ーInfinite Stratosー~Fill me your colors~   作:ecm

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今回はISについて、独自設定の部分があります
後書きに詳細を書きます。
それではどうぞ


第十三話:歩み寄り。そして途中経過

――朝――

 

何時もの様に私は目を覚ました。

 

「目覚めは……良いほうだろうか。さて、上手く行けば良いが……」

 

昨夜、私は古鷹と語り合った。そして決意したのだ。過去に向き合うと。失ったモノを再び手に入れる、と。故に、私は歩を進める事にした。

 

取り敢えずは朝の支度を済ませてしまおう。

 

私はベットから起き上がった。

 

「ふわぁ~……」

 

隣のベットから暢気な欠伸が聞こえてきた。見ると、何時も私に叩き起こされていたのほほんさんが珍しく目を覚ましていた。

 

「珍しい。おはよう」

「珍しいは余計だけとおはよ~」

 

のほほんさんはほにゃりとしながら挨拶を返してきた。

 

「のほほんさん」

「なに?」

「取り敢えず、身支度を済ませたら話したい事がある。良いだろうか?」

「うん、いいよ」

 

私の真剣な口調に、のほほんさんは伸びた返事を止め、同意した。

 

そして私は何時もの様に準備を済ませ、古鷹を身につけた。次いで入れ替わる様にのほほんさんが洗面所に向かって行った。

 

――おはようございます

 

身に付けた瞬間、古鷹が話し掛けてくる。

 

(あぁ、おはよう)

 

――正念場ですね

 

(そう、だな)

 

私が踏み出す、最初の一歩だ。

 

――私は見守らせていただきます

 

(あぁ、見守っていてくれ)

 

この空虚だった男の、前に踏み出す一歩を。

 

暫くしてのほほんさんの準備が整った。

 

「先ず、簪さんを呼んできてはくれないだろうか?」

「わかった~」

 

のほほんさんは私の願いを聞きいれ、簪の所へ向かっていった。普段ならまだ朝の早い段階なので、本来は憚るべきなのだろうが、今だけは見過ごして欲しい。暫くするとのほほんさんが簪を伴って部屋に戻ってきた。

 

「連れてきたよ~」

「あぁ、ご苦労様」

 

私はのほほんさんに礼を述べてから簪の方へ振り向いた。

 

「……簪さん」

「うん……話は、聞いた」

 

では、少しだけ、私の過去を彼女達話すとしよう。

 

「先ず、最初に言っておくが俺はこの事をあまり多くは語りたくない。何故なら俺自身が未だ心の整理がついてないからだ。よって説明不足になるかもしれないが、それでも良いだろうか?」

「わかった」

「うん」

 

二人は同意した。私はそれを確認し、語りだす。

 

「昨日の一件で俺は君達への解答を避けた。君達も疑問に思っただろう?何故、と」 

 

二人は頷いた。

 

当然だろう。仮にも友人と呼べる間柄であるのに、名前を呼ぶのを、あからさまに避けていたのだから。そして二人は知りたいのだろう、私が避ける理由を。

 

「その理由は只一つ。俺は、恐れていた」

「……恐れ?」

 

簪が尋ねる。

 

「あぁ、俺は……俺は昔、交通事故で大事な家族を失った」

 

誰にも自分から言えなかった一言を私は言った。

 

心に冷たい何かが流れる感覚がする。正直、気持ち悪い。

 

だが、それでもソレに耐え、話を続ける。

 

「本当に大事だったんだ。何にも変えられないぐらいのな」

 

私は生まれ変わった時、やり直せると、取り戻せると本当に思っていたのだ。

 

「だが、失ってしまった。残ったのは喪失感だけだった」

 

当時の私の精神は異常だったろう……今は少しだけマシになったがな。あの時は死のうとさえ思ったのだ。もう、何も考えたくない、と。

 

「そして同時に思った。俺の傍には大事な人はいてはいけないと」

 

