此度は私にしてはおそらく珍しいであろうほのぼの系となっております
あいも変わらぬ拙い作品となっているかもしれませんがどうかお付き合いくださいませ
それでは本編どうぞ
『お、大人になったら結婚してください!』
それは無知故に、幼稚故にでた言葉であった。出会って間もない女の子にこんなことを言うなんて、我ながらどうかしていたと思う。だけど・・・・・あれは幼いながら本気の願いだった。本気のプロポーズだった。嘘偽りなどない、純粋な想いだった。
『ん・・・・よくわからないけど、わかった』
彼女は俺のプロポーズにそう返した。今思えば、俺の言っている言葉の意味など一切分からずに、とりあえず返事を返してしまっただけなのだろう。でも・・・・それでも嬉しかった。年相応にはしゃいで、そんな俺を、彼女は不思議そうに見つめていて。
あの時のことは、あの喜びは・・・・・今でもはっきりと覚えている。
「・・・・・懐かしい夢」
俺は、見慣れた天井を眺めながら、先程まで見ていた夢に思いを馳せていた。
「もう10年か」
あれは10年前のことだった。あまりにも突然の出会い・・・・にも関わらず、プロポーズした俺。
・・・・・・・我ながら頭が痛くなるほどに幼稚だ。あの時の自分に小一時間ほど説教してやりたい。
「・・・・今何時だ?」
布団の近くに置いてあった携帯で時間を確認する。時刻は5時・・・・・起きるにはまだ早すぎる時間だ。だが、どうにも目が冴えてしまったので、二度寝をきめこむこともできそうにない。
「・・・・・・仕方ないか」
どうせ6時には朝ご飯作るんだ。1時間ぐらい適当に時間を潰してるのも悪くない。
俺は布団を片付けて、ひとまず部屋から出た。
「・・・・咲良、おはよう」
居間でコーヒーを飲みながら本を読む俺に、声をかけてくる者が一人。
「ああ、おはようオーフィス」
彼女はオーフィス。この家で、俺と共に暮らす女の子だ。
10年前のことだった。
『咲良、こいつはオーフィス。今日からこいつと一緒に暮らすことになった』
ある日突然、女の子、オーフィスを連れてきた爺さんがそんなことを言ってきた。当時7歳だった俺は『何言ってんだこの爺?とうとうボケて頭いかれたか?』とか思ったが、それは一瞬のこと。俺は・・・・俺の視線は、思考はオーフィスに集中してしまった。
自分とそう大して歳の変わらなそうな幼い見た目のオーフィス。無表情で儚げな雰囲気を身にまとっていたオーフィス。まるで、俺の全てを飲み込んでしまいそうなほどの大きな何かを秘めたオーフィス。
俺はそんなオーフィスに・・・・・一目ぼれしてしまった。
『・・・・誰?』
『お、俺は・・・・咲良。湊内咲良』
オーフィスに問われ、俺は答える。緊張で心臓がバクバク鳴っていた。
そして俺は・・・・出会って間もないオーフィスにとんでもないことをやらかしてしまった。
『お、大人になったら結婚してください!』
『ん・・・・よくわからないけど、わかった』
まさかのプロポーズだ。俺の人生で間違いなくぶっちぎりのトチ狂った行動である。しかもこの後、返事をもらえたことに嬉しくなって舞い上がってしまっていた・・・・まったくもって無知で幼稚だ。
オーフィスがこの世界で最強の『無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)』と呼ばれる存在であることを知らず、この時のオーフィスが故郷に帰ることを何よりも望んでいたことも、知らず・・・・・本当に無知で、幼稚なガキだった。
まあ、ともあれこれが俺とオーフィスの出会いである。
「随分早いな。まだ5時過ぎだぞ?」
いつもなら7時ぐらいまでは寝ているオーフィス。この時間に起きているのは本当に珍しい。
「廊下から足音が聞こえた」
