ソードアート・オンライン~知られざる天才剣士~   作:モフノリ

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飛べない妖精

 レインはアインクラッドで着ていた黒い服を身に着けて、ヴァンパイアマスターであるシルヴィア・ローゼンバーグと何時間もの間、相対していた。

 すでにレインは左腕は深く切られている。仮想の身体ということもあり、血が流れていたりすることは無いが痛みがあるせいで、だらりとぶら下げられていて、使い物にならない状態だ。

 この仮想世界ではHPも設定されておらず、現実の身体でもないので酷使しても死ぬ事はないが、毎日何時間も戦い続け、傷ついた身体を癒すこともできないレインは肩で息をしていて立っているのもやっとといったところだった。

 そんなレインと相対している彼女は細い腕に不釣合いな大剣を両手に握り、こちらの出方をうかがっている。

 彼女の表情は、レインとはじめて戦った時のように凛々しくはなく、何の表情も現れていなかった。

 それもそのはず。

 目の前にいるシルヴィアは見た目と動きこそ彼女と変わらないが、中身は何もないただのデータでしかないのだ。

 レインのように痛みを感じることもないようで、全く疲れている様子はない。

 彼女と戦わされ始めてからレインの認識はシルヴィアの姿をした不死身の生き物だということになっている。

 傾国の剣を構えたまま、シルヴィアがどう動いてきてもいいようにレインは集中を切らさないようにする。

 ゆらりと動いたシルヴィアは一歩でトップスピードにのり、瞬時にレインの目の前に現れる。

 アインクラッドのときと比べると、思ったとおりに動く身体のおかげか、レインは振り下ろされた右手の大剣を傾国の剣でどうにか受け止める。

 骨にまで響くような衝撃を感じつつも、追撃で横からきた左手の大剣は受けた剣をうまくずらすことでどうにか剣で受け止める。

 しかし、踊るような彼女の追撃がそこで終わることはなく、綺麗な長い足がレインの胴体に吸い込まれるように見事にとらえた。

 まともにくらったレインはなす術もなく吹き飛んでしまう。

 不可視の壁に激突したレインは、地面に倒れそのまま意識を手放した。

 そんな彼の背中には見慣れない、黒い羽が生えていた。

 

 

 

 

 

 レインが目を覚ましたのは、水で満たされた人一人入れる大きさの水の中だった。

 木の内側に入っているような壁に囲われ、どういう原理になっているのかは分からないが、ガラスがあるわけでもないのに水は宙に浮き、その中にレインはとらわれている。

 この中で動かすことができるのは目とぼんやりとする思考だけ。なぜか身体を動かすことができないので逃げ出すことは不可能だ。

 そのことはすでに一ヶ月半もの間ここにいるためレインにとって当たり前のことになっていた。

 この中にいる間は体の痛みを感じないのがせめてもの救いだろう。

 レインの視界に入るところに、アインクラッドで唯一参加したボス戦が終わったと共にレインの手から消えた傾国の剣が置かれている。

 思考をシステムによって遮断されているレインはただぼんやりと、愛剣を見ることしかできない。

 この部屋には扉がなく、目の前にはこの部屋の大樹の枝と葉であろうものが見え、その奥に広がる空が見えるだけだった。

 たまに小鳥が飛んでいるのが見えるが、こちらに来ることはない。

 そんなレインの耳に聞きなれた何かが這いずる音が聞こえる。

 しばらくして真正面の入り口から入ってきたのは二匹のナメクジのような生き物だった。

 見た目こそ化け物ではあるが、中身は人間らしいということは、この水の中で聞いた二人の会話を聞いていて知っている。

 彼らはたまにくるオベイロンといわれる人間の配下らしく、現在レインの研究を任されている人物でもある。

 レインの入っている水の横に置かれている操作盤をいじり、天井から手枷をおろし、じっとレインを見てからレインを水の中から出すボタンを押した。

 突然の重力に逆らうことなくレインは水のなかから落ちる。

 