そして私は思ったのだ。過去は決して取り戻す事はできない、と。過去に対してできるのは只、在った出来事を振り返る事だけ。だが、それでもと、例え叶わぬ願いだったとしてもと、私は望んだのだ。

 

失った時間を

 

失った日常を

 

失った温もりを

 

失った慈しみを

 

失った家族を、求めのだ。

 

そして結果的に願いは叶った。私は転生し、新たな生を受け、失った物を全て取り戻せたのだ。私はソレに歓喜した。またやり直せると、今度こそ幸せになれると。

 

だが、運命は残酷だった。

 

私の傍に居た大事な人は、家族は不幸な事故に遭い、他界した。私はソレに絶望した。また失ったのだと、また独りだけになってしまったのだと。

 

そして私は気付いたのだ。

 

私の生まれ変わる代償が、これからの人生を歩む為の代償が、大事なモノを失う、と言う事に。

 

「だから躊躇った。躊躇って、いたんだ」

 

私の傍に居て不幸な目に遭わないようにと。仲良くしていても、あまり深く関わり過ぎないように、と。誰も彼も皆、私を独りにしないで欲しいと、切に願う余りに。

 

「そんなの「だが」……」

「だが、それももう止める」

 

決めたのだ。

 

前に進むと。

 

決意したのだ。

 

痛みに、恐れに立ち向かうと。

 

「……簪、本音」

 

もう、躊躇わない。私は自分の意思で名を呼ぶ。

 

「君達の事を名前で、呼び捨てで呼んでも構わないだろうか?」

 

大事な人と、思っても良いのだろうか?

 

そう、思ってしまっても良いのだろうか?

 

だが、この言葉だけはまだ伝えることはできない。それは決して恥ずかしいからではない。まだ、心の整理が付いていないのだ。

 

「うん。いいよ」

「私も、いいよ」

「……ありがとう」

 

その一言はとても嬉しかった。それだけで、今までの気持ち悪さは薄れていく。

 

そして私は少しだけ口を歪ませた。

 

「……そういえばあまっちは笑わないよね」

「そう、なの?」

 

本音は私が笑っていないと指摘してきた。

 

だが、今そこで笑っているんじゃないのか?と簪は疑問に思っている様だ。だが、本音の指摘は正しいのだ。何故、解ったのだろうか?

 

「うん。いつも髪で目がどうなってるのかはわからないけど、雰囲気で解るんだー」

 

……雰囲気、か。何時の間にか習慣になっていたので忘れていたな。

 

「……本音の言う通りだ。俺は周りの会話の内容ににあわせてに口を歪ませるぐらいで、本当の意味で笑ことなど無かった。笑みは、久しく忘れてしまったよ」

 

私は家族を失ったと同時に笑みも失ったのだ。他の感情なら問題なく発露できるのだが、な。よって私は普段笑っているときは嗤っているのだ。

 

決して本当の笑みではない。

 

「それに、あまっちは目を隠している事情は未だ話してくれないの?」

 

あぁ、その事か。私は少し考え、問に答える。

 

「済まない。未だ、言いたくない」

「……わかった」

 

未だ、自分から言う事はできない。トラウマなのだ、コレは。

 

何故なら、私が過去に何か合ったのかを話す程の心の余裕は未だないからだ。だが、例え話せなくとも、できるだけ早くカタだけは付けておきたい。そして何時かは話せる様になりたい。

 

「さて、湿った話はここまでにしよう。本音、簪。この事は他言無用で頼む」

「わかった」

「うん。解った」

 

本音と簪は頷いた。

 

「では、時間も時間だ。食堂へ向かおうか」

 

そう言いって私は扉へ向かう。

 

「あいあい~」

「うん、行こう」

 

私が何時もの雰囲気に戻ったのを景気に、本音と簪もまた何時もの雰囲気に戻り、私の後に続いた。そして私は自分の横を歩いて談笑する彼女達を見て思う。

 

この暖かな場所であれば、私も何時か本当の意味で立ち直れるだろう、と。

 

あぁ、気分が良い。

 

