ソードアート・オンライン~知られざる天才剣士~   作:モフノリ

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レインという少年

 もしかしたらという思いでキリトはレインを呼ぶためのメッセージを送った。

 彼のことだからレベリングをするだの、攻略をするだの言って来ない確率の方が高いと思っていたのだが、

 

『わかった』

 

 という彼らしい簡素なメッセージが届いたときは一度メッセージを閉じて差出人を確認してもう一度メッセージの内容を確認するほどには驚いた。

 今朝起きたユイにレインが来るということを教えなくてはと、ソファーに座って楽しそうに談笑しているアスナとしてはユイに近づく。

 自然とあけられたアスナと反対側のユイの隣に座る。

 

「レインが来てくれるってさ」

 

 レインのことを詳しくは知らないアスナだが、キリトが奴ならわかるかもしれないということを伝えると快く彼を呼ぶことに賛成してくれた。

 

「れいん?」

 

 首を傾げるユイに可愛いなと思うあたり、もう気持ちは父親なのだろう。

 

「うん。レインっていうパパの友達が来てくれるんだ」

 

「レインが来たらお出迎えしよっか」

 

「する!」

 

 アスナがユイに言うとユイは満面の笑顔で返事をした。

 

「じゃあ、レインが来たら、いらっしゃい、レインって言ってね」

 

「いらっしゃい、レイン!」

 

 お出迎えの練習をし始める母親と娘を前に思わず、顔がにやける。

 出会ってまもなくはあるが、そこには暖かな家族の風景があった。

 

 

 そうこうしていると、ドアが叩かれる。

 予想よりも早くレインが来たのだろう。

 

「どうぞ」

 

「しつれいする」

 

 遠慮なく扉が開かれる。

 慌ててユイが扉に駆け寄っていく。

 

「いらっしゃい、レイン」

 

 練習の成果もあってか、元気で可愛いお出迎えに微笑んでしまう。

 のんびりとした様子でキリトもユイのあとをついていった。

 ユイのことなんて紹介しようかと考えていたキリトだったが、レインの様子をみて言葉を失った。

 

「フィーネ」

 

 呟くようにそう言ったレインは入り口で佇み、ただただ涙を流していた。

 あれほどにも強く、片腕を失っても戦意を落とすどころかむしろ、それまで以上に果敢にグリームアイズと戦っていたレインからは想像もできなかった。

 彼が涙を流すなどないも思っていた。

 そんなキリトの考えを打ち消すように、無表情で無愛想だが、誰よりも強くあろうとする彼の姿はそこにはなかった。

 あまりのことにキリトは棒立ちになっていたが、ユイが心配そうにレインに近づく。

 それにつられるようにレインはしゃがんでユイと目線を合わせた。

 

「大丈夫?」

 

 ユイがレインの頬に触れながら声をかけると、レインはさらに涙を溢れさせ、顔を歪めて思い切り抱きついた。

 

「ごめん、弱くてごめん」

 

 泣きながら謝るレインをみて、キリトはここにいてはいけないと反射的に思い、踵をかえす。

 

「キリト君?」

 

 お茶の準備をしていたアスナがやって来たが、ちらりとレインの様子を見た彼女はキリトに並んでその場から離れた。

 ログハウスの玄関はリビングと繋がっているので、二人は寝室でレインが落ち着くのを待つことにした。

 あんなにも弱々しいレインは見たことがない。

 無茶をして心配が絶えない弟のような、強くて頼りがいのある兄のような、キリトにとってレインはそんな存在だった。

 動揺でなにも言えずにいるキリトの手をアスナが握る。

 

「キリト君、レインのこと、教えてもらうことってできる?」

 

 聞いてくるアスナからは、たとえ夫婦であってもレインのことから聞いていいのかわからないという気持ちが伝わってきた。

 少し悩んだが、もしかしたらユイと関係があるかもしれない、と思ったキリトは、レインが異邦人だということや、アインクラッドには途中からやって来たこと、それから元の世界でも命をかけて戦っていたらしいことを伝えた。

 もしかしたら、そんなことを信じている頭のおかしいやつだとか思われるかもしれないと、そんな非現実的な事があるわけないと、レインはきっと嘘をついていると言われる覚悟をしたが、以外にもあっさりとアスナは認めてくれた。

 

「そっか。だからレインはあんなにも強いんだね」

 

