ソードアート・オンライン~知られざる天才剣士~ 作:モフノリ
羊のような角をはやした巨大な悪魔が腕を振るったと同時に人が飛ぶ。
飛ばされた人の命は刈り取られてすぐに命の灯火になってしまう。
その理不尽な姿に恐れた人々は三々五々に逃げ出すが、悪魔がそれを許すわけもなく、逃げ惑う人々を飛び超えて退路を絶つ。
容赦なく人々を屠る姿は悪魔そのものだった。
「いやぁ、戦った戦った」
身体を伸ばしながら悪魔の姿から本来のスプリガンのキリトの姿に戻ったキリトは身体を伸ばす。
キリトが現在いるのはアルヴヘイムオンラインというゲームの中のルグルーという街の前の橋だ。
なぜ、SAOから開放されたキリトが今度はALOという仮想世界に来たのかというと、この仮想世界にいまだ目覚めることのないアスナがいるらしいからだった。
再びナーブギアをかぶっていざ仮想世界に来ると、いきなりバグで変なところに飛ばされたり、SAOでのデータが引き継がれていたりしていたが、急ぐ旅ということもあるので文字化けしたアイテムを捨てた以外はそのままだったりする。
もはや、ビーターどころではなく、チーター同然だ。
お陰でユイと再会することも出来たのでマイナスなことはないの無い。今のところ誰にも不審がられてもいないので問題はないだろう。
ALOにはいってから、一番最初に出会ったシルフ族のリーファのお陰で迷うことなく世界樹に向かうことができているので運がいいとしかいえない。
つい先程までは何故かあとを付けられていたサラマンダーのパーティと戦っていた。
一時は負けそうになったものの、ユイに言われた通り魔法を使った結果、悪魔の姿になり圧勝。
そして現在に至ることになる。
ボスを攻略するような陣形をとられたり、こちらもモンスターの姿になったりで、なかなかに楽しい経験だったのは間違いないだろう。
キリトから少し離れた所では旅の仲間のリーファが襲ってきていたサラマンダーの一人に事情を聞くために剣を向けていた。
それでは彼から情報は聞けないだろうとおもったキリトは、リーファの前で座り込んでいるサラマンダーの横にしゃがみこんだ。
「ナイスファイト!俺一人だったら負けてたな」
コミュニケーション能力は低いと自負するが、今回はそんなことを言っていられない。
フレンドリーな奴を演じきるためにキリトは笑顔を作る。
SAO時代では考えられない行動だ。
「ちょっと、キリト君?」
「まあまあ」
怪訝な顔を見せるリーファを適当になだめてキリトはなれない左手でウィンドウを操作して、先ほどサラマンダーを倒したときにドロップしたアイテム一覧を可視化して情報を聞き出すために生かしておいたサラマンダーに見せる。
「ものは相談なんだが、このさっきの戦闘でドロップしたものなんだけど、もし質問に答えてくれるなら、全部君に上げようとおもうんだが、どうだい?」
綺麗な笑顔でそんなことを言うキリトを凝視した後、他のサラマンダーが残っていないか周りを確認してからサラマンダーは声を発した。
「・・・・・・マジ?」
「まじまじ」
キリトとサラマンダーの男は笑顔で頷きあい、交渉は成立した。
リーファとユイの視線を感じるが気にしていられない。早くアスナを助けるためにも手段など選んでいられないのだ。
サラマンダーから大方の事情を聞いたキリトとリーファはルグルーの街に入るために橋を歩いていた。
下っ端だったせいで大した話が聞くことはできなかったが、サラマンダーたちから二人が狙われているのは理解できた。
さすがに須郷がキリトの動きに気がついてサラマンダーを回してきてるとは思えない。
どういうことなのかと思考を張り巡らせていると、リーファがこちらを見ていることに気がついた。
「どうした?」
「えっと・・・さっきのキリト君なんだよね?」
さっきの、というのはおそらくサラマンダー達を蹴散らしていた悪魔のことだろう。
「んー、たぶん・・・」
「たぶん?」
自分でもあいまいな答えだなとおもうが仕方がない。
「たまにあるんだよなぁ、戦ってる間にブチ切れて記憶が飛ぶこと」
「え、それやばくない?」
やばい奴を見る目を向けられるが、キリトは気にせず話を進める。
「まあ、さっきのはなんとなくだけど覚えてるよ。ユイに言われたとおりに魔法つかったら、自分がなんかやたらでかくなってさ。剣がなくなったから仕方なく手づかみで・・・・・・」
「ぼりぼりかじったりもしてました」
そういえばそんなこともしたような、と曖昧な記憶をさかのぼっていると、どん引きしているリーファが視界に入った。