余り話したくない過去の話だったが、足取りが重くなることはない。寧ろ以前よりも足取りが軽くなった気がする。

 

あぁ、今日の朝はとても良い始まりだ。

 

 

 

 

「そうだ。今のうちに言ってこう」

 

私は食事中に思い出した事があったので伝える事にした。

 

「何?」

「なになにー?」

 

本音と簪が話に食いついてくる。

 

「あぁ、昼に川崎との定時連絡がある。その時に上手くいけば簪に良い報せを届けれるかもしれない」

「定時連絡があるってのは解ったけどー」

「私に良い報せって、何?」

 

二人は私の脈絡のない一言に疑問符を浮かべていた。

 

「あぁ、セシリアとの戦いで使った荷電粒子砲があるだろう?」

「うん……もしかして」

 

今まで疑問で首をかしげていた簪が目を輝かせ始めた。

 

「あぁ察しの通りだ。前に弍式の制作に使っても良いかと報告書と一緒に打診していたのだ。もし許可が出たら君に荷電粒子砲のデータを渡そう。その時は春雷の作成に役立ててくれ」

「いいの?」

「あぁ、構わない」

「ありがとう」

「まだ礼を言うのには早い。許可が貰えたらソレを言ってくれ」

「わかった」

 

それでも簪は嬉しそうにしていた。

 

……武器のデータで喜ぶ少女と言うのも中々シュールだな。

 

「……失礼な事、考えてない?」

「滅相もございませぬ」

 

何故心が読める。

 

「ふーん……」

 

暫くの間簪に半眼で睨まれてしまった。

 

私は謝って機嫌を直すのに色々苦労した。まぁ、それは語らなくても良いだろう。

 

 

 

 

――教室―― SHR前~

 

「ねえ、転入生の噂聞いた?」

「転入生? この時期に?」

「あー、聞いた聞いた。なんでも今度入ってくるのは中国の代表候補生だってな」

「ふーん」

「このわたくしの存在を今更ながら危ぶんでの転入かしら」

 

何を勘違いしているのだこの金髪生娘は。冗談は頭にひっついてるドリルの巻数だけにしておけ。私はセシリアの勘違い発言を聞いて、思わず心の内で毒づいた。

 

――貴方も初めに比べて相当染まりましたねぇ

 

古鷹がしみじみと呟いてきた。

 

(誰のせいだ、誰の)

 

――存じありませんな

 

シラを切るなよ駄コアが。一度回線OFFにしてやろうか。

 

私は古鷹と会話をしながら一夏達の会話を傍観していた。

 

そして一夏達の話が進んでいく。

 

「今のところ専用機を持ってるクラス代表って一組と四組だけだから、余裕だよ」

 

そして話題がクラス対抗戦に移る。

 

どうやら戦力を把握する為に、先ずは専用機の有無を確かめていた。

 

(とは言っても、簪の弍式は完成していないがな)

 

簪の専用機は未だ制作段階である。現在は本音と私も手伝っており、秘密裏にだが楯無が簪に必要な情報を集め、私に渡す手筈となっている。

 

完成についてだが……この大会ではおそらく無理だろう。簪も練習があるからな。

 

「――その情報はもう古いよ」

 

一夏達の新たに会話に介入してきた人物が居た。しかし、その顔に見覚えはない。

 

(……古鷹、情報を)

 

――検索に出ました。名前は凰鈴音。中国国家代表候補生で、件の転入生のようです

 

ふむ、中国の国家代表候補生か。こういう時に古鷹の検索は役立つな。

 

「二組も専用機持ちがクラス代表になったの。そう簡単には優勝できないから」

 

と言う事は二組のクラス代表を降ろさせたのか。

 

(普通は出来ない筈なのだが……お国の事情だろうかね?)

