『クリフハンガー』
「夕立、上の階に行ってACSモジュールを探しなさい」
「ぽいっ」
神通の言葉に夕立は二階に上がりACSモジュールを探す。そして机に置かれていたモジュールを手に取ると外から音が聞こえてきた。
『……夕立、問題が発生ししました。指示あるまで発砲は無しです』
夕立が部屋を出るとシャッターが開閉され外には多数の兵が神通を囲んでいたのだ。
「此方はヲ級少佐だ!手を挙げて出てこい!」
拡声器を使いながら叫ぶヲ級少佐。
「いいか、5秒間だぞ!」
『夕立、プランBです』
「5!4!3!2!1!」
そして夕立は爆破スイッチを押した。吹き飛ぶミグの戦闘機群、それに気取られたヲ級少佐達に向けて神通と夕立が射撃をして倒していく。
「離れないで!壁に寄ります!あのミグを盾にして駐機場を南東に向かいます!夕立、付いてきなさい!行きます!」
「ぽいっ!」
そして二人は駆け出した。
『幕間』
ゴォンゴォンと低い唸り声を上げてエレベーターは地上を目指す。やがてボタンに押された階に到達した事を確認した響はMINIMIに5.56×45ミリNATO弾を装填する。そして新人の深雪に視線を向けた。
「ロシア語は使うな」
ドアが開かれ、響達は空港で待っていた人々にMINIMIの銃口を向けて響は小さく呟いた。
「ハラショー」
響の言葉は銃撃によって誰にも聞こえなかった。そこからは虐殺であった。
『テイクダウン』
虐殺が起きて数日後、長門達は集まっていた。
「ロシア人は話し合う気は無いようですね。これは血を見ます」
長良はそう言う。
「整理しましょう。誰が見ても被害者はロシア人です。今、彼等が艦娘を殴り倒しても誰も気にしないわ」
「響にしてやられた。ロシア人の死体の山に艦娘を飾るとはな」
長門は苦々しくそう呟いた。それは誰も同じである。
「響の仕業と言っても誰も信じません。唯一の証人も失われました。証拠が欲しいです」
神通は長門に言う。問われた長門は神通に一枚の写真を見せた。
「こいつが分かるか?」
神通は写真の女を見る。
「空母赤城」
「聞いた事がありません」
「通称、一航戦の赤い方だ」
長門の言葉に神通は溜め息を吐いた。
「国全体の憤怒を解き放つ一発の凶弾。つまり……」
「こいつが響へのチケットになる」
長門は神通にそう言うのであった。
『偶発性』
「那珂、聞いているのか!ミサイルハッチが開いたよ!繰り返すミサイルハッチが開いたよ!」
那珂が潜水艦に乗り込んでミサイルを発射しないようにする手筈だった。
「長良さん……」
「ちょっと那珂!」
『……よし』
その時、無線から那珂の言葉が聞こえた。そして地響きをあげて潜水艦から核ミサイルが轟音をあげて発射される。
「やめて那珂!やめてェ!」
長良の叫び声も虚しく、核ミサイルは上空へと飛行する。
「ぽいっ!ぽいっ!」
夕立は無理だと分かりつつもミサイルに銃撃をするが当たる事はなかった。
「コードブロック、コードブロック!弾道ミサイルが発射された!」
長良はそう報告するしかなかった。
『二つめの太陽』
「こいつを持って大人しく――かもっ!?」
「高波がやられた!」
高波が神風にM4カービンを渡したが直後に被弾して倒れた。
「この場を死守よ!」
矢矧が叫ぶ。不意にヘリからのライトに照らされた。
やられる。
矢矧達はそう思ったがヘリがエンジンから火を噴いて墜落した。
「ぴゃん!?」
「何!?」
「神風、待ってなさい!」
霞がヘリの瓦礫を退かして神風が外に出た。外では複数のヘリが次々と墜落していく。
「建物の中に逃げるわ!」
「EMPだー!」
矢矧達は辛うじて建物の中に退避する。外はまだヘリが墜落しているがやがて音は止んだ。
「くそ、ソ連野郎は空から降ってくるぴゃん」
