ソードアート・オンライン~知られざる天才剣士~   作:モフノリ

27 / 47
不思議で不可視で不可解な

 レインは一人で小一時間前に到着したアルンを歩いていた。

 今、この仮想世界にはプレイヤーたちがいない。

 システムも止まっているようで夜なのにも関わらず明かりがついておらず、突然世界から人々が消えて自分だけが取り残されてしまったような状況だ。

 しかし、この世界樹の上ではシェルファがつかまっていて、キリトによればアスナも囚われている。

 のんびりと上につづくアルンの街をレインは上っていく。

 静かな世界でレインだけの足音が響き、オベイロンのいる場所の真下であるここだと、すぐに彼に見つかるかもしれない。

 現状だと見つかればログアウトする方法はレインは知らないので避けなければいけないのだが、アルンに着てからずっと呼ばれている気がするのだ。

 本当に声が聞こえているわけでもないので確証はないが、感じたものは大体意味があると今までの体験からもわかっているレインはただ、呼ばれるがままに足を勧める。

 しばらく歩いてたどり着いたのは、両脇に巨大な像が立っている、大きな扉のある広場だった。

 その扉が、世界樹の根元についているということは、これが世界樹の上にいくために受けなければいけないグランドクエストへと続くものなのだろう。

 そして、その扉の前にぼんやりと何かが光っているのがみえた。

 その光にどこか見覚えがある気がしたレインは警戒をしつつも近寄る。

 

「レイン!」

 

 突然光から聞こえた声にレインは驚き、そしてほっとした。

 

「シェルファか」

 

 聞き覚えのあるシェルファの声にそう返すと、光がどこか嬉しそうに揺らめいた。

 

「捕らえられているわけじゃないのか?」

 

 一番気がかりだったことを聞くと、光は輝きを減らした。

 実にわかりやすい変化に思わず微笑んでしまう。

 

「私の中枢はまだ箱の中にあるわ・・・・・・。一度透明な箱が開きかけたときに出ようとしたんだけど、すぐに閉じられてしまったの。今ここにあるのはそのときに箱から出すことができた私の欠片よ」

 

 彼女はもともと実体がないので捕まえていることができているだけ逆にすごいと思ってしまう。

 

「なら、俺が君を助けに行こう。もともとそのつもりだったしな」

 

「ほんとに!?」

 

 突然光を増したシェルファの欠片に驚きつつもレインはうなづいた。

 

「レインが私を助けてくれるなんて、最初は捕まっちゃって情けないと思ったけど、捕まってよかったわ!」

 

 欠片をきらきらと輝かせているということはそれほどにも嬉しいのだろう。

 心配してしまっている自分が馬鹿らしく思えるほどに、彼女には余裕があるようだった。

 

「必ず助けにいく」

 

「ええ!たとえ逃げれそうでも待ってるわ!」

 

 そんなことを言うシェルファにレインはただ微笑むことしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 レインは閉じていた目を、ゆっくりと開けた。

 いつものように寝ぼけることはないレインはここでシェルファとしばらく話し込んだのち、彼女に寝るように勧められて、彼女を一人ここに残していくのも嫌だったレインはそのままここで眠りについたことを思い出した。

 ドアから少し離れた柱にもたれて座りながら寝ていたレインの隣で楽しそうに揺らめいている光に視線を移した。

 

「おはよう」

 

 鈴のように綺麗な声で挨拶をされ、気持ちのいい朝を迎えれたなと、口に出すことはないがレインは思った。

 

「おはよう。あんたはずっとおきていたのか?」

 

「ええ。私は寝なくても平気だし、レインの寝顔も見たかったの」

 

 光なので表情が見えないはずなのだが、満面の笑みで言っているのであろうことはだいたい察しがつく。

 男の寝顔を見て何が楽しいのか全くわからない。

 どう反応していいのかわからず、ごまかすように立ち上がったレインは身体を伸ばす。

 ふと、眼下に広がるアルンの街に意識を向けると、昨日の夜のような静けさがなくなっており、キリトたちが言っていたメンテナンスというものが終わっていることを理解した。

 ということは、宿屋からレインが消えていてもしかしたら騒いでいるかもしれない。

 まあ、どうにかなるだろうし、自分が行くところは世界樹の以外にないのはキリトが分かっているだろうから大丈夫だろうと勝手に納得したレインはキリトがここに来るまで待つことにした。

