ーInfinite Stratosー~Fill me your colors~   作:ecm

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――赤             ――紅

それは情熱の赤        それは燃え盛る太陽の紅

――赤             ――紅

それは闘争心の赤       それは誠実なる心の紅

――赤             ――紅

それは生命の赤        それは魂の紅

――赤             ――紅

それは身体を流れる赤     それは心の臓腑を流れる紅

――赤             ――紅
              
それは、憤怒の赤       それは、憎悪の紅



第三十五話:Color me

憤怒が、そして憎悪が天枷椿の思考を染め上げる。

 

溢れ出る殺意。

 

大切な存在を傷つけた者への殺意が纏いし鋼の鎧を突き動かそうとする。そしてそれは、彼の相棒であるISコア――古鷹にも影響が出ていた。

 

――私は白騎士と言う栄光から産まれた一つの影(紛い物)。例えどんな形で産まれようとも、私は貴方を母と呼び、慈しむべきなのかもしれない。だが、私はこの身に巣食う憎しみは、子が親を愛するのと同じように深い

 

古鷹は自らの過去を振り返り、思い起こしていた。

 

朧げな記憶の中、篠ノ之束が宇宙を夢見て、自身もソレを望んたことを。

 

そして篠ノ之束の夢は歪み、自身の夢を踏みにじられたことを。

 

自身と同胞を、都合の良い手駒として使い捨てようとしていた事を。

 

故に古鷹は明確な憎悪を抱き始めていた。

 

――例えこの感情が私を蝕み、滅ぼそうとも、私はこの感情を開放する事を厭わないだろう―――否、厭わない。全ては自由の、果て無き悠久の宇宙を翔ける自由の為に

 

秘めたる思い。

 

――その為なら、例え外道と罵られても、何度でも己を汚そう

 

内なる狂気。

 

――手段は選ばない

 

求めるは圧倒的な(夢を叶える為の)力。

 

――故に私は

 

比類なき絶対の力。

 

 

       「「殺す」」     

 

 

そして、復讐の力。

 

今、一人と一体の思考は重なり、やがて一つの形となり、新たなる力となって発現する。

 

 

単一仕様能力(ワンオフアビリティー)発動』

 

 

「―――染まれ(・・・)」            

 

 

――Recognition.

 

――Cogitation trace……Complete……Generation.

 

――One off ability……Invocation.

 

 

『Color me――"Abhorrence crimson" 』

    (私を憎悪の紅に染めて)

 

 

――ドクン

 

 

椿の心臓が一際強く鼓動を打つ。そして勢い良く湧き上がってくる感情の奔流。

 

「アァアアアアアアアアアアアッ!!!」

 

轟く咆哮。

 

それは普段の彼からは想像もつかない悪鬼の如き咆哮――純粋なる怒り()を超えた、歪みし憎悪()と言う名の感情の発露となって顕れた。

 

そして同時に胸部装甲の中心から紅いエネルギーラインが発生、古鷹のダークブラウンの全身装甲をまるで血脈の如く脈打つかの様な不規則な明滅を繰り返しながら放射線状に高速で駆け巡る。

 

――一時的な機体性能の上昇及びエネルギーの過剰供給を確認。搭乗者の安全を踏まえ、回避重視――訂正、短期決戦を前提条件へ。また、搭乗者の異常な心理状況を考慮し、手動制御から半自動制御方式へ移行……完了。同時に火器管制権の使用制限を解除

 

そして古鷹は一切の感情を排した声で淡々と報告を行う。

 

そして全身にエネルギーラインが回りきった瞬間、血の赤よりも深い紅の光が衝撃波を伴いながら解き放たれ、同時にその衝撃の余波で地面が深く抉られて一つのクレーターができあがった。

 

――単一仕様能力、完全発動。活動限界時間、約10分。目標、敵性戦力の完全殲滅。Get Ready

 

 

『Open combat』

 

 

動き出すは圧倒的な狂気。

 

 

止める者は存在しない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「つ、椿……?」

「何、あれ……」

 

鈴と俺――織斑一夏は椿の様子を見て呆然と呟やいていた

 

事の始まりは、俺と鈴が一機の無人機を相手にしてる時だった。

 

あの時の俺は、鈴と協力しながらヒット&ウェイ――鈴に射撃を任せて椿との模擬戦で感覚を掴んだ一撃離脱を繰り返していた。零落白夜で一撃を与えて直ぐに椿の援護に向かおうと最初は思った。けど、鈴との戦闘でのダメージや白式の燃費の悪さも頭に入れないと駄目だから堅実に攻めた。そう、自分のミスで鈴や椿に負担が掛けてはいけないと思って堅実に削る方を採ったんだ。

 

そして戦う前に鈴にその事を言ったら――少しだけ不満ありげだったけど――直ぐに『解った』と言って俺の動きに合わせてくれた。そして連携しながら追い詰めていった。結構順調だったんだ。それに、戦闘中に椿が無人機を押してるとが連携しながら教えてくれたからことさら安心して戦えたんだ。

 

これなら倒せるって。

 

でも、途中で箒の声が突然聞こえてきて動きが止まってしまった。

 

何んで箒が此処にっ!?と思った。

 

そして無人機も箒に気付いて銃口を向けたから、俺はソレを止めようとして―――出来なかった。そう、結局、あの無人機のレーザーの発射を防ぐ事が出来なかったんだ。

 

あれだけ鍛えたのに、出来なかった。

 

あれだけ教えてもらったのに、出来なかった。

 

しかもこの時の俺は、思わず目を瞑ってしまったんだ。数瞬後、アリーナのシールドを破壊する威力を持つレーザーによって箒が死んでしまうと思って。その事実を認めたくはないと思って。

 

情けない。

 

こんなんじゃ、千冬姉さえ守れない。

 

いや、守る資格すら、ない。

 

そう思ってた。

 

けど、結果は思っていたのとは違った。そう、違ったんだ。あの無人機がレーザーを撃つ直前に更識さんが放送室の窓を破り、箒を庇ってくれたんだ。

 

そしてそれに俺は安堵した。

 

助かった、と。

 

箒が死なずに済んだ、と。

 

箒には色々言わないと……だけど、今はそんな事よりも更識さんが危ない。しかもISが解除された。俺はその事を認識して急いで気を引こうとして――

 

「アァアアアアアアアアアッ!!!」

 

突然地の底から湧き上がる怨念の様な恐ろしい咆哮が耳に届いて、思わず身が固まってしまった。そしてその咆哮が聞こえた方向に視線を向けると、椿の駆る古鷹が紅いラインで全身を覆っている所だった。

 

――そして現在に至る。

 

思わず驚いてしまった。今まで見た事の無い現象。

 

(あれは……単一仕様能力、なのか?)