「黙りなさい酒匂。外に出るわ」
「正気?」
酒匂の言葉を尻目に矢矧はカービンを構えながら外に出て辺りを警戒する。敵はいないと矢矧は判断したのか酒匂達に視線を向けた。
「行きましょう。戦争はまだ終わってないわ」
『大本営』
矢矧達第75戦闘隊は他の隊から貰った弾丸を補給しつつ半壊した地下道を駆け抜けていく。破壊された箇所からは雨が降っており地面に水溜まりが形成されていた。
「愚図愚図しないで!大本営へ急ぐのよ!」
第八戦闘隊の満潮が矢矧達に叫ぶ。矢矧達が地上に出ると足柄が雨に濡れながらも自ら陣頭指揮をしていた。
「2-4Dブラボーに奴等を攻撃するのよ!左翼の配置を増員して対処!」
「足柄さん、現在の状況は!」
「価値ある場所を目の前にしてるわよ矢矧!鎮守府にはまだ電力があるわ!」
双眼鏡で鎮守府を見ながら足柄は矢矧に叫ぶ。
「つまり大本営と話す方法はまだあるって事よ!彼処を取り返したらね!矢矧の分隊は左翼に展開しなさい!急いで!」
「よし!行くわよ皆!」
矢矧達は雨と銃弾が降る中、一気に駆け出したのである。
『敵の敵は』
「夕立!長良!?応答して長良!誰もいないの!?」
神通が無線機に向かって喋る。しかし那珂から無線が入る。
『連中は死んだよ神通ちゃん。長門が掃除させてる。今からそっちに戻る』
程なくして二人は合流する。
「長門が裏切った」
「裏切るために信じさせるとは……私には出来ない」
那珂はそう言って首を横に振り無線を阿賀野のに繋げた。
「阿賀野ちゃん、此方の位置は分かるか?」
『えぇ。そっちに向かっているわ。だけど私だけじゃない。一方に長門の部下、更に響の部下もよ』
「纏めて相手してやるよ」
阿賀野の言葉に那珂はニヤリと笑う。
『或いは共食いをさせるかね。兎も角、すぐ迎えに行くね那珂ちゃん』
阿賀野はそう言って無線を切るのであった。
『エンドゲーム』
「ぐっ!?」
長門を殺そうとした神通だが逆に長門に返り討ちにされた。神通の胸に長門を抹殺しようとしたナイフが突き刺さる。
「五年前か……瞬きする間に三万人もの部下が死体になった。だが世界はそれを見ていただけだ」
長門はそう言いながらコルト・キングコブラに弾丸を装填する。
「明日からは志願者が殺到するだろう。愛国者が絶えることもない」
そしてコルト・キングコブラを地面に倒れている神通に向けた。
「分かってくれると思っていた」
引き金を引こうとした瞬間、那珂が長門に飛び込み神通の頬を掠めて.357マグナム弾が地面に着弾する。そこからは長門と那珂による格闘だった。神通は地面に落ちているコルト・キングコブラを取ろうと這い寄るがそれに気付いた長門が神通の顔に戦闘靴で蹴る。
格闘は終始長門の有利だった。
「ぐっ……」
ふと神通は自身の胸に刺さるナイフに視線を向け意を決して両手でナイフを掴み身体から突き放す。
シュルリンと音をさせ一回転させたナイフを持ち神通は長門にナイフを投げた。
「!?」
顔にナイフが突き刺さった長門が刺さった箇所から血を噴き出しながら倒れる。
『………』
砂嵐が吹き荒れる。やがて殴られて気絶していた那珂が咳き込む。
「神通……神通ちゃん!」
殴られて顔が腫れた那珂は倒れている神通に歩み寄り服を破いて包帯を巻いて止血する。
不意にヘリの音が聞こえる。警戒する那珂だがヘリを見て那珂は安堵の息を吐いた。
「これで大丈夫。さぁ行くよ」
肩で神通を背負い那珂はヘリに歩く。
「片道旅行と言っておいたはずよ!」
ヘリから降りてきた阿賀野に那珂はそう言う。
「えぇ。墓場へね……奴等、死ぬ気で追ってくるわ」
「阿賀野ちゃん、神通ちゃんを連れ出す」
「えぇ。いい場所を知ってるわ」
阿賀野は那珂にそう答えたのである。