 変に動いたほうがややこしい事になる。

 その前に、とレインはシェルファの欠片に向き直った。

 きらきらと輝いている彼女が上機嫌なのはすぐに分かる。

 

「あんたの、その欠片はどうなるんだ?」

 

「レインについて行くつもりよ。移動出来なくはないもの」

 

 となると、こんなシステム外のものを連れ歩くということになる。

 それはキリトとリーファがうるさい気がしなくもない。

 というか、説明するのがめんどうだ。

 だからといって彼女を置いていこうにも、勝手についてくるだろう。

 ならば隠し持つしか方法はないのだが、その方法が一つしか思い浮かない。

 しかし、それを男である自分が女性に提案していいものなのだろうかと、思ってしまう。

 たとえ彼女が好意的に思ってくれているが、おそらく嫌がるだろうな、と思いつつもレインはその方法をおずおずと提案し始めた。

 

「その、あんたはこの世界じゃイレギュラーで目立つからできれば人目につかせたくない。それで一つ提案なんだが・・・・・・俺の中に入って隠れることはできるだろうか?」

 

 レインがそういった瞬間に、光が急激に動きを停止させてしまったので慌てて言葉を付け加える。

 

「いや、他に目立たない方法があればそれでいいんだ!俺には他の方法が思いつかなかっただけなんだ。嫌だろうから他の方法を――」

 

「ほんとにいいの?」

 

 いまだ動きのない光に戸惑うが、レインは小さくうなずいた。

 こちらとしては何の問題もない。

 むさくるしいおっさんや、常にこちらの命を狙っている奴であればこちらから願い下げではあるが、相手は美人でレインのことを助けようとしてくれたこともある。

 

「あんたなら俺は何の問題もない」

 

 レインがそういった瞬間、爆発かと思うぐらいシェルファの欠片である光が発光した。

 あまりの眩しさにレインは目を隠した。

 

「お、おい!大丈夫か?!」

 

「ご、ごめんなさい!」

 

 何かがあったのかと心配したレインだったが、シェルファの思いの他、元気そうな声が聞こえたのでほっと一息つく。

 そして、すぐに光は収まり、ゆらゆらと揺れる光にもどった。

 

「その、悪気はなかったの。思わず光っちゃったというか・・・・・・えっと、早速だけど、レインの中に入るわね!」

 

 今までになくたどたどしい彼女の様子に疑問を抱きつつ、レインは自分の体の中にそろりと入ってくる光を受け入れた。

 光が入ってきたときの感覚は特になかったが、ほんのりとした暖かさと、多少の魔力を感じた。

 

「もし、痛みを感じたりしたら出てくれてかまわないからな」

 

「結局のところ欠片でしかないから何も心配はいらないから、安心してちょうだい」

 

 どこか楽しそうな声を聞いてレインは微笑んだ。

 

「こんなところにいたのか」

 

 シェルファに気をとられていたということもあって、突然声をかけられたことに多少は驚いたが、それが聞きなれた声だったのでレインは何事もなかったように声の主のほうに向いた。

 

「遅かったな、キリト」

 

 リーファの姿がそこにはなく、あせっている様子のキリトを見るに何かあったのだろう事はすぐにわかった。

 先ほどまでのシェルファとの一部始終を見られたのではと懸念したが、あの様子では見られていないだろう。

 

「どうかしたのか?」

 

「アスナが・・・・・・アスナがいた。ユイが見つけて呼びかけたら世界樹の上からアイテムじゃないものが落ちてきたから間違いない」

 

 苦しそうに顔を歪めたキリトは扉の前に足を進めた。

 一人ででもグランドクエストを攻略する気なのだろう。

 グランドクエストの全容もよく分かっていないレインではあるが、今までどれほどの大人数が押しかけてもクリアできていないということは知っているので、一人で乗り込むことがどれほど無謀なことかはわかった。