 

――そこまでは知りませんよ。ただ、あり得る話ではありますがね

 

「鈴……? お前、鈴か?」

 

一夏が相手の名前を呼んでいた。察するに旧知の仲らしい。

 

「そうよ。中国代表候補生、凰鈴音。今日は宣戦布告に来たってわけ」

 

(しかし、よりにもよって一夏の知り合いか)

 

――生意気娘、と言ったところですか。そして彼の嫁だと

 

(異論はないな。既に落とされてると見ても良い)

 

「何格好付けてるんだ? すげえ似合わないぞ」

 

一夏は首を傾げながら言った。

 

(それは余計な一言だろう……)

 

――流石は唐変木にして朴念仁。そこに痺れない憧れない

 

全くだ。

 

「んなっ……!? なんてこと言うのよ、アンタは!」

 

私は夫婦(part2)の会話をこのまま聞いておこうかと思っていたが、不意に気配を感じて凰鈴音の背後に視線を向ける。

 

するとそこにいたのは我がクラスの担任、織斑女史その人であった。

 

――Ms.鈴音、後ろ、後ろー!

 

そのネタは懐かしいな。そしてご愁傷様だ。

 

バシィッン!!

 

案の定、凰鈴音は出席簿で叩かれて、痛そうに頭を抱えた。だが、すぐさま復活した凰鈴音はすぐさま後ろを振り向き、文句を言う。

 

「ったいわね……誰よ!?」

「もうSHRの時間だ。教室に戻れ」

「ち、千冬さん……」

「織斑先生と呼べ。さっさと戻れ、そして入り口を塞ぐな。邪魔だ」

「す、すみません……」

 

凰鈴音の態度が一変した。察するに、織斑先生が苦手らしい。最初は意気揚々と宣戦布告をしにきた様だが、今ではすっかり怯えている子犬のようになっている。

 

「ま、また後で来るからね!逃げないでよ、一夏!」

「さっさと戻れ」

「は、はいっ!」

 

――何というか、弄りがいがありそうです。

 

(……そうか。まぁどちらにせよ、これで一夏の情報更新が必要だな)

 

次いでに他にもないか、少し過去を洗い出して弄るネタにも使おう。それに彼女は古鷹の琴線に触れた様だが……まぁ、どうでも良いのだがな。

 

――相変わらず商魂逞しいですね。彼限定に、ですが

 

(あぁそうだとも。奴を弄るにはこの手のネタは外せないからな)

 

――腹黒い事をしますねぇ

 

軽いスキンシップだ、気にする事はない。

 

「席に着け、馬鹿ども」

 

スパパーン!!

 

「あ、痛……」「ぬう……」

 

いつの間にかセシリアと箒が織斑先生に叩かれていた。

 

まぁ、大体見当がつくがな。

 

そして授業中にも彼女達は先の件を考えていたのか、織斑先生の授業にも関わらず二人は集中していなかった。よって回出席簿アタックを頂戴していた。それも複数回、である。

 

私には彼女達が英雄に見えた気がする。但し、英雄の後に(笑)がつくがな。

 

――酷い言い草ですね

 

(気にするな)

 

そして時間は経ち、昼休みになった。

 

 

 

 

「「お前(貴方)のせいだ!(ですわ!)」」

 

「そうだ、お前のせいだぞ一夏」

 

昼休みの開幕一番にセシリア達が一夏に文句を言い、私もそれに便乗した。

 

「なんでだよ!?関係ないだろっ!?」

「喧しい、弁解は十三階段を登ってからにしろ」

 

この唐変木には一度解らせる必要がある。

 

「し、死刑宣告だと!?」

 

そうだ。ただし、字は違うがな

 

「セシリア、箒、(私刑)は任せた」

 

「「任された(ましたわ)」」

 

「え?ちょっ!?つ、椿!後で覚えていろよ!?」

 

一夏は引きずられながら私を指差すが、私は頭を掻きながら言ってやった。

 

「悪い、覚えていられる程俺は記憶力は良くない」

「嘘つけぇええええええ―――……」

 

そして非常に連携が整ったセシリア、箒の両名を見送り、次いでにこれから犠牲になるであろう我が友、織斑一夏に軽く哀悼の意を捧げた。

 

お前の犠牲は、お前の思いは、多分屋上に行ったら忘れるだろう、と。

 

