ソードアート・オンライン~知られざる天才剣士~   作:モフノリ

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ガンゲー無視の馬鹿たち

 剛拳パラドックという名前のナックルをはめている右手を長身で細身な青年が風を巻き起こしながら目の前の男の腹部に向かって突き上げる。

 ゴウッという拳の唸り声が聞こえ、少し遅れてから骨に響くドンッという音が聞こえた。

 音が動きについていけなかったのか、それとも動きが音を置いていってしまったのか。

 ただ、あまりの速さのせいで動きと音にズレが生じたのは間違いない。

 青年の拳をまともに食らった強面の男がきれいに弧を描いて飛んでゆく。

 それはどこか漫画の一コマのようだった。

 

 

 

『スピードは筋肉にかなわなかった』

 

 そんなキャッチフレーズで始まる記事のひとつをガンゲイルオンラインにログインしていたシノンはげんなりと一瞥だけして早々にウィンドウを閉じる。

 内容は読まなくてもわかる。

 どうせまた脳筋ゴリラ関連の記事なのだろう。

 基本遠距離で戦うガンゲーでわざわざ接近戦をする馬鹿など一人しかいない。

 

「ただの馬鹿じゃないのがむかつくわ」

 

 思わず声に出して言ってしまったシノンは顔をしかめた。

 脳筋とはもともと頭を使わずに火力ごり押しで戦う人に対して使うものだ。

 しかし、かの脳筋ゴリラは性質の悪いことに頭も使う。

 もちろん物理的に頭を使う、という意味ではない。いや、実際物理的に頭を使ってくることもあるが。

 今回述べている頭を使う、というのは中身のことで、つまりは頭脳だ。

 きちんと相手の動きをみて、読んで、動く。

 ハイドして奇襲をかけてくることだってあるし、相手の読みすら読んでくる。

 筋力パラメーターに極振りしてるので、”脳筋”と言われてはいるが、実際には頭脳派。

 まあ、戦い方は殴る蹴るの肉弾戦なのでゴリラだということには変わりない。

 そして、ただの頭脳派ゴリラであればよかったとさらに思う。

 それなら近づいてくる前に適当にマシンガンでもぶっ放せばしとめれる。

 それすらできないほどに、あのゴリラは早い。

 ほぼゼロ距離でも銃弾をよけてくる。

 実際にはそこまで早くないのかもしれないが、ゴリラ曰く、

 

「無駄な動きをなくしたらそんなに敏捷パラメーターをあげなくてもすばやく動ける。リアルでも動きの早い奴と遅い奴がいるだろ?あれは身体をうまく動かせているか動かせていないかとか、筋力だとかだけじゃない。無駄があるかないかも関係してるんだ。だから、ある程度の敏捷値しか上げていない俺でも銃弾の一つや二つどころか何百でもよけれるってわけだ」

 

 ということらしい。

 付け加えれば、

 

「弾道予測線があるのによけれないほうが意味がわからん」

 

 とも言っていた。

 こちらからすれば、よけれるほうが意味がわからない。

 弾のスピードがどれ程のものだと思っている。

 距離があればもちろんよけれるが、ゼロ距離だと弾道予測線など関係ない。

 あいつの動きは尋常ではない。

 あれを仕留めることができたら、シノンは――詩乃は、

 

「強くなれる」

 

 今までは出る必要性は皆無だと言ってたのにもかかわらず、突然今度のBoBに出るらしいゴリラに風穴を開けるために、シノンは総督府へと足を向けた。

 

 

 

「あのー、すみません。ちょっと道を・・・・・・」

 

 どうやってゴリラに風穴を開けるか考えていると、突然声をかけられた。

 ガンベイルオンラインでそれなりに名の知れているシノンの性格が冷たいということも知れ渡っていることもあり、滅多に声をかけられることはない。

 ここで声をかけてくるのはあのゴリラと友人であるシュピーゲルぐらいだ。

 少し控えめに声をかけられたのものの、先ほどまでゴリラのことを思い出していたシノンは眉間にしわを寄せたまま振り向いた。

 視界に入った黒髪に一瞬ゴリラかと思ったが、背丈が自分ぐらいの長髪な女の子だとすぐに気がつき、顔の力を抜く。

 

「えっと、なに?」

 

 現実世界でも仮想世界でも人付き合いが得意ではないシノンは口を開いたが、どこかそっけなくなってしまったと少し思う。

 気兼ねなく話せるシュピーゲルは男の人で、多少女の子らしくなくても気にしなくてすむし、ゴリラにいたってはあいつの傲岸不遜な態度に口調は荒くなるばかりだ。

 もう少し女の子の知り合いを作っていればよかったなどと、いまさら反省したところで遅いので、シノンはできるだけ優しい対応になるように意識して、目の前の初期装備の少女に向かってもう一度口を開いた。

 

「・・・・・・このゲーム初めて?どこに行くの?」

 

 いつもは周りの男たちに舐められまいと鋭くする眼光をやわらかくして、すこしだけ微笑む。

 慣れていない表情にぎこちなさを覚えるが仕方がないだろう。

 ゴリラのバグ能面よりはましなはずだ。

 

「あー、えっと・・・・・・」

 

 なにやら目の前で百面相をし始めた少女が何かを言うのをシノンは黙ってまつ。

 にしても、きれいなアバターだ。

 女たらしであるゴリラと彼女が出会うようなことがあれば妨害しなければいけない。

 そんなことを思っていると、意を決したように少女はシノンの目をしっかりと見た。

 

「はい、初めてなんです。どこか安い武器屋さんと、総督府ってところに行きたいんですけど・・・・・・」

 