 表情を変えることもなく、ため息をつくこともなく、レインはそれが当然のようにキリトの隣に並んだ。

 

「いいか、ここからは俺のことを気にするな。これでも現実世界で何度も生身で戦ってきた。痛いだけで死にはしない。お前はアスナを助けることだけを考えろ」

 

「でも――」

 

「でもじゃない。どうせ俺はGM権限とやらがないと現実世界には戻れない。それが何なのかはわからんが、もしアスナが俺と同様なら彼女もGM権限がいるはずだ。俺が現実世界に戻るためにもお前には進んでもらわないと困るんだ」

 

「・・・・・・わかった。だけどできるだけ無茶はしないでくれ」

 

「しなくていいならな」

 

 どんなときでも軽口を叩き合っていた二人には珍しく、それ以上は特に言葉を交わすことなく、巨大な扉をくぐった。

 

 

 

 

 二人の視界に広がったのは円柱状に高く伸びた室内だった。

 それは間違いなく世界樹の中だと分かるほどに広く高い空間で、壁には木の中だということを連想させるようにか蔦のようなものが貼りめぐされていた。

 そんな部屋にレインは眉間にシワを寄せる。

 

「おまえ、これどうするんだ?」

 

「・・・・・・まあ、どうにかするから、お前は飛んでいけばいい」

 

 ぶっちゃけ、どうにかするしかないのだ。

 

「お前の事だからどうにかして上まできそうって思えるから不思議なんだよな」

 

 ぼそっと呟いたキリトは羽を広げたと思ったら、すごいスピードで上昇していった。

 レインもそれに続いてどうにか上に行くしかないのだが、現状で思いつく方法は壁を走って登るぐらいしかない。

 どうやって上まで行くか考えていると、壁の装飾だと思っていたガラスのような所から騎士を模した敵が続々と出現し始めた。

 それは尋常な数ではなく、間違いなく先に上に向かったキリトだけで対処できる量ではない。

 もちろん、レインですら難しい量だ。

 すぐにでも加勢に行きたいが、と悩んでいると半数以上の騎士が一斉にこちらに向き、弓兵は容赦なくレインに向かってこれまた尋常じゃない量の矢を放ち、その合間を縫うように数十人もの騎士達がレインに向かって急降下してきた。

 

「レイン!」

 

「気にするなと言ったはずた!」

 

 すぐに戻ってこようとしたキリトに一喝したレインは剣を振りかぶって斬撃を飛ばした。

 騎士達はそこまで硬いわけではないらしく、今まで同様に一撃で四散する。

 これなら問題は無いと判断したレインは一番近場にいた空中を飛んでいる騎士に向かって跳躍した。

 格好の的だといわんばかりに剣を振り下ろされるが、レインには予想の範疇でしかない。

 羽があるわけでもないのに空中で身体を捻ったレインはその振り下ろされた剣をもつ腕をかすむ様なスピードで掴むと思いっきり下へと引っ張った。

 キリトほどの筋力値ではないものの、規格外なステータスと現実世界で磨いてきた技術を持っているレインはいとも簡単に騎士を自分よりも下に引き摺り下ろす。

 しかし、地面に叩きつけるわけではなく、今度はその騎士からあっさりと手を離し、いつ抜いたのかもわからない剣を振りおろして胴を凪ぐ。

 あっさりと上下真っ二つになってしまった騎士の頭を踏むとレインは足に力を込めて再び近場の騎士に向かって飛び込んだ。

 騎士を斬っては踏みつけて上に跳ぶ。

 もちろん、出現している敵が踏み台用の騎士だけなわけがなく、踏み台を仕留めている間も他の騎士たちがレインに向かって斬りかかったきている。

 それを感じさせないほど、レインはそれらを簡単に処理しながら次々と騎士を踏みつけて上へと飛んでいった。

 しかし、雄たけびを上げながらも突き進んでいくキリトにはなかなか追いつけない。

 飛べるのとはやはり勝手が違うせいでなかなかに進めない。

 