そして私は屋上へと向かった。

 

 

 

 

――屋上――

 

誰も居ない事を確認して連絡用の通信器を取り出す。

 

そしてある番号を打ち込み、主任を呼び出す。

 

数コール後、反応があった。

 

『も~しも~し』

 

男性特有の低い声。だがとても軽い返事が返ってきた。

 

「お久しぶりです、主任」

『やぁ、研究室で古鷹を渡した以来だねぇ椿君』

「そうでしたね」

 

名前は吾妻晴臣 (あづま はるおみ)。本人は主任と呼ばれる事を好む。

私が信頼を置く人の一人で、私の直接の上司だ。

 

『うむ、まぁ取り敢えず定時連絡と言う事だけど、白式と青雫及び古鷹の戦闘データ等々の報告書は見せてもらったよ』

「何か問題はありませんでしたか?」

 

報告書は前世で何度か纏めた事はあるが、兵器関連のモノは初めてだった。

 

よって少々自信がなかった。

 

『うにゃ、何も問題はないさ。今言えるのは報告内容に少し驚いたぐらいかな?白式がブリュンヒルデと同じ武器と、そして一次移行で唯一仕様能力を使った、という事でね』

「そうですか。なら良いのですが」

 

報告書自体は何も問題はない、か。

 

『うん。これからも頼むよ。あぁ、それと以前君からお願いがあった荷電粒子砲のデータの使用の件だけど、あれは勝手に使っちゃってもいいよ。流用された所で問題はないし』

「ありがとうございます」

 

これで簪の武装の案件は一つ減った。

 

「いいよいいよ。あの女に借りが返せる事ができるのなら安いもんさ」

「……あの女とは?」

 

ソレに借りとはなんだろうか?

 

『おや、そう言えば君には言って無かったね。あの女と言うのはね、倉持技研の第二研究所所長の篝火ヒカルノと言うんだ。昔彼女にコアの躾方で世話になってねぇ』

「そうなのですか」

『そうなのです。まぁ和やかな会話はここまでにして本題に入ろうか』

「はい」

 

主任の声音が変わると同時に私は気を引き締めた。

 

『取り敢えずは武装の方が先に試作品ができた。来週末に此方に来てテストしてもらう。事情が事情だから古鷹以外にはまともにテストできないからね』

「解かりました。機体の進捗度は?」

『うむ、機体の件だけど少し問題が出来ているかな』

「問題、とは?」

『どの機体も必ず課題になる――燃料と戦闘継続時間だよ。全身装甲の機体を高速機動戦に対応させるためのブースター及びスラスターね。どれもこれも大喰いの高出力だからエネルギー配分に苦戦してねぇ』

「やはり、ですか。」

 

全身装甲は秘匿性と搭乗者の生存率を上げるための処置ではあるが、その分機体重量は増加する。そしてその分の機動性をカバーするための調整をつけなければならない。その結果、機体の燃費が悪くなっていき、戦闘可能時間が減る。

 

『それに重ねて被弾時、瞬時加速使用時、エネルギー兵器使用による消費etc……うむ、考えるだけでもう頭が痛いね。それに既存の動力では絶対に要求仕様には届かない。かと言って性能をワザと下げるべきなか?答えは否。そんな選択なんて糞くらえだ。だから新エネルギーを実装してこの問題を解決しようと思っているんだ』

 

新エネルギーと来たか。

 

「何か宛でもあるのですか?」

『うん。パラジウムってのは知っているかい?』

「えぇ、基本的な知識ぐらいは」

 

パラジウムは自分の体積の935倍もの水素を吸収するため、水素吸蔵合金として利用されるものである。そして貴金属としてジュエリーにも使用されてたりする。

 

『なら説明は必要ないね。まぁ簡単に言ってしまえばパラジウムを使って常温核融合炉を作成、そのままISに載っけて問題を解決しようって寸法さ』

「……は?核、ですか?」

 

水素という段階で嫌な予感がしたが、まさかな。

 

