浮かべている。

 

 対照的に、球磨川禊はこの場に不相応な清涼感溢れる笑みを浮かべている。

 

 どこまでも怪物なのだ。

 どこまでも相入れないのだ。

 

 そんな言葉が脳裏をかすめ、思考を停止せんと侵す。

 

 

『…………イスカンダルさん。その子、具合が悪そうだ。どうせキャスターの情報でも探りに来たんだろうけど、無駄足だったみたいだ……僕が隠れ家を見つけられる筈がないと思っていたけれど、そういうことか』

 

 

──また勝てなかった。

 

 

 その言葉を口にしなかったのは、少年への配慮だったのか。

 それとも、キャスターに思うところがあったのか。

 そのまま、独白のように続ける。

 

 

『僕は此処でキャスターが戻るのを少し待つよ。だから、イスカンダルさん達は帰ったほうが良い』

 

 彼は、酷く真面目な表情を向けて言った。

 

 

 

 

 

 

 

「この人たちは、僕が『しあわせ』にするから」

 

 

 

 

 

 

 

 作業が終わったのは、日付が変わる直前だった。

 『芸術作品』にされていた人たちの身体を戻し、情報を引き出した後に記憶を消して解放する。

 

 例によって得た情報は断片的だったが、キャスターの人物像や宝具。そして『弱さ』を看破することは出来た。

 快楽殺人という共通項を持った主従。

 

 

『……それはもう、過負荷(マイナス)とさえ言えないぜ。

 そんなのはもう、人じゃない。

 化物でも怪物でも人外でもない。ただの──』

 

 

 噛み締めた唇から、血が滴る。

 握り込んだ手のひらに、激痛がはしる。

 

 ……やはり、自分はぬるくなったらしい。

 『しあわせ』を経験し過ぎた。

 箱庭学園に転校した当時なら、こんな思いを抱く余地もなかっただろう。

 

 彼は八つ当たり気味に、巨大な螺子を空間の中央に螺子込む。

 そのまま足で踏み込み、ヘッドが地に埋まる。

 そんな行為を五、六回ほど繰り返して、きびすを返す。

 

 

『……さて。ライダーさんが言ってた酒宴の会場って、あのお城だったよね──』

 

 

 

 

 

 

 

 港湾地区爆破テロ。

 ビル爆破倒壊事件。

 連続児童誘拐殺人事件。

 酒蔵襲撃酒樽強奪事件。

 

 最後のサーヴァント──キャスターが召喚され、聖杯戦争が始まってから僅か六日。

 それだけしか経過していないにも関わらず、センセーショナルな事件が多発していた。

 ……神秘の秘匿を尊守する教会の意向をことごとく無視する形で。

 

 故に監督役・言峰璃正は、その始末に追われていた。

 彼の立場からすれば、アサシン──球磨川禊が行った『殺されたはずの児童が親元に戻った』ことは喜ばしい事と言える。

 仕事の一部を、考えられる限り円満に解決してくれたようなものなのだから。

 

 ただしそれは、キャスターが児童誘拐殺人を繰り返さない事が前提だ。

 いくら死んでも戻せるから──と放っておくと『神秘の秘匿』が成り立たない。

 

 故に事件が停止した今も、キャスター討伐のルール変更はそのままだった。

 

 

 

 

 

 

 

『わお。思ったより多いね。あとはランサーさんが居れば、話の通じる人は全員揃ったことになるのかな?』

 

 

 霊体化による移動をすれば、キャスターの工房からアインツベルンの城まで数秒も掛からない。

 その中庭には、騎士王・英雄王・征服王が酒を囲んでいた。

 

 

「アサシン……何故ここに?」

 

「余が誘った。おう、アサシン。来い、語らおうぞ。先程、この酒宴の趣旨に名を付けたところでな──聖杯問答という」

 

『うわあ! 格好いいね! 僕も参加して良いの? 禅問答』

 

「勿論だ。ほれ、駆付け一杯」

 

 

 イスカンダルはギルガメッシュの『王の酒』ではなく、自身の略奪したワイン樽より汲んだ柄杓──球磨川禊にはそう見えた──を手向ける。

 

 それを躊躇なく受け取り、一息に飲み干す。

 学生服の男子がワインを飲むという、何とも犯罪チックな光景だった。

 

 

『うーん……お酒って、思ったより美味しくないなあ……ねえ、えーっと……モブキャラ君』

 

「僕のことかよ!」

 

 

 その場に人間の男子がウェイバーしか居なかったこともあるのだろう。即座に反応した。

 イスカンダルは眉根を寄せて言う。

 

 

「おい。あの坊主は余のマスターだぞ? お前が呼ぶのなら名前で呼べ。ウェイバーという」

 

『へえ。ふーん。……はじめまして、ウェイバー君。ところで、お茶か水はないかな? 酒宴って、必ずしもお酒を飲まないといけないわけじゃないでしょう?』

 

「ああ……えっと……アインツベルン。そう言ってるんだが、城に飲み物は──」

 

「不要だ」

 

 

 ウェイバーの言葉を遮り、ギルガメッシュが口を開く。

 虚空よりまた異なる容器を取り出した。

 

 

「我が宝物庫の財に、茶のひとつもないと思ってか? 至高の財を集めた、この我の宝物庫だぞ?」

 

 

 球磨川禊は躊躇なく余っていた蓋を開き、杯に注ぐ。

 琥珀色の液体が放つ香りは、紛れもなく茶葉のものだった。

 それを煽り、一息つく。

 

 

『んっ。美味しい。』

 

「当然だ」

 

 

 思わぬ時間を取られたが──と、征服王は問答を再開した。




次回「混沌よりも這い寄るマイナス」
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