「くそっ」

 

 いまだに出現し続けている騎士の半数以上がレインのほうにやってくるといっても、キリトが上に行くにつれて出現する量が増え、ただでさえ厳しい状況が今まで以上に厳しくなっていく。

 

「ぐあっ」

 

 大きくもないはずのキリトの声がレインの耳に届いた。

 斬りかかってくる騎士を逆に斬りつけながらもキリトのほうを思わず振り向いてしまう。

 そこには背中から大剣に貫かれているキリトがいた。

 ここはアインクラッドとは違う仮想世界で、たとえHPがなくなっても死なないと聞いても血の気が引く。

 動きの止まったキリトはすきだらけになり、に次々と剣が突き刺さる。

 それでも尚、キリトは天井に見える扉のようなものから視線を離さず、アスナがいる方向に向かって手を伸ばし、そのまま四散した。

 今までモンスターを倒したときや、ヨツンヘイムで襲い掛かってきた連中を自らの手で斬り倒してみてきたはずの人だったものの欠片が異様に目に飛び込んでくる。

 どこか他人と割り切ることができないそれに――守りたい人を、救いたい人を守ることも救うこともできずに四散したキリトに自分を重ねてしまったレインは、彼には珍しく、雄たけびを上げながら剣を振い始めた。

 鬼神のようにそれまでよりも剣を振るい、次々と騎士を踏み台にして上るレインだが、まだかすかに冷静さを残してたおかげで、まずはここからキリトをつれて逃げ出さなければならないと判断していた。

 

『レイン!』

 

 自分の中からシェルファの声が聞こえる。

 断じて聞こえていないわけでも、無視をするつもりもないのだが、半数以上の騎士でさえ多かったのにもかかわらず、キリトに向かっていた騎士たちもこちらに来てしまったせいで、さすがのレインも言葉を返すことができなかった。

 そんなレインのことをわかっているのかわかっていないのかは定かではないが、レインが何の反応を示さなくてもシェルファは悲痛な声でレインに言葉をかける。

 

『お願いだから、無茶しないで』

 

 今にも泣いてしまいそうな少女の声に、レインはどうにか騎士たちの相手をしながらも言葉を返す。

 

「泣かないでくれ。あの馬鹿の残り火を掴んだらここから出るつもりだ」

 

『でも、レインの身体がっ』

 

 そう言われて、わざわざ意識の外にやっていた自分の状態に顔をしかめた。

 人間離れした動きをし、騎士たちを一撃でほふりながらも彼らを踏み台にして上っていくレインだが、無傷というわけがなかった。

 彼の身体には無数の切られた傷跡があり、全身に無数の矢が突き刺さっている。

 それはあまりにも痛々しく、シェルファが悲痛な声で叫ぶのも納得ができる。

 だからといって、どうにかキリトを助けないといけないのも事実だ。

 

「大丈夫だ。これぐらいならまだ動ける。それに、やつがいないとシステムについてわからない俺じゃこの世界から出ることができない。情けない話だが、あいつは俺が出るためにも必要なやつなんだ」

 

 レインはそういいながらも新たに背中に何十本も矢を受け、切りかかってくる騎士を切り倒し、矢を放ってくる弓兵には斬撃を飛ばす。

 しかし、尋常じゃない数のせいでなかなかキリトのところに向かうことができない。

 

『レイン、空を飛べるように変わる?』

 

「え?」

 

『私を誰だと思っているの。たとえ欠片といっても私の魔力の欠片でもレインについている羽を使えるようにするぐらい簡単よ』

 

 それはまるで自分に言い聞かすように聞こえたのはレインの思い過ごしではないだろう。

 元々魔力など存在しない、いや、入り込めない世界に無理やり魔力をねじ込んでいるような状態で容易に使えるわけがない。

 レインとて、何度か傾国の剣の魔力を感じ、行使したがほとんど勢いのようなもので使おうとしても使えるものではなかったのだ。

 しかし、とレインはすぐに考えを改めた。

 魔力だけで機械を使わずに仮想世界にやってきている彼女にとってはそれはたやすいことなのだろう。

 

