ソードアート・オンライン~知られざる天才剣士~ 作:モフノリ
目の前に次々と文字が浮かび上がる。
レインは地球とは違う世界からきた異邦人であり、本来であれば読めないことで詰んでしまうところではあるが、日本に来てからすぐに捕らえられた組織によって言葉が通じるようになり文字も読めるようになっているのでさしたる問題にはならない。
それらを難なく操作し終えたレインの視界は徐々に暗くなっていった。
このまま始まるのかと思ったのもつかの間、視界いっぱいにノイズが走る。
何事かと思うが、自分にはどうすることもできないということがわかっているので、おとなしく今起きている何かが終わるのをまつ。
しばらくのノイズの後、視界は真っ白に発光しだし、あまりの眩しさに閉じた目を開けたレインの視界に入ってきたのは灰色の壁だった。
壁からは百メートル以上は離れているのにもかかわらず、視界いっぱいに見えているということはかなりの大きさということだろう。
そして、それが天井だということに気がついたのは自分が落下しているということに気がついたときのことだった。
空に天井があることに疑問を感じつつも、あわてることなく着地に備えて体勢を整える。
天井よりも地面のほうが近くにあり、レインからすれば死ぬことはない程度の高さだった。
眼下には森が広がっており、木がない開けた場所に着地できるように空中でありながらも身体をうまく動かすレインは空を飛んでいるようだった。
モンスターが徘徊しているというのは事前に聞いているのでできるだけ静かに着地を試みる。
足が地面につくと同時に膝で全ての衝撃を吸収し、見事にレインは静かに着地
ドォオン
――をするはずだった。
いや、レインとしては静かに着地をしたつもりだった。
実際、自分自身には大した衝撃はない。
にもかかわらず、すさまじい轟音が鳴り響き、ありったけの土煙が舞った。
そして地面には紫色の文字が浮かんでいる。
おそらく、これがシステムというやつなのだろう。
轟音と土煙のわりに地面は全くえぐれていない。
予備知識として剛からはいろいろと聞いているので、落下によるダメージは感じなかったが、一応自分のHPバーを確認する。
視界の左上にある、RAINという自分の名前が書かれている横にあるバーを見ると多少は減っているものの、許容範囲内だっだ。
初期装備として腰についている軽い剣を引き抜き一振り。
それだけで周りの煙は晴れたが、レインは身体の違和感のなさに驚く。
先ほど、文字がいろいろ浮かぶときに自分が操作するキャラクターを作る画面があった。
そのとき、顔に関してはめんどくさいと思い最初の顔から何も変えずそのまま進んだが、身体に関しては忠実につくろうとしたものの、よくわからないのと時間がかかりそうだったので身長を同じにする程度しかできなかった。
にもかかわらず、本来感じると予想された違和感はなく、今のレインの身体は現実世界とほとんど変わらなかった。
何がどうなっているかわからないが、現実の自分と同じになっているのだろうとレインは察する。
なぜなのかはわからないがレインにとってはうれしいことなので特に理由を考えることはしなかった。
さて、これからどうしたものか。
先ほど空からこの薄暗い森を観察したが、結構な広さがあった。
森から抜けるのは少し時間がかかりそうだがとりあえずこの場所から動かなければいけない。
そう思い、一歩を踏み出したところで、目の前に光のエフェクトと同時になにやら動物を模した生き物が現れた。
自分よりも高い位置に顔があり、全身に毛をまとい右手に棍棒、左手になにやら紐のついたつぼを持っている。
「これがモンスターか」
抜き身のままだった愛剣に比べると心もとない剣をだらりと下げたまま身構え、モンスターを注視する。
すると、敵の頭上に赤黒いひし形がうかび、その上にはドラゴンエイプという文字と緑色のバーが現れる。
おそらく、敵の名前と体力ゲージだとあたりをつけて、改めてドラゴンエイプに集中する。
ドラゴンエイプがこちらに向かって駆け出したと同時にレインも地面を蹴った。
「むっ・・・・・・」