 そこの事に驚きつつもキリトは会話を続ける。

 

「ああ。レベル一で三十七層のモンスターを一人で倒すようなやつだからな。黙ってて悪かった」

 

「そんな内容じゃ仕方ないよ。グリームアイズと戦ってたレインを見たから信じられるけど、それが無かったら私は信じられなかったと思う」

 

 たしかに、あの時のレインの強さは尋常ではなかった。

 ただでさえメインアームではない槍を使っていたにも関わらず、恐れることなくボスと戦うレインは本物の戦士だと再認識させられたほどだ。

 この世界では黒の剣士キリトだが、現実世界にもどれば結局のところただの餓鬼だ。

 でも、レインはこの世界だけではなく、現実世界でも剣士であることは間違いない。

 ずっと命をかけてきたからこそ、あれだけの戦いが出来ていたのだろう。

 

「あのね、私ずっと不思議に思ってたの。どうしてレインの表情はあまり動かないんだろうって。この世界って感情表情って大げさになるじゃない?なのに、レインは不機嫌な時とかは表情に出るんだけど、基本的にあまり感情を感じられなかった」

 

「うん。だから、さっきレインが泣いてた時、驚いた」

 

 少しの沈黙のあとアスナは口を開いた。

 

「私もキリト君が死んじゃったらきっとあんな風になっちゃうかもしれないなって思ったの」

 

 静かな部屋にアスナの悲しい声が響く。

 心なしか、手を握っているアスナの力が強くなっている気がする。

 

「それは――」

 

「パパ、ママ」

 

 少し控えめなユイが呼ぶ声が聞こえた。

 慌ててユイとレインのところに戻ると、未だにユイに抱きついて肩に顔を埋めるレインと、困った様子のユイがこちらを見ていた。

 

「レイン、寝ちゃった」

 

「まじか」

 

 まさかあのレインが泣き疲れて寝てしまうなどとは思わなかった。

 

「おい、レイン」

 

「まってパパ」

 

 レインを起こそうと声をかけると、ユイが止めてきた。

 でかい男にもたれかかられて重いようで、踏ん張って立っているのがわかる。

 とりあえず、ユイの負担が減るように支える。

 

「どうしたんだ?」

 

「寝かせてあげて?」

 

 かわいい娘のお願いは叶えてあげることしかキリトにはできなかった。

 

「わかった。えっと、レインの腕から抜け出せそう?」

 

 見るからにがっちりとホールドされている。

 どうしたら寝ながらもそんなにがっちりと抱きしめ続けることが出来るんだとこちらが聞きたいほどだ。

 

「ユイも一緒に寝る」

 

「あ、アスナ、どうしよう」

 

「仕方ないでしょ」

 

 ユイからレインを引き離すことを諦めたキリトはアスナはどうにかこうにか筋力パラメータにものをいわせて二人がかりで寝室のベッドに二人を寝かせた。

 ようやく見えたレインの顔は幼く、自分と同年代だということを思い出させた。

 ユイという抱き枕のおかげか気持ちよさそうに寝ている。

 

「なんだか兄妹みたいだな」

 

 キリトは寝ている二人を起こさないように小さな声でアスナに声をかける。

 もぞもぞとレインの腕の中で動いたユイは、レインの胸に擦り寄る。

 

「あら、恋人かもしれないわよ?」

 

「え゛っ」

 

「レインが義理の息子かぁ。楽しそうね」

 

「そ、それはちょっと」

 

 それは一時ではあるが、暖かな時間。

 非現実的で現実ではない世界だが、それでも彼らにとってはかけがえの無い現実がそこにはあった。

 

 

 レインが意識を覚醒させ、いつの間に寝たのか思い出す。

 そして、フィーネを幼くしたような少女に出会ったことを思い出して、飛び起きようとしたが、右腕に何かが乗っている重さに気がついて、動きを止める。

 

「なんだ?」

 

「おはよう」

 

 声がした自分の腕の中をみると、その少女がいた。

 

「えっと・・・・・・」

 

「やっと起きたか」

 

 戸惑っていると、後ろから声をかけられる。

 首を捻って振り向くと、そこにはキリトがいた。

 

「その子はユイって言うんだ」

 

「ユイ・・・・・・」

 

 その名前を聞いてやはり違うと自分に言い聞かせる。

 