「頼む」

 

 システムが全てを掌握し、それらのせいで理不尽なことを幾度となくレインを苦しめてきたが、そのシステムすらガン無視しようとしているシェルファに、レインは不敵な笑みで答えた。

 

『さあ、レイン。何かに縛られているあなたはもう見飽きてしまったわ。自由に空を飛びなさい』

 

 次の瞬間、レインは踏み台にするために踏んでいた騎士を思いきり蹴り飛ばし、弾丸のように飛び上がった。

 

 

 

 

 

 視界が無彩色に包まれ、蘇生可能時間なる数字が視界の端で着々とその数を減らしている。

 先ほどまで高ぶっていた気持ちは冷静さを取り戻し、結局はシステムから逸脱のできない自分に、何の力もない自分にキリトはただぼんやりと、自分をさげすんでいた。

 多すぎる敵のせいで見えないが、剣と剣がぶつかる音や、敵が消滅するときの音が聞こえるのでレインがいまだ自分よりはしたのところで戦っているのを理解している。

 きっと彼のことだ、飛べないくせにどうにかここまでやってきてキリトを助けようとしているのだろう。

 しかし、それはあまりにも無茶だ。

 飛べるキリトですらここで負け、死んでしまった。飛べないレインがここまで来れるわけが――

 そこまで考えていたキリトを裏切るように突然、ガーディアンの群れから黒い光が一直線にキリトのリメインライトに向かって飛んできた。

 その突然の速さに、ガーディアンたちが慌てて追いかけるが、なかなか追いつける速さなわけもなく、その黒い光はキリトの元にたどり着いて急停止した。

 その光は、やっぱりというか、当然のようにレインで、今までずっと垂れ下がっていた羽を広げ空中で停止している。

 

『レイン、まだ慣れていないし、あなたの身体のこともあるから飛べるのはせいぜい一分が限界みたい。大見得きったのにごめんなさい』

 

 どこから聞こえているのかさっぱりわからないが、きれいな声が響く。

 

「一分あれば十分だ」

 

 体中に矢が刺ささっていて、それだけで明らかに満身創痍にしか見えないレインはキリトのリメインライトを左手で掴むと、すぐに急降下し始めた。

 いったい何が起きているのか、どうして飛べているのか、さっき聞こえた声は何なのか聴きたいことが多いのに、キリトはただの残り火でしかないので声を出すことすらできない。

 戸惑うキリトを放置してレインは再び騎士の群れの中に飛び込んでいった。

 初めて、というわけでもないレインの戦いをキリトだったが、間近でみるそれは本当にレインが人なのかと疑いたくなるようなものだった。

 キリトのリメインライトを片手がふさがっているが、それすら感じさせないほどレインは次々に敵をほふっている。

 見えていないはずの背後からの敵の攻撃も避け、はじき返した剣を別の敵をしとめる。

 今まで出すら空中なのにもかかわらず、自由自在に動いていたレインは、空を飛べるようになったおかげで今まで以上に自由に、滑らかに身体を捻り次々とガーディアンたちを蹴散らしていた。

 それでも、レインは斬られ、矢を受けているのはガーディアンの量が尋常じゃないからだろう。

 レインの周りには壁のようにガーディアンが群れを成している。

 本来であれば、あきらめてデスルーラするところだが、死ねないレインはそれができない。

 

「キリト君!!レインさん!!」

 

 突然聞こえた声にレインとキリトは声のする方向を慌ててみると、そこには今にも泣きそうなリーファの姿があった。

 しかし、それは間違いなくレインの隙となり、すぐ近くにいた騎士は深々とレインの剣を持っていた片腕を切り、レインから切り離された腕は四散した。

 

「っ!」

 

 現実世界と同じ痛みを受けているはずのレインの表情は苦痛にゆがむ。

 悲鳴を上げないあたり、レインの精神力は計り知れない。

 

『剣を離してはだめ!』

 