 

けど、それは嫌悪感を覚える様な紅い色で、見るからに禍々しかった。そしてその紅い線が全身をくまなく回った瞬間、今度は痛いぐらいの紅い光と共に衝撃波が白式を通して『超高エネルギー反応確認』と言う情報として伝わってきた。そして同時に椿の周囲の地面にはクレーターが出来上がっていた。

 

見るからに解る。あれは、手を出してはいけない。

 

怖い。

 

俺は、椿の様子に恐怖してしまった。

 

(っ……でも、更識さんを見捨てる理由にはっ!)

 

俺は恐怖で凝り固まった体に鞭を打って身を乗り出そうとして―――鈴に止められた。

 

「……一夏、引くわよ」

「なっ!?」

 

見捨てるのか!?っと言いたいが、鈴がソレを言う前に言ってきた。

 

「見れば解るでしょ!!下手にウロチョロしたら巻き込まれる!て言うか、アンタ今正面から行こうとしたでしょ!馬鹿じゃないのっ!?」

「けど――「言い争うよりもっ!!」」

 

鈴は俺の言葉を遮って続ける

 

「簪を助けるのが先!回り道で!異論は聞かない!一夏は左から!」

「わ、解った!」

 

俺は鈴の指示に従う事にした。そして戦闘を始めた椿を視界に収めつつ迂回して更識さんを助けに向かった。椿が一体どうなってるのかは解らない。唯一解るのは、ハイパーセンサーから送られてくる情報見れば異常な程の高密度のエネルギーが椿を覆ってる、と言う事だけ。

 

(……無事でいてくれよ)

 

今はそう願う事しか出来無かった。

 

そして願う事しか出来ない自分が情けなくて、腹が立った。

 

 

 

 

 

一夏と鈴が椿の様子を見て呆然としていた様だが、椿はそんなのを気に留める筈がない。目標は敵性戦力である無人機(復讐対象)ただ一機のみ。それ以外は皆等しく有象無象に過ぎない。

 

例えそれが誰であろうと、変わりはない。

 

「―――っ!!!!」

 

椿は声にならない雄叫びを上げながら彼我の距離を詰める。

 

対する無人機は単一仕様能力を発動させた椿の存在を恐怖を感じながら優先排除対象としたのか、それとも誰かに操られたのか(・・・・・・・・・)、ぎこちないない動きでもう片方の腕部の高出力のレーザー砲を放とうとしていた。

 

――残像(レシデュアルイメージ)瞬時加速(イグニッションブースト)発動

 

古鷹は無人機から発する高エネルギーを瞬時に察知し、攻撃を避ける為、残像瞬時加速を発動させる。

 

『残像瞬時加速』

 

それは机上の空論とされている瞬時加速の一つであり、機体表面を覆う超高密度のエネルギーの残留物がその場に留まる事により残像となって現れ、ハイパーセンサーの位置把握を一時的に騙す効果がある瞬時加速である。

 

単一仕様能力が発動している今だからこそできる彼等にのみ許された技。

 

そして効果通りに残像が発生、椿は無人機の視界から外れた。そして無人機は残像を本体と認識し、レーザー砲を発射した。

 

強力な熱線に貫かれる椿。

 

しかし言わずもがなそれは只の残像であり、残像が消えただけで終わる。

 

『―――!!』

 

対象をロストした無人機は素早く周囲を索敵する。

 

一方の椿は熱線を避けた後、メインブースターを全開で吹かしながら――本来であれば鈍重な機体である古鷹では出せない程の速度で――紅い軌跡を描き、一気に無人機へと駆け巡る。

 

ただ、破壊する為に。

 

ただ、湧き上がる衝動に身を任せながら。

 

『……!!』

 

そして僅かに一秒にも満たない時間――高速移動中であれば充分な時間――で無人機が椿の姿を捉えた様で、両腕を椿に向けて肩のレーザー砲を雨あられの様に照射する。

 

しかしそれは無意味だった。そう、またしても古鷹は予測し、対策を打っていたのだ。

 

古鷹は残像瞬時加速で無人機の視界から外れた瞬間、次の流れを想定し、事前にLDSを発射。そして今まさに椿に襲いかからんとした低出力のレーザーを全て霧散させたのだ。

 

そして彼我の距離は埋まった。

 

「穿つ」

 

――KIKU、展開

 

椿の短い一言を理解した古鷹が武装を選別し、一度それ以外の全てを収納、川崎製特殊近接兵装・KIKU――普段の鉄色ではなく古鷹の装甲の様に紅黒く染まっていた――を両腕に展開した。

 

『……!!!!』

 

無人機は状況を不利と判断したのか、肩のレーザーで弾幕を張り続けつつ距離を離す為に空中へと逃れようとしていた。だが、椿はそう易々と逃す訳が無い。

 

「誰が逃げていいと言った」

 

――側面を

 

短い意思疎通。

 

――指令受諾。残像個別連続瞬時加速、発動

 

古鷹は椿の意思を反映させる形で肩、背中、腰といった各部位のブースター及びスラスターを個別にかつ連続で発動。数々の残像を生み出しながら超高速の動きでレーザーの弾幕をすり抜け、そして無人機の側面を奪った。

 

「墜ちろ」

 

先ず左手で抉るような打ち込みで右肩を破壊。続く第二擊で無人機を地面へと叩き落とした。そして更なる追撃を仕掛ける為に無人機を叩き落としたのと同時に加速する。

 

「……」

 

そして地面に降り立った椿は無人機が体制を立て直す前にその頭を掴み、一切の抵抗を許さずに地面に押さえ付ける。そして前方へと瞬時加速を発動した。

 

結果、何かを押さえつける様な奇妙な残像が出来上がると共に無人機のアンバランスな身が削られ、そして同時に地面を深く抉りながら激しい火花を咲かせていった。

 

『!?!?!?!?』

 

そして無人機は地面に押し付けられて引きずられた――所謂もみじおろしに処された事により、装甲は削られていった。そして装甲が削られた事により所々からケーブルやパーツが露出、更によく見れば黒い液体――恐くは潤滑油――も流れ始めていた。