「っと、俺が起こしちゃったのか。ごめんな」
「別にいい。気にしてない」
そう言って、オーフィスは俺の膝の上に座る。なんでも、ここはオーフィスお気に入りの特等席らしい。
「起きちゃったなら朝ご飯作ろうか?」
「我、もう少しこうしていたい」
俺の胸に背を預けながら言うオーフィス。ご飯はまだいいらしい。
「そか。じゃあどうするかなぁ・・・・・」
「・・・・これ、飲んでいい?」
オーフィスはコーヒーの入ったカップを指差す。
「いいけど・・・・これブラックだぞ?飲めるか?」
「いい。飲む」
オーフィスは普段コーヒーを飲む時、カフェオレになるぐらいミルクと砂糖をたっぷり入れる。ブラックなど飲んだことない。
カップを手に取り、コーヒーを口に含むオーフィス。てか、これって間接キス・・・・・ま、まあいいか。うん・・・・本人気にしてないみたいだし。いや、そもそも間接キス自体知ってるかわからんけども。
「・・・・・」
「ん?どうした?」
一口コーヒーを飲んだオーフィスは無言で固まる。表情は変わらないが、雰囲気が若干げんなりしているので尋ねてみると・・・・
「・・・・・苦い」
案の定であった。ブラックのコーヒーはオーフィスの口には合わなかったらしい。
「だから言っただろ・・・・ちょっと待ってろ。砂糖とミルク持ってくるから」
「このままでいい。飲む」
砂糖とミルクを持って来ようとするが、オーフィスはそれを拒否してちびちびと苦いコーヒーを飲む。
「いや、無理するなよ」
「無理じゃない。飲む」
一体何故こんなにも頑ななのだろうか?確かに普段から無表情ゆえに何を考えているかわからないことはあるが、今は殊更わからん。
「・・・・・飲めた」
しばらくして、コーヒーを飲みきったオーフィス。相変わらずげんなりしているが、同時にどこか誇らしげにも見える。
「まったく・・・・どうして無理してまで飲んだんだ?」
「無理してない」
「それはいいから。それで?どうしてなんだ?」
「ブラックコーヒーは大人の飲み物。電話で伊槻が言ってたから」
「・・・・は?」
オーフィスの言ってることの意味がまったくもって分からなかった。
伊槻というのは俺の爺さんのことだ。湊内伊槻・・・・世界を股にかけるミステリー・ハンターを自称し、現在は世界中を飛び回っていて年に数回しか帰ってこない。
いや、まあ爺さんがどういう人物なのかはさておいて、爺さんの言うことを間に受けてコーヒーをブラックで飲んだということは、オーフィスは大人になりたがっているということか?確かに純粋さ故にオーフィスは子供っぽく見える。だが、現実としてオーフィスは途方もなく長い時を生きた龍神だ。正直大人もなにもあったものはないと思う。
そもそも、オーフィスがそんなことを気にするとは思えない。だというのに・・・・・一体どうしたというのだ?
「えっと・・・・オーフィスは大人になりたいのか?」
「うん」
「なんでまたそんな風に思ったんだ?」
「大人になれば結婚できる」
・・・・・え?結婚?
「夢を見た。咲良と初めて会ったときの夢。あの時咲良言ってた。大人になったら結婚してって。だから我、ブラックコーヒー飲んで大人になった。咲良も我もブラックコーヒー飲める大人。だから結婚できる」
「いやいやいや・・・・・ちょっと待ってくれオーフィス。整理するから」
確かに、初めて会ったとき俺はオーフィスにそう言った。無知で稚拙な・・・それでも本気のプロポーズ。オーフィスはそんな昔のこと覚えてないと思っていたんだが、どうやら覚えていてくれたらしい・・・・嬉しくもあるが、正直恥ずかしい。
いや、俺が恥ずかしさは一旦置いておいて・・・・オーフィスは昔の俺のプロポーズを覚えていて、だから大人になりたがって・・・・・それってもしかして?