「うあっ・・・・・・」

 

 思考と痛みを強制的に遮断されていたレインは急に動きだす思考と全身の痛みのせいでまともに着地もできず地面に崩れ落ちる。

 痛みに耐え、立ち上がろうとする前に両手首に枷がはめられる。

 手枷によって膝立ちになるぐらいまでに吊り上げられ、ようやく思考がまともに動き出し始める。

 そして、一番最初におもうのは情けないということだった。

 すぐに傾国の剣のもとに走り、ナメクジ共を切り倒し、逃げ出すことのできない自分がとてつもなく弱いと感じる。

 

「さて、そろそろお前さんの身体の在り処を教えてほしいんだが」

 

 一人のナメクジがレインの瞳を覗き込む。

 レインはそれを睨みつけた。

 

「おぉ、こわっ。まあ、ほぼ毎日の実験とずっと入ってる特殊な水のおかげで最初のころみたいに暴れられることはないのはわかってるけど、あの暴れっぷりを知ってるとやっぱり怖いね」

 

 うねうねと身体を動かしながらナメクジはそういうが、レインにはそいつが本当に思っているのかはわからない。

 少し離れたところにいるナメクジはなにやら傾国の剣を見ているようだった。

 傾国の剣がふわりと光った気がしたがぼやける視界のせいでそれが本当なのか判断はできない。

 

「俺、最近ここに来たばっかりなんでそのことよくわかんねぇんすよねぇ。教えてくださいよ、先輩」

 

 見た目では全くわからないが、一人は新人らしく、傾国の剣のそばから離れたそいつは興味津々というふうにレインのことをじろじろと見る。

 先輩と呼ばれたナメクジは、先輩と呼ばれたことが嬉しかったのか気分を良くして話し始める。

 

「どうせ、こいつ身体のある場所言わねぇし暇つぶしに話してやるよ」

 

 レインも口を開くことなく、この日々の始まりを思い出した。

 

 

 

 

 

 アインクラッドを眺めながらの茅場晶彦との会話が終わったレインが目を覚ました場所は、現実世界で捕えられていた組織を彷彿とさせる無機質で扉も窓もない部屋だった。

 てっきり現実世界で目を覚ますと思っていたのだが、目の前に広がるそれと、自身が着ている服がアインクラッドのままなのをみるに、まだ仮想世界にいるらしいことを察する。

 試しに壁を全力で殴ってみたが、紫の文字が浮かび上がり、破壊することはできそうになかった。

 手元に傾国の剣が現れた時のように、右手に集中して呼びかけてみたが、そう簡単に出来るわけもなく、傾国の剣が現れることは無く、右手を振ってもウィンドウが出てくることはない。

 仕方なく何かが起こることを待つことにしたレインは、壁に持たれて浅い眠りについた。

 

「おい、起きろ」

 

 そんな声に目を開けると、先ほどの部屋とはうって変わって、なにやら機械が多く置かれている場所が目の前に広がっていた。

 レインから少し離れたところにどこの貴族だと言わんばかりの金髪の男が立っていた。

 王である証なのか、ちゃちな冠をかぶり、背中には透けている羽が付いているようだった。

 

「もっと大暴れしたり叫んだりするかと思えばあっさり眠りやがって。なにもデータが取れないだろ」

 

 明らかにイライラしているその男はぶつぶつと独り言なのか、それともレインに対して言っているのかよく分からない喋り方をしてくる。

 こちらを見ながら言っているということは喋りかけてきているのだろうと思ったレインは口を開いた。

 

「そんなことを言われてもな」

 

「お前、自分の状況わかっているのか?お前は今、この俺、オベイロン様に捕えられているんだぞ?」

 

 にやりとわらうオベイロンと名乗った男は、先ほどの壁があったはずのところまで歩く。

 オベイロンが手を伸ばすと、そこになにかあるらしく、オベイロンの触れた何かが波をうった。

 