『そうそう。そして君は安全性はどうなのか?って言いたいだろう?』

「当たり前でしょう。その常温核融合炉が損傷し、プラズマを起こして私が消し炭になる。という事にはなりたくない」

 

何が何でも拒否させてもらう。

 

『まぁまぁもちつきたまえよちみぃ?』

「何故変な口調になるのですか」

『まぁまぁ気にしない気にしない。話を進めるけど別に拡張領域ってのは別に武装だけしか量子化できないって訳じゃないんだよ?』

「……つまり、その常温核融合炉も量子化してしまえ、と?しかしそれでは搭載はできたとしても、稼働しないのでは?」

 

常識的に考えれば領域に収納すると量子化されて稼働も何も出来ない筈なのだが。

 

『ふっふっふー。普通に考えればそうなるけどそこで終わらないのが私でねぇ。君も考えてみたまえ。そもそもISのコアって展開した時にどこにあると思う?勿論待機状態でも』

「基本領域でしょうか?拡張領域とは別に普段はISの本体が収められている」

『その通り。そして君も知っての通りISのコアは人格を持ちながらも動力源として機能している。何故コアが動力源も兼ねれるのかはあの兎に聞くしかないけどね。まぁ嫌いだから聞かないけど』

「まぁ、主任の篠ノ之束嫌いは今に始まったことではありませんが……まさか」

 

今までの内容を整理してある事に気付いた。

 

『気付いたようだね?先生は物分りの良い生徒は嫌いではないよ?寧ろ好きだ。そう、領域内にあるのにも関わらずISにエネルギーを送り続けて(・・・・・・)いる。何とも不思議な事じゃないかい?そしてそれは別の物でも同じ事ができるとは思わないかい?』

 

確かに推測通りなら不可能という訳ではないのだろうが。

 

「それは机上の空論ではありませんか?」

『私を舐めてはいけないよ。天災ではないが私は天才だよ?これぐらいならどうにかなる。よって、これで核融合炉、私はパラジウムリアクターと呼んでるけどね、の安全性は確保できる。そして尚且つ領域内でエネルギーを安定的に且つ安全に供給できる事になる。モーマンタイだね』

 

それは魅力的なモノだろう。だがしかし、だ。

 

「融合炉自体の実現化の見込みは?」

『これは元々昔から何処の国でもやっていたことでね。下地は既に出来上がってるんだよ。結局は最後まで上手くいかないってとこで皆諦めていたようだけどね。だが私と部下達とならソレを実用化する事ができる。だから問題はない』

「確かに貴方達なら可能かもしれませんが、バレたらただ事じゃすみませんね」

 

どうするつもりなのだろうか。

 

『世にはこういう格言がある―――バレなきゃ犯罪じゃないんですよ――ってね』

 

完全に犯罪者の発想だった。そしてソレはフラグだ。

 

『それにパラジウムぐらいは幾らでも取り寄せれるんだよ。川崎は重工業を主産業として何代も積み重ね来たんだから』

 

コネはある、ということか。

 

「それはそうですが、社長の許可は?まさか貰ってないって事はないですよね?」

『勿論社長からは既に許可はとっているよ。と言うか、実は前々から研究していたんだよね」

「……は?」

 

何時の間にそんな事をしていたんだ?

 

『いやね?ISが出て数ヶ月の時に、私が学会で発表してみたんだよ。常温核融合炉の運用理論を事細かくに、ね』

「それで、結果は総スカンを食らったと」

 

普通なら話題になってもおかしくないのだが、十年前にそんな話は耳にしなかった。

 

『うん。元々核は扱いが難しい。世論的にも否定的だった。それにさ、その時はシールドエネルギーって言う未知のエネルギーに皆夢中だったのさ』

「確かにそうですね。理由は解る気がします」

 

間違えれば身を滅ぼしかねない核よりも、将来性のありそうな未知のエネルギーに集中した方が断然良いのだろう。それに、白騎士事件を景気に世はIS一色に染まったからな。

 