「とりあえず、夕方近いし晩飯食おうぜ。ユイおいで、ママのご飯もう出来るから」

 

 ユイを抱きしめていたことに気がついて、あわてて腕を離す。

 

「その、ごめん。痛かった?」

 

「そんなことないよ。暖かかった」

 

 にこりとわらってそんなことをいう少女と思い出の中にいる少女がかぶり、再び涙腺が緩む。

 そう言えば、リズベットがこの世界の感情表現は大袈裟だと言っていたなと、ふと思い出した。

 

「ありがとう」

 

 先に起き上がったユイの後にレインも起き上がって頭を撫でる。

 

「いこ、レイン」

 

 ユイに手を引っ張られ、レインはバタバタとキリト達のところに連れていかれた。

 流されるようにソファーにレインは座らされ、アスナにお茶を出される。

 

「じゃあ、とりあえず食べようぜ」

 

「いただきます!」

 

 元気よく言ったユイはレインの隣で美味しそうにピザたべる。

 口の周りが汚れても気にすることなく食べているユイは幼くかわいらしい。

 最初は今いる層の雰囲気と、この家に着いた時の既視感の影響あって、フィーネに似ているユイを見た時に動揺してしまったが、冷静になったレインは微笑ましく見ることができた。

 自然と顔が綻ぶ。

 レインの視線に気がついたユイがこちらをみて笑顔を見せる。

 それに対してレインも笑顔でかえし、ユイの口の周りについているソースを指でとった。

 特に気にせずにそれを自分の口に運んだレインは、キリトがなんとも微妙な表情でそんなようすを見ていることに気づくことはなかった。

 

 

 食事も終わり、エギルから預かっていた結婚祝いのどこで手に入れたのかわからない、片面にYESとかかれもう片面にNOと書かれた枕を二人にわたし、微妙な雰囲気になったものの、キリトは今日の目的の話をし始めた。

 

「ユイは昨日、森で出会って保護したんだ。どうやら記憶がないようでさ。で、レイン。この子が異邦人である可能性はあるか?」

 

 ちらりとアスナをみると、特に異邦人という言葉を聞いても話についていけなさそうではなかった。

 察するにキリトがいつの間にか話したのだろう。

 レインも気にする質でもないので話を進める。

 

「俺も詳しい原理がわかってるわけじゃないからな。現実世界で元の世界に帰る手立てを探している時に、この世界に行かされたようなものだし」

 

「でも、レインはユイちゃんのこと・・・・・・」

 

「悪いが知らない。俺の知っている彼女ではない」

 

 そう、似ていただけ。

 

「さっきは取り乱してすまなかった。もう大丈夫だ。ただ・・・・・・」

 

 そこでレインは口ごもる。

 あの日のことを思い出してしまう。

 あの子に、助けられなかった子に似ていただけと言うだけなのに、その言葉を言うことができない。

 まるで、システムによって阻まれているように口が動かない。

 その事に戸惑っていると、不意に手を握られる。

 そちらを振り向くと、心配そうにこちらをみるユイがいた。

 

「レイン、無理しないで?」

 

 レインはきょとんとしてしまう。

 この子はどうしてこんなにも優しい子なのだろうか。

 見ず知らずの男にどうしてこんなにも優しく出来るのだろうか。

 なにも覚えていないはずで、その方が不安になるだろうに、自分の事で精一杯なはずなのに、なぜ他人に優しく出来るんだろう。

 そして、その心配してくれているユイを見て、なぜか落ち着くことができた。

 

「すまん。詳しいことは聞かないでくれると嬉しい。聞かれたとしても、話せるかわからないが」

 

「問題ないよ」

 

 へらっとわらいなが承諾してくれたキリトに少し頭をさげて話を進める。

 

「この子が異邦人かそうでないかは断定できないが、俺があくまでもやってきたのは地球の日本だ。この仮想世界にはナーブギアを被って来ている。俺と同様、途中参加という可能性がないこともないと思うが……」

 

ちらりとまだ十歳にもなっていないであろうユイを見る。

 

「こんなにも幼い子、しかも記憶すら曖昧な子をこの世界にぶち込む奴がいると思うと胸糞悪くなるし、ゲームがクリアされたあとのことを考えると……ユイのことが心配だ」

 

「たしかにそうだな」

 