思っていたスピードが出ず、一瞬顔をしかめるがすぐに戦闘に思考を切り替え、ドラゴンエイプが振り下ろしてきた棍棒にあわせて剣を振り上げはじき返そうとする。
モンスター自体はレインからすれば大して強くはない。
が、そこでもまた誤算が生じる。
押し返すだけの筋力が足りないうえに、棍棒に当たった瞬間、剣は見事に弾けとんで一瞬で壊れた。
このままでは自分に棍棒が当たると瞬時に理解したレインは無理矢理身体を動かし、ぎりぎりでかわす。
その一瞬の攻防でレインはシステムというものの理不尽さを実感する。
身体が思うように動かないのも、剣が砕け散ったのも、おそらくシステムというもののせいだろう。
雲行きがいきなり怪しくなってきたと思いつつも、レインは逃げることなくドラゴンエイプと向かい合う。
が、突然そいつは弾けて青い欠片をぶちまけて消えた。
「今日は迷子が多いんですかね?」
「命大事にって世界のはずなんだけどな」
弾けた青い欠片の向こう側に人の影が二人分うっすらと浮かび上がる。
一瞬、また違う敵なのかと思ったが、全くこちらに対して攻撃してくるそぶりもなければ、よく見るとモンスターとは違い、グリーンのひし形が見えた。
「えっと、武器が壊れたっぽかったから手助けしたつもりなんだけど・・・・・・」
大人しそうな同年代ぐらいの少年が恐る恐るといった様子でこちらをうかがってくる。
「いや、助かった。礼を言う」
そっけなくレインが答えると、少年はほっと一息をつき、こちらに近づいてくる。
少年の横には自分よりも年下であろうツインテールの少女がちょこちょこと着いてきた。
「すごく大きな音が聞こえて、あわててこっちに来て正解だったみたいですね」
「ああ。ところで、あんたはここで・・・・・・ってそれ初期装備じゃないか?!」
少年はオーバーとも思えるリアクションをする。
それほどにも驚くことなのだろうかとそのときレインは思うが、それがあまりにも無謀なことだと知るのはもう少しこの世界になじんでからのことだ。
この仮想世界に来たばかりの、そしてゲームというもの事体をほとんど知らないレインにはわかるはずはない。
「まあ、たぶんその初期装備っていうやつだ。さっきここに落ちたばかりだからな。君が聞いたという大きな音もおそらく俺が着地したときのものだとおもう」
冷静に言うレインを少年は不思議なものを見る目でまじまじと見る。
「あんた一体・・・・・・」
「悪いが詳しく説明できない。というか・・・なぜ俺がここにいるかわかっていない」
「それって記憶喪失ってことですか・・・?」
少女が心配そうな表情でこちらを見てくる。
レインはそれに対して優しく微笑む。
「いや、記憶自体はあるよ。ただ、現実世界でいろいろあって、このデスゲームに今しがたぶち込まれたばかりなんだ。てっきり街のようなところから始まると思ったんだが、まさか上空に放り出されるとおもってなかった」
あながち間違いでもないだろう、と思いながら適当に話す。
変に嘘をついたところで後々面倒になることは予想できる。
「SAOにぶち込まれたって・・・・・・またなんで」
理由はレインが強さを求めたからといっても過言ではないが、ここで必死に生きる人たちにそんなことを言うのはあまりにも無粋だろう。
そう考えたレインは適当にお茶を濁す。
「まあ、そういうことを簡単にするやつらに絡まれたせいだとだけ言っておこう。あまり首を突っ込むとたとえこの世界で生き残れたとしても、現実に戻った後のことは知らんぞ」
あながち間違っていない理由をレインがさらっというと、少年は顔を引きつらせ、少女は目を逸らした。
「と、とりあえずこの森を抜けようか」
「そ、そうですね」
そう言って歩き出した少年は、一歩を踏み出したところで突然ピタリと止まったかと思うと、すごい勢いでレインに近づき、両肩と思いっきり掴んできた。
殺意がなかったため、とくに避けることなく肩を掴まれたレインだったが、ぐいっと顔を近づけられたので、避けておけばよかったと、頭の隅の方で思った。
「いきなりなんだ」
「いきなりなんだじゃない!あんた、ついさっきここに来たばかりだって言ったな?」
「言ったが」
「その、ついさっきここに来たばかりで初期装備・・・。まさかと思うがレベルはいくつだ?」