「まあ、モンスター気分を味わえて楽しかったよ」
「その・・・・・・味とかしたの?」
引きつった顔で聞いてくるリーファにまともに特に味はしなかったといっても面白くはないなと考えたキリトはにやりと笑った。
「焦げかけの焼肉のような風味と歯ごたえが・・・・」
「やっ、やっぱりいい!言わないで!」
その反応を見てキリトのいたずら心に火がついた。
すばやい動きでリーファの手をつかむ。
「がぉう!」
そんな声とともにキリトはリーファの手にかぶりついた。
このとき、きちんと相手が女の子だということを理解していればキリトはこんな行動をとることはなかっただろう。
古参らしいリーファの飛ぶスピードが速いのと同様、キリトの顔を引っぱたくために振るった手の速さもすさまじいものだった。
「いやぁああああああ!!」
パァアアン
リーファの叫び声とキリトの頬の音が綺麗に合わさる。
叩かれたときのヒットエフェクトでキリトの視界が白く光った。
「うげっ!」
頬に感じるしびれるような不快感とヒットエフェクトの眩しさに目を瞑る。
「ヒットエフェクト眩しすぎ」
「違いますパパ!後ろです!」
ユイの鬼気迫る声にあわてて後ろを向くと、青く光る球体がそこにはあった。
SAOで見慣れた転移エフェクトのそれに近い。
リーファとユイを後ろにかばい背中におさめていた剣の柄に手をかける。
眩しさに目を細めつつもしっかりとそれを見据える。
光が収縮すると共に、何か影が見えてくる。
それがだんだんと形になってきた時にユイが声を上げた。
「パパ、中に人がいます!このプレイヤーIDは・・・・・レインです!」
「なに?!」
ユイの言葉に光など無視して目を凝らす。
光もどんどん収縮して徐々に人物が見えてくる。
自分と同じように黒い服を着て、腰にはごつい剣を携えた男――アインクラッドの姿と変わらないレインが現れた。
あまりに突然のことにキリトは動くことができなくなる。
後ろのリーファも何も言えずにいるということは似たような心境なのだろう。
レインはヒースクリフとの戦いの際、キリトとアスナを守ってHPを全損させている。
その後、ヒースクリフを倒し、崩れゆく浮遊城を目の前で茅場本人としゃべったときにレインは生きているというのは聞いていた。
しかし、レインの話を聞いていたのでもう会えないだろうとおもい、悲しくなったのは嘘とはいえない。
完全に光が消えたと共に、少し浮いていたらしいレインはすたっと着地した。
相変わらず謎に包まれている奴だとおもいつつ、何を聞けばいいのかわからないキリトは口を開けないでいた。
レイン本人も眩しかったのだろう。閉じていた目をゆっくりと開けた。
視線が交じり合う。
それと同時にレインは剣の柄に手をかけた。
あわててキリトは両手を上げて敵意がないことを示しながらもレインを止める。
「ちょっ!?待てレイン!俺だ!!キリトだ!」
キリトの言葉にレインは眉間にしわを寄せつつキリトの顔を凝視する。
それもそうだろう。今のキリトのアバターはアインクラッドのときとはちがう。
動きは止めてくれたものの、剣の柄からは手を話そうとしないレインにどう信じてもらおうかとキリトは頭をフル回転させる。
異邦人だと知っているといえばわかってもらえるだろうが、リーファがいる前で言えるわけがない。
アインクラッドでの話をしても、リーファにSAO帰還者と知られてややこしいことになることは間違いない。
「レイン!」
どうするか悩んでいると、ユイがキリトの後ろから飛び出してレインの目の前までとんだ。
それまで今にも切りかかってきそうだったレインの鋭い目は一瞬で柔らかくなった。
「・・・・・・ユイ?」
「はいユイです」
まさか、ナビゲーションピクシーの姿から元の姿に戻るのではないかと一瞬不安になったが、さすがにそれはしないようだったので安心する。
しばらく、じっとユイの姿を見たレインはようやく剣から手を離した。
「なるほど。俺の知り合いというのは、キリトのことだったのか」
「一体何を」
「キリト君・・・・・・知り合い?」
一瞬のことではあるがすっかりリーファのことを忘れてしまっていたキリトがあわてて後ろを振り返るとリーファは困った表情をこちらに向けていた。
レインが謎の出現の仕方をしたことと、リーファにどう説明すればいいのかという問題がキリトの頭を悩ませる。
まずはレインに事情を聞こうと向き直ると、レインは膝をついていた。
今にも倒れそうなレインをユイが小さな身体で必死に支えようよしているが、さすがに支えられないようでキリトが駆け寄り、ユイの代わりにレインを支える。