 再び聞こえた鈴のような声が響いた瞬間、レインの周りに突如魔方陣があらわれ、その中から何本もの鎖がレインに向かって伸びてきた。

 

「くそっ」

 

 ただでさえ全身を痛めつけられていたレインは腕を切られたせいで著しく動きが鈍り始めた。

 そんなレインが何千もの騎士の猛攻を避けながら無数の鎖を避け続けることなどできるわけもなく、鎖に絡め取られるまでそう時間はかからなかった。

 レインの動きを封じるように巻きつく鎖がきらりと光った瞬間、雷が落ちた。

 

「がぁあ!!」

 

 痛みを感じないキリトには計り知れないが、レインの目が見開かれ、腕が切られても悲鳴すら上げなかったレインが声を上げて苦しんでいるというだけで、その雷の威力がすさまじいものなのを理解する。

 

『いやぁ!!』

 

 どこからか聞こえる鈴の声が悲鳴が悲痛な声を上げる。

 ようやく雷が収まったころには、すでにレインの意識は途絶えていた。

 それでもキリトのリメインライトを手放さないレインにキリトは胸が締め付けられる思いを抱く。

 どうすることもできない自分にいらだってしまう。

 鎖に絡め取られたレインがどうなってしまうのかとキリトが思っていると、いまだに不思議でしかない声が聞こえた。

 

『この私がレインを連れて行くことを許すと思っているの!!』

 

 その言葉が聞こえた瞬間にレインが動き始めた。

 

「そこの泣きじゃくってるあなた!レインの落ちている剣を拾ってこのドームから逃げなさい!」

 

 レインから女性の声が聞こえてきて、キリトはリメインライトながらにぎょっとしてしまう。

 

「汚い鎖はレインから離れなさい!」

 

 そうレインではないであろう誰かがレインとして叫んだ瞬間に何の力かわからないかレインに巻きついていた鎖が弾け飛んだ。

 それはシステムを無視した何かなのだろうことは何が起きているのかわからないということでキリトには理解できた。

 

「ほら!!さっさと動く!」

 

「は、はい!!」

 

 女しゃべりのレインに驚きすぎてしまったのか止まっていたリーファが慌てて動き出して落ちていた剣を拾いに飛んだ。

 

「邪魔な兵共も道を空けなさい!」

 

 そういい放った瞬間、先ほどの鎖同様、不可視の何かによってレインと出口の道までの間にいた騎士が吹き飛んだ。

 リメインライトながらにキリトはただ、それを見てため息をついたのはレインが異邦人だということを知ってしまっているからなのだろう。

 あまり、緊張感に包まれずに悠々と扉から出たレインに掴まれたままだったキリトは、いまだ混乱気味のリーファにアイテムを使ってもらって蘇生して、一息をついた。

 本当であれば、再び扉を潜って特攻したい所ではあるが、先にレインをどうにかしなければならないのは明らかだ。

 リーファから剣を受け取って慣れない手つきで鞘におさめているレインにキリトは意を決して声をかけた。

 

「えっと、俺はキリトって言うんだが、あんたは誰だ?」

 

「ごめんなさい、元々レインからは隠れてろって言われてたから名乗るつもりはないし、こうやってレインの身体を動かしたのも内緒にしてくれないかしら」

 

 中にいるのであろう女性が微笑むわけだが、身体はレインなので、滅多に動かない表情な精悍な顔つきの彼が全てを包み込むように微笑むと、男であるキリトですらドキッとしてしまう。

 

「だめかしら?」

 

「さすがにきついですね。あんな状態から逃げ出すなんてリメインライトだった俺は論外だし、リーファも無理だ」

 

「あら、そう。なら仕方ないわね。君の飲み込みの早さ的にレインがどこから来たのか知ってるのよね?」

 

 可愛く微笑むレインに違和感しか感じないし、むしろ恐ろしいとまで思えているキリトは引き攣りそうな顔をどうにか正常に保つ。

 間違いなくリーファは戸惑っているが、詳しく説明するか否かはレイン次第なのでこちらからは何も言えないのが心苦しい。

 