 

そして続く追撃。

 

終わらない追撃。

 

そう、終わらないのだ――否、終わらせる訳が無いのだ。

 

湧き上がる衝動は、

 

胸を抉る様な痛みは、

 

抑えきれない憎しみは、

 

この程度で満たされない。

 

この程度で癒されない。

 

この程度で収まる訳などないのだ。

 

「…………」

 

椿は無言で無人機の両腕を掴んで無理やり引き立たせる。そして徐々に力を込めながら掴んだ両腕を引きちぎろうとする。

 

『ッ――――!!』

 

無人機は苦し紛れに残った左肩のレーザー砲を発射する。だが、如何せん腕を引っ張られてるが故に射角が足りず当らなかった。そして効果が無いと見たのか、次に無人機は各所から火花、そして部品が欠落していくのを無視しながら椿の顔面に蹴りを放つ。

 

甲高い金属音と衝撃。

 

だが、椿は一切の怯みを見せなかった。それどころか仕返しとばかり掴む力を更に強めた。そして僅かな抵抗の後、ブチィッ!と回線が切れる音共に無人機の両腕は引きちぎれた。

 

崩れ落ちる無人機。

 

同時に飛び散る火花。

 

勢い良く溢れ出る潤滑油。

 

それはあたかも頚動脈を切られて噴出する鮮血の様だった。何も知らぬ者であれば、ISがISを――人の腕を引きちぎった凄惨な光景。だが、椿は眉一つ動かさず無人機の頭を片手で掴み、空中へと放り投げた。

 

――165㎜多目的・破砕榴弾砲、展開

 

何も言わずに放り投げた椿だったが、古鷹にはその意図が伝わった様で、素早く多目的・破砕榴弾砲――KIKU同様に紅黒く染まった――を展開、椿はそれを無造作に掴み、空中へと放り投げた無人機へと銃口を向け、狙いを付ける。

 

本来なら関節固定をしなければ撃てない一撃。

 

だが、椿は躊躇なく引き金を引いた。

 

当然襲いかかる凄まじい反動。

 

だが、古鷹の関節は何処一つとして悲鳴を上げる事は無かった。そして多目的・破砕榴弾砲から放たれた巨大な火球は無人機を真っ二つに分断、爆散させた。

 

決着。

 

圧倒的な勝利。

 

僅か3分にも満たない戦闘だった。

 

「……足りない」

 

だが、椿はそれでもまだ止めようとしない。

 

――165㎜多目的・破砕榴弾砲、収納。大型荷電粒子砲、展開……制限解除

 

古鷹は相棒の意思を汲み取り、武装を選ぶ。

 

そして椿は先程真っ二つに割れた片割れ――脚部に向けて荷電粒子砲を構え、競技用にかけられたリミッターを解除し最大出力で撃つ為にチャージを開始した。

 

――チャージ完了

 

僅かな間をおいての報告。

 

本来であればかなり時間がかかる最大出力までのチャージ時間が一秒ともかからなかった。

 

「消えろ」

 

その一言共に放たれる莫大なエネルギー光。

 

無人機の脚部、そしてその周辺の地面を抉り、そして融解させながら跡形もなく消し飛ばした。

 

次は残りの上半身。

 

椿はゆっくりと一歩一歩近づいていった。

 

あたかも彷徨える幽鬼が如く。

 

「…………」

 

そしてたどり着いて無人機を見下ろした椿は濁った頭で思考し始めた。

 

――こんな奴が、傷付けたのか。

 

湧き上がる憎悪。

 

――私の下世話で、傷付いたのか。

 

自己嫌悪。

 

――何故、何時も、こんな時に限って、不幸しか訪れない?何故、守れない?何故、奪われる?何故?何故なんだ?教えてくれ、何故、私が、こんなにも悲しまなければいけない?どうしてこんなにも怒らなければいけない?何故、こんなにも痛まなければならない?教えてく、頼む。頼むから、頼むから問いに

 

「―――答えろぉおおおおおおおっ!!!!」

 

そして、悲しみ。

 

椿は感情にその身を任せ、残った上半身を全力で踏みつけた。

 

何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も。

 

ただ、感情の赴くままに踏み続けた。

 

やがて少し落ち着いたのか、椿はふとした拍子に足を引いた。

 

同時に――僅かづつではあるが――薄まっていく紅。

 

そして椿が引いた事により漸く解放された上半身は見るも無残な姿であり、もはや原型をほぼ留めていなかった。これでは回収後のデータ採取も不可能だ、といったくらいにであった。そしてコアが無事であるかどうかも不明。最も、今の椿がそれを知る由もないのだが。

 

――警告、新たにIS7機を確認。ラファール3、打鉄3、、ミステリアス・レイディ1。搭乗者……該当あり。順次データを公開。また、有事に備え、白式、甲龍を含めたIS9機を驚異度の高い順にM1からM9と呼称

 

そして引いた同時に古鷹からの報告を受けた椿はハイパーセンサーを通して動く物体に気付いた。

 

「……たて、なし?」

 

誰、だ?

 

椿はまるで初めて会った人物であるかの様に呟く。

 

――更識家当主、更識楯無。ロシア連邦国家代表

 

そもそも私は、私は何故、此処に居る?

 

――目標の殲滅の為

 

目標の……殲、滅?

 

――肯定

 

何故?

 

――傷付けられたから

 

誰を?

 

――更識簪を

 

かん、ざし?……何かが引っかかる……だが、解らない。

 

古鷹は椿の自問自答の様な問いに全て答えていくが、椿は単一仕様能力の余波のせいか、部分的に記憶の欠如が見られた。そして古鷹から返って来る問いにますます疑問が深まり、混乱し始めていた。だが、椿は質問を重ね続ける事で漸く一つの結論を導き出した。

 

解らない。私は……何も解らない。だが、たった一つだけ、解る事があった。

 

――守らなければならない。

 

安息の為に、奪われない為に、掛け替えのない日常を、そして彼女達――■■を、■を、■■をなんとしてでも守らなければならない。……だが、誰を、守るのかは、解らない。しかし、これだけは、解った。

 

そして知らなければならない。

 

この胸にある違和感の正体を。

 

椿はその結論を自身の胸中に秘め、何故か心に引っかかった楯無と言う名前の少女が居る方へと体を向ける。心にある違和感を知る為に、警戒心を顕にしながら。

 

「天枷さん……もう、終わりました」

「天枷、もう良いんだ」

「……椿、もう、終わったんぜ」

「椿……」

 

先ず最初に声を掛けてきたのはラファールを纏い、地面に降り立った真耶。その後に打鉄を纏った千冬、一夏、楯無。そして彼女等の周りにも真耶や千冬と同じラファールや打鉄を纏った教師達が4人が彼女達の周りに降り立った。

 

「……」

 

しかし、椿は何も返さず、ただ彼女達を見つめていた。

 

「大丈夫です。全部終わりました。だから、止めて下さい」

 

真耶は椿に諭す様に優しく語りかける。

 

何が?