「おい、どうした?!」
「すまん。問題はないんだ」
問題しか見受けられないのをレインは分からないのだろうか。
頑なに人を頼ろうとしないところをみるに間違いなくこいつはレインだと認識させる。
呆れるキリトにユイはリーファに聞こえないように耳打ちをした。
「パパ、レインのプレイヤーデータを見たんですが、ペインアブソーバーがゼロに設定されています」
「なに?!」
キリトはユイの言葉に耳を疑う。
ペインアブソーバーというのは、痛みを制御するシステムのことだ。
普段、モンスターに切られても痛くないのはこのペインアブソーバーというもののおかげで、不快感を感じるだけですんでいる。
それがゼロというのは、現実で感じる痛みと同じということだ。
レインの顔をよく見ると仮想世界ということで汗はかいていないが、顔色がすこぶる悪い。
ペインアブソーバーがゼロだということと、今のレインの様子を見て、キリトは背中に汗をかく感覚におそわれる。
「おまえ、まさか怪我してるのか?」
怪我ですめばいいのだが、と思う。
レインはすこし考えた様子を見せてから口を開いた。
「そんなことはどうでもいい。ここは洞窟か?どっちにいけば出られる?」
無理やり立ち上がろうとするレインをどうにか支える。
今まで見たことのない弱り様に是が非でもとめなければいけないのは明らかだった。
「今のお前を放っておくことはできないから言えない」
「答えろ」
今まで自分に向けられたことはない底冷えするような冷たい目を向けられる。
《タイタンズハンド》のときや《笑う棺桶》のときにみたあの目。
ブチギレてるときの目だ。
その目を向けられた瞬間、キリトは目を逸らしかけたがどうにか見返して絶対に教えないことを伝える。
レインはすっと目を細め、次にリーファをみる。
「っ!えっと・・・・・・」
「わかった。脅すようなことをしてわるかった」
明言はしなかったリーファだが、指をさしたか目線で教えたのかしたのだろう。
レインのあの目を向けられてしまったのだから仕方がないとおもう。
支えているキリトを押しのけてレインはルグルーに入っていこうとする。
あわてて止めようと手を伸ばしたキリトだったが、振り返ったレインが自分の伸ばした腕をつかんだとおもった瞬間には宙に浮いていた。
「うぐっ」
背中を地面に叩きつけられ、横をレインが通っていくのが見えて、ようやく自分がレインに投げられたことを理解した。
現実世界であれば、今の衝撃で肺の中の空気が全て出てまともにしゃべれるようにはなるまで時間がかかっただろうが、ここは仮想世界だ。呼吸すら必要ではない。
「待てレイン!どこに行くつもりだ!」
無視されて行ってしまうとおもったが、予想外にもレインは止まってくれた。
「これは俺の問題だ。お前には関係ない」
「お前は無茶をしすぎだ!少しは俺を頼れ!」
明らかに心身ともに疲弊しているレインが一人で全てを解決しようとする姿にキリトは叫んでいた。
キリトの声と同時にユイがレインに向かって飛ぶ。
再び歩こうとするレインの目の前に躍り出たユイはレインの胸に小さな手を触れる。
それまでの冷たい瞳ではなく暖かい瞳になったレインはつらそうにユイをみた。
「頼む、行かせてくれ」
「嫌です!だってレインの身体は――」
ユイに続きを言わせないようにかそっと優しくユイにふれる。
先ほどまでの表情とは打って変わってレインは優しくユイに微笑みかける。
「ごめん。でも行かないといけないんだ」
それでも一番レインの状態をわかっているユイが引き下がるわけもなく、じっとレインを見つめて行かそうとはしなかった。
基本的に女の子に弱く、とくにユイに関しては誰かと似ているらしく、それ以上に弱いレインがユイを押しのけていくことができるはずはなかった。
小さくため息をついたレインは全身から力を抜いたのか再びその場に倒れそうになる。
あわててキリトが駆け寄って支えた。
「すまん」
「ちゃんと説明してもらうからな」
「・・・・・・わかった。ただ、今は少し休む」
それだけ言ったレインは静かに目を閉じた。
「休むって・・・・・・気絶の間違いだろ」
完全に力の抜けたレインをキリトはどうにか背負いなおす。
ユイが心配そうにレインの顔を覗き込んでいるが、事態についていけていないリーファになんて説明したらいいのか、キリト頭を悩ませた。
まず、アルヴヘイムに転移というシステムがないのでレインの登場の仕方の説明すら難しい。