 キリトが深刻な表情でレインの言う不安を肯定する。

 

「まあ、俺がこうしてお前達と言葉が通じたり、文字を読めたりするのは、現実世界で俺を捕まえてた気でいた組織の連中のおかげなんだし、その組織は俺が壊滅させたから、言葉の通じるユイが異邦人ってことは可能性的には少ないと思う」

 

 さらっととんでもないことを言っているレインに、キリトとアスナが顔を引き攣らせていたが、気にすることはなかった。

 窓から外を見ると、すでに外は暗くなり始めていた。

 普段は仮眠しか取らないこともあって、予想以上に眠った上にご飯もご馳走になってしまっている。

 これ以上長居してしまっても申し訳ないと思ったレインは立ち上がった。

 

「もう夜だし俺は帰ることにする。その・・・いろいろと迷惑をかけてすまなかった」

 

「いや、気にしなくていいさ。転移門まで送るよ。久しぶりに話したいしな」

 

 にやりとわらうキリトにあきれつつ、扉に向かおうと足を進めると、腕をつかまれる。

 振り向くと、ユイがレインの腕をつかんでいた。

 

「レイン帰るの?」

 

 理由は特にわからないが、どうやら懐かれてしまったようだった。

 すこし困った表情をしてから、目線をユイに合わせるためにしゃがむ。

 

「ああ。俺の家に帰るんだ」

 

「帰らないよ。レイン、家に帰らない」

 

 その言葉にさらに困ってしまう。

 実際、レインは家に帰るつもりはない。

 というか、家を買うどころか宿すら滅多にとらない。

 元の世界で旅をしていたし、そのときは野営をするのは当たり前のことだったため、アインクラッドに来たからといってそのスタイルが変わることはなかった。

 しかし、安心させるために家に帰るとわざわざ言ったのだが、なぜかユイは嘘だということがわかったらしい。

 夜中にも鍛錬をしていることを正直に言ってしまったらまたキリトに何か言われかねないとおもったレインは口ごもってしまう。

 

「帰っちゃやだ」

 

 可愛らしくお願いするユイにすでに多少ではあるがフィーネを重ねてしまっているレインはどうしたら言いかわからなくなってしまう。

 困ってしまったレインはキリトに顔を向けて助けをこう。

 

「仕方ない。泊まってけよ」

 

「えっ」

 

 ユイを宥めてくれるのかとおもっていたのにもかかわらず、レインが泊まることに賛成されて思わず声が出る。

 

「ベッド大きいし、レインはユイちゃんと寝てもらってもいい?」

 

 にこにことアスナもレインが泊まるという方向で話を進める。

 

「待て、誰も泊まるとは――」

 

「私、レインと一緒に寝る!」

 

 可愛い笑顔でそう言ったユイを見たレインには断ることはもうできなかった。

 

 

 

 寝静まった寝室で、レインは静かに身体を起こした。

 時刻はすでに深夜を回っている。あと三時間もすれば夜が明けるだろう。

 一切物音を立てず、ユイたちを起こさないように寝室から出たレインは、ログハウスからも出て行った。

 装備を整えて、ログハウスから少し離れたところの森の中に入っていく。

 少し開けたところに着いたレインはすらりとルインソーサリーを抜き、右脇に構える。

 目を閉じたレインは呼吸を整え、剣を左上に振り上げる。

 目を閉じ続けながらもレインは動きを止めない。

 時には大上段から振り下ろし、ときには剣を振るった勢いで足も振り回す。

 目の前に何かがいるわけでもなく、剣を振り続けるレインが相手をしているのは、グリームアイズにソードスキルを叩き込んでいたキリトだ。

 あのときのキリトの動きを思い出し、頭にえがきながら、それに合わせて自分も身体を動かす。

 今日はキリトのソードスキルだが、それが元の世界で名の通る騎士であったり、魔法使いであったり、日によって違うが、これはレインにとって日課だった。

 キリトのソードスキルに対して何通りもの対処の仕方を身体を動かしながら考える。

 一時間程動き続けたレインは横に剣を一閃したところで動きを止め、目を開けた。

 姿勢を正して剣を鞘に収めると、あきれたようにレインしかいないのにもかかわらず、声をかける。

 

「満足したか?」

 

「ばれてたか」

 

