今回は七夕のお話になります。七夕要素は薄いかもしれませんが・・・・・・
それでは本編どうぞ
「毎年ながら、何ともまあ立派な笹だ」
我が家の庭に生える、背の高い立派な笹を見ながら俺は思わず呟く。
今日は7月7日の七夕。我が家では定番の爺さんのなんかよくわけのわからない力で毎年この日にだけ庭に笹が出現する。どういう原理で笹が出ているのかはわからないが、そこは爺さんだからと納得せざるを得ない。
ただ、強いて問題を上げるとするならば、これだけ立派だともはや竹なのでは?と思うことだろう。大雑把な区分になるが、笹と竹の違いは大きさであるらしく、その理論でいけば俺の眼には庭にあるのは竹ということになるのだが、爺さんは茎やら枝やら葉っぱなどからこれは笹だと主張している。色々と細かい区分があるらしいが、正直そこまで興味はないのであまり気にしないでおこう。
「確かに庭の笹も気になるけど、私としてはそっちの方が気になるにゃ」
「同感です姉さま」
俺の作った七夕では定番とされるお菓子、索餅を食べ、俺の方に視線を向けながら言う黒歌と白音。いや、正確には視線を向けられているのは俺だけではない。俺と、俺にべったりとひっついているオーフィスに視線は向けられている。
「オーフィスが俺にべったりなのはいつものことだと思うが?」
「その発言に想うところはあるけど、今は突っ込まないにゃ。それよりも・・・・・」
「私達の眼には、いつも以上にスキンシップが密接なような気がします」
どうやら黒歌と白音の眼にはいつも以上にひっついているように見えるらしい。だが、言われてみれば確かにいつもよりも密着具合がいくらか増しているようにも感じられる。しかも、いつなら索餅をたくさん頬張っていてもおかしくないところなのに、それさえせずに俺の傍にいることに夢中といった感じだ。
「オーフィス、どうかしたのか?」
「・・・・・我、織姫と彦星のようにはなりたくない」
「え?」
「織姫と彦星は一年に一度しか会えない。我は、咲良とそんなふうになるのは絶対に嫌。だから我、咲良にひっついてる」
ああ、なるほど。おおよそ合点がいったぞ。
七夕というのは様々な事情により離れ離れになった織姫と彦星が一年に一度会える日でもある。その事情に関しては思うところはあれ、世間的にはロマンチックだと思う者もいるかもしれないが、オーフィスはそんな風には捉えていないのだろう。
一年一度会えても、残り364日も会えないというのはオーフィスには耐えられないことなのだろう。故に、離れたくないという気持ちが強くなってこうして俺にひっついているといったところかな。
「咲良、暖かい。近くにいると安心する。離したくない。今日一日はずっとひっついてる」
「わかった。それじゃあ今日はずっとこうしてるか」
「「私達の意見は聞いてさえもらえないんですかそうですか」」
ひしっと抱き着いてくるオーフィスを抱き返す俺。そんな俺達を、達観とした死んだ目で見てくる黒歌と白音。うん、何というかごめん。
「まあ、二人の過剰なイチャつきは今に始まったことじゃないからいいにゃ。それよりも短冊と飾りって用意してあったでしょ?飾って来るわ」
「お?やってくれるのか?」
「そんなにべったりじゃ動きにくいでしょ?それぐらいやってあげるわ」
「姉さま、私も手伝います」
「ありがとう白音。それで、短冊は?」
「それならそっちの部屋にあるよ」
俺は短冊と飾りの置いてある部屋を指さした。
「コネ部屋ね。まあ、せっかくだし二人の願いごとをこっそりじゃなくて穴が開くほどじっくりと見せて・・・・・」
「お姉さま?どうし・・・・ました?」
なぜか部屋にある短冊を目にしたとたん硬直しだす黒歌と白音。どうしたというのだろう?