目の前の少年の目つきはかなり真剣だった。
しかし、
「レベルってなんだ?」
レインはゲームというものに関して知識は皆無だった。異邦人なのだから当たり前といえば当たり前だ。
真剣そのものだった少年の目は大きく見開かれる。
「えっと、レベルって言うのはその人の強さを表した数字で・・・・・・じゃなくて!!ああもう!右手借りるぞ!」
そう言いながら、少年はレインの右手を掴むと人差し指と中指を揃えさせて縦に振った。
同時に鈴の様な音がなり、白くて薄い板が目の前に現れる。
それには色々と文字が書いてあるが、じっくりと見る暇もなく、少年がレインの右手を動かして、その板でなにやらいろいろしている。
「おい、一体なにを――」
「やっぱり・・・・・・」
少年はとある場所を顔をひきつらせながら見ている。
何事かと思い、レインも少年が見ているところを見る。
白い板には、左上にあるものと同じように、自分の名前とHPゲージが書かれている。
それに付け加えて、性別やスキルというものもも書いてあり、少年の言うレベルも書いてあった。
その横には数字の一という文字が周りの広い空間も相まってかなり目立つ形で書いてあった。
「この一というのがレベル、つまり俺の強さをという訳か?」
であれば、不服以外の何者でもない。
一といえば数字の中でも一番最初を飾るものだ。
つまり、これが指すのは、レインが一番弱者だということだ。
その数字はまるで、なぜお前は自分が強いと思っていたと、お前は結局だれも守ることは出来ていないだろうと、お前なんかの強さでは誰も守れないと言ってきているようだった。
不服に思うと同時に、まさにその通りだと思った。
「待ってください!! 一ですか?! レベル一なんですか?!」
先程まで黙っていた少女がかなり困った顔でこちらにせまってくる。
「間違いないよ。っていうかあんた、ここのこと何も知らないのか?」
「知らない。この白い板も初めて見た」
「こりゃ、参ったな」
先ほどのレベル一という弱者である証を見たことと、少年と少女を困らせていることに、レインは不甲斐なさと自分に対しての憤りを感じた。
何がゲームであろうと大丈夫だ。
ここに来た瞬間、自分は弱者になり、名前も知らない同年代の少年少女に迷惑をかけているではないか。
「迷惑をかけてしまっているようで申し訳ない。剣は壊れてしまったが、これでも逃げ足には自信がかある。この世界は死と隣り合わせだというし、足でまといの俺はほっといてくれていいから――」
「だめです!!」
これ以上他人の負担にならないようにと、誰も守れない自分が誰かと行動するなどあってはならないことだと思い、別れを告げようとしたレインの左手を少女が突然掴んだかと思うと、ぎゅっと握りしめた。
「この世界はゲームですけど、HPがなくなってしまったら本当に死んでしまうんです!! 突然ここに投げ出されて何も知らないあなたを放って行くなんてできません!」
「いや・・・・・でも・・・」
「でもじゃないんです!」
レインは助けを求めるように少年を見ると、少年は小さくため息をついた。
「ニュービーのあんたが一人増えたところで、俺がいれば何の問題もないからおとなしく一緒に街まで来てくれると嬉しい。さっき出会ったばっかりの人とはいえ、こんなところに置いていったら不安で寝れないよ」
「そうです!寝れません!もしかして、そのまま死んでしまったんじゃないかって考えて泣いちゃいます!」
少女の泣いてしまうという言葉は、常時ぶっきらぼうなのにもかかわらず、女の子に対してはこれでもかというほどに優しいレインを折れさせるのには絶大な効果があった。
「・・・・・・わかった。俺はレインだ。しばらくの間、よろしく頼む」
「俺はキリト。よろしく」
「私はシリカっていいます。私もキリトさんに比べれば弱いですけど、ここでならソロでも行動できる程度のレベルなので安心してくださいね」
にこにこと笑うシリカに、よろしくといいながら微笑み返す。
この世界で強いのであろうキリトと一戦交えたいと思いながら。
シリカの話は一応全て書き終わっていて、そこまでは投稿します。
その続きも考えていますが、閲覧数などをみてどうするか決めようとおもっています。