 レインの背後の木陰から現れたのはキリトだった。

 今から攻略にいくわけでもないのにキリトは装備を整えていて、背中には二振りの剣が背負われている。

 

「夜中に出て行くから何かとおもって着いてきたんだけど、お前の強さの理由がまた増えたよ」

 

 あきれたように言いながら、キリトはレインに近づき、剣を抜いた。

 レインはそれに答えるようにキリトに向き合い、収めた剣を抜く。

 

「ボスを一人で倒しきったお前と戦いたいとおもっていたところだ」

 

「片腕でボスとやりあったくせに何を言ってるんだか」

 

 レインがデュエルを受けてくれるとわかったキリトはデュエル申請をし、レインは承諾する。

 二人の間にカウントダウンの数字が現れる。

 お互いにしゃべることなく、集中力を高めていく。

 空気が張り詰めるなか、カウントダウンの数字もみずに動かずにそのときをまった二人の黒衣の剣士は、カウントダウンがゼロになった瞬間、一歩でトップスピードにのって剣を交えた。

 

 

 

 

 

 

 レインとキリトが朝方家に帰ると、ドアの前でアスナが怒った顔で仁王立ちしていた。

 そんなアスナの前でユイも頬を膨らませて仁王立ちしている。

 後ろのアスナを見て顔を青ざめるキリトと、前のユイを見て気まずそうにするレインは、謝る事しかできなかった。

 

「で、結局どっちが勝ったの?」

 

「俺がレインに勝てるわけないだろ」

 

 アスナとユイの怒りも収まり、朝食をとりながら二人が朝からいなかった理由を説明していた。

 キリトが説明する中、レインはそ知らぬ顔で朝食のサンドイッチを食べる。

 

「こいつ、ソードスキル全く使わないし、筋力パラメータも敏捷パラメータも俺より低いし、レベルだって俺のほうが上なはずなんだけどなぁ」

 

 腕を組んで上を仰ぎ見るキリトはぶつぶつとつぶやきながら考える。

 

「やっぱり剣を握ってからの時間からじゃないの?」

 

「俺が剣を握ったのはベータのときの一ヶ月足しても、二年とちょっとだからなぁ」

 

「なら俺のほうが短いぞ」

 

 ユイの口元についていたドレッシングをぬぐいながらレインはさらっと言う。

 

「俺が剣を握り始めたのは一年たつかたたないかぐらいだ」

 

 小さな口で可愛く食べているユイを微笑ましく見ているレインをキリトとアスナは唖然と見るしかなかった。

 

 

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「ほんとに始まりの街まで一緒に行ってくれないのか?」

 

「悪いな。俺があそこに行くと無駄にややこしくなるからな」

 

 始まりの街であれば、ユイのことを知っている人がいるかもしれないということで、キリトたちは始まりの街に行くことにしたらしいのだが、レインは一度始まりの街で暴れていることもあり、アルゴにできるだけ行くなといわれている。

 元の世界であれば人が言うことを聞かないことのほうが多いのだが、この世界のルールには従ったほうがいいことをいろんなところで学んだレインはできることであれば、人のいうことを聞いていた。

 

「ユイ、二人の言うことをちゃんと聞くんだぞ」

 

 レインと離れるのが嫌なのか、寂しそうな顔をしているユイの頭をなでる。

 キリトはお前が言うのかよ、とおもったがあえて口にすることはなかった。

 

「じゃ、俺は最前線にもどる。二人はユイのことを頼んだ」

 

「ユイのことは任せろ。最前線もみんなに任せてわるい」

 

 最前線から離れていることに負い目を感じているらしい二人は申し訳なさそうな顔をする。

 

「そんなことを気にすることはない。お前たちは誰よりもいろんなものを背負って戦ってきたんだ。少しぐらい休んでも問題ないさ」

 

 もともと、命をかける必要のなかった二人なのだ。疲れてしまっても誰も文句は言えないだろう。

 

「それに、俺はキリトがいないほうが止められることがなくて動きやすいしな」

 

「お前、それが本音だろ」

 

 キリトにじと目で見られたが、レインは綺麗にそれを受け流す。

 そんな二人に、アスナもユイも笑顔になる。

 

「それじゃあな。転移、アルゲード」

 

 そうしてレインは最前線に戻った。

 

 

 

 ――そして数日後、七十五層のボス部屋が見つかった。




次回、アインクラッド編最終話です
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