「ねえ咲良」
「なんだ?」
「なんか『オーフィスと末永く一緒に居られますように』って短冊と『咲良とずっと一緒に居られますように』って書かれた短冊が思わずドン引きしそうなほどの数あるんだけど・・・・・」
「ああ、それな。たくさん用意すればご利益も増すかなって」
「それにしたって数が尋常じゃないのですが・・・・・」
「我、頑張った」
どこか誇らしげに言うオーフィス。まあ、俺もあれだけの数を書くのは結構骨は折れたな。数に関しては100を超えたあたりから数えていないけど。
「これ、吊るす場所足りてますか?」
「あ、そこは大丈夫。オーフィスとギリギリ吊るせるように調整したから。もちろん二人が吊るすスペースも確保してある」
本当にギリギリだから笹がほぼ短冊に埋め尽くされてしまうだろうが、まあ見かけが華やかになるからいいだろう。
「・・・・白音、やるわよ」
「・・・・了解です姉さま」
なぜか据わった目をした黒歌と白音が、短冊と飾りを持って笹へと突貫していった。なぜだか敬礼したい気持ちになったが、オーフィスを抱きしめるのに手がふさがっているので無理だった。
「頑張るなぁあの二人」
「黒歌も白音も働き者」
「そうだな。ほら、索餅食べな。あーん」
「あーん」
「「ひとが頑張ってる最中にイチャつくのやめて!?」」
「つ、疲れたにゃ・・・・・」
「悪魔の仕事よりもしんどかったです・・・・」
夕食であるちらしそうめんをぐったりとした様子で食べながら黒歌と白音が言う。
「本当にお疲れ様。たくさん作ったから存分に食べな。オーフィスもほら、あーん」
「あーん」
「「だからやめてって!!」」
憑かれてはいるようだが、それでも突っ込む気力はまだまだ残っているようだ。まあ、突っ込ませている俺が言うことでもないのだが。
「ところで咲良、美味しいからいいんだけど今日はどうしてちらしそうめんなのかしら?」
「ああ、なんでもそうめんは七夕に食べられる風習のものらしい。それで今回作ってみたんだよ。ちなみにおやつに出してた索餅も七夕由来のものらしい」
「なるほど、咲良先輩、食べ物のことは色々と詳しいですね」
「まあ料理は俺の数少ない得意分野だからそれぐらいはな」
俺から料理をとったらそれこそ凡人の中の凡人になり下がるだろうし。こればっかりはそれなりに極めたい。
「でも今日ってずっとオーフィスとひっついてるのよね?今だって当然のように咲良の膝の上にいるし」
いつもは食事の時は行儀が悪いからと膝には座っていないオーフィスだが、今日は特別に俺の膝の上に座りそうめんを食べている。まあ、たまに食べ差し合いっこしたりもしているが。
「料理は今日はオーフィスと二人で作ったよ。ひっつきながらだから大変かなと思ったけど、むしろいつもより捗ったぐらいだ」
「当然。我と咲良の愛の力が為せる技」
「「はいはい、ごちそうさまです」」
「え?二人共もうごちそうさまか?働いた後なのにいつもより小食だな」
「そういう意味じゃないにゃ・・・・・」
「咲良先輩はやっぱりどこか抜けています・・・・・・」
なぜか二人に飽きられてしまった。なにか俺はおかしなことを言ったのだろうか?
「抜けてる咲良も我好き」
よくはわからんがオーフィスは好きと言ってくれているし、まあいっか。
「もうすぐ七夕も終わるな」
もうまもなく時計の針が二つとも真上を向くかという時間。布団の中でオーフィスを抱きしめながら俺は言う。
「今日一日ずっとこうしてたわけだけどどうだった?」
「すごくよかった。やっぱり咲良の傍は心地いい」
「それは何よりだ・・・・・明日からも今日みたいにずっとひっついてるか?」
「ううん。そうしたら咲良に迷惑がかかるって我でもわかる。だから、ずっとひっついてるのは今日だけ」
どうやらオーフィスは俺の迷惑を考えてくれているらしい。まあ確かに、今日は特に問題なかったが、学校もあるしずっとっていうのは難しいし過剰になると日常生活に影響が出る。だからオーフィスが退いてくれたのはいいのだが・・・・・うん、やっぱりどこか少し寂しいものがある。
「だけど・・・・・来年の今日、七夕の日は咲良とひっついてる。再来年もその次も・・・・・何年先の七夕も、ずっとずっと」
「・・・・そうか」
「咲良も、七夕の日はずっと我とひっついててくれる?ずっと我の傍にいてくれる?」
「そうだな。七夕の日は・・・・・ずっと傍にいるよ。何年先の七夕の日もずっと」
俺が生き続ける限り・・・・・その言葉が口から出かけたが、すんでのところで飲み込んだ。
きっとその言葉を口にしてしまえば・・・・・オーフィスは悲しんでしまうだろうから。
「一緒。何年先も、何十年先も、何百年先も、我と咲良はずっと一緒」
「オーフィス・・・・・・」
「咲良・・・・・おやすみ」
俺を抱きしめたまま、オーフィスは目を瞑り眠り始めた。
ずっと一緒か・・・・・俺は一体、いつまでオーフィスと一緒に居られるんだろうか。
どうか『末永く』が、可能な限り長く続いていくことを・・・・・願うばかりだ。
実際ずっとひっついてると生活に支障でるんだろうけど、この二人なら一日ぐらいは普通にこなせそう・・・・・
というか一日中オーフィスちゃんとひっつけるとか爆殺したほど羨ましい(血涙)
それではこれにて失礼します