「ここには壁があってね。さっきはお前が密室に閉じ込められたらどんな反応をするかのデータを取りたかったから外が見えないようにしてたんだが、今はその必要がないからね。透明に戻しているんだよ。そうだね、さっきの壁は透明にもなるって言った方が異邦人の君にもわかるかな?」

 

 明らかにこちらを見下して話すオベイロンに呆れることしかできないが、捕えられているとなれば無駄に相手を逆撫ですることもないだろうと思ったレインは、特に表情を変えることはしなかった。

 

「ここはどこだ?」

 

「ここ?ここは仮想世界だよ。SAO帰還者を実験台にしてたら、君が手に入って僕は幸運だったよ。異邦人なんて最高の研究材料じゃないか」

 

 またか、とレインは思う。

 この場所の無機質な白い壁は、レインがこの世界にきた瞬間に現れた組織の建物の内部に似ているとは思っていた。

 しかい、現実世界であれば、魔法でも盛大にぶちまけてここから立ち去ることもできただろうが、仮想世界ではそうはいかないだろう。

 システムによって保護されているものを破壊出来ないのはアインクラッドで学んでいる。

 組織について行ったのは利益があると思ったからだが、目の前にいる馬鹿からはなにも得るものはないのは明白なので、正直さっさとこの場から立ち去りたい。

 

「研究材料といっても、この世界じゃなにもできんと思うが」

 

「まあ、本当は君の現実の身体ごと欲しいんだけどね。どうも見つからなくてさ」

 

 それもそうだろう。

 何せ剛達がレインの身体を管理しているのだ。

 そう簡単に見つかるとは思えない。

 

「できれば、君の身体の場所を教えて欲しいんだけど」

 

「残念ながら知らん。日本の土地名も知らんからな。ナーブギアというものを被った場所のことを教えろと言っても無理だ」

 

 実際、レインは剛とイヴについて行ったのだけなのであの場所が日本のどこにあるのかというのはわからない。

 地名を覚えようとすることもなかったので尚更だ。

 

「異邦人のくせにナーブギアを手に入れたり、日本語を理解しているくせによく言うよ」

 

 ふんっと鼻を鳴らしながら吐き捨てるようにオベイロンは言うが、ナーブギアを手に入れたのは剛達だし、日本語が理解できるのは組織の技術のおかげだ。

 レインが個人でどうにかしたわけではない。

 だが、この勘違いをうまく使えるのではないかとレインは考える。

 とくに利用する予定も無いが、誤解したままでいてくれると剛達という第三者の存在をオベイロンから隠すことはできる。

 SAOはクリアされ、囚われていた人達は解放されているだろうし、未だ仮想世界から帰ってこないレインを不審に思った彼らが現実世界からどうにかしてくれるかもしれないと、レインは考えた。

 が、同時に他人に頼っている自分の思考にうんざりする。

 だが、システムなどの機械に関してレインはどうにもできないのもまた事実だった。

 自分一人でこの場から立ち去る方法は無いのかとレインが考えている間の沈黙を、オベイロンはただレインが黙秘しているだけと捉えたようで一瞬怒りを見せたが、すぐににやりとわらった。

 

「まあ、いいよ。君の身体の在り処を吐くまで君の脳を直接いじるだけだからね。君の記憶を元にいろいろ試すのもいいなぁ」

 

 にたにたと楽しそうに笑う男を前にしてレインは表情を変えることなく見据えるだけだった。

 知らぬ間に記憶を見られているのは不愉快でしかない。

 

「そうそう、君のこの世界での設定も考えないとね」

 

「設定?」

 

「ああ。私は現実世界では会社員だが、この世界では妖精王のオベイロンだ。まっ、僕はこの世界を管理しているから当たり前だね。せっかくだから君の設定も考えないと」

 