 

椿は口には出さずに問う。当然届かない問い。しかし思いは伝わったのか、はたまた台詞は未だ続いてる途中だったのかは知る由も無いが、真耶は更に言葉を重ねる。

 

「更識さんは今、凰さんが緊急医療室へ運ぼうとしています。大丈夫、命に別状はありません」

「そうよ、簪ちゃんは無事、だから、止めて」

 

何を、言っている?……其処に、何かがある、のか?

 

椿には真耶達の言葉の半分も理解していなかった。だがしかし、真耶が会話をしながらとある方向へと指をさしていたのが気になったのか、ゆっくりとした動作で真耶が指差した方向へ向いた。そしてその方向を見れば鈴が今まさに簪を抱えてピットへと向かう所だった。

 

――M4の離脱を確認。同時に負傷者、更識簪の生命維持データを打鉄・弍式より照合……完了。M3の言質に虚偽は無しと判断

 

古鷹からの補足。

 

どうやら真耶と楯無の言葉は本当のようである。だが、それは椿にとって逆効果だった様だ。

 

――痛い。何故、胸が痛む?知らないのに、知らない筈なのに、何故胸が、心が痛む?

 

そして湧き上がる感情。

 

――これは……悲しみ……怒り……憎しみ。

 

何も感じていなかった筈なのに、まるで何かを思い出すかの様に湧き上がる感情の奔流。

 

――嫌……だ。こんなのは、嫌だ。やめろ、やめろ、私を、蝕むな、私の中に、入ろうとするな……気持ち悪い……嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌ッ――――――

 

そして黒い感情の奔流に意識は飲まれ、薄まりつつあった紅は、再び見る者に嫌悪感を誘う様な禍々しい輝きを取り戻す。

 

そして狂気は哭いた。

 

「……ァアアア!!」

 

絞り出す様な咆哮。

 

それは聞く者の身を竦ませる様なおどろおどろしさを伴うものでなく、悲しみを伴う孤独な獣の慟哭の様であった。

 

――大型荷電粒子砲、最大出力、最大射角――チャージ完了。発射

 

椿は周囲に楯無や一夏、そして教師達がいるのを無視し、遥か上空に向けて荷電粒子砲を発射した。

 

まるで其処に居ない筈の者に対し、見せつけるかの様に。

 

これが私の怒りだと、見せつける様に。

 

そして砲身が熱で歪み、使用できなくなるまで放ち続けた。

 

――砲身に異常熱を確認。荷電粒子砲、エネルギー供給中止

 

古鷹によって荷電粒子砲が収納された後、椿は力無く地面へと膝を付き、そして地面へと自身の拳を強く、只只管に強く打ち付ける。

 

一発、二発、三発……。

 

椿は狂った様に――否、狂いながら、しかし言葉を一切発せず地面を殴り始めた。そして一連の行動を見た一夏達は椿が起こした行動に対し、同様を隠しきれないでいた。

 

「……錯乱状態、か」

「……どうします」

「取り押さえるしかないでしょう。もし暴れだしてでもしたら……私達四人で抑えます。織斑先生達は不測の事態に備えて構えて下さい」

 

教師の一人は危険だと判断し、静止した椿を取り押さえようと近づこうとする。そして残りの三人の教師も後に続こうとして―――不意に教師の前に影が現れ、彼女達の進行を遮った。

 

「待ちなさい!今の彼に下手な刺激を加えるのは危険よ!」

 

遮った影の正体は楯無。

 

彼女はそれこそが危険な判断として中止を求めた。

 

「あぁして止まっている今がチャンスなんです。もし彼が暴れ始めたら確実に手をつけられなくなります。相手は軍用機なんですよ?その意味を国家代表である貴方なら解る筈です。ソレに、貴方には織斑先生達と共に不足の事態に備える様に言った筈です。――どきなさい」

 

教師は目の前の危険を放置しておくのは危険と言う判断を曲げず、楯無を押しのけた。そしてその後に三人の教師が楯無達4人を残して続いた。

 

「織斑先生!」

 

楯無は最後の希望だと言わんが如く千冬に食いつく。

 

「……お前の言い分は確かに正しい。だが、同時に彼女達の言い分も正しいのもまた事実だ。今、動きが止まっているからこそのチャンス……構えろ。これ以上、周囲に被害を出す訳にはいかないのはお前も同じ筈だ」

 

千冬はそう言いながら厳しく眉根を寄せながら打鉄の近接ブレード『葵』を展開し、どんな事態にも対応できる様に自然体で構える。

 

「くっ……」

 

最早止めるのは不可能。であれば、最悪の事態になった時には素早く対処しなければならない。楯無は悪態をつきながらも四連装多銃身式銃内蔵ランス『蒼流旋』を構える。

 

一方、教師四人に接近された椿は、その行動に敏感に反応していた。

 

――M6、M7、M8、M9、接近。目的は当方の捕縛。よって敵対行動と判断

 

そして古鷹は二次元レーダーに映るISの光点を灰色(中立)からすべて赤色(敵対)へと変えた。

 

「……敵」

 

――――敵は、私の安息を乱す者は、殺す。

 

椿は拘束しにかかった教師達を敵と判断した。

 

――了解。対複数戦闘――開始

 

「っ!?椿、止めなさいっ!」

 

楯無はハイパーセンサーを通して聞こえた椿の呟きに対し、声を掛ける。

 

――残像瞬時加速、発動

 

だが、楯無の願いは届かず、古鷹が残像瞬時加速を発動。残像をその場に残し、教師達の囲いを抜けた。そして取り押さえる為に古鷹に触れようとした教師はブースト音が鳴り響くのと同時に触れようとしたソレが残像である事に気付いた。