レインの、人が適当に作った設定に合わせない、というのもあるので下手にリーファに作り話で誤魔化しても、レインのせいで無駄になる可能性の方がかなり高い。
「えっと、あとで説明するから先に街に入ろうぜ」
「あ、うん」
秘技、後回しを使ったキリトはリーファと共に街に入っていった。
すぐに聞いてこなかったリーファには感謝しかできない。
とりあえず、ルグルーの宿屋に入ったキリト達はレインをベッドに寝かせる。
一つしかない椅子をリーファに譲り、キリトは壁にもたれかかった。
穏やかとは言えないレインを観察すると不思議な点が多すぎる。
まず、見た目を最初に上げるのであれば服装だろう。アインクラッドで着ていたものと寸分違わないそれは目に馴染み過ぎていてアインクラッドではないここで見ることに違和感しかない。
そして、そんなレインに背中に生えている羽。
洞窟内で飛べないということもあり、キリトとリーファは羽を出していない。
まず、飛ぼうも意識して出すものということもあるので意識のないレインが出しているのはおかしいのだ。
「あの、キリト君。そのNPCの人のこと何か知ってるの?」
「NPC?」
「えっ、違うの?HP表示もないし・・・・・・」
リーファの言葉にキリトはレインを注視してフォーカスしてカーソルを出す。
彼女の言うとおり、レインのHPは存在せず、カーソルの色は今まで見たことのない白色だった。
アスナやほかの目覚めないSAO帰還者となにか関係があるのだろうか。
いや、ここまでおかしいレインの様子をみるに関係あるだろう。
「にしても、すごくつらそう・・・・・・一体どうしたんだろう」
一人で思考の海にはまりかけていたキリトの返事を聞くこともなく、今も苦しそうに顔を歪めながら眠るレインの横までリーファは移動する。
ユイはSAOのときから変わらず、レインに対してどこかキリトやアスナとは違う特別な感情を抱いているようで、仰向けで寝ているレインの胸の上にちょこんと座っている。
そんなユイにリーファが聞く。
「ユイちゃん、この人に治癒魔法かけたら効果あるかな?」
その言葉に少し考えたユイは不安そうな表情のまま答えた。
「やってみないとわからないというのが現状です」
ペインアブソーバーのことをキリトに伝えてきたことから察するに、おそらくユイはレインのプレイヤーデータをのぞいていろいろなことをすでにわかっているはずだ。
しかし、それを話さないのはキリトとは違い、アルヴヘイム・オンラインというゲームを楽しんでいるだけのリーファのことを考えてのことだろう。
レインのプレイヤーデータをのぞいたユイですらわからないということは、かなりややこしい。
そんなことを考えながら、キリトは成り行きを見守る。
「効いてくれたらいいんだけど・・・・・・。スー・フィッラ・ヘイル・アウストル」
リーファの周りの空気がふわりと動く。
魔法によるエフェクトがレインを優しく包み込んだ。
レインの様子を三人は息を呑んで見守る。
そして、エフェクトが消えるころにはレインの表情は穏やかのものになっており、全員がほっと一息ついた。
痛みがなくなったのであれば時期に目を覚ましてくれるだろう。
心に余裕ができたキリトはふと少し前のことを思い出した。
「そういえば、リーファ。へんなメッセージ来てなかったっけ?」
「あぁ、そういえば。レコンから来てたなぁ」
どこか嫌そうな顔をするリーファに思わず苦笑いをしてしまう。
「なんか慌ててたっぽいし、リアルでも知り合いなら一回落ちて連絡とってきたらどうだ?こいつが目を覚ますまで時間かかりそうだし」
さりげなく厄介払いのようなことをしてしまっていることに少し罪悪感を覚える。
しかし、ことがことだけにただのプレイヤーであるリーファをSAOのことに巻き込むのも悪いと思ってしまうのだ。
しばらく考えたリーファは小さくため息をついた。
「そうさせてもらうよ。ごめんね。できるだけ早く帰ってくるから」
リーファは手早くウィンドウを操作してログアウトしてしまった。
それを見届けたキリトはレインの寝ているベッドに腰をかける。
「ユイ、レインのことどれぐらいわかる?」
振り返ったユイは今にも泣きそうな顔をしていた。
その様子にすでに不安しかない。
「すみませんパパ。ほとんどわからないというのが今の状態です。ただ、先ほど伝えたようにペインアブソーバーはゼロに設定されていて、ログアウトもできないようです。さらにフライトエンジンも使えない状態みたいですね。HPがないでこの世界で死ぬことはありませんが――」
「問題はない。体も現実世界と変わらないぐらいには、いや、むしろそれ以上に動くしな。死なないだけさ。身体の痛みも今はない」