 目の前の男は楽しそうに考え始める。

 その間、レインはどうやってここから出るか考える。

 しかし、仮想世界について詳しくないレインがコンソールを使ったログアウトの仕方など分かるわけがなく、目の前の男をどうにか脅して出る方法しか思い浮かばない。

 現実世界で捕らわれていた時に比べると、仮想世界は不安要素が多すぎる。

 システムに保護されているものは壊すことは出来ないし、人が痛みを感じることもない。

 そして、目の前の男はHPが仮想世界で死ぬ事はないと思われる。

 ほとんど八方塞がりな状況なのは間違いないだろう。

 しばらく黙っていたオベイロンは、そうだ、と声を上げた。

 

「堕ちた妖精という設定はどうだい?妖精でありながら別種族のヴァンパイアに加勢し一つの軍を壊滅させた黒い妖精をこの私、妖精王オベイロンが罰を下して、飛べない妖精にしたというのは」

 

 その設定にレインはピクリと眉を動かした。

 妖精という言葉を使ってはいるが、別種族のヴァンパイアに加勢し一つの軍を壊滅させたのは事実、レインが元の世界でしたことだったからだ。

 レインが睨みつけると、オベイロンは一瞬恐怖に顔を染めたが、すぐにいつものにやりとした醜い笑顔に戻った。

 

「そんな怖い顔をしなくてもいいだろう。そう、これは君の記憶から考えた設定だ。この記憶を見たから君が異邦人だと気がつき、こうして君にアバターを提供してあげたのさ。まあ、まだ半年分ぐらいしか見れていないからそこから前のことはまだ読み取れていないんだけどね」

 

「なら、俺の記憶から俺の身体の場所を探ればいいだろ」

 

 レインが吐き捨てるようにいうと、オベイロンは顔をしかめた。

 

「僕もそうしたいのはやまやまなんだけど、所々読み取れない部分があるんだよ。とくに君が日本にやってくる直前あたりからはほとんど読み取れていない。本当に厄介だ」

 

 おそらく、剛達がなにかをしているのかもしれない、とレインはおもった。

 彼らが自分の拠点がばれるようなミスはしないだろう。

 

「読み取れないものは仕方ないから君に聞くことにしたってわけさ。にしても、君の記憶のヴァンパイアたちは実に美しいね。捕らえて私のものにしたいぐらいだ」

 

 にやにやと厭らしい顔で笑うオベイロンをレインは盛大に顔をしかめて睨みつける。

 それを見たオベイロンはさらに笑みを深くした。

 

「もし、君がいたに行けたらぜひとも彼女たちを僕のものにしたいね。そして、君の前で犯してやるのさ。仮想世界にいる君は彼女たちを助けることはできない」

 

 そこでレインはまだ何か言っているオベイロンの言葉は聞こえなくなっていた。

 レインは不思議と自身に魔力があふれてきているのを感じる。

 

「剣よ」

 

 つぶやいたレインの目の前にはスカルリーパーとの戦いのときに現れた傾国の剣が出現する。

 手に取ったレインは鞘から剣を抜き、無造作に、しかし力強く剣を振った。

 突然のことにオベイロンと他にもいた研究員であろう人たちは硬直するが、何もないただの空気を切っただけのレインをあきれた視線を送ろうとしたが――

 

 パァアン

 

――レインとオベイロンたちの間にあったはずの壁が不可視の斬撃によって破壊された。

 ふわりと、レイン自身にも青いオーラが纏う。

 仮想体であるはずのレインに魔力が注ぎ込まれていた。

 どういう原理なのかはわからないが、傾国の剣から魔力が流れてくるのを感じる。

 本来は傾国の剣に力を吸い取られているはずなのに逆に力をもらっている感覚を不思議に感じる。

 これならここから出られるかもしれないと、レインは足を進めた。

 しかし、レインは目の前にいるオベイロンが本当の意味でこの世界の管理者であることを知らなかった。

 

「し、システムコマンド!レインのペインアブソーバーをレベルゼロに!」

 

 オベイロンが叫び、にやりと笑う。

 そして、右手を前に出して指を鳴らす。

 次の瞬間、レインの頭上で何かが光、そこから出現した雷がレインに直撃した。

 

「ぐっ」

 