「まぁそんなんだけどさ、パラジウムリアクターってのは単品でかなりの魅力があるからね。政治的意味においても軍事的意味においてもね』

「諸刃の剣ですよ、それは」

 

確かにそれは鬼札足り得るが、扱い方を間違えれば身を滅ぼす。

 

『そこは社長に任せるさ。私も部下も、そして君も謀は得意じゃないからね。所謂適材適所だよ。だから何も問題無い』

 

社長はお偉方との腹の探り合いに慣れているから任せれば確かに安心なのだろう。ただ、任せっきりと言うのも非常に良くないのだが。

 

「しかしまぁコレを傍から見れば狂気の沙汰かと思いますね」

 

異端者として見られるのは先ず間違いない。

 

『そうかい?私としては純粋に科学の成果だと思うがね?何れ世に出まわるであろう、ね』

「まぁ確かに過去異端とされていても未来においては正当に評価されたモノもありますが」

 

地動説然り、万有引力の法則然り、そして原子論然りである。

 

『そうだろう?どんなに異端とされていても、どんなに外道といわれようとも確証を、そして旨みを見せれば異端は正当とされ、外道は王道となる』

「絶対に違う、とは言えませんね」

『うむ。そして同時に我々科学者は理解しなければならない』

「理解、とは?」

『まぁ、言ってしまえば簡単なことだよ。我々科学者は過去、ありとあらゆる倫理観を無視し、全ての事象を解析し、その果てにある奇跡と言う名の神を数多殺してきた。そして同時に多くの人も、その他の生き物も際限なく殺してきた。聡い君の事だ。何故、直接手をかけてないのにも関わらず殺したと言ったのか解るだろう?

 

どんなに平和のためにと、どんなに夢のためにと、どんなに未来のためにと、その崇高な理想の下にどんなに素晴らしい発明を世に送ったとしてもそれは一瞬で軍事転用され、多くの人間を殺戮する兵器と相成る。飛行機然し、車然り、そしてあの兎が作ったISも然り、だ。

 

まるで道化だろう?我々が何を発明しても、まぁ全てとは言わないが結局殺すために利用される。それでは我々が人々を殺しているのと何ら変わりはないではないだろうか?だからこそ我々科学者は理解しなくてはいけない。そして心に刻まなければならない。

 

我々が、我々科学者こそが、

 

                真の殺戮者

 

であるという事を。ソレは冷酷な軍人でも、狂った殺人鬼でもない、只の科学者こそが、ね。……さて、ここまでまくし立ててみたけど、君もそうは思わないかい?』

 

主任が言ったのは確かに一理あるだろう。

 

どんなに綺麗な言葉で飾ろうとも決して覆す事のできない事実の一面だ。だが、それは余りにも周りに敵を作り過ぎる危険な発言だ。まさにマッドサイエンティストそのものでる。

 

「私や社長、そして貴方の部下達でなければ先ず貴方の立場はないですね。取り敢えず私の回答は是。殺戮者はともかく、発明したらそのままではなく最後まで責任を持つ必要がある」

 

だからこそ主任は無責任な篠ノ之束を認めないし、嫌いなのだろう。

 

『君は頭から批判しないで先ず受け入れてくれるから本当に助かるよ。社長以外の重役のお偉方は頭の硬い連中ばかりでうんざりなんだよねぇ』

 

主任は頭が痛いよ、と言いながらしみじみ呟く。

 

「仕方ないでしょう?彼らは落ちるのが怖くて堪らないのに、今にも崩れそうで危険な橋をはい解りました、と言って簡単に渡る訳がないでしょうに」

 

表向きには社長の意に沿う形で主任の提案を受け入れているのだろうが、心の中ではさぞ毒づいている事だろう。

 

『まぁ、そうなんだけどねぇ』

「取り敢えず機体の件はそのまま順調に行くことを願いますよ」

『うむ、そうだね。君は完成するまで名前でも考えているといいよ』

「解りました」 

『ではこれで通信を切らせてもらおうかな。次は研究室で会おう、椿君』

「はい。では失礼いたします」

 