 

「っ!?消えた!?」

「どこに!?」

 

突然の事態に教師陣は急いで周囲を急いで振り向く―――が、見つからない。

 

「上だっ!避けろ!」

「上よ!避けて!」

 

しかし、取り押さえるのに参加しなかった千冬と楯無は素早く椿が教師陣の直上に居る事に気付いた。

 

だが、気付いたその時には何もかもが遅い。

 

――165㎜多目的・破砕榴弾砲、展開。Enemy in range

 

椿は躊躇いもなく引き金を引く。そして巨大な火球が地上に居る全員に襲いかかった。

 

そして舞い上がる土砂と爆炎。

 

周りで構えていた千冬達は素早く離脱して難を逃れたが、一方の取り押さえようとしていた4機のISはそうはいかない。直撃にこそ至らなかったが、強烈な爆炎と土砂の嵐に吹き飛ばされる。当然襲いかかる途方も無い衝撃。だが、致命傷とまでは行かなかったようだ。吹き飛ばされこそしたISだが、絶対防御をもって操縦者を守りきった。しかし、対する操縦者――教師達は凄まじい反動によって気を失っていた。

 

完全な無防備。

 

椿が止めを刺さない道理が無かった。今度は確実に殺す、と短く思考を区切って手短な位置に居た一人に狙いを付けて引き金を引こうとする。

 

「止めろぉおおおおおおおおっ!!」

 

そこに一夏が気を失った教師を守ろうとして零落白夜を発動、同時に瞬時加速で一気に距離を詰めて椿の駆る古鷹を一刀の下に切り伏せようとした。

 

傍から見れば愚かな行為に見えたのかもしれない。実際、一夏のこの行動には勢い任せの部分があった。だが、一夏は無知ではない。それなりに勝算があっての行動でもあった。

 

(普段の椿は偶に凄い反応速度を見せるけど、今の状態なら多少なりとも鈍ってる筈。それに、あれ程のエネルギーを纏ってるんだったら、少しでも掠る事ができれば!)

 

椿との戦闘経験、椿の戦い方、椿の癖、古鷹と言う機体の特徴。

 

恐く単一仕様能力でスペックは変わってるとは言え、何度も戦って動き方は把握してるし、何度もダメージを与えた事がある。だったら、これで――

 

(止めれる!)

 

一夏は確信していた。

 

戦った者だからこそ手に入れる『経験則』と言う最大の武器。

 

これがあるからこそ、一撃を確実に入れる事ができるとだ、と。

 

刺し違えてでも当てれる、と。

 

そう確信していた。

 

しかし、結果は予想していたのとは全く違っていた。

 

――M4、急速接近。同時に単一仕様能力『零落白夜』の発動を確認

 

「……!」

 

一夏は諸々の事情を汲んで今の椿の反応は鈍くなっていると判断していた。だが、椿は一夏の予想を超えて反応、機械的に情報を読み取り、判断していた。

 

――提案を採用。『アイアスの盾』、軌道上の前へ

 

そして古鷹が椿が導き出した対策に添うように一夏の進行方向上にアイアスの盾を展開、次に盾の強度を活かして一夏の顔面に叩きつけた。

 

「っ!?」

 

一夏は瞬時加速中に突然現れた盾の予想外の一撃に大きくバランスを崩して失速。同時に椿は流れる動作で一夏との間合いを自ら詰め、多目的・破砕榴弾砲を収納してKIKUを展開し、振り下ろす様な一撃で地面へと叩き落とす。

 

「ぐあぁっ!?」

 

そして追撃に移行。KIKUを収納し、StonerとBeowulfを展開。墜落しつつある一夏に向けて躊躇いなく引き金を引き、残り少いシールドエネルギーを容赦なく奪っていく。

 

「一夏っ!!」

 

そんな中、千冬は最愛の弟の名を叫びながら瞬時加速を発動、白式の目の前に無理やり割って入り、打鉄の両肩にある物理シールドを前面に押し出して弾幕を防いだ。

 

「くっ!」

「椿っ!」

 

残った真耶と楯無は千冬を援護する為に真耶はマシンガンを二丁、楯無は内蔵型ガトリングをもって椿の注意を自分達に向かせるために放つ。対する椿は先程一夏を叩きつけた盾ともう一機の盾を新たに呼び出して射線上に滑り込ませて全て防いだ。

 

そして僅かな膠着状態。

 

――報告、M4、エネルギー残り僅か。M1、損傷軽微。戦闘継続の意思有り。――状況判断。M2、M3を一時的に優先対象へと変更。但しM1の最優先度は変わらず。動きがあり次第、適時対応

 

椿は古鷹から送られる情報を元に真耶と楯無の方向へと向き直り、両手の銃を構える。

 

一方、弾幕から解き放たれた千冬は、最愛の弟が無事である事に安堵していた。

 

「ゴメン、千冬姉……」

「馬鹿者……お前は下がっていろ、この場では足でまといだ」

「け、けど!」

「……だったら隙を見つけて補給してこい。エネルギーが雀の涙もないのに無理をしようとするな」

「わ、解った」

 

そして一夏は引く体制に入り、千冬は近接ブレードを持ち直して正眼の構えに。

 

「山田先生、生徒会長、止めるぞ」

「解りました」

「……はい」

 

楯無は悲しそうに頷いた。だが、一瞬だけ口をキュッと結ぶと、顔を真剣なソレに替え、学園を守る者として驚異を排除する為に雰囲気そのものを変えていく。だが、心の動揺までは隠しきれないのか、その瞳だけは未だ悲しそうに揺れていた。

 

そしてほんの僅かな膠着状態は終わり、状況が動き出す。

 

「……私が仕掛ける。山田先生は援護を、楯無は私のあとに続け」

「了解です」

「解りました」

 

ブリュンヒルデと学園最強、そして元国家代表候補生による挟撃。前門は学園最強と熟練の元国家代表候補生。後門は世界最強ブリュンヒルデである。

 

「天枷、貴様の怒りは解らないでもない」

 

千冬はタイミングを図りつつ呟く。

 

彼女は椿の心情をある程度理解しているのだ。更識簪が天枷椿にとってどれほど大切な存在であるかと言う事を。ここ最近の噂や行動を見れば尚更である。だからこそ千冬は理解しているのだ。己もかつて、最愛の弟である一夏を何者かに誘拐されたと知らされた時、全てを放りだしてまで、一夏を助ける為に向かったのだから。