「オーフィス。お前は俺と・・・・結婚したいのか?」
「うん。我、咲良と結婚したい」
「ッ!?」
その言葉で俺の心は歓喜で満たされた。10年前に初めてであったあの時からずっとずっと好きだったオーフィス。時が経つにつれ、オーフィスのことを知るにつれその気持ちは大きくなっていって・・・・幼い時に抱いた『オーフィスと結婚したい』という願いは今も抱き続けていて・・・・
そして今、俺はオーフィスに結婚したいと言われた。こんなに嬉しいことがほかにあるだろうか。
いや待て、落ち着け俺・・・・・オーフィスのことだ。結婚の意味がわかってるかどうか確かめなければ・・・・
「オーフィス、一応聞くが・・・・結婚ってどういうことかわかってるか?」
「わかってる。家族になること。それが結婚」
・・・・間違ってはいない。間違ってはいないけれど・・・・
「あのなオーフィス?結婚っていうのは確かに家族になることでもあるんだが・・・・ちょっと認識が違うんだ。結婚っていうのは好きな人同士でするもので・・・・」
「我、咲良のこと好き。咲良は我のこと好きじゃない?」
「好きです」
俺は迷うことなく即答した。そりゃ好きじゃないだなんてありえないからな。
「なら我と咲良好き同士。結婚できる」
「いやごめん、そういうわけじゃないんだ。例えば・・・・そうだ、爺さんだ。オーフィス爺さんのこと好きだろ?」
「うん。我、伊槻のこと好き」
・・・・・自分で聞いといてなんだけど爺さんに殺意が湧いた。いや、オーフィスの言う好きは恋愛感情でなく、親愛の方だってわかってるんだけどな。それを言うなら俺に対する感情も親愛なんだろうけども。
「咲良どうかした?」
どうやら爺さんに対する殺意を感じ取ったらしく尋ねてくるオーフィス。
「いや何でもない気にするな。それはともかく、爺さんもまあ、オーフィスのこと好きだと思ってだろう。オーフィスと爺さんも好き同士ならオーフィスは爺さんとも結婚するってことになるだろ?だけど結婚は・・・・」
「それはない」
「え?」
オーフィスは俺が言い終える前に、はっきりと否定した。
「伊槻のことは好き。でも、結婚はしたくない。結婚したいの咲良とだけ。咲良以外とは結婚したくない」
「・・・・・・マジかー」
爺さんのことは好きでも結婚したくはない。俺のことは好きで結婚したい。
結婚の意味自体、オーフィスは正しく理解しているわけではないだろう。けど・・・・それでも、俺のことは他の誰とも違う、特別な存在として見てくれている。それは間違いない。
やばいな・・・・・普通に嬉しすぎる。
「なあオーフィス。俺もオーフィスと結婚したいよ。その願いは、10年前に初めて出会った時から変わらない。だけど・・・・・俺はまだオーフィスと結婚できるような大人じゃないんだ」
「ブラックコーヒー飲めるのに?」
「うん。コーヒーをブラックで飲めたところで大人になれるわけではないからね。そもそも、大人でもコーヒーをブラックで飲めない人はいくらでもいるし」
「・・・・伊槻、我に嘘をついた?」
「それについては今度一緒に爺さんを説教しようか」
純粋なオーフィスに適当教えやがって・・・・・次帰ってきたとき覚悟しやがれよあのクソ爺。
「まあ、オーフィスはともかくとして俺はまだ大人じゃない。だから結婚はできないんだ」
「・・・・・咲良は我と結婚したくない?」
無表情ながらも不安げに聞いてくるオーフィス。
「そんなことないよ。さっきも言ったようにオーフィスと結婚したいという願いは今も変わらない。俺だって出来ることなら今すぐにでも結婚したいさ。けど、俺はまだ大人じゃないんだ。だから・・・・・俺が大人になるまで待っててくれないか?」
「・・・・どれぐらい待ってればいい?」
「そうだな、少なくとも高校は卒業しないとだから・・・・あと2年ぐらいかな」
まあ高校卒業したからって大人になるってわけでもないけど・・・・・そこはなんとかなるだろう。というかなんとかしよう。
「2年・・・・・わかった。我、2年待つ。待ったら結婚」
「ああ、約束だ。指きりしよう」
「ん」
小指を絡め、オーフィスと結婚の約束を交わす。
あの頃とは違う・・・・・今の俺は無知ではなく、稚拙でもない。だけど・・・・・オーフィスとの結婚。その願いは・・・・あの頃とはなにも違ってはいない。
「大人になったら結婚してください」
「うん。我、咲良と結婚する」
相変わらず無表情なオーフィス。だけど、俺にはわかる。
彼女はとても嬉しそうだった。
しょっぱなから結婚の話という
どうしてこうなったかといえばオーフィスちゃんがが可愛いからとしか言えません
ご拝聴ありがとうございました