 まともに食らったにも関わらず、叫び声をあげなかったレインだが、痛みに片膝をつく。

 

「どうだい?現実の痛みは」

 

 勝ち誇ったようにオベイロンはにたにたと笑う。

 仮想世界で感じたことのない痛みにどういうことなのかとおもうが、だからといって止まるレインではない。

 むしろ、現実味が増したこの世界にレインの魔力を増し、冷静さも取り戻させる結果になった。

 しびれるような痛みを感じながらも立ち上がったレインはもう一度オベイロンを見据える。

 

「何の小細工か知らんが、痛みがあろうと何も変わらないぞ」

 

「同じ人間とは思えないね」

 

 顔をゆがめながらオベイロンは再び指を鳴らした。

 今度は彼の周りに火球が数個浮かび上がり、レインに向かってすごい速さ飛んでくる。

 レインは表情一つ変えず剣を振るい、全ての火球を剣腹ではじき返した。

 それは四方にとび、部屋の壁にぶち当たって消失する。

 本来、避けることすら困難な魔法をはじき返したレインを見てオベイロンはようやくレインの認識を変えた。

 

「おい、今すぐこいつを強制スリープさせろ!」

 

 叫ぶように指示を出すオベイロンにあわててレインは斬りかかるために駆け出した。

 一瞬でオベイロンの目の前に移動したレインは大上段に剣を振り上げ――

 

 ――そこで突然意識が途切れた。

 

 

 

 

 

 

 次に、目を覚ましたときにはすでにあの身体が動かなくなる水の中だった。

 それからはことあるごとに今のように身体の在り処を聞かれるか、シルヴィアの形をした敵と戦わされるかのどちらしかない。

 あれ以来、攻撃を受ければ現実と変わらない痛みを感じるようになり、癒す暇もなく戦わされているレインは見た目こそ傷はないが、すでにぼろぼろだった。

 

「そんなことがあったんすか」

 

「そそ。あの後数週間かけてあの水のシステムを作ったってわけ」

 

 ナメクジ達の会話は続く。

 

「じゃあ、こいつの記憶ってどこまで読み取れたんすか?」

 

「それがな、あの後すぐに全く読め取れなくなったんだよ。何もないところから意味わからん剣を出したやつだし、なんでもありなんだろうさ。仕方なく、異邦人の脳波を調べるために、記憶から取ったデータをもとにあの大剣二刀流美女を作って戦わせてるってわけ。どれだけ痛めつけても身体の場所ははかねぇしな。ペインアブソーバーがゼロで現実と変わらない痛みを感じてるはずなのに、こいつはいろんな部分でいかれた野郎だ」

 

「いかれてんのは平気でそんなことをしてるお前たちだろう」

 

 そんな呟きをもらす新人らしいナメクジを思わずレインは見た。

 しかし、人間ではないそれの顔がどこなのかもわからず、表情は全く読み取ることはできない。

 先輩には聞こえていないようで特に気にした様子はなく話は進む。

 

「にしても、須郷さんも変わってるよな。ただの実験体なのに設定通りのアバターにしてるんだから」

 

「設定通りのアバターっすか?」

 

 何事もなかったように後輩も会話を続ける。

 

「鳥かごの姫さんと同じようにこいつにも設定があるのさ。さっき話した堕ちて飛べなくなった妖精もそれなんだが、HPを設定しないのは永遠に生きる苦痛を味合わせるために妖精王の下した罰ってことらしい。ただ単にこいつが簡単に逃げれないようにフライトエンジン切って、実験に邪魔なHPを設定してないだけなのにな。そこに立てかけてある剣もこいつの読み取った記憶から作ったらしいし」

 

「じゃあ、この人の背中についてる羽は?」

 

「それも須郷さんが面白がってつけてるだけ。羽があるからって飛べるわけじゃないから服と変わらんさ」

 

「こんなの、レインには似合わないとおもうんだけどなぁ」

 

「今なんて――」

 