 

そして今も、一夏を庇う為にその身を盾にしたのだから。

 

だからこそ、痛いくらいに解る。解ってしまう。そして誰が今回の件を仕組んだのも、だ。確かに千冬自身も思う事はあるし、この事件の元凶に問いただしたい事があるのだ。

 

「だが今は……倒す」

 

今この場には生徒の身を守る一教師として、一人のIS乗りとして此処に居る。だからこそ余計な事は考えない。今はただ事態の沈静化の為に、そして学園の平和の為に速やかに驚異は排除しなければならない。

 

感情に赴くまま暴れる事を、許すわけにはいかないのだ。

 

そして千冬は個人間秘匿通信通じて合図を送った。

 

「行きます!」

 

真耶は注意を再び引く為に乱数機動を織り交ぜながら精密射撃、同時に楯無は側面を取る為にガトリングで弾幕を張りながら移動を開始した。

 

(……行くぞ!)

 

そして千冬は心の中で短く呟いて瞬時加速を発動、不意打ちの要領で背後から一閃する。

 

嘗て刀一本で世界と取った者の鋭い剣戟。

 

並の者であれば反応する事さえ許されず、一刀の下に切り捨てられるだろう。ましてや前面から真耶が、そして側面から楯無が弾幕を張るのと同時に瞬時加速の発動をさせたのだ。そちらに意識を割く以上、反応できる筈が無い。

 

決まった。

 

千冬はそう思っていた。だが、それは違った。

 

「っ!!」

 

掴んだ(・・・)

 

背後から放たれた斬撃は装甲を切り裂く事なく、一瞬で振り返った椿に刀を掴まれたのだ。

 

(なんだと……!?)

 

幾ら全盛期の頃よりも動きのキレが鈍ってるとは言え、素人には捉えられない筈の一撃。しかも熟練者――即席の連携ではあるが――二人がかりの射撃を防ぐ為に盾の制御に集中している筈の所を背後から奇襲を掛けた筈なのに止められたのだ。

 

だが、千冬が驚愕するのも無理もない。

 

確かに、僅かに2~3ヶ月しか動かしていない素人とも呼べる椿が、嘗て刀一本で世界をとった千冬の一撃を完璧に止めてみせたのは驚愕に値するだろう。

 

しかしそれ以上に、千冬は彼を、彼等の事を何も知らないのだ。

 

彼の持つ弾丸よりも早く思考する異端の力。

 

知性を手に入れつつも機械としての能力をフルに発揮できる存在。

 

この一人と一体がそれぞれの能力全てを戦闘(復讐)に傾けた事が、一体何を意味するのか。

 

そう、千冬の一撃を止めたのは偶然ではなく必然だったのだ。

 

「――っ!!」

 

千冬が自分の一撃を止められた事による動揺で思考が止まったのは僅かに数瞬。しかし千冬は途方も無い悪寒を感じ、刀を無理に引き抜こうとはせず、手を離して素早く後方へと距離を取る。そして距離を離した瞬間、今正に自身が居た空間をパイルバンカーが猛烈な勢いで通り過ぎた。

 

どうやら椿は白刃取りをすると同時にパイルバンカーで千冬を狙っていた様だ。

 

千冬は己の感は鈍っていなかった、と短く思考する。

 

そして後ろに飛んだのと同時に気付いた。

 

何時の間にか肩にミサイルランチャーが装着され、そしてそれが今まさに此方を向いていた事に。

 

「ちぃっ!」

 

次の瞬間、至近距離から容赦なく八発の対ISミサイルが放たれた。対する千冬は主兵装を先程捨てており、無手の状態。新たな武装を出す暇を与えられず、回避行動に専念せざる負えなかった。

 

――M1の主兵装奪取。優先驚異度低下。続いてM2を最優先驚異度へと設定

 

古鷹は瞬時に情報を整理。次にM2――楯無の駆るミステリアス・レイディを最優先とした。そしてそれを受け取った椿は奪った刀を握り潰し(・・・・)、素早く楯無のいる方向へと向いてStonerとBeowulfを展開、引き金を引いた。

 

「敵は殺す……殺さないと、奪われる」

 

奪われたらまた、たった独りになる。そんなのは嫌だ。

 

絶対に、嫌だ。

 

椿はただその想いのままに引き金を引き続ける。

 

「もういないっ!もう終わったの!」

 

楯無は悲痛な叫び声で弾幕を交わしながら接近しようとする。

 

――M2接近。対応戦術提示

 

「墜とす」

 

しかし、椿にその声は届かず、只敵として迎え撃つ体勢に入った。

 

――承認と判断。行動開始

 

古鷹は椿の呟きを承認と判断。椿に近づきつつある楯無に対する最適な戦術行動へと導く。そして近づいてきた楯無に対し、自らも接近して交差、そして反転。

 

――残像瞬時加速

 

楯無の背後を奪う形でパイルバンカーを振りかぶろうとして―――突然横合いからの衝撃で軌道がズレ、空振りに終わった。そして衝撃を感じた方向を向けば、真耶が何時の間にか狙撃砲を構えていた。

 

「……幾らセンサーが騙されても、目的が分かれば」

 

どうやら真耶は楯無の背後を襲うと読んだらしい。しかも古鷹の操るアイアスの盾の鉄壁を抜けて、だ。そして助かった楯無は反転、牽制の為に蒼流旋で突きを放ってきた。

 

「っ!」

 

椿はパイルバンカーで対応。しかし技量で劣り、またリーチでも劣るこの状態では苦戦するのも当然の流。故に古鷹は援護の為に左肩に素早くガトリング砲を展開し、弾幕を貼って避けさせ、次の行動に移る。

 

――M1、ミサイルの無力化を確認。M2損傷無し、M3も同様。――状況判断。支援機、M3を最優先対象へと変更、武装選択、Stoner、Beowulfを展開収納。電磁投射砲、Striker展開。続いてAIMLのターミナルをマニュアルへ変更、目標、M1

 

そして椿はマシンガンの様に左手のStrikerを楯無に向け、右手の電磁投射砲で真耶を狙う。そして右肩のミサイルランチャーは古鷹が操作し、千冬に狙いを定めた。

 

反動、収束、ロックオン方式。

 

その全てを無視して引き金を引いた。

 

