久遠に呼び出され、天音の買い物に付き合った翌日。
俺は図書室に来ていた。
「海外文学は……この辺りか?」
お、あったあった。
「タイトルは……吸血鬼伯爵ドラキュラか……有名だよな」
俺、読んだことないけど。
「あとは……女吸血鬼カーミラ、ねぇ…これも有名だな」
「あれ、緋月君?」
「ひゃいっ!?」
噛んだ。死にたい。
「な、なんだ。委員長か……驚かさないでくれ」
「驚かしてないけど……」
彼女は俺のクラスの委員長、冬坂小雪。
面倒見はいいし、成績は優秀。さらに超美少女。
「緋月君が図書室に居るのって久しぶりにみたなぁ」
「久しぶりに来たからな」
「本当だよね。しかも海外文学なんて……頭でもぶつけた?」
「どういう意味だよ」
「いや、緋月君が海外文学なんて読むと思わなかったから」
「奇遇だな。俺も自分が海外文学を読むことになるとは思わなかった」
「ふふっ、おかしな事言うね」
「そんなにおかしかったか……?っと、もう昼休みが終わるな」
「あ!私、次の授業のプリントを運んでくれって頼まれてたんだった!」
「大変そうだな、手伝うぞ」
「いいよ、そんなに多くないし」
「そうか……?じゃ、大変だと思ったら次から言ってくれ。手伝うからな」
「うん、その時はお願いね」
「ああ。んじゃ、俺は先に戻る」
「うん、またね」
俺は片手を挙げて答える。
にしても……本、借りられなかったな。
「二日目にあった吸血鬼関連の出来事はこんなもんだな」
「ふーん、委員長にも優しくしてたんだー?」
「いや、それは……」
「むー……」
「ああもう、撫でてやるから怒るな」
「ん……うん、許してあげる」
「じゃあ、次は……その一週間後だ」
一週間かけてやっと二冊読み終わるとは……海外文学恐るべし……。
「あ、緋月君」
「おお、委員長か」
「今回は『ひゃいっ!?』って言わないんだね」
「言うかっ!」
二度と言わねぇよ。
「あ、緋月君、それ読み終わったんだね」
「ああ。長かった……」
「そんなに長いかなぁ……」
「長いだろ。で、なんか用があるから声をかけたんじゃないのか?」
「あ、そうそう。放課後、桜坂君と一緒に屋上に来て」
「?ああ、わかった」
「それだけ。じゃ、後でね」
「ああ、走ってこけるなよ」
「大丈夫だよ――あっ(ズベッ――ビタン!)」
「あ」
痛そうな音したな……。
「いてて……」
「大丈夫か?」
「う、うん。大丈夫……」
あ……スカートが。
「す、スカート……」
「え――あっ!」
耳まで真っ赤だな。
「み、見た!?」
「いや、見てない」
ほんとは見えたけど。
「よ、良かったー。じゃ、私は行くね」
「ああ、気を付けろよ」
「わかってるよ!」
ああ、また走って……水色しましまが見えちゃうぞ。
「で、放課後屋上って言われたが……」
「なぜ本人がいないのでしょう」
うーん……どういう事だ?
「あ、教師の雑用をさせられてるとか?」
「ありえますが……っ!霊斗!避けろ!」
「え?っておわあっ!?」
なんか飛んできたぁ!
「これは……氷?」
「死ぬだろうが!誰だ!」
ん?貯水タンクの上に誰か……。
「あ!委員長!」
「ばれたかぁ……にしても、桜坂君は良い感覚してるね」
「それはどうも、"雪女"さん?」
雪女?
「水色しましまの委員長が雪女ぁ!?」
「見てないって言ったじゃない!嘘だったの!?」
「あ。適当に言ったんだけど……当たった?」
見たけど。
「~~~~っ!死ねぇーっ!」
「危ないって!止めろ!」
「はいはい、そこまで」
サンキュー久遠。
「で、委員長は私達に話があって来たのでは?」
「うん……ほんとは緋月君はいなくてもいいんだけど」
「あれ、俺だけ要らない子?」
「では霊斗、離れていてください」
「ご、ごめんね、緋月君」
「良いよ。じゃ、俺扉の向こうにいるから」
男はクールに去るぜ。
ま、聞き耳は立てるんだがな。
『桜坂君はもう知ってると思うけど……反人外派が動き出したみたい』
『やはりですか。狙いは……恐らく霊斗でしょうね』
『うん。人間が人外になるのは本来有り得ないからね。イレギュラーは消しておきたいんだと思う』
『となると……"あれ"の開発を急がないといけませんね』
『早くて来週には本格的に動き出すと思うから……』
『ええ。急ピッチで開発します』
『お願いするね』
『任せてください――霊斗、聞いているのでしょう?事情は把握しましたか』
ばれてたのかよ。
「ああ。大体わかった」
「恐らく今現在のこちらの切り札は貴方です」
「んなこと言われてもな……」
「大丈夫。緋月君なら出来るよ。だって、吸血鬼の事を知るためにあれを読んだんでしょ」
「わかってたのかよ……」
「まぁ、吸血鬼化のコントロールは桜坂君に教えてもらってね」
「だ、そうだ。久遠、頼めるか?」
「ええ。ただし、開発を手伝ってもらうことになりますがね」
「わかった」
「あ、桜坂君。あと、もう一つだけいい?」
「ええ、構いませんが」
「じゃ、じゃあ……」
ん、なんだこの流れ。
「桜坂君、君の事が好きです」
「申し訳ありませんが、その気持ちは受け取れません」
は?即答?
「あ、うん……そ、そうだよね。私なんて――」
「ですが、とりあえず霊斗の件が一段落するまで考えさせてください」
「え?」
ん?なんかデジャ・ビュ?
「霊斗の吸血鬼化のコントロール。それが出来るようになったら私と付き合ってもらえますか」
「は、はい!喜んで!」
おぉ、なんか久遠がかっこよく見える。
それに比べて俺は……。
全然デジャ・ビュじゃなかったわ。
「では霊斗、早速訓練ですよ!」
「嫌だぁぁ!」
なんでこんなにやる気なんだよ!
あ、冷静なフリしてほんとは嬉しいんだな?
「ああ、さっさと出来るようになってやるよ」
「言いましたからね?」
「緋月君、がんばれー」
この後、死ぬほど訓練して、その日のうちに出来るようになったのは余談だ。
次回も思い出編です。
じゃ、また。