 後輩の発言について先輩が聞こうとしたところで突然ブザーが鳴り響いた。

 あわてて先輩がウィンドウを開いて状況を確認し始める。静かに後輩はそれを見ていた。

 

「くそっ、どっかからハッキング受けてるらしい。俺はいったん落ちる。異邦人は水の中に戻しとけ」

 

 それだけ言い残した先輩はその場から消えた。

 

「りょーかい。っていうわけないんだけど」

 

 ポツリとつぶやいたナメクジはのろのろとこの部屋の操作に使うウィンドウの前に移動して操作をし始める。

 また思考もままならない水の中に戻されるのかと、レインはおもっていると、突然両手首から手枷がはずれた。

 突然のことと、今もなお痛む体のせいでレインは体勢を整えることはできずに身体は傾いた。

 そのまま地面にぶつかるかとおもったが、途中でふわりと受け止められた。

 

「おい、無事か?」

 

「レイン!」

 

 何事かと顔を上げると、そこには久しく見ていなかった坂崎という男の姿があった。

 そして、その後ろには今にも泣きそうな白い翼を生やした少女――元の世界でいつもレインの近くに出没していたシェルファがいた。

 二人の後ろではナメクジがのろのろと動いている。

 

「あんたがなんで・・・・・・」

 

「僕が君とあった組織にはもともとスパイで入ってただろ。ここの会社、というか須郷の、えっとオベイロンってお前には名乗ってたやつね。とにかく須郷のチームにも僕と同じようなやつがいたってわけさ」

 

 そういえば、とレインは思い出す。

 この坂崎という男は元々、レインが最初に捕らえられていた組織でレインの管理をしている人物だった。

 組織から得るものはなにもないと判断して出て行こうとしたときに、坂崎が間諜だと知り、なんだかんだで一緒にその場から出て行くことになったのだ。

 そして、仮想世界に入る元凶となった剛たちの仲間でもある。

 ちらりとシェルファをみると、我慢できなくなったといわんばかりにレインに抱きついた。

 

「よかった。ほんとによかった」

 

「あんたもどうやって・・・・・・」

 

 シェルファはもともと実体がなかったはずだ。

 そんな彼女がナーブギアをかぶれるわけがない。

 

「レインの身体を通して魔力をここに送り込んでいるの。傾国の剣が何度か反応しているのをみて私もやってみただけ」

 

 シルヴィアとの決闘のときに神として崇められてもいると言っていただけの事はあってやりたい放題な人だと、思わず苦笑してしまう。

 

「僕は来ないほうがいいっていったんだけど、とめる方法なんてないから着いて来ちゃったんだよ」

 

「坂崎さん、早くしないと。こっちに気がついて」

 

 レインに言い訳するような坂崎をナメクジがせかす。

 

「わかった」

 

 坂崎とシェルファに支えられながらも、どうにか立ち上がったレインはいつの間にか傾国の剣を持ってきていたナメクジから剣を受け取る。

 

「時間がないから手短に説明するよ。今僕らが君にできるのはこの世界のGM、オベイロンからレインへの干渉を遮断することと、君の知り合いのところに転移させることだけだ。ログアウトさせることはGM権限が必要みたいで僕らにはできない。今から転移させる君の知り合いは、僕らと同じようなことをしようと一人で動いている子だから、その子についていけばログアウトできるようになる・・・・はずだ。それと、その魔剣にはオベイロンからの干渉を遮断するシステムを入れてあるから絶対に手放さないでくれ」

 

「わかった」

 

「これだけ遅くなったのにこの世界から助け出せなくてすまない」

 

 坂崎がすまなさそうな顔をする。

 やはりこの男に間諜は向いていないと思う。

 

「いや、むしろ自力で帰れなくてわるかった」

 

 レインは傾国の剣の姿をしているだけの剣を腰につける。

 

「相変わらず、お前って一人でどうにかしようとするよな」

 

 へへっと笑うナメクジにレインは怪訝な視線を向ける。

 