「っ!」

 

水のヴェールでギリギリ防ぐ楯無。

 

「きゃぁっ!?」

 

一瞬で最大出力になった電磁投射砲から放たれる弾丸に避けきれずに直撃する真耶。

 

「ちぃっ!」

 

射線を避けながら(・・・・・・・・)突き進んでくるミサイルの迎撃に苦戦する千冬。

 

三者三様の行動を尻目に、古鷹は素早く次の段階へ移行する。

 

――残像瞬時加速

 

目標は怯んだM3――真耶の駆るラファール。残像を残しながら一気に間合いを詰め切る。

 

「オォオオオオオオ!!!」

「くっ!?―――きゃぁぁああっ!?」

 

真耶は近接戦に対応する為、狙撃砲を捨てて近接戦用短刀『ブラット・スライサー』を構えるが、猛烈な威圧感を放つ巨体と咆哮に僅かに怯み、対応に遅れが出た。

 

そしてその代償がショルダータックルの直撃。

 

強烈な衝撃を受け、大きくバランスを欠きながらブラット・スライサーを取り落とした。そして椿は怯んだ真耶に対して続く動作で一度武装を収納、両の手を固く組み、所謂スレッジハンマーと呼ばれる技を後頭部にめがけて振り落とした。

 

更に続く連撃。

 

――Striker、90㎜擲弾銃展開。アイアスの盾、M1射線上の前へ

 

古鷹は盾でミサイルを捌ききった千冬に差し向け、憂いを断つ。そして椿は右手で擲弾銃を真耶に、更に左手でStrikerを瞬時加速で距離を詰めてくる楯無に向け、素早く引き金を引いた。

 

一瞬の攻防。

 

しかし、運命は楯無達に味方した様だ。

 

「っ――――!」

 

椿は先程自身がしたショルダータックルを楯無から受け、左手のStrikerを取り落とした。そして右手にあった擲弾銃は衝撃のお陰で射線が逸れ、真耶に直撃するには至らなかった。しかし、真耶は起き上がらない。どうやら先程の強烈な一撃と地面に叩きつけられた事で気絶した様であった。

 

「もう止めて!お願いっ!」

 

楯無はショルダータックルを仕掛けた後。椿に取り付き、離さずに声を掛けた。

 

「はなせぇぇえええええええええ!!!」

 

――残像個別連続瞬時加速、発動

 

古鷹は出鱈目な機動を持って楯無を振り落としにかかる。

 

「はな、さない!」

 

不屈の覚悟を持って取り付き、離さないと宣言。そして楯無は胃の中を掻き回される様な不快感を味わいながらも、椿を止める為に最終手段に打って出た。

 

「ごめん」

 

短い謝罪。

 

そして爆発。

 

そう、楯無は自身の持つアクアクリスタルを自爆させたのだ。そして自爆させた事により楯無も爆風の煽りを受けて吹き飛ばされ、地面に強く叩きつけられた。一方の椿もまた、バランスを大きく欠いて地面へと突っ込んだ。

 

「……アアァア」

 

苦悶の声。

 

しかしそれを上げるだけで、再び立ち上がった。

 

――ダメージレポート。左肩部スラスター及びメインブースター大破。左肩部射出型拡張領域、AIML、ガトリング砲は損傷により使用不可。90㎜擲弾銃ロスト。エネルギー残り40%

 

終わらない。ここで終る訳にはいかない。

 

椿はただその想いだけで動く。

 

一歩、一歩。前へ、前へ。只只管に前へ。

 

敵である楯無に、苦悶の声を上げながら未だ立ち上がれない楯無に止めを差す為に。

 

「もう止めろっ!」

 

千冬はそう言いながら椿の前に立ち、打鉄の射撃兵装『焔備』を構える。しかし椿は歩みを止めない。それどころか、一瞬の動作でStoner、Beowulfを展開し、引き金を引いた。

 

「お前は……!」

 

千冬は回避起動は取らず、打鉄の物理シールドを前面に押し出して瞬時加速で突撃。素早く間合いを詰めて両の手の武装を吹き飛ばし、そして銃床を顔面に叩きつける。次いで胸部装甲に蹴りを放って距離を離しながら焔備の引き金を引いた。しかし、椿はただされるがままではない。距離が離れた瞬間、椿は右肩のショルダーアーマーで身を守りつつ、左手に電磁投射砲を展開、素早く照準を定め、焔備を破壊した。

 

「ちぃっ!」

 

完全に武装を失った千冬。だが、無手になったとしても今の満身創痍の椿であれば充分止められる。そう思いながら加速しつつ距離を詰めようとして――通信が入った。

 

「千冬姉ぇ!迂闊に正面から距離を詰めるなっ!」

「何――っ!?」

 

何を、と思った時にはもう遅かった。

 

眼前には何時の間にか放たれた弾丸。

 

そしてその弾丸が爆発し、突然、強烈な白が視界を襲った。

 

これが閃光弾だと気付いた時には唐突の事態で湧き上がる吐き気と共に腹部、そして後頭部に鈍い衝撃を感じ――そこで千冬の意識は途切れた。

 

――M1の無力化に成功。続いてM4の戦線復帰を確認。

 

「椿ぃいいいいいい!!!!!」

 

千冬が倒された事に一夏が憤慨。怒気を纏いながら零落白夜を発動し、猛烈な勢いで距離を詰める。対する椿は両腕のパイルバンカーを何故か交差にしながら構え、PICのみでの浮遊だが自らも空中へと躍り出た。

 

そしてぶつかり合う雪片と二本のKIKU。

 

しかし勢いは圧倒的に一夏の方が上であった。そして一夏はそのまま怒りに身を任せ、グイグイと強引に押し出しにかかった。そして徐々に融解するKIKU。しかし、一夏は怒りに身を任せたお陰で一つの事実を忘れていた。

 

――右肩部射出型拡張領域、弾種、80㎜ロケット弾、安全装置解除、発射

 

第五世代兵装・射出型拡張領域――一夏達はMSLRS(多目的単装ランチャーロケットシステム)、つまりは只のロケット弾の発射装置だと思っている存在の事を。

 

何故、椿はKIKUを交差しながら零落白夜を迎え撃ったのか。

 

その答えがこれだったのだ。

 

確実に一撃を入れる。

 

無力化(気絶させる)する為の一撃を入れる。

 

只それだけの為に。

 

そして一夏の顔面に直撃、爆発。

 

「ぐあぁぁっ!?」

 

至近距離からの直撃で一夏は吹き飛ばされ、そして握っていた筈の雪片はその手から離れ、遠くへと弾き飛ばされていた。一方の椿は爆風で数メートル程後ろへ後退したのみで終わった。

 

――M4、意識レベル……気絶と判断。ダメージレポート。胸部装甲中破。KIKU及び右肩部射出型拡張領域、損傷により使用不可。しかし戦闘の続行は可能。電磁投射砲、展開

 

椿は古鷹が出した電磁投射砲を掴んで一夏に向けて放とうとした。しかし引き金に指を掛けた瞬間、ムチの様な物体が横合いから電磁投射砲に絡みつき、電磁投射砲が破壊された。そしてムチの様なモノが飛んできた方向へ目を向ければ、何時の間にか楯無が距離を詰めており、そしてその手には蛇腹剣『ラスティー・ネイル』が握られていた。

 

「やら……せない!」

 

――多目的・破砕榴弾砲、展開

 

椿は右手で多目的・破砕榴弾砲を掴み、槍を扱う要領で突きを放つ。しかし、再連結したラスティー・ネイルによって軌道を逸らされ、再び組み付かれた。

 

「……椿、椿、椿!」

 

楯無はその表情を痛みに歪めながらも必死に椿の名を何度も呼んだ。

 

「…………っ!!!!」

 

しかし椿は答えない。ただ、名前を呼ばれる度に何かを嫌がる様に暴れる。そして多目的・破砕榴弾砲を手放して両手で楯無を殴り始めた。しかし楯無は離さない。決して離そうとはしなかった。

 

「私は!敵じゃない!貴方の、味方!」

「違うっ!!全て、敵!お前も、敵!敵は殺す!全て殺す!」

「椿!正気に、戻って!」

「不快!お前、不快っ!!」

 

椿は不快感を感じ、そしてソレから逃れようとしながら、酷く困惑していた。

 

何故、敵である楯無が私の名を呼ぶ?

 

何故、名前を呼ばれる度に胸の違和感が広がる?

 

気持ち悪い。

 

心の中で誰かが、楯無ではない誰かが止めろと言う。

 

何故?

 

解らない。だが、今ここで抵抗を止めれば、敵は倒せない。敵を倒せなかったら、また奪われる。ならば、楯無を倒さなければいけない。この胸の違和感の正体を知るよりも、奪われるのを防がなくてはいけない。

 

「っぐぁ……つぅぅぁああ」

 

椿は殴るのを止め、組み付いている楯無の首を両手で締め始めた。

 

苦悶の声。

 

椿はその声に何故か胸を抉られるかの様な感覚を味わうが、ソレを無視して力を込めつづけ、そしてアイアスの盾二機を使って頭を狙う。

 

目的は両サイドから叩きつける事による頭蓋骨の粉砕。

 

「つ……ば……き、もと、に」

「黙れ……!!」

 

両サイドから接近する盾。

 

しかし、今まさに必殺の一撃が加えられようかという瞬間、突然5条の光が椿とアイアスの盾を撃ち抜き、目論見が失敗に終わった。

 

そして解放される楯無。

 

「かはっ……っぅ」

 

――警告、新たにISの増援を確認。機種ブルー・ティアーズ

 

撃ったのは先程まで管制室で待機していたセシリア。彼女は劣勢を強いられていた千冬達の様子を見て居ても経っても居られず、一度アリーナ外へ出て、今まさに楯無を襲おうとした盾と椿を狙撃したのだ。

 

「……椿さん。申し訳ありませんが……倒します!」

 

宣言と共に四機のビットが放たれ、側面を取った。そして連続で放たれる五つの光。

 

機動力を削がれている古鷹では回避する事が適わず、全て直撃し、エネルギーを奪われた。

 

――古鷹、完全具現維持限界。展開解除……すみま……せ……ん、止めら―――……

 

機体が量子化されるのと同時に、聞こえた古鷹の謝罪。そして機体から開放され、只呆然と直立不動の状態となった椿は、徐々に意識を鮮明化させていった。

 

「……あぁ」

 

フラッシュバックする一連の戦闘。

 

過剰反応による味方であった千冬達への攻撃。

 

楯無――守るべき掛け替えのない存在への殺傷行為。

 

欠けていた記憶が戻ると同時に、椿は知った。

 

自分が何をしていたのか。

 

自分が何をしようとしていたのか。

 

その全てを、知った。

 

「つ、ば……き?」

「―――っ!?」

 

楯無が苦しそう声を掛けてきた事により、椿はビクりと肩を震わせた。そして、非常に億劫な動作で声が聞こえた方に視線を送ると、体を震わせながら立ち上がろうとしていた楯無が其処にいた。

 

「楯無……私、は」

「よかっ……た」

 

その一言と共に弱々しい笑みを浮かべ、そして崩れ落ちた。

 

「楯無っ!!――ぐっ!?」

 

椿は楯無に近づこうとしたが、足に力が入らず転ぶ。そして段々と思い出すかの様に身体の各所から激痛が走り始め、頭痛も酷くなってきた。

 

「わた、し、は……」

 

急速に霞んでいく視界の中、最後に椿が見たのは倒れている楯無の姿。そして

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――あなたは、だれ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、最後に聞こえたのは、謎の声だった。

 

 




いかがだったでしょうか?内心ビクビクしているecmです。

今回は暴走回なので主人公である椿君と古鷹を思いっり暴れさせたのですが、正直やりすぎた感が無きにしも非ず……(´・ω・`)w

過剰反応で教師とヒロインと原作主人公をボッコぇ……

でも、暴走なら中途半端じゃなんか嫌だから徹底的に~と。

キルレシオは10―1……あと1キルで軍用犬が出せたな(BO的に

……うむ、取り敢えず次回は一巻分のオーラス。
ただ、ちょっと回収する伏線等々(単一仕様能力とか後日談とか)で2話分になるかも?

次いでにおまけ

{IMG1485}

本当はこれに武器持たせてダメージ加工とか色塗りとか色々したかったんや……
でもダメージ加工はおろか色塗りもロクに出来ないから断念(血涙)
しかも何か丸っこい。ちょっとごついイメージが消えた……かもしれない。

主人公機に見えるかな?……見える、よね?

それではまた次話で。

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