「和也くん?」
「ええ、そうですけど…」
「私、わかる?
キダ アケミって言うんやけど?」
電話から聞こえてるのは、知らない中年女性の声だ。
「いえ…ちょっと…」
「初美さんの葬式の時に会ったんやけどね」
「はぁ…」
俺は、生返事をしながら、電話を耳に当てたまま記憶を呼び戻す。
妹の初美が死んだのは、3年前だった。
俺より2歳下だった初美は、24歳という若さで死んだ。
実家のアパートのベランダからの、転落死だった。
はじめ、警察では、初美は自殺をしたんじゃないかと疑われていた。
確かに、初美はけして明るいとは言えない性格だった。
ただ、年に一、二度かかってくる電話の感じでは、特に悩んでいるような様子もなかった。
それから、しばらくの時間が過ぎて、警察からの結果が出た。
初美は事故死という事になった。
警察のいう理由としては、アパートが4階という高さだった事があげられた。
死ぬつもりなら、もっと高い所から飛び降りるだろう、という事らしい。
他にも、初美の遺書らしいものも何も見つからないという事で、
事故という扱いになったようだった。
その初美の葬式で会ったという女性。
おそらく親戚の内の誰かなのだろう。
確かに、キダ、という名前は、俺の親戚に何人かいた事を思い出した。
「…思い出したかね?」
「ああ、まぁ…」
俺は、とりあえず返事をしておいた。
わざわざ関係の薄い俺なんかに、電話をしてきたんだ。
それなりの理由があるはずだろうと思った。
「それでね、ちょっと困った事があってね…」
「はい」
「お父さんの、和義さんがね、最近ずっと具合が悪くって…」
「ああ…」
要件は、実家のアパートで一人暮らしをしている父の事か。
俺の母は、10年以上前に、病気で死んでいる。
それから、父は妹の初美と一緒に実家のアパートで、暮らしていた。
しかし、初美が死んでからは、その実家で一人で暮らしている。
はっきりとはわからないが、もう70歳を超えた頃ではないだろうか。
長い間、糖尿病を患っている。
「それでね…私らが世話をしてたんだけど、ちょっと私らも歳とってきとるから、
世話するのが大変になってきてね…」
「ああ…そうですか…」
そういう事か。
俺に、東京から地元に帰ってきて、体の弱った父の世話をしろという要件だろう。
「和也くんが、東京に行っとるのは知っとるけど、悪いけど帰ってきてあげられんやろか…」
やはりそうだった。
正直、気乗りしないが、仕方のない事だ。
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