そう言って私は通話を終えた。

 

――終わりましたか

 

今まで傍観していた古鷹がタイミングを見計らって話しかけてきた。

 

(あぁ。これで機体の完成も果てが見えてきた、と言えるだろうか)

 

――肯定。私も完成するその時まで全力を尽くしましょう。しかし彼らは本当に凄いですよね。よくもまぁあれだけの事を思いつけるものです。そしてそれを実行しようとする

 

(確かにな。欲を言えば変態でなければ完璧だと思うのだがな)

 

――否定。寧ろ変態でなければできない事です。それに彼らにはあの兎以上の確固たる信念というものがある。そして決して何人にも屈しない強い意思がある

 

(知っている。あの人達は何時だってそうだ……動機は不純だったがな)

 

――それこそ愛嬌という奴です。そうでなければ心が腐りますよ。人間、案外脆いモノです

 

(そんなものか。だが、彼等の性根はとうの昔に腐り果ててるだろう?)

 

普段からやれ浪曼だの高火力だのと言って狂気乱舞している変態共なのだが。

 

――そこは気になさらずに。問題ないでしょう?

 

(大ありだ。試される側になって考えろ)

 

――はいはいそうですかそうですかっと

 

古鷹に思いっきり流されてしまった。

 

ソレに対し、私は文句を言おうとしたが、古鷹に遮られた。

 

――あと思い出したのですが、Ms.簪達は貴方の事を名前で呼んでませんよね?

 

(……む)

 

そう言えばそうだったな。

 

(まぁ、私から強制させるつもりはない)

 

呼んで欲しいか、欲しくないか、と二択をするのであれば私は前者を選ぶが、な。

 

――左様ですか

 

 

その後古鷹と会話を続けながら食事を摂り、教室に戻った。

 

 

 

 

椿が主任と通信をしていた時に、実は盗み聞きをしていた人物がいた。

 

(……まさかこんな会話をしてたとはねぇ)

 

その人物とは更識楯無である。

 

次のデータが纏め終わったので早速渡そうとしたら、彼が企業への定時連絡をしていた。よって後にしようかと思っていたが、まさかあんな会話になっているとは思わなかった。

 

『核』『核融合炉の量子化による運用』

『主任と呼ばれた人物は篠ノ之束を嫌っている』

『篠ノ之束に対抗しようとしている』

 

幾つかの見過ごせないワードが聞こえてきたので、重要と思われる点を纏めた。そして彼のいつもと違う口調、声音、雰囲気を記憶に留める。

 

(それにあの口調が本来の素なのかしらね?)

 

はっきりと言えば別人に見えた。そして会話の内容が内容だけにただ事ではないのだろう。場合によっては暗部として動かなくてはいけない。

 

(ちょっと問い詰める必要があるわね)

 

少なくとも、学園にいる限り逃げる事は出来ない。それに、例え反抗してきたとしても、彼の実力を見る限り鎮圧できる自信はあった。恩人に、それも少し気になる人物に手を上げるのは心苦しいが、学園の平和の為だ。

 

背に腹はかえられない。

 

楯無は思い立ち、その場を後にした。

 




バレなきゃ犯罪じゃないんですよ、はやはりフラグでした(`・ω・´)
あと主任の設定はオリキャラがもう少し出たら設定に追加します。


オリジナル設定

・ISコア
例えるなら意思のあるGストーン。ISの核であり、動力炉でもある。
搭乗者の強い感情(勇気だけではない)で色々な事が起きる。(詳細は話が進み次第更新)
現在、殆どのコアは篠ノ之束の制御下に置かれている。
尚、篠ノ之束の制御下から完全に離れているのを確認しているのは古鷹のみ

基本領域
ISの装甲を収めている領域。
ISのコアも此処に収められている。

パラジウムリアクター
フルメタル・パニックより拝借。パラジウムを用いた常温核融合炉である。
高い出力を誇り、また静粛性も高い。
因みにコレ単体での最大作戦行動時間は150時間である。

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