 女の子にしては少し低めな声ではあるが、ガンゲーということもあるし自分や彼女のような容姿のほうが珍しいので大して気にするほどのことでもないだろう。

 

「総督府?何しに行くの?」

 

 安い武器屋はまだ理解できた。

 しかし、総督府など初めて来ていくような場所だろうか。

 観光、というのも仮想世界ではどこか変な感じがするし、そもそも総督府よりもっと観光できそうなところはある。

 

「えっと、もうすぐあるっていうバトルロワイヤルのエントリーに・・・・・・」

 

 少し戸惑いながらもいう少女も自分が変なことを言っている自覚があるのだろう。

 

「今日ゲーム始めたばっかりなんだよね・・・・・・?初心者が出ちゃいけないってルールはないけど、その・・・・・・ステータスが足りないかも・・・・・・」

 

「いえ、それは大丈夫です!これ、コンバートしたアバターなんで」

 

 コンバートという言葉にピクリと反応して、ドヤ顔のゴリラが頭に思い浮かんだ。

 気がつけばずっと彼のことを考えてしまっている自分が、まるで恋をしているようではないかとふと思い、顔を顰める。

 たしかに、あいつはここでもリアルでもイケメンだ。長身だし、なんだかんだいい奴ではある。

 しかし、これは恋心などではない。

 断じて違う。

 ただ、自分が強くなるためにあいつは踏み台として必要不可欠なだけだ。

 

「あのぉ」

 

 少女に声をかけられて我に返ったシノンは慌てて笑顔をつくる。

 

「あっ、ごめん。ちょっといろいろ思い出してただけなの。コンバートなら大丈夫ね。まずは安い武器屋に案内するわ」

 

「よ、よろしくお願いします」

 

ぺこりと頭を下げた少女は、普段はショートヘアーなのか鬱陶しげに髪の毛を耳にかけた。

 

「コンバートって言ってたけど、前はどんなのしてたの?」

 

 なんとなく、そんなことを聞いた。

 たしか彼は、普通のやつ、と雑に答えていた気がする。

 普通と言われても何なのか全くわからなかったが、言及しても答えてくてくれるとは思えなかったのでそれ以上追求はしなかった。

 

「えっと、ファンタジー系のやつです」

 

 彼のように分かりにくい答えではなく、少女はわかりやすい答えだったことに安堵する。

 

「ファンタジー系ねぇ。そんなところからまたなんでこんなオイル臭いところに?」

 

「気まぐれ、というか気分転換というか・・・・・・元々興味があったし」

 

 困ったように微笑んだ少女には何か言いづらい理由があるのだろう、と察しがつく程度には歯切れは悪かった。

 言いにくいのであればこちらから無駄に聞くような事はしない。

 シノン自身、人に言えるような理由でここにいるわけではないからだ。

 

「あなた、変わってるのね。さて、ガンショップについたけど、使ってみたいのとかある?」

 

 興味があった、という事はそれなりに知識があるのかとおもって聞いてみる。

 

「あ~、銃についてよく知らないから・・・・・・」

 

 よくもまあ、そんなのでBoBに出るだなんていったものだ、と少しあきれてしまう。

 しかし、肉弾戦をする馬鹿もいるし、コンバートということは彼女も意外と戦える人なのかもしれない。

 ここは先輩として少女のために一肌脱ぐところだろう。

 

「じゃあ、ステータスってどうなってる?」

 

「えっと、筋力優先で、次にスピード・・・・・かな」

 

筋力優先という言葉に反応してしまうのは仕方の無いことだろう。

 

「筋力優先って、極振りとかじゃないよね?」

 

「まさか!他の人よりも振ってるかも知れませんけど、バランスはそれなりにちゃんと取ってますよ」

 

「よねぇ。前やってたのファンタジー系って言ってたけど、肉弾戦とかする人いるの?」

 

 自分でも馬鹿なことを聞いているのは自覚しているので、少女がきょとんとしてしまうのは仕方の無いことだろう。

 

「うーん。ほぼ皆無ですかね。咄嗟にとか、相手の不意を付くのに体術スキルを使うことはあっても、基本的には剣とか槍とか魔法とかで戦いますよ」

 

「よねぇ」

 

 やはり、あいつだけがおかし――

 

 

 ――かったらどれだけよかったか。

 シノンは嬉嬉として光剣を購入している少女をじっとりとした目で見ていた。

 武器を持っているだけマシだと思えるのは、接近戦をする前例がいるからだろう。

 コンバートする人は頭がおかしいのだろうか。

 いや、ただ単に前のゲームでの戦い方によってしまうだけなのだろうか。

 実際、弾除けのギャンブルゲームで規格外な動きでクリアしてしまった少女ならば、ある程度接近戦に持ち込むことは可能だろう。

 目の前で、ファンタジー世界での剣技を披露した少女の強さがこのガンゲイルオンラインでも通用するのか、シノンも楽しみにおもうのだった。




どうもお久しぶりです。

長い間更新しない間も感想やお気に入り登録をしていただき、ありがとうございます

仕事が忙しかったり、お絵かきしまくったりして大変遅くなりました。
申し訳ないです。

こんなけ空きゃぁ最後までかけてんだろ?
というわけでもないのがほんとすみません。
SAOの中に青年のレインをねじ込むのがなかなかに難しく・・・・

とりあえず、今週、今日合わせて月、水、金と上げさせていただきますが、
その次はいつになるかわかりません!!!



↓下記にいろいろと書いてます

https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=158457&uid=152385
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