「一応知ってる。あいつが本当の意味で剣士なのも、どれぐらい強い奴なのかも知ってる」

 

「なら話は早いわね。私の本体は、えっと誰だったかしら。す、すごう?たしかそんな人に捕えられているのよ。まあ、自力で逃げられるんだけど、レインが助けてくれるって言うから待ってるの」

 

 さらりととんでもない事を満面の笑みで言われるのでたまったものではない。

 

「まあ、私は逃げれてもレインを助けられないなら意味が無いっていうのもあるんだけどね。でね、今からここにある私の欠片を全部レインがずっと飛べるようにするんだけど、その代わりに意識はこちらに飛ばせなくなるからレインによろしくお願いね」

 

「一体なにを」

 

 何を言っているのかさっぱりで、聞き返そうとするも、静かに目を閉じたレインはぐらりと身体を揺らしてそのまま身体から力が抜けて倒れ始めた。

 

「うぉ?!」

 

 慌ててキリトはレインを抱く形で受け止める。

 完全に意識のなくなったがレインに対してキリトはため息をつくしかなかった。

 

「えっと、キリト君」

 

 戸惑った様子でこちらをみるリーファにキリトはどうしたものか、と思ったが、とりあえず治療をしてもらわねばならないことを思い出す。

 

 

 

 

 

 目を開けた時に視界に入ってきたのはユイの顔だった。

 てっきり水の中に戻ると思っていたが、なぜだか分からないが助かったらしい。

 

「心配をかけたようだな。悪かった」

 

 むくりと身体を起こしながらユイに優しくふれる。

 斬られた右腕もとに戻っていて、身体にも痛みがないことからレインのすぐ隣で居心地悪そうに座っているリーファが治癒魔法をかけてくれたのだろう。

 

「お前な、ほんと無茶しすぎだから」

 

 リーファの隣に胡座で座っていたキリトが呆れた顔で言ってくる。

 

「暴走列車顔負けで突き進んでたお前には言われたくないな」

 

「・・・・・・仕方ないだろ」

 

「リーファ、ありがとう」

 

「え、あ・・・・・・うん。えっと、どこも痛くない?」

 

 どこかたどたどしいリーファに首を傾げると、キリトが微妙な顔をした。

 

「痛くはないが・・・・・・どうかしたのか?というか、どうやってあの状況から逃げることが出来たんだ?」

 

 あの鎖は間違いなくオベイロンが用意していたものだろう。

 グランドクエストの鍵としてこの場所までやって来たレインが痛めつけられて剣を離したら発動するようにされていたのは、剣がレインから離れてしまった瞬間に発動されたことからも分かる。

 この世界の王と名乗り、多くの理不尽をレインに行使してきた彼が差し向けたものをたかがプレイヤーにどうこうできるとは思えない。

 アインクラッドで生き延びたキリトであればとも思えるが、彼は残り火になっていたし、自分達を助けることができたのは実質リーファしかいない。

 レインの問いに気まずげな表情した二人にレインは眉間にシワを寄せる。

 

「あぁ、それがな」

 

 頭をかきながらキリトが言い難くそうに口を開いた。

 

「よく分からない女の人がレインの身体を動かし始めてよく分からない力で、なんというかゴリ押しというか、チートみたいな事をして、あっさり逃げれた」

 

 その言葉を聞いたレインは盛大に顔を顰めた。

 リーファの前でもその話をするということは、彼女もそれを見たのだろう。

 なるほど。それなら納得ができる。

 

「でな、あんまり説明もせずに、欠片のとやらをレインを飛べるようにするとか、意識をこっちに飛ばせない的なことを言ってたぶん、消えた」

 

「・・・・・・だいたいわかった」

 

 あの場から逃げれるだけのことをしたのだ、欠片に残っていた魔力を相当使ったのであろう。

 それでもなお、レインを飛べるようにするだけの力があるのだから、魔力の欠片なのにも関わらず凄まじいものだと感心してしまう。

 

「飛行時間については何かいっていたか?」

 

「たしか、ずっと飛べるようにするって言ってたはずだ」

 