「あぁ、いってなかったな。こいつは剛だ」

 

 間違いなく人選を間違えているだろうと、レインは眉間にしわを寄せた。

 それを気にすることなく、坂崎がポケットに入れていた荒削りをしたような結晶をレインの手に強引に持たせる。

 

「これは君の知り合いのところに行けるアイテムだ。転移、と一言言えば使える」

 

「お前たちはどうするんだ?」

 

「僕たちは普通にログアウトするだけだ。何の心配もいらない」

 

「私は魔力でこっちに来てるだけだからそれをやめたら普通に帰れるわ」

 

 安心させるために微笑むシェルファは、村を出てから姿を現すようになっただけのことはあり、レインのことを良く知っている。

 

「結局、君が自力でこの世界から脱出することになってしまって本当にすまない。僕たちは君の帰りを待っているから」

 

 レインは一度だけうなずく。

 そのとき、鎧を着込んだ兵士とオベイロンが部屋に駆け込んできた。

 

「やっぱりここか」

 

 レインの記憶から読み取られた形だけの傾国の剣の柄に転移結晶を持っていない手をそえるレインをシェルファがかばうように前に立つ。

 同じようにナメクジの姿をしている剛もレインの前に立つが、坂崎だけはレインの後ろに隠れるあたりいつもどおりでどこか安心してしまう。

 あわててきたらしいオベイロンは乱れていた髪の毛を整える。

 

「なるほど、現実世界に仲間がいたのか。ここまで入り込めるということは、そこの研究材料のバックアップをしている人たちかな?」

 

 次の瞬間、シェルファからオーラがあふれ出した。

 

「許さない」

 

 シェルファが怒っているのは誰からみてもわかる状況だった。

 何をする気なのかシェルファは右手をオベイロンに向ける。

 

「変なことをするな」

 

 叫ぶようにいいながらオベイロンが指を鳴らす。

 それと同時にレインの首に黒い帯が出現し、レインの首を締め上げながら宙に浮かせる。

 

「かはっ」

 

 呼吸のいらないこの世界では苦しいとおもうことはないが、遠慮なく締め上げる帯が首に食い込む。

 朦朧とする意識の中で視界の端で坂崎と剛がオベイロンの何かの操作によって消えたのが見える。

 

「さて、そこのお嬢さんももしかして異邦人なのかな?」

 

 オベイロンの卑しい顔を見てレインは首の帯を引きちぎろうともがく。

 彼女まで捕らえられては意味がない。

 しかし、システムによってその帯が千切れることはなく、レインの抵抗を諸共せずにぎりぎりと締め上げ続ける。

 消えそうになる意識のなか、再びブザーが鳴り響く音が聞こえたとおもうと、突然首の帯が弾けて消え、宙吊りにされていたレインは重力にしたがって落下するが、シェルファが受け止めた。

 

「転移!」

 

 レインの手に握られていた転移結晶に触れてシェルファが叫び、結晶が反応してレインを光が包み込み始める。

 

「逃がすか!」

 

 それに反応したオベイロンが再び指を鳴らす。

 途端にレインとシェルファを囲むように透明なガラスの箱が現れ、二人を閉じ込めようとこちらに迫る。

 彼女だけでもその箱から逃がそうと突き飛ばすために動こうとしたが、その前にとん、と優しくシェルファに押される。

 華奢な彼女の腕から想像もできない力で押されたレインはガラスの箱が閉まる前にその箱から逃れることができた。

 その代わりシェルファはその箱の中にとらわれてしまう。

 痛む身体を無視して、転移のために包まれる光を無視してレインは地面を蹴ってシェルファに向かって手を伸ばした。

 しかし、その手は届くことなく、微笑みこちらを見るシェルファを視界にとらえながらレインは完全に光に飲み込まれ、その場所から姿を消した。




フェアリーダンススタートです!

当時はシェルファとしか名乗っていませんからね。
シェルファでいかせていただきます

ぼちぼちと書かせていただきます
(訳:書き終わっていない)
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