いつの間にか起きていたらしいレインが起き上がりなが泣きそうなユイを安心させるために微笑みかけていた。
そんな説明で納得できるわけがない。
しかし、リーファが戻ってくるまでにレインのことを聞かないといけないのもまた事実だった。
「とりあえず説明をしてくれると嬉しい」
キリトが真剣な面持ちで話を切り出すと、レインもいつのも無表情に戻った。
「俺は・・・・・・さっきまでいた場所のことはわからない。ただ、アインクラッドから出たあと目を覚ましたらこの仮想世界にいてすでに囚われていた状態だった。それでさっき、囚われていたところに現実世界の知り合いが助けにきて、お前のところに転移してきた」
明らかにさっきいた場所について言う気がないレインに呆れる。
「じゃあ、お前のペインアブソーバーがゼロだったりする理由とかってわかるか?」
キリトがそう聞くと、レインは顔をしかめた。
どうやらできれば話したくない部分らしく、口を開く様子は見受けられない。
しかし、ユイが黙っているわけがなかった。
「教えてください」
一瞬で妖精の姿から元の人間の姿に戻ったユイはベッドに座っているレインの膝の上にちょこんと座ってお願いをする。
困った顔をして頭をかいたレインは小さくため息をついて、彼には珍しく目線を逸らしながらぽつりぽつりと答えはじめた。
「・・・・・・実験の一環だそうだ。詳しくは知らんが、俺は異邦人だからどこまで痛みに耐えられるか気になるらしい」
レインの言ったことにキリトもユイも言葉を失う。
そして、キリトはレインはSAOに来る前も現実世界で謎の組織に捕えられていたとも言っていたのを思い出した。
レインが自身でその組織とやらは壊滅させることが出来たらしいが、システムによって制限の多い仮想世界ではそうすることは出来なかったのだろう。
レインよりもシステムについて詳しいキリトにはすぐに理解できた。
「俺の記憶から作り出した女性と連日戦わされてな。その人は俺に魔法を教えてくれた人で魔法込みで戦えばさすがに負けるかもしれない人なんだが、さすがというか、強いんだ。だから無傷とかは無理だった。剣の技術も一流だからな」
「自力で逃げるのはやっぱり無理だったのか?」
できなかったから知り合いに助けてもらったのだろう。
それがわかっていても、強くなるために自らそこに留まったと、もしそういう理由ならと、キリトは思うしかなかったのだ。
そして、そんな小さなキリトの望みの砕かれる。
「無理だった。一度逃げ出せそうだったんだが、強制的に意識を奪われてな。次に目が覚めた時には厳重に管理されていた」
いつもと変わらないようでいて、いつもよりも希薄な表情が意味するものをキリトにはわからなかった。
何も言えなくなり、沈黙が続く宿屋の一室に人がログインしてきた時のエフェクトが光る。
リーファが戻ってきたのだろう。
「ユイ」
キリトが声をかけると、ユイはすぐにナビゲーションピクシーの姿になった。
その直後にリーファがエフェクトの中から現れる。
不審がられていないか不安になったが、そんなことが気にならない程度にリーファは慌てている様子だった。
「ごめんキリト君。私行かなきゃ」
レインのことも重要なのは間違いないが、だからといってリーファを助けない理由にはならない。
「じゃあ、道すがら話を聞くよ。こいつも連れていくけどいいか?」
そこでようやく、レインが目を覚ましていたことにリーファ気がついたらしい。
「あっ、起きたんだ!よかった。急ぐことになるけど問題ないならいいよ」
「レイン、紹介する。この子は俺に道案内をしてくれているリーファだ」
「道案内?」
そういえばと、自分がここにいる理由を全く説明していなかったことを思い出す。
「俺はこの世界で人を探している。その人はたぶん世界樹っていう木の上にいるんだ」
考えるような仕草を見せたレインはベッドから立ち上がった。
「わかった。俺とお前の目的地は同じだろうから着いていく」
「目的地って何か世界樹に目的があるのか?」
身体を一通り伸ばしてからレインはいつもの特に感情のこもっていない表情で言う。
「俺はたぶんその世界樹とやらから来た」
「え?!」
「え?!」
思わず、キリトとリーファは固まる。
フリーズした二人にレインは怪訝な顔を向ける。
「急ぐんじゃなかったのか?」
「そうだった!!」
レインの言葉で慌しく三人はルグルーをあとにした。
魔法で痛みは消えるんだろうか・・・・?
わりかしご都合主義なのでご了承を