 さらに、それか。

 彼女のことは全くもって計り知れない。

 

「レイン、俺は――」

 

「わかってる。さっさと行くぞ。俺も飛べるのであればさっきとは違う結末になるはずだ」

 

「・・・・・・ああ。俺もさっきよりは冷静になった。個々では無理だったが、二人ならいける」

 

 ほとんど同時に立ち上がったレインとキリトを追うようにリーファが慌てて立ち上がった。

 

「二人共待ってよ!私、よく分かってないけど、それでもやっぱり無茶だよ!私、キリト君のことも、レインさんのことも本当に大切で・・・・・・だから!」

 

 ほとんど叫ぶように言いながら、レインとキリトの服の裾を掴んで引き留めようとする。

 その手をキリトは優しく両手で包み込み、レインはそっと優しく触れた。

 

「リーファ、本当にここまでありがとう。リーファに会えなかったらここまでこれなかった。全部が終わったら必ずお礼をする。でも、ここまでだ。ここから先は俺の、俺達の問題だ。君にまで付き合わせてしまうことじゃないんだ」

 

 穏やかな表情でそう言うキリトはレインから見ても優しいただの少年だった。

 

「そんなにも君はその人に会いたいの?」

 

「会いたい。今すぐにでも彼女に、アスナに会いたい」

 

 キリトがそう言った瞬間、ピクリとリーファが反応したのを触れた手から伝わってきた。

 

「今、なんて?」

 

 アスナのことを思い出し、恋焦がれているキリトは気づいていない様子だったが、リーファの声は震えていた。

 何やらおかしい様子に、レインは首を傾げる。

 

「ごめん、名前言ってなかったっけ。俺の探しているこの世界樹の上にいる人はアスナっていうだ」

 

 上を見上げ、辛そうでいて、しかし愛しむような表情で世界樹の遥か上をみているキリトは、驚愕に顔を染めているリーファに気が付かない。

 

「うそ、でもその人は・・・・・・」

 

 レインの手からも、キリトの手からもするりと抜けた手で、リーファは自分の口元を覆った。

 

「お兄ちゃん・・・・・・お兄ちゃんなの?」

 

 上を見上げていたキリトはその言葉に目を見開きながら振り返った。

 

「スグ?・・・・・・直葉?」

 

 しばらく黙ってリーファをみたあと、ようやく出した声は掠れていた。

 事情を知らないレインはただ成り行きを見守ることしか出来ない。

 

「こんな酷いこと、ないよっ!」

 

「まって、スグ!」

 

 慌ててキリトが手を伸ばしたが、それは遅く、リーファはログアウトしてその場から姿を消してしまった。

 残されたキリトは伸ばした手をそのままに完全に固まってしまっている。

 

「キリト」

 

 静かにレインが声をかけるとキリトはビクリと身体を跳ねさせてからレインのほうを向いた。

 

「リーファが、俺の現実世界の妹だった・・・・・・」

 

 困った様子で俯いて、呟くように言った彼からは剣士キリトの姿は一切見受けられない。

 ただの少年な彼はどうしたらいいのか考えているのだろう。

 

「俺は兄弟がいないからお前の気持ちを本当に理解することはできないが、大切な妹なんだろ」

 

「あぁ、もちろん大切だ」

 

「なら行け。ここで待っといてやるから行ってこい」

 

 レインがそう言うと、キリトは驚いた顔を一瞬こちらに向ける。

 しかし、すぐに意を決したようで左手を振ってウィンドウを開いた。

 

「悪い」

 

 一言だけ告げたキリトもその場から姿を消した。

 キリトがログアウトすればユイも必然的に消えてしまうようで、広場にはレインだけがとりのこされた。




これは完全にチートだぁ!!

でも、さすがに空を飛べないとレインがこのドームを攻略できない・・・・・・
最初は
レインが空を飛ぶ??考えられんな!!!
とかいう思考で飛べなくしたんですが、ね!

さて、今月は後残すところ2日ですね
つまり、ここから2話で終わるということです。

終わるかなぁあああああああああ!?